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「理 解 」 研 究 の方法 論 的考 察

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(1)

マ ー ケ テ ィ ン グ に お け る

「 理 解 」 研 究 の方法 論 的考 察

武 井 寿

1.は じ め に

わ れ わ れ は こ れ ま で 経 営 体 の マ ー ケ テ ィ ン グ 諸 手 段 に よ る 市 場 へ の 働 きか け と消 費 者 行 動 を 中 心 と して,現 代 マ ー ケ テ ィ ン グ ・コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 基 礎 齢 と理論 に つ い て擦 して き露.そ れ1こよ り,っ ぎの よ うな近 年 の理 論 上 な らび に実 践 上 の特 色 が 明 らか とな っ た。(1)消費 者 の 態 度 変容 を惹 起 す るた め の コ ミュニ ケ ー シ ョ ンか ら対 話 型 の マー ケ テ ィ ング ・ダ イ ア ロ グへ の 転 換,(2)情 報 処 理 型 消 費 者 行 動 モ デ ル か ら意 味 創 造 型 モ デ ルへ の移 行,(3)変 数 分 析 型 か らホ リス テ ィ ッ クな総 合 型 へ の マ ー ケ テ ィ ング方 法 論 の 転 換 。 消 費 者 行 動 研 究 に お い て は,と りわ1ナMB.H。lbr。 。kら を 中 心 と し た 麟 が

1)拙 『現 代 マ ー ケ テ ィ ン グ ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 』 白 桃 書 房

,昭 和63年;拙 稿 「マ ー ケ テ ィ ン グ に お け る 「消 費 者 研 究 」 の 新 潮 流 」 大 分 大 学 経 済 論 集 ,第 40巻 第3号,1988年9月;拙 稿 「マ ー ケ テ ィ ン グ 研 究 に お け る 知 識 生 成 の 方 法 一 一 解 釈 主 義 の 台 頭 」 大 分 大 学 経 済 論 集

,第40巻 第6号,1989年2月

2)ElizabethC.HirschmanandMorrisB .Holbrook,"HedonicConsumption EmergingConcepts,MethodsandPropositions ,"Journalo}'Marketing, Summer1.982,pp.92‑‑101;M.B.HolbrookandE .C.Hirschman,"TheEx‑

55

(2)

エ モ ー シ ョ ン(emotion)に 注 目す る こ と に よ っ て 新 し い 理 論 パ ラ ダ イ ム を 形 成 し つ つ あ る。 これ は 消 費 者 の 経 験(体 験)の 主 観 的 側 面 を探 究 す る こ とに よ っ て,消 費 行 為 の 価 値(value)や 意 味(meaning)を 消 費 者 の 内 面 に即 し て 認 識 す る こ と を狙 い と して い る 。」.A.Howardは,こ う した 研 究 を 未 成 熟

ヨ 

で は あ る が 発 達 が 期 待 で き る マ ー ケ テ ィ ン グ 分 野 と位 置 づ け た 。 消 費 の 意 味 論(semantics),ホ リス テ ィ ッ ク ・ア プ ロ ー チ(holisticapproach)な どの 発 展 は,マ ー ケ テ ィ ン グ 方 法 論 の 革 新 を 引 き起 こ しyマ ー ケ テ ィ ン グ現 象 を 研 究 者 の 認 識 との 関 連 に お い て 捉 え,構 成 主 義 的 に 把 握 す る学 問 的 立 場 を ク ロ ー ズ ア ッ プ さ せ た 。 近 年 は,実 証 主 義 に と らわ れ ず,現 象 学 的 立 場 か ら解 釈 主 義(interpretivism)に よ っ て 研 究 を試 み る学 派 が 有 力 とな っ て き た 。 既 述 の よ う £ 当 該 学 派 は社 会 構 成 的 か つ ホ リス テ ィ ッ ク に現 実 と接 し,

≪Verstehen"に 基 づ く 「理 解 」を尊 重 し

,個 性 記 述 的 な 知 識 を 生 成 す る特 色 が あ る 。 これ は,研 究 系 譜 的 に は,19世 紀 後 半 か ら20世 紀 初 頭 に か け て のW Dilthey,H.Rickert,M.Weberら の ドイ ツ 観 念 論 の 影 響 を 強 く う け て お

perientialAspectsofConsumption:ConsumerFantasies,Feelings,and Fun,"JournalofConsumerResearch,September1982,pp.132‑140;Morris B.Holbrook,"EmotionintheConsumptionExperience:TowardaNew ModeloftheHumanConsumer,"inRebertA.Peterson,WayneD.Royer, andWilliamR.Wilson,TheRoleofAffectinConsumerBehavior,Lexin‑

gtonBooks,198fi,pp.17‑52;ElizabethC.HirschmanandMorrisB.Hol‑

brook,"ExpandingOntologyandMethodologyofResearchontheCon‑

sumptionExperience,"inDavidBrinbergandRichardJ・Lutz(eds・),」P醐 ρθ6‑

tivesonル7ethodologyinConsumerResearch,Springer‑Verlagsl986,pp.213‑

251;MorrisB.Holbrook,"WhatisConsumerResearch?"Journalof ConsumerResearch,June1987,pp.128‑132.

3)JohnA.Howard,ConsumerBehaviorinMarketingStrategy,Prentice‑

Hall,Inc.,1989.

4)拙 稿 「マ ー ケ テ ィ ン グ 研 究 に お け る 知 識 生 成 の 方 法 解 釈 主 義 の 台 頭 」

大 分 大 学 経 済 論 集,第40巻 第6号,1989年2月 。

56国 際 経 営 論 集No.11990

(3)

り・また・A・Schutzの 影 響 の も とに発 展 した ア メ リカの 職 社 会 学

,エ ス ノ メ ソ ドロ ジー な どに関 連 す る。

さて,(1)対 象 の存 在 の 理 由 を問 わ な い,② 意 味 や価 値 を導 入 しな けれ ば な らな い対

5)は除 外 す る・(3)研究 の成 果 は襯 可 能 で あ る,と い う近 代 科 学 の 方

法 的規 範 か らみ れ ば・ 以 上 の ご とき研 究 は,研 究 者 と対 象 の縦 な関 係 の も とに成 立 す る と考 え られ る・ これ は 「説 明 」 で はな く 「理 解 」 とい う解 釈 蟻 媚 標 に象 徴 的 に表 現 され る.ニ ュー トン力学 を理 想 と した変 数 分 析 的 ア プ ロー チ の 揺 らぎが さ まざ まな学 問 領域 で 自覚 され る につ れ て

,価 値 観 や 質 の違 い を記述 的 に明 らか にす る試 み 力頻 著 とな っ て きた

.こ う した学 問 的 動 向 は,今 日,民 俗 学,文 化人 類 学 ,精 神 分 析 学 な ど,本 来 こ う した方 法 論 的 特 色 を もつ領 域 の み な らず,工 学 ,医 学,経 営 学 な ど さ ま ざ まな分 野 に浸 透 し・ 「理 鯛 の顛 性 が 指摘 され てい る.か か る 「理 解 」の 本 質 を探 究 す る た め に は理 解 社 会 学 の吟 味 が不 可 欠 で あ り,と りわ けW.Diltheyの 研 究 の 一 層 の分 析 が 必 要 とい え るo"Verstehen"の 起 源 は神 学 のrrHermeneuti

cs"

に あ り・ 樽 臆 味 内 容 を 暗 示 す る が

・ 本 稿 で はW・6uthwaite),M . Hammersleyの 研 究 を中心 と して,19世 紀 後 半 か ら20世 紀 初 頭 にか けて の 学 問 的状 況 を背景 にDiltheyの 所 説 の理 論 的意 義 な らび に そ の 内 容 の 一 端 を明 らか に した い。

「理 解 」 に よる個 性 記 述 的 な知 識 の生 成 の た め に は事 例 の記 述 と分 析 の ケ ー ス ・ス タ デ ィ(case

studyresearch)が 有 効 で あ る と考 え られ る。人 間 存 在 の異 質 性 を前 提 とす る場 合 に は,一 般 法則 か らの 演 繹 的 説 明 は十 分 で はな

く・ 顯 性 その もの を・ 歴 史 性 や 背 景 要 因 を包 摂 して個 別 に記 述 し

,受 容 し,

5)清 水 博 ・餌 取 章 男 『生 命 に 情 報 を よ む 』 三 田 出 版 会

,昭 和61年 fi)WilliamQuthwaite ,UnderstandingSocialLife,GeorgeAllenandUnwin

Ltd.,1986.

7)MartyrsHammersley ,TheDilemmaofQualitativeMethod ,Routledge, 1989.

マ ー ケ テ ィ ン グ に お け る 「理 解 」研 究 の 方 法 論 的 考 察57

(4)

理 解 す る こ とが 必 要 で あ る。 事 例 研 究 法 は これ まで も経 営 学 の教 育 シ ス テム と して わ が 国 に紹 介 され て い るが,学 問 的 知識 の た めの リサ ー チ ・メ ソ ッ ド と して の 体 系 は 明 らか で は な い。 本 稿 で は 当 該 領 域 の 代 表 的 文 献 で あ る RKY盆 に基 づ き事例 研 究 法 の特 色 と手 順 を説 明 した い.事 例 を丹 念 に言己述

し研 究 を進 め るた め に は,研 究 者 が 現 象 に進 ん で参 与 す る こ とが 必 要 で あ る。

既 述 の よ う1窪,か か る 目 的 の た め に は 文 イヒ願 学 の 参 与 的 観 察(part稔lpant observation)が 有 効 で あ る が,本 稿 で はH.Schwartz=J.Jacobsの 所 説 に 基

づ き 当 該 手 法 に つ い て 論 述 し た い 。

さ て,「 理 解 」研 究 の 導 入 に よ っ て マ ー ケ テ ィ ン グ 方 法 論 を拡 張 し,一 層 の 高 度 化 を は か る た め に は,マ ー ケ テ ィ ン グ現 象 に 対 す る研 究 者 の 認 識 の 深 化 (deepen)と,方 法 の 改 善 が 必 要 で あ る と考 え られ る 。 「理 解 」の 視 点 に 関 し

11}

て は経 営 学 者 のE.H.Scheinの 鋭 い 指 摘 が あ り,そ れ に よれ ば,方 法 の 選 択 は マ ー ケ テ ィ ン グ研 究 の 基 本 的 方 向 性 を決 定 す る とい え る 。本 稿 で は,D.T.

Seym。 温 こ基 づ きマ ー ケ テ ィ ン グ ・リサ ー チ に お け る定 性 手 法 の 現 状 を探 り,「 理 解 」 研 究 の 課 題 に っ い て 考 察 した い 。

マ ー ケ テ ィ ン グ は ビ ジ ネ ス 活 動 の 理 念 で あ り手 法 で あ る と同 時 に,ヒ ュ ー マ ン ・サ イ エ ン ス(humanscience)の 視 点 か ら み れ ば 人 間 行 動 の 一 部 と し て の 消 費 行 動 を 研 究 す る学 問 で あ る。 人 間 と し て の 消 費 者 の 行 動 に関 す る知 識

8)RobertK.Yin,CaseStudyResearch,SagePublications,Inc.,1989.

9)拙 稿 「マ ー ケ テ ィ ン グ に お け る 「消 費 者 研 究 」 の 新 潮 流 」 大 分 大 学 経 済 論 集,

第40巻 第3号,1988年9月

10)HowardSchwartzandJerryJacobs,QualitativeSociology,TheFree Press,1979.

11)EdgarH.Schein,QrganizationalCultureandLeadership・J・ssey‑Basslnc.,

1985(清 水 紀 彦/浜 田 幸 雄 訳 『組 織 文 化 と リ ー ダ ー シ ッ プ 』 ダ イ ヤ モ ン ド 社,平 成1年 。)

12)DanielT.Seymour,MarketingResearch,ProbusPublishingCompany, 1988.

58国 際 経 営 論 集No.ll990

(5)

を豊 か に す るた め に は,学 問 と して の方 法 論 が不 可 欠 で あ り

,研 究 者 の経 験 (体験)と 理 論 の成 熟 化 が必 要 で あ る と考 え られ る。 本 稿 で は以 上 の 基 本 的 視 点 の も とにマ ー ケ テ ィ ング に お け る 「理 解 」研 究 の 方 法 と課 題 につ い て論

じた い。

2.「 理 解 」 研 究 の 展 開

(1)「 理 解 」 研 究 の 潴相

「理 解 」 とは一般 に記号 の 意 味 を把 握 す る こ とで あ るが,哲 学 的 には精 神 科 学 の基 本 的 な 方法 を称 す る場 合 が あ り,こ れ に よれ ば 「生 の哲 学 」 と関 連 す る。 す なわ ち,絶 え ず創 造 して行 く生 き生 き と した 生,ま た知 情 意 を合 わ せ 持 った具 体 的 な生 を,生 その もの に即 した非 合 理 な 方法 に よっ て捉 え よ う とす る現 代 哲 学 の一 潮 流 が あ る。例 え ば,W.Diltheyは 生 の客 観 態 で あ る表 現 に湖 し・これ を媒 介 と して生 を よ り客 観 的 に把 握 しよ う と試 み器.「理 解 」

は現 象 につ い ての認 識 と関連 す るた め,主 体 の側 の 了解 や納 得 を意 味 す る こ とが 多 い。 しか し,「 理 解 」を対 象 の意 識 や精 神 に沿 って,す な わ ち対 象 の 立 場 にた っ て把 握 す る こ とを試 み れ ば,新 た な解 釈 が生 ず る可 能 性 が あ る。 こ

う した視 点 で の研 究 が近 年 さ まざ まな学 問 の な か で進 行 して きた。

民 俗 学 は記 録 や事 例 の積 み重 ね を重 要 視 し,帰 納 法 や 比 較 法 に よ っ て現 象 の オ リジ ンを辿 る こ と を行 う。 山折 哲 雄 は漂 泊 者 を主題 と した著 作 の な か で2)

, 柳 田 国男 や 折 口信 夫 の研 究 を引 用 しなが ら,偉 大 な業 績 が彼 らの 旅 の な か に

あ っ て もの を考 え,民 俗 や信 仰 の姿 につ いて 反 衡 す る姿 勢 か ら生 まれ た こ と を指 摘 した 。 そ して,「 調 査 」や 「研 究 」 の名 をか りて,研 究 者 が 「民俗 」や

「宗 教 」 に客 観 的 に接 し よ う とす る と き,墓 穴 を掘 る結 果 とな る こ と を厳 し

1>山 崎 正 一 ・市 川 浩(編)『 現 代 哲 学 事 典 』 講 談 社

,昭 和45年 2)柳 田 國 男 『郷 土 生 活 の 研 究 』 筑 摩 書 房 ,昭 和42年 。

マ   ケ テ ィ ン グに お け る「理 解 」研 究 の 方 法 論 的 考 察59

(6)

く論 じた 。 また 対 象 を記 録 し,分 析 す る態 度 だ けで は民 俗 学 と して の 本 当 の 認 識 や...が育 た な い こ と を指 胤 建.研 究 者 が 現 象 の な か に 没 入 し洪 感 的態 度 を もち なが ら 自然 なか た ちで そ の世 界 を受 容 し,生 命 を感 じ とる姿勢 は現 象 学 の 「理 解 」 の あ り方 を示 唆 して お り興 味 深 い。

対 象 の あ るが ま まの記 述 と,研 究 者 の解 釈 を重 視 す る学 問 が 文 化 人 類 学 で あ る。原 ひ ろ子 はヘ ヤー ・イ ンデ ィア ンの研 究 の な か で,フ ィー ル ド ・ワー

4}

クに よっ て,実 態 を記 述 し,解 釈 と理 解 を示 す 方 法 を明 らか に した 。 フ ィー ル ド ・ワー ク は,人 類 社 会 の文 化 の 多様 性 を認 識 す る手 段 で あ り,異 な る文 化 を もった社 会 に0定 期 間 住 み込 み,そ こに生 き る人 々 につ い て研 究 す る方 法 で あ5).文 化 人 類 学 で は記 録 の資 料 的価 値 に重 点 が 置 か れ る傾 向 が あ るが, フ ィー ル ド ・ワ0ク の具 体 的 方 式 は研 究 者 の 判 断 に まか され る。 原 は,調 査 者 が は じ めか ら聞 き出 した い と思 っ て い た こ とだ け を聞 い て い た の で は不 十 分 で あ り,相 手 の 生 活 の 自然 な流 れ の な か で会 話 に耳 を傾 け,人 間 関 係 や, 動 作 や 表 情 に注 目す る こ とに よ って,相 手 の 文 化 の 論 理 の なか で 重 要 な こ と

6)

を探 る こ とが必 要 で あ る と指 摘 した。

人 間 の 精神 的 苦 悩 を通 じて相 手 の心 の深 層 を理 解 す る研 究 が精 神 分 析 学 や 臨 床 心 理 学 に お い て行 わ れ て い る。河 合 隼 雄 は,自 我 の 存 り方 を基 本 とした 西 洋 近 代 の分 析 的 方 法論 とは異 な る「内 か ら」の理 解 の方 法 論 につ い て,C.G.

Jungや,東 洋 的思 想 を引 用 しなが ら論 じた 。そ して,来 談 した人 を客 観 的 「対 象 」 として見 るの で はな く,自 と他 との境 界 を取 り去 っ て接 す る よ うにす る

7)

と,患 者 の 自己 治癒 の 力 が 活1生化 され る こ と を明 らか に した。 また,河 合 は, 理 解 の 本 質 は人 間 存 在 の異 質 性 を前 提 と した 「関係 へ の意 志 」 に あ る と指 摘

3)山 折 哲 雄 乞 食 の 精 神 誌 』 弘 文 堂,昭 和62年 。

4)原 ひ ろ 子 「ヘ ヤ ー ・ イ ン デ ィ ア ン と そ の 世 界 』 平 凡 社,平 成1年 5)同 書,13頁

6)同 書,68頁

7)河 合 隼 雄1宗 教 と科 学 の 接 点 』 岩 波 書 店,昭 和61年 60国 際 経 営 論 集No.11990

(7)

g}

した。 野 田正 彰 は,社 会 現 象 へ の 深 い理 解 は,人 間 の経 済行 為 に伴 う価 値 観

繍 青噸 み込 む こ とに よって は じめて可能 となる こ とを盤 な事例 に よ

て論 述 した。 また 久 留 一郎 は,臨 床 心 理 学 の立 場 か ら,治 療 で は症 状 をそ の 燗 の部 分 として とら え るの で は な く,「 意 味 表 現 」と して と らえ るべ きで あ る と して,痛 み は個人 に よっ て異 な り,さ らに治療 者 との人 間 関 係 に よ って も異 な っ て感 じ られ る こ とを指摘 潔 。

MDenisに よれ ば,近 年 の心 理 学 は行 動 主義 の 革 命 以 来 ほ とん ど顧 み られ る こ との な か った心 的 イ メー ジ に湖 し始 め碧。

また,医 学 実 践 の な か で も病 気 の認 識 に関 して さ ま ざ まな 問題 提 起 が 今 日 な され て い る。 病 状 を み るの で は な く,病 気 を もった人 間 を診 る とい う視 点 か らの全 人 的 医 療 の必 要 性 が 指摘 され て お り,こ れ は ホ リス テ ィ ック ・メ デ ィス ン と呼 ばれ る。 重 兼 芳 子 は人 間 に は顕 在 化 した存 在 以 外 の無 意 識 の シ ャ ドー部 分 が あ るが・ 現 在 の 医療 は こ う した影 の部 分 へ の対 応 が 十 分 で はな い

ユ2}

こ と を指i摘 し た 。

ま た,客 観 主 義,計 量 化 思 想,還 元 主 義 な ど を特 徴 と し た 工 学 に お い て も , 近 年,フ ァ ジ ィ(fuzzy)と 呼 ば れ る 「あ い ま い さ」 や 主 観 性 の 導 入 が 脚 光 を 浴 び て き た 。 菅 野 道 夫 に よれ ば,1960年 代 に始 ま っ た フ ァ ジ ィ理 論 の 研 究 は 価 値 観 を伴 つ

13)動 で あ り・ フ ァ ジ ィ ネ ス の..・fは 「ゆ ら ぎ」 の 存 在 を容 認 す る 特 色 が あ る 。

8)河 合 隼 雄 『生 と 死 の 接 点 』 岩 波 書 店

,平 成1年 9)野 田 正 彰 『生 き が い シ ェ ア リ ン グ 』 中 央 公 論 社

,昭 和63年 10)久 留 一 郎(編)『 臨 床 援 助 の 心 理 学 』 北 大 路 書 房

,平 成1年

ll}MichelDenis,LeslmagesMentales ,PressesUniversitairesdeFrance , 1979(寺 内 礼 監 訳 「イ メ ー ジ の 心 理 学 一 一一心 像 論 の す べ て 一一 』 勤 草 書 房

,平 成1年 。)

12)医 療 と宗 教 を 考 え る 会(編)『 い の ち の 尊 厳 一 医 の こ こ ろ を 問 う 一 一 』 同 朋 舎,昭 和63年

13)菅 野 道 夫 『フ ァ ジ ィ 理 論 の 展 開 』 サ イ エ ン ス 社

,平 成1年

マ ー ケ テ ィ ング に お け る 「理 解 」研 究 の 方 法 論 的 考 察61

(8)

経 営 学 に お い て も 国 際 化 や 組 織 文 化 が 論 じ られ る に つ れ て 「理 解 」 へ の 関 心 が 高 ま っ て き た 。E.H.Scheinは 組 織 文 化 に つ い て の 研 究 の な か で,ヨ ー ロ ッパ や メ キ シ コ で の 教 育 や コ ンサ ル テ ィ ン グ の 経 験 が ア メ リ カ で の も の と大 き く異 な っ て い た と述 べ,調 査 者 と情 報 提 供 者 の 間 で 繰 返 し行 わ れ る診 断 的

14)

イ ン タ ビ ュ ー と共 同 探 究 に よ る 「理 解 」 の ア ブmチ を論 じ た 。

② 理 解 社 会 学

理 解 社 会学 と呼 ばれ る一群 の研 究 に よっ て わ れ わ れ は 「理 解 」 の概 念 と方 法 に つ い て重 要 な示 唆 を得 る こ とが で き る。 社 会 学 の なか で は,機 能 主義 的 ア プ ロー チ が 隆盛 で あ った が,近 年 にお い て解 釈 学 的研 究 が 国 際 的 に評 価 を

15)

得 て き た 。

"V

erstehen",す な わ ち 解 釈 的 理 解(interpretativeunderstanding)は19

世 紀 糊 か ら2・世 紀 初 頭 にか1ナて の ドイ ツの 歴 史 家 や 社 会 学 者 に よ る方 法 諭 争 で 用 い られ た,実 証 主 義 思 想 に基 づ く因果 的説 明 に対 置 され る概 念 で あ る。

当時 は 自然 科 学 の著 しい発 達 が み られ,そ の 結 果,実 証 主 義 の精 神 が 広 く社 会 に普 及 した 。 同時 に科学 的 知識 は経 験 に基 づ く人 間 世 界 を どの よ うに扱 う

17)

べ き か に つ い て 疑 問 が 提 起 さ れ た 。 歴 史 主 義 の 思 想 家 は 歴 史 を ヒ ュ ー マ ニ テ

ィ ズ(humanities)の 学 問 と 位 置 づ け,人 間 性 を 時 代 や 場 所 に 関 係 な く 普 遍 的 と 考 え る 画 一 的 思 想 を 排 し た 。 当 時 の 啓 蒙 思 想 家 達 は,歴 史 主 義 の 主 張 に 内 包 さ れ た 人 間 社 会 の 文 化 的 多 様 性 や 異 質 性 は 無 知 の 証 明 や 進 歩 へ の 障 害

14)E.H.Schein,OrganizationalCultureandLeadership,Jossey‑BassInc.,

1985(清 水 紀 彦/浜 田 幸 雄 訳 『組 織 文 化 と リ ー ダ ー シ ッ プ 』 ダ イ ヤ モ ン ド社,平 成1年 。)

15)DirkKasler,ルZ砿Weber,PolityPress,1988,p.175.

lfi)WilliamOuthwaite,UnderS・tandingSocialLife,GeorgeAllenandUnwin Ltd.,1986,p.11.

17}MartynHammersley,TheDilemmaofQualitativeMethod,Routledge, 1989,chapl.

62国 際 経 営r論集No.11990

(9)

考 え て い た。 これ に対 して,歴 史 主 義 者 は思 想 や行 為 の 多様 性 を重 視 し ,そ れ ら を実 態 に即 して,そ れ 自身 の た め に解 釈 し,評 価 す べ き こ とを主 張 した。

す な わ ち,歴 史 家 の課 題 は多様 な生 活 形 態 の 理 解 に あ り

,こ の た め に個 有 な 精 神 や文 化 を知 る こ とが 必 要 で あ っ裂 。

「理 解 」 の 理 論 的 発 展 の な か で は 神 学(theology)が 大 き な 役 割 を果 た し

エg}

た 。"Hermeneutics"は 通 常 「解 釈 学 」と訳 さ れ る が

,解 釈 学 の 思 想 は古 典 ギ リ シ ア に さ か の ぼ る 。 解 釈 す る(hermeneuo)と い う動 詞 は 分 らせ る

,理 解 させ る とい う根 本 義 か ら派 生 した 。 これ は,あ る事 象 を 言 葉 で 表 現 し,語 ら れ た こ とが ら を説 明 し,他 国 語 を翻 訳 す る とい っ た 行 為 を 意 味 し

z宗 教 的 な 用 法 で は・神 事 を燗 に,人 事 を宇申々 に分 る よ う に説 明 す る こ とで あ 喫

。 ル ネ ッサ ンス期 以 降 は,解 釈 の規 則 定 立 を め ぐる仕 事 は古 典 文 献 と聖書 とい う対 象 に沿 っ て二 つ の大 きな流 れ を形 成 した が }解 釈 学 の 形 成 で 中心 的 な役

割 を 果 し た の は 轄 で あ っ 契.7 ii学 の 発 展 はF .E.D.Schleiermacher

に 負 う とこ ろが大 きい 。彼 は,理 解 作 用 その もの の究 明 は従 来 の解 釈 学 の ご と く解 釈 学 的規 則 を守 り とお す こ とに よ って は得 られ な い と考 え

,諸 規 則 の 背 後 に さか の ぼ り,そ の根 底 に あ る理 解 そ の もの の働 き を探 究 し,普 遍 的解 釈 学 を打 ち立 て た。 彼 に とって解 釈 学 とは 「理 解 の 技術 学 」 で あ り,理 解 の 働 き とい う基礎 的 事 実 か ら出 発 して,言 葉 の本 性 と話 し手 ・聞 き手 の関 係 の

根本 的条件 か ら詰 規則 を勲 な連 関 において展開 す る ことで あ喫

(3)Diltheyの 所 脱

Schleiermacherの 考 え を 受 け つ ぎ ,そ の 方 法 論 を 高 度 化 し た の がW . 18)Ibid.

19)W.Outhwaite,op.cit .,p.19.

20)日 本 基 督 教 協 議 会 文 書 事 業 部 ・キ リ ス ト教 大 事 典 編 集 委 員 会 『キ リ ス ト教 大 事 典 』 教 文 館,昭 和60年,193頁

21)小 口 偉 一一・堀 一 郎(監 修)『 宗 教 学 辞 典 』 東 京 大 学 出 版 会

,昭 和48年,80頁 22)同 書,80頁

マ ー ケ テ ィ ン グ に お け る 「理 解 」研 究 の 方法 論 的 考察63

(10)

Diltheyで あ っ弛 プ 。 テ ス タ ン トの 牧 師 の 子 と して 生 ま れ たDiltheyは,人 間 科 学(humansciences)の 哲 学 的基 礎 を探 究 した 。 彼 は,人 間 は心 を もっ

た存 在 で あ るた め 自然 科 学 とは異 な った 方 法 で 研 究 を進 め な けれ ば な らな い と考 えた 。 す なわ ち,社 会 生 活 は物 理 的世 界 よ り も複 雑 で あ り,自 然 科 学 が 現 象 の外 面 的特 色 や 反 応 を観 察 を通 じて研 究 す るの に対 して,人 間 科 学 は行 動 を動 機 づ け る思想,感 情,な らび に欲 求 を探 る。 これ は"Verstehen"の 過 程 に よって 実 行 さ れ,わ れ われ は体 験 に基 づ き表 現 や行 動 の源 泉 を知 る。 彼 は,歴 史 的 所 産 は人 間 の体 験 の表 現 と して個 性 的 で あ るが,同 時 に体 験 は根 本 的 な共 通 性 を有 して い るた め,こ れ らの 表 現 を客 観 的 に了 解 す る こ とが 可

24)

能 で あ る と考 え た 。

Diltheyの 所 説 は 内 容 的 に 二 つ の 時 期 に 区 分 す る こ とが で き る 。 初 期 は個 人 的 か つ 心 理 学 的 な 側 面 に 力 点 が あ り,感 情 移 入 に よ っ て 相 手 の 心 を 理 解 す るiあ る い は再 構 築 で き る と考 え た 。 これ に 対 し て,後 期 に は,客 観 的 精 神 が 中 心 的 地 位 を 占 め,文 化 的 所 産 や 概 念 的 要 素 を 解 釈 す る(hermeneutic interpretation)こ と に 重 点 が あ っ た 。Diltheyの 心 理 学 的 理 解 の 様 式 と は, 行 動 の 因 果 関 係 の 発 見 で は な く,他 人 の 靴 を は い て み て,そ の 体 験 を よ み が え らせ る こ とに よ っ て 内 側 か ら思 想 や エ モ ー シ ョ ン を知 る 方 法 で あ っ た 。 こ れ に対 し て は つ ぎ の 問 題 点 が 指 摘 さ れ た 。(1に う した 推 論 の 実 証 は きわ め て 困 難 で あ る,② 科 学 的 知 識 に は 体 系 化 の 手 順 が 必 要 で あ る。 後 期 の 客 観 的 精 神 に つ い て の 論 考 の な か で は,全 体 と部 分,意 味(meaning)が 重 視 され た 。 Diltheyは,部 分 と全 体 は 相 互 に つ な が り,部 分 は全 体 か ら意 義 を獲 得 し,全 体 は部 分 に よ っ て 意 味 を 与 え られ る と し た 。 そ し て,こ う し た 解 釈 の 範 疇 は,

23)本 節 の 説 明 は つ ぎ の も の を 中 心 と す る 。

W.Outhwaite,op.cit.;M.Hammersley,op.cit.;小 口 ・堀,前 掲 書;日 基 督 教 協 議 会 文 書 事 業 部 ・キ リ ス ト教 大 事 典 編 集 委 員 会,前 掲 書;『 哲 学 事 典 』 平 凡 社,昭 和46年

24)『 哲 学 事 典 』 平 凡 社,昭 和46年,213頁 64国 際 経 営 論 集No.ll990

(11)

組 織 が 目的 を実 現 す る構 造 的体 系 に対 応 す る こ とを指 摘 した

。 す なわ ち,全 体 性 は個 の存 在 とそ れ らの連 関 を通 じて理 解 され,同 時 に個 の存 在 性 は全 体 の 理解 に よ っ て は じめ て成 り立 つ。 この よ うに,彼 は部 分 と全 体 の 調 和 的 均 衡 を基 礎 と した解 釈 の 方 法 を主 張 した.そ れ ゆ え,理 解 は常}こ相 対 的 で あ り, 終 りの な い過 程 と考 え られ た。

Diltheyは"Hermeneutics"を 一 層 発 展 させ,自 然 科学 とは異 な る理 解 の 様 式 を探 究 した が,彼 の哲 学 は,生 の 内 面 的 な直 接 的体 験 に基 礎 をお く もの

で あ り ・体 験 ・獺,解 の 連 関 の う え に 成 り 立 逡

.し か し,彼 は"Verstehen・

に よ って体 験 を完全 に再 生 で きる と考 え て い た わ けで はな く

,理 解 は概 要 的 で,誤 りを免 れ な い と した。Diltheyは 新 カ ン ト派 の 一 部 と共 に

,ま た 多 くの 歴 史 主義 者 の保 守 主 義 とは対 照 的 に,19世 紀 半 ばの ドイ ツの 自由 改 革 主 義 運 動 に熱 心 に取 り組 み,歴 史 と人 間 科 学 に基 づ く新 しい哲 学 が理 性 的 で平 和 的 な改 革 の 基 礎 で あ る と考 えた。 彼 は,普 遍 的法 則 の発 見 で は な く,体 験 の な か で の パ ター ンの 記述 に力 を注 い だ が,こ れ は,そ う した行 為 に よ っ て伝 統 的 理 念 や価 値 の崩 壊 とい う当 時 の 文 化 的 危 機 を学 問 が 救 済 で き る と考 えた た めで あ った 。

「理 解 」の社 会 学 的研 究 は,こ の ほか ,H.Rickert,G.Simmel,M.Weber らに よ って行 わ れ,そ れ ぞ れ特 色 の あ る説 明 が 展 開 さ瀧

3.「 理 解 」 の 方 法 論 一一 事例研 究法一 一

(1)特 色

「理 解 」 に関 す る諸 研 究 の 方法 的特 色 は,存 在 の 異 質 性 を前 提 として,対 象 の個 性 を ひ とつ ひ とつ丹 念 に歴 史 性 を踏 ま えて記 述 す る こ とで あ り

,ま た

25)同 書,965頁 。

26)W.Outhwaite,op.cit .;DirkKesler,op.cit .

マ ー ケ テ ィ ン グ に お け る 「理 解 」研 究 の 方 法 論 的 考 察65

(12)

意味表窺 を対象 の意識 に即 して解釈 す るこ とにあ る。かか る立場 は普遍的命

題 か らの 分 析 的 研 究 で は な く,解 釈 学 的 視 点 か ら の 個 別 事 例 の 探 究 を志 向 し て い る 。 そ こで,本 章 で は,社 会 科 学 で の 事 例 研 究 法(casestudyresearch)

を論 じたRK.Yinの 麟 を中 心 と して,当 該 方 法 の 醸 と具体 的 手 順 に つ い て 説 明 し,「 理 解 」 の 方 法 的 側 面 に つ い て 考 察 し た い 。

M.Hammersleyに よ れ ぼ,社 会 学,と りわ け ア メ リカ 社 会 学 に お い て は, 1920年 代 よ り統 計 法 とケ ー ス ・ス タ デ ィが 二 つ の 代 表 的 手 法 と考 え ら れ て き た が,1950年 代 ま で に,サ ー ベ イ ・ リサ ー チ の 形 式 に よ る 定 量 的 方 法 が 主 要 な 潮 流 と し て 定 着 し た 。 サ ー ベ イ(socialsurvey)と い う 用 語 は1940年 代 に

は今 日 と ほ ぼ 同 じ意 味 で 使 用 さ れ て お り,そ れ は 多 数 の 人 間 か らの ア ンケ ー ト回 答 や 面 接 に依 拠 し た 研 究 を 意 味 した 。 統 計(statistics)に よ る 研 究 と は,デ ー タ を処 理 す る た め の 記 述 的 か つ 推 論 的 技 法 を意 味 す る場 合 も あ れ ば, そ の た め の 学 問 的 理 論 を称 す る こ と も あ る 。 一 方,ケ ー ス ・ス タ デ ィ の概 念 は,医 学 の 臨 床 的 手 法,ソ ー シ ャ ル ・ワ ー カ ー の ケ ー ス ワ ー ク技 法,歴 史 家 や 人 類 学 者 の 手 法 か ら発 達 した 。 この ほ か,新 聞 記 者 や 小 説 家 の 影 響 も あ っ た 。 ケ ー ス ・ス タ デ ィ は,通 常,特 定 の 個 人,集 団,も し くは 制 度 体 に つ い て の,詳 細 で 比 較 的 組 織 化 さ れ て い な い 情 報 の 収 集 と提 示 を意 味 す る 。 そ し て,当 該 方 法 の 長 所 は,ひ とつ の 事 例 に つ い て 詳 細 な 情 報 が 入 手 で き る点 に あ り,こ れ は燗 行 動 の理 解 に は欠 くべ か らざ る こ とで あ る・ 反面 潮 懸 間 で の 認 識 の 相 違,扱 うケ ー ス の 数 の 制 約,結 論 の 一 般 化 な ど に 難 点 が あ る。

さ て,Yinは ケ ー ス ・ス タ デ ィ を 社 会 科 学 の 厳 格 な 手 法 と位 置 づ け,そ の 内 容 を検 討 した 。 彼 に よ れ ば,教 育 法 と して の ケ ー ス ・ス タ デ ィ は討 議 の 枠 組 み を つ く る こ とに 主 眼 が あ り,現 象 の 正 確 な 描 写 は必 ず し も要 請 さ れ な い 。

1)本 章 の 説 明 は つ ぎ の も の を 中 心 と す る 。

RobertK.Yin,CaseStudyResearch,SagePublicationsInc.,1989.

s 2)MartynHammersley,TheDilemmaofQualitativeMethod,Routlege,

1989,chap.4.

66国 際 経 営 論 集No.11990

(13)

ま た 医 療,法 律,ソ ー シ ャル ・ワ ー ク な どの 記 録 法 と し て の ケ ー ス ・ス タ デ ィが あ る 。 しか し,い ず れ も研 究 方 法 と し て の もの と は性 格 が 異 な る

。 ケ ー ス ・ス タ デ ィ は リサ ー チ ・デ ザ イ ン

,デ ー タ の 収 集,分 析,さ ら に は報 告 ま で の 諸 局 面 を 包 摂 す る体 系 で あ り,個 人,組 織,社 会 の 諸 現 象 に つ い て の 知 識 の 拡 大 に独 自 に 貢 献 す る 。

リサ ー チ の 方 法 と して は・ この ほ か 実 験 法

,サ ー ベ イ 法,歴 史 法 な どが あ る 。Yinに よれ ば,諸 方 法 は 多 元 的 に 把 握 す る必 要 が あ り

,ケ ー ス ・ス タ デ ィ を 探 索 局 面 と・ サ ー ベ イ と歴 史 を 記 述 局 面 と

,さ ら に実 験 姻 果 的 説 明 と結 び つ け て 階 層 的 に 理 解 す る の は誤 りで あ る

さ て,方 法 の 選 択 に あ た っ て は つ ぎ の 三 つ の 条 件 を 考 慮 し な け れ ば な ら な い ・(1)リ サ{チ に お け る問 題 意 識

,(2)現 象 に対 す る研 究 者 の コ ン ト。̲ノ レ, (3)現在 の 事 象 との 関 連 性 。 表1は これ ら の 条 件 と方 法 の 関 係 を 示 し た もの で あ る ・こ こ に お い て ・"what"の 質 問 は探 索 的 で あ る か

,も し くは"h。wmany"

"h

・wmuch"の 形 で 使 わ れ て い る.ま た,"wh・"と ・where・・の 質 問 は サ ー ベ イ や 記 録 の 分 析 で 利 用 さ れ る

。 さ ら に,"how"と"why"は 説 明 的 な 傾 表1リ サ ーテ 方 式 の選 択 基 準

方 法 質問 の形 態

現 象 の コ ン ト ロ ー ル

の 可 能 性

現在 の事象 との関係

1

実 験

how,why イ エ ス

イ エ ス

サ ー ベ イ

who,what,where howmany, howmuch

ノ ー イ エ ス

記録分析

who,what,where howmatey, howmuch

ノ ー イ エ ス/ノ

歴 史 how,why ノ ー ノ ー

ケ ー ス ・ ス タ デ ィ how,why ノ ー

イ エ ス

(出 典)RK・Yi氏 伽5励R83・ α肱SagePublicati・ ・ns

,lnc,,1989,μ ユ7.

マ ー ケ テ ィ ン グ に お け る 「理 解 」研 究 の 方 法 論 的 考 察67

(14)

向 が あ り,ケ ー ス ・ス タ デ ィ,歴 史,実 験 と関 係 す る 。 つ ぎ に コ ン トロ ー ル の 程 度 と研 究 者 の 現 象 へ の ア ク セ ス を考 え れ ば,歴 史 法 は焦 点 が 過 去 の 事 柄 に あ る た め,こ れ ら と は無 関 係 で あ る 。 ケ ー ス ・ス タ デ ィ は操 作 不 可 能 な 現 在 の 事 象 を焦 点 とす る 。 ケ ー ス ・ス タ デ ィ は 歴 史 法 と似 て い るが,観 察 や 面 接 に よ る デ ー タ の 活 用 に 特 色 が あ る 。 ま た 研 究 者 が 行 動 を直 接 に,正 確 に,

か つ 体 系 的 に操 作 で き る場 合 に は 実 験 が 行 わ れ る。

以 上 よ り,ケ ー ス ・ス タ デ ィ で は,研 究 者 が コ ン トロ ー ル で き な い 現 在 の 事 象 を対 象 と し て"how"も し く は"why"の 探 究 が 行 わ れ る こ とが 明 らか で あ る 。 す な わ ち,ケ ー ス ・ス タ デ ィ は つ ぎ の 特 色 を備 え た 経 験 的 探 究 で あ る と い え る。(1)実 生 活 の な か で の 現 在 の 事 象 を 対 象 とす る,(2)現 象 と状 況(文 脈)の 境 界 は 明 白 で は な い,(3)多 数 の デ ー タ源 泉 が 利 用 可 能 で あ る。

② リサ ー チ ・デ ザ イ ン

ケ ー ス ・ス タ デ ィの 構 想 の な か で は リサ ー チ ・デ ザ イ ン を つ くる こ とが 必 要 で あ る。 リサ ー チ ・デ ザ イ ン と は探 究 す べ き問 題 の 明 確 化 か ら結 論 に 至 る ま で の 行 動 計 画 で あ り,つ ぎ の 五 つ の 要 素 よ りな る。(1)研 究 の 主 題,② 命 題 (3)分 析 単 位,(4)デ ー タ と命 題 を つ な ぐ論 理,(5)結 果 の 解 釈 の 基 準 。

研 究 の 主 題 と は研 究 者 が 取 り組 む べ き疑 問 で あ り,既 述 の よ う に ケ ー ス ・ ス タ デ ィ は"how"と"why"に 関 連 した 問 題 を対 象 とす る 。 つ ぎ に命 題 は疑 問 と結 び つ い た 仮 説 の ご と き もの で あ り,研 究 者 の 具 体 的 分 析 課 題 で あ る。

研 究 者 が 組 織 関 係 を テ ー マ と し,メ ー カ ー と小 売 店 が コ ン ピ ュ ー タ機 器 の 販 売 に お い て ∴ ふ1三そ して ξ ぜ協 力 す るの か を探 究 す る と仮 定 す れ ば,「協 力 関 係 は互 恵 的利 益 を生 ず る」 とい う推 論 を命 題 と呼 ぶ こ とが で き る。 分 析 単 位 は ケー ス は何 か とい う基 本 的 問題 と関連 して い る。 古典 的 ケー ス ・ス タ デ ィ で は分 析 単 位 は人 間 で あ り,患 者 や リー ダ ー シ ップ の分 析 が 行 わ れ て きた。

しか し,ケ ー ス は出 来 事 や 実 在 を対 象 とす る場 合 もあ り,意 思決 定,実 行 過 程,組 織 変 化 な どにつ い て 分析 で き る。 命 題 と分 析 単 位 の明 確 化 に よっ て収

68国 際 経 営 論 集No.11994

(15)

集 す べ き龍 が 決 ま る ・ デ ー タ と命 題 の 醗 は デ 汐 分 析 の 過 程 と呼 ば れ , 同 一 の ケ ー ス に つ い て い くつ か の 情 報 を 理 論 命 題 と結 び つ け るパ タ ー ン.マ

ッチ ン グ(pattern‑matching)の 手 法 が あ る

具 体 的 な デ ー タ 収 集 の 前 に予 備 的 理 論 備 築 を 行 わ な け れ ば な ら な い .こ れ は伝 統 的 な ケ ー ス ・ス タ デ ィ法 の な か で 欠 落 して い た 局 面 の ひ とつ で あ り

, フ ィー ル ド との 接 触 の 前 に 研 究 手 順 の 青 写 真 と も呼 ぶ べ き理 論 の 形 成 が 必 要 で あ る。 こ の た め に は テ ー マ に 関 連 し た 文 献 の レ ビ

ュー と デ ィ ス カ ッ シ ョ ン を 行 わ な け れ ば な ら な い ・ そ して,主 題 目 的,取 り上 げ る ト ピ ッ ク を確 認 す る。

さ て,理 論 の 意 義 はO'化 に あ る が,こ れ は 通 常 統 計 的 一 般 化(statistical

シ ン グ ル ケ ー ス ・デ ザ イ ン マ ル チ プ ル ケ ー ス ・デ ザ イ ン

ホ リ ス テ ィ ッ ク (単 一 の 分 析 単 位)

イ ンベ ツデ ィ ド (複数 の 分 析 単 位)

図1ケ ー ス ・ ス タ デ ィ の 基 礎 的 類 型

(出 典)RK.Yin,oρ.C2t.,p.46 .

マ ー ケ テ ィ ン グ に お け る 「理 解 」研 究 の 方 法 論 的 考 察69

(16)

Kl "卜C ( eKl

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鰹 蘇 蝉 魍 躍 罧

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70国 際 経 営 論 集No.11990

(17)

generalization)を 意 味 して い る。 す な わ ち サ ン プ ル に つ い て の 経 験 的 デ0タ を 基 礎 と し た 全 体 の 推 定 で あ る。 しか し ケ ー ス ・ス タ デ ィ の 事 例 は サ ン プ リ ン グ単 位 で は な い 。 複 数 の ケ ー ス を選 択 し

,事 前 の 理 論 を ケ ー ス ・ス タ デ ィ の 比 較 基 準 と して 利 用 す る こ とが で き る.そ し て 複 数 の ケ ー ス が 同 じ理 論 を 支 持 す れ ば 理 論 の 正 当 性 が 高 ま る ・ こ う し た 方 式 を 分 析 的 一 般 化(anal

ytic generalization)と 称 す る。

Yinは ケ ー ス ・ス タ デ ィの 基 礎 的 類 型 を図1の ご と く分 類 し た

。単 一 ケ ー ス の 分 析(シ ン グ ル ・ケ ー ス)は 周 知 の 理 論 に 関 連 した 重 大 な ケ ー ス を対 象 と す る場 合 や,臨 床 心 理 学 の よ う に独 自性 の 高 い ケ ー ス を 扱 う もの で あ る

。 ま た ・分 析 単 位 が 単 一 の もの を ホ リス テ ィ ッ ク(holistic)

,複 数 の もの を イ ン ベ ッ デ ィ ド(embedded)と 呼 ぶ 。 複 数 ケ ー ス の 分 析(マ ル チ プ ル ・ケ ー ス)の 過 程 は 図2の と お りで あ り,ケ ー ス 間 の 結 論 の 重 ね 合 せ(replication)が 重 要

とな る。

(3)デ ー タ の 収 集

デ ー タ や 証 拠 の 収 集 は ケ ー ス ・ス タ デ ィ の 成 否 に重 大 な 影 響 を与 え る

。Yin に よれ ば,ケ ー ス ・ス タ デ ィ は 研 究 者 の 自我 や エ モ ー シ ョ ン と関 連 す る た め

, デ ー タ収 集 の 手 順 を一 定 の パ タ ー ン に は め る こ とが 難 し い

。 ケ ー ス ・ス タ デ ィ を 実 施 し よ う とす る者 は つ ぎ の 点 に注 意 を払 わ な け れ ば な ら な い

。 第1に 適 切 な 質 問 を つ く り,答 え を 解 釈 す る能 力 が 要 求 さ れ る

。 良 き質 問 者 で あ る た め に は リサ ー チ が 答 え で は な く質 問 を 中 心 とす る こ と を 認 識 す る 必 要 が あ

り,回 答 を 聞 い て 新 し い 質 問 が で き る こ と が 望 ま し い

。 第2に 聴1こ と (1istening)を 中心 に調 査 を進 め る能 度 が必 要 で あ る。注 意 深 く観 察 し,感 ず る こ とが 大切 で あ り,良 き聴 き手 は大 量 の情 報 を偏 りな く吸収 す る こ とが で き る。 第3に 予 期 せ ぬ 出 来 事 に対 応 して手 順 や計 画 を変 更 で き る柔 軟 性 が必 要 で あ る。 第4に 問 題 の本 質 をす ばや く把 握 しな けれ ば な らな い

。 第5に 先 入 観 を捨 て て調 査 を進 め な けれ ば な らな い。

マーケティングにおける「理解」研究の方法論的考察71

(18)

以 上 の な か で研 究 者 の晦 ミ態 度 は と りわ け重 要 で あ り,こ れ は対 象 に注 意 を 集 中 す る こ と と言 い か え る こ とが で き る 。M.Ray=RMyersは 創 造 性 に つ い て の研 究 の な か で聴 ミ こ との意 義 に つ い て,臨 床 心 理 研 究 者 の方 法 を模 靴 して っ ぎの 要 諦 を示 し建.(1)心 の お しゃべ りを捨 て話 者 に臆 を集 中 す る,② し ゃ べ りた い とい う欲 求 を静 め る,(3)判 断 を停 止 す る,(4)話 者 に と っ て 真 に重 要 な こ と を探 索 す る(相 手 の 立 場 に 立 つ),⑤ 重 要 な ポ イ ン トに の み 焦 点 を あ て る。

デ ー タ収 集 に あ た っ て は ケ ー ス ・ス タ デ ィ ・プ ロ トコ ル(protocol)を つ く る こ とが 望 ま し い 。 これ は 調 査 の 目的,手 順,原 則 な ど を盛 り こん だ 書 類 で あ り,通 常 つ ぎ の も の を含 む 。(1)プ ロ ジ ェ ク トの 概 要(目 的,問 題 参 考 資 料),(2)フ ィ ー ル ド手 順(ケ ー ス へ の 接 近,情 報 源 泉),(3)質 問(具 体 的 内 容 ・

デ ー タ 源 泉),(4)報 告 書 の 案 内(大 要,参 考 的 情 報 の 明 示)。

さ て,実 際 の 調 査 に あ た っ て は つ ぎ の デ ー タ源 泉 が 対 象 で あ る。(1)文 書 。 手 紙,メ モ,会 議 録,報 告 書,新 聞 切 り抜 き を 含 む 。 ケ ー ス ・ス タ デ ィで は 複 数 の 資 料 に よ っ て 証 拠 的 価 値 を確 認 す る こ とが 必 要 で あ る 。 ② 記 録 類 。 営 業 記 録,組 織 図,予 算,地 図,日 記 を含 む 。(3)面 接(イ ン タ ビ ュー)。 ケ ー ス ・

ス タ デ ィの 不 可 欠 の 要 素 で あ り,そ の 形 態 は つ ぎ の 三 種 類 に 分 類 で き る 。 ① 回 答 者 に 事 実 と意 見 を 求 め る開 放 型(open‑ended),② 短 時 間 に 集 中 し て会 話 を交 え な が ら行 う集 中 型(focused),③ よ り構 造 的 な サ ー ベ イ 型(survey)。 回 答 者 が 事 実 を 正 し く思 い 出 せ な い 場 合,あ る い は 内 容 が 不 明 瞭 な こ と も あ る た め,面 接 デ ー タ は 他 の デ ー タ で 確 認 す る こ とが 望 ま し い 。(4)観 察 。 特 定 の 期 間 で の 行 動 の 発 生 率 を測 定 す る た め の フ ォ ー マ ル な観 察 と,他 の 調 査 時 に 併 せ て 行 わ れ る偶 然 的 観 察 が あ る 。 観 察 の 信 頼 性 を 高 め る た め に は複 数 の 人 間 で 実 施 す る こ とが 望 ま し い 。(5)参 与 的 観 察 。 研 究 者 は 現 象 に 参 加 し な が ら

3)MichaelRayandRochelleMyers,CreativityinBusiness,Doubleday,1986,

pp.S2‑83.

72国 際 経 営 論 集No,11990

(19)

観 察 を行 う・H・Schwartz=J ・Jac・bsに よ れ ば か か る 斌 は社 会 学 調 査 で も 活 用 さ れ て お り・ 面 接 法 との 組 み 合 せ に よ っ て 高 い 効 果 を 鵬 で き4)

.参 与 的 観 察 は・ 他 の 方 法 で は デ.̲̲..タの 収 集 が 難 し い 事 例 に ア ブ 匹 チ で き る

,あ る い は 内 部 者 構 頗)の 視 点 か ら現 実 を

p,で き る と い っ 帳 所 が あ る が, 反 面,客 観 的 視 点 が 欠 如 す る 危 険 性 が あ る

。(6)道 具,作 品 。 デ 』 タ収 集 の 原 則 は つ ぎ の 三 点 で あ る

.(1)研 究 者 は麟 の デ ー タ 源 泉 を利 用 し納 得 で き る結 果 を 導 く・(2)収 集 し た デ ー タ の 体 系 化 と保 存 の 方 法(弘

タ ベ ー ス)を 開 発 す る・(3澗 題・ 手 順,お よ び 繍 の 脈 絡 を 明 ら か に す る

④ 分 析 と 報 告

収 集 した デ ー タ の 分 析 の た め に は 理 論 命 題 に 立 ち 返 唾 要 な デ ̲タ を選 択 す る 作 業 が 腰 で あ る・Yinは 分 析 の 様 式 と して つ ぎ の もの を 明 ら か に し た

。 第1に 繊 的 に発 見 した パ 外 ン と理 論 的 パ タ ー ン を比 較 し

,ケ̲ス.ス タ

ァ ィ に お け る 因 果 関 係 の 確 認 を 行 う 方 式 が あ る

。 こ れ を パ タ ー ン 調 和 型 (pattern‑matching)と 呼 ぶ.第2に ケr..ス に つ い て の 説 明 を つ くる こ と に よ っ て デ ー タ を 分 析 す る 方 式 が あ る

.こ れ を 説 明 構 築 型(explanati。n‑

building)と 呼 ぶ ・ 最 終 的 説 明 ま で に は

,最 初 の 発 見 事 項 を 理 論 命 題 と比 較 し,つ ぎ に 修 正 し た 命 題 を別 の ケ ー ス と比 較 し

,さ ら に命 題 を再 修 正 す る と い う作 業 を何 回 も繰 り返 し行 う

。 第3に 時 系 列 で 分 析 を行 う方 式 が あ る。 こ れ を時 系 列 分 析 型(time‑SerieSanalySiS)と 呼 ぶ

。 ケ ー ス ・ス タ デ ィ の 時 系 列 分 析 と し て 年 代 記(chr・n・1・gy)の 様 式 で 出 来 事 を 記 述 す る 方 法 力§あ る

。 年 代 別 記 述 を比 較 す る こ と に よ っ て,あ る 出 来 事 が 他 の 現 象 に必 ず 先 行 す る な どの 連 鎖 関 係 が 明 らか と な る。

結 果 の 報 告 は 文 書 ・ ・ 頭 で の プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン

,絵 や ビ デ オ テ ー プ の 利

4)HowardSchwartzandJerryJacobs

,QualitativeSociology,TheFree Press,1979 ,p.46.

マーケティングにおける「理解」研究の方法論的考察73

(20)

用 な どで 行 う。 報 告 書 の 構 造 に は つ ぎ の もの が あ る 。 第1に 問 題,方 法,発 見 事 項,お よ び 結 論 まで の 標 準 的 方 式 が あ り,こ れ を リニ ア 分 析 的(1inear‑

analytic)構 造 と呼 ぶ 。第2に 同 一 の ケ0ス に つ い て の 代 替 的 記 述 や 説 明 を比 較 す る 方 式 が あ り,こ れ を比 較(comparative)構 造 と呼 ぶ 。 第3に ケ ー ス ・

ス タ デ ィ の デ ー タ を 年 代 順 に提 示 す る 方 式 が あ り,こ れ を 年 代 記(chrono‑

1。gical)髄 と呼 ぶ.第4に 報 告 書 の 順 序 を な ん らか の 艦 纏 の 論 理1こ従 え る方 式 が あ り,こ れ を理 論 構 築(theory‑building)構 造 と呼 ぶ 。 第5に 「解 答 」 を ま ず 最 初 に示 し,こ の た め の 説 明 を 順 次 展 開 して い く方 式 が あ り,こ

れ を サ ス ペ ン ス(suspense)構 造 と呼 ぶ 。 第6に 事 例 を記 述 的 に並 べ る方 式 が あ り,こ れ を非 連 鎖 的(unsequenced)構 造 と呼 ぶ 。

以 上 の どの 方 式 を 選 択 す る に せ よ,ケ ー ス ・ス タ デ ィ は 代 替 的 視 点 か ら考 え た 場 合 の 結 果 と,根 拠 と な る証 拠 を十 分 に 明 らか に し な け れ ば な ら な い 。

4.マ ー ケ テ ィ ン グ に お け る 「 理 解 」 研 究 の 課 題

(1)マ ー ケ テ ィ ン グ ・ リサ ー チ

っ ぎ に マ ー ケ テ ィ ン グ に お け る 「理 解 」 研 究 に つ い て そ の 方 法 的 側 面 を 中 心 に説 明 した い 。

マ ー ケ テ ィ ン グ に お い て は1950年 代 に行 動 科 学,と りわ け 心 理 学 の 条 件 づ け の 理 論 に よ っ て 消 費 者 の 多 面 的 動 機 の 把 握 が 試 み ら れ た 。 そ し て,近 年 再

1)

び 消 費 者 行 動 へ の 定 性 的 ア プ ロ ー チ が 注 目 を集 め て き た 。D.T.Seymourに

よ れ1盤,マ ー ケ テ ィ ン グ 現 象 へ の 接 近 は 量(figures)順(feelings)の 両 面 か ら行 う こ とが で き る。 定 量 的 ア ブmチ は,マ ー ケ テ ィ ン グ の サ イ エ ン ス

1)拙 『現 代 マ ー ケ テ ィ ン グ ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 』 白 桃 書 房e昭 和63年 2)本 節 の マ ー ケ テ ィ ン グ ・ リ サ ー チ に つ い て の 説 明 は つ ぎ の も の に よ る 。

DanielT.Seymour,MarketingResearch,ProbusPublishingCompany, 1988.

74国 際 経 営 論 集No.11990

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化 の 努 力 と・ デ ー タの コ ン ピー タ処 璽 こよ っ て 目 ざ ま しい発 展 を とげ た 一 方・ 定 性 的 ア ブ ・一 チ は・人 類 学 や社 会 学 の 方 法 を基 礎 に現 象 を言語 で記。

述 す る こ とを行 う・ か か る現 象 学 的 接 近 は いわ ゆ るサ イエ ンス の 方 法 とは対 照 的 で あ り,伝 統 的 経験 主 義 者 の演 繹 体 系 に対 し,デ ー タか ら出発 し結 論 を 形 成 す る とい う意 味 で帰 納 体 系 を志 向 し,主 題 の予 見 を排 除 した ボ トム ア ッ プ の手 順 を用 い る。 したが って現 象 の探 究 の た め に は

,デ ー タ に接 近 し,対 象 に語 らせ る こ とを行 わ な けれ ば な らな い.定 性 的 ア ブ ・ 一 チの 目標 は,変 数,尺 度,次 元 に つ い て の デ ー タ を集 め て状 況 の 部 分 を測 定 す る こ とで は な

く,全 体 性 の ホ リス テ ィ ック な理 解 に あ る。

定 性 手 法 を 中心 と して マ ー ケテ ィン グ ・リサ ー チ を整 理 す れ ば表2の とお りで あ る。

「理 解 」 が 体 験 の共 有 に よ っ て はか られ る こ とを前 提 とす れ ば

,参 与 的 観 察 は この た め の 有効 な方 法 と考 え る こ とが で き る。Seymourに よれ ば,参 与 的 観 察 に よ って観 察 者 は現 象 を見 て,感 じ る こ とが で き る よ うに な る

。 こ う した感 情,思 考,意 図,お よび意 味 の共 有 を"間 主観 性(inters

ubjectivity)"

と呼 ぶ 。 参 与 的観 察 は対 象 との 心 理 的距 離 の接 近 とい う利 点 が あ るが

,過 度 の 接 近 は一 体 感 を醸 成 し,観 察 の 質 を低 下 させ る危 険 性 が あ る

。 した が っ て,

誰 タ1・ど の よ う な 形 で 参 与 す る か が ポ イ ン トで あ る・Schwartz‑‑Jac・bsに

れ ば凋 囲 の人 々 に調 査 者 で あ る こ とを隠 した観 察 者 は環 境 に溶 け込 みや す く,対 象 に 自由 に出 入 り して調 査 を進 め る こ とが で きる利 点 が あ る

。 しか し ネ イ テ ィブ(native)に 同 化 し過 ぎて,す べ て の現 象 を当 然 と解釈 して し ま う 結 果,調 査 の客 観 性が 崩 れ る問題 点 が あ る。 す なわ ち人 々 の感 情 や意 図 を理 解 す るに は適 した 方法 で あ るが,デ ー タ を超 えて研 究 を進 行 させ るに は若 干 の 難 点 が あ る。 これ に対 して既 知 の観 察 者 は外 部 者 と して扱 わ れ るが

,調 査

3)HowardSchwartzandJerryJacobs

,QualitativeSociology,TheFree Press,1979,pp.45‑60 .

マ ー ケ テ ィ ン グ に お け る 「理 解 」研 究 の 方 法 論 的 考 察75

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表2マ ー ケ テ ィ ン グ ・ リサ ー チ の 方 法

理 的

〈内側 の 自己 〉

潜 動 く   的 機

サ ー ベ イ

ハ 不 ル 集 団 面 接 オ ー プ ン ・エ ン ド

観 察可能行 為 正 当 化

理 化

究省探細羊勾

物徴

圧口象紅

(出 典)D.T.Seymour,Marketing」?ρs6α γ漉,ProbusPublishingCompany,1988,p.11.

表3参 与 的観 察の類型

調査者の参画様 式

社会 の調 査者 に対 する認識

研究者

社 員成構

観 察 をす る 日常 生 活 をす る

(1) (Z}

(3) (4}

(出 典)H.SchwartzandJ.Jacobs,Q媚1ガ'α'iz,召80ご ゴo1o召),,TheFreePress・1979,P・57・

者 の 立 場 で 広 く情 報 を収 集 す る こ とが 可 能 と な り,ま た 客 観 的 視 点 か らデ ー タ を解 釈 す る こ とが で き る 。 こ う し た 調 査 者 の 立 場 と活 動 を基 準 に 参 与 的 観 察 の 形 態 を つ ぎ の 四 種 類 に 分 類 す る こ とが で き る(表3参 照)。(1)調 査 者 は研

76国 際経営論集No.11990

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究 者 で あ る こ とが知 られ て お り,彼 の 活 動 は情 報 の収 集 と観 察 に限 られ る ,

② 研 究 者 で あ る こ と を明 らか にす るが,自 然 な形 で 内部 者 と して参 加 す る(病 院 の患 者,工 場 の従 業 員),(3)調 査 者 は身分 を隠 し,情 報 が 集 ま る拠 点 にお い て何 らか の社 会 的役 割 を担 う,(4)身 分 を隠 し,情 報 収 集 の た めの 明 示 的 行 動 をせ ず に 日常 の 生 活 の な か で観 察 を行 う。

② マ ーケ テ ィン グ認識

「理 解 」 研 究 は マ ー ケ テ ィ ン グの 方法 論 にか か わ る課 題 で あ る。 現 象 学 的 に マ ー ケ テ ィン グ事 象 を記 述 し,知 識 を拡 大 す るた め に は,対 象,方 法,な

らび に研 究 者 の態 度 にっ い て一 層 の吟 味 が 必 要 で あ る。 芸 術 が 作 者 の体 験 と 思 索 の 象 徴 的 表 現 で あ り,同 時 に科 学技 術 の 発 展 な どの時 代 精 神 を反映 す る

4}の

よ うに,認 識 は さ まざ まな要 因 の影 響 の も とに表 現 の 基 盤 を形 成 す る

。 分 析

的 研 究 は 「事 例 」 を普 遍 的 命 題 を支 え る多 数 の証 拠 の ひ をろ と して の み扱 う 傾 向 が あ り,独 立 した ケ0ス と して構 造 的 に探 究 す る こ とを しな い

。研 究 者 の豊 富 な体 験 と十 分 な理 論 の吟 味 に基 づ か な い認 識 は安 易 な分 析 的 態 度 を導 きや す く,ま さ に 「人 間 を理 解 す る ど こ ろか,そ の 理解 を ひ とつの 視 野 に閉 じ こめ て歪 め て し ま う」 危 険 をお か す 。5)

Scheinは 記 述 的 方 法 の な か で 民 俗 学 的 視 点 と臨 床 家 の それ を 区 別 す る必 要 性 を指 摘 した 。彼 に よれ ば,民 俗 学 者 は観 察 デー タや 経験 デ ー タ に忠 実 で

な けれ ば な らな い が,研 究 の 動機 とな っ た概 念 や モ デ ル を状 況 に持 ち込 み , 研 究対 象 は研 究 課 題 に は特 定 の利 害 関 係 を もた な い。 これ に対 して,臨 床 的 視 点 で は対 象 が クラ イエ ン トと して利 害 関 係 を有 し,援 助 者 や コ ンサ ル タ ン トの協 力 を求 め る。Scheinは,調 査 者 と意 欲 的 な情 報 提 供 者 の 間 で の 診 断 的 イ ン タ ビュ ーや 共 同探 究 が組 織 文 化 の 理 解 の た め に有 効 で あ る こ とを指 摘 し

4)高 階 秀 爾 近 代 絵 画 史(上)(下)』 中 央 公 論 社

,昭 和50年 5)野 田 正 彰 『生 き が い シ ェ ア リ ン グ 』 中 央 公 論 社

,昭 和63年,137頁 マ ー ケ テ ィ ン グ にお け る「理 解 」研 究 の 方 法 論 的 考察77

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6) た 。

現 象 学 的 「理 解 」 に よ りマ ー テ テ ィ ン グ認 識 を拡 張 す る た め の 課 題 は つ ぎ

の とお りで あ る。 第1に 現 象 の意 味 表 現 に注 目す る こ とに よ って,そ の構 成 を対 象 に即 して解 釈 す る。 第2に 研 究 者 が距 離 をお い て対 象 に接 す る こ とを や め,現 象 に参与 す る こ とに よっ て観 察 を行 う。 第3に 肯 定 的態 度 に よ って 存 在 を受容 し,共 感 す る。 解 釈 は価 値 判 断 を捨 て,ホ リステ ィ ック な視 点 か ら複 数 の尺 度 を用 い て行 わ な けれ ば な らな い。 第4に 研 究 者 は 「理 解 」 の た め の豊 か な イ メー ジ構 成 力 を もつ 。 これ は研 究 者 の 「体 験 」 と 「理 解 」 の姿 勢 か ら生 ず る。

5.む す び

近 年 さ まざ まな学 問 領 域 で現 象学 的認 識 の必 要性 が指 摘 され,解 釈 主義 に 基 づ く 「理 解 」 の 方法 論 が 注 目 され て きた 。 これ は民俗 学,文 化 人 類 学,精 神 分 析 学 な どにお いて長 年探 求 され,今 日は医 学,工 学,経 営 学 な ど に導 入

され て きた 。 「理 解 」の概 念 と方 法 は19世 紀 末 期 か ら20世 紀 初 頭 にか けて,ド イ ツの 歴 史 家 や 社 会 学 者 に よ って真 剣 に論 議 され たが,そ の 問題 意識 は人 間 に か か わ る諸 現 象 を 自然 科学 とは異 な る方 法 で い か に把 握 すべ きか に あ っ た。

と りわ け歴史 主 義 の 思 想 家 は人 間 性 に つ い て の画 一 的認 識 を否 定 し,思 想 や 行 為 の 多様 性 を尊 重 した。 また 「理 解 」 の理 論 的発 展 にお い て は神 学 が重 要 な役 割 を果 た し,聖 書 解 釈 の なか で 解 釈 学 が 主 要 な地位 を 占 め た。Schleier‑

macherの 普 遍 的解 釈 学 を継 承 し,方 法 論 を高 度 化 させ た の がDiltheyで あ った 。彼 は精 神 科 学 の意 義 を強 調 し,歴 史 を人 間 の体 験 の表 現 と考 えた。 彼 の初 期 の所 説 は心 理 学 的理 解 を中 心 と し,感 情 移 入 に よっ て相 手 の 思 想 や エ

6)E.H.Schein,OrganizationalCultureandLeadership,Jossey‑BassInc., 1985.

78国 際 経 営 論 集iNo.11990

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モ ー シ ョン を内側 か ら知 る こ とを重 要 視 した。 これ に対 して 後 期 に は全 体 と 部 分 の調和 を基 礎 とした 方 法 を論 じた 。Diltheyの 理 論 は 「生 の哲 学 」と呼 べ

る もの で あ り・体 験 ・ 表 現,理 解 の連 関 に焦 点 が あ る。 彼 は体 験 を通 して の 新 しいパ タ ー ンの記 述 に よ っ て,伝 統 的 理 念 や 価 値 に代 わ る新 しい価値 を明

らか にで きる と考 え た。

対 象 の個 性 を歴 史 性 を踏 まえ て記 述 し,意 味 表 現 を理 解 す るた め に は事 例 を詳 細 に検 討 す る こ とが必 要 で あ り,こ の た め の方 法 と して事 例 研 究 法(ケ ー ス ・ス タ デ ィ ・リサ ー チ)が あ る

。 わ が 国 で は経 営 教 育 法 や記 録 法 と して の もの が知 られ て い るが,ケ ー ス ・ス タデ ィ は リサ ー チ ・デ ザ イ ン

,デ ー タ 収 集,分 析,報 告 の諸 局 面 を包 摂 した 社 会 科 学 の研 究 方法 と して位 置 づ け る こ とが で きる。 ケ ー ス ・ス タ デ ィ は実 験 法 ,サ 〜 ベ イ法,歴 史 法 な ど と並 ぶ 科 学 の 方法 で あ り,研 究 者 が コ ン トロ0ル で きな い 現在 の 事 象 を対 象 と し

, howも し くはwhyの 探 究 を行 う特 色 が あ る。 ケー ス ・ス タ デ ィの 実施 に先 立

ち リサ ー チ ・デ ザ イ ン をつ く り,探 究 す べ き問題 の 明 確 化 か ら結 論 に至 る ま で の行 動 計 画 を明 らか に しな けれ ば な らな い。 サ ーベ イ法 が 結 論 の た め に統 計 的 一 般 化 に依 存 す るの に対 して,ケ ー ス ・ス タデ ィ は分 析 的 一般 化 を用 い る。 ケ ー ス ・ス タデ ィ は扱 うケー スの 数 と分 析単 位 の 量 に よ って 四類 型 に分 類 で きる。 デー タ の収 集 に お い て は研 究 者 の聴 取 能 力 が成 否 の鍵 とな り,判 断 す る こ とを止 め,相 手 の立 場 に立 って質 問 を しな けれ ば な らな い。 また調 査 プ ロ トコル を作 成 す る こ とが 望 ま しい。 デ ー タ の源 泉 は文 書,記 録,面 接, 観 察,参 与 的 観 察,お よび物 品 で あ るが,複 数 の もの を利 用 して,納 得 で き

る結 論 を導 くこ とが 必 要 で あ る。 デ ー タの分 析 はパ ター ン調 和 型

,説 明 構 築 型,時 系 列 分 析 型 の 方 式 で 実施 され る。

「理 解 」 の方 法 的研 究 はマ ー ケ テ ィ ング ・リサ ー チ と関 係 す る。 さ まざ ま な 「意 味 」 を明 らか に す るた め の定 性 的手 法 と して,観 察 法,集 団面 接法, 深 層 面 接 法iモ チ ベ ー シ ョン ・リサ ー チ な どが あ る。 体 験 の共 有 とい う視 点

か らみ れ ば参 与 的観 察 を 「理 解 」 の有 効 な 方法 と考 え る こ とが で きる。 これ マー一ケティングにおける「理解」研究の方法論的考察79

参照

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