第一部 研究論文・実践報告・活動報告
留学生による「高大連携」と
「地域貢献」
─京都府立鴨沂高等学校の授業への
─京都府立鴨沂高等学校の授業への 留学生参加の試み─
留学生参加の試み─
同志社大学 日本語・日本文化教育センター 准教授
木谷真紀子
要約
筆者は、2016年11月、2017年6、7月、2018年6、12月と3年度にわたり、同志社 大学日本語・日本文化教育センターに在籍する留学生とともに、京都府立鴨沂高等学 校京都文化コースの授業に参加した。
留学生のみに可能な「高大連携」の新たな試みとして、また「地域貢献」という視 点においても効果が得られたと考えられるため、活動内容を報告し、今後の本学留学 生、本学学生の行う地域貢献、高大連携への提案としたい。
1.はじめに
筆者は2016年から継続して、京都府立鴨沂高等学校京都文化コースの授業に、同志 社大学日本語・日本文化教育センターに在籍する留学生とともに参加している。鴨沂 高校は「日本で最初の公立女学校として設立された『新英学校および女紅場』1)を前 身としていることで知られ、その女紅場では山本八重が教佃をとっている2)。現在も 同志社大学今出川キャンパスから最も近い府立高校として、本学とは非常に縁が深い 学校と言える。同校は、京都府とフランス・ラングドックルシヨン州(現在は合併し、
オクシタニ州)が「大学・研究機関や文化遺産を持つ等、京都府との共通点を多く持 つことから友好提携を締結した」3)ことを機に、同州モンペリエ市にあるジュールゲー ド国際高校と姉妹校提携した4)。ジュールゲード国際高校には第二外国語として日本 語科目が設置されており、同校の日本語を学ぶ生徒が鴨沂高校を訪問するなど、これ まで両校の間では様々な形態での交流が実施されてきた5)。
筆者は、前職で知己を得ていた同校校長、藤井直氏から、本学と京都府立鴨沂高等
学校(以下、鴨沂高校)、ジュールゲード国際高校の三学で国際交流の企画を実施で きないかという提案を受け、2016年1月、ジュールゲード国際高校の生徒が鴨沂高校 を訪問した際、藤井氏、フランスの文部科学省にあたる機関の担当者、ジュールゲー ド国際高校教員と面談を行い、意見を交換した。留学生が地域の学校を訪問し、自国 を紹介するような試みは多く行われている6)が、筆者は、鴨沂高校教員と協力し合い、
高校生にも留学生にも豊かな学びと経験を生み出す授業を目標に、現在まで三年度間 にわたって様々な形態で授業参加を行ってきている。
本稿では、文部科学省ホームページで挙げられている「大学の国際化と地域貢献」7)、 さらに「高大連携」8)の一形態として、本学のフランス人留学生が行った授業参加に ついて報告する。
2.1 2016年度、フランス人留学生の鴨沂高等学校訪問
筆者が面談を行ったのは2016年1月だが、2016年度は両校の生徒の相互訪問はなく、
鴨沂高校の京都文化コース3年生(42名)と、ジュールゲード国際高校日本語科生徒
(第2外国語選択生徒約20〜30名、他)がメールの交換をすることになった。単なるメー ルの交換だけではなく、「文化交流を通して、国際感覚やコミュニケーション能力を 磨き、両校の絆を深める」9)(京都府立鴨沂高等学校 2017)ことを目標に連続授業を 実施し、その中の一部をフランス人教員が担当することが計画された。筆者は、フラ ンスを身近に感じられ、簡単なフランス語を学べるような授業ができるフランス人教 員の紹介の依頼を受けた。
しかし筆者は、上記の内容であれば専門性が必要とされず、留学生にも授業の担当 が可能であると感じた。さらに教員ではなく、高校生から見て年齢が近い留学生だか らこそ、より大きな成果を修められることも予測できる。例えば、高校生にとっては、
日本に興味を持ち、日本語を学び、さらに日本に留学している学生と実際に交流する ことで、〈国際化〉とは何かを考える意識を芽生えさせる一助になるのではないだろ うか。また先述したように、鴨沂高校は、歴史的にも本学との関係性が強い。縁のあ る近隣の伝統校の生徒や関係者と良好な関係を構築することができれば、保護者や地 域社会にも拡大する可能性があり、地域貢献という視点からもその効果は計り知れな い。同時に、本学の留学生にとっても、学内では困難な世代の異なる日本人との交流、
そのためのプロジェクト型の学習によって、充実感、達成感を覚えられ、学びや成長 の機会とすることができると考えたのである。
このように、〈交流〉を目的とした場合、留学生の方が教員よりも双方に大きな効
第一部 研究論文・実践報告・活動報告 果をもたらす可能性が高いと考え、留学生の参加を校長に提案、了承を得ることがで
きたため、本センターに在籍する留学生が鴨沂高校の授業に参加することが決定した。
京都文化コース3年生の全7週12時間の授業内容と担当者は、表1のとおりである。
表1 京都府立鴨沂高校とジュールゲード国際高校との文化交流
回 授業内容 担当者
1 ガイダンス
(目的、姿勢、知識、概要、今後の予定などについて)
鴨沂高校京都文化コース主任・
西村大輔氏 2・3
観世流シテ方能楽師・河村晴久氏による「国際文化 交流・文化発信」に関わる講義、また河村氏と西村 教諭との対談
能楽師・河村晴久氏 西村大輔氏 4・5
フランス、モンペリエ州、ジュールゲード国際高校 の概説
文化摩擦について考えるワークショップ
ジュールゲード校教員 AET教員シネード氏 6・7 同志社大学フランス留学生との交流、
筆者の講義
本学日本語・日本文化教育センター 在籍フランス人留学生、筆者 8 ジュールゲード国際高校への「メールⅠ」送受信
「1フランスの紹介」「2日本への質問」
京都文化コース主任 西村大輔氏
9・10 ジュールゲード国際高校への「メールⅡ」送受信 同上 11・12「メールⅠ」「メールⅡ」を受けてのまとめ、提言を
作成 同上
このように、メール交換のための連続授業は多角度から〈国際交流〉について学び、
考えることができるよう構成されている。例えば能楽師の河村氏は、「英語を専門に 学習したことはな」いが、「基礎ができていれば、必要に駆られて何とかなる」こと、
海外での公演、講演活動を経て、「国際交流」と言っても個人と個人が会話しお互い への理解を深めることにその出発点があり、すなわち「自己を語る」とことが重要で あるとの考えを示した。さらに、海外の人が能楽を見るように、長い年月を経てその 国の人が継承した文化や工芸などに興味を持ち、知ろうとすることについての意義を 語り、〈国際交流とは何か〉を、生徒が考えられるように意識した内容であった10)。〈国 際化〉というと、どうしても英語学習に偏りがちな傾向があるため、生徒にとっては 重要な問題提起となったのではないだろうか。続いてのジュールゲード国際高校の日 本人教員の講義では、フランス、オクシタニ州、同校に関する基礎的な説明があった ほか、同校をはじめ京都の数校で英語教員を務めるアイルランド出身のフィリン・シ ネード氏との対談が行われた。シネード氏はフランスへの留学経験もあり、日本だけ ではなく、異文化での生活におけるいくつかのエピソードを披露した。各国で〈当た り前〉とされることはそれぞれ違い、たとえばビズ、ハグなどのボディタッチをふま
えた「その文化における挨拶の仕方にすぐ慣れること」、目を見て会話することなど の重要性が語られたのである11)。
以上の授業をふまえ、初めて実際に外国人と交流するのが筆者の担当回であり、こ れまでの学びの成果を発揮する場となるよう期待されていた。
2.2 本学フランス人留学生参加授業の内容
同志社大学日本語・日本文化教育センターは、同志社大学のすべての留学生の日本 語教育を担当し、日本語能力によって初級のⅠレベルから超上級Ⅸレベルに分け、授 業を行っている。今回は授業の目的上、参加する留学生はフランス人に限定されたが、
当該学期のフランス人留学生は、日本語能力において中初級Ⅳレベルと中上級Ⅵレベ ルであり、筆者が担当していた学生も1名のみであった。さらには来日直後で、日本 での生活にも、日本人との交流にも慣れているとは言い難い状況である。筆者が担当 していないⅣレベルの2人は自分の日本語力でできるかどうか悩んだそうで、参加を 決心するまでに時間を要した。そのため、今回の企画を説明することはもちろん、内 容などについて時間をかけて話し合い、学生が参加を決意した後も、内容のチェック や発音指導など、1ヶ月間、毎週集まって準備をした。さらにⅣレベルの「口頭表現」
の担当教員と協力し合い、学生の原稿内容や発音指導などを分担できたので、学生も、
今回の経験がプレゼンテーションや会話能力の向上につながることを実感しつつ準備 を進められたようだ。
鴨沂高校は同校の教育の特徴に「鴨沂の京まなび」を掲げ、「京都文化に関わる教 育活動を通した人間育成を目指して」いる12)。今回、フランス人留学生が参加するの は京都文化コースの「京都文化研究」のクラスであり、コースの主任(当時)・西村 大輔氏とは、〈国際交流〉への思考を共有しつつ、表1のような連続授業をふまえて どのような内容にするのがいいか、留学生の意見を反映させながら打ち合わせやメー ルでの討議を重ねた。さらに参加留学生とも話し合い、50分間×2時間の授業を表2 のように構成した。
最初の、筆者担当分「実はこれもフランス語」では、フランスを身近に感じられる よう、シュークリーム、クロワッサン、メトロやアンコールなど、日本で日常に使わ れているフランス語を紹介した。その後は留学生のスピーチの導入として、3人が9 月に来日したばかりであること、今回のためにどのように準備したかを説明し、「聞 くのではなく一緒に授業を作り上げる気持ちで臨んでほしい」と伝えた。高校生は活 発かつ好意的な反応を示し、留学生も自然と笑顔になり、雰囲気も一気に和んだ。
第一部 研究論文・実践報告・活動報告 表2 同志社大学フランス人留学生参加授業の進行表(2016年11月)
授業内容 担当
1:挨拶、「実はこれもフランス語」、学生のスピーチの説明 筆者 2:留学生スピーチ
ⅰ「フランスのイメージと実態」
ⅱ「ワインとフランス料理、フランスの地方の違い」
ⅲ「フランスの年中行事」
留学生A 留学生B 留学生C
3:フランス語入門 留学生3名
4:ラシーヌ『フェードル』の紹介と和訳朗読 フランス語での朗読
筆者 留学生3名
〜休憩〜
5:京都文化コース生徒によるショートスピーチ 京都文化コース生徒2名 6:三班に分かれてのフリートーク 留学生、生徒全員 7:各グループの代表生徒発表 京都文化コース生徒3名
8:まとめ 筆者
留学生のスピーチのテーマには、それぞれが来日してからの経験が反映された。「パ リ出身」と言うと、多くの日本人が「目を輝かせて」「おしゃれ」「ロマンチック」「素敵!」
と喜ぶが、実際はそのようなイメージとは異なることが、ⅰ「フランスのイメージと 実態」で明かされた。次のⅱ「ワインとフランス料理、フランスの地方の違い」では、
〈フランス料理〉と一口に言っても、地理的条件によって気候や特産物などが異なり、
それによってワインや料理が地域によって全く異なることがフランスの地図とともに 紹介された。またワインが大学で学問として研究対象になっていること、有名な自転 車レースに因んだ菓子「パリ・ブレスト」があるなど、ただの〈飲食物〉ではなく、〈食 文化〉としての側面を強調したスピーチであった。ⅲ「フランスの年中行事」を担当 した学生は、京都に季節の行事が多いことから着想を得たという。日本での楽しみ方 や意義と比較されていたので、高校生も似て非なる、と実感できたようだった。
続いての「フランス語入門」では、目上の方に対する時と、高校生どうしで使う言 葉の両方が紹介された。留学生が「フランスの高校生と交流するために、みなさんは こちらを練習しましょう」と呼びかけたので、高校生も一連の授業の最終的な目的が ジュールゲード国際高校の生徒との交流であることを実感できたのではないかと思わ れる。全員で発音練習をし、フランス語の発音の難しさを実感した後、アレクサンド ランを持つフランスの古典文学、ラシーヌの『フェードル』について説明した。筆者 の日本語の朗読で内容を把握したあと、留学生がフランス語で朗読。生徒たちは熱心 に聞き入り、終了後は感嘆の声があがるなど「フランス語の美しい響きに聞き入って
いた」13)。
高校生によるスピーチでは、鴨沂高校や京都文化コースについて、また文化交流へ の想いなどが、英語とフランス語で発表され、留学生は生徒がフランス語を練習して きたことをとても喜んだ。挨拶だけであったとしても、その国の言語を使うことで、
相手や相手の文化を尊重していることが伝わることを、留学生も実感できたのではな いだろうか。
2.3 2016年度11月の訪問の総括
今回訪問した留学生2名がプレースされているⅣレベルの「口頭表現」では、その 前週の講義に日本人学生が入り、1つのテーマで日本語の会話を15分ほど続けること に挑戦した直後だった。今回の3班に分かれてのフリートークでは、10名以上の日本 語を母語とする生徒の中に入り、日本語で会話をしなければならない。言わば彼女た ちの日本語能力以上のことが求められたが、ポップカルチャーについてなど予測した 以上に話が弾んだ。アメリカの大統領選挙について意見を求める班もあり、高校生の 積極的に尋ねようとする姿が印象的であった。終了後は、班の代表者がそれぞれの会 話の内容について発表、コメントを添えたので、他班を参考にどのようなことを話せ ば初対面の外国人とも円滑なコミュニケーションをとることができるか、そこから相 手を知ることにつながるか、ということを高校生も考えられたのではないかと思われる。
最後の〈まとめ〉では、留学生が感想を発表し、この日までの準備についても触れた、
繰り返すが、2名の中初級Ⅳレベルの学生にとっては、経験したことのないレベルを 要求されるものであり、さらには留学生活開始直後の時期の参加であった。無事、授 業を終えた後、「自信ができました」と話していたのが印象的だった。もちろん、毎 週準備を重ね、細部にこだわりながら取り組んだことによって、今回の結果がもたら されたということも留学生は自覚している。これからの留学生活でいかに学ぶべきか、
どのように取り組むべきか、という点について実体験を伴って考えられていれば、そ の後の学びにも大きな意味を持つだろう。
一方、高校三年生である今回の生徒たちは、卒業を意識する時期にさしかかってい る。今回の授業で、留学生に自らの学校やコース、その学びについて語ったことで、
高校生活を振り返り、総括できたのではないかと感じる。筆者は高校生に対しては、
留学生と話す時に簡単な日本語を用い、明瞭に発音、かつ速度にも配慮し、目を見て 話していたこと、元気に明るく笑顔で接していたことを挙げ、そのような〈思いやり〉
が国際交流の第一歩になると述べた。「だからこそ、今回の連続授業で学んだことと
第一部 研究論文・実践報告・活動報告 今日の出会いを、これから外国人と接する際にいかしてくれることを願っている」と
して、終了した。
3.1 2017年度、京都府立鴨沂高等学校訪問
2016年度11月にフランス人学生が参加した授業に対して、高校生から大変良好な反 応があったため、2017年度も鴨沂高校京都文化コースの授業に留学生が参加すること になった。本学からは昨年度と同じフランス人留学生が参加したが、昨秋訪問時の同 校の生徒は3月に卒業しているため、今回の高校生にとっては、初めて留学生と交流 する機会となった。
3.2 2017年度、交流の実施形態と内容
2017年度と前年度との最も大きな差異は、10月にジュールゲード国際高校の生徒の 鴨沂高校訪問が決定しており、交流内容の計画から、本学学生の参加授業が2回に増 加したことである。さらに授業外でも、「フランス・ウィーク」と題して、様々な形 態でフランスに親しむ企画が実施され、こちらにも参加した。訪問した3回の内容を 本頁と次頁の表3にまとめる。なお、留学生ABCは表1と対応している。
表3 2017年度 同志社大学フランス人留学生参加企画
回 内容 担当
1 京都文化コースの授業参加 筆者、留学生AC
ⅰ「実はこれもフランス語」 筆者
ⅱ スピーチ①「フランスの紹介」
「フランスのイメージと実態」
「ワインとフランス料理 フランスの地方の違い」
「フランスの年中行事」
留学生A 筆者 留学生C
ⅲ「フランス語入門」 留学生2名
ⅳ フリートーク① 高校生を2班に分け留学生と会話
ⅴ スピーチ②「フランスについて話したいこと」
「フランスの教育制度」
「はっきり意見を言うこと」
留学生C 留学生A
ⅵ フリートーク② 高校生を2班に分け留学生と会話
ⅶ 生徒によるショートスピーチ 高校生2名
ⅷ 留学生の感想 留学生2名
ⅸ 朗読するフランス文学、ラシーヌ『フェードル』、
サンデクジュペリ「星の王子さま」についての紹介 と和訳の朗読からフランス語での留学生の朗読
筆者 留学生2名
ⅹ まとめ 筆者
(次頁につづく)
回 内容 担当 2 京都文化コースの調理実習参加 留学生3名
3 「フランス・ウィーク参加 筆者、留学生BC
ⅰ「実はこれもフランス語」 筆者
ⅱ スピーチ①「フランスの紹介」
「フランスのイメージと実態」
「ワインとフランス料理 フランスの地方の違い」
「フランスの年中行事」
筆者 留学生B 留学生C
ⅲ「フランス語入門」 留学生2名
ⅳ スピーチ②「フランスについて話したいこと」
「テロについて」 留学生B
ⅴ 質疑応答とディスカッション 全員
1回目の授業には、2名が参加。基本的に前年度11月の内容を踏襲することにした ものの、留学開始直後とそれから7ヶ月も過ぎた時期では、日本の高校生に伝えたい 内容も変化していることが容易に想像できる。そこで「フランスを紹介するだけでは なく、フランスを深く知ることができる内容のスピーチを行うのはどうか」と提案し た。留学生ははじめこそ、高校生が関心を持って聞くか不安を抱いていたが、日本の 社会や日本人と関わる機会の中で感じたことを話すことを決意した。「フランスにつ いて話したいこと」をテーマに、「フランスの教育制度」「はっきり意見を言うこと」
という題でスピーチを行った。
前回同様、原稿をチェックし、筆者の録音から発音練習を繰り返した。「フランス の教育制度」で、ごく一部の大学以外は無試験、無償であることが語られると、三年 生という進路について考える時期にある高校生たちは、驚きを隠せない様子であった。
またフランスは医療費が無料であるのも話されたため、筆者がフランスと日本以外の 医療費の事情も紹介した。高校生は、国によって大きな違いがあることを実感できた と思われる。「はっきり意見を言うこと」については、カフェでもレストランでも、
政治や社会について議論することが日常であるフランス文化について語られ、フラン スの大統領選、日本の選挙の投票率などを比較し、「フランス文化にも日本文化にも 良いところがあるので、意見を言わないことが悪いとは言いません。でも、政治や世 界のことに関心を持ってください」と閉じられた。選挙権を持つ年齢となる生徒たち が、社会について考え、選挙に参加する意義などを考える契機になれば、と感じた。
2週間後の調理実習は、3名の留学生が参加し、七夕に因んだちらし寿司とすまし 汁を作った。フランスの高校には調理実習のような料理を作る機会はないそうで、留 学生たちは「学校で調理するなんて想像できません」と驚いていた。さらに和食を作
第一部 研究論文・実践報告・活動報告 るのは初めてとのことで初めは緊張していたが、同じ班の高校生と役割分担し、とも
に調理する中で、これまでの授業の中で最も会話が弾み、笑顔も多く見られた。先述 の留学生のスピーチのように、フランスでは食事をしながら様々なことに意見を交わ すという習慣があるからだろうか、試食の時間も、二週間前の授業内のフリートーク よりも様々な内容に会話が広がり、時間を超過するのも気づかないほどだった。文化 理解、国際交流には様々な方法があろうが、フランス人留学生がスピーチで語ったよ うに、料理は文化であり、調理を通して体感できた意義は大きい。また交流という点 でも、限られた時間の中で完成させるには、協力が欠かせず、高校生との距離も近く なったのであろう。高校生にとっても「調理という活動目的を共有しながらのコミュ ニケーションであったので、調理器具の扱い方や食材の説明、食材の性質や季節感な どについて」「自主的かつ積極的に、フランス留学生に関われていた」14)。
放課後に行われた「フランス・ウィーク」は、10月のジュールゲード国際高校の生 徒の訪問に向け、学校全体でフランスについて考え、歓迎する気持ちを持とうとの企 画であった。たとえば、サッカー部がフランスのサッカーを、自転車部がフランスの 自転車レースを、というように、それぞれ自分が関わってきたことがフランスではど のような存在であるか調べ、画用紙にまとめて廊下に掲示していた。他にも家庭科部 がマドレーヌなどフランスの菓子を作り、図書館ではフランス関連書籍がコーナーに まとめられるなど、課外活動の中で、フランスについて学ぶ機会が設けられた。その 一環として、留学生2名が参加し、スピーチとディスカッションの交流の時間を持っ た。放課後の企画であり、コースや学年を越えて参加者があったが、これまで2回の 授業で交流した京都文化コースの生徒が他コースの友達を誘って参加し、まとめ役と して活躍していた。授業同様、フランスに親しみを感じられる紹介の内容のあと、「フ ランスを知る」ために、1名が「テロについて」と題し、スピーチを行った。政治学 を専門としていることもあり、フランスでなぜテロが頻発しているのか、という視点 からフランスの移民政策について意見を述べた。高校生からは「テロを撲滅すること は可能だと思うか」「文化の受容はどうあるべきか」「今後、世界はどうなると思うか」
などの質問が出、大変意義深い時間となった。まとめとして、筆者は、留学生が今回 のテロについてのスピーチに込めた想いを説明した。
筆者が鴨沂高校での活動のためにフランス人留学生と何度も会い、話し合う中で、
祭の話になった。その際、3人が、来日約1ヶ月後の時代祭で、警備が少ないことに 大変驚き、「もし今、テロが起きたらどれぐらいの被害が出てしまうだろう、という 恐怖を覚えた」と吐露したのである。2015年のパリ同時多発テロを現地で経験してい
る留学生たちは、それが彼女たちの人生に、また日常に、どのような変化をもたらし たかを語った。京都市民は、どれほどの多くの人が集まっていても、テロの恐怖を感 じることはほとんどないだろう。今、目の前にいて共に学び、笑い合う学生が、帰国 した瞬間から、テロへの対策を考えつつ毎日を送らなければならないことに衝撃を受 けた、と高校生に伝えたのである。
担当の教諭によると、筆者が「今、目の前にいて共に学び、笑い合う学生が」と言っ た瞬間に、高校生の表情が変化したそうである。恐らく高校生も、同じ想いを共有し、
だからこそ、現在の世界中で起きている多くテロやその原因について、これまででと は違い、実感を持って、非常に真剣に考えられたのではないか、ということだった。
4.おわりに
留学生とともに高校の授業に参加する企画は、筆者にとっても初めてであり、効果 的な内容とするために、鴨沂高校の担当者、京都文化コース主任(当時)西村教諭と 何度も話し合った。西村教諭は、これまでの数々の国際交流に関する研究会への参加 経験をふまえ、国際化イコール英語を話すという方向性に陥ることのないよう、カリ キュラムを作成していた。それは〈言語を話す〉のではなく、〈自己を語る〉ことに よる相互理解、文化や伝統など長年にわたってその国で培われてきたものを大切にす ること、英語だけではなく、相手の言語を話す姿勢などを重要視した内容であった。
このカリキュラムで学んだ生徒と、それ以外の生徒との〈国際交流〉への意識の差を 数値で表すデータはないが、高校生は大変多くのことを考える契機を与えられたと考 えられる。
鴨沂高校訪問は、全企画に参加した留学生が4回、他の2名も3回に至る。3人は、
今回の体験を通し、充実感、達成感を覚えただけではなく、〈日本の高校生に何を伝 えたいか〉ということに真伨に取り組んだ。1度で終わらなかったことも、貴重な経 験となった理由だろう。
留学生には、帰国前に今回の活動を振り返るためのシート15)の記入を依頼し、1名 は帰国前、他は帰国後にメールで送られてきた。「2回のそれぞれの発表の感想」、「フ リートークと調理実習の感想」、「鴨沂高校訪問が留学生活においてどのような存在 か」、「今後このような交流の授業をする場合はどのように構成するとよくなると思う か」、の4問である。そのシートによると、1回目の発表については「準備に時間が かかったが、みなさんがよく聞いてくれて有難かった」「高校生のみなさんがとても
第一部 研究論文・実践報告・活動報告 歓迎してくれ、日本語を話すことに慣れていなかった私のスピーチを真剣に聞いてく
れて、嬉しかった」との回答だった。授業後に担当の先生からいただいた高校生の授 業についての感想を読み「日本人の考え方を知ることができたように感じた」と答え た。2回目の授業は、社会制度などについて話したため、内容も高度で「いろいろ調 べ」なくてはならなかったからこそ、全員が無事終えたことに1回目よりも手応えを 感じていた。しかし、高校生からの質問やコメントなどを期待していたようで、「テー マについてもう少し話したかった」としている。全ての訪問を振り返っての感想には、
「将来、教師になりたいので、非常にいい経験になった」、「帰国後も、京都について、
鴨沂高校のみなさんについて思い出すことがあり、懐かしい気持ちがします」とし、
全員が「いつかみなさんと再会できることを願っています」とまとめた。留学生活の 中でも重要な経験になったことを感じさせられた。
2018年度は、3月に鴨沂高校の生徒がジュールゲード国際高校を訪問するため、フ ランス人学生との交流だけではなく、さらに大きく異文化交流を目標としたカリキュ ラムが作成された。3度目の依頼を受けた筆者も、これまでとは異なる視点での内容 を企画、実施した。全カリキュラムの内容や成果は年度末に発行される冊子に掲載さ れるため、本稿を執筆時点では明らかではなく別稿に譲らなくてはならないが、先方 の生徒にも、本学留学生にも大きな学びがあったと確信している。
本学には2018年5月現在、91ヶ国1429人の留学生が学んでいる16)。彼らが学外で多 くの方々と交流することによる地域貢献、高大連携、また留学生自身にとっての学び の効果には計り知れない可能性がある。今回の活動やその意義を発表することで、よ り多くの交流の機会を持つことができるよう試みたい。
謝辞
本報告の執筆に際して、京都府立鴨沂高等学校の藤井直校長、京都文化コース主任
(当時)の西村大輔教諭には多大なご協力をいただきました。記して深謝します。
また、観世流シテ方能楽師・河村晴久氏、フィリン・シネード氏にも、公表をご快 諾いただき、有難うございました。
注
1) 「歴史と環境」「京都府立鴨沂高校全日制ホームページ」http://www.kyoto-be.ne.jp/
ohki-hs/mt/school/history/(2018年12月30日取得)
2) 同志社大学のホームページ「新島八重と同志社」における年表「八重のあゆみ」には1872 年から「女紅場(現在の京都府立鴨沂高等学校)の権舎長并機織教導試補となる。(1875 年11月まで)」と記されている。
「八重のあゆみ(年表)」「同志社大学:新島八重と同志社ホームページ」https://www.
doshisha.ac.jp/yae/about/chronology.html(2018年12月30日取得)
3) 京都府のホームページによると、姉妹州としての提携は2015年6月10日に締結された。
「京都府の友好提携州省:フランス共和国オクシタニ州」「京都府ホームページ」http://
www.pref.kyoto.jp/kokusai/okusitani.html(2018年12月30日取得)
4) 鴨沂高校とジュールゲード国際高校の姉妹校提携は鴨沂高校のホームページに掲載さ れている。
「国際文化交流」「京都府立鴨沂高校全日制ホームページ」http://www.kyoto-be.ne.jp/
ohki-hs/mt/learning/global/(2018年12月30日取得)
5) ジュールゲード国際高校との交流も鴨沂高校ホームページに掲載されている。
「トピックス」「京都府立鴨沂高校全日制ホームページ」http://www.kyoto-be.ne.jp/
ohki-hs/mt/school̲life/topic/index̲2.html(2018年12月30日取得)
6) 文部省の奨学留学生である日本語・日本文化研修留学生の連絡会議などでは、学校訪問 の事例が多く紹介されている。2018年11月の同会議で発表した全ての大学が地域の学 校を訪問した事例について述べられていた。
7) 「文部科学省白書 2008 第1部 教育政策の総合的推進 第2章大学の国際化と地域 貢献」「文部科学省ホームページ」http://www.mext.go.jp/b̲menu/hakusho/html/
hpaa200901/1283098̲004̲01.pdf(2018年12月30日取得)
8) 「高等学校と大学との接続における一人一人の能力を伸ばすための連携(高大連携)の 在り方について」「文部科学省ホームページ」http://www.mext.go.jp/b̲menu/shingi/
chousa/koutou/020-17/houkoku/06040408/001/004.htm(2018年12月30日取得)
9) 「京都文化の発信」(後半)『ジュールゲード国際高校(姉妹提携校)との文化交流』につい て (1)「目的」(京都府立鴨沂高等学校『平成28年度 鴨沂の京まなび』平成29・3)108 頁
10) 「ジュールゲード国際高校との交流に向けた能楽師河村晴久氏による講義・対談」(前掲
『平成28年度 鴨沂の京まなび』)109頁
11) ジュールゲード国際高校との交流に向けた同校日本語科教員による講義・ワーク ショップ」(前掲『平成28年度 鴨沂の京まなび』)110〜111頁
第一部 研究論文・実践報告・活動報告 12) 「京都文化科」「京都府立鴨沂高校全日制ホームページ」http://www.kyoto-be.ne.jp/
ohki-hs/mt/learning/kculture/(2018年12月30日取得)
13) 「同志社大学木谷真紀子氏による講義・同志社大学フランス留学生との交流」(前掲『平 成28年度 鴨沂の京まなび』)114頁
14) 「同志社大学木谷真紀子氏による講義・同志社大学フランス留学生との交流Ⅱ」(7月)
〜同志社大学フランス留学生との和食調理実習を通じた交流〜(『平成29年度 鴨沂の 京まなび』平成30.3)130頁
15) 3人の学生には本実践報告執筆のためのアンケートであり、また今後よりよい企画に するために忌憚な意見を求めていることを告げた。引用に際し、日本語や漢字の誤りが ある場合のみ筆者が訂正した。
16) 「同志社大学外国人留学生在籍者数」「同志社大学ホームページ」https://intad.doshisha.
ac.jp/statistics/statistics.html(2018年12月30日取得)