V 01. 27 (990) 近畿大学原子力研究所年報
.OH フリーラジカルの反応( 1 )
ーアリルアルコール希薄水溶液の紫外線照射一
中 村 勝 一 , 坂 井 英 史
Reaction o f . OH Free Radical ( 1 )
( U V I r r a d i a t i o n o f D i l u t e A l l y l Alcohol Aqueous S o l u t i o n ) K a t s u i c h i NAKAMURA , Hideshi SAKAI
0990年9月30日受理〉
The authors already found that C N ‑converts to amino acids by irradiation of radiations in aqueous solution state. and has revealed the important roles of ・OHfree radicals.
Since ・OHfree radicals can be produced by U V irradiation of water we attempted to find outthe roles of ・OHfree radicals onto the chemical reaction by means of U V irradiation of dilute allyl alcohol aqueous solution and by searching what reactions appear in the solution.
. OH free radicals brought the reactions of addition itself to allyl alcohol and hydrogen extruction etc. and produced a white polymer‑like substance whose meltingpoint was upper than
3000C.
The reaction mechanisms and the structure of the product were clarified.
序 論
水が7線等の放射線エネルギーを受けて,水素原子 と・OHフリーラジカルに解離されることはよく知ら れたところである。
筆者らは,水中のCN‑イオンに放射線照射すること によって,アミノ酸を生成することを見たが1) 2) 3)
この際・ OHフリーラジカルが,連鎖反応の開始に重 要な役割を演じていることを知った。
一方,同様の反応は紫外線照射によっても起こり得 る こ と ら 報 告 し た4)。このことは.7J<の紫外線照射 により・OHフリーラジカルが生成することを示して おり, ・OHラジカルの化学あるいは光化学の研究 上,極めて有効な手段を提供するものと思われる。
本研究は,このような考えを確かめると共に,・OH フリーラジカルの化学を発展させる一環として行ったも のである。
1 . 理 論
水が紫外線により解離すると, .Hと・OHを生じ る。
H20
点ム
H20ホ ー
.H+ ・
OH C 1)これらは再結合してH20に戻るか,二量化してH2
とH202を生ずる。
2 • H ー → H2
2・OH一一→ H202
C 2 ) C 3 ) しかし此処にラジカルを捕捉する物質が存在する と, H2やH202の生成は減少するか,無くなる。
本研究では,このようなラジカル捕捉剤としてアリ ルアルコール CCHz=CH‑CHzーOH)を用いるこ とにした。これは二重結合を持っており,ラジカルを
中村他:・ OHフリーラジカルの反応(1)一アリルアルコール希薄水溶液の紫外線照射一
捕捉しやすいであろうこと,水に易溶で:あることのた めである。
アリルアルコールが存在すると, (1)で生成したラ ジカルはマルコフニコフ則に従うとすると,
.H
・
OH CHz=CH‑CH2 ‑OH 一一→CHa‑CH (OH) ‑CH20H (4‑1) ( 1 )
となり, 1,2ー プ ロ ピ レ ン グ リ コ ー ル (1 ) を 生 ず る。(1 )は脱水されてプロパナール, CH;I~CH2-
CHO (rr)を,さらに酸化されてプロパン酸CHa一 CHz ‑COOH (ill)を生ずることも考えられる。ま た,アセトアルデヒドを経てCH.jやCOを生ずるこ とも考えられる。
.H
( 1 )→CHaーCH‑CH2→CH3CHO
+ ・
CHaO ・ (4‑2)
CH3CHO
点ム
CH4+ CO (4 ‑3) . CHa + . Hー→ CH4 (4‑4) 2・CH'I ー→ CzHe (4‑5) また,アリルアルコールの濃度が大きい程,その紫 外線との直接反応も起こり得る。その場合の反応とし ては, α一β開裂を通じてCH2=CH‑CH2‑OH ‑vvv‑‑'i> hν
CHz=CH+CH2‑OH (5)
.H
CH2‑OH 一一→ HCHO + H2 (6) HCHO 一一→
H
2+
CO ( 7 ) などの反応により, H2ゃCOの生成が考えられる。また, β ‑ 7開裂を通じ,あるいは・OHの離脱を通 じて
C H .
1の生成もあるであろう。CαH2戸==C
CH2=CH王一CH2+ .0日 C 8 ) CH2=CH‑CH2 一 … → CHz=CH+ CH4
( 9 ) CH2=CH‑CEL‑OHEL・→
CH4 +CH3ーCH2一OH (10) また, COの酸化による CO"の生成も容易に予想でき るところである。さらに (rr)や (ill)の誘導体や重 合物の生成も考えねばならないであろう。
1
1.実 験
精 製 し た 水 ( 酸 性 KMnO"か ら 蒸 留 , ア ル カ リ 性 KMn01で20時間還流後蒸留, 7000Cの 環 状 炉 を 通 し て蒸留したものを.使用前に蒸留)を用いて,アリル アルコ一ルの0,0ω3M (ω2mlしし/〆〆/
照射用試験管に入れ,雰囲気を
N
2とし,シリコンダ ブル栓で密封して,照射用回転台にて,高圧水銀ラン プを用いて紫外線(波長185nm)を照射した。照射時間は数10分から288時間であった。
照射のいくつかの段階で試験管内のガスをシリンジ に取り,ガスクロマトグラフィーを行った。
液体部分については,分光光度計での測定,エーテ ル抽出後ガスクロマトグラフィー, GS‑MS測定, IR 吸収測定などを行って検討した。
1
1
1.結 果
試験管内のガスをMolecularsieve 5Aを 用 い て ガ スクロマトグラフィーを行った結果を図ーlに示す。
この内162時間照射した時のクロマトグラムを図‑2に 示 す 。 ま た , 同 じ162時 間 照 射 し た 試 験 管 内 ガ ス を Porapak
Q
を 用 い て 行 っ た ガ ス ク ロ マ ト グ ラ ム を 図‑3に示す。液体部分の分光光度計による検討では,未照射試料 を対照として測定すると, 210nm付 近 に 新 し い ピ ー クが現れるが, こ の ピ ー ク は100分 程 度 で 最 高 と な り,さらに照射すると減少する。その様子を図‑4に 示す。
170分 紫 外 線 照 射 し た 試 料 を ジ エ チ ル エ ー テ ル で 抽 出し, Chromsorb 101を 用 い て ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フィーを行った Ccolumntemp, 1200
c
carrier gas He, 100ml/min)。保持時間1.67分 に ピ ー ク を 持 つ 物質の存在することが判った。このガスクロマトグラ ムおよびマススペクトルを図‑5,図‑6に示す。さらに照射を続けると,およそ70時間の照射で白色 の沈澱を生じ始めた。 163時 間 の 照 射 で 生 成 し た 沈 澱 物は, 3000Cで も 融 解 し な い 。 こ の 白 色 生 成 物 を 酸 加 水分解し,前と同様にGS‑MS解 析 を 行 っ た 。 図 ‑ 7,図‑8にこれらのデータを示す。
また,生成物のIRスペクトルを図‑9に示す。
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50
o
N2十02 Ad COX10 A
ロ
H2X100A
ロ
ロ ロ
。
O A' o θ
ロ
ム ム
ロ ロ
150100 (中 小) '如 謡柑 伶
。 。
50 100照射時間 (h) 図 ‑1 生成ガスの時間的変化
150 200
0,
Air
N,
i L
AH HH
ハ ハ ハ い
H,
i
図‑2 生成ガスのガスクロマトグラム (162時間照射,カラム:Melecular sleve 5A.)
図 ‑3 生成ガスのガスクロマトグラム (162時間照射,カラム:ParapakQ)
中村他:・ O Hフリーラジカルの反応(1)一アリルアルコール希薄水溶液の紫外線照射一
2
ω世以
hdE
‑・.
, ,
‑ n u
nU
50 100 150
照射時間 (min)
図 ‑4 照射試料の210nm吸光度の時間的変化
1 2 3 R.T.
100 80 60 40 20
。丁 !TIC
ー
E z
ー
』
10 20 30 40 50 60 70 80 Scan 図‑5 中間体のガスクロマトグラム
40 98 122 0.11 32
0.05 33
45.08 34
80 100 120 140 160 180 200
35 36
60 138 5711
47 斗且比~
1 3 9
571
46.J
40 60 80 100 120 140 160 図 ‑6 中間体のマススペク卜ル
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100 80 60 40 20
。
72 43 32
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2 3
20 40 60 80 100 図 ‑7 生成物加水分解後のガスクロマトグラム
R.T.
TIC
Scan
54.91 66.19 63.13
; ; E E
30 40 50 60 70 80 90 100 図‑8 加水分解生成物のマススペクトル
3000.0 2000.0 1500.0
図 ‑9 白色生成物のIRスペクトル(ヌジョール使用)
100.0
80.0
60.0
40.0
20.0
0.0 500.0
中村他:・ OHフリーラジカルの反応(1)ーアリルアルコ}ル希薄水溶液の紫外線照射一
I V . 結果の検討
図‑1‑‑図‑3から,H2' CO, CH4,およびC2Hsの 生成は明らかであり ,1.理論で述べた各反応は,お おむね妥当なものであろう。また H2の生成は式2に よるもの,および.Hによる分子からの水素引き抜 き反応によるものが,大部分を占めると思われる。
図‑4を見ると,照射によりーたん生成した中間生 成物がさらに他の物質に変化して行くことがわかる。
この中間生成物は,図‑5,6から, CHoCH2CH20H Cm/e 60),
/ H CH2=CH‑C=O
O CH2=CH
または CHヮ=C‑C、
ー │ 、 ハ
o
CHz=CH (町) Cm/e 98) 町, ) CH2=CH‑CH‑OH
O CH3‑CH‑OH
CV) または CHoーC=CH‑OH
O CH3‑CH‑OH
CV ' )
または CHo‑CH‑CH2一OH O
CH?=C‑OH CV" )
および HO‑CHz‑CH‑OH O CH3‑CH‑OH
CN)
(m/e 118)
Cm/e 122)
の混合物と思われる。これらはガスクロマトグラ フィーでの保持時間が近接しているため充分分離出来 なかったものと思われる。生成したこれらの中間物質 が,さらに重合を繰り返し白色沈澱 CVIDを生ずるの であろう。
(班)の IRスペクトルからはーOH(3500cm‑') およびR‑O‑R'(1150cm‑cl)の存在が見られる。
また,弱いけれどもオレフィン型二重結合の吸収
C 1
OOOcm‑l) も見られる。図‑7,8から, C刊)は分子量44,46, 88の物質に 分解されたことになる。 m/e44はCHz=CH‑OH にm/e46はCHa‑CH2‑OHに相当する。 m/e 88はCaH40zに相当する。 HO‑CH=CH‑C=O
(咽)であろう。
OH 以上の諸結果から,アリルアルコールは,水の紫外 線分解により生じた・ OH. . Hの二重結合への付 加,水素引き抜きその他の作用を受け,図‑10に示し
C‑lb=CH‑CHz‑OH
/ ¥ ・OHまたは.Hによる 'H・,OH(.JIJII . / ¥
"../ ¥ 水素引き抜き
h‑CH‑CH2‑0H 司 .
‑:‑一唱.CH3‑CHz‑CH‑OH Cllz=CII‑CII‑OII 011 転 移 AIl
.H HlJllmu< / 1¥l ーCH.I
, 、
│・Oll付加l H2の)j見限 ICHz=C‑OHCH3‑CI‑h一Clh‑O/!I
011 (X 1I)
CH均 一C=CIl‑OH CI‑b‑CII‑OH CI‑h=CII‑CII‑OII
OH 011 OH
(IX) (X 1) (X)
l I I
CH3‑C=CH‑OH CH2=CH‑CII‑OH
o 0
CH3‑bH‑OH CH
」
H‑OH(V') (V)
図‑10 中間体の生成概構
たような機構により, CIX). CX), CX 1), CX II) を経て.中間生成物 CV),CV'), CV")を生ず る。これらが脱水酸化すれば,分子量98の(町)また は(町つを生じ,・H,.OHを付加して ‑CHzが 離脱すれば分子量122の CVDを生ずる。
これらがさらに重合すれば,たとえば,
‑CH=CH‑CH一一一ーO一一一ーCH‑CH:
,
o
0CH3‑CH‑CH=CH‑CH‑Oー
CVlI)
の如き網目状の構造を持つ,高融点の重合物となる。
(四)の加水分解により(咽)およびCH3‑CHz‑
OHを生ずる。
以上により, 185nmの紫外線照射により・OHフ リーラジカルの生成は明らかであり,それは,化学反
Vol. 27 (1990)
応において二重結合への付加,水素引き抜き(した がって酸化)などの役割を演ずることが明らかになっ た。また共存させたアリルアルコールはその作用を受 けて容易に酸化,重合を行うことが明らかとなった。
参 考 文 献
1). J. Nucl. Sci. Technol., Vo1.15, No. 8 p. 631 2). J. Nucl. Sci. Technol., Vol. 19, No. 5 p. 422 3). J. Nucl. Sci. Technol., Vol. 24, No. 1 p. 84 4 ).日本太陽エネルギー学会第10回研究発表会講演
論文集p.121
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