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「アイルランド製品の全般的な使用に関する提言」

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「アイルランド製品の全般的な使用に関する提言」

著者 スウィフト ジョナサン, 田中 光夫

雑誌名 主流

号 42

ページ 72‑84

発行年 1981‑02‑20

権利 同志社大学英文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014942

(2)

7 2  

「アイルランド製品の全般的な 使用に関する提言」

ジョナサン・スウィフト 作 田 中 光 夫 訳

これはジョナサン・スウィフト(J

onathanS w i f t

, 

1 6 6 7 ‑ 1 7 4 5 )が1 7 2 0

年 に発表した,アイルランド問題に関する,彼の最初の本格的対策論ともい

うべきものである. 11ドレイピア書簡.ll,

r

控え目な提案」と並んで,彼の この方面の著作中の三つの柱のーっと言っていい.

彼はこの論文で,イングランド製のものを排除しアイルランド製品を 全般的に使用することをアイルランド人たちに説くことをねらっている.

彼はイングランド側のあくなき抑圧政策を難ずるだけでなく,同時に,そ の抑圧の対象たるアイルランド、人の無知と無自覚をきびしく指摘している.

そしてギリシア神話の挿話や,聖書の中の言葉などを引用して,その説く ところを,より明確に人々に理解させることにつとめている.アイルラン ド人たちのイングランドに対する一般的な劣等感を,いくつかの滑稽とも いえる例証によって明示しそれがいかに不合理で、愚昧な行為であるかを 語る彼の筆は,彼一流の論理の鎧をまとって,何物にもたじろがない迫力 をその静かな語り口の中に見せている.

この論文はアイルランド議会関係者,大小の地主,聖職者たち,ならび に一般の商宿主など,広い層の人々にむかつて呼びかけられたものである から,その調子は全体的にはフォーマルである.従って,これは正面攻撃 の要素が濃く,彼独得の調刺的ひらめきは時たまあらわれるにしても,こ こでは首位を占めてはいない.先に書かれた「傷つけられた女の話」は調 刺的アレゴリーともいうべきものであったが,これは内容を一瞥すれば容

(3)

易にわかるように,全くの論文の形式である.しかも多少アジ演説的なに おいのする,きわどい論文である.そのきわどさは,この論文を出版した

Edward Waters

が危うく処罰されそうになったことからも推測すること ができょう.

スウィフトの, これ以後のアイルランド関係文書は,大体この小論文を 大きな前提として,その基礎に立って書かれたものである.従って, この 論文の提起する問題点は,以後の彼の著述の各所に頻出する.これがスウ ィフトにとっていかに画期的な作品であったかがわかるしまた,彼がア イルランド問題について言うべき基本的な点は,ほとんどすべてこの論文 に集約されているのもまた事実である.あとに続く『ト、レイピア書簡』な ども,畢克彼のこの「提言」の,具体的問題への応用にすぎないのである.

いまひとつ重要な点は, この論文において彼は,単にアイルランド人に 自主独立の精神を吹き込もうとしただけではなし金銭よりも土地を重ん じた彼の経済に関する所信を披涯した点である.このことは,最後にやや さりげない形で言及された,銀行問題に関するパラグラフが明瞭に教えて くれる.スウィフトにとって金銭,つまり

moneyedi n t e r e s tは,一種の

宿敵であった.それに対して彼が懸命に擁護したのは土地,つまり

land

ed i n t e r e s tであった.

このあたりに,当時の代表的な政治家

S i rRobert  Walpole

と,彼にひきいられたホイ?グの政策とはあくまでも相容れな かったスウィフトという,農本主義的な聖職者の面白がうかがえる.

全体としてやや難解な部分の多いこの論文のこととて,必要と思われる 箇所にはできるだけ訳注をほどこすように心掛けた.なお底本としては

Harbert Da  v i s編 P r o s eW r i t i n g s   0 /   Jonathan  Sw ψ

,第

9

巻を使用し f

*  *  * 

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74 

r

アイルランド製品の全般的な使用に関する提言」

イ ン グ ラ ン ド 製 品 を 完 全 に 拒 否 し , ア イ ル ラ ン ド 製 品 を 全 般 的 に 使 用 す る こ と に つ い て の 提 言

アイルランドの人々にとって特有の幸福,摂理というべきことは,あら ゆる商品や産物がイングランドから最大限の妨害を受けていることである.

これらの商品,産物はこの国の人々が非常な勤勉さで育みかっ普及させて いるものにほかならぬ.およそ,あらゆる賢明な国民の主要な関心事であ り,その鼓舞のため英国でも多くの法令が施行されている農業を,われわ れがあまりにも見事に保護しているので,地主連はいたるところで刑罰を 科してまでも,小作人たちが土地を耕すことを絶対的に禁じている.地主 たちはイングラシド人がよくやるように,小作人たちを限られた区域内に とじこめることに甘んじることなく,そのひとつの結果としてすでに見ら れるのは,穀物の値段の暴騰と,より安い市場であるロンドンからの穀物 の輸入である.そして,民は国の宝であるので,隣国は羊毛をわれわれしに とってたなざらし商品とし彼らの独占物にすることにその全力を向けて 来,ために,アイルランドの才覚ある紳士たちは,羊を飼育する目的で最 上の土地を広範囲にわたって無人化したのである.

おそらく,われわれが過去三十年にわたって遵守してきた驚くべき法律 や習慣を並べたてるだけでも, 11ゴタムの賢者物語.111と同じほど大部な書ー 物ができるであろう.まさに,フランスとの有益な羊毛貿易のみが,過去 数年間われわれにとっての支えであり,われわれが地代を払い,市場へ行 くための金ができたのもそのおかげなのである.しかし商人たちが確言 するところでは,ニの取引は現今のフランスにおける通貨の動揺する状況 のために,勢いを挫かれてしまった.また彼らのワインのほとんどは正貨 で支払われており,わが国からは何等の商品も運び出されることがなかっ たという.

しかしながら,われわれが非常に広範に家畜の群を拡大することに意を

(5)

用いている以上, もし倉庫が羊毛であふれでしまい,フランスとの取引が 頓挫してしまった場合,その羊毛をどう始末すべきか,大いに問題にすべ

き事柄であろう.

思うにp 議会2は教会問題の調整やその特権の拡大などといったこと どもを, もっと然るべき時期が来るまで保留しておくべきであった.なぜ ならそうしたことがらはさほど急を要するとは(少くともそうした問題 に関係している人たちにとっては〉思えなかったからである.そして,さ

らに議会は,政治や宗教の面でのそうした洗練をはかるよりも,議会と委 員会の総力をあげて,すこLく国家の現状というものを考慮すべきであっ た.たとえば,もし下院が満場一致で,彼らの家族内で,この国で栽培生 産された衣類しか身につけてはならぬという決定を下すことを歪当とみな

したらどうであったか? もし彼らがそのとりきめを拡大して,ありとあ らゆる絹, ピロード,キャラコ,その他女性のきら飾りのための道具ども をことごとく締めだすというところまで進み,その決定に違反する者はお しなべてアイルランドの敵と見倣しその折紙をづけるべしと宣言したな らばどうであったか? もし彼ら下院の議員たちが,そうした決定を上院 の同意をうべく上程し上院議員の賛同と鼓舞をえて,その執行を各地方 にまで拡げたならばどうであったか? またわれわれの隣人たちが,羊毛 製の経かたびらで死者を埋葬すべきことを法で規定しているごとく,それ をわれわれの慣習にすることにきめたならばどうであったかれもし婦人 たちが家具とか, 自分たちゃ娘たちのガウンやペチコート用に,アイルラ ンドの材料を用いることに満足するならばどうであったか? 概括して,

そして以上すべてを総べる大事として,イングランド製のものはどんな些 細なものでも,なんびとといえども身につけぬということを男女すべての 意志で断固決定し皆で[アーメン」を叫ぽうではないか.

陛下におかせられでも,ご自身の誕生日(その日が近付いているが〉を,

この国の忠良なる男女の人民たちが,自分で仕立てた服をまとってお祝い

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r

アイルラγド製品の全般的な使用に関する提言」

することほど,深いお喜びの種になるものはないものと,私は望みかっ信 じるものである.4 この誤てる国民が,みずからを破滅の淵から救い出し うるほどの妙法がほかにあろうか? 男たちの意見に従うならば,婦人方 は,毛織物の衣類を身につけていても,錦で着飾ったときに劣らず縞麗に 見えるしまた,みんなが同じものを着ているのだから,その型や色を選 び,つり合いを考えるとL、う方面に知恵と想像力を働かせる道が十分ある というわけである.私は今はなきツアムの大主教5p ある愉快な見解に ついて話されるのを聞いたが,それは,イングランド製のものは,人間と 石炭以外は,全部燃やすことをとりきめた法律が制定されるまで,アイル ランドは幸福な国とはならないだろうというものであった.白状すると,

前者については,彼らは本国にいてもいっこうに差しっかえなく,また後 者についても,遠からずその必要性はなくなるであろうと思う.

ターノミンさしたることもな<,ユダヤの紫織もまた同じ.6

しかしイングランド製のコルセットの紐が耳L、ずべきものと見倣され,

訪問先や茶席での非難話の種になれば, どんなに喜ばしいことであろう.

もLダプリンの思慮の浅い庖主たちが全く良識を欠いているというので なかったならば,私がこれまで述べてきた趣旨の請願を持って,議会に提 言すべきであったろう.つまり,この国の毛織物を改善して,可能な限り そのきめをこまかく Lつつ,色を見事にするところまでもっていくことを 確約し彼らの習慣どおりに,値段や質のよさについて,貴族や小地主階 級から暴利をむさぼり,あるいはまた,過度の負担を要求するようなひと でなしはやらぬと,約束すべきであった.というのは,私の記憶では,

ンドンで,ある大喪中に,悪徳呉服屋どもと羊毛の反物屋どもが,二十四 時間のうちに布と絹の値段を二倍以上も値上りさせたものであった.7 そ して,喪が長びこうものなら, もう飢えて死ぬばかりです,おまけに,商 品たる美服は売れ残るのみです,と法廷に泣きついてくる始末であった.

(7)

7 7  

できれば,アイルランドの庖主たちがただちにこの提案を考慮し貴人 その他のお歴々に訴えるのが望ましいのであるが,何よりもまず,誰か文 章の書ける人に頼んで,それをきちんとした文章に仕上げてもらうことが 必要である.

思うに,聖職にたずさわる方々に,わざわざこの例に従うよう説得する までもあるまい.なぜなら,そうした人々の中でも,不幸にしてこの国に 生まれこの国で教育された人たちは,遠からずアイルランドのちりめんや アスロン帽子8を手に入れうる時, 大いに自分たちの幸福を自覚すること になるだろうから.またその他の人たちについては,私が指導するなどは おこがましいことこの上あるまい. 実は, 私はダプリンの現大主教93

全身わが国で生産された衣類で身を覆っているのを見たことがある.しか し

, これは内所話だが,大主教様はあたかもイングランド生まれであるか のような,すばらしいガウンに値いするお方なのである.

私は,軍隊のお歴々については,一言とても口をさしはさむ勇気を持ち 合わせてはいない.また緋色や金色のレースについては,その重要性につ いての考慮、を払ったとは言いがたい.

ここで思い出されるのはオヴィディウスに出てくるアラクネーと女神パ ラス・アテナの物語である 10 かの女神は,アラクネーという若い娘が,

つむぎと機織りの名手であることを聞き知った.二人は互の技を競い合っ た.パラスは,自分の得意芸でその娘に桔抗されていると知って怒りと嫉 妬に狂い,競争者を打ち倒し,それをグモに変え,永久に自分の内臓から 糸を吐き出して,非常に狭い範囲で機を織ることを命じた.実を言うと,

私はあのあわれなアラクネーに少年の頃から同情していて,あの残酷で不 当な判決を下した女神が心底から好きになるまでには至らなかった.とこ ろが,いまや同様のことがより厳格さを増した形で,イングランドによっ てアイルランドの上に行われているのである.というのは,われわれの内 臓乙急所のほとんどは引き出されており,われわれは紡ぐ自由も織る自由

(8)

78 

r

アイルランド製品の全般的な使用に関する提言」

も与えられてはいないからである.

聖書には,抑圧は賢人を狂気にさせる, とある11 だからその帰結を言 うならば,ある種の人が狂気でないことの理由は,彼らが賢明でなし、から である 12 しかしやがては抑圧が愚人どもにも僅かの英知を授けること が望まれるのである.

私は,この国に大きな資産を持つ或るイングランド人が,あわれなイン グランドがアイルランドからの負担にどれだけ悩まされているかというこ とで不平をこぼしたとき,大いに快を覚えたものだが,その内容というの は,われわれが税関にいるうるさいハーピーども13を無視して, 生産され た羊毛をフランスに送るとか, シャトルワース氏14その他チェシアー海岸 に住む人々が愚かにもわれわれの毛皮をなめすためのタンニン樹皮を高価 な値段でわれわれに売っているとかし、ったたぐいの,途方もないことなど であった.思い切ってそれにつけ加えるなら,ダプリンの市長には,常に この市の住人, しばしば現地人たるアイルランド、人がなるということ,た だしそれは,ほどほどの給料で代行人が就任することもあるのだが,その 場合にはイングランドは平均して年に千ポンドの損害を被ることになる.

また総督がこの国を統治するには年に三千六百ポンドもかかり,まずしい イングランドとしては全くの大損である.またアイルランドの連中は,横 柄にも自分らの地面を掘って石炭採掘を行ない,ウィックロー郡15の農民 たちが泥炭をダプリンの市場に送り,

c

ウエールズの〕モスケンや〔イン グランドの〕ホワイトヘイヴンの石炭業にとっての大きな障害の種になっ ている.当地の郵便局16の収入は, おもにわれらイングランド人の商取引 によるものだから,当然イングランドの国庫に属しているのだが,それが 為替という悲しむべきお荷物に悩まされつつロンドンに送られ,イングラ ンド王のお気に入りの人々のもとへアイルランドの歳入から工面されて送 り出される年金が同じような不利な状況のもとにおかれ,受給者の大損に なっている.ざっと,以上のようなことをつけ加えてはどうであろうか.

(9)

聖職者が年二千五百ポンドの収入をあてこんでここの主教区に送り込まれ るとき,彼は到着するやいなや,悲しいことに,それが十ないし十二パー セントも割り引きされているのを知ることになるのである.判事や歳入委 員も同じような不平の原因を抱えこんでいる.最後にもう一つ言うならば,

コターについてのパラヅド17はアイルランドで出来たのではないかという ことがしきりに取沙汰されている.しかしそれは政府の鼻先のおおっぴ らな市街で平然と歌われているのである.

こういったことは,われわれがあのあわれなイングランド王国に課して いる多くの難犠のほんの幾っかを述べたに過ぎず,私は正直な人なら誰で もそれらを解消することを望んでいると信じる.伝え聞くところでは,海 陸のルートでわれわれの最高級の麦わらを〔イングランドの〕ダンスタブ ルへ運び,われわれに何トンとなく麦わら帽子を陸揚げさせて,アイルラ ンド婦人の必要に供することを法で定める企画が進行中であるとのことだ が,これはかの勤勉な町の手工業を大いに鼓舞することになるであろう.

私は人々をその同意なしに縛りうるような法律を,良心の法廷で遵守す べきであるかどうか,聖職者たちから喜んで教えを乞いたいと思う.なぜ なら,私の知る限り,聖書もサンダーソン18もスワレズ19も, この点に関 しては全く沈黙を守っているからである.政府の権力は制限されたもので あることについて論じる場合,理性の神託も自然の大法も,市民法学者た ちの意見も,十分はっきりしているのである.

われわれアイルランド人の聞で,イングランドに由来する事物や人物,

その飽あらゆるものを好もしいと見る偏見があることは,実に驚くべきこ とである.印刷屋は商人たちに, ロンドンからきたてのすばらしい新曲を 手に入れたと語る.私にも幾分そうL、った傾向がある.そこで, ロンドン から来たしゃれ者が公園や劇場やオペラや賭博場で,言葉たく山におのれ を売り込むのを聞くと,彼の才能や業績に対して崇敬の念がよく起こって きたものだ.そう昔のことではないが,一人の人士を思い出す.彼はその

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80  Iアイルランド製品の全般的な使用に関する提言」

物腰と教養からして, リトル・ブリテン20あたりの袋小路にあるいかがわ しい出版屋の校正者と思われていたのだが,だんだん浮かび上って著述家,

いや少くとも今,三文文土の世界でときめいている連中よりも,低級なが ら多作な翻訳者とはなった21 そして, こんな資格をいいことにして彼は アイルランドにやって来た.そしてたちまち雄弁家政治家として肱立し 国全体を指導するまでになったのである.これぞ, [fがらんどうの木の中 の愛』という芝居の作者22がわれわれの国を訪れるまでになった動機であ ったと聞かされているしまた当然ながら彼がより高級な作家づらを厚か ましくもすることになった理由である.私の知るもう一人の人は,三十年 間というもの,イングランドでは標準的愚人であって,集会で彼の言葉は 一分間たりとも傾聴されず, どの政党からもまともなキリスト教徒なみの 扱いを受けなかったのだが, この国に到るや,いかにもご大層な権威を持 っているかの如く振舞い,優美さと的確さと意味を欠き,六分間以上も L ゃべり,それでいて,雄弁と英知の模範として賞賛され,仰がれるまでに なれたのである.

過去二代の君主の統治期間"の或る時期において, 王の同意によって,

通常のごとく玉座から述べられた幾つかの演説の高飛車な文体ほど,私を 恥ずかしめたものはなく,また総督たちのアイルランドに対する侮蔑的扱 いへの傾斜の度の過ぎたさまを示したものはない.良い法律を通過させる ためとはいえ,貴族たるものがああもむやみに腰を低くして恩着せがまし い言辞を弄したことは,ウエストミンスター24でなら奇妙にきこえたこと であろう.また私は,王の利害が民のそれほどにかかわっていないような 法律が,いかにそれがすぐれていたとしても, どうして通過し得ょうかと 思うのである.同様な場合に行われた演説のあとで(たしか,ウオートン 卿25の最後の演説であったと思うが), 彼が, アディソン氏26に私の意見 を聞くように言ったことがある.私の答というのが,閣下はたった一つの 段落のせいで首をお切られになったのです.その中で,閣下は女王の首切

(11)

「アイルランド製品の全般的な使用に関する提言

J

81  りの力を断言なさる結果になったものですから, というのであった.閣下 は,それは確かなことだとお認めになったが,実はその部分は,宮廷から の勅命で,無理にしゃべらされたのだと確言された.このことから確実に 言えることは,当時の大臣連は,その高い位からして,この国をあたかも アメワカにおける浮浪者どもの植民地ででもあるかのように見くだしがち であったということである.私がものわかりがL、いと期待していた何人か の高官たちにも,同じような傾向がいくらかあることがわかった. もっと も,彼らを至当に評価すれば,彼らをしてその考えを正させることはさほ ど困難ではなく,そのおかげで全国民が利益を得たと言っておかねばなら ないが, しかしそのことももはや忘れ去られている.以後文体がどのよ うになって行ったか,私は全く知らない.というのも,女主陛下の崩御の のち,演説に親しむことは絶えてないからである.

ところで,わが国の田舎の地主たちに要求したいことがある.被らは,

測り知れぬ収奪を国中の小作人たちに及ぼして,ただでさえみじめな境遇 にあえぐ人々を,フランスの農民やドイツ,ポーランドの農奴以上に悲惨 な状態におとし入れた.このままでは,富裕農民とL、う種族は,数年をい でずして消滅するに違いない.こうした紳士たちが,自分たちの土地を短 期間の賃貸しにしようといたるところで触れまわり,古い借地人をーェイ

カ一一ペニーのために犠牲にしておきながら,その一方で,主教たちが,

その収入を半分の利息で貸すこと(そのために教会の全体が一時代にして あからさまな乞食集団となりさがったのだが〉を防ごうと,全力投求して いるのを見るのは愉快である.どうしてそのようになったのかわからない が(いや,ひょっとしたらそのことは十分心得ているのかもしれないが),

奴隷どもは天性暴君になるような性質を持っているし私の上司が夜、にひ と蹴りくわせると,私は今度は召使いに六倍にして返すというようなこと になる. しかもその召使いは,正直で勤勉なものであるかもしれない.神 学者たちが確言するところでは,広範囲な抑圧ほど,天から或る国民に向

(12)

82 

r

アイルランド製品の全般的な使用に関する提言」

かつて普遍的審判を下すものはないということである.このことが,すで に一部立証ず、みではないかということを,地主閣下ご一同が考慮してごら んになる暇は十分にお持ちである.この国を旅

L

,自然の風景や住民の顔,

衣服,住居を観察するなんびとといえども, この国において,法律,宗教,

あるいは一般の人情が尊ばれているとはとうてい考え及ばないであろう.

このダプリンの町で計画されている銀行なるものについて,一言せずに はいられない27. 私はその計画案を見たこともなく,計画については少し も理解することができない.いま望むところは,人々はそれぞれ正直と慎 重さの程度に応じて配布し得るだけの麻,帽子,それにベルが十分与えら れることである.却 すでに驚くべき金額が唱えられているそうであるが,

もし他の人々がただちにこのことを耳にしたとか,あるいはそのことを復 讐心を持って聞くとすれば,私は自分自身と他の非常に少数の人たちが見 倣Lているほどには聡明な人間ではないということになる.もし思慮あ る人々が私に確言したように, この額の半分は現実のものであり,あと半 分は空想上のものであるというのが事実なら, この冗談はもっとましなも のになるだろう. もし商人たちがわが国の金を運び去り続け,金細工師が 重い銀を溶かし続けるならば, この状況ははるかによくなるであろう.

1昂;storyザthe干ViseJ1!Jen of Goathamは仮空の書物であると考えられるが,

この書について A Tale of a Tubの中に次のような言及がある.

r 1 r

ゴタムの 賢者物語, ~付録っきjJ, これは博覧強記の作で, 古代人の自負倣慢無知を毘し,

近代人の学問才智の正しき弁護のため,英仏両国において交わされている論戦の 本家本元というべきもの.この未知の著者は問題を究めて余すところなし畑 眼の読者ならば,その後この論争について書かれたものはすべて単なる繰り返 しにすぎないことを容易に看破せられるであろう. この作の抜粋が最近我社のさ る御人によって出版された。

J

(深町弘三訳, 岩波文庫47頁〉ちなみに「我社の さる御人」による抜粋とは, 当時の古代近代優劣論争で近代人の立場を取った Wi11iam Wottonの論文 Reflectionsupon Ancient and  Modern  Learning" 

(1694)を指す.

(13)

2 ここではアイルランド議会を指す. この議会もイングランドのそれと同様,上 下両院に分かれていた.

3 イングランドにおいて死者を羊毛製の経かたびらで,埋葬するという法律がい つ頃でき,いつ頃まで施行されたかは,調査してみたが不明である.アイルラソ ド においては

1 7 3 4

8

1

日以来, このような法律が施行されたという記録が,

丹'oseWほ 仇'gs第

1 3

巻 p.xxixに編者 HerbertDavisによって号閲されてい る.

陛下とはジョージ一世(在位

1 7 1 4 ‑ 2 7 )

のことで,その誕生日は

1 6 6 0

3

2 8

日である.

John Vesey 

( 1 6 3 8 ‑ 1 7 1 6 )

をさす.十八世紀のアイルランドは Churchof Eng‑

landのプロテスタンテイズムの最もさかんな時代であり Armagh,Dublin,  Tuam

, 

Cashelの4市に大主教 (archbishops)がL、た.

6 原文はラテン語.出典不明.

Queen Anneの崩御(1

7 1 4 )

をさすのか, William 

m

の崩御

( 1 7 0 2 )

をさす のか,不明である.

8 Athloneはアイルランド中央部にあり, West  Meath郡西部の首J.農産物や 羊毛製品を産出する. ちなみに Prose‑iVritings第

1 4

巻のイγデヅクスでは,

Athlone, Scotlandと誤記されている.

William  King (1

6 5 0 ‑ 1 7 2 0 ) .  

スウィフトの有力な理解者の一人であり,当時 のアイルラγド問題では,おおむねスウィアトの意見を支持した.

1 0  

~メタモブ T ジス』第 6 巻,第 5 行以下.

11 

r

伝道の書」第 7章第 7節.

1 2  

抑圧は賢人を狂気にさせる.アイルラγド人は抑圧されてはいても,狂気の状 態になっていない.ゆえに,彼らは賢人ではない, という一種の三段論法が内包

されている.

1 3  

ギリシア神話にたびたび出てくる食欲な怪烏の名. ここでは欲の皮のつつ張っ た税関吏をさす.

1 4  

:NIr. Shutleworth. 不詳. 注8でふれたインデックスにもこの名はのっていな L 、

1 5  

County of vVicklowはダブリγのすぐ南方にあって, lrish Seaに臨む郡.

1 6   OED

によればイングラγドの下院の

1 6 5 2

年の議事録にはじめて postOceと いう語が出てくる.post‑oceが正式の制度となるのは早くも

1 6 5 7

年のことであ った.

1 7  

Cotterは Corkの人で,ひとりのクエーカー教徒を強姦したかどで処刑され たという〈テンフツレ・スコット).

(14)

84 

r

アイルラγド製品の全般的な使用に関する提言」

18  Robert Sanderson  (1660‑1741)はヘンリー五世時代の英国史をあらわしたほ か, Thomas Rymerを助けて,走大な英国史史料集 Foedera (1704‑41)の編 纂に従事した.

19  Francisco Suarez (1548‑1617)はスペインのジェズイット派の神学者.

20  ロンドン市内の地名で,セγト・ボール大聖堂のすぐ北のあたりになる.ディ ヶγズの『大いなる遺産』などにもこの地名が出てくる.

21 

r

モールバラ公爵に献呈された,シーザーの注釈と考えられる

J

(原注).テシ フ。ノレ・スコットによれ

f

l :

これは ColonelBladon (1680‑1746)のことだといわ れる.

22  William  Luckyn  Grimston  (1683‑1756)のことで, その芝居のタイトルは The Lawyer's Fortune, or 1ρve in a Hollow Tree" (1705).である.彼はポ ープから boobyLord"と姉捻された.小伝が

DNB

に入っている.

23  William III (在位 1689‑1702); Queen Anne (在位1702‑14).

24  ィγグランドの議会をさす.

25  Thomas Wharton  (1648‑1715)はホィッグの政治家. アイルランド総督を務 め,しばしばスウィフトによる攻撃の的となった.

26  Joseph  Addison  (1672‑1719)は英国の文人でスウィブトの友人の一人 Sir Richard Steele  (1672‑1729)と組んで TatleηSpectatorを発行した.アイルラ

ンド総督ウオートン卿の秘書でもあった.

27  アイルランド銀行の設立計画についてはスウィフトは一貫して反対してきた.

「アイルラγド銀行末期の言葉J(The Last  Spechand Dying W ords of  the  Bank of lreland 'うなる一文があり,スウィフトの作tこ擬されてきたが,彼の作 かどうかは明らかでない.

28  この部分は金銭の利益 (moneyedinterest)にあまり信をおかず,物 (g∞ds) を重んじたスウィフトの自論である.

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