1. 研究の背景と目的
学校、地域、産業などの場面でのメンタル ヘルス問題の増加を背景に、1998 年度に本学 人間科学部に開設された臨床心理学科への志 願者は、1600 人を超え、定員 120 名に対する 倍率は 13.5 倍に達した。期待と希望をもって 入学した直後の進路希望調査では、専門職指 向が極めて強く、臨床心理士資格取得のため の大学院進学は 72 %を超え、学校現場や病院、 施設でのカウンセラーを主とする心理専門職 希望者も 25 %に上った。その後 4 年が経ち、 彼らは雇用状況が一段と厳しくなった 2002 年 3 月に卒業していったが、同年 5 月の本学就職 課の調査では、彼らの内の進路決定者は、大 学院進学 13 名、施設・病院 7 名、公務員 9 名、 企業就職 47 名、その他(保育士、専門学校、 研究生など)18 名、計 104 名であった。残り の進路未定者(報告なしを含む)は 51 名で、 卒業者数 155 名に占める割合は 32.9 %に上っ た。 この進路未定者の割合は、もちろん本学特 有なことではない。2002 年 5 月に行われた文大学生の進路意識の経年変化に関する調査研究(1)
── 1998 年度臨床心理学科入学生について──
渡
忠 *
A Research on Secular Changes of University Students’ Career Conciousness
─ On Matriculates of the Clinical Psychology Course in the Class of 1998 ─
Tadashi WATANABE
The purpose of this study is to survey three years secular changes of university students’ career conscious-ness and find out effective hints for facilitating their career development. Investigations by the question-naire which consisted of five main questions, were conducted yearly in every April from 1999 to 2001. Subjects were 170 matricurates of the Clinical Psychology Course in the class of 1998. The results showed that the ratio of the third-year students who had decided difinitly their course after graduation, was lower than other subjects of both sexes. In the avaraged ratio, graduate school oriented students were the most, who were fourth-year male students and wished to obtain a license for clinical counseling. Both sexes sub-jects who wanted to be company employees increased with the years. The percentage of students who had strong anxieties about own futures were 57 points for female, 50 points for male at the fourth year. Difficulities in getting jobs or entering graduate schools, and indecision or ambiguity for their own future courses were put high on the list of those anxieties. These results suggested importance of providing real and helpful informations, placing justly vocational education in the university curriculum and preparing meticulous career counseling system for the new students.
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部科学省の「学校基本調査」によると、同年 3 月の大学学部卒業者の就職率(全卒業者に 占める常用雇用就職者(いわゆる正社員)の 比率)は年々減少し 56.9 %(2003 年は 55.0 %) で、過去最低となった。また、進学も就職も していない者、アルバイト、パート等の一時 的な仕事に就いた者(いわゆるフリーター) の 合 計 が 全 卒 業 者 に 占 め る 割 合 は 2 6 . 0 % (2003 年は 27.1 %)に上っている。さらに、 厚生労働省の「雇用保険被保険者記録」によ ると、1999 年に就職した者の 34.4 %が 2001 年 には離職している(内閣府,2003)。 このように中高卒を含めた若年層が安定的 な職業に就けない、あるいは就かない状況を 生起させている外的な原因は、1991 年以降の バブル経済崩壊後の不況による企業および官 公庁の人事雇用政策の転換、すなわち人件費 抑制のための要員削減と雇用抑制にあるとさ れる。他方、内的な原因として(これらの状 況の反映でもあるが)若年層の意識に、社会 に出ることに対する忌避、モラトリアムの感 覚があることも推測される。それは大久保 (2002)が指摘するように、職業、仕事の正確 な知識の不足、自分の進路(将来像)を描く 動機づけの低さ、確信の持てなさ、さらに 「なぜ社会に出る(働く)のか」「生きるとは 何か」という根本的潜在的な問いに対する答 のなさ、そしてそれらを獲得する機会のなさ などが背景にあると思われる。これらの意識 は、社会に出る段になって急に生起するもの ではなく、これまで徐々に育まれて来たもの であろう。 本稿では、「安定的な職業に就けない、ある いは就かない」若年層を、社会通念的に“一 人前の人間として望ましくない”と否定的に 見るものではない。しかし、近年増加してい るフリーターの処遇を見るまでもなく、現実 的な問題として経済的、キャリア評価的な面 で社会生活上の不利益を被ることは明らかで あるし、本人のメンタルヘルス上の問題も看 過できない。 翻って本学臨床心理学科学生の内面では、 進路についていつごろどのような意識が生じ ていたのであろうか。入学から卒業に至る 4 年間のプロセスを追ってそのことを明らかに することは、大学あるいは教員として、単な る職業紹介的な進路指導ではなく、より根本 的なキャリア発達への動機づけの援助をする ヒントを得ることが可能になると思われる。 本稿は、このような目的のために本学科開 設時から毎年継続的に収集してきたデータの 第 1 次報告である。
2. 方法
2.1 研究方法 研究方法は、自記式の質問紙調査法であり、 年次を通じて回答者を同定するため記名させ た。 2.2 研究協力者 研究対象者は、1998 年度臨床心理学科入学 者全員(当初は 170 名)であり、各年次にお ける有効協力(回答)者数は、Table 1 に示す 通りで、各年次の在籍者のおおよそ 7 割にな っている。また、3 年間を通じて同定できた 回答者は、男性 26 名、女性 42 名、計 68 名で あった。これは全対象者の半数に満たなかっ たため、本稿では年次縦断的な分析は参考と して行うに止め、以下では、主として年次横 断的な分析を行うこととした。なお、1 年次 (入学時)については別種の調査を実施してい るが、今回の報告には含めていない。 Table 1 調査協力者の属性(性別、年次別度数)2.3 調査内容 本稿で取り上げる調査内容は、以下の 5 つ の質問である。選択肢、下位項目などの詳細 については 3.の結果のところで記す。 (1)進路決定の程度および志望する進路の種類 「進路の種類」については、臨床心理学 を専攻した場合に可能なものを「その他」 を含め 9 種類設定した。 (2)進路についての心配の程度およびその内容 「その内容」については、自由記述とし、 集計の段階で同義と思われるものを「その 他」を含め 9 種類に分類した。 (3)進路についての相談の有無およびその相手 「相手」については、「その他」を含め 5 種類を設定した。 (4)就職時に重視したいこと 下位項目は、リクルートワークス研究所 (1998)の「大学生の企業イメージ」調査報 告書の設問から、本調査の目的に照らして 有効と思われる 17 項目を選択した。 (5)働くときに重視すること 下位項目は、(財)社会経済生産性本部の 「働くことの意識」調査報告書の設問から、 本調査の目的に照らして 7 項目を取捨選択 した。(社会経済生産性本部,2002) なお、本項目は就職活動を経験しつつあ る 4 年次の学生用に設定した。 2.4 調査時期および手続き 調査は、毎年度 4 月 8 日前後に行われる各年 次の学科オリエンテーション時に質問紙を配 布し、当日およびその後 1 週間以内に所定の 場所に設置した回収箱に投函させた。 2.5 結果の集計分析方法 結果の集計分析は、いずれも年次間および 男女間の違いを明らかにすることを目指した。 (1)「進路決定の程度、種類」、(2)「進路につ いての心配の程度、内容」、(4)「働くときに 重視すること」については、選択肢の度数の クロス集計を行い、比率の差の検定を行った。 (3)「就職時に重視したいこと」については、 各下位項目ごとに評価値の平均値、標準偏差 を算出し差の検定を、さらには潜在因子によ る下位項目の要約・分類のため、全延べデー タを用いた因子分析を行った。 なお、収集したデータは、回答者の多少の 入れ代わりがあるが形式上は同一集団の全数 調査である。しかし有効回答数は 70 %であり、 ここでは便宜的に無作為抽出されたものと見 なした。また年次相互に独立ではなく「対応 がある」データであるが、比率の差の検定に は便宜上χ2検定を用いた。したがって以下の 検定結果については一定の制約がある。使用 した統計ソフトは、SPSS 11.0 である。
3. 結果
3.1 進路決定の程度および志望する進路の種 類について (1)質問「あなたは現時点で卒業後の進路を 決めていますか」 本質問の回答選択肢は「決めている」「あ る程度決めている」「まだ決めていない」の 3 つである。 ① 年次横断データの結果 その集計結果を性別・年次別に表したの がFigure 1 である。全体の傾向は、2 年次 で既に 9 割近くの回答者が「ある程度決め ている」ことになる。 年次間の比較では、男女とも 2 年次と 3 年次 はほとんど差がなく、3 年次と 4 年次の間では, Figure 1 進路を決めている程度(年次別)統計的に有意な差があった(男:χ2= 23.599, p<.01,女:χ2= 32.218,p<.01)。「決めてい る」が最も多くなるのは 4 年次(男: 63 %, 女: 40 %)で、少ないのは 3 年次(男: 16 %, 女: 0 %)であり、「ある程度決めている」で は最多は 3 年次(男: 77 %,女: 95 %)で、 最少は 4 年次(男: 38 %,女: 57 %)、「まだ 決めていない」では最多は 2 年次(男: 11 %, 女 : 1 7 % ) で 、 最 少 は 4 年 次 ( 男 : 0 % , 女: 3 %)であった。 男女間の比較では、3 年次では有意な差が 認められた(χ2= 12.092,p<.01)が、2 年次、 4 年次では有意な傾向(χ2= 5.524, p<.10,χ 2= 5.612,p<.10)が見られた。したがって 「決めている」の割合は男性が多く、「ある程 度決めている」「まだ決めていない」は女性が 多い。これは、3.2 で見るように女性の心配・ 不安の高さに結びつくものと思われる。また 男女とも就職活動等が現実化する 3 年次にや や迷いが生じていることがうかがえる。 ② 年次縦断データの結果 個人を同定できた 68 人について、2 ∼ 4 年 次にかけて進路決定の程度がどのように変化 したかを集計した結果がTable 2 である。現 れた変化のパターンは 12 通りあり、最も多か ったのは、男性では年次順に「ある程度決め ている」−「ある程度決めている」−「決め ている」(31 %)、女性では「ある程度決めて いる」−「ある程度決めている」−「ある程 度決めている」(52 %)であった。ここにも 女性の進路決定の迷いの多さが現れている。 (2)質問「それ(進路)は次のうちどれです か」 質問紙の選択肢は、「進学」「国家公務員」 「地方公務員」「企業」「病院」「施設」「教員」 「自営・家業・無業など」「その他」の 9 つで あるが、ここでは「大学院進学」「公務員」 「企業」「施設・病院」「教員等」の 5 つに統合 した。その集計結果を性別・年次別に表した のがFigure 2 である。なお、回答者は(1)で 「決めている」「ある程度決めている」とした 者である。 最も多い「大学院進学」は、各年次とも男 性の方が選択比率が高いが、3 年次では男女 とも低くなっている。「公務員」は、女性の方 が比率的には高くなっているが、男女とも 4 年次には 10 %に減っている。「企業」は、男 女 ほ ぼ 同 比 率 で あ り 、 年 次 を 追 っ て 増 え 、 35 %に上る。「施設・病院」は、女性の方が 比率は高くなっているが、男女とも年次を追 って減っている。 「大学院進学」は、1 年次入学当初は 72 % を超えていたが、4 年次では男女平均で 33 % まで減ったことになる。ただし 3 年次で一旦 減り、4 年次ではとくに男性で再び進学希望 が増えている。したがって(1)の進路決定の 程度が 3 年次に減少する傾向は、「大学院進学」 Table 2 進路決定の程度の年次パターン(性別度数) Figure 2 最も希望する進路 (年次別)
希望者の減少の反映であることが推察される。 3.2 進路についての心配の程度およびその内容 (1)質問「あなたは現在、自分の進路につい て心配や不安な気持がどの程度あります か」 本質問の回答選択肢は「非常にある」「かな りある」「あまりない」「ほとんどない」の 4 つである。 ① 年次横断データの結果 その集計結果を性別・年次別に表したのが Figure 3 である。年次間の比較では、男女と も統計的に有意な差は認められなかった。「非 常にある」が最も多くなるのは 4 年次(男: 50 %,女: 57 %)であり、少ないのは 3 年次 (男: 31 %,女: 43 %)、「かなりある」では 最多は 3 年次(男: 44 %,女: 51 %)で、最 少 は 男 性 は 2 年 次 ( 3 4 % )、 女 性 は 4 年 次 (35 %)であった。「あまりない」では最多は 2 年次(男: 26 %,女: 9 %)で、最少は 4 年 次 (男: 10 %,女: 8 %)、「ほとんどない」 では、女性は各年次とも 0 %であったが、男 性は最多が 3 年次(8 %)、最少は 2 年次(4 %) となっている。 男女間の比較では、2 年次、3 年次では有意 な差が認められたが(2 年次:χ2= 10.023, p <.05,3 年次:χ2= 8.586,p <.05)、4 年次 では認められなかった。したがって「非常に ある」「かなりある」を合わせた心配の程度の 割合は、2 年次、3 年次において特に女性で多 くなっている。 ② 「進路決定の程度」との関係 心配の程度と 3.1 の(1)で見た進路決定の 程度を間隔尺度として、各年次、性別ごとに に相関係数を算出したが、全て 0.3 ∼-0.2 の間 であり、弱い相関しか認められなかった。し たがって、男女とも就職活動等が現実化する 3 年次にやや迷いが生じているが、進路が決 まっていないと心配や不安の程度も高いとい う一般的な予測は成り立たなかった。 ③ 年次縦断データの結果 個人を同定できた 68 人について、2 ∼ 4 年 次にかけて心配や不安の程度がどのように変 化したかを集計した結果がTable 3 である (ここでは簡略化のため、4 つの選択肢を「非 常にある」「かなりある」を「ある」に、「あ まりない」「ほとんどない」を「ない」に統合 している)。現れた変化のパターンは 7 通りあ り、最も多かったのは、男女とも年次順に 「ある」−「ある」−「ある」で(男: 50 %、 女: 81 %)、次に多いのは、やはり男女とも 年次順に「ない」−「ある」−「ある」であ る(男: 15 %、女: 7 %)。ここにも女性の進 路決定の迷いの多さが現れている。 (2)質問「それ(心配)はどのようなことに ついてですか」 この質問への回答は、自由記述であったた め、記述されたものを KJ 法によって以下の 9 つに分類した。( )内は具体的な記述例であ る。なお、回答者は(1)で「非常にある」 「かなりある」とした者である。 Figure 3 進路についての心配の程度 (年次別) Table 3 進路の心配の程度の年次パターン(性別度数)
A:就職進学できるか(就職先があるか。 就職難。就職できるか。進学できるか。 等) B:希望の職に就けるか(やりたい仕事、 希望の職、納得のいく職、心理学を活か した仕事、心理職に就けるか。等) C:就職進学して上手くやれるか(就職、 進学しても適性があるか。現場で通用す るか。上手く適応できるか。等) D:具体的な情報がない(どんな仕事、職 業があるのか。試験の内容はどんなこと がでるのか。どこで探せばいいのか。等) E:具体的に何をすればよいか(いつから、 どういうことをすればよいのか。このま まででよいのか。何をすればよいのか。 等) F:学力能力に自信ない(自分は勉強がで きないが。自分の能力に自信がない。専 門知識がない。等) G:資格・試験に受かるか(大学院入試、 臨床心理士試験、公務員試験、教職試験 に通るか。試験に失敗したら、その後ど うするか。等) H:自分は何をやりたいのか(自分は何に 関心があるのか。何に向いているのか。 自分のウリは何か。進路が決められない。 いくつかあって絞れない。等) I:その他(全て不安。先が見えない。女性 は不利なのでは。先輩はどうやったのか。 部活と両立できるか。フリーターにはなり たくない。金銭面。等) その集計結果を性別・年次別に表したのが Figure 4 である。 各年次、性別を通じて最も多かったのは A の「就職進学できるか」で 30 %を占めており、 次は H の「自分は何をやりたいのか」、そして B「希望の職に就けるか」と続く。 「就職進学できるか」は、4 年次女性で 4 割 近くに上り、不利な状況を反映している。「自 分は何をやりたいのか」は、進路選択が現実 化する 3 年次で男女とも最も多くなる。 「希望の職に就けるか」は、男女とも年次 が進むにつれて減少した。これはおそらく、 希望そのものが叶う確率の低さを認めざるを 得ない現実を認識したためであろう。 3.3 進路についての相談の有無およびその相手 (1)質問「あなたはこれまで進路について誰 かに相談したことがありますか」 本質問の回答選択肢は「ある」と「とくに ない」の 2 つであり、その集計結果を性別・ 年次別に表したのがTable 4 である。なお、 回答者は 3.2 で心配・不安が「非常にある」 「かなりある」とした者である。 男女間には統計的に有意な差はなく、「ある」 とする者がともに半数以上を占め、年次を追 って増えている。とくに女性は 2 年次 63 %か ら 4 年次 95 %へと増加している。 (2)質問「それは誰ですか」 本 質 問 の 回 答 選 択 肢 は 「 友 人 ( 恋 人 )」 「親・家族」「先生」「先輩・知人」「その他」 Figure 4 「心配がある」の内容の年次比較 (性別)) Table 4 進路について心配がある者の相談経験の有無の 比率(性別)
の 5 つであり、その集計結果を性別・年次別 に表したのがTable 5 である。回答者は 3.2 で 心配・不安が「非常にある」「かなりある」と した者である。 年次を通じた延べ人数の比率で見ると、男 女とも「友人(恋人)」「親・家族」「先生」 「先輩・知人」「その他」の順で選択率が高か った。ただ、年次を追っての増減はかなり異 なり、一定の傾向は見られなかった。 3.4 就職時に重視したいこと 質問「あなたが将来何らかの仕事に就いた と想定した場合、以下のような事柄はあなた にとってどの程度重要でしょうか」 (1)下位項目の内容 本質問の下位項目は、1.新しいことを学ん だり挑戦する機会が多い、2.健康管理や保養 施設など福利厚生制度が充実している、3.上 司や同僚との人間関係がよい、4.昇進の機会 が多く上に行きやすい、5.勤務時間が厳しく なく休みが取りやすい、6.仕事が単調ではな く変化に富んでいる、7.実力本位、能力本位 の処遇である、8.将来独立するときなどに役 に立つことが多い、9.身分(雇用)が安定し ている、10.仕事内容が自分の能力や性格に合 っている、11.給料やボーナスがよい、12.オフ ィスなど仕事をする環境がよい、13.仕事を自 分で工夫しコントロールできる、14.仕事が時 代の先端を行っている、15.男女平等に活躍で きる、16.社会的な貢献度が高い、17.勤め先の ネームヴァリュウが高い、18.その他の 18 項目 である。 これらの項目は、「非常に重要」「かなり重 要」「どちらともいえない」「あまり重要では ない」「全く重要ではない」の 5 段階で評価さ せ、それぞれ順に 5 点から 1 点の点数を配し集 計、分析を行った。 (2)個別項目の記述統計的な特色 各項目の評価値の平均値を性別に年次ごと に表したのがFigure 5 である。 男性では、年次を通じて最も高かったのは 「仕事内容が自分の能力や性格に合っている」 で、以下、評価平均値 4 以上の項目で「上司 や同僚との人間関係がよい」「新しいことを学 んだり挑戦する機会が多い」「仕事を自分で工 夫しコントロールできる」などが続く。これ らからは、仕事そのものの面白さ、やり甲斐 と人間関係を重視していることがうかがえる。 また最も低かったのは「勤め先のネームヴァ リュウが高い」で、平均値 2.7 前後であった。 年次間の比較では、「昇進の機会が多く上に Table 5 進路について心配があり、相談経験が有る者の 相談相手の比率(性別) Figure 5 就職時に重視したいことの年次比較(性別)
行きやすい」のみに統計的に有意な傾向が見 ら れ ( 対 応 の あ る 一 元 配 置 分 散 分 析 : F (2,148)=2.624,P<.10)、4 年次で重視する傾 向がうかがえる。 女性では、年次を通じて最も高かったのは やはり「仕事内容が自分の能力や性格に合っ ている」で、以下、評価平均値 4 以上の項目 で「上司や同僚との人間関係がよい」「男女平 等に活躍できる」「身分(雇用)が安定してい る」「新しいことを学んだり挑戦する機会が多 い」などが続く。これらからは、男性と同様、 仕事そのものの面白さ、やり甲斐と人間関係 だけでなく、男女平等、雇用安定なども重視 していることがうかがえる。また最も低かっ たのは「勤め先のネームヴァリュウが高い」 で、平均値 2.5 前後であった。 年次間の比較では、男性とはかなり異なり 統計的に有意な差が認められた項目が多い。 それらは、評価平均値の高い順に、「健康管理 や保養施設など福利厚生制度が充実している」 (F(2,196)=3.155,P<.05)、「実力本位、能力 本位の処遇である」(F(2,196)=3.164,P<.05)、 「将来独立するときなどに役に立つことが多 い」(F(2,196)=3.699,P<.05)、「勤め先のネ ームヴァリュウが高い」(F(2,196)=3.222, P<.05)、「仕事が時代の先端を行っている」(F (2,196)=3.836,P<.05)の 5 項目である。福 利厚生に関する項目以外は、相対的に 2 年次 で評価が高いが、3 年次で低下し、4 年次にさ らに低くなるという傾向を示しており、年次 を追うごとに重視することが身近で現実的な ものになってきていることがうかがえる。 (2)因子分析による下位項目の要約 「18.その他」項目を除いた 17 項目に潜在す る因子と他の質問への回答との関係を探るた め、測定値の偏りの大きすぎる不良項目のチ ェックをした後、共通性の初期値を 1 とした 主因子法により因子を抽出した。その過程で は、回答者の属性の組み合わせ(年次×性別) ごとに何通りかの抽出を行ったが、因子負荷 量の大小はあるものの 1 つの因子に属する項 目に大きな違いは見られなかった。そこで、 全データ 344 件を用いて分析を行い、共通性 が 0.25 以下の 4 項目(1,2,4,10)を削除した。 その結果、4 因子解が適当と判断したが、累 積寄与率は 43.2 %とやや低めになった。バリ マックス回転後の因子行列は、Table 6 の通り である(因子負荷量 0.5 以上の数値のみ記す)。 年次別あるいは性別の比較を可能にするた め、各因子の負荷量 0.5 以上の項目を当該因子 の尺度とし、各回答者ごとに各項目の測定値 の平均値を算出し尺度値とした。 第 1 因子(5 項目)は、働く外的条件に係わ る項目群で「処遇・人間関係・環境条件」因 子(尺度)、第 2 因子(4 項目)は、仕事その ものに係わる項目群で「実力本位・やりがい」 因子(尺度)、第 3 因子(2 項目)は、仕事な り企業の社会的評価に係わる項目群で「先端 性・ネームヴァリュウ」因子(尺度)、第 4 因 子(2 項目)は、社会的な意味に係わる項目 群で「社会的意味・貢献」因子(尺度)と命 名した。 各尺度について信頼性係数(Crongach のα 係数)を算出したところ、順に 0.721,0.671, 0.620,0.572 とかなり低くなった。したがっ て本尺度を用いて行う統計的検定の効力は低 下するので、以下の(3)の結果はあくまで 「参考」程度の意味しかもたない。 (3)就職時に重視したいこと因子の特色 ① 年次間の比較 Table 6 就職時に重視したいことの因子行列
各因子の尺度値(平均値)を年次ごとに比 較したのがFigure 6 である。男性では年次間 に統計的な差は認められなかった。相対的な 評価の高さを見ると「処遇・人間関係・環境 条件」と「実力本位・やりがい」がほぼ同じ で、「社会的意味・貢献」がやや低く、「先端 性・ネームヴァリュウ」が最も低くなった。 女性では、年次間に統計的な有意差が認め られたのは「先端性・ネームヴァリュウ」の みであり(対応のある一元配置分散分析: F (2,196)=4.281,P<.05)、4 年次で評価が低く なっている。相対的な評価の高さを見ると 「処遇・人間関係・環境条件」が最も高く、次 に「社会的意味・貢献」、それより「実力本 位・やりがい」がやや低く、「先端性・ネーム ヴァリュウ」が最も低くなった。「社会的意 味・貢献」が男性より高いのは、男女平等項 目の影響と考えられる。 ② 男女間の比較 各因子の尺度値(平均値)を男女ごとに比 較したのがFigure 7 である。 2 年次では男女間に統計的な差は認められ なかった。 3 年次では、「処遇・人間関係・環境条件」 と「実力本位・やりがい」で有意な差が(対 応のない t 検定: t(124)=-1.991,p<0.5 およ び t(124)=2.224,p<0.5)、「社会的意味・貢 献」では有意な傾向がそれぞれ認められた(t (124)=-1.859,p<0.10)。すなわち男性では 「実力本位・やりがい」が、女性では「処遇・ 人間関係・環境条件」「社会的意味・貢献」が 重視されていることになる。女性の方が「社 会的意味・貢献」が高いのは、男女平等項目 の影響と考えられる。 4 年次では、「先端性・ネームヴァリュウ」 で有意な差が(t(100)=4.150,p<0.01)、「実 力本位・やりがい」で有意な傾向が(t(100) =1.830,p<0.10)認められた。これらはいず れも男性の評価の方が高くなっている。 ③ 進路についての心配の程度との比較 進路についての心配が「ある」「ない」ごと に各因子の尺度値が年次間で違いがあるかど うかを、対応のある一元配置の分散分析によ って検定したが、いずれも有意な差は見いだ せなかった。 3.5 働くときに重視すること 質問「仕事について、以下のような対にな った考え方があります。あなたの考え方によ り近いのはどちらですか」 (1)下位項目の内容 本質問の下位項目は以下の 7 項目であり、 それぞれ A または B を二者択一で選ばせた。 1. A 労働時間が長くても、収入の多い方 がよい B 収入が少なくても、労働時間は短い 方がよい 2. A 余暇を多少犠牲にしても、仕事に打 ち込む方がよい、 B 仕事に多少影響しても、余暇を大切 にする方がよい 3. A どんなにきつくても、やりがいを感 じられる仕事をする方がよい Figure6 就職時に重視したいこと因子の年次比較 (性別) Figure7 就職時に重視したいこと因子の男女比較 (年次別)
B それほどやりがいを感じられなくて も、気楽な仕事をする方がよい 4. A 人並み以上に仕事をして、なるべく 上のポストにつきたい B 人並みに仕事をして、それなりのポ ストでよい 5. A よりよい条件のところがあれば、そ こに移った方がよい B よりよい条件のところがあっても、 1 つところに長く勤めるのがよい 6. A どんな仕事でも、一所懸命やれば何 とかこなせると思う B いくら一所懸命やっても、こなせな い仕事も多いと思う 7. A 希望する進路に進むためには、本人 の努力や意志の強さが重要である B 希望する進路に進むためには、学校 や親、運などの周りの条件が重要であ る これらの項目の特色は、A 群は仕事に関し て努力、挑戦といった積極的な姿勢を重視す る考え方であるが、B 群では余暇、あるいは 気楽さを重視する考え方であることである。 (2)個別項目の記述統計的な特色 各項目の A,B の選択結果を性別に表した のがFigure 8 である。 男性では、A の選択率の上位 3 位は、「きつ くてもやりがい」(85 %)、「よい条件で移る」 と「進路は努力や意志」(83 %)であり、B で の上位は「余暇を大切に」(73 %)、「それな りのポスト」(53 %)、「労働時間は短い方」 (45 %)であった。すなわち選択比率のレベ ルをみると、A 群が 80 %以上と優位であるが、 B 群も 45 %以上で半数近い者が選択してい る。 女性では、A の選択率の上位 3 位は、「進路 は努力や意志」(98 %)「きつくてもやりがい」 (92 %)、「よい条件で移る」(87 %)とであり、 B での上位は「余暇を大切に」(60 %)、「それ なりのポスト」(53 %)、「一所懸命やっても こなせない」(25 %)であった。すなわち選 択比率のレベルをみると、A 群が 80 %以上と 男性と同様に優位であるが、B 群は最も高い ものでも 60 %でやや低めである。 同一項目の男女間の比較では、統計的に有 意な差が認められたのは、1.の「労働時間か 収入か」(χ2=6.109,p<.05)と 7.の「本人努 力か周りの条件か」(χ2=8.175,p<.01)であ った。また、有意な傾向が見られたのは 6.の 「こなせるかこなせないか」(χ2=3.378,p<.10) である。いずれも女性の選択率が高かった。
4. 考察
(1)進路志望と現実の可能性の乖離について 3.1 の結果からは、2 年次ですでに 9 割の学 生が「ある程度」あるいは「決めている」こ とになるが、(他学科あるいは学部、さらには 他大学のデータがないのでその多さを比較で きないが)その比率が高いとすれば、臨床心 理学科という目的指向性の強い学科を志望し て来たことの反映であろう。 このことから導出される課題は、臨床心理 の専門家への入学時のあこがれないし理想と、 現実にそれを職業とする場合の需要(求人) の少なさ、言い換えれば学部あるいは大学院、 臨床心理士等の資格取得後すぐに安定的な仕 事に就けるわけではないという現実を知り、 Figure8 働くときに重視することの男女比較 (4 年次のみ)また、2 年次までに自己の能力・適性をある 程度自覚し、方向転換せざるを得なくなった ことによる戸惑い、落胆あるいは挫折感への 対 処 で あ る 。 男 女 、 と く に 女 性 で 3 年 次 に 「ある程度決めている」が相対的に増えること はその影響であろうし、3.1(2)で見たよう に 3 年次で「大学院進学」志望者が減少する ことと無関係ではないであろう。さらに複雑 なのは、4 年次にはとくに男性で再び進学希 望が増えることである。この背景にはおそら く 3 年次に就職の現実の厳しさを知り、再び 進学へと進路変更した者がいるのであろう。 また、女性に関しては、進学から就職へ方向 転換した場合、客観的に求人職種が限られ、 しかも少ないというもう一つの現実に直面せ ざるを得ない。 この課題への対応は、1 年次の講義科目の 授業および 3 年次の現場実習の授業等を通じ て臨床心理の専門家の仕事の実状を理解させ 認識させること、そしてそこで生じる心理的 混乱のケアを行う態勢を作ることが必要にな る。後者ではとくに女性および大学院進学志 望者への援助態勢がポイントとなろう。 (2)学生が抱える心配・不安について 3.2 では、年次および進路決定の程度にかか わらず「心配・不安がある」は、平均すると 男性で 77 %、女性で実に 92 %に上っていた。 そしてその中身は「就職進学できるか」「希望 の職に就けるか」という心配と「自分は何を やりたいのか」という不安が、平均すると男 性で 49 %、女性で実に 63 %を占めた。 このことから導出される課題は、学生の心 配・不安をいかに軽減し自らの進路選択に納 得的な確信をもたせるかである。「就職進学で きるか」「希望の職に就けるか」という心配へ の対応は、本学の偏差値的なランクやネーム ヴァリュウもからみ、大学院入試を含めた求 人の門の狭さという操作不可能な条件を前提 に、学生自身の志望や能力などの適性の現実 吟味をさせることが不可欠となる。それを可 能にするためには、日本労働研究機構の調査 結果(2003)でも指摘されているように、① 職業や仕事の中身に関するガイド情報の取得、 ②職業適性・興味検査の受験、③学校での職 業教育やキャリアガイダンスないしはカウン セリングを受けることが挙げられる。 ①に関しては、マスコミあるいは家族、そ して学生自身のアルバイト経験を通じて形成 された「働くこと」についての漠然としたマ イナスイメージが極めて強い。筆者が産業関 係の授業で毎年行っている“働く”というこ とから連想する言葉の調査では、「お金(給料)」 が常にトップであるが、それ以下は「疲れる」 「辛い」「リストラ」「残業」「汗」などネガテ ィヴな言葉が上位を占める。一方、当該授業 に就職した先輩を招いてどんな仕事をどのよ うにやっているかを語らせたが、それに対す る感想は、話の内容もだが、教壇に立って 堂々と楽しそうに話す姿に打たれた、仕事の イメージがポジティヴなものに変わったとい う学生が少なからずいた。したがって「ガイ ド情報」と言っても文字情報に限らず、現役 で働く人から直接あるいは現場実習ないしイ ンターンシップを通じて得られる体験など、 まさに生きた情報を提供することが有効であ ろう。 ②に関しては、心配・不安の真っ只中にい る学生が検査結果に過剰な期待をし、また絶 対視しがちになることを警戒しなければなら ない。これらの検査の利用に関しては、臨床 的な使用法、すなわちその結果を材料の一つ にしてキャリアカウンセリングの場などで自 己認知を深めるのに用いることが有効であろ う。そこでキャリアカウンセリングを含め③ については次の(3)で検討することにする。 (3)キャリア探求の必要性について 学生が抱える「自分は何をやりたいのか」 が分からないという不安は、1.で指摘した学 生の希薄なあるいは非現実的な就職ないし職 業意識、自分の進路(将来像)を描く動機づ けの低さ、確信の持て無さ、さらに「なぜ社 会に出る(働く)のか」「生きるとは何か」と いう根本的潜在的な問いに対する答の無さの 現れである。3.4 で見た就職時に重視したいこ
との上位を占める「仕事内容が自分の能力や 性格に合っている」や「上司や同僚との人間 関係がよい」「新しいことを学んだり挑戦する 機会が多い」も、理想、願望としては理解で きるが、それを固定的な基準にして就職活動 あるいは実際に就業するとなると現実の壁に すぐ直面し挫折する可能性が高くなる。3.5 の 働くときに重視することの結果についても同 様のことが言えよう。さらには 3.3 で、不安を 持つ学生が進路に関して相談をしているか否 かについて問うた結果を見たが、2 年次で 5 ∼ 6 割、3 年次で 7 割、4 年次では 8 ∼ 9 割が誰か に相談をしており、それだけ不安度が高いと もいえる。しかしながら、その相手は 4 割が 友人、2 ∼ 3 割が親族であり、現実的で正確な 情報に基づいて本人のキャリア認識を深める ような相談になっているかは疑わしい。 したがって、学生が現実状況と自己の特性 とのマッチングを行うための「機会」、すなわ ち(2)の③で挙げた「学校での職業教育やキ ャリアガイダンスないしはカウンセリング」 の場の設定が重要な課題になる。 職業教育あるいはキャリア教育については、 バブル崩壊後の産業構造の変化の中で 1996 年 に就職協定が廃止されて以来、学生、保護者 にとって就職率、進学率が大学選択の重要な 条件となっている現実、また、進路あるいは 就職の問題は学生にとって入学以降、常に意 識せざるを得ない重荷となっていることを考 慮すれば、大学教育のカリキュラムに(学術 教育とは別に)社会教育としてきちんと位置 づける必要があろう。 情報提供と適性検査の実施を主体とするキ ャリアガイダンスについては、ほとんどの大 学が事務部門の就職担当課で行っている。し かしながら、近年増加している働くことの根 源的な意味や動機づけ、あるいはジェンダー に関わる個人のアイデンティティ問題を抱え る学生に対しては、担当者に臨床心理学的な カウンセリングの素養が必要になると思われ る(渡辺 2001)(宗方 2003)。あるいは厚 生労働省が養成を推進しているキャリアカウ ンセラーやハローワークに設けられたヤング ワークプラザなどの外部リソースの活用を図 ることも考慮すべきである。 (4)今後の課題 1998 年度臨床心理学科入学生の進路あるい は就職についての意識を、年次と性差を軸に 分 析 を 行 い 、 3 年 次 で の ゆ ら ぎ と 女 性 の 心 配・不安の強さが明らかになった。その背景 には現在の雇用状況の厳しさが存在し、その 現実と学生の専門職指向の強さとのギャップ、 それらを解消するための援助システムの未整 備などの問題が示唆された。 今後は、これらの傾向がその後の入学年度 の学生によってどう異なるのか、共通する、 あるいは新たな課題は何かを継続的に探る予 定である。さらに、今回明らかになった、調 査内容そのものの不備な部分、例えば、決定 の程度、とくに「ある程度決めている」の質 的な意味、心配・不安の詳細な中身、自己の キャリアの将来展望をどう描いているかなど を改善し調査を行う必要もある。 文献 内閣府編 2003 平成 15 年版国民生活白書 第 2 章 第 3 章 ぎょうせい (財)社会経済生産性本部編 2002 平成 14 年度新 入社員「働くことの意識」調査報告書 113-122 (財)社会経済生産性本部 リクルートワークス研究所編 1998 大学生の企業 イメージ調査 同所刊 大久保幸夫 2002 新卒無業 東洋経済新報社 松本真作他 2003 人材の最適配置のための新たな 職業の基盤情報システムに関する研究(調査研究 報告書 No. 151)日本労働研究機構 渡辺三枝子,Herr, E.L. 2001 キャリアカウンセリ ング」入門 ナカニシヤ出版 宗方比佐子,渡辺直登 2003 キャリア発達の心理 学 川島書店