平成
27 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ
Piceatannol の合成
Synthesis of Piceatannol
薬化学研究室 6 年
10P003 姉崎 寛
(指導教員:本澤 忍)
要 旨
Resveratrol は天然に存在するポリフェノールの一種で抗酸化作用、抗炎症作用、抗ガ
ン作用など多くの有用な作用が知られている。Resveratrol の類似構造を持つ
piceatannol についても、そのような効果を持つのではないかと期待されているがまだ明ら
かになっていないことが多い。それは、piceatannol の植物中における含有量がわずかで
あり、単離が困難であるためである。そこで
piceatannol の生理作用の研究に対するサンプ
ル提供を目的として、効率的な合成に着手した。
キーワード
1.Piceatannol 2.resveratrol
3.ポリフェノール
目 次
1.はじめに
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1
2.これまでに報告されている
polyphenoic stilbene 誘導体の合成方法
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2
3.ピセアタンノールの合成方法
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3
4.おわりに ・・・・・・・・・・・・・
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謝辞
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引用文献
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実験の部
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1.はじめに
ポリフェノールは分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基構造を持つ植物成分の総称である。 植物は、日々日光を受け光合成することでエネルギーを得ているが、その過程で細胞中に活性 酸素が蓄積していく。それらを除去する目的でポリフェノールを産生していると考えられている1)。 レスベラトロール(resveratrol, 1, 図 1)は天然のポリフェノールの一つでありブドウ、ピーナッ ツなどの70 以上の植物から単離されている。 レスベラトロールは、2003 年に Sinclair らによりカロリー制限により sirtuin(Sir2)と呼ばれる NAD⁺依存性タンパク質脱アセチル化酵素が活性化され、DNA の安定性を増大させることで、細 胞の寿命が 70%延長されると報告された 2)。この報告によりレスベラトロールの細胞の延命効果 が期待され多くの研究が進められた。2006 年にも Sinclair らから sirtuin の活性化が見られたと 報告された3)が2009 年に Beher ら4)により直接活性化しないということや2011 年 Burnett らの 疫学研究の結果により死亡率に影響を及ぼさなかったと報告されており 5) 細胞の延命効果につ いてはまだはっきりとわかっておらず今も論議されている問題である。 現在、報告されている作用に心疾患、神経変性疾患、ラジカル消去、抗ウイルス作用、抗炎症 作用など多くの有用なものがある6-11)。 図1.Resveratrol (1) および piceatannol (2) の構造 近年、レスベラトロールよりも抗酸化作用が高いとされるピセアタンノール(piceatannol, 2) が 注目されている。ピセアタンノールもまた polyphenolic trans-stilbene 構造の化合物であり、レ スベラトロールの類縁体である。ピセアタンノールは1963 年 Cunningham らよってトウヒの樹皮 から構造が同定された12)。これらはオウシュウトウヒ(Picea abies)の根13)、パッションフルーツの種子などにも含まれている 14)。一方でピセアタンノールは天然における存在量が少なく、ピセアタン
ノールを多く含むパッションフルーツの乾燥種子 100g あたり 570mg 含んでおりそのうちから HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて分離するため得られる量は 210mg 程度であり、パッ
2 ションフルーツ中からは約10%しか種子が得られないためパッションフルーツ 1kg が必要となり、 大量に得ることが難しい 15-16)。ピセアタンノールはレスベラトロールと似た構造を持っているため 同じような生理作用を持っていることが期待されているがまだ明らかではない。そのため詳細な生 物活性試験を行うためのサンプルは、有機合成により得る必要がある。有機合成によるピセアタ ンノールの合成は行われているがcis体とtrans体が入り混じるといったような問題がある。そこで 今後のピセアタンノールの生理作用の研究に対するサンプル提供を目的として、ピセアタンロー ルの効率的な合成に着手した。
2.これまでに報告されている
polyphenoic stilbene 誘導体の合成方法
レスベラトロールやピセアタンノールのようなstilbene 構造の構築は一般的に Wittig 反応(図 2)によって行われる17)が、cis 体、trans体の混合物が得られ、それらの分離が難しいといった問 題がある。Mohammad らの合成や Solladie らの Perkin 反応を用いた合成(図 3)18)では、cis 体を
trans 体に変換する操作が必要とされる(図 4)19)。また、Solladie らの反応では脱カルボキシ化 で 220℃と反応物の融点以上の温度が必要とされるため、生成物にダメージを与えることが考え られる (図 5)。
図 2. Wittig 反応による stilbene の合成反応17) 図 3. Perkin 反応による stilbene の合成反応18)
3 図4. Cis体からtrans体の変換19) 図 5. Perkin 反応生成物の脱カルボキシ反応
3.ピセアタンノールの合成方法
前項にあるようにピセアタンノールは、Solladia らによって合成されているがどれも cis 体を trans体に変換する操作を必要とするといった問題がある。しかしSuzuki らが 1998 年に発表し た反応 20)では、パラジウム触媒を用い、有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化合物またはアリール トリフレートをクロスカップリングさせるものであり、その反応は、立体選択的にtrans体を合成する ことが可能である。この反応によって効率よく目的物を得ることが出来るのではないかと考え合成 に取り掛かった。カップリング反応を行う際には、有機ホウ素化合物とアリールトリフレートが必要と なるのでそれぞれの合成を行った(図 6)。今回は、ピセアタンノールの 3’位の水酸基がどの程度 活性発現に関与するかを比較する目的で4’位をメトキシ基であるものの合成を行った。4 図 6. 有機ホウ素化合物とアリールトリフレートのクロスカップリング計画 まず初めに有機ホウ素化合物部分を3-hydroxy-4-methoxybenzaldehyde (3)から 1972 年に Corey ら21)によって発表された、アルデヒドからジブロモアルケンを経てアルキンを合成する方法 によって(5)を得た (Scheme 1)。その後カップリング反応は強塩基条件で行うためヒドロキシ基が 別の反応を起こす可能性があったため、methoxymethyl 基を用いて保護した(6)。最初の段階 で methoxymethyl 基を導入することも可能であったが(4)を得る過程で外れてしまったため(5)
5 を得たのちに保護を行った。その後 pinacolborane と反応し有機ホウ素化合物(7)を低収率であ るが得た22)(Scheme 2)。今回の反応は低収率であったが、反応自体は薄層クロマトグラフィーで 原料の消失を確認したため進行したと思っていた。しかし、精製の過程でのカラムクロマトグラフィ ーで生成物と少量であったが原料のスポットが出現したため反応が不十分であったと考えられる。 また、得られた生成物も少量であったためカラムクロマトグラフィーで引っかかってすべて溶出さ れなかった可能性も考えられる。この反応については、反応進行の確認が不十分であったことが 問題であった。今後、高収率を得るために反応の確認と精製方法について検討したい。
4.おわりに
今回の実験ではピセアタンノールの一つのヒドロキシ基がメトキシ基のものの合成を試みた。 しかしながら合成の計画通りのカップリング反応まで行うことができず最終物を得ることができな かった。6
謝 辞
本研究を実施するにあたって貴重な時間、労力を割き御指導していただきました杉原 多公通 教授には謹んで感謝いたします。また、本研究を進めていく上で、実験の計画、実施に関して御 指導していただきました本澤 忍准教授、田代 卓也助教に感謝の意を表します。
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引 用 文 献
1. Solecka D., Acta Physiol. Plant., 19, 257-268 (1997).
2. Sinclair D. A., Scherer B., Howitz K. T., Bitterman K. J.Cohen H. Y.,
Lamming D. W., Lavu S., Wood J. G., Zipkin R. E., Chung P., Kisielewski A., Zhang L. L., Lett. Nature, 24, 1-5 (2003).
3. Sinclair D. A., Cabo R. D., Baur J. A., Pearson K. J., Price N. L., Jamieson H. A., Lerin C., Kalra A., Prabhu V. V., Allard J. S., Lopez-Lluch G., Lewis K., Pistell P. J. Poosala S., Becker K. G., Boss O., Gwinn D., Wang M.,
Ramaswamy S., Fishbein K. W., Spencer R. G., Lakatta E. G., Couteur D. L., Shaw R. J., Navas P., Puigserver P., Ingram D. K., Nature, 444, 337-342 (2006).
4. Wang M., Atangan L., Beher D., Wu J., Cumine S., Kim K. W., Lu S. C., Res. Lett., 74, 619-624 (2009).
5. Burnett C., Valentini S., Cabreiro F., Goss M., Somogyvari M., Piper M. D., Hoddinott M., Sutphin G. L., Leko V., McElwee J. J., Vazquez-Manrique R. P., Orfila A. M., Ackerman D., Au C., Vinti G., Riesen M., Howard K., Neri C., Bedalov A., Kaeberlein M., Soti C., Gems D., Partridge L., Nature, 477 482-485 (2011).
6. Bhat K. P. L., Lantvit D., Christov K., Mehta R. G., Moon R. C., Pezzuto J. M.,
Cancer. Res., 61, 7456-7463 (2001).
7. Manna S. K., Mukhopadhyay A., Aggarwal B. B., J. Immunol., 164, 6509-6519 (2000).
8. Jang D. S., Kang B. S., Ryu S. Y., Chang I. M., Min K. R., Kim Y., Biochem. Pharmacol., 57, 705-712 (1999).
9. Docherty J. J., Fu M. M. H., Stiffler B. S., Limperos R. J., Pokabla C. M., DeLucia A. L., Antiviral. Res., 43, 145-155 (1999).
10. Gupta Y. K., Chaudhary G., Srivastava A. K., Pharmacol., 65, 170-174 (2002). 11. Stivala L. A., Savio M., Carafoli F., Perucca P., Bianchi L., Maga G., Forti L.,
Pagnoni U. M., Albini A., Prosperi E., Vannini V., J. Bio. Chem., 276, 22586-22594 (2001).
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12. Cunningham J.,Haslam E., Haworth R. D., J. Chem. Soc., 10, 2875-2883 (1963).
13. Münzenberger B., Heilemann J., Strack D., Kottke I., Oberwinkler F., Planta, 182, 142-148 (1990).
14. Matsui Y., Sugiyama K., Kamei M., Takahashi T., Suzuki T., Katagata Y., Ito T., J. Agric. Food Chem., 58, 11112-11118, (2010).
15. Sano S., Sugiyama K., Ito T., Katano Y., Ishihata A., J. Agric. Food Chem., 59, 6209-6213 (2011).
16.
Morton, J. (1987). Passionfruit. In : Julia F. Morton, Fruits of warm
climates. FL : Creative Resource Systems, pp. 320–328.
17. Gao M., Wang M., Miller K. D., Sledge G. W., Hutchins G. D., Zheng Q. H.,
Bioorg. Med. Chem. Lett., 16, 5767-5772, (2006).
18. Ali M. A., Tsuda Y., Chem. Pharm. Bull., 40 (10), 2842-2844, (1992). 19. Solladie G., Jacope Y. P., Maignan J., Tetrahedron, 59, 3315-3321, (2003). 20. Suzuki A., Miyaura N., Chem. Rev., 95, 2457-2483 (1995).
21. Corey E. J., Fuchs P. L., Tetrahedron Lett., 36, 3769-3772 (1972).
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実験の部
生成物の機器データの収集に際し、赤外吸収スペクトル(IR)は島津製作所製 IRTracer-100 型、核磁気共鳴スペクトル(NMR)は Bruker BioSpin 社製 AV400Ndigital NMR を使 用して測定した。1HNMR の測定には tetramethylsilane (0.00 ppm)を内標準物質として 用いた。 化学シフト値 (δ) は ppm 単位を、シグナルの多重度は一重線を s、二重線を d、三重線 を t、四重線を q、二重二重線を dd、二重三重線を dt、多重線を m、幅広信号を br 等 と 表 記 し た 。 反 応 に 使 用 し た 。Tetrahydofuran (THF) 、 dichloromethane 、 N,N-dimethylformamide (DMF) は関東化学社製の脱水溶媒(安定化剤無)を市販品のまま 使用した。カラムクロマトグラフィーは関東化学社製 silica Gel 60N (spherical, neutral) 63-210 μm を用いて行った。
5-(2,2-dibromovinyl)-2-methoxyphenol の合成
Tetrabromomethane (21.90 g, 65.80 mmol, 2 eq)を dichloromethane (200 ml)に溶かし、 氷浴につけて triphenylphosphine (34.50 g, 131.60 mmol, 2 eq)を加える。その後 isovanillin (5.00 g, 131.60 mmol)を加え氷浴中 0℃で一時間撹拌する。反応液に蒸留水を 加えてクエンチし、分液ロートに移してdichloromethane で抽出を行い、有機層を分取し anhydrous Na2SO4を用いて乾燥を行った後にひだ折りろ紙でろ過を行い、ろ液を減圧下 で溶媒を留去した。その後、カラムクロマトグラフィー(dichloromethane)を行い、90% の収率で得た。 白色の固体: 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 3.91 (s, 3H), 5.62 (s, 1H), 6.30 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.85 (dd, J = 1.6, 6.3 Hz, 1H), 7.22 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 7.37 (s, 1H)
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5-ethynyl-2-methoxyphenol の合成
5-(2,2-Dibromovinyl)-2-methoxyphenol (0.45 g, 1.46 mmol)を計りとりフラスコ内を Ar 置換しtetrahydrofuran (100 mL)で溶解する。クライオクールを用いて-78℃に冷却 しn-butyllithim (2.20 ml, 5.84 mmol, 4 eq)を 5 分かけて加えて一時間撹拌する。
反応後、室温に戻し蒸留水でクエンチし分液ロートに移し ethylacetate で抽出、 anhydrous MgSO4で乾燥し、ひだ折りろ紙でろ過を行い、減圧下で溶媒を留去した。 その後、カラムクロマトグラフィー(n-Hexane-Ethyl acetate (4:1)→(3:1))を行い、94% の収率で得た。 無色のオイル: 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 2.97 (s, 1H), 3.90 (s, 3H), 5.61 (s, 1H), 6.78 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.03 (dd, J = 1.9, 11.3 Hz, 1H), 7.04 (d, J = 3.1 Hz, 1H) 4-ethynyl-1-methoxy-2-(methoxymethoxy)benzene の合成
5-Ethynyl-2-methoxyphenol (0.90 g, 6.12 mmol), N-ethyldiisopropylamine (3,15 ml, 18.36 mmol, 3 eq)を dichloromethane 50 ml に溶解する。その後、氷浴中で chloromethyl methyl ether (0.69 ml, 9.18 mmol, 1.5 eq) を加えて室温で 1 時間撹拌。
反応後、蒸留水でクエンチを行い分液ロートに移してdichloromethane で抽出、蒸留水、 aq NaHCO3, aq NaCl で洗いこみ、有機層を分取して anhydrous MgSO4を用いて乾燥
を行った後にひだ折りろ紙でろ過を行い、ろ液を減圧下で溶媒を留去した。
その後、カラムクロマトグラフィー(n-Hexane-Ethyl acetate (4:1)→(3:1))を行い、83% の収率で得た。
11 無色のオイル: 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 2.99 (s, 1H), 3.51 (s, 3H), 3.89 (s, 3H), 5.22 (s, 2H), 6.83 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.16 (dd, J = 1.9, 6.4 Hz, 1H), 7.29 (d, J = 1.9 Hz, 1H) (E)-2-(4-methoxy-3-(methoxymethoxy)styryl)-4,4,5,5-tetramethyl-1,3,2-dioxaborolan e の合成
4-Ethynyl-1-methoxy-2-(methoxymethoxy)benzene (0.3 g, 1.60 mmol)を heptane 3.2 mL に溶解し、benzoic acid (9.5 mg, 0.08 mmol)を加える。その後 pinacolborane (0.31 ml, 2.4 mmol, 1.5 eq)を加えてオイルバスを用いて 100℃で 12 時間撹拌する。
反応後、減圧下で溶媒を留去しdichloromethane で希釈し蒸留水、aq NaHCO3で洗い、
anhydrous MgSO4で乾燥を行い、ひだ折りろ紙で濾過を行い再び減圧下で溶媒を留去し た。 その後カラムクロマトグラフィー(n-hexane-Ethyl acetate (13:1)→(12:1))を行い、16% の収率で得た。 無色のオイル: 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 1.54 (s, 12H), 3.50 (s, 3H), 3.89 (s, 3H), 5.22 (s, 2H), 6.00 (d, J = 18.4 Hz, 1H), 6.85 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.11 (dd, J = 2.0, 6.4 Hz, 1H) 7.30 (d, J = 18.4 Hz, 1H), 7.36 (d, J = 2.0 Hz, 1H)