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赤外線サーモグラフィを用いた 歯根破折診断法

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Academic year: 2021

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研究室紹介

竹 重 文 雄

Fumio TAKESHIGE

− 43 − 1951年10月生

大阪大学 歯学部卒業(1985年)

現在、大阪大学歯学部附属病院 口腔総 合診療部 教授 歯学(博士)  歯科保存

TEL:06-6879-2388 FAX:06-6879-2389

E-mail:[email protected]

赤外線サーモグラフィを用いた 歯根破折診断法

Diagnotic method of root fracture with infrared thermography Key Words:Infrared thermography, Clinical diagnosis, Root fracture, 

Vibro IR method

生 産 と 技 術  第63巻 第3号(2011)

 厚生労働省や日本歯科医師会が中心となって進め られてきた 8020 運動などの啓蒙活動の成果もあって,

80 歳までに 20 本を有する人の割合が平成 5 年には 10.9%であるのに対して,平成 17 年では 24.1%と 増加している。一方,歯の寿命が延びてきているな かで,歯を失う原因としては,う蝕や歯周病に次い で歯根破折が多くなってきている。

 今回,本研究室で進行中の歯根破折の検査・診断・

治療法の研究の一端をご紹介する。

【研究の背景】

 歯根破折とは,文字通り歯の根の部分が割れるこ とで,歯科臨床の場で遭遇する深刻な病態の一つで あり,失活歯(神経の処置が終わった歯)の 3.7%

に垂直歯根破折が認められる(Morfis ら.1990)

など,歯根破折の頻度の高さは広く認知され,国内 外とも歯根破折に関して数多くの報告がされている。

歯冠歯根破折の診断に関わるものは,歯周ポケット の変化(Fachin ら.1993)や,光線透過によるも の(Wilcox ら.1993)などがある。しかし,その ど れ も 正 確 さ の 点 で 十 分 と は 言 い 難 い う え に , Tamse らが破折歯の 67.4%に限局した歯周ポケッ トが存在し,34.8%が歯頚部寄りの歯肉に瘻孔が存 在するものの,一般歯科医ではその 3 分の 1 しか破 折の診断ができなかった( J Endod .1999)と報告

するように,従来の検査法による早期診断は容易で はない。一方,Computed  Tomography(CT)は有 効な診断法とされているものの,設備,コスト,検 出精度の点から,日常の臨床で簡便に使用しうるも のとはいえない。また,歯根破折に関する in vitro の研究は,歯根破折モデルの作成が困難であるため,

活発に行われているとはいえず,歯根破折研究推進 の問題点となっている。

 一方,赤外線サーモグラフィは対象物から出る赤 外線放射エネルギーを検出し,温度分布を画像表示 して微少欠陥などの不連続性を検知できるもので,

破壊力学や機器の進歩によって近年急速に発展して いる非破壊検査の手法である。しかしながら,赤外 線サーモグラフィの歯科,  ことに歯根破折への応 用においては,脆性の高い歯根象牙質へ亀裂を人工 的に付与できる,部分破折モデルが開発されていな いこと,および有機質に富む象牙質での赤外線サー モグラフィの応用技術が未開発であることが大きな 障害となっている。

 そこで,簡便で精度の高い赤外線サーモグラフィ による破折検出手法を確立すれば,歯根破折の予兆 となる亀裂を治療可能な段階で検知することによっ て歯根破折を防止することができ,さらに歯根破折 の疑いがあるにもかかわらず,確定診断ができない 症例の診断・治療が可能になると考えられる。

【研究の方法】

(1)歯根部分破折モデルの作成および赤外線サーモ  グラフィによる破折検出手法の検討

①歯根根管壁への微少損傷(破折起始点)の作成

 ヒト抜去歯の歯髄を除去し,根管形成後,根管上

部を規格ドリルにて漏斗状に拡大する。Er :YAG レ

ーザーおよびマイクロカッターにて,抜去歯根管内

部に人工的な微少損傷を与え,亀裂の起始点とした。

(2)

図1 歯根部分破折モデルの作成方法

− 44 − 生 産 と 技 術  第63巻 第3号(2011)

②根管壁に微少損傷を付与した試料を,締め具を 持つ亀裂停止治具に取り付け,亀裂停止治具は亀裂 を付与したい箇所には僅かなスペースを作っておき,

亀裂を停止させたい箇所は逆に締め,圧縮把持力を かけた。

 数種のテーパー付き圧子の中から適切なサイズを 用いて,亀裂が発生するまで負荷を増加させた。荷 重の増加に伴い,やがてスペースのある箇所の微少 損傷部から亀裂が発生するものの,締め具にて圧縮 把持力をかけられている部位では亀裂が停止し,ほ ぼ意図した部位に人工的に部分破折を導入した試料

(歯根破折モデル)を作成できた(図1)

(2)赤外線サーモグラフィによる部分破折の検出  作成した歯根破折モデルの破断面に微少の熱を与 えた後,赤外線検出カメラにて不連続面である部分 破折面からの赤外線放出の様相をサーモグラフィと して計測した。破折面から特異的な赤外線放出をさ せるには,すでに広く用いられている照射器等の輻 射熱を用いる方法の他,歯科での応用ということを 考慮して,超音波,CO2 レーザーなどを用いる方 法が候補となった。試行を重ねた結果,歯の部分破 折面は不連続であるものの,相対する面がほとんど 接触していると考えられるため,歯科用超音波治療 器を用い超音波を歯面に作用させ,破折面に微少振 動を与え,生じる摩擦熱を計測する VibroIR 法が最 も有効であることが判明し,この方法を採用した。

(3)条件の絞り込み,検出精度の検証

 赤外線サーモグラフィによる部分破折検出に有効 な手技の絞り込みのため,熱源の種類,計測環境(背

面の条件),計測条件(感度,計測距離)を変えて 計測し,放出赤外線の分布,経時的な変化をデジタ ル画像データとして記録した。

①適用可能な赤外線サーモグラフィの条件,手技  の絞り込み

 歯科における歯根などの部分破折の検出法として 適用可能な,赤外線サーモグラフィの条件,手技を 絞り込む。

②各種条件が赤外線サーモグラフィに及ぼす影響  と検出精度の検証

 絞り込まれた手技を用い,いくつかの試験条件を 設定し,赤外線サーモグラフィへの影響を調べる。

まず,超音波機器の作用部位,照射条件が赤外線サ ーモグラフィに及ぼす影響を,損傷部近接の根管内 部,根上面(歯冠側),歯根外側面のそれぞれを超 音波作用部位として,照射の距離,角度,出力など を変化させ,破折面でのサーモグラフィの変化との 関連を検討した。さらに,振動源として用いる歯科 用超音波機器のチップ形態が,摩擦熱発生および計 測条件に及ぼす影響について検討を行い,併せて赤 外線サーモグラフィ計測時の空洞放射現象の影響に ついて確認した。

③部分破折箇所の微細解析

 試料のフラクトグラフィ,および微細構造解析を,

走査型電子顕微鏡で行い,付与した部分破折(予亀 裂)の破断面内(深さ方向)の位置と形態を観察し,

得られているサーモグラフィと比較する。

【研究結果】

(1)赤外線サーモグラフィによる部分破折の検出  歯科用超音波治療器 (P-max) を用い,超音波機器 出力(w),超音波負荷部位(角度)を変化させ,

根管壁に微小振動を与えて,亀裂面に生じた摩擦熱 を赤外線カメラで記録後,赤外線サーモグラフィ解 析を行った。

(2)各種条件による検出精度への影響,

 実験は室温 37℃で行い,超音波スケーラー出力 を 0.43 W〜 1.48 Wの範囲で変動させ,超音波負荷 部位は亀裂を基準にして,0°,30°,45°,60°,

90°の部位で,亀裂検出に要した時間をそれぞれ計 測した。

 超音波負荷部位が亀裂から 90°の位置になると,

亀裂の検出は困難になった。60°以下では角度の違

(3)

図4 負荷部位の検出出力・時間への影響

図3 超音波負荷の有無による

   サーモグラフィによる歯根部分破折 図2 歯科用超音波機器を使用した VibroIR 法

− 45 −

生 産 と 技 術  第63巻 第3号(2011)

いで検出時間に大きな差はなかった。

 出力 0.63 W以下では検出に 10 秒以上を要し,

0.43 Wではほとんど検出不能となった。一方,0.89 W以上では,ほぼ 10 秒以下で亀裂の検出が可能で あり,1.18 Wまでは出力が上昇するにつれ,亀裂検 出時間は短縮する傾向にあったが,出力が 1.18 W を越えると,検出時間に大きな差はなくなった。

 VibroIR 法を用いた摩擦熱を赤外線サーモグラフ ィによって計測することで,根管壁に生じた亀裂の 検出が可能であった。また,出力は 0.80 〜 1.18 W の範囲で,直近の亀裂に 45°以内とすることのでき る根管内 4 個所(90°毎)に 10 秒前後超音波を付加 する条件が,臨床応用に向けて有望であることが示 唆された。

 ついで,振動源として用いる歯科用超音波機器の チップ形態が,摩擦熱発生および計測条件に及ぼす 影響について検討を行い,併せて赤外線サーモグラ

フィ計測時の空洞放射現象の影響について確認した。

歯科用超音波治療器に 4 種のチップ(湾曲型チップ,

直線型チップ,スケーラーチップ,クラウン撤去用 チップ)を取り付け,37℃の環境下,出力(0.43 W

〜 1.48 W)と超音波負荷部位(亀裂からの角度:0°,

30°,45°,60°,90°)を変化させ,根管壁に微小 振動を与えた(n= 5 )。亀裂面に生じた摩擦熱を 赤外線カメラにて記録し,サーモグラフィ解析を行 った。さらに,超音波負荷なしの状態でも同様のサ ーモグラフィ解析を行い,亀裂面からの赤外線放射 が本計測に影響を与える空洞放射効果の有無を検証 した。

 径が小さく根管内に挿入可能な 2 種のチップ(湾 曲型チップ,直線型チップ)では,VibroIR 法によ る根管壁部分亀裂の検出が可能であった。一方,径 が大きく根管内に挿入が困難な 2 種のチップでは,

亀裂の検出は容易ではなかった。直線型チップと湾 曲型チップによる検出可能時間では,超音波負荷部 位による差はあるものの,直線型の方が短い傾向が 認められた。超音波負荷部位が亀裂から 90°の位置 では,どの条件でも今回の出力範囲では亀裂検出は 困難であった。また,今回の試験条件の亀裂幅では 空洞放射現象は計測に影響を与えないことが確認で きた。

 以上のことから,超音波機器のチップ形状,径の 大きさ,超音波負荷部位などが亀裂検出時間に影響 を与えることが明らかになった。超音波負荷が,亀 裂に近く,かつ根管壁との接触面積が大きい方が,

検出を容易にできる可能性が高いことが示唆された。

(4)

図5 歯根破折部位の微細観察例

− 46 − 生 産 と 技 術  第63巻 第3号(2011)

亀裂面に振動エネルギーを容易に伝達でき,効率よ く摩擦熱を発生することができるためと考えられる。

また,空洞放射現象は本研究での手法では計測に影 響を与えないことが示された。

 歯根破折部分の微細観察から実際の亀裂の走行に

沿ってサーモグラフィによる検出ができることが示

された。今後,歯根亀裂検出後の保存的治療法の開

発を行っていく予定である。

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