研究論文
探求型社会科による防災教育授業の開発と実践
一 高 等 学 校 地 理 「 な ぜ 自 然 災 害 は な く な ら な い の か
J
宅 島 大 尭
( 現 職 教 員 研 修 員 ・ 長 崎 県 立 長 崎 南 高 等 学 校 )
1.はじめに 1.1.問題の所在
2011年 3月 11日 に 発 生 し た 東 日 本 大 震 災 は , 学 校 現 場 に お け る 防 災 教 育 の あ り 方 や 私 た ち が 実 践 し て い る 日 々 の 授 業 に 対 し て 大 き な 問 題 を 突 き つ け た 。 杜 会 科 ( 高 等 学 校 の 地 歴 公 民 科 も 含 む ) で 「 自 然 災 害 」 や 「 防 災 」 を 取 り 扱 う 意 義 は 何 か , に つ い て 抜 本 的 な 見 直 し を せ ま ら れ た の で あ る 。 今 回 の 震 災 で は , 先 人 た ち の 言 い 伝 え や 各 地 域 で 日 ご ろ か ら 取 り 組 ま れ て き た 防 災 対 策 に つ い て は 被 害 の 軽減に大きな効果がみられた事例がある。「津波てんでんこ」や「此処より下に家 を建てるな」と刻まれた石碑,中学生らによる「釜石の奇跡」などがそれである。
社 会 科 で は こ れ ま で に い く つ か の 防 災 教 育 実 践 が 報 告 さ れ て い る 。 し か し , そ こ で 学 ん だ こ と が 自 然 災 害 そ の も の や 個 人 の 行 動 , あ る い は 事 前 の 対 策 に 対 し て 生 か さ れ た の か に つ い て は 疑 問 が 残 る 。 防 災 教 育 は 各 学 校 段 階 で 実 践 さ れ て い る が , そ の 目 標 は 社 会 科 の 授 業 の み で 達 成 で き る も の で は な い 。 様 々 な 教 科 か ら の 視 点 や 教 科 外 の 活 動 か ら 総 合 的 な 防 災 教 育 が 行 わ れ て い か な け れ ば な ら な い 。 で は , 教 科 ・ 領 域 横 断 的 な 防 災 教 育 の 一 端 を 担 う 教 科 と し て , 社 会 科 で は ど の よ う なカを子どもに育成してゆけばよいのであろうか。
本稿では,社会科におけるこれまでの防災教育授業の現状と課題を明らかにし,
その克服をめざす授業の開発および実践を目的とする。
1.
2 .
研究の方法1)これまでの防災教育授業の課題
社会科においてこれまでに実践された防災教育授業にはどのような特質があり,
その課題は何であるのかを明らかにする。
2 ) r自然災害リスク概念』の習得をめざす授業の開発と実践
社会科における防災教育授業の目標を,
r
自然災害リスク概念」の習得とする授 業の開発および実践を行い,その成果と課題について考察する。2 .
社会科防災教育授業の現状と標題2 .
1.東日本大震災以前の防災教育授業社 会 科 で は こ れ ま で に い く つ か の 防 災 教 育 に 関 す る 実 践 報 告 が あ る 。 そ れ ら は
以 下 に 示 す よ う に , 習 得 を め ざ す 知 識 や 態 度 に よ っ て 大 き く 3つ の 類 型 も し く は それらの組み合わせに分類することができる。
2 .
1.1.知職網羅主襲この立場の防災教育は, [自然災害」や「防災」に関する「事実的知識」の習得 を 目 標 と し て い る 。 授 業 に お い て は , 自 然 災 害 の 種 類 や 分 布 , 過 去 の 事 例 , 地 震 や 台 風 な ど の 自 然 現 象 が 発 生 す る メ カ ニ ズ ム , 防 災 対 策 の 現 状 な ど が , 主 に 「 ど のような」や「何か」という聞いをもとに, [事実的知識」として示される。一部 に, [なぜ」という聞いもみられるが,それはあくまで「なぜ地震が起こるのか」
の よ う に , 自 然 現 象 の メ カ ニ ズ ム を 理 解 す る こ と が 目 的 で あ る 。 こ の 立 場 に よ る 実 践 は , 学 習 指 導 要 領 に お い て , 日 本 の 自 然 環 境 に 関 す る 特 色 と 自 然 災 害 と の 関 わりについての理解が求められる中学校および高等学校に多くみられる。
例 え ば 溝 口 実 践 1)では, [生徒が災害について多くの知識をもつことは重要なこ とである」との立場から授業が行われている。ここでは, [災害についての知識を 獲 得 す る た め , 授 業 で は 災 害 を 自 然 科 学 の 側 面 か ら 詳 細 に 」 取 り 扱 う こ と に な っ ている。具体的には,
[2
年 生 の 地 理B
で,先堰,方水路としての新川ができた経 緯,遊水地としての庄内緑地公園の意義についての授業」が実践されている。同 様 に 日 原 実 践 2)に お い て も , 地 震 に 関 す る 用 語 や 発 生 の メ カ ニ ズ ム , 過 去 の 地震の教司11(rどういう地形のところで地震が大きいか」や「造成地の盛土地の弱 さ」など)について理解し, [未来の地震に備える」ための対策が示される。しか し,それらは, [大地形か安定大陸のところに転居する」や「振動を増幅させない 地盤上に転居する」といった非現実的なものや, [家具の固定J. [防災・防火・避 難訓練などを地域で行う」といった常識的なものにとどまっている。
2 .
1.2 .
態 度 育 成 主 義こ の 立 場 の 防 災 教 育 は , 防 災 に 関 す る 取 り 組 み に 協 力 し よ う と す る 態 度 や , 防 災 意 識 の 向 上 を 目 標 と す る 。 授 業 で は , 現 在 行 わ れ て い る 防 災 に 関 す る 人 々 の 取 り 組 み や 工 夫 , 努 力 に つ い て , 調 べ 活 動 を 行 っ た り , 防 災 関 連 機 関 の 職 員 の 話 を 聞いたりするなどして共感的に理解し, [自分たちにできることはないかJ. [自分 た ち の 行 動 は ど う あ る べ き か 」 を 見 出 す こ と が め ざ さ れ る 。 こ の 立 場 に よ る 実 践 は , 学 習 指 導 要 領 に お い て 「 工 夫 」 や 「 努 力
J
, [協力」についての記述が多い小 学 校 に 多 く み ら れ る へ金 子 実 践 4)では, [災害に対する科学的な理解を深めると共に,人間としての在 り 方 ・ 生 き 方 を 考 え る 実 践 が 求 め ら れ る 」 と の 立 場 か ら , 阪 神 ・ 淡 路 大 震 災 を 事 例にした授業が構成されている。このなかでは, [地域社会から地球社会に至るま でのそれぞれの社会における連帯・協力の重要性」を理解させ, [重層的な社会に 生きる多元的アイデンティティを持った地球市民の一人としての自覚」や, [社会 の一員として具体的な行動ができる態度」を育成することが目標とされる。
‑186ー
小倉実践的では,日本では自然災害が起こりやすいという事実を「自分ごと」
と し て と ら え , そ こ で 生 活 す る 一 員 と し て 「 自 分 が ど の よ う に 行 動 す べ き か 」 に ついて考えていく。それにより,
r
自然災害の防止の大切さに気付き,防災のため の 様 々 な 対 策 や 事 業 に 関 心 を も ち , 防 災 に た い す る 計 画 や 取 り 組 み に 参 加 ・ 協 力 しようとしたり,普段から自然災害に対する備えをしていこうとしたりする態度」の育成がめざされている。
2 .
1.3 .
活 動 志 向 主 義こ の 立 場 の 防 災 教 育 は , ハ ザ ー ド マ ッ プ の 作 製 や ポ ス タ ー セ ッ シ ョ ン な ど の 活 動 を 通 し て 防 災 意 識 の 向 上 を 図 ろ う と す る も の で あ る 。 こ の 立 場 の み か ら 授 業 が 行われることはなく,
r
知識網羅主義」や「態度育成主義」の授業と合わせて実施 さ れ る 。 ハ ザ ー ド マ ッ プ の 作 製 や 調 べ 活 動 な ど に よ り , 特 に 児 童 ・ 生 徒 の 生 活 固 に焦点を当て,どのようなリスクがあるのかに気づかせることが目標とされる。こ の 立 場 に よ る 実 践 は , 学 習 指 導 要 領 に お い て 地 理 的 技 能 の 習 得 が め ざ さ れ る 中 学校および高等学校に多くみられる。なお,小学校において防災教育に関わる「活 動」は,社会科以外の教科とも関連づけ,
r
総合的な学習の時間」で行われること が多いものと推察される 6)。竹 原 実 践 の で は , は じ め に 「 知 識 網 羅 主 義 」 と 同 様 に 地 震 発 生 の メ カ ニ ズ ム や 過去の事例についての学習が行われる。それを受けて,
r
自宅周辺ハザードマップ」や , 災 害 発 生 時 の 「 帰 宅 困 難 者 」 を 想 定 し た 「 帰 宅 チ ャ レ ン ジ マ ッ プ 」 の 作 成 が 行われる。しかし,実際の自然災害では専門家が作成したハザードマップでさえ,
そ の 想 定 を 超 え た 被 害 が 発 生 す る こ と も あ る 。 授 業 で 網 羅 的 に 覚 え た 事 実 的 知 識 と , 児 童 ・ 生 徒 の 日 常 的 な 感 覚 に よ っ て 作 成 さ れ た も の は , 実 践 者 で あ る 竹 原 自 身が述べているように,
r
つ く っ た マ ッ プ が ど れ だ け 役 立 つ か は 疑 問 だ ろ う が , 災 害 が 発 生 し た ら 自 宅 周 辺 は ど の よ う に な る か を 想 像 し て み る こ と は 災 害 時 の 行 動 にきっと役立つことと思う」というレベルにとどまっている。森 実 践 8)に お い て も , は じ め に 「 地 形 や 気 候 の 自 然 環 境 と 人 間 生 活 の か か わ り や そ れ ら が 形 成 さ れ た メ カ ニ ズ ム 」 に つ い て の 理 解 が め ざ さ れ る 。 そ れ ら を も と に,
r
災害・防災レポート」の発表が行われるが,その評価は「論理的に発表して いる」や「客観的なデータを用いて発表している」かを基準にして行われており,発表の内容よりも活動の方が重視される結果となっている。
2 . 2 .
東 日 本 大 震 災 以 降 の 防 災 教 育 授 業東 日 本 大 震 災 に よ り , 社 会 科 の 防 災 教 育 は 抜 本 的 な 見 直 し を せ ま ら れ た 。 各 学 校 現 場 に お い て 防 災 教 育 の 重 要 度 は 大 き く な っ た と 考 え ら れ , す で に 社 会 科 で も いくつかの実践が報告されている。
菊 池 9)は,石狩川河口域を事例とした小学校社会科の単元を開発し,
r
地 域 に お け る 先 人 が , 自 然 災 害 に 対 し て ど の よ う に 立 ち 向 か い , 克 服 し よ う と し て き た のか,認識させること」によって,
r
郷土愛を育成すること」をめざしている。また,寺 本 10)は「災害図上訓練
(DIG)Jやノ、ザードマップづくりなどを用いて「教科
プラス総合で防災教育を構想」しており,社会科における防災教育は「少なくとも,災害の発生要因の理解,防災に向けた社会のしくみを調べ,防災に携わる人々 の工夫や努力に共感すること,自分も社会の一員として防災の取組に参画する関 心や態度」を目的に設定することができるとしている。
しかし,いずれも「知識網羅主義」や「態度育成主義
J
,r
活 動 志 向 主 義 」 の 授 業 に は 変 わ り な く , 少 な く と も 社 会 科 の 防 災 教 育 授 業 に お い て は , 本 質 的 な 内 容 の改善にはいたっていない。2 . 3 .
社 会 科 防 災 教 育 捜 乗 の 標 題これまでに実践されてきた社会科の防災教育授業は,いずれも「自然災害」や
「防災」という事象を取り扱つてはいるものの,事実的知識の網羅的習得や,抽 象 的 な 防 災 意 識 の 向 上 , あ る い は 活 動 そ の も の を 目 標 と し た 授 業 に と ど ま っ て い る。それらの多くは,lEしい知識や技能,態度を身につけることにより,未来を 予測し,制御することができるという近代合理主義的な立場にもとづいていた。
これとは逆に,どのような対策を講じようともリスクはぜロにはならず,自然災 害 に よ る 被 害 は な く な ら な い と い う 視 点 か ら の 授 業 開 発 は 未 だ 本 格 検 討 さ れ て い ない。
3 . r
自然災害リスク概念』の形成をめざす防災教育捜乗の開発と実践3 .
1.習得をめざす『自然災害リスク概念』防災教育のなかで社会科が担うべき役割は,
r
どうすれば被害をなくすことがで きるのか」を考えるのではなく,r
被害はなくならない」という前提のもと,自然 災害への認識を深めていくことではないだろうか。そ こ で 本 稿 で は , 自 然 災 害 に 対 し て 現 在 , 行 わ れ て い る 様 々 な 防 災 対 策 の 課 題 に 焦 点 を 当 て , 自 然 災 害 に よ る 被 害 の 大 き さ を 「 自 然 災 害 = 自 然 現 象 の 規 模 × 社 会の災害脆弱性」とし,
r
社会の災害脆弱性」を,r
物理的要因J,r
社会的要因J
,「環境的要因J,
r
経済的要因」の4つの視点
11)からとらえることのできる「自然 災害リスク概念」の習得をめざす授業を開発する。そのためには,
r
被害を防ぐために様々な対策が行われているにもかかわらず,被 害 が 完 全 に は な く な ら な い 」 と い う 矛 盾 に つ い て 考 察 す る 過 程 が 組 み 込 ま れ た 探 求 型 授 業 に よ る 実 践 が 有 効 で あ る と 考 え ら れ る 。 こ の よ う な 授 業 を 通 し て 習 得 す る 知 識 は , リ ス ク が よ り 少 な い と 考 え ら れ る 個 人 の 行 動 や 社 会 の 政 策 の 合 理 的 選択につながるものであろう。
3 . 2 .
授 業 の 概 要本 時 は2時間構成であり,詳細は次のとおりである。
‑188
ー高 等 学 校 地 理 「 な ぜ 自 然 災 害 は な く な ら な い の か 』 学 習 指 導 案 ( 1)本 時 の 目 標
自 然 災 害 を な く す こ と が 困 難 な 理 由 に つ い て .
r
環 境 的 要 因 」 や 「 経 済 的 要 因 」 を ふ ま え「 社 会 の 災 害 脆 弱 性 」 を 観 点 、 に し て 説 明 す る こ と が で き る 。 (2)授 業 展 開 過 程 の 概 略
毘 開 教 師 の 指 示 ・ 発 問 教授学習活動 費 料 生 徒 に 習 得 さ せ た い 知 識
I ‑世界ではどのような自 T:発 問 す る ‑地震,樟波,大雨,台風,地すべり,火山,
然災害が発生するか。 P 答える 雪 な ど
‑毎年,どれくらいの人々 T 発 問 す る ① ‑世界では毎年約2億人が被災している。
が被害を受けているか。 P:答える ② ‑ 日 本 で は 平 成 元 年 以 降 , 毎 年
1 0 0
名 前 後 の死者が出ている。。 自 然 現 象 が 起 こ る 原 因 T:発 問 す る (いろいろ) は わ か っ て い る の に , な P:予 想 す る
ぜ 被 害 を な く す こ と は 難 しいのか。
‑ 同 じ 自 然 現 象 で も , 被 T:発 問 す る ③ ‑自然現象の規模が異なる。
害 に 差 が 出 る の は な ぜ P:答える ④ ‑ そ の 固 や 地 域 で 行 わ れ て い る 対 策 の 規 模 や
~.、且 T:説 明 す る 内容が異なる。
0自 然 災 害 = 自 然 現 象 の 規 模 × 杜 会 の 災 害 脆 弱 性
Oどうすれば「自然災害」 T:発 問 す る
or
自 然 現 象 の 規 模 」 も し く は 「 社 会 の 災 害を小さくできるか。 P:答える 脆弱性」を小さくする固
. r
自然現象の規模」はIJ、 T:発 問 す る 0自 然 現 象 の 規 模 や 頻 度 を 人 聞 が 制 御 す るさくできるか。 P 答える ことはできない。
. r
社 会 の 災 害 脆 弱 性 」 は T 発 問 す る ‑様々な防災対策により.r
社 会 の 災 害 脆 弱小さくできるか。 P 答える 性」の軽減が行われている。
‑ 堤 防 キ 防 潮 堤 に は 効 果 T 発 問 す る ⑤ ‑一定の効果はあるが,決壊した事例もある。
があるのか。 P 答える
‑ も っ と 強 固 な も の を 整 T 発 問 す る ⑥ ‑東京や大阪では「スーパー堤防」の整備が
備できないのか。 P 答える 行われている。
‑なぜ「スーパー堤防」 T:発 問 す る ‑莫大な建設費がかかるうえに
r l 0 0 %
安全」の 整 備 に 反 対 意 見 が あ る P:答える とは言い切れない。
のか。
or
社 会 の 災 害 脆 弱 性 」 に つ い て の ハ ー ド 面の 対 策 に は , 一 定 の 効 果 が あ る が コ ス ト や 安 全性の面で限界がある(物理的要因)。
E Oハ ー ド 面 の 対 策 以 外 の T 発 問 す る ‑ハザードマップキ避難訓練など,ソフト面
方 法 は な い か . P:答える の対策がすでに行われている。
0 な ぜ Yフ ト 面 の 対 策 が T:発 問 す る (いろいろ) 十分に機能しないのか。 P:予 想 す る
‑自分の生活固にはどん T:発 問 す る ‑知っている/知らない な危険箇所があるか。 P:答える
‑その情報はどこで入手 T:発 問 す る ‑多くの自治体がハザードマップを公開して
できるか。 P:答える いる。
‑ 自 分 が 住 ん で い る 地 域 T:発 問 す る ⑦ ‑全国的にハザードマップの認知串が低い。
の ハ ザ ー ド マ ッ プ を み た P:答える O Yフト面の対策には,行政側の情報伝達や
こ と が あ る か . 住民側の情報受取に不十分な点がある図
‑ハザードマップなどに T 発 問 す る ③ ‑ 自 然 現 象 の 規 模 や 各 々 の 家 族 構 成 な ど の 条 よ る 情 報 を 知 っ て い て も P 答える 件 が 異 な る た め , 得 ら れ る 情 報 に は 様 々 な
被 害 を 抑 え る こ と が 困 難 「想定外」がありうる。
なのはなぜか。 ⑨ ‑行政と住民との情報の共有に不十分な点が
ある。
O Y 7ト面の対策にも一定の効果はあるが』
行 政 と 住 民 と の 聞 で 情 報 の 伝 達 ・ 受 取 が 十 分 に機飽していない(社会的要因)。
。 自 然 現 象 が 発 生 す る 原 T:発 問 す る 。 人 聞 に よ る 自 然 現 象 の 規 模 や 頻 度 の 制 御 因 は わ か っ て い て , 対 策 P 答える はできず.r社 会 の 災 害 脆 弱 性 」 へ の 対 策 に も 行 わ れ て い る の に な ぜ ついても.r物 理 的 要 因 」 へ の 対 策 に は 限 界 被 害 を な く す こ と は 難 し があり.r社 会 的 要 因 」 へ の 対 策 に つ い て も
いのか。 十分に機能していないために被害が出るロ
E 0 な ぜ 発 展 途 上 国 は 自 然 T:発 問 す る ⑩ ‑先進国よりも発展途上園町方が自然災害に 災 害 に よ る 被 害 を 受 け や P 予 想 す る よる被害が大きい。
すいのか。 ‑事例 パ キ ス タ ン の 洪 水 (2010年)
‑なぜ大雨が降ったのか。 T 発 問 す る ‑地球温暖化によりそンスーンが強まったと
P 答える いう見解がある。
‑ パ キ ス タ ン は 洪 水 に 対 T 発 問 す る 0環 境 破 損 は 「 自 然 現 象 の 規 模 」 を 大 き く す す る 対 策 を と っ て い な い P 答える る要因になる。
のか。 ‑ こ れ ま で に も た び た び 洪 水 の 被 害 に 見 舞 わ れているため,対策が行われているロ
‑対策が行われているの T:発 問 す る ⑪ ‑森林の減少率が世界的にみても高いロ に , な ぜ 大 き な 被 害 が 出 P 答える ‑ 森 林 が 減 少 す る と 土 地 の 酒 養 力 が 低 下 し1
るのか。 洪水や土砂災害が発生しやすくなる固
‑なぜ森林が減少してい T:発 問 す る ‑燃料用の伐採や過放牧,宅地や農地にする るのか。 P:答える た め の 開 墾 な ど 固 一 方 で , 環 境 保 護 団 体 や
NGOなどによる植林も行われている。
‑190
ーO対 策 を し て い る の に な T:発 問 す る ⑫ 0発 展 途 上 国 の 多 く は , 環 境 対 策 に 優 先 し て ぜ森林が減少するのか。 P:答える 行 わ れ る 対 策 が 多 く , 十 分 な 資 金 分 配 や 人 材 育 成 が 行 え て い な い た め , 環 境 破 壊 に 対 し て 環境保護政策が追いついていない。
0な ぜ 発 展 途 上 国 は 自 然 T:発 問 す る 0発 展 途 上 国 で は 環 境 破 壊 が 「 自 然 現 象 の 規 災 害 に よ る 被 害 を 受 け や P:答える 模」や「社会の災害脆弱性」を増加させ,リ すいのか。 ス ク 拡 大 を ま ね い て い る ( 環 境 的 要 因 ),
@ 自 然 現 象 が 発 生 す る 原 T:発 問 す る @ ハ ー ド.yプ ト 両 面 か ら の 対 策 に は 限 界 が 因 は わ か っ て い て , 対 策 P:答える あ る う え に , 環 境 破 壊 に よ っ て 高 い リ ス ク に
も 行 わ れ て い る の に な ぜ さらされている人々が多いため,現時点では
被 害 を な く す こ と は 難 し 自 然 災 害 に よ る 被 害 を 完 全 に な く す こ と は
いのか。 難しい。
N 0な ぜ 自 然 災 害 で は 途 上 T:発 問 す る ⑬ ‑事例:ネパールの洪水・地すべり・土砂崩 国の死者数が多いのか。 P:予 想 す る れ (2000‑2011)
‑ な ぜ リ ス ク が 高 い 場 所 T:発 問 す る ⑭ (いろいろ) に住む人々がいるのか。 P:予 想 す る
‑斜面や川沿いの低地を T:発 問 す る ‑ 新 興 国 や 途 上 国 の 都 市 に 流 入 す る 人 々 の 多 避 け て 居 住 す れ ば よ い の P:答える くは貧困層であり,土砂災害を受けやすい斜
ではないか。 面地や,水害を受けやすい低地なEのリスク
が高い土地に住まざるを得ない人が多い図
‑そこに対して,リスク T:発 問 す る ‑そこはスラムなどであることが多く,行政 を 小 さ く す る た め の 政 策 P:答える サ ー ピ ス が 隅 々 ま で 行 き と ど か な い . は行われないのか。 ‑ 人 口 増 加 に 対 す る 都 市 の イ ン フ ラ 整 備 が 遅
れている。
0な ぜ 自 然 災 害 で は 低 所 T 発 問 す る 0経 済 的 な 格 差 がFスクの偏在を拡大させ』
得 国 の 死 者 者 数 が 多 い の P 答える 低 所 得 国 の な か で も 特 に 貧 困 層 が 被 害 を 受
t)>, けやすい(経済的要因)。
。 自 然 現 象 が 発 生 す る 原 T 発 問 す る 。 ハ ー ド.yフ ト 両 面 か ら の 対 策 に は 限 界 が 因 は わ か っ て い てa 対 策 P 答える あ る う え にa環 境 破 壊 や 貧 困 に よ っ て 高 い 日 も 行 わ れ て い る の に な ぜ ス ク に さ ら さ れ て い る 人 々 が 多 い た め , 現 時 被 害 を な く す こ と は 難 し 点 で は 自 然 災 害 に よ る 被 害 を 完 全 に な く す
いのか。 ことは難しい。
I資 料 】 ① グ ラ フ 世 界 の 自 然 災 害 発 生 数 と 被 災 者 数 の 推 移 (CRED(災害疫学研究センター)"Annua 1 Disaster Statistical Review 2010" .2011, Pι)② グ ラ フ 日 本 の 自 然 災 害 に よ る 死 者 数 の 推 移
( W
平 成 23 年度版防災白書~, p.21)③ 表 : ア メ リ カ に お け る ハ リ ケ ー ン の カ テ ゴ リ ー1と5の 比 較 ( 略 ) @ 図 : 日 本 と フ ィ リ ピ ン に お け る 熱 帯 低 気 圧 に よ る 死 亡 リ ス ク の 比 較 (UNISDR兵 庫 事 務 所 『 国 連 世 界 防 災 白 書 2009‑気 候 変 動 に お け る 災 害 リ ス ク と 貧 困 よ り 安 全 な 明 日 の た め の 今 日 の 投 資 要 約 と 提 言 (日本語仮駅U,p.7)⑤ 写 真 2004年新潟豪雨による堤防の決壊, 2011年 東 日 本 大 震 災 に よ る 防 潮堤 の 決 壊 ( 略 ) @ 図 : ス ー パ ー 堤 防 の 概 要 ( 江 戸 川 河 川 │ 事 務 所 サ イ ト 内 「 江 戸 川 ス ー パ ー 堤 防 J, htt p:llwww.ktr.mlit.go.jp/edogawa/project/superlsuper/index.htmlな ど ) ⑦ 表 : 岩 手 県 釜 石 市 と 宮 城 県 名 取 市 に お け る ハ ザ ー ド マ ッ プ の 認 知 率 ( 環 境 防 災 総 合 政 策 研 究 機 構 (2011) r東 北 地 方 ・ 太 平 洋 沖 地 震 , 津 波 に 関 す る ア ン ケ ー ト 調 査 分 析 速 報 J,p.9, http://www.npo‑cemi.com/works/image/2011touh oku/11 0609tsunamisurvey. p df)③ 図 : 津 波 ハ ザ ー ド マ ッ プ の 予 測 浸 水 範 囲 と 実 際 の 浸 水 範 囲
( W
平 成2 3 年度版防災白書~, p.19)⑨ 新 聞 記 事 :r訓 練 で 使 っ た の に … 海 波 に の ま れ た 拠 点 避 難 所J(YOMIURIONLINE, 2011.3.24付, http://www.yomiuri.co.jp/na tional/news/20 110324・OYT1T00651.htm)⑩ グ ラ フ : 自 然 災 害 に よ る 死 亡 者 数 と 被 災 者 数 (JICA(2006) rDATA FILE自 然 災 害 の 傾 向 と 被 害J"m onthly Jica" 2006年 11月号, pp.20・21 ) ⑪ 表 : パ キ ス タ ン の 森 林 減 少 率 と 他 国 の 比 較 (FAO Globa 1 Forest Re自ource自 A畠畠essment2005'; 2006, pp.196・201)⑫ 表 : パ キ ス タ ン の 歳 出 に 占 め る 環 境 保 護対策費の割合(パキスタン財務省, http://www.finance.gov.pk/)⑬ グ ラ フ : 困 の1人 当 た り 平 均 所 得別自然災害による死者数の割合 (f 平成 22 年度版防災白書~, http://www.bousai.go.jp/hakusho/h2 2/bousai20 1 0/html/honbun/2b̲ 4s̲1̲05. h tm)⑮写真:土砂崩れ・ )11沿 い の ス ラ ム ( カ ト マ ン ズ 近 郊 )
4 .
授業の成果と標題4 .
1.習得をめざす概念の階層化本時は,メインクェスチョン(以下,
MQ)
で あ る 「 自 然 現 象 ( 地 震 や 台 風 な ど ) が 発 生 す る 原 因 は わ か っ て い て , 対 策 も 行 わ れ て い る の に な ぜ 被 害 を な く す こ と は 難 し い の かJを 説 明 す る た め の 「 自 然 災 害 リ ス ク 概 念Jを 習 得 す る こ と を 目 的 と す る 。 こ こ で は そ の 到 達 度 を 表1
の よ う に , レ ベ ルI
からW
に わ け , 授 業 の成果について考察する。レベル
I
は,r
自 然 災 害 を 防 ぐ こ と は で き な い 」 と い っ た 内 容 の も の で あ る 。 こ れにあたる生徒の回答には,r
自然のカにかてないから」や「人間の手で止めるこ と は で き な い 」 な ど が み ら れ た 。 な お , ポ ス ト テ ス ト で は 授 業 の 成 果 を ふ ま え な い 回 答 も レ ベ ルI
とする。レベル
E
は,r
自 然 現 象 の 規 模 」 に つ い て の み か らM Q
を 説 明 し よ う と す る も の で あ る 。 こ の 説 明 で は , 同 規 模 の 自 然 現 象 に よ る 国 家 聞 や 地 域 聞 の 被 害 の 差 を 説 明 す る こ と が で き な い た め .r
社 会 の 災 害 脆 弱 性 」 を ふ ま え た レ ベ ル E およびlVよりも説明力が小さい。具体的には,
r
い つ ど こ で ど れ く ら い の 規 模 の も の が 起 こ るかわからない」といった内容のものが多くみられた。表
1
自然災害リスク概念の到達度レベJレ 自然災害リスク概念
lV 自然災害=自然現象の規模×社会の災害脆弱性(物理・社会・環境・経済的要因)
E
自然災害=自然現象の規模×社会の災害脆弱性(物理・社会的要因)E 自然災害=自然現象の規模 自然災害を防ぐことはできない
‑192‑
レベルEは,
r
社会の災害脆弱性」のうち,r
物 理 的 要 因 」 と し て の ハ ー ド 面 の 対策や,r
社 会 的 要 因jとしてのソフト面の対策の不十分さをふまえた説明である。「避難しないなど自然災害に対する意識が低い」や「対策をとってもなかなかう ま く い か な い 」 な ど が み ら れ た 。 し か し , 災 害 対 策 の 規 模 や 内 容 が な ぜ 国 家 聞 や 地域聞などで異なるのかを説明するのは困難である。
レベル IVは , 対 策 が 行 わ れ て い て も 環 境 破 壊 な ど の 「 環 境 的 要 因 」 や , 貧 困 な どの「経済的要因j が被害の拡大や偏りをまねくことを説明できるものであり,
これが本時の目標である。具体的には,
r
先 進 国 で は ハ ー ド 面 や ソ フ ト 面 の 対 策 を 行っているが, w安 全 性 』 や 『 コ ス ト 』 の 限 界 が あ り , 情 報 を う ま く 使 え て い な い た め 被 害 を う ん で し ま う 。 発 展 途 上 国 で は 環 境 保 護 よ り も 経 済 成 長 が 優 先 さ れ , 人 口 増 加 に よ り 環 境 破 壊 が 大 き く な り , 自 然 災 害 の 被 害 も 大 き く な る 」 な ど が みられた。
4 . 2 .
授 業 の 成 果授 業 は
2012
年1 1
月に筆者の勤務校において実践を行った。生徒に対しては,授 業 の 最 初 と 最 後 に
M Q
に 対 す る 自 由 記 述 の 回 答 を 求 め た 。 そ の 結 果 を 示 し た も の が 次 の 図1
である。M Q
に 対 し て 生 徒 の 既 有 知 識 に よ る 仮 説 は す べ て レ ベ ルI
からE
のいずれかであり,r
対 策 が 不 十 分 で あ る か ら 被 害 が な く な ら な い 」 と い っ た 常 識 的 な も の に と ど ま っ て い る こ と が わ か る 。 こ れ が 授 業 後 に は , す べ て レ ベ ル E お よ びW の 回 答 に な っ て い る 。 本 時 の 目 標 で あ る レ ベ ル IVには, 60%以上の 生 徒 が 到 達 し て お り , 約 75%の 生 徒 は 授 業 後 の 回 答 に レ ベ ル の 上 昇 が み ら れ た こ と か ら も , 多 く の 生 徒 に 「 自 然 災 害 リ ス ク 概 念 」 の 習 得 お よ び 深 化 が み ら れ た も の と 考 え ら れ る ( 表 2および図 2)。40
人 口授業前 ・授業後39
レベル E→lV:20人
E今lV: 1 ‑7lV: 16人 3人
E→Ill: 16人 E今Ill:
5人
21
n=61N
R J n U E J n U E J n U E J n u
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4
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4 4 4 4 4
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n=61r ‑ ‑r・ーーー ‑ ー 「
レベル
I
レベルE
レベルE しべJレ町 図 1 授業の結果授業前 授業後
図2 自然災害リスク概念の深化
表
2
自然災害リスク概念の深化の具体例生 徒 授 業 前 の 回 答 ( レ ベ ル ) 授 業 後 の 回 答 ( レ ベ ル )
自 然 は 人 聞 の 予 想 を は る か に 越 え る も の │ お 金 が た り な い 。 100%安 全 な 対 策 は 無 理 。 行 政 サ A Iで あ り , 自 然 の 中 で 生 き る 人 聞 に は 完 全 │ ー ピ ス が お い つ か な い 。 住 民 に 伝 わ ら な い 。 (m)
に 防 ぐ こ と は 不 可 能 だ か ら 。 (1 )
B
C
D
E
F
自 然 災 害 は い つ お こ る か わ か ら な い し .
I
対 策 を す る 対 象 が 多 す ぎ て 金 銭 的 に も 厳 し く , 人 々 ど の 程 度 な の か も わ か ら な い 。 だ か ら .I
の 環 境 保 護 や 自 然 災 害 に 対 す る 意 識 が 低 い 為 , 被 害 人 間 の 手 で 止 め る こ と は で き な い 。 (1) Iはなかなか減らない。また,安全性にも限界があり,予 想 以 上 の 被 害 が も た ら さ れ る 事 が 多 い 。 (N) 災 害 が い っ 起 こ る か は , 自 分 た ち で 把 握 │ コ ス ト の 関 係 で 対 策 が で き な い 所 が あ る 。 国 民 の 意
できないから。 (n) I臓が低い。 (m)
い つ 発 生 す る か わ か ら な い 場 合 が あ る 。
I
発 展 途 上 国 で は , 環 境 保 護 よ り も 開 発 が 優 先 さ れ る 予想を上回る。 (n)I
の でa 森 林 伐 採 や , 農 村 部 の PUSH要 因 で , ス ラ ム が 形 成 さ れ , 貧 困 層 が 被 害 を 受 け る な ど , 経 済 的 要 因 で の 対 策 が 難 し い 。 ま た , 自 然 が 相 手 な の で , い つ 災 害 が 発 生 す る か わ か ら ず , 予 想 を 上 回 る 規 模 になるから。 (N)警 報 が き こ え ず , 避 難 す る の に 遅 れ て し │ コ ス ト が 高 い た め 整 備 さ れ に く い 。 貧 し い 人 な ど に ま っ た 。 あ し が 不 自 由 な 人 や 老 人 が 避 難 │ 情 報 が 上 手 く 伝 わ ら な か っ た り , そ の 情 報 よ り も 被 するのに遅れている。 (m) 害 が 大 きくな る 。 発 展 途 上 国 で は 環 境 破 壊 が 原 因 で 自 然 災 害 の 被 害 も 大 き く な っ て い る が , 人 口 増 加 の た め , 環 境 破 壊 が つ づ い て し ま う 。 ま た , 人 口 増 加 の た め , 貧 し い 人 が 被 害 が 大 き い と こ ろ に 住 ん で い る。 (N)
自 然 災 害 の 被 害 を 正 確 に は 理 解 で き な い │ 先 進 国 で はハー ド 面 や ソ フ ト 面 の 対 策 を 行 っ て い からa 対 策 が 不 十 分 。 情 報 伝 達 が 遅 い 。 │ る が .r安 全 性 」 や 「 コ ス トJの 限 界 が あ り , 情 報 (m)
I
を う ま く 伝 え て い な い た め 被 害 を う ん で し ま う 。 発 展 途 上 国 で は 環 境 保 護 よ り も 経 済 成 長 が 優 先 さ れ , 人 口 増 加 に よ り 環 境 破 壊 が 大 き く な り , 自 然 災 害 の 被害も大きくなる。 (N)4 . 3 .
ポストテストの結果4 . 3 .
1.ポストテストの概要ポ ス ト テ ス ト は , 授 業 を 実 践 し た 約
2
か月後の2013
年1
月 に 実 施 し た 。 概 要 は次頁のとおりである(表 3)。 こ こ で は , 同 規 模 の 台 風 に よ る 直 撃 を 受 け た 日 本 とフィリピンにおいて,なぜ両国間では死者の数が1000
名以上も異なるのかを,「自然災害リスク概念」を用いて説明できるか否かを問うた。
‑ 194 ‑
表
3
ポ ス ト テ ス ト問 同じ規模の自然現象であっても、国によってその被害の規模は大きく異なる。次の①、
② は 、 日 本 と フ ィ リ ピ ン に お け る 同 規 模 の 台 風 の 被 害 状 況 を 示 し た も の で あ る 。 こ れ に つ い て 、 両 国 間 に は ど の よ う な 違 い が あ る た め に 被 害 の 大 き さ が 異 な る と 考 え ら れ る か、できるだけ多くの観点から答えなさい。
① 日 本 : 台 風
1 4
号( 2 0 0 5 . 8 . 2 9 )
・ 最 低 気 圧925hPa
・死者2 6
名② フ ィ リ ピ ン : 台 風
2 4
号( 2 0 1 3 . 1
1.2 7 )
・ 最 低 気 圧930hPa
・死者1 0 6 7
名4 . 3 . 2 .
結 果次 の 図
3
は ポ ス ト テ ス ト の 結 果 を 示 し た も の で あ る 。 約 半 分 の 生 徒 は 授 業 で 習 得 し た レ ベ ル W の 「 自 然 災 害 リ ス ク 概 念 」 を 用 い た 説 明 が で き て い る こ とがわかる。 2 か 月 後 で も 約 半 分 の 生 徒 は 授 業 で 習 得 し た 「 自 然 災 害 リ ス ク 概 念 」 を 用 い た 説 明 を し て い る こ と から , 本 時 の 授 業 に は 一 定 の 成 果 が あ っ たものと思われる。
3 5
人31 29 2 5
20 1 5 1 0
。 5
レベル
I
レベルE
レベルE レベルN
ま た , ポ ス ト テ ス ト で は , レ ベ ル W 図 3 ポ ス ト テ ス ト の 結 果の
4
つの要因に加え, ["都市人口率」や「地形」など,本時以外の授業で習得し た 知 識 を 用 い た 説 明 も 約10%
の生徒にみられた。4 . 3 . 3 .
課 題今回実践した授業では, ["自然災害リスク概念」の習得を目標とした。しかし,
習 得 し た 概 念 を 用 い て 自 然 災 害 を 説 明 す る こ と が で き た と し て も , 生 徒 自 身 の 防 災 意 識 や 避 難 行 動 に 変 化 が な け れ ば 意 味 が な い 。 本 稿 で は , こ の 点 に つ い て 十 分 に検証することができなかった。この点をふまえ, ["自然災害リスク概念jの 習 得 と と も に , 授 業 に よ っ て 個 人 の 意 識 や 行 動 に ど の よ う な 変 化 が 生 じ る の か に つ い て も 検 証 し , さ ら な る 授 業 改 善 を 行 わ な け れ ば な ら な い 。
5 .
おわりに本稿では,これまでの社会科防災教育授業に多くみられる, ["どうすれば被害を な く す こ と が で き る の かJを考えるのではなく, ["被害はなくならないjという前 提のもと, ["自然災害リスク概念」の習得をめざした授業の開発・実践を行った。
教 科 ・ 領 域 横 断 的 な 防 災 教 育 に お い て , 社 会 科 に で き る こ と は 限 ら れ て い る 。 そ のうち,社会科にしかできないことは概念的知識の習得によって社会認識を深め,
我 々 が 生 活 す る 社 会 を み た り , そ れ が 抱 え る 問 題 に つ い て 考 え た り す る 力 の 育 成 で は な い だ ろ う か 。 そ の よ う な 社 会 科 に お け る 学 習 が , 他 の 教 科 な ど と と も に 総
合 的 に 取 り 組 ま れ る こ と に よ っ て , よ り 有 効 な 防 災 教 育 が 可 能 と な る で あ ろ う 。
【註
1
1)溝 口 晃 之 (2011)[正しい防災意識を育成する防災教育 JW 地理学報告~,第 111 号, pp.33・38 2)日原高志 (2007)[高等学校における防災教育 JW 地理~ ,52(8),pp.23・31
3)柴 田 ら (2008)に よ る と , 一 般 に 「 小 学 校 高 学 年 生 未 満 に 対 す る 防 災 教 育 で は , 主 に 『 被 災 時 の 対 応 』 と い っ た 自 ら の 命 を 守 る た め の 学 習 が 行 わ れ て い る の に 対 し , 小 学 校 高 学 年 生 以 上 に 対 し て は , 学 年 が 上 が る に 従 っ て 『 防 災 に 関 す る 技 術
H
地 震 の 知 識H
地 域 と の 関 わ り 』 が 重 要 視 さ れ る 傾 向 J がみられる。柴 田 幸 枝 , 石 川 孝 重 , 松 原 末 佳 (2008)[ 防 災 教 育 の 推 進 を 目 的 と し た 小 学 校 高 学 年 生 を 対 象 と す る 授 業 プ ロ グ ラ ム と 教 材 の 作 成 ー 市 民 の 防 災 力 向 上 に 向 け て そ の 15ーJ
W
日 本 建 築 学 会 大 会 学 術 講 演 梗 概 集 F'I, 都市計画,建築経済・住宅問題 2008~ ,pp.249'250 4)金 子 徳 孝 (2010)[ 災 害 防 止 に 関 す る 授 業 開 発 ー 第6学年『災害から考えるわたし・地域・世 界 』 ーJW 社会系教科教育研究のアプローチ~授業実践のフロムとフォー~~ ,学事出 版,pp.173'180
5)小 倉 勝 登 (2010)
[ W
自 分 ご と 』 と し て か か わ り 方 を 考 え る 社 会 科 学 習 ‑ 5年 『 自 然 災 害 の防止』の実践からー JW 東京学芸大学教育学部附属小金井小学校研究紀要~, 32 巻,pp.61'66 6)例えば,西川 (2011)の [3.11か ら 未 来 に た く す メ ッ セ ー ジ Jは,総合的な学習の時間(全3時間)として構成されている。この実践において, [大切なことは,未来に向けてこうす べきだという考えをもたせること」であり,そのために, [未来に託す 3.11の メ ッ セ ー ジ J
として「あなたが後世の人に伝えたいこと」を, [石碑を建てる J も し く は 「 そ れ 以 外 の 方 法J で考えるという「活動」が行われる。
西 川 満 (2011) [3.11か ら 未 来 に た く す メ ッ セ ー ジ 」 歴 史 教 育 者 協 議 会 編 『 明 日 の 授 業 に使える小学校社会科 B 年生~ ,大月書盾, 2011, pp.173・182
7)竹 原 英 司 (2004)[いまこそ防災学習を!J W 地理~ ,49(11),pp.96'101
8)森 泰 三 (2011)[新学習指導要領高等学校『地理 A~ の防災に関する GIS を活用した学習 指 導 案 ESDの 視 点 整 理 型 ア プ ロ ー チ J ,防災教育チャレンジプラン(岡山一宮高校防 災 チ ャ レ ン ジ )
http・Ilwww.bosai"study.net/2010houkoku/plan.php?no=12(最終閲覧日:2015.1.12) 9)菊 地 達 夫 (2012)[ 小 学 校 社 会 科 に お け る 防 災 に 関 す る 教 材 開 発 開 拓 期 の 石 狩 川 河 口 域
の 治 水 事 業 に 着 目 し て J
W
北 期 大 学 生 涯 学 習 シ ス テ ム 学 部 研 究 紀 要1
第 四 号 , pp.141"151
10)寺 本 潔 (2012)[ 防 災 教 育 の 自 校 化 と 社 会 科 の 果 た す 役 割 「釜石の奇跡 J に 学 ぶ J
『地理学報告~,第 114 号, pp.29"37
11) ISDR (国連国際防災戦略) , Living with Risk" ,2004,pp.36"43を参考にした。
[付記] 本 稿 は , 科 学 研 究 費 助 成 事 業 ( 奨 励 研 究 . 課 題 番 号 24908054)
r
探 求 型 社 会 科 に よ る 系 統 的 な 防 災 教 育 の 構 想 と 授 業 の 開 発 ・ 実 践 」 に よ る 研 究 成 果 の 一 部 で あ る 。‑196ー