博士(文学)学位請求論文審査報告要旨
論文提出者氏名 宮里 修
論 文 題 目 青銅器からみた紀元前一千年紀の朝鮮 審査要旨
本論は、宮里 修氏の博士課程修了論文である。本文は、序章に始まり終章でおわる 11 の章で構成 され、図 54、表 29、写真図版 1、文献(日本語、ハングル、中国語、英語)が付けられている。
序章から簡潔に各章についての成果と審査員の所見を述べる。
序章では、紀元前一千年紀の朝鮮における青銅器文化の形成、発展、衰退の経緯をあとづけ、朝鮮史 および東北アジア史における意義を明らかにすると方法や目的について明確に述べている。
第 1 章では、朝鮮青銅器の形成過程を東北アジア地域の流れに位置づける目的で、中国東北地方の琵 琶形銅剣を取り上げ、編年網を整備している。朝鮮青銅器との比較に備えて、銅矛、多紐鏡、銅戈、
銅鏃、銅斧を整理しているのは、用意周到である。
第 2 章は、朝鮮の銅剣を取り扱っている。まず中国東北地方との関連の中で朝鮮琵琶形銅剣の変遷 を捉えなおし、細形銅剣の成立過程を考察している。ついで細形銅剣の展開と衰退について、剣身や 把頭、剣拵を併せて検討している。朝鮮琵琶形銅剣から細形銅剣が形成される銅剣Ⅰ段階、細形銅剣 が成立する銅剣Ⅱ段階、細形銅剣が定型化する銅剣Ⅲ段階、青銅製把頭が成立する銅剣Ⅳ段階、機能 の退化した剣身と装飾化の進んだ把頭や剣拵が中心となる銅剣Ⅴ段階を、それぞれ設定している。
第 3 章は銅矛を扱い、形式分類によって琵琶形、中間形、細形、退化形を設け、段階的な移行を示 している。そして琵琶形銅矛を需要後すぐに朝鮮化し、形成期、発展期、衰退期と変化したとする。
第4章は、多紐鏡について、受容から独自化した粗文鏡の形成、細文鏡の成立と消滅をあとづけて いる。中国東北地方の遺制を残す多紐鏡Ⅰ段階、複数系列の粗文鏡が展開する多紐鏡Ⅱ段階、規格化 された細文鏡が製作される多紐鏡Ⅲ段階、複数系列の細文鏡が形成される多紐鏡Ⅳ段階、細文鏡の組 み合わせが形式化する多紐鏡Ⅴ段階に分ける。文様や製作技法を細かく論述している点を評価できる。
第 5 章は、朝鮮の異形青銅器を示し、土製鋳型による用途不明の青銅器群を取り上げる。異形青銅 器をA,B,Cの3群に大別する。A群は「貼り帯技法」による施文で剣把形銅器などを特徴とし、
B群は八珠鈴などが代表で、C群は竿頭鈴などを特色とする。3群は時期差の関係にあり、B群とC 群には分布地の移動という変化があるとして、新たに地域性と変遷とを指摘している。
第 6 章は、その他の青銅器(銅戈、銅鏃、銅斧、銅鑿、銅釶などの農耕具)を取り上げ、琵琶形銅 剣時期と細形銅剣時期に対応する時期差と地域的な分布の偏りを検討している。
第 7 章では、朝鮮青銅器の時期区分を行なう。銅剣(剣身、把頭)、銅矛、多紐鏡、異形青銅器、そ の他の青銅器を総合して、形成期、発展期1~4期、衰退期を設定している。
第 8 章は、青銅器の副葬と埋納について触れる。副葬には、個人の社会的位置が前面にでる棺内副 葬と、共同体の組織原理がより強く発揮される棺閉塞後の棺外埋葬儀礼を指摘する。埋納は、各地域 での青銅器受容期に集中する傾向を認めている。青銅器と社会との関係とを鋭く指摘している。
第 9 章は、地域と青銅器との関わりについて述べ、朝鮮半島を西部、中部、中西部、西南部、東南 部、東部、東北部の7地域に分ける。地域間に見られる青銅器の時期ごとの盛衰を明らかにし、鉄器 化の進行とともに青銅器文化が変容し衰退していったと見なしている。妥当な見解であろう。
終章では、前章までの分析結果を総合して、朝鮮初期農耕社会の発展と青銅器について論じる。
出現期、形成期、発展期、衰退期の青銅器と農耕社会の関連を、地域的な特色に触れながら述べて、
新たな歴史像を示して結論としている。
氏名 岡内三眞
以上のように本論文は、青銅器を資料として取り上げ、紀元前一千年紀における朝鮮の社会と文化 の変遷過程を明らかにした力作である。
各章のはじめにつけられた研究史のあとづけは正確で、提示した研究方法も妥当な内容である。さ らに基本資料は韓国や日本で直接たしかめて計測したうえで、提示している。膨大な資料は、今後の 研究資料として研究者に裨益するところが大きい。また緻密な分析をおこない、青銅器群を比較検討 し、総合的に考察できている点は高く評価できる。
とくに第 8 章の青銅器の副葬と埋納とは、従来の研究にない新しい研究視点を提示し、実地踏査を おこない資料化し、論述している。また第9章の地域と青銅器とは、従来の研究が不十分であった地 域性について、青銅器文化の伝播と地域的な製作技術の展開を明示し、斬新な考えを提示することに 成功している。
本論文作成のために、中国、韓国、日本の各地におもむいて実地調査を行ない、正確で丁寧な資料 化を行なっている。本文、注、文献、図版も丁寧に作成されており、本論の進め方も実証的で手堅く、
時間をかけてよく考察された優れた内容となっている。今後、朝鮮青銅器文化を論じる際には、避け て通れない必読論文と評価されよう。よって本論文は、博士(文学)の学位を授与するに値いするも のと判断する。 以 上
公開審査会開催日 2007年 12月 19日
審査委員資格 所属機関名称・資格 博士学位名称 氏 名
主任審査委員 早稲田大学文学学術院・教授 岡内三眞
審査委員 早稲田大学文学学術院・教授 文学博士(早大) 菊池徹夫 審査委員 早稲田大学文学学術院・客員教授 博士(文学)東京大学 後藤 直 審査委員
審査委員