2014年 7月2日
博士学位論文審査報告書
大学名 早稲田大学 研究科名 スポーツ科学研究科 申請者氏名 吉田明日美
学位の種類 博士(スポーツ科学)
論文題目 活動記録法と加速度計法の併用により検討した女性スポーツ選手における 身体活動レベルの個人差の変動要因
Determinants of interindividual variability in physical activity level for female athletes evaluated by the combination of activity record and accelerometry
論文審査員 主査 早稲田大学教授 樋口 満 教育学博士(東京大学)
副査 早稲田大学教授 村岡 功 博士(医学)(東京医科大学)
副査 早稲田大学教授 坂本静男 医学博士(聖マリアンナ医科大学)
副査 早稲田大学客員教員 田中茂穂 教育学博士(東京大学)
スポーツ選手のエネルギー必要量は、総エネルギー消費量(
TEE
)に個々のトレーニング目 的を考慮して決定されている。これまでスポーツの現場において、TEE
は身体活動レベル(PAL
) に安静時代謝量(RMR
)を乗じて求められており、スポーツ選手のPAL
は、国立スポーツ科 学センターによって種目カテゴリー別、期別に基準となる値が示されているが、同一種目の選 手においてもPAL
に大きなばらつきがあることが先行研究によって報告されている。したがっ て、スポーツ選手のPAL
の基準値は、種目カテゴリーによって区分するよりも、食事摂取基準のように活動内容によって区分する方が望ましいと申請者は考えた。
しかしながら、これまでにスポーツ選手の
PAL
を測定した研究においては、活動内容に関す る記述が少なく、それとPAL
との関連が不明なため、PAL
の基準値の区分を検討することがで きていなかった。また、TEEを推定し二重標識水(DLW)法で妥当性を検討した報告によると、非常に大きな誤差が報告されている。そこで、申請者は本博士学位論文において、スポーツ選 手の
PAL
の基準値を、活動内容や活動時間によって区分することが適切かどうかを検討するた めに、以下に示す4つの研究課題を実施した。研究
1
では、女性新体操選手と女性ラクロス選手を対象に、1
日の活動をトレーニング中と トレーニング以外の生活活動とに分類し、それぞれの時間および活動量を調査するとともに、それらと
PAL
との関連が検討された。その結果、新体操選手とラクロス選手とで、トレーニン グおよび生活活動の時間や活動量は有意に異なっていたが、PAL
と有意に関連していたのは、いずれの種目においてもトレーニング中の活動量のみであることが明らかとなった。したがっ て、女性スポーツ選手の
PAL
を推定したり、PAL
の個人差の要因を検討したりするためには、トレーニングの時間だけでなく、トレーニング中の活動の強度を調査し、そこから活動量を求 める必要があることが明らかとなった。本研究は以下に示す学術雑誌に原著論文として掲載さ れることが決定している。
Yoshida A, Ishikawa-Takata K, Taguchi M, Nakae S, Tanaka S, Higuchi M.: Contributions of training and non-training physical activity to physical activity level in female athletes. Journal of Physical Fitness and Sports Medicine, [2014 in press]
研究
2
では、現行の測定手法では困難な、トレーニング中の活動強度別の活動時間および活 動量の評価を可能にするために、主観的運動強度(RPE)
に基づく活動記録法を新規に考案し、その妥当性が検討された。女性陸上長距離選手を対象に、トレーニング中のエネルギー消費量
(
EE
)をRPE
に基づく活動記録法によって評価し、心拍数法で評価したそれと比較したとこ ろ、活動記録法の方が有意に高値を示した。しかしながら、2法間には有意な正の相関が認められ、級内相関係数も高かった。したがって、本研究で提案した
RPE
に基づく活動記録法は、女性陸上長距離選手のトレーニング中の
EE
を評価する方法として有効であると判断された。本研究は現在、以下に示す国内学術雑誌に論文を投稿中であり、早急な受諾が期待される。
吉田明日美、高田和子、鈴木尚人、櫛部静二、礒 繁雄、田口素子、田中茂穂、樋口 満:
トレーニング中のエネルギー消費量を評価するための主観的運動強度に基づく活動記録法の提 案.体力科学
研究3では、研究2で作成した活動記録法によってトレーニング中の
EE
を、そして加速度 計法によって生活活動におけるEE
を、それぞれ評価する併用法を考案し、その妥当性が検討 された。女性陸上長距離選手を対象に、活動記録法と加速度計法を併用して評価したTEE
、活 動エネルギー消費量(AEE)、PAL
と、二重標識水(DLW
)法で求めたそれぞれの値とを比較し たところ、いずれも2
法間で有意差はなく、推定誤差も、従来の報告の半分程度かそれ以下と 小さかった。また、2
法間にはいずれも有意な正の相関が認められ、系統誤差もみられなかっ た。したがって、活動記録法と加速度計法の併用は、陸上長距離選手のTEE
を評価する方法と して有効であると判断された。本研究における、トレーニングとそれ以外の生活活動それぞれ のEEの推定に用いた方法は、いずれも、従来検討された方法より正確に推定できることが、本研究により明らかにされた点は新規性がある。また、その結果、本併用法は従来の方法より も、正確かつ高精度に陸上長距離選手の
TEE
を評価できる方法であることが示唆された点は評 価できる。 本研究は現在、以下のように英文誌への投稿が準備されている。Yoshida A, Ishikawa-Takata K, Suzuki N, Taguchi M, Tanaka S, Higuchi M: The validity of combining activity record and accelerometry to measure free-living total energy expenditure in female runners,
研究4では、トレーニング中の活動強度別の活動量を、研究3で妥当性を確認した併用法を 用いて調査された。そして、トレーニングおよび生活活動中の活動強度別の時間や活動量が、
PAL
の個人差に与える影響が検討された。女性陸上長距離選手を対象に、トレーニングおよび 生活活動中の活動強度別の時間や活動量を、活動記録法と加速度計法の併用法によって、PAL
をDLW
法によってそれぞれ評価し、それらの関連が検討された。その結果、トレーニング中 の6METs以上の高強度活動(VPA
)の活動量が、PAL
の個人差に独立して影響していること が明らかとなった。さらに、研究1においてPAL
の予測因子として報告されたトレーニング中 の総活動量と、PAL
の予測因子であることが示唆されたトレーニング中のVPA
レベルの活動 量の、PAL
の個人差への寄与率は、それぞれ65 %
と67%
であることが、本研究から明らかと なった。 これらの結果から、女性スポーツ選手のPAL
の個人差は、トレーニング中の活動量 と関連しており、特に女性陸上長距離選手においては、トレーニング中のVPA
の活動量の影響 をもっとも強く受けていることが明らかとなった。したがって、スポーツ選手のPAL
の基準値 は、活動内容、特にトレーニング中の高強度(6 METs
以上)の活動の活動量によって区分する ことが適切である可能性が示唆された。今後、スポーツの現場において、本博士学位論文において示されたこれらの新しい知見をも とに、スポーツ選手のエネルギー必要量のより正確な推定方法が提案されることになれば、様々 なスポーツ選手の望ましい身体的特性の形成や良好なコンディションの維持につながることが 期待できる。
よって、吉田明日美が申請した博士学位論文は、博士(スポーツ科学)の学位を授与するに 十分値するものと認める。
以上