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正 亀 芳 造

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(1)

ドイツ民主共和国(DDR)における国家の 賃金政策と経営レベルの賃金決定

一一1950年代を中心に「賃金ギャップ」との関連で一一ー

正 亀 芳 造

は じ め に

ドイツ民主共和国(DeutscheDemokratische Republik, DDR)の社会主義に おいては,賃金は,労働に応じた分配の原則によって規定され,個々の企業に おいて私的に決定されるのではなくて,国家的規模において統一的に決定され る。そして,国家は,賃金のコントロールを通じて,国民経済的観点に立って 賃金の計画的発展をはかり生活水準の向上をはかるとともに,労働者を生産能 率の向上に動員するなど労働力の管理手段としても賃金を利用している。具体 的には,労働者は,かれが労働している企業から賃金を受け取るのであるが,

その決定は,このように国家によってコントロールされることになるわけであ

だが,はたして国家によるこのような賃金コントロールは,十分に貫徹して いるのであろうか。あるいは,経営レベルにおいて独自の賃金決定がなされて いるのであろうか。もしそうだとすれば,なぜ経営レベルで、独自の賃金決定が なされるのであろうか。いうまでもなく,この点については,社会主義社会の おかれている状況によって必ずしも同じではないであろう。そこで,本稿で DD Rの社会主義の基礎建設期にあたる1950年代に限定してこの問題を解 明することを課題としている。

そこで,まず,第1節では,国家の賃金政策の内容・特色をその最重要な要

‑125

(2)

‑274‑

具である賃率制度に関して明らかにする。ところで, 1950年代のDD Rにおい ては,主として,工業部門の生産労働者において,一般に「賃金ギャップ」現 象が認められる。これは,国家の賃金政策から独立した賃金決定が経営レベル で行われていることを表す現象に他ならなし、。そこで,第2節では,この「賃 金ギャップ」の実態をみる。そして,第3節では, 「賃金ギャップ」を発生さ せる経営レベルの賃金決定の実態を,事例をもとに明らかにするO 最後に,こ のような賃金に対する国家のコントロール喪失の原因を考察するO

1節 賃 率 制 度

労働に応じた分配の原則を国家的規模で統一的に実施するとともに,賃金を 労働力の管理手段として利用するための国家の賃金政策上の最も重要な要具 は,賃率制度である。賃率制度において,勤労者のカテゴリー別(生産労働 者,職員,職長,技師・技術者,管理者など〉・産業部門別に,労働の質に応 じていくつかの等級に格差のつけられた賃率額(1時間ないし1カ月当りの賃 金額〉が決定される。

賃率額は,このように労働に応じた分配の原則に基いて,労働の質〈労働が

(1)  本節では, DD Rの賃率制度の全般的な説明は行っていない。賃率制度を含むDD  Rの賃金制度の全般的な説明は,下記拙稿で、行っている。拙稿「ドイツ民主共和国

(DDR)の賃金制度」海道進・笹川儀三郎・林昭編著『社会主義企業の構造』ミネ ノレヴァ書房,近刊,所収。また,次論文も参照のこと。泰地靖弘「東ドイツの賃率制 度」海道進・浅野倣編『職務給の研究Jミネノレヴァ書房, 1966年,所収。

(2)  Vgl. Autorenrnllektiv,Okonomik der Arbeit,  6.  iiberarbeitete  Auflage,  Berlin  1974, s. 519. 

1950年代から70年代前半までは,一般に,生産労働者と職員の場合は8等級に,技 師・技術者と管理者の場合は5等級に,また,職長の場合は4等級に区分されてい た。(Vgl.ebenda, S.  522.)ところが, 70年代後半以降,たとえば,生産労働者の場 合は6等級に,職長の場合は3等級に等級数が減らされたと言うことである。 (この 点に関しては, 1981116日,神戸大学で行われたProf.Dr. E. Sachseの講演に

よる。〉

(3)

﹁ ﹁

JV

必要とする熟練資格の程度〉に応じて格差づけられるのであるが,その格差づ けに際しては,さらに次のような労働力管理の観点も考慮されるO

1に,労働者の資格向上を刺激することである。技術革新を進め生産性を 向上させるためには,労働者の資格の向上が必要であり,そのために,労働者 が自らの資格向上に努めるように刺激することを考慮して賃率額が決定され る。具体的には,資格が高くなるにつれて,したがって,賃金等級が高くなる につれて賃率額を高くし,等級聞の賃率格差を絶対的にも相対的にも増加させ る措置がとられることになる(表1参照〉。

1. 化学工業(経営クラス工〉における生産労働者の賃率額 賃金等級   賃(マルク率/時間額) 増(マ加ルク〉額   %) 

1. 50 

1. 55  0.05 

1. 65  0.10 

1. 80  0.15 

1. 95  0.15 

2.10  0.15 

2.35  0.25  12 

2.65  0.30  13 

(出所〕 Autorenkollektiv, Okonomik der Arbe 6.iiberarbeitete Auflage,  Berlin 1974, S.  523. 

2に,労働力の産業部門間への適切な配分を誘導することであるO 国家の 経済政策の観点からみて必要な労働力の部門間配分を確保するために,たと えば,国民経済的に重要な部門への労働力の移動を促進するように部門間の賃 率額が決定される。そのために,賃金等級は同じであっても,国民経済に占め

る各部門の重要性に応じて部門間で、賃率額に格差がつけられることになるO

このように,賃率額は,労働に応じた分配の原則に基づいて労働の質が考慮 されるだけでなく,さらに,労働者の資格向上を物質的に刺激するとともに,

(4)  Vgl. ebenda, S.  519. 

(4)

労働力の部門間への必要な配分を誘導するといった国家による労働力管理の観 点も考慮、して決定されるのであるO そこで,次に,生産労働者の場合のこれら の観点に基づいて決定された賃率額の実態をみるニとにするO

D D  Rにおいて賃率額が国家的に統一的に決定されたのは, 19508月17 付の「人民所有経営およびそれと同等の経営における労働者および職員の賃金 支払の改善に関する法令」によるのが最初であるO それまでの,第2次世界大 戦後のソ連占領下の時代から1949107日のDD R建国を経てこの法令が発 布されるまでの時期においては,賃率額は,産業部門別に労働協約で個別に決 定されていた。それに対し,この法令によって,はじめて,生産労働者に関し て,国民経済の全産業部門について統一的に賃率額が決定され,賃率制度が国 家による労働力の管理手段としても利用されうるようになったので、あるO

(5)  H. Knschke, Die  Diff erenzierung  der  Tariflhne der  Produktionsarbeiter  in  der Volkswirtschaft der DDR, in: Wirtschaftswissenschaft, 1959,  Heft 6,  S.  903.  なお,この法令は,本稿の脚注(9)に示した①で、ある。

(6)  この時期における, ソ連占領軍等による賃金政策上の諸措置と賃率額等を規定し た労働協約の特徴に関しては,次書参照。 H.Matthes, Das Leistungsρrinziραls  Grundlage der Entlohnung in der volkseigenen Wirtschaft, Berlin 1954, S. 58‑65. 

また,この時期の労働協約に関しては,次論文参照。横井芳弘「各国労働協約の比較 法的研究東ドイツ(その1)」,「同(その2・完)」『月刊労働問題』 1961年11月号 および19623月号。

(7)  19504月制定の「労働法」と,それを受けた同年6月8日制定の「団体協約令」

によれば,経営における賃金・労働諸条件,したがって,賃率額は,産業別労働組合 中央執行部と人民所有経営連合体等の間で締結される労働協約(Tarifvertrag)で定 められることになっていた。(Vgl.  Gesetz  der  Arbert  zur  Forderung und Pflege  der  Arbeitskrafte,  zur  Steigerung  der  Arbeitsproduktivitat  und  zur  weiteren  Verbesserung der materiellen und kultuellen Lage der Arbeiter und Angestellten  vom 19.  April  1950, ]I § 16 (2),  in: Gesetzblatt  der DDR  GBJ.と記す〉,

1950, Nr. 46.  Verordnung iiber  Kollektivvertrage  vom 8.  Juni 1950,  IT §710,  in: GBJ 1950,Nr. 66.労働省大臣官房労働統計調査部編『ドイツ労働法令集〔外 国労働法令集工コ』国立国会図書館調査立法考査局, 1953 117頁および128‑129 頁。〉しかし, 1950年代においては, この種の労働協約は締結されず,賃金・労働諸

(5)

労働力管理の側面から見ると,1950年代において採られた賃率制度の特徴は,

鉱山業,冶金,原料化学等の原料工業と重機械製造,鉄道などの諸部門におけ る特に賃金等級5から8の熟練労働者に対する賃率額を他の産業部門のそれと 比較して著しく重視して高く設定している点にある(後掲の図1参照〉。 賃率 制度においてこのような方向が採られた理由は, DD Rにおける経済建設のス

タートに際して,次のような事情があったためだと考えられるO

すなわち,戦前のドイツにおいては,資本主義的工業化の結果,工業は地域 的に不均衡に発展し,東ドイツ地域では,一般機械製造業や軽工業の比重は高 いが,石炭・冶金等々の原料工業や重機械製造業は,ルール地方を中心とした 西ドイツ地域に集中していた。そのため, 1949年の東西ドイツの分裂によっ DD Rの経済は,その建設のスタートにおいて,産業部門間,特に,原料 工業と金属加工業との聞に著しい不均衡が生じていた。そこで,このような部 門聞の不均衡を取り除き,国民経済の釣合のとれた計画的な発展を確保するた めに, 1950年から始まった第15カ年計画においては,特に,原料工業とそ の生産設備の生産をも行う重機械製造業の再編と建設に重点がおかれたのであ O そしてこれらの部門では,労働生産性を向上し,生産を拡大するために,

特に,熟練労働者が必要とされたのである。そこで,これらの部門に熟練労働 者の誘導をはかるとともに,既存の労働者に対して資格向上を強力に刺激する

ことが必要となったので、ある。

条件は,国の法令によって定められたのである。 (この点に関しては,次論文参照。

ラースロ・ナジ(角田豊訳)「社会主義法制度における労働協約の展開」『ジュリス 1974315日号(No.556), 98頁。〉こうして,生産労働者に関する賃率額は,

1950年代においては,法令で定められたので、ある。

(8)  この点に関しては,次書を参照した。 Autorenkollektiv,Politische  Okonomie des  Sozialismus und ihre Anendungin der DDR, Berlin 1969, S.  129‑146. (向坂逸 郎監修労働大学調査研究所訳『社会主義経済学上一一ドイツ民主共和国における理 論と実践一一』河出書房新社, 1972 93‑106頁。〉林昭F現代ドイツ企業論』ミネ ルヴァ書房, 1972 168‑194

‑129‑

(6)

50年代初めのこのような経済建設とそれに伴う労働力管理の特殊な事情を背 景にして,労働力管理の側面から,賃率制度における部門別・等級別の賃率額 が設定されることになった。

既述のように, DD Rにおいては,生産労働者に関しては, 1950年にはじめ て国家的に統一的な賃率制度が形成された。そして, 1952年から53年にかけ て,この賃率制度は全面的に改訂された。しかし,その後,若干の変更はあっ たが50年代未まで継続して適用された。

今,若干の産業部門について, 19508月の法令以前および以後と, 1952 から53年における改訂後の等級別賃率額を示すと,図1の通りである。

この図からも明らかなように, DD Rにおいては, 1950年の国家的な賃率制 度の確立と, 1952年から53年における全面的な賃率改訂によって,賃率額が全 般的に引き上げられ,労働者の生活水準の向上がはかられた。そして,それと 同時に, 52年から53年の改訂において特に顕著に示されているように,等級間

(9)  1950年代における生産労働者の賃率額に関する主な法令は,次の通りである。

Verordnung iiber die Verbesserung der  Entlohnung  der  Arbeiter und Ange‑

stellten  in  den  volkseigenen  und  ihnen  gleichgestellten  Betrieben  vom  17.  August 1950,  in: GBJ 1950,Nr. 93. 

Verordnung iiber  die ErhOhung des  Arbeitslohnes  fiir  qualifizierte  Arbeiter  in den wichtigsten Industriezweigen vom 28.  Juni 1952, in: GBJ., 1952, Nr. 84. 

Verordnung iiber  die Erhi::ihung des  Arbeitslohnes der  Arbeiter  der  volksei genen Wirtschaft  in den Lohngruppen bis vom 23.  Juli  1953,  in: GBJ.,  1953, Nr. 88. 

Verordnung iiber  die Erhmngdes Arbeitslohnes  fiir  qualifizierte  Arbeiter  der Lohngruppen V bisinbestimmten Zweigen der volkseigenen Wirtschaft  vom 17.  Dezember 1953,  in: GBJ., 1953, Nr. 135. 

BeschluB iiber  die  Aufhebung der  Ortsklassen und D vom 13.  September  1956,  in: GBJ 1956,Nr. 84. 

①から④の法令による賃率額の規定については,本文参照。⑤の命令によって,下 位の地域等級CDが廃止され,地域等級別賃率格差が縮小されるとともに,地域等 級に基づく賃率額の格差づけがそれだけ簡略化された。

(7)

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(8)

‑280‑

の賃率格差が拡大されるとともに,同じ賃金等級であっても石炭等の鉱山業,

冶金,重機械製造,原料化学などの国民経済的に重要な部門の賃率額は,他の 部門に比べて著しく高く設定された。 (しかも,この傾向は,賃金等級5から 8の熟練労働者に対する賃率額に関して特に著しい。〉このような等級間・部 門間の賃率額の格差づけによって,国家による労働力管理において必要な,こ れらの部門への熟練労働力の誘導と労働者の資格向上の促進が図られたのであ

2 「賃金ギャ ソプ」

以上のように,国家は,賃率制度を国家的・統一的に決定することによって 賃金をコγトロールし,そのコントロールを通じて,労働力の管理を行おうと しているのである。

ところで,賃率額は,単位労働時間当りの賃金額であるO これに対し,労働 者が経営で実際に受け取る賃金〈実収賃金:Effektivlohn)は, この賃率額を 基礎にして,労働者が実際に支出した労働の量(場合によっては質も〉が時間 賃金や個数賃金などの諸賃金形態を通じて評価され,決定される。

そこで,賃金が賃率制度において国家の意図した労働力管理の手段として有 効に機能するためには,労働者の実収賃金が,等級間および部門聞に関して賃 率額の関係と照応していることが必要であろう。

だが,実態をみると,労働者の実収賃金は,国家が賃率制度で予定した通り に決定されているわけではなし、。むしろ,両者が矛盾している場合すら見られ るのである。

今,若干の産業部門について,国家が定めた賃率額と労働者が実際に受け取 った実収賃金を対比して示すと表2‑A, B,  Cの通りである。

まず,部門別に等級聞の賃率額と実収賃金の関係について見ると,表2 ‑ A,  Bから次のことが明らかになる。すなわち,いずれの部門についても,実 収賃金の等級間格差は賃率額の等級間格差と必ずしも一致しておらず, しか

(9)

‑281

2. 賃率額と実収賃金の関係

A.部門別・等級別の賃率額と実収賃金〈月額〉 (19573月現在〉

一一部一一門一〜〜賃金等級|| 

械製造 l-H-1~弔問~1ニ2三円円1~~円250  405  502  601  662  644 

化学工業 1~1判ヰ1~1~1~」~1~1~ニ竺E L  228  380  550  597  620 

一般機械製造 1-H-l~I」刊す1~1-¥it-Iす|」ニ25?_」E L   347  464  538  566  食 料 一

1 2 ̲

E L  

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°41~討すす~土庁268  H内~\~ご十世1~465 

軽工業|;:う十|与~I 0~

I  ‑ ¥ s t ‑ ¥  

l~\--Ys%-

(単位:マルク〉

1.  T Sは賃率額, ELは実収賃金(ここでは,中央管理の人民所有工業におけ る生産労働者の月平均賃金)の略。

2.  この表における部門は大分類によるもので,賃率表の適用される部門と必ず しも一致せず,同じ部門の内部でいくつかの賃率表が適用されている。そこ で,ここでは,各部門を次の賃率表で代表させている。

(部門〉 (賃率表〉

重 機 械 製 造 一 一 重 機 械 製 造 I 化 学 工 業 一 一 原 料 化 学 一般機械製造一一一般機械製造 食料品工業一一マーガリン工業 業 一 一 繊 維 工 業

B.賃金等級5の賃率額ないし実収賃金を100とした場合の各賃金等級の指数

;t-~f)~~~百二与|寸?|斗~Iづ十I i~

I

寸 号 | : ; ; 日 子 化 学 工 業 民 | 引 | す す 一 片

I ‑ *

~ 1----i*-づ~1--ffi-

制 製 造

I ‑

E L  

i i ‑ I ‑ %

H日~1~1~1~103  110  食料品工業|立円バ|寸l-*1~1~1~日E L  66  95  100  116 

業 12_5_斗1--Tzl~I」市1---m-1~1~土E L  72  83  91  112  119 

‑133‑

(10)

‑282‑

c.軽工業の賃率額ないし実収賃金を100とした場合の各部門の指数

賃金等級| 部門一一一一|

重 機 械 製 造 | 11s 119 126 12s 130 147 163 69  化 学 工 業I110 114 122 132 121 133 138 33  T S  I一般機械製造| 112 116 121 123 11s 124 121 123  食 料 品 工 業 | 101 121 126 126 113 112 104 92  軽 工 業I100 100 100 100 100 100 100 100  重 機 械 製 造 | 87 114 109 115 130 138 153 140  化 学 工 業 | 79 113 118 125 124 12'6 138 135 

ELI一般機械製造| 102 125 121 131 133 121 124 123  食 料 品 工 業 | 93 103 101 108 105 101 108 101  軽 工 業I100 100 100 100 100 100 100 100 

(出所〉 A.の賃率額については,次の文献による。

H. Matthes, Das Leistungsprinziραls  Grundlage der Entlohnung in der volks eigenen  Wirtschaft, Berlin 1954, S. 201205und S. 225‑241. 

H. Knschke,Die Differenzierung der Tariflhne der Produktionsarbeiter in  der Volkswirtschaft der DDR, in: Wirtschaftswissenschaft, 1959, Heft 6, S.  907, Tab. und 5. 

A.の実収賃金については,次の文献による。

H. Arnold, H. Borchert, J. Schmidt, Okonomik der sozialistischen Industrie in  der DDR, 7. Auflage, Berlin 1961, S. 563. 

なお, BおよびCの表は, Aをもとに筆者が算定して作成した。

も,重機械製造と一般機械製造において特に顕著に見られるように,賃金等級 5以上の熟練労働者の賃金については,多くの場合,等級聞の実収賃金格差が 賃率額格差よりも縮小している。さらに,このように格差が縮小するばかりで なく,重機械製造や食料品工業の賃金等級7と8の場合にみられるように,下 位の賃金等級の実収賃金の方が上位の賃金等級のそれを上回り,賃率額の等級 間格差づけと完全に矛盾した事例も存在しているO

このように,若干の部門について見ただけで、あるが,労働者の実収賃金にお いては,国家が決定した賃率制度における等級聞の賃率額の格差づけが必ずし も十分には貫徹しておらず,部分的には,国家が予定した格差よりも縮小さ れ,さらには,それとは逆の格差すら生じていることが明らかになった。

(11)

‑283‑

部門聞の賃率額と実収賃金の関係についてみても,表2‑Cから明らかなよ うに,このような等級聞の両者の関係について認められたのと同じ状況が認め られる。

以上から明らかなように,部門間・等級聞の賃率格差づけを通じて資格向上 と必要部門への労働力の誘導をはかろうとする国家による労働力管理手段とし ての賃率制度の機能は,経営において実際に支払われる労働者の実収賃金によ って弱められ,場合によっては無効にさえされているのである。このことは,

賃率制度は国家が決定し,コγトロールで、きても,それに基づいて経営におい て決定される実収賃金に対しては,国家が完全にはコントロールで、きていない ことを意味している。換言すれば,経営レベルにおいて,国家の規制を受けな がらも相対的に独自な賃金決定が行われているということであるO このことを 端的に示すと考えられる現象が,実収賃金に占める賃率賃金 CTariflohn)  率額に相当する賃金部分〉の割合の低さである。

この実収賃金と賃率賃金のギャップ現象〈これを本稿では「賃金ギャップ」

と呼ぶことにする〉は,西ドイツをはじめ西欧諸国で一般に認められる賃金ド リフトに相当する現象である。賃金ドリフトは,労働者が経営で実際に受け取 る賃金〈率〉が団体交渉で決定される賃金(率〉を上回っている現象であるO

その存在は,超経営レベルで、行われる団体交渉による賃金決定とは独自に経営 レベルで、も賃金決定が行われていることを意味し,それが大きくなるほど団体 交渉が賃金決定に及ぼす影響力は弱くなることを示している。これと同様に,

D D  Rにおける労働者の実収賃金と賃率賃金のギャップ現象は,実収賃金決定 に対する国家のコントロール機能の低下と,これとは逆に,経営レベルの相対 的に独自な賃金決定の存在を示すものであるといえよう。

今,この「賃金ギャップ」の実態を見ると,次の通りであるO

たとえば, 195810月における若干の部門の賃金等級5の個数賃金労働者の

(10)西ドイツの賃金ドリフトについては,次論文参照。拙稿「西ドイツにおける賃金ド リフトと経営協議会(1)」,「同(2・完〉」『富大経済論集』第25巻第2号,同第3

‑135‑

表 7 . 個数賃金労働者の平均ノルマ遂行度と 200% 以上のノルマ遂行度の労働者の割合
表 9 . 社会主義工業の労働者・職員の月平均賃金

参照

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