高純度金属材料の開発と分析・評価に関する研究
高純度鉄の耐食性に及ぼす不動態皮膜の影響
1 1 1 2
御幡弘明* 小川俊文* 猪口真規* 安彦兼次*
Research on Development,Analysis and Evaluation of high purity metal material
Effectsofpassivefilmonthecorrosionresistanceofhigh-purityiron HiroakiObata,ToshifumiOgawa,ShinkiInokuchi, KenjiAbiko
高純度鉄表面に生成する自然酸化皮膜の耐食性を評価するため、ホウ酸緩衝溶液中での電気化学的測定を行った。
鉄表面に自然酸化皮膜が生成することにより、耐食性が向上することが明らかとなった。また、鉄の純度の違いと 自然酸化皮膜の関係について検討を行ったところ、鉄の純度が上がるほど生成する自然酸化皮膜の耐食性が向上す るとともに、塩化物イオンに対する耐孔食性も向上することが明らかとなった。鉄の高純度化に伴い、生成する自 然酸化皮膜の耐食性が高くなるため、大気環境中においても高純度鉄は高い耐食性を示すと考えられる。
1 はじめに
鉄の高純度精製は、アルミニウムや銅などと比べる と非常に難しく、通常の方法では不純物濃度を数百pp m以下にすることは困難とされてきた。しかし鉄中の 不純物元素はその特性に著しい影響を及ぼすことが明 らかにされており 、鉄および鉄合金本来の性質を明1) らかにするために、ガス成分不純物も低減した超高純 度電解鉄の早期開発が必要とされてきた。
近年、真空精製技術のめざましい進歩とともに、鉄 中の不純物元素を極限近くまで取り除いた超高純度鉄
(純度99.999〜99.9999%級)が開発され、10kg単位の 超高純度鉄インゴットを作成できるようになり、種々 の評価実験が可能となった。超高純度鉄は従来の鉄の 概念やイメージとは大きく異なる素材であり、耐食性 や硬度、電気的特性など様々な物性が従来の鉄とは大 きく異なっている2)〜5)。将来、超高純度鉄あるいは超 高純度鉄合金を高い耐食性を有する構造用材料として 適用するためには、超高純度鉄の大気環境中での耐食 性を評価する必要があり、前報 において超高純度鉄6) の暴露試験を行い純鉄や市販鋼に比べ高い耐食性を示 すことを報告した。
そこで、本研究では、鉄表面に生成する自然酸化皮
1 機械電子研究所
*
2 東北大学金属材料研究所
*
膜の大気環境中での耐食性に及ぼす影響を明らかにす るために、電気化学的測定法を適用し検討を行った。
2 実験方法
2-1 試験片の調製および組成
超高純度鉄(M‑Iron)、純鉄(N‑Iron)は電解鉄を超高 真空中で溶解して作製したインゴットを鍛造処理後、
冷間圧延したものを、市販鋼(C‑Iron)は市販板材を、
大きさ15mm×15mm、厚さ1mmの形状に加工した。また それぞれの試験片は、加工時のひずみを取り除くため に、550℃で10分間の真空熱処理を行った。電気化学 測定用試験片は、前処理として1000番までのエメリー 紙湿式研磨を行った後、エチルアルコール中で洗浄処 理を行った。鉄表面の酸化皮膜の評価を行う際は、前 処理後の試験片をデシケータ中で所定日数保存するこ とにより、自然酸化皮膜を形成させた。また、定電位
測定用試料のみ前報 と同じ化学研磨処理を行った。
電解 7)
今回用いた各種試験片の主要元素の組成分析値を表
‑1 に示す。
表−1 試験片の組成(単位:wtppm)
C Si Mn P S
1 1 0.01 0.1 0.51
M‑Iron (99.998wt%)
14 10 9.6 2.0 11.3
N‑Iron (99.98wt%)
400 120 2000 100 120
C‑Iron (99wt%)
2-2 自然酸化皮膜の耐食性評価
鉄表面に生成した自然酸化皮膜の耐食性を評価する ために、ホウ酸緩衝溶液(0.15kmol/m H B O + 0 . 0 3 7 5 k3 3 3 mol/m NaBO,298K)中での動電位分極測定を行った。3 2 4 7
測定試験片は前処理後、デシケータ中で2日間保存し たものを用いた。測定には電気化学測定装置(ソーラ トロン社製,SI 1280B)を使用した。対極にはPtを、
参照電極にはAg/AgCl(飽和KCl)電極を用いた。本文中 の電位はAg/AgCl(飽和KCl)電極を基準として表示した。
動電位分極測定は次の2通りの方法を行った。
①自然酸化皮膜生成試料を‑1.5Vで30分間カソード還 元処理を行い、自然酸化皮膜を十分に還元除去した後、
‑0.6Vから分極速度0.5mV/secで1.0Vまでアノード分極 を行った。
②自然酸化皮膜生成試料を‑0.6Vから分極速度0.5mV/
secで1.0Vまでアノード分極を行った。
2-3 塩化物イオンに対する自然酸化皮膜の耐食性評価
屋外環境における鉄の腐食には、特に塩化物イオン の影響が大きいことを前報 で報告した。自然酸化皮7) 膜の塩化物イオンに対する耐食性を評価するために、塩化物イオンを添加したホウ酸溶液中(0.15kmol/m H3 3
BO + 0.0375kmol/m N a B O + 0 . 0 1 k m o l / m NaCl,298K)3 3 2 4 7 3
での動電位分極測定を行った。分極測定は自然酸化皮 膜生成試料を ‑0.6Vから分極速度0.5mV/secで1.0Vま でアノード分極を行った。
また、塩化物イオン添加溶液中での孔食発生状態を 観察するために、超高純度鉄を用いた定電位電解測定 を行った。測定は、塩化物イオンを添加したホウ酸溶 液中(0.15kmol/m H B O + 0.0375kmol/m N a B O + 0.013 3 3 3 2 4 7
kmol/m NaCl,298K)で分極電位0.4Vで15分間の定電位3 電解測定を行った後、腐食試料面の光学顕微鏡観察を 行った。
3 結果と考察
3-1 自然酸化皮膜の耐食性評価
図‑1に鉄表面に自然酸化皮膜を生成させた試料と、
酸化皮膜を還元除去した試料のホウ酸溶液中での動電 位分極測定結果を示す。各試料とも約0V付近から約1.
0Vまで不動態領域を示した。鉄表面に自然酸化皮膜が 生成することにより不動態域での腐食電流密度が減少 し、耐食性が向上した。鉄の純度の違いと不動態域で の腐食電流密度の関係を比較すると、自然酸化皮膜生
成時および自然酸化皮膜還元処理時において純度の向 上とともに腐食電流密度が低下し、耐食性が向上する 結果が得られた。
図‑2に自然酸化皮膜を生成させた試料の塩化物イオ ン添加ホウ酸溶液中での動電位分極測定結果を示す。
比較のため、自然酸化皮膜生成試料のホウ酸溶液中で の測定結果も示した。塩化物イオンを添加することに より孔食が発生し、不動態保持電位が低電位側に移動 した。鉄の純度の違いと不動態保持電位を比較すると、
純度の向上に伴い不動態保持電位が高電位側に移動し、
塩化物イオンに対する耐孔食性が向上した。
図‑1 ホウ酸溶液中での動電位分極測定結果
図‑2 NaCl添加ホウ酸溶液中での動電位分極測定結果
図‑3に塩化物イオン添加ホウ酸溶液中での自然酸化 皮膜生成超高純度鉄の定電位電解測定結果を、図‑4に
1.E-07 1.E-06 1.E-05 1.E-04
-0.6 -0.1 0.4 0.9 1.4
E/V ( vs Ag/AgCl/Sat KCl )
腐食電流密度 I (A/cm2)C N M
N C M 酸化皮膜生成 酸化皮膜還元処理
1.E-07 1.E-06 1.E-05 1.E-04
-0.6 -0.1 0.4 0.9 1.4
E/V ( vs Ag/AgCl/Sat KCl )
腐食電流密度 I (A/cm2)酸化皮膜生成 NaCl添加
C N M
C N M
定電位電解後の試験面の光学顕微鏡写真を示す。15分 間の定電位電解測定中に電流の激しい振幅が観測され、
孔食が発生していることが観測された。定電位電解後 の光学顕微鏡観察から、孔食は結晶粒界からではなく 結晶粒面内から発生していた。鉄表面の自然酸化皮膜 の比較的結合状態が弱く、安定性の低い部分から孔食 が発生しているものと推測される。
図‑3 NaCl添加ホウ酸溶液中での定電位電解測定結果
図‑4 定電位電解後の試験面の光学顕微鏡写真
図‑5にJ.Bolgerらによる大気中での鉄表面の酸化皮 膜の構造模式図を示す 。鉄表面の酸化膜は微細結晶8) のγ‑FeOもしくはγ‑FeO/FeO(下層)とオキシ水2 3 2 3 3 4
酸化鉄(FeOOH)(上層)の二層構造を示すと考えら れる。前報 においてESCAを用いた鉄表面の酸化皮膜6) の解析を行ったところ、超高純度鉄では酸化皮膜の結 合形態が酸化物的結合(M‑O‑M)の割合が高いことを 報告した。鉄を高純度化することにより不純物が大幅 に低減でされるために、形成される酸化皮膜がより欠 陥の少ない安定的な皮膜になり、耐食性が向上すると 推測される。
1.E-07 1.E-06 1.E-05
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900
Time ( sec )I ( A/cm
2) M-Iron
100μm
図‑5 大気中の鉄表面酸化皮膜の構造模式図
4 まとめ
鉄の大気環境における自然酸化皮膜の耐食性を評価す るために、ホウ酸溶液中で電気化学測定を行ったところ、
超高純度鉄は高い耐食性を示した。この理由として、鉄 の高純度化に伴い不純物元素が大幅に低減されるため、
鉄表面に生成する自然酸化皮膜の欠陥が減少し、安定性 が向上するためであると考えられる。
5 参考文献
1)安彦兼次:まてりあ Vol.33,No.1,p.11 (1994) 2)高木清一:まてりあ Vol.33,No.1,p.6 (1994) 3)K.Abiko, 他4名:phys.stat.sol(a)Vol.167,
p.435(1998)
4)T.Kumei, 他3名:UHPM‑98 Srvrier Annecy Lake France September 7‑11,p.129 (1998)
5)杉本克久,他4名:日本金属学会誌 Vol.46,No.2, p.155 (1982)
6)御幡弘明,他3名:福岡県工業技術センター平成11 年度研究報告,第10号,p.12
7)御幡弘明,他3名:福岡県工業技術センター平成10 年度研究報告,第9号,p.104
8)J.C.Bolger:Plenum Press,NewYork p.3 (1983)
γ- Fe2O3 / Fe3O4
金属結晶層 金属酸化物層 表面水酸基 強固に吸着した水 分子の第一層
吸着した水の多分子層
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水 素 結 合 H2O - OH
金属結晶層 金属酸化物層 表面水酸基 強固に吸着した水 分子の第一層
吸着した水の多分子層
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水 素 結 合 H2O - OH
FeOOH
γ- Fe2O3 / Fe3O4
金属結晶層 金属酸化物層 表面水酸基 強固に吸着した水 分子の第一層
吸着した水の多分子層
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水 素 結 合 H2O - OH
金属結晶層 金属酸化物層 表面水酸基 強固に吸着した水 分子の第一層
吸着した水の多分子層
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水 素 結 合 H2O - OH
FeOOH