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心音図と脈波,特に心尖拍動図について

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(東女医大誌.第40巻 第5号頁281〜287昭和45年5月)

〔綜 説〕

心音図と脈波,特に心尖拍動図について

東京女子医科大学付属日本心臓血圧砥究所

 助教授 渋  谷    実

     シブ       ヤ         ミノル

(受付 昭和45年3月17日)

Phonocardiogram and Pulsewave, Especially on Apexcardiogram       Minoru SHIBUYA, M.D.

The Heart lnstitute, Japan, Tokyo Women s Medical College

  Apexcardiograms were taken by Fukuda−MR−1 on various types of heart diseases such as mitral ste−

nosis, mitral insudiciency, aortic stenosisi idiopathic hypertrophic subaortic stenosis, ischemic heart diseases with and without myocardial infarction, and ventricular aneurysm. Phonocardiograms were taken simul−

taneouslv.

  Opening snap of mitral stenosis weil coincides with the O point of apexcardiogram, rapging O.05 to O second before the O point. The third heart sound was identified at the peal〈 o f the rapid filling wave.

The fourth heart sound coincided with the peak of  A  wave. lt was found that these methods were useful as a good reference to analyse the extra heart sounds on phonocardiograms.

  Diastolic wave and systolic wave patterns on various heart diseases were also discussed.

 心尖拍動図は心臓によって作られる胸壁の運動 を記録するものである.拍動自身は低周波振動で あり,胸腔内における心臓の拍動および心臓の各 室の容量一圧変化,すな:わち左室の収縮,容積減 少および拡張,盗満の変化を反映するものと考え

られる.

 古くより欧米では心音図の分析に,頚動脈波,

頚静脈波,心尖拍動を心音図と同時に記録して,

その分析に役立てて来た.近年心尖拍動の低周波 記録がいろいろな記録法でなされ,心動態,心運 動,心音との関連等について研究され,心機能評 価の上でも可成りの成果をあげている1)一2).

 心音図を理解する上に役立っ過剰心音との関係 および各種心疾患におけるパrタンを分析して,

下記にまとめてみる.

 記録はFukuda−UR−1を用い,心音図と同時記

録した.

      正常心尖拍動(図1)

 通常正常の人では心尖拍動は左半臥位で,呼気 の終りで呼吸を停止させた時期によく触れる.正 常心尖拍動は単一の突きあげとして触れ,心室収 縮期の最初の2/3またはそれ以下を占める.心尖拍 動図では,外側への心尖拍動は陽性波(上向波)

として記録され,初期収縮期頂点(E)となる.

E点は大動脈弁開放時または左室駆出の始まりと 一致するi) 3).収縮波の上向脚の始まりは左室収 縮の前駆三期の時期に一致する2).収縮波の前に 僅かな上向波があ.り,A波と呼ばれるが,左房収

(2)

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縮,第4音と一致する.収縮波はE波に続いてプ

ラトーを形成しll音の手前で小さい陽性波(収縮 後;期膨隆または収縮末期の肩2))を作る.次いで

拡張期に入ると,波型は底辺に達し0点と呼ば

れ,それは大体僧帽弁開放時に一致する3)。次い で急峻な上向波,すなわち急速充導波があり,皿 音と一致する.次いで緩速充温波が続き,心拍数

:が緩徐の場合にはプラトーを形成し,A波に続

く.急速早筆波は心室の活溌な拡張に際して血液 が心房から急速に流入することによるとされ3),

緩速充浴波は血液の拡張期流入が緩慢である時期 に相当する.

     心音と心拍動図との関係  1音と心尖拍動図との関係:

 1音は4つの振動成分よりなるが,正常の1音

の最初の低周波成分は,心尖拍動図の急峻な初期 収縮の上向脚の始まり(C)に一致する.高周波成 分の僧帽弁閉鎖音は0.02〜0.03秒,そのあとに続 き,僧帽弁狭窄の場合には0.05〜0.10秒も上向脚 の始まりよりおくれる.この成分はしばしば上向 脚に結節(N1)を作り,その結節と一激する.1 音の第3成分(駆出音)は大血管に血液が駆出さ れる時期と関係あると言われておるが,この成分 は心尖拍動図のE点または僅かにおくれて記録さ

.れる.

 皿音と心尖拍動図との関係:

 皿音は半月弁の閉鎖音であるが,心尖拍動図で

はE点より急峻に下降し0点に達して心室収縮は

終るが,収縮末期の肩をこえてすぐに結節(N2)

がある.この結節N2が大動脈閉鎖音に一致す

る.この結節は肺動脈弁閉鎖音との鑑別にも役立 つ(図1).

    過剰音と心尖拍動愚図との関係  4音または心房音とA波の関係(図2).

 収縮波の前にある上向波がA波で,心房の収縮 によっておこるが,A波の始まりは心電図のp波

から0.08〜0.16秒,平均O.11秒後におこる.心尖

拍動図のA波は左房収縮による左室充濫を反映す

るものであり,A波の頂点は左室の4音と一致す

る.右房は左房より早く収縮するので,A波の頂点

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         図 2

より前にある4音は二二に生じるものと考えられ る.右室領域での心尖拍動を記録すれば,より正

確に確められる.正常ではA波は全振幅(E点と

0点との垂直距離)の20%以下であり,平均8%

であるが3),A波が全振幅の15%o以上の大きさが ある時には,左室拡張終末期圧の上昇による左心 房の強い収縮の反映である3).

 大きいA波は左室肥大を伴っている場合にしぼ

しばみられるが,拡張性を欠いた固い左室の場合 にもみられる.原発性心筋疾患,虚血性心疾患,

心筋硬塞症,大動脈弁狭窄等にみられる.左室肥

大が大きいA波を作る場合には,肥大は圧負荷に

よっておこされる.例えば大動脈弁狭窄や高1血圧 一282一

(3)

の場合にみられるが,大動脈弁狭窄の場合に,大 きいA波がみられるときは,かなり高度の大動脈 弁狭窄があるとされている3).特発性肥大性大動 脈弁狭窄にもしばしば大きいA波がみられる.虚

血性心疾患で心筋のComplianceが低下している 場合,また心筋硬塞後にも大きいA波がみられ

る.この場合の大きいA波はやはり虚」血心筋壁の 十分な拡張性の欠如による左室拡張終末期圧の上 昇のためである.

     僧帽弁開放音と心尖拍動図

 正常では房室弁開放時に,その音はきかれない が,僧帽弁狭窄症では,その弁の開放時に開放音

(Opening snap)としてきかれるe開放音は左

胸骨縁下部できかれ,心音図で記録してみると,

II音開放音間隔は,0.06〜O.13秒である.皿音が 固定分裂する場合,肺動脈閉鎖成分が開放音とま ぎらわしいことがある。また僧帽弁閉鎖不全の場 合の皿音が開放音とまぎらわしいことがある。こ のような場合に心尖拍動図と心音を同時記録して

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みると,僧帽弁開放音は大体0点と一致する.正 確には僅かの間隔 (0.05 〜0 )で前後する.

開放音は常に急速充盗波の頂点に先行する (図

3).

      1∬音と心尖拍動図

 皿音の臨床的意義は,心室が柔軟であり,急速 に拡張できる状態である、拡張初期の急速流入に

Mitralエnsutficiency

         図 4

応じて,心室が拡張し延長する時に,chQrda ten−

dineaeや僧帽弁が突然緊張し,その結果出るもの と考えられるが,高拍出性心疾患(例えば甲状腺 機能尤進症,貧血等)や完全房室ブロック,僧帽弁 閉鎖不全症の時にみられるような拡張初期の左室 充濫量が増加した場合,心不全や左→右短絡によ る容積負荷による心拡大のある場合等に皿音はき かれる.心音図でIII音は容易に見分けがっくし,

また聴診上でも聴き分けられることができるが,

心音図では9音一皿音間隔は0.10〜0.20秒である.

 心音を心尖拍動と同時記録すると,平群は急速 充濫波の頂点に一致する.また急速四温波は急峻 な頂点を作る(図4).

 右心不全があると皿音は右室より出る.この場 合心音図のみで鑑別することはしばしば困難なこ とがある.心尖拍動図と同時記録すると,右心不 全の場合の右心の皿音は正石川こは心尖拍動図の急 速四温波の頂点と一致しない、このような場合に は,左胸骨下縁で右室で占められている場所の拍 動を記録すると,更に確認が得られる.

  重複ギャロップ(Summation Gallop)

 皿音とIV音(心房音)が一緒に存在する場合,

心搏数が多くなると,馬継とIV音が重複して大き い音になる.この場合を重複ギャロップと呼ばれ るが,臨床的意義は皿音とIV音とを加味したもの である.心尖拍動図と同時記録すると,皿音成分

(4)

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     心筋硬塞

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は急速充濫波の頂点に一致し,IV音成分がA波の 頂点と一致し,重複ギャロップは両音が一致して

いることが理解される(図5).

  心尖拍動の拡張期心室充溢のパターン

 僧帽弁狭窄症と心尖拍動図.

 僧帽弁狭窄症の開放音は心尖拍動図の0点に憎

致するが,それに続いて急速充三十,緩速充盗波

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が続き,心室充濫の終りを示す血行停止波(StaL sis wave)に終る.僧帽弁狭窄症では,急速充溢 波はしばしぼ短縮し,減少する.僧帽弁狭窄が強

くなると,急速充温波の継続は短かくなる7)10)

(0.06秒以内).正常の急速充濫波は有意な僧帽弁 狭窄の存在を否定し得る.図6に示す如く,僧帽 弁狭窄症は急速充温波が明瞭でなく,緩速充温波

の継続が長くなる.僧帽弁一切開術後には急速充 濫波がみられてくる.

 僧帽弁閉鎖不全症と心尖拍動図(図7).

僧帽弁閉鎖不全または,閉鎖不全優位な僧帽弁狭 窄兼閉鎖不全症では急速充盗波は正常かしばしば 急峻であり,緩速丁目波に移行する手前で下方ぺ のひきこみがある.急速充温波の頂点は皿音と一 致する.緩速訴訟波は短く,血行停止波にすぐに 移行する7)10).この心尖拍動図は僧帽弁狭窄症に みられるパターンと対照的で,収縮期および拡張 期雑音を伴った僧帽弁膜症で狭窄が強いか,閉鎖 不全が強いかの鑑別に立つ.

 心筋硬塞症と心尖拍動図

 前述の急峻な急速充臨画を伴う場合には拡張初1 期に心室は柔軟で急速な外側への拡張しうる状態

を示しているが,他方冠動脈硬化症,心筋硬塞

症,圧力負荷による心筋肥大を伴った固い心筋で・

は,上述のような拡張の仕方はできない.心筋硬.

塞後には心筋の弾力性は失われ,心尖拍動図で は急速充盗波は明瞭でなく(図8うン緩速充白波に.

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       図 9

移行する.その代りにA波が著明となる.     の弾力性の消失が,前述と同様の拡張の仕方を行       心室瘤と心尖拍動図         なう.心尖拍動図では,急速充濫波は明瞭でな

 心室瘤のほとんどは心筋硬塞後に発生するもの   く,緩速充丁丁に移行する.A波は著明である.

である.冠動脈硬化症および心筋硬塞による心筋   急速充温波の継続は短い(図9).

(6)

         収縮波

 心室収縮は正常の場合,心尖拍動図では心尖拍

動は陽性波として記録され,収縮(C)に始ま

り,初期収縮頂点(E)となり,プラートを形成 しll音の手前で小さい陽性波の肩を作り,拡張初

期の0点に達する.心尖拍動図で収縮波の型は記

録方法によって,いろいろ変ることがある.

 圧力負荷による左室肥大の場合,例えば高血圧,

大動脈弁狭窄で左室駆出に続いて(E点),収縮プ ラトー波を形成する(図10).すなわちE点に続い

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て正常の下向波がおこる部分にプラトー波を作

る.特発性肥大性大動脈弁下狭窄では,収縮中期 に膨隆を作り,それが心雑音と一致する(図11).

この収縮中期収縮波は収縮中期になって,流出障 害がおこり,収縮期容積減少の障害が外側への収 縮波となる12).収縮末期のH音に近い部分の膨隆 は正常人でもみられる.

 心室瘤(図9)では右図の如く,収縮期膨隆が

ひろがり,ll音の手前に頂点を作る.すなわち,

単相性の収縮波で,上向もゆるやかであり,E点

も不明瞭である8).また左図の如く,ll音の手前 で収縮末期の膨隆を作ることもある.

 心筋硬塞(図8)では収縮末;期に小さい上向波 による膨隆が二音の手前にみられる.

         A 波

 正常人ではA波は全振幅(E−0距離)の20%

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      図 12

(7)

以下で,平均均8%である3)13).A波が15%また はそれ以上の振幅がある時.は,左室拡張末期圧上 昇に伴って左房が強く収縮することを意味する.

この大きいA波はしぼしぼIV音を伴い,このよう な場合には,左室肥大か拡張性を欠いた固い左心 室の場合である.心室線維化または虚血が後老の 例である.

  大動脈弁狭窄(図10)では大きいA波がみら れ.るが,高度ρ)症例にみちれる1)11)12).特発性肥 大性.蜩ョ脈弁下狭窄(図12)では,弁性狭窄より も大きいA波がみられるが,もしA..波がみられな い場合にはその疾患を否定し得る14).

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図 13

  動脈硬化症でしぼしぽ大きいA波がみられ,特 に狭心症や異常心電図所見を伴った症例にみられ る13)(図13).大きいA波は左室拡張末期圧の上 昇と相関し,虚血心筋の拡張性.を欠く結果であ

る。

  僧帽弁狭窄は,.左房よ.り.左室への血液流入の障

害であるが,A波の大きさは減少する.したがっ

て僧帽弁狭窄では異常に大きなA波はみられず,

も.し僧帽弁膜症や連合弁膜症で大きいA波がみら れる場合には,僧帽弁狭窄は除外し得る.

      文  献

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