「2007年度信州フィールド科学賞」特集
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2∼7 高標高域に存在する多様な森林生態系の存続機構の解明と将来予測 サイモンフレーザー大学 森 章 福島県いわき市郊外山域のチョウ類群集の多様性 福 島 県 立 勿 来 高 等 学 校 理 研 部 上高地・穂高屏風岩が与えてくれたこと 東 京 石 灰 工 業 株 式 会 社 前 田 孝 明 カナダ東部の分布北限のブナ・カエデ林の更新動態 山 岳 環 境 科 学 部 門 高 橋 耕 一 北米冷温帯針葉樹林の林冠動態―巨木の森の生態学― 神 戸 大 学 農 学 研 究 科 石 井 弘 明 シベリアのカラマツタイガの森林発達過程と永久凍土環境 森林総合研究所九州支所 梶 本 卓 也広報・コラム
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 平成19年度信州大学放送公開講座「信州の山と人々の暮らし―山岳科学の創造―」のご案内 表紙の写真:カナダ南東部のモン・セント・レイヤー自然保護区 山 岳 環 境 科 学 部 門 高 橋 耕 一2007年 1
2月
第8号
山
山
岳
岳
科
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学
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総
総
合
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研
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究
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所
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C o n t e n t s
高標高域に存在する多様な森林生態系の存続機構の解明と
将来予測
「信州フィールド科学賞」受賞 サイモンフレーザー大学森
章
現在多くの地域で森林の衰退が認められているが、山 岳地域には天然性の森林が比較的多く残されている。高 標高に位置する亜高山帯の森林生態系は、とても特徴的 な条件下で成立している。たとえば、亜高山帯の森林は 長い間、時には半年以上もの間、積雪に覆われている (図1)。そこには、雪とともに暮らしてきた樹木がい る。今後、気候の変化に伴って、雪の量が増えたり減った りすると、そのような樹木はどうなってしまうのだろう か?2007年、 気候変動に関する政府間パネル(Intergovern-mental Panel on Climate Change)は、山岳地域の 積 雪 量が近年急速に減少していることを報告した。山岳地域 の植物は、各地域それぞれに特有の積雪環境に順応し、 適応してきたために、急激な積雪量の変化は、植物個体 や群落に大きな影響を与えてしまう。 また、森林では、台風・火事・雪崩などといった樹木 や森林そのものを大きく破壊するイベント(自然撹乱; Natural disturbance)が時 折 発 生 す る(図2)。こ れ ら のイベントは、森林を新しく生まれ変わらせる、自然な 現象である。しかし、亜高山帯林における自然撹乱体制 は、気候変化により今後大きく変わることが示唆されて いる。温暖化に伴い火事が続発したり、台風の発生パ ターンが変化したりするかもしれない。そうすると、亜 高山帯の森林の姿はまったく異なったものになってしま う可能性が高い。 急速な気候変化や環境の人為改変が叫ばれる今、亜高 山帯の森林生態系は今後どのように変わっていくのだろ うか?それを知るためにも、亜高山帯林がどのような環 境下でどのように成立しているのか、亜高山帯の樹木が どのように生育しているのかを知ることは重要である。 これによって、現在予測されつつある環境や気候の変化 に伴って、亜高山帯の樹木や森林が、どのような反応を 示すのかを推定することが可能となる。 山岳地域は、地球上の土地面積の24%を占め、特に、 全森林のうちの28%を内包している。山岳地域の森林 は、陸域のみならず海域を含めるさまざまな地域の生態 系や生物相が健全な状態で存続するために、とても重要 な役割を果たしている。しかし、亜高山帯林をはじめと した山岳地域の生態系は、特有の厳しい環境条件下にあ るために、環境変化に敏感で、非常に脆弱な生態系であ る。これらの貴重かつ脆弱な生態系や地域のよりよい保 全のために、私たちができることを考えていかなければ ならない。 図1.雪に覆われた亜高山帯針葉樹林(御嶽山) 図2.火事後の森林(カナダ・クートニー国立公園)石森山
水石山
仏具山
調査地の位置福島県いわき市郊外山域のチョウ類群集の多様性
「信州フィールド科学奨励賞Ⅰ種(高校生)」受賞 福島県立勿来高等学校理
研
部
この度は栄誉ある「信州フィールド科学奨励賞」を授 与いただき、ありがとうございます。部員一同、さらに 研究に励まなくてはならないと身の引き締まる思いで す。今回の賞は、福島県立勿来高等学校理研部が顧問の 永田斉寿の指導の下、2004年から継続して調査を行って いる福島県いわき市郊外山域のチョウ類群集の多様性に ついての研究を評価して頂きました。 つぎに研究内容について述べます。2004年4月から 2005年10月初旬まで、福島県いわき市郊外山域でチョウ 類群集の多様性について研究を行いました。市内3地域 において、トランセクト法によるチョウ類調査を行いま した。調査の結果、3地域全体で8科69種3844個体が確 認されました。環境省(2000)のレッドリストの準絶滅 危惧種2種を確認できました。また、分布地域を北上東 進しているツマグロヒョウモン、アオスジアゲハ、モン キアゲハ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミも確認され ました。3地域はすべて種数が多く、平均多様度も高 く、環境指数(EI)と環境階級存在比(ER)による環 境評価も高い値が得られました。また、森林地帯の撹乱 が少ない環境に出現しやすい森林性スペシャリストが、 各地域とも10種前後確認でき、3地域ともチョウ類群集 にとって良好な環境であることが示唆されました。 さらに2005年には成虫の食物資源利用様式についても 調査を行いました。その結果、成虫の利用餌資源は、調 査3地域を通じて45種類が確認され、その内、43種類が 植物でした。43種の植物の内訳は、草本が32種、木本が 11種でした。よって利用された成虫の食物資源のほとん どは植物種で、特に多年草などの草本植物がよく利用さ れていることが分かりました。したがって、草本植物は 最も重要な成虫の利用食物資源であると考えられます。 つぎに成虫の食性幅は、種間によりかなりの違いが見ら れました。成虫の食性幅と幼虫の潜在食性幅の間には有 意な関係は認められなく、成虫の食性幅と化性(1年間 に世代を何回か繰り返す性質)の間にも有意な関係は認 められませんでした。一方、成虫の食性幅は平均密度と の間に正の相関が認められました。チョウ類群集の多様 性の維持のためには、広葉樹が主体で、草本植物の多い 林縁や空地がある森林を保全することが必要であると考 えられます。 2006年4月∼10月初旬までは、福島県いわき市郊外に ある石森山におけるチョウ類群集の多様性と植生種数と の関係を解析することを目的として、トランセクト調査 を行いました。調査の結果、チョウ類群集の種数や多様 性は、生息環境の種子植物や幼虫ホスト(幼虫の食餌植 物)の種数と密接な正の相関が見られました。チョウ類 群集の種数や多様性は、木本植物の種数とは相関は認め られませんでしたが、草本植物の種数とは強い正の相関 が見られました。また、幼虫ホストの場合も同様な結果 が得られました。したがって、チョウの食物資源(幼虫 の食餌植物・成虫の蜜源植物)の豊富さが群集の多様性 決定の重要要因であることが示唆されました。 これまでの調査・研究の成果については、各種発表 会、本校理研部ホームページ等で、地域の人々をはじめ 多くの人々に情報を提供しています。今後は、今回の表 彰を励みとし、さらに地域の人々と交流を図り、環境保 全意識の普及と啓発に努めたいと考えています。 本研究を行うにあたり、貴重なご助言を頂いた山梨県 環境科学研究所動物生態学研究室室長の北原正彦主任研 究員をはじめとする諸氏に厚く御礼申し上げます。上高地・穂高屏風岩が与えてくれたこと
「信州フィールド科学奨励賞Ⅱ種(卒業論文)」受賞 東京石灰工業株式会社前田
孝明
この度、「信州フィールド科学奨励賞Ⅱ種」に選定し ていただき大変光栄に感じている次第です。今回のこの 受賞は、「決して私一人では受賞できなかった」と思っ ております。指導教員の原山教授はじめ、同研究室の先 輩方々のご助言やご指導、フィールド調査中に出会った 北アルプスを愛する多くの人々の暖かい挨拶などが、何 よりフィールド調査を進める励みになり、穂高屏風岩に ついての卒論をまとめることができました。卒論を書く にあたって私に関わってくださった皆さまに、この場を 借りて感謝申し上げます。 私が卒業論文の研究テーマとしていた穂高屏風岩(以 下屏風岩)とは、北アルプス南部の上高地地域を流れる 梓川上流(横尾谷)にそびえ立つ高度差600m の大岩壁 のことです。屏風岩のメイン岩壁である東壁・北壁・中 央壁は、奥又白花崗岩という 花崗岩(一般的には御影石と 呼ばれている岩石)で形成さ れています(写真1)。 屏風岩の最終的な地形形成 は、第四紀の山岳氷河によって形成された氷蝕地形(五 百沢,1979)とされています。しかし、同じ花崗岩が屏 風岩を含めて周辺には広く分布しているにも関わらず 「なぜ、屏風岩だけ風化に耐え大絶壁を形成しているの か?」そんな単純な疑問から私の研究は始まったので す。 研究対象が屏風岩だけに、ほとんど調査研究はされて おらず、「まずフィールド調査」が第一歩でした。調査 中、「ハンマー持って何しているの?」「頑張って屏風岩 のこと調べて下さい。」など多くの登山者の皆様に声を かけて頂き、テント生活もしながら調査を進めました。 「あと少しで河童橋!」と思いながら重いリュック(岩 石が詰まっているため)を背負って調査後の長い帰路を 歩いたことは、今では良き思い出です。変わりゆく上高 地の四季を肌に感じながら調査できたことは、ある意味 幸せでした。 野外調査やサンプリング、薄片観察(岩石を薄く削り 偏光顕微鏡で光学的に観察する)により、屏風岩を形成 する花崗岩は、岩石組織において明らかに周辺の花崗岩 と異なった組織をしていることが解かりました。周辺の 花崗岩は、岩石を構成する鉱物に微小な割れ目(マイク ロ・クラック)が多数発達していますが、屏風岩を形成 している花崗岩はその微小割れ目が、熱水変質鉱物や鉱 物の破片粒子で充填され堅硬緻密な花崗岩となっていま す(写真2)。微小割れ目を充填している熱水変質鉱物 を晶出させた熱水(熱水といっても高温で約300℃以上 の気体)は、現在屏風岩がせり立つ地域を中心に作用し たと考えられます。その熱水は、屏風岩のすぐ東側に分 布する屏風ノ頭文象斑岩(高温岩体)という半深成岩 (比較的地下浅部でマグマが貫入し固結した岩石)によ りもたらされたと考えられます。 この緻密な岩 石 組 織 が、屏 風 岩 を 形 成 す る も と(地 形 物 質)と な り、周辺の花崗岩との岩石物 性 の 差異と氷蝕作用により、現在 屏 風 岩が大絶壁を形成するに至っていると考察しました。 地形と地質は一見繋がりあるようで、実際はこうした 岩石物性(特に岩石組織)と地形との関係を論じた研究 はほとんどありません。屏風岩はそうした新たな視点と 考察を与えてくれた「自然の不思議」であります。 フィールド調査は地質学に関わらず、こうした自然科 学を研究する分野では、基本でありながら最も重要だと 思います。上高地・穂高屏風岩のフィールド調査から私 が得たものは、単に研究結果だけでなく、自然科学に対 する興味疑問・多くの人との出会い・自ら考え行動する こと・時に忍耐など、私の今後の人生においてプラスと なる大切なことばかりでした。 現在は、栃木県の石灰石鉱山で、大学で学んだ地質の 知識経験を活かし鉱山開発の業務に携わっております。 今後は「北アルプスのように多くの人々に愛される人 間」を目指し、自分を磨いていきたいと思っています。 写真2 写真1カナダ東部の分布北限のブナ・カエデ林の更新動態
山岳環境科学部門高橋
耕一
一つの林は通常、複数の種から構成されている。つま り多種が共存しているのである。しかしなぜ共存できる のか、その答えを導くのは容易なことではない。大腸菌 2種を用いた古典的な競争実験から、同じ資源を利用す る複数の種では、必ず競争に強い種が弱い種を排除する ことが知られている。しかし、実際には自然の生態系で は多数の種が共存している。このことから、明らかに実 際の生態系はもっと複雑であり、競争だけでは共存は説 明できないことを示している。 北アメリカにはアメリカブナとサトウカエデという落 葉広葉樹が広く分布し共存している。森林生態学が発達 した北米を代表する樹木のため、この2種の共存につい ては30年ほど前からかなりの研究がなされ議論されてき た。私は運良く日本学術振興会のサポートを受けること ができ、モントリオールの McGill 大学に滞在して、こ の問題に取り組むことができた。モントリオール付近は アメリカブナとサトウカエデも含めて落葉広葉樹の分布 北限となっている(表紙写真)。このことは、また私に とっては興味深いものであった。 アメリカブナとサトウカエデの共存については、いく つかの説があるが、その代表的なものは、攪乱仮説であ る。樹木は大きなものでは樹高20m 以上になるが、し かし、最初は小さな種子からスタートし稚樹期を経て、 林冠木へと成長する。林冠木になるまでは暗い林内で耐 える必要がある。なぜ耐えなければならないかといえ ば、それは植物の光合成には光が必要だからである。そ のため、実生・稚樹期は樹木の生活史の中ではもっとも 過酷な時期であり、ほとんどの個体はこの時期に枯死す る。暗さに耐える能力を耐陰性と言う。そして、この耐 陰性は樹種によって異なるのである。また、いくら耐陰 性が高くても、暗い環境でにょきにょきと伸びることは なく、上層の林冠木が枯死するのをひたすら待ち続ける のである。ひとたび上層が開き林冠ギャップが形成され ると、ここぞとばかりに稚樹たちは一気に成長を開始す る。しかし、この成長速度はまた樹種によって異なって いる。攪乱仮説とは、アメリカブナは耐陰性は高いが明 るい林冠ギャップでの成長は低く、一方、サトウカエデ は耐陰性は低いが林冠ギャップでの成長は高く、この種 差によって2種の共存が保たれているのだろうという説 である。 闇雲に調査するわけにも行かないので、とりあえず、 この仮説を検討することにした。しかし、結果は今まで の言われていたこととは異なり、どんな光環境でもアメ リカブナの方がサトウカエデよりも成長が高かった。つ まり、このままでは共存どころか、サトウカエデの方が アメリカブナによって排除されかねない。そこで、現地 を詳しく観察してみると、アメリカブナは斜面下部に、 そしてサトウカエデは斜面上部により多く分布している ことが分かった。確かに文献を調べてみると、サトウカ エデの方が乾燥した場所を好むようであった。通常、植 物は種子によって繁殖するが、アメリカブナは根萌芽と いって、根から栄養繁殖することが知られている。根萌 芽は親個体から養分をもらうため、種子由来の個体より も成長が高い。しかし、親の根元からしか更新できない 欠点を持つ。つまり、アメリカブナは自分の周りではサ トウカエデを寄せ付けることなく更新できるが、遠くに あるサトウカエデを駆逐することができない。つまり、 2種は排他的に分布することによって共存しており、ま た、さまざまな土壌水分環境が2種の競争能力に影響す ることで、さらに共存域を広げている仮説が考えられ た。実際にデータを取って解析してみると、この仮説は 支持された。 同じ樹種でも場所が違えば、生態的な特性は変化す る。分布北限の林で攪乱仮説が支持されなかったのも、 これが一因であろう。調査した分布北限の林ではアメリ カブナの根萌芽が共存に重要であったが、文献調査をし てみると、実は高緯度や高標高地域でアメリカブナは種 子ではなく根萌芽によって多く繁殖することが分かっ た。なぜ北の方で萌芽の割合が増加するのか、その理由 は分からない。しかし温暖化は繁殖過程を通して、分布 北限のアメリカブナとサトウカエデの共存に影響するか もしれない。北米冷温帯針葉樹林の林冠動態
―巨木の森の生態学―
神戸大学農学研究科石井
弘明
北米大陸の北西海岸、ちょうどアメリカとカナダの国 境付近を中心とした地域には、冷温帯多雨林(cool−tem-perate rainforest)と呼ばれる巨木の森が存在する。樹 高が100m 以上で世界一の樹種であるレッドウッド(Se-quoia sempervirens)や体積世界一のジャイアントセコ イ ア(Sequoiadendron giganteum )な ど の 巨 木 を は じ め、地上部現存量が世界一大きいダグラスファー(Pseu-dotsuga menziesii)林が分布する。この地域では、太平 洋から流れ込む湿った空気が大陸西部の山脈にぶつか り、大量の雨を降らす。同様の気候帯は太平洋の反対 側、オーストラリア大陸の東海岸にもみられ、ビクトリ ア 州 や タ ス マ ニ ア 州 で は 樹 高90m を 超 え る セ イ タ カ ユーカリ(Eucalyptus regnans)の森林がみられる。豊 富な雨が巨木の森を育んでいる。 巨大な森に一歩踏み入ると、自分がとても小さくなっ てしまったような錯覚に陥る。そして、樹木はどこまで 高く、大きくなれるのだろうか?世界一大きな生物体を どのようにして維持しているのだろうか?という疑問に とらわれる。これまで、巨木の森の林冠は前人未到の世 界であったが、ゴンドラクレーンやロープ登法を用いた 調査により、樹上の世界が明らかにされつつある(図)。 樹高100m を超えるレッドウッドの場合、重力に逆ら って梢まで水を汲み上げることが非常に困難であるた め、梢の葉は砂漠の植物と同じくらい水分不足である。 水分不足は形態形成や光合成など様々な生理機能に支障 をきたすため、梢の葉は地上付近と比べて矮小化してい る。ジャイアントセコイアにおいても同様に巨大な樹体 の隅々まで水分を輸送することは困難であり、梢や枝先 端の葉は水分不足になっているため、成長が制限されて いる。巨木は巨大化することによって生じる生理的制限 によってやがて成長が止まる。 巨木は、巨大であると同時に長寿でもある。200年程 度で最大サイズに達した後も生き続け、1000年以上の寿 命を全うする。成長が低下すると、巨木は葉や枝を再生 し始める。梢や枝先の成長が低下あるいは損傷すると、 庭木の枝を剪定した場合と同じように、幹や枝の基部か ら萌芽と呼ばれる芽生えが生じて枝葉が再生される。巨 木は萌芽による絶え間ない再生によって、強大な樹体を 維持している。 巨木の森は約300年に一度の森林火災から600年以上に およぶ遷移過程を経て、成熟した原生林となる。しか し、永遠のように思われる巨木の営みも、人間による開 発や環境変動に脅かされている。レッドウッドやジャイ アントセコイア、ダグラスファーの原生林のほとんどが すでに伐採されてしまった。人間の寿命をはるかに超え て生きてきた希少な巨木の森を保護することが私たち小 さな人間にできる最小限のことではないだろうか? ゴンドラクレーンとロープを用いた林冠調査シベリアのカラマツタイガの森林発達過程と永久凍土環境
森林総合研究所九州支所梶本
卓也
北半球の高緯度地域の亜寒帯林は、2つのタイプに大 別されます。ひとつは、北欧やアラスカ、カナダに分布 する常緑針葉樹(トウヒ、マツ、モミ類)の優占する常 緑タイガです。もうひとつは、中央及び東シベリアに広 がる落葉タイガで、カラマツの近縁2種(Larix gmelinii, Larix cajanderi)がそれぞれ優占し、明るいタイガある いはカラマツタイガなどと呼ばれています。これら2つ のタイガには、ともに寒冷な環境なため森林の生産力が 低く、また山火事で森林が一斉に世代交代するなど、幾 つか共通点があります。しかし、両者には立地条件に大 きな違いがあり、シベリアの落葉タイガが永久凍土の連 続分布域に成立しているのに対して、常緑タイガは凍土 があっても不連続かまったく分布しない地域に成立して いる事実です。 私はこれまで10年以上にわたり、中央シベリア(ツ ラ)で、カラマツタイガの生態について日露多数の研究 者と共同研究を行ってきました。その結果、この凍土地 帯では、森林の発達様式が常緑タイガや他の森林生態系 と比べるとかなり異なることがわかってきました。 調査地周辺では、カラマツの成長は山火事による更新 直後しばらくは旺盛ですが、30∼40年もたつと一斉に成 長が低下し、その後バ イオマスもあまり増え なくなります。また、 この頃から集中的に枯 死が起こりますが、そ の際小さい個体だけで はなく、初期成長が良 く大きめの個体もかな り枯死します。そして 100年生ぐらいの成熟 した林になると、樹冠 が空いたすかすかの疎 林になってしまいます (写真1)。一方、カラマツの根系は、土壌表層で水平 方向によく発達し(写真2)、成熟林では樹冠(投影面 積)よりも3∼4倍広がっています。地上部は疎林なの に、地下部は根系によってほぼ閉鎖しています。これら の事実は、この凍土地帯では、ある時期を境に個体の成 長が光よりも土壌資源(養分)の制限でおもに支配され ていくことを物語っています。 亜寒帯林は、常緑、落葉タイガともその土壌は一般に 貧栄養で、とくに窒素が不足気味です。シベリアのカラ マツタイガでは、こうした土壌養分の制限が森林の発達 に伴いさらに顕著になるようです。そのために成長があ る段階になるとばったり止まったり、大きめの個体でも 枯死してしまうと思われます。そして、生き残った個体 は、根の成長に光合成産物を多く配分し、樹冠よりも根系 の発達を優先させて養分不足に対応しているようです。 では、なぜ土壌養分の制約がある時期から顕著になる のでしょうか。永久凍土といっても、毎年夏だけ土壌表 層の一部が融けます。この部分は活動層と呼ばれ、そこ に供給される融水や養分によってカラマツや他の植物は 生育できます。このいわば生命線にあたる活動層は、そ の厚さがじつは森林の発達に伴って変化します。中央シ ベリアの調査地では、活動層は山火事直後は1m 以上 といったんかなり厚くなります。しかし、やがて地衣や コケ、低木類などの下層植生が回復して地面を覆うと、 その断熱効果で地温が下がって活動層は急激に薄くなり ます。同時に、もともと不足気味の土壌養分も、その生 成量は低下し、根が吸収できる量が制限されていきま す。このように、活動層をとりまく一連の土壌の物理、 養分環境が、森林の更新後数10年頃には急激に悪化する ことが、個体の成長や森林の発達自体に強く影響してい ると考えられます。 今回の記念シンポジウムでは、こうした話を中心にシ ベリアの落葉タイガの特徴について紹介しました。熱帯 林や温帯林、さらには同じ亜寒帯林でも非凍地帯の常緑 タイガと比べると、その森林の発達様式が凍土地帯特有 の土壌環境の時間的変化と密接にリンクしている点で、 世界的にも興味深い森林生態系と言えます。 写真1 中央シベリアのカラマツ林 写真2 成熟林のカラマツの根系平成20年1月から、SBC 信越放送にて平成19年度信州大学放送公開講座が放送される予定です。 今年度は山岳科学総合研究所の担当により、下記の内容でお送りいたします。 お詫びと訂正 7号の表紙の右下写真は ケ シ ョ ウ ヤ ナ ギ で は な く、エゾヤナギの若木の 幹でした(上高地で若木 の枝が白くなるヤナギに はケショウヤナギのほか に エ ゾ ヤ ナ ギ が あ り ま す)。お詫びして訂正い たします。
表紙の写真:カナダ南東部のモン・セント・レイヤー自然保護区
3G²ÃH]jfáÚêGrxit\$u.QµB{®IDGC3UF)S Mont St#Hilaire B)S"3G)=R H!ÏÇHÎÂ!ÒËB)?=H:B)S/!²ÃGC-REIDFîÒHÉAäÒCE?A*S"]jfC*+ C¯È/¨5TA*SYq$c/)S/!=C,]jfC*,DNÆ!H.ER»E*P+B)S"3GðRBHäÒ FEQE*P+EþÒËFÂ!/.U+8A¨?A*SÖØB)S"3G Mont St#Hilaire F McGill ÎG Gault Na-ture Reserve /)S"éÒàFHÎG Research Station /)RÊÄGdegm/½Ô7A-R!J=FHƱ· OݾìGEDFýù5TA*S"33BHXqt]njCaiZ][hWÓÁF7=íèóGüú ú¶!/ /?A-R!ÄÊ1GÅW¼2A*S"J={å«öFNñ5TA-R!HlY^x`!ÙH_wd]xi t$d^$Gy³/ÊÄòTA*S"E-!3GðRH.@AHçFëVTA*="Mont St#Hilaire GP+FîÒ FßÈC/¹7A*SGH GçG}><+B)S" &§êø ¥¢{' 山岳科学総合研究所ニュースレター 第8号 発行日:2007年12月18日 発行責任者:鈴木啓助 編集・発行:信州大学山岳科学総合研究所 情報企画チーム 〒390―8621 長野県松本市旭3―1―1 TEL:0263―37―2342 FAX:0263―37―2560 E-mail : [email protected] 掲載されている内容全ての無断転載を 放送日(予定) タ イ ト ル 担 当 1 1月19日(土) 16:00∼16:30 上高地の魅力∼動植物にみる∼ 山 岳 科 学 総 合 研 究 所 長 鈴木 啓助 山 岳 環 境 科 学 部 門 高橋 耕一 山 岳 環 境 科 学 部 門 東城 幸治 2 1月26日(土) 16:00∼16:30 中央アルプスの自然と営み 地 域 環 境 共 生 学 部 門 中村 寛志 地 域 環 境 共 生 学 部 門 岡野 哲郎 3 2月2日(土) 15:30∼16:00 山の災害∼浅間山の噴火と岡谷土石流災害∼ 山 岳 環 境 科 学 部 門 三宅 康幸 農 学 部 教 授 北原 曜 4 2月9日(土) 16:00∼16:30 諏訪湖の水質浄化と生態系の変化 山地水域環境保全学部門 花里 孝幸 5 2月16日(土) 16:00∼16:30 湖が記憶する信州の気候変動 山 岳 環 境 科 学 部 門 公文富士夫 6 2月23日(土) 16:00∼16:30 信州の山岳信仰∼小菅山∼ 山 岳 文 化 歴 史 部 門 笹本 正治 ï¸FÍ,A%% ÛºG÷|C7AÜ0ªMA(âIDFER J9/!3GØ×G=M!¨ãE/QÌ¿9S3CCERJ7="ks$ dve$G︦BH{Þ³C7AN§GõÿG{ÑFÀTS3C /B0!J=!©G{B¼¥ÒO¬¥F£?=R!bxocZpG ¤~W-Õ09S3C/B0=RC!71©W5;A*=>0J7=" ks$dve$W-ÞK1>5?A*S5J!<7A1¡°æzûF ,A1>5?=°æ³G5JFÁPR´*=7J9"Ð*B7= /!ôÛFD+N)R/C+46*J7="&L' ケショウヤナギの若木の幹