最終講義 〔東女医大誌 第59巻 第9号頁1201∼1208平成元年9月〕
痛風の過去・現在・未来
東京女子医科大学 ミ カナギ御 巫
リウマチ痛風センター キヨ ノブ清 允
(受付 平成元年1月17日) 私が痛風に手を染めてから約40年,初めは私自 身,診断に困難を感じ,治療法も確立されていな かったのに,いつの間にやらover・diagnosisされ た患者の多いことと不適正な治療の横行に悩まさ れるように変わって参りました.痛風の歴史を振 り返り痛風が痛風にとどまらず医学の新たな面で の端緒となっていることを理解していただくため 私の思い出話だけではなく,新しい展開について も無知から来る思い上がりのあることも承知の上 で言及させていただきますので,しぼらくの間お 時間をお貸しください. 1.痛風の歴史 リウマチが比較的歴史の浅い病気であるのに比 べ,痛風は極めて歴史の古い疾患であります.リ ウマチの一番古い記載がいつであるか,というこ とについてはいろいろ議論があるところですが, 古い人骨にはリウマチのあとは発見されておりま せん.それに比べ,エジプトのミイラに痛風と思 われる病変が発見されているほか,歴史書には多 くの痛風の記載が残っています.紀元前3∼400年 ほど前に,すでにヒポクラテスによる記載があり, アレキサンダー大王,フビライーハン(ジンギスカ ン),ジョージ三世,ニュートンなどが痛風を患っ ていたといわれています.図1には痛風発作中の ジョージ四世が馬に乗るところが描かれていま す.このように当時の支配者階級の人々が痛風発 作に悩む姿は,しばしぼ戯画の対象となっていま すが,どの画を見ても,思わず吹き出すようなユー鍵
.罵
鞭
・∫・’.ノ・…匪8阿φ・’織・ご・Rい〆,ザ盛∫{鋤浬= みム纈猷矯_廟.儒押_二輪噸卿 図1 痛風を描いた戯画 モアとその背後にある切迫感にあふれています. ドイツ語で痛風はGichtといいますが,それは「呪 文をかけられたもの」という意味で,ここには示 しませんが悪魔が睡趾基関節部に噛みついてい る有名な戯画はそのような考え方を表現していま す. 痛風の歴史をおおざっぱに表1に示しました. 17世紀に,本人も重症の痛風に悩まされ続けたシ デナムによる,詳細な発作の記載がありますが, このころよりやっと西欧で痛風の知識が行き渡っ たようです.18世紀に入って痛風結節の成分が尿 酸塩であることが判明し,19世紀には,痛風患者 に高尿酸血症があることが発見されました.特に イギリスの医師ガロードの有名な糸試験は当時は 画期的な高尿酸血症の証明法でした.これは,痛 風患者の血液中に木綿糸を垂らし,それを顕微鏡Kiyonobu MIKANAGI〔lnstitute of Rheumatology, Tokyo Women’s Medical College〕Gout:Its hlstory
表1 痛風の歴史 460−357B.C. A.D.131・200 1683 1776 1797 1848 1951 1961 1963 1967
島齪轟轟膿罪器記載し・
Galen痛風結節(tophus)を記載. Tho;pas Sydenham古典的な痛風につい ての記載, Scheele腎結石の成分を尿酸と記載. Wollaston痛風結節の成分を尿酸塩と記 載. A.B, Garrod高尿酸血症を記載し,「糸試 験」を考案. Talbottら及びGutmann, YU probenecidを治療に用いる. 謡。翻.とHollande「齢液中に尿酸結 Rundlesらallopurino1を治療に用いる. SeegmillerらHGPRT欠損症を記載.C出C臨
_。,α/\,。。H
CH、CH、CH、/ _
図3 Probenecidの構造式OH
N
㌦
N/ 占 図4 Allopurino1の構造式N
c◎lchicin
∵く咽、
…6賢。
◎(}凡 分獄・G轟NO。(399・45! .尉撞、イ三二ツランの拳・1葎ベ ゲ謂、灘るバ,ゾη・Pイトで許る 図2 コルヒチン で見ると,菱形をした尿酸塩が糸の繊維に付着す る現象です. このころには痛風に対しては食事療法,温泉療 法などが行なわれていたようです.また,痛風発 作の特効薬として知られるコルヒチンは既にビザ ンチン帝国の時代に生薬として使用されたという 記録があります.これはイヌサフランという植物 から取られる植物アルカロイドで,図2のような 構造式を持っています.しかし,このころは高尿 酸血症を改善する薬剤は知られていませんでし た.1950年代にTalbottやGutmamによりカリナ
マイドから改良されたProbenecidが血清尿酸を 下げるために有効であることが示され実際の診療 に使われました.この薬剤の構造式を図3に示し ます.Probenecidは腎臓の尿細管に働きかけ,尿 酸の再吸収を抑制します,そのため尿に尿酸が多 く排泄され,血液中の尿酸が減ります. さらに1960年代に入ってAllopurino1が導入さ れました(図4).この薬剤は,今までの薬が尿酸 の排泄を多くすることにより作用を発揮するのに 対し,体内の尿酸合成を抑制することにより作用 を示します.Allopurino1はキサンチンオキシ ダーゼの阻害剤で,キサンチンオキシダーゼはヒ ポキサソチンやキサンチンを尿酸に変える酵素で す.したがって,Allopurino1を投与すると体液, 尿などにヒポキサンチンやキサンチンが増えます がこれらの物質は生体にとって尿酸ほど害があり ません. 2.日本における痛風の歴史 欧米での痛風に関する医学が古い歴史を持つの に比べ,本邦では比較的新しい疾患であります. スクリッパーとともに日本の近代医学創設に大き く貢献したドイツ人医師ベルッが「日本人に痛風 なし」と言明したことが,その後の医学界に影響 を与えたのかも知れません.日本における痛風の 歴史は,昭和30年後半までは,実に遅々とした歩 みでしたがそれ以降は臨床,基礎研究とも順調に 進歩を続け,欧米に負けないようになってきまし た. 図5に我々が虎の門病院で診断した痛風患者数 の伸びを示します.痛風の原因が,遺伝と環境が 複雑に絡み合ったものですので,この痛風患者数 の増加を簡単に説明することはむつかしいのです入 400 300 200 1磐 回 数 一5859606工62636465666768697071727374757677年 図5 痛風患者の年次的推移 頻 度 % 30 20 10 1.0 4.0 6,0 8,0 10.0 12.0 以下 尿酸測定値(mg/100ml) 以上 図6 同一血清の尿酸測定値のバラツキ(1966年,全 国464病院,日本衛生検査技師会調査) が,以前には正しく診断されなかった例も多かっ たからこのような増加を示す一因となっているに 違いありませんがそれだけではありませんし,私 が痛風にかかわりを持ったころからはちょうど日 本人もスポーツに熱中できるようになり,食事内 容も豊富な西欧的なものが増えたことも大いに関 係していると同時に,患者,医師の双方が痛風に 関心を持ったことが患者数の見かけ上の増加につ ながると思います.一本質的には代謝疾患ですか ら後刻ふれますが,痛風の場合人口の0.3∼0.4% で恒常的な筈です. 我々は,このころより血清尿酸値を正確に測定 することの重要性を訴えてきました.今でこそ, 尿酸値が正しく測れるのは当たり前になってきま したが,以前は施設により大きな片寄りがあった のです.図6に昭和41年,同一検体を多施設で測 定したときの尿酸値のバラツキを示します.今で はとても考えられないほどのものです.この頃は 一般的に,古典的なFolinの燐タングステン酸法 という測定法が用いられていました.この方法は, 還元剤による干渉など,問題が多くありました. その後酵素法と,自動分析機械の普及さらには, 尿酸測定上の問題点が理解されたことにより,測 定値の信頼性は急速に高まってきました.従って 現在では,ほとんどの医療施設で正確な血清尿酸 値が得られるようになっていますが,他の塩類の 測定などより,より慎重な品質管理を要すること に変わりありません. 3,痛風の疫学 正確な検査データに支えられ,痛風の診断もし だいに容易に正しく行なわれるようになりまし た.そこで,日本人の間には一体どのくらいの痛 風患者がいるのだろうか,ということが問題にな ります.そこで,我々はいくつかの地域社会を選 び,血清尿酸値や痛風の患者数などの疫学調査を 行ないました(表2).特に1970年より,三重県の 答志島で行なった疫学調査は,大規模なものです. これによると,痛風の有病率は0.32%で,これは 1972年からの東京地区の調査で得た有病率0.30% とほぼ同じです.この値は,七五先生たちのもの ともほぼ同じで,だいたい日本であれぽ都会であ ろうと農村漁村であろうと平均して一万人に30人 くらいの痛風患者がいるという計算になります。 これを日本全国にあてはめると30∼40万人の患者 がいることになり,「日本人に痛風なし」といった ベルッの記載とは大きく異なったものになりま す.次の表3をみますと欧米ではもっと多い報告 表2 日本での痛風の有病率 報 告 者 有病率(%) 対象地域 調査および 告年度 七 西 御 ららら 0.1∼0.3
@032
@⑪.30 千早村(農村) 嚴u島(漁村) ?京(都市) 1966 P970−1978 i継続中) P972−1974 表3 成人男性における痛風の有病率 報告者 年 度 国 別 有病率 Hall yalokar シ岡ら 1967 P972 P976 アメリカ tランス ? 本 3.0% R3% P.2%も出していますが私はあまり信用しておりませ ん.やはり0.3∼0.4%と思います.痛風患者を性 別で見ると,圧倒的に男性に多い病気です.女性 の患者は我々の調査では1%にも満ちません.ま た,成人に多い病気で,成人男子に限れば痛風の 有病率は1.2%にも達します, 最近では,前記のProbenecid, Allopurinolのほ かに,Benzbromaroneなどの有効な薬剤も追加 され,十分な知識をもってすれぽ医師なら誰でも がコントロール容易な疾患になりました. ベンズブロマロンについてちょっと申し上げさ せていただぎます.私はその開発段階から関与さ せていただいておりますが,最初は重症な例にの み敢て使用したためか,1回800∼1,000mgも使 うことが多かったと記憶しておりますが,市販を 認可された10年ぐらい前からは,ほぼ今日と同じ く50∼1001ngを用いるようになりましたが,当時 は1日1回投与法について私自身はかなり反対し ておりました.しかし今日では平均使用50mgで あり1日1回投与法も,尿酸の安定した症例には コンプライアンスの観点からむしろ好ましいとす ら思うに至っております.図7のように18年の長 期にわたる61例(18年の方は3名ですが)の経過 をみますとベンズブロマロン:量は25mg,12.5mg と減っている方も多いにもかかわらず尿酸は安定 しGOT, GPT, Crなどはよく正常域に維持され ております. 発作の治療法は,安全な抗:炎症鎮痛剤が多数開 発され,やりやすくなりました.特に,私の提唱 した抗炎症鎮痛剤による大量短期衝撃療法は非常 に有効でコルヒチンの古典的使用方法は旧聞に属 しますのに,未だにコルヒチンの大量投与や発作 mg/日 ベンズブロマロγ100 1日平均投与量50 0 mg/dl 8 血清尿酸値 7 6 5 べ 0宅 30 GOT o一つ 20 GPT x−x 工0 0 rng/dl 2,0 s−Cr 工.0 0_
にと=三≡≡三≡コ
痛 風61例 投与期間5∼18年平均8,8年 投与量25∼ユ00mg/日 平均±SD瞬≠・
削1234567891011121314/5161718年 ベソズブロマロソ投与年数 (御巫) 図7 ベンズブロマロン長期投与における臨床検査値 の推移 時のみの高尿酸血症治療剤の投与などの誤った治 療が行なわれる事例が,治療が一般化すればする ほど多くなるのは残念ながら事実です.診断から 治療まで,より一層慎重であるべきです.発作の みに目を奪われることなく,全身的代謝病として 捉えることがより重要であることを改めて強調し たいと思います. 4.血清尿酸値の分布 図8に血清尿酸値についての米国,日本,台湾 における年齢別の血清尿酸値のpopulation study の結果を示します.米国と日本のものは極めて良 く似ています.男子では10歳代で上昇が始まり, およそ20歳代でプラトーに達します.女予では米 国では閉経期頃から上昇しますが,本邦ではそれ ’は比較的緩やかであります.我が国では女性の痛 風は全体のせいぜい1%程度ですが,欧米ではそ れより多く,閉経期以降に多いと報告されていま す.これは,欧米と日本の女性の尿酸値の差を反 映しているものかも知れません.要するに,痛風 毛7・o 遍6.o ε5、0 裂4.・ 腰3・ 爬2.0 1、00
米国 (Mikkelson,1960) フコ 男 6,0 ム ぴコつかり ら ロ ’’”一タげ … ;:1 1,0 日本 台湾 (西岡,御巫,1975) (西岡,陳,御巫,1983) 4 1D 20 30 40 50 60 70 80† 4 10 20 30 40 50 60 70 80† 4 10 20 30 40 50 60 70 80† l l l l l l l l l l l l l l I l l l l l l 置4 24 34 44 54 64 74 置4 24 34 44 54 64 74 14 24 34 44 54 64 ア4 図8 男女別の血清尿酸値の年齢による変動 7.0 6・o 男 , ヨ へ ・・〆}マ
;:1 11’が男性に多いのは,高尿酸血症が男性に多いから です.しかし,なぜ男性のほうが血清尿酸値が高 いのかは不明です.性ホルモンの差,あるいは, 男女のからだの密度差によるという説もあります が,まだ確実ではありません. 台湾における曲線は,少し様相が違いますがこ の点はもう少しfollowする必要ありと感じてお ります. 5.痛風の遺伝と環境 すべての痛風が尿酸の体内蓄積を原因としてい ることは間違いありません.体内の尿酸プールは 約1,200mgあります.これは,合成と排泄の微妙 なバランスの上に成り立っている平衡です(図 9).尿酸の産生が充進しても,腎臓からの排泄が 低下しても,この尿酸プールが増大し痛風の原因 になります.このメカニズムによって,高尿酸血 症は3つのタイプに分類されます. すなわち,合成充進型,排泄低下型,混合型の 3つです(表4). 尿酸の合成が充進ずる原因,または,尿酸の排 泄が低下する原因がはっきりつかめるのは稀で す.多くの痛風は遺伝と環境の両方が関係してい ると思われますが,遺伝が大きな役割を果たして いる痛風もあります.それは,遺伝性の酵素欠損 症による痛風です.この分野では,近年になって 研究が大ぎく進んできました. 遺伝的酵素欠損症によって起こる痛風を表5に 示しました.このなかでもLesch−Nyhan症候群 図9 尿酸の合成と排泄経路 表4 高尿酸血症の分類 150mg 450mg 表5 痛風を来たす遺伝的酵素異常症 酵 素 異常 症 状 (1) hypoxanthine−guanine @ ぞ聯贈osylt「ansfe「ase 欠損 ゚生産性痛風Lesch−Nyhan症候群
(2) 91ucose−6−phosphatase 欠損 von Gierke症候群゚生産性痛風 (3)PRPP synthetase 充進 過生産性痛風 (4) phosphofructokinase 欠損 筋疾患 ^動性痛風 1.尿酸産生充進型 2.排泄低下型 3.混合型 表6 痛風以外のプリン代謝酵素異常症 酵 素 異 常 症 状 (1)adenosine deaminase 欠 損 重症複合型免疫 s全症 (2)purine nucleoside @phosphorylase 欠 損 T細胞免疫不全症
(3) adenine phosphoribosyl transferase
欠 損 尿路結石症 (4)xanthine oxidase 欠 損 尿路結石症 (5)AMP deaminase 欠 損i筋) 筋肉疾患 (6)adenosine kinase 欠 損 i赤血球) 溶血性貧血 (7) adenylosuccinate Iyase 欠 損 自閉症 知能障害 については最も研究が進んでいます.これは
HGPRTという酵素の欠損が原因で起こる疾患
であり,痛風のほかに自分の指や唇を噛むなどの 特異な精神神経症状を示します.表5の(4)に 示すphospho−fructokinase欠損が垂井病です.最 近では,酵素欠損の本体が蛋白質や遺伝子レベル で,わかってきました. 酵素は蛋白質であり,周知のごとく蛋白質とい うものはみんなアミノ酸の配列でできています. HGPRTは217個のアミノ酸がならんでできた酵 素で,図10はそのアミノ酸配列を示します.例え ば,アメリカのミシガン大学のケリーのグループ ‘の研究したある家系では,この矢印のセリンがロ イシンに変わっていることがわかりました.この,たった1個のアミノ酸の変化でHGPRTが正常
に働かなくなるわけです.また別の家系の
HGPRT欠損症を調べると,これとは別の箇所の アミノ酸の異常があります.すなわち,HGPRT 欠損症では家系によって異常箇所が異なるわけです.これはHGPRT欠損症が,家系によって異
、ce,,、、1、T、,、,gS,,壽。6、,V、IV、口1,1昌、、,、、,61、P,。1畠,,,、、,、,。、、識,、,C,、,,P,。急,、,1,,、1、G、謡
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図10 Structure of hypoxanthine−guanine phosphoribosyltransferase
なった病的遺伝子の祖先を持っていることを示し ています. 6.プリン代謝酵素欠損症の遺伝的異常 生物の遺伝情報はDNAのなかに書き込まれて おり,そこには4種類の文字があるのは御存知の とうりです.4つの文字は,塩基と呼ばれそのう ちプリン体が関与しているのは2つ,つまりアデ ニンとグアニンです.体の中のプリン体は,ほと んどすべて尿酸となって排泄され,これがたまる と痛風になるわけです. プリン体の代謝異常は痛風以外の病気も引き起 こします.表6にそれを示しました.精神症状を 示すものと免疫不全症や尿路単独の結石症などで すが,中でも尿路結石症や腎不全の原因になる APRT欠損症については私共の教室で鎌谷を中 心に大部分が解明されましたので,少し詳しく述 べます.この病気は日本人に圧倒的に多い点で日 本人にとって重要な病気ですし,我々の教室で世 界の半数以上の診断をしておりますので私達にと りましては特に興味のある疾患です. 7.日本人型APRT欠損症 この病気は図11に示す2,8−dihydroxyadenine の尿路結石症と腎不全を引き起こす病気で,その 物質は極めて尿酸に似た物質であり,またこの疾 患がAllopurinolで治療され症状を軽快させうる O H
知〔〉・
H H 尿 酸 NH2 H烈〉・
H H 2,8−dihydroxyadenine (DHA) 図1工尿酸と2,8・dihydroxyadenineの構造 ことも痛風にそっくりです.実際には,多くのこ の病気が尿酸結石と誤診されていると思われます が尿酸単独の結石はそんなに多いものではありま せん.軽い場合は尿路結石を繰り返すだけですが, 重症例は腎不全のため一血液透析や腎移植を受けるようになります.原因はAPRTという酵素の遺
伝的な欠損です.おそらく,遺伝病として,我が 国では最も多い病気の一つだと思われますが,世 界的に見ればほとんどが誤診されているでしょ う. 興味あることに,教室の鎌谷は日本人の患者の 80%が,特殊なタイプの酵素欠損であることを発 見しました.これを,我々は日本人型APRT欠損 症と名付けています(表7).世界の全報告例の半数以上は日本人型APRT欠損症です.世界の報
告例の圧倒的多数が日本人ですから,決定的なご表7 APRT genotype
Genotype Urolithiasis Sensitive or Resistant @to 6・methylpurine Erythrocyte enzyme @ activity (1)APRT*QO/APRT*QO 十 R 0% (2)APRT*1/APRT*QO 一 S 25% (3)APRT*∫/APRT喰J 十 R 25% (4)(APRT*∫/APRT*QO)a (+) (R) (0−25%) (5)APRT*1/APRT*J 一 S 25−100% (6)APRT*1/APRT串1 一 S 100%
APRT卓1 =Common APRT allele.
APRT串QO:Alleles for complete APRT de丘ciency(CRM一). No evidence has been pro− vided that they are a common single aHele.
APRT串J :Allele for mutant APRT with reduced af丑nity to PRPP, The mutant APRT has
elevated heat stability in the absence of PRPP but reduced heat stability in the
presence of PRPP. The normal enzyme but not mutant enzyme is stabilized by PRPP against heat inactivation.
a=Individuals of this genotype have not been clearly identified.
4thθXO[
一(一π劉一G
genomlc DNA ゑア アのア画, \
intron 5thθxonα鴨π一一
↓ 一CハGAGGGTG(訂CGTCGrrG(諒TGATCTGCTGG㏄A〔汀α訂GGA鵬ATGA配)GCTG誕〕C− Gln Arg Val Val Val Val Asp Asp Leu Leu Ala ThrGly Gly ThrMe竃Asn Ala Ala↓
ト{omologous sequence of APRτV 『一一『→レACG PRPPロtilizing enzymes Th「 図12 日本人型APRT欠損症のDNA配列 とはまだわかりませんが,欧米では日本人型 APRT欠損症はみつからないようです.この日本
人型APRT欠損症は,特殊な病気の遺伝子
APRT*Jによって起こることがわかりました.日本人だけに広く分布する病気の遺伝子
APRT*Jは図12に示すようにDNAの配列が正
常と違っています.ヌクレオチドのチミジンが一 箇所シトシンに変わっています.そのため,アミ ノ酸配列が一箇所メチオニンからスレオニンに変 わるわけです.APRTは180個のアミノ酸によっ て成り立つ『ていますが,ここの部分はAPRTに とっても大切なところです.すなわちここは PRPPという物質が結合するところであり,そのためPRPPが結合できない日本人型の酵素がで
きるのです. 先程,HGPRT欠損症では,家系家系で異なっ た病気の遺伝子が見つかるというお話しをしまし た.ところが,APRT欠損症では日本人全患者の 80%はこのメチオニンからスレオニンになる変化 が起こっているわけです.これは,病気の遺伝子 の祖先が同じであると判断するのが遺伝学的常識 です.これによって,この病気の日本人の症例の 80%(20%は不明),世界全報告例の半数以上の病 気の遺伝子の起源および遺伝子そのものが一気に 解明されたことになります. 他の遺伝病では,まだこれほど詳細に遺伝子が 分析されていません.その各々の遺伝子が同じか 違うかは,他の病気でもこれからだんだんとわ かっていくでしょう. 8.分子生物学と遺伝子治療 遺伝子操作を武器にした分子生物学の進歩はめ ざましく,医学も無関係ではいられません.特に, 遺伝子を患者に導入することによって遺伝病を治 すことを目的にする遺伝子治療は,プリン代謝病 と深い関係があります.遺伝子治療の当面の目標 は,プリン代謝異常症であるHGPRT欠損症, ADA欠損症, PNP欠損症です(表8).前にお話 しした通り,HGPRT欠損症は痛風と精神障害, ADA, PNP欠損症はいずれも先天性免疫不全症 表8 当面,遺伝子治療の対象となる疾患 (1)ADA欠損症 (2)HGPRT欠損症 (3)PNP欠損症 重症複合性免疫不全症 重症痛風精神神経障害 先天性免疫不全症です.技術的な問題は次々に解決し,既にサルに