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認知システムと表象システムによる言語進化について

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Academic year: 2021

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認知システムと表象システムによる言語進化について

Study on Language Evolution through Cognitive and Representational Systems

5111E018-1 新井 智志 指導教員 山田 泰完 教授 NII Tomoyuki Prof. YAMADA Taikan

概要:チョムスキーが生成文法という概念を提唱して以降、言語学は自然科学の一分野として捉えられように なった。また近年、認知科学や脳科学といった人間の精神的営みを科学的に解明する学問が目覚ましい進歩を 遂げている。このようなことを背景として、本研究は、人類の高度なコミュニケーションを可能にする言語は どのように進化していったのかという言語学の伝統的な問いに対して認知的アプローチを試みたものである。

本研究では、人間の認知システムと表象システムという二つのシステムに着目し、我々の言語はこれらのシス テムにより段階的に進化していったというモデルを提案している。さらにこの提案したモデルに対し、進化論 や脳科学といった自然科学の今後の展望を予測し、客観性や反証可能性が確保できるか考察した。

キーワード:言語進化、認知、表象、コミュニケーション、脳

Keywords:Language Evolution, Cognition, Representation, Communication, Brain

1. はじめに

言語進化の解明とは、具体的には我々の「コミ ュニケーションとしての言語を産出するシステム」

の起源を見つけることである。コミュニケーショ ンの本質は自分と他者の相互理解である。これは 非常に高度な認知活動であるが、この能力を人間 という種が万遍なく獲得したことは驚嘆に値する。

なぜ言語がこのような相互理解可能な構造を宿し ているのかを認知的アプローチにより解明したい。

2. 認知システムによる言語獲得

認知システムとは、外界の情報を知覚し、それ を意味あるものとして解釈する身体システムのこ とである。この認知システムは、ゲシュタルトと いう全体性をもったまとまりを知覚するという特 性を持つ。この知覚特性により、まず我々は「図」

と「地」を分けて知覚することができ、混沌とし た世界から対象を主題化して認識できるようにな った。そして次に、この主題化した対象から、あ る対象を他の対象と区別するために最低限必要な 特徴を「命題」として抽出することにより、対象 を比較参照し、カテゴリー化していったのである。

そして我々は、そのカテゴリー化した対象にラベ ルを貼るようにして言語を世界に付与していった。

ここで獲得した言語は、認知システムという身体 システムを基盤にしているため身体に根差した言 語であるといえる。また、具体的な一つ一つの知 覚経験からある単語を導き出すという過程を経る ので「ボトムアップ的」な言語獲得である。

この認知システムは人間という種に固有なもの であり、個体間での差もあまりないために、我々 人間同士のコミュニケーションを可能にする言語 を生み出す基盤となったのである。

3. 表象システムによる言語獲得

人間は「愛」、「世界」、「平和」といった抽象語 彙のように、必ずしも身体に根差しているとはい えない言語も獲得している。しかし、これらの語 彙によってもコミュニケーションは可能である。

このような言語はなぜ相互理解可能なのだろうか。

この抽象語彙のような言語を生み出し、相互理解 を可能にさせる認知的構造が表象システムである と考える。表象システムとは、眼前で起きてはい ないことをイメージしたり考えたりして、頭の中

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2 に浮かび上がらせることを可能にするシステムの こ と で あ る 。 こ の 表 象 シ ス テ ム は 、 ペ イ ビ オ

(Paivio)が二重符号化説で提唱したように、言 語システムと非言語(イメージ)システムに分か れる[1]

先に述べたが、我々は知覚する際、イメージ とともに経験や対象の特徴を「命題」として蓄積 している。そしてこのように「命題」として蓄積 しているからこそ、それらを自在に重ね合わせた り変形させたりすることができ、疑似的に現実世 界を超越した経験を表象することができる。それ ゆえ、我々は表象システムのイメージシステム内 で新たな表象を生み出すことができ、それを言語 システムが捉えたときに抽象語彙を獲得すること ができるのである。さらに抽象語彙が充実してく ると、今度は蓄積した情報を言語システム内のみ で重ね合わせることで、より高度な抽象語を生み 出すこともできる。このような言語獲得は、表象 システム内でイメージ同士を結びつけることで得 た言語を、今度は逆に世界の一つ一つの現象に適 応していく過程を経るので「トップダウン的」な 言語獲得であるといえる。

さて、どのような表象を重ね合わせるかは時代 や地域の影響を受けるので、この表象システムは 認知システムほど人類に共通なものではないだろ う。しかし、この表象システムで得られる言語も、

基盤となるのは認知システムによって獲得された

図 1 言語獲得のモデル

身体に根差したイメージや言語であるため、疑似 的に身体に根差した言語であるといえる。それゆ え、我々は抽象語彙でも相互理解可能なコミュニ ケーションを行うことができるのである。

4. モデルに対する自然科学的展望

提案した言語進化のモデルに対して、現段階 における科学的検証を行うと同時に、今後の自 然科学の発展によってモデルに客観性と反証可 能性が確保できるかどうかについて考察を行う。

進化論における前適応や自然選択説といった理 論から、この言語進化モデルの「連続性理論」に 関してはある程度の妥当性が確かめられる。また 認知システムに関しては、図地分化と視覚系の時 間・空間周波数特性の関連づけの研究や、ゲシ ュタルト理論に対する様々なモデル研究がさら に発展していくことで、また表象システムに関し ては、イメージ研究がさらに発展していくことで、

私が提案したモデルにも客観性や反証可能性が 確保されていくであろうと推測する。

現段階の科学的研究成果からモデルを検証する にはまだ証拠が足りない状況であると言えるが、

今後の諸科学の発展により、言語や心といった人 間の精神的営みの謎も明らかになってくるだろう。

5. まとめ

我々が言語によって高度なコミュニケーション が可能なのは、言語が認知システムや表象システ ムという我々人類に共通した「身体」という基盤 をもとに生み出されているからである。仮に言語 が我々の身体以外のものを基盤として発生してい たとしたら、言語は思考の道具とはなりえたかも しれないが、コミュニケーションの道具とはなら なかったであろう。このような意味において、言 語の進化は我々の身体とともにあったと考える。

[1] Allan Paivio, Imagery and Verbal Processes, Holt, Rinehart and Winston, 1971.

参照

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