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IT投資効果に関する理論的考察─中小企業への適用可能性について─ 利用統計を見る

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IT投資効果に関する理論的考察─中小企業への適用

可能性について─

著者

吉本 悟史

著者別名

YOSHIMOTO Satoshi

雑誌名

東洋大学大学院紀要

54

ページ

139-165

発行年

2017

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00009664/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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IT 投資効果に関する理論的考察 要旨 我が国の中小企業においては、ITの必要性を感じていながらも、導入・利活用が大企業 と比べてそれほど進んでいない事実がある。その理由のひとつとして、IT投資の効果が不 明確であることが挙げられる。 本稿では、この事実の考察に資すると思われる「IT投資マネジメント」「IT投資の資源配 分」「IT投資に効果的な組織特性」に関する先行研究をレビューするとともに、それらの限 界を示す。 そのうえで、「中小企業の企業規模と組織特性」「経済性以外の投資効果」および「投資効 果の持続性」の3点に立脚し、特に持続性に焦点を当てながら、IT投資効果に関する諸理論 の中小企業への適用可能性について考察する。 キーワード 中小企業、IT経営、IT投資マネジメント、IT投資効果、コア-コンテキスト分析フレームワ ーク、組織IQ 目次 1 はじめに 2 現状分析 (1)近年の中小企業におけるIT導入の状況 (2)中小企業における最新ITの利用状況 (3)本節の小括 3 先行研究レビュー (1)IT投資マネジメントに関する先行研究

IT投資効果に関する理論的考察

─中小企業への適用可能性について─

経営学研究科ビジネス・会計ファイナンス専攻博士後期課程1年

吉本 悟史

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― 140 ― (2)IT投資の資源配分に関する先行研究 (3)IT投資に効果的な組織特性に関する先行研究 (4)本節の小括 4 中小企業への適用可能性 (1)考察にあたってのポイント (2)中小企業におけるIT投資効果に関する考察 5 おわりに 注記 参考文献

1 はじめに

近年、技術の進化やインターネットの普及とともに、ITが様々な産業で利用されてきて おり、その導入目的は業務効率化・スピード化、生産性向上、運用コスト削減などである。 しかしながら、投資に対する効果に関しては20世紀後半より様々な研究がなされてきている ものの、多くの企業や組織がIT投資を実施するにあたっての指標となる具体的かつ分かり 易いモデルが示されているとは言い難い。 一方、ITベンダは、機能面・業務効率面だけでなく、持たざる経営によるIT投資効果の 最適化、ROIの最大化、コスト削減など、企業経営面においてもその効果の高さを強調する ものの、実際はコスト増に繋がるケースも多く存在するなど、導入効果に関しては投資の経 済性だけでは測ることのできない不透明な部分が極めて大きいというのが実状である。特に、 我が国企業の大部分を占める中小企業においては、ITの専門部署やIT専任者を確保するの が困難であるがゆえに、ITの導入に際してはITベンダを頼るしかないのが現状である。し かしながら、前述したように導入後の効果が不透明であることから、中小企業の経営サイド ではIT投資の方向性や真の効果について、漠然とした不安や不満が蓄積している。 このような背景から本稿では、企業経営にはITの利活用が不可欠であるということにつ いては論を俟たない一方で、中小企業においては効果が不明確という理由でIT(とりわけ 最新技術やサービス)の導入・利活用が大企業と比べてそれほど進んでいないことを問題と して捉えた。そしてこの問題を分析し、ITを活用した生産性の向上が課題とされている我 が国の中小企業に対して、IT投資効果に関する理論の適用可能性について考察することが 本稿の目的である。 本稿は全4節で構成されており、まず次節において中小企業におけるITの導入状況につい ての現状分析を行う。第3節においてはIT投資効果に関する先行研究のレビューおよびそれ らを中小企業に適用することへの限界を示す。そのうえで、最終節の第4節においてIT投資 効果に関する諸理論の中小企業への適用可能性について考察する。

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IT 投資効果に関する理論的考察

2 現状分析

本節では、近年の中小企業におけるITの導入状況に関して、最新のクラウド・コンピュ ーティングの導入状況も含め、主に『中小企業白書』のデータを基に考察を進める。 (1)近年の中小企業におけるIT導入の状況 中小企業における近年のIT導入の状況については、中小企業庁(2013,2016)、および矢野 経済研究所(2015)を基に分析を行った(以下、これらの資料を一括してIT導入実態調査 とする)。 本項では、これらの資料の「ITの導入状況」「戦略的IT投資比率」「IT投資開始企業とIT 投資非開始企業の売上高経常利益率の比較」「ITを導入していない理由」「ITの導入・活用 における課題」に焦点を当てて、近年の中小企業におけるIT導入の実態について分析を行 う。 ① 2007年と2012年におけるIT導入の状況 IT導入実態調査では、2007年と2012年でのITの導入状況について、「大企業1)」「中小企 業2)」「小規模事業者3)」の規模毎に、「電子メールの利用」「自社ホームページの開設」「イン ターネットバンキングの利用」「自社サイトでの製品販売・予約受付等」「ブログの利用」 「ネットショップ、ネットオークションへの出店・出品」の6つの利用形態について、「実施 している」と回答した企業の割合を集計している。 結果として、小規模事業者、中規模企業4)では、いずれの利用形態でも「実施している」 と回答する企業の割合が、2007年に比べて高くなり、ITの導入がこの5年間で着実に進んで いることがわかる。しかしながら、「自社サイトでの製品販売・予約受付等」に関しては、 大企業と比較して中規模企業では6割程度、小規模事業者では4割程度と、導入割合が低いま まとなっている。 ② 業務領域別のIT導入の状況 IT導入実態調査では、①における調査と同様の規模毎に、「財務会計」「人事・給与管理」 「販売」「社内の情報共有」「在庫管理」「購買・仕入」「生産」「物流」「開発・設計」の9つの 業務領域について、ITを「導入している」と回答した企業の割合を集計している。 結果として、大企業と同様、小規模事業者および中規模企業ともに、「財務・会計」「人 事・給与管理」といった、いわゆるバックエンド業務領域においてITを導入していると回 答する企業が多かった。一方で、「生産」「物流」等のライン業務領域では、大企業と比較し て中規模企業では6割程度、小規模事業者では2割程度と導入割合が低い。 ①②の調査結果からは、ITの導入は進んでいるものの、規模の小さな企業ほど「自社サ イトでの製品販売」や「生産」など、企業に直接付加価値を生む業務にITを活用できてい ないことが窺える。

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― 142 ― ③ IT投資額(社内コスト+社外IT支出)の戦略的投資比率 IT導入実態調査では、2015年度におけるIT投資予算全体(社内+社外)の目的別比率に ついて、業種別、売上規模別、従業員規模別について集計されており、2011年度から2015年 度までの推移についても集計されている。 目的別内訳は「戦略的なコスト」「システム維持運用のためのコスト」「業務効率化のため のコスト」の3種毎に集計されており、2015年度においては、戦略的投資が16.5%、システ ム運用維持のための投資が63.0%、業務効率化のための投資が20.4%であり、IT投資の約3分 の2が価値を生まないシステム維持運用に使われている。また、2011年度から2015年度まで の期間において、目的別の投資割合に大きな変化はないものの、戦略的なコストに関しては 減少傾向にあり、5年間で約3%落ち込んでいる。 現在、先進国を中心に、IT投資の目的が従来のようなコスト削減から新たな価値の創出 へと変化が求められている。その一方で、戦略的な投資割合が減少し、かつシステム運用コ ストが減少しない状態がこのまま継続するようであれば、中長期的に国内企業の競争力が失 われていくことになりかねない。 さらに、2015年度における、従業員数が300人未満の中小企業の目的別投資比率を見てみ ると、システム運用維持コストの割合が他の規模の企業に比べて極めて高い結果となってい る。特に100~299人の企業においては、同コストが68.2%と突出しており、戦略的な目的で のIT投資がほとんどなされていないことがわかる。 ④ IT投資開始企業とIT投資非開始企業の売上高経常利益率の比較 IT導入実態調査では、2010年度にIT投資を開始し、その後IT投資を2013年まで継続して いる企業(以下、IT投資開始企業)と、2007年度から2013年度まで一度もITに投資をして いない企業(以下、IT投資非開始企業)におけるそれぞれの売上高経常利益率の変化を時 系列で比較されている。 結果として、IT投資開始企業は2010年度で2.6%であったものが2013年度では3.8%であっ たのに対し、IT投資非開始企業では2010年度で2.6%であったものが2013年度では3.0%に留 まっており、前者の方が高い伸びを示していることがわかる。 この調査結果は、IT投資に積極的な企業と消極的な企業に関する効果として、売上高経 常利益率という財務指標による経年変化の比較を行っている点が、定性的かつ単年度の分 析・評価になりやすい従来の調査データとは一線を画しているといえる。しかしながら、財 務データを経年比較している調査とはいえ、相関関係を述べているに過ぎず、「IT投資開始 企業が売上高経常利益率を伸ばすことができたのは、2010年度にIT投資を開始することで 業務効率化や売上の拡大を行い、収益力を向上させることで利益率を向上させたことも要因 の一つであると考えられる」との見解に留まっており、因果関係の分析にまでは踏み込めて いない。財務指標は定量的で理解しやすい反面、目に見えない要素の多いIT投資に対する

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IT 投資効果に関する理論的考察 効果分析に経済性評価のみを用いることの限界があるといえる。 ⑤ ITを導入していない理由 IT導入実態調査では、中小企業におけるITの活用を必要と考えているが、ITを導入して いない理由について、「導入の効果が分からない、評価できない」「コストが負担できない」 「業務内容に合ったIT技術や製品がない」「ITを導入できる人材がいない」「従業員がITを使 いこなせない」「適切なアドマイザー等がいない」「情報漏えいのおそれがある」「技術、ノ ウハウの流出のおそれがある」の8つの理由について集計している。 結果として、5割超の企業が「導入の効果が分からない、評価できない」と回答し、最も 多くなっている。これはITを必要と考えているものの、効果のある具体的な活用方法が分 からないため、IT導入の意思決定に踏み込めない企業がいまだに多い状況を示している。 また、「コストが負担できない」とした企業の割合が2番目に多いことから、導入の効果が分 からないために費用対効果を計りかねて、コストを負担できない企業も相当数存在するもの と考えられる。 ⑥ ITの導入・活用における課題 IT導入実態調査では、ITの導入・活用における課題について、中規模企業と小規模事業 者毎に、「IT関連のコストの負担が大きい」「IT人材が不足している」「従業員のITの活用能 力が不足している」「ITの導入の効果の算定が困難」「経営者のITの活用能力が不足してい る」「情報セキュリティ等のリスク対応が必要」「適切なアドバイザーがいない」の7つの課 題について集計している。 結果として、小規模事業者、中規模企業ともに「IT関連のコストの負担が大きい」と回 答する割合が最も高くなっている。また、「ITの導入の効果の算定が困難」と回答する割合 も中規模企業では3割を超えており、費用対効果が不明確であることも大きな課題となって いる。ただ、この結果はIT導入効果を経済的な指標だけで測ろうとしているところに限界 がある。 ⑦ 近年の中小企業におけるIT導入の状況に関するまとめ ①から⑥の調査結果より、比較的規模の小さな企業においては、ITの導入は管理業務や 業務効率化など間接業務的な分野に留まり、直接的に付加価値を生むような業務分野や戦略 的分野におけるIT投資については、投資全体におけるシステム運用コスト割合が高いため 他分野への投資余力がなく、かつ費用対効果が不明確なために投資に関する意思決定を躊躇 していることが窺える。 (2)中小企業における最新ITの利用状況 近年、タブレット型端末、スマートフォン、ウェアラブル端末等の新しい情報機器や情報 サービスの進歩が著しい。特に、自社でサーバや情報処理ソフトウェアを所有する必要がな

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― 144 ― く、また、データ量や時間等、利用分のみに費用を支払うことで、中小企業でも低い導入コ ストでのIT活用が可能となる方法としてクラウド・コンピューティングが急速に普及して いる。 本項では、最新ITの中でも中小企業に効果があると考えられるクラウド・コンピューテ ィングの利用状況、メリットおよび課題等について、中小企業庁(2013,2016)と、総務省 (2014)における調査(以下、これらの資料を一括して最新IT導入調査とする)を中心に考 察していく。 ① クラウド・コンピューティングの認知と利用状況 最新IT導入調査では、クラウド・コンピューティングに関する経営者の認知状況と利用 状況について、規模別、産業別、業務領域別等の観点で集計している。認知状況に関して は、「よく知っている」「聞いたことがある」と回答した割合は、中規模企業では70%、小規 模事業者でも5割を超え、規模を問わず経営者層にも広く認知されるようになっている。一 方で、利用状況に関しては、「利用している」「利用を検討している」と回答した割合は、中 規模企業では21.3%、小規模事業者では15.3%と、大企業の41.9%に比べてかなり低い割合 となっている。以上のことから、クラウド・コンピューティングの認知度は高まった一方 で、中規模企業および小規模事業者においては、導入を意思決定する経営層が、その有効性 について十分に理解できていないものと推測できる。 しかしながら、クラウド・コンピューティングの利用状況については、産業別および資本 金規模別に2012年と2013年を比較した調査によると、全ての産業(建設業、製造業、運輸 業、卸売・小売業、金融・保険業、サービス業・その他)において前年を上回っており、資 本規模別では、資本金1,000万円未満から1億円~5億円未満までの範囲のいわゆる中小企業 においても前年を上回る結果となっている。また、2009年から2013年の5年間におけるクラ ウド・コンピューティング関連費用の発生有無に関する調査においても、中小企業では2009 年に費用が発生したとした割合が6.8%であったものが、年々増加し続け、2013年には27.3% と約4倍にまで増加している。 これらの結果から、中規模企業および小規模事業者おいても、大企業には及ばないものの、 着実に導入・利用が進んでいることがわかる。さらに、業務領域別(社内の情報共有、カス タマーサポート、物流、販売、調達・仕入、財務・会計、人事・給与、開発、設計、生産) におけるクラウド・コンピューティングの利用割合について、2012年と2015年を比較した調 査では、全ての業務領域において2015年が2012年を大きく上回っており、あらゆる業務領域 に普及してきていることが見て取れる。 ② クラウド・コンピューティング導入・利用のメリットと課題 最新IT導入調査では、クラウド・コンピューティング導入・利用におけるメリットにつ いて、「初期コストが安い」「導入までの期間が短い」「技術的な専門知識がなくても導入で

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IT 投資効果に関する理論的考察 きる」「セキュリティ面での信頼性・安全性が高い」「運用コストが安い」「ユーザアカウン トの追加等サービス拡張が容易」「ソフトウェア利用の停止・解除が容易」「サービス・プラ ットフォームの定期的な機能拡張ができる」「カスタマイズが容易」「既存システムや他サー ビスとの連携が容易」の10のメリットについて、従業員規模別に集計されている。 結果として、従業員が201~300人および101~200人規模の企業では「初期コストが安い」 が最も割合が高く、人的資源の限られた100人以下の企業では「技術的な専門知識がなくて も導入できる」とした割合が最も高い結果となった。また、「運用コストが安い」とした割 合も比較的高く、やはりクラウド・コンピューティングの特長ともいえる “導入のしやすさ” と “低コスト” をメリットとして回答した割合が高い結果となっている。その一方で、クラ ウド・コンピューティング導入・利用の課題についての調査においては、「トータルコスト が高い」と回答した割合が、従業員が201~300人および101~200人規模の企業において10項 目中4位、100人以下の企業では2位と比較的高い割合となっている。 ③ 中小企業における最新ITの利用状況に関するまとめ ①と②の調査結果より、中小企業はクラウド・コンピューティングへの投資に対し、未だ に明確な有効性を見いだせず、またコスト面においては期待しているほど効果を享受できて いないと感じていることが窺える。本来であれば、コスト面の課題だけではなく、スピード 経営やタイムベース競争といった、戦略的課題を解決するために有効であるはずのクラウ ド・コンピューティングが、コストメリットだけを考えて検討されている点についても、最 新ITへの投資が戦略的な目的と捉えられていないものといえよう。 (3)本節の小括 本節では、定量的なデータに基づく近年の中小企業におけるITの導入状況および最新IT の利用状況についての現状と課題について考察してきた。その結果、テクノロジーの進化や ITトレンドに追従すべく導入を試みたものの、期待したほど効果を得られていないと感じ る中小企業の現状が判明した。図表2-1に現状分析のまとめを示す。

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― 146 ― 図 表 2-1 現 状 分 析 の ま と め 近 年 の 中 小 企 業 に お け る IT の 導 入 状 況 1. 2007 年 と 2012 年 に お け る IT の 導 入 の 状 況 は 、 5 年 間 で 着 実 に 増 加 し て い る 。 2. 業 務 領 域 別 の IT の 導 入 の 状 況 は 、 規 模 の 小 さ な 企 業 ほ ど 企 業 に 直 接 付 加 価 値 を 生 む 業 務 に IT を 活 用 で き て い な い 。 3. IT を 導 入 し て い な い 理 由 と し て は 、5 割 超 の 企 業 が「 導 入 の 効 果 が 分 か ら な い 、評 価 で き な い 」 と 回 答 し て い る 。 4. IT 投 資 額 の 戦 略 的 投 資 比 率 に つ い て は 、中 小 企 業 に お い て は 戦 略 的 な 目 的 で の IT 投 資 が ほ と ん ど な さ れ て い な い 。 5. IT 投 資 開 始 企 業 と IT 投 資 非 開 始 企 業 の 売 上 高 経 常 利 益 率 の 比 較 に つ い て は 、IT 投 資 を 継 続 し た 企 業 の 方 が 高 い 成 長 を 示 し て い る 。 6. IT の 導 入・活 用 に お け る 課 題 に つ い て は 、小 規 模 事 業 者 、中 規 模 企 業 と も に「IT 関 連 の コ ス ト の 負 担 が 大 き い 」 と 回 答 す る 割 合 が 最 も 高 い 。 中 小 企 業 に お け る 最 新 IT の 利 用 状 況 1. ク ラ ウ ド・コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ の 認 知 と 利 用 状 況 に つ い て は 、規 模 を 問 わ ず 経 営 者 層 に も 広 く 認 知 さ れ る よ う に な っ て き て い る 一 方 で 、中 小 企 業 の 利 用 状 況 に 関 し て は 、「 利 用 し て い る 」 「 利 用 を 検 討 し て い る 」 と 回 答 し た 割 合 は 、 大 企 業 に 比 べ て か な り 低 い 。 2. ク ラ ウ ド・コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ 導 入・利 用 の メ リ ッ ト と 課 題 に つ い て は 、 中 小 企 業 は ク ラ ウ ド ・ コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ へ の 投 資 に 対 し 、 未 だ に 明 確 な 有 効 性 を 見 い だ せ ず 、ま た コ ス ト 面 に お い て は 期 待 し て い る ほ ど 効 果 を 享 受 で き て い な い と 感 じ て い る 。 出 典 : 筆 者 作 成

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IT 投資効果に関する理論的考察 中小企業におけるIT導入が上記のように進まないのは、IT投資や導入の目的が業務効率 化やコスト削減など単純なものに留まり、かつ投資や導入の効果を評価する分かり易い指標 やモデルが存在しないことが原因のひとつであると考えられる。 次節では、中小企業が課題と認識している「持続的な投資効果」に資するIT投資のプロ セスや、投資効果を持続させている企業の組織特性を導出できる助けとなる先行研究につい てレビューする。

3 先行研究レビュー

本節では、IT投資マネジメント、企業の状況に応じたIT投資、およびIT投資に効果的な 組織特性に関する先行研究について考察するとともに、各先行研究を中小企業に適用するう えでの限界についても述べる。 (1)IT投資マネジメントに関する先行研究 近年、外部環境の変化に伴い、企業におけるIT環境や情報システムが大規模化・複雑化 し、かつ内部統制やコンプライアンスの対象ともなってきていることから、従来のような単 純な設備投資に対するリターンといった、いわゆる投資対効果(ROI)を算出するだけでは、 その効果を十分に説明できなくなってきている。 松島(2007)は、IT投資に対する費用対効果分析のモデル化に関する問題点は、「前提や 仮定の多さ」「モデルの複雑化」「調査時間と工数」「不確実な要因の増大」の4点であると し、投資の経済性による効果分析の限界を指摘している。そしてこのような問題提起から、 IT投資マネジメントを「企業内のITに関わる支出を効果的に企業業績に貢献するための管 理手法のフレームワーク」と定義し、経済性以外の観点を考慮した投資効果を導出するため のツールとしてその有効性を提唱している。 本項では、IT投資マネジメントに関する先行研究についてレビューするとともに、これ ら諸理論の中小企業への適用可能性を研究するうえでの基礎となるフレームワークについて 考察する。 ① IT投資マネジメントの変遷 IT投資マネジメントは、IT環境や時代の移り変わりとともに発展し、費用便益分析を中 心とした経済性評価から企業の戦略性に対する評価へと、様々な視点やアプローチ方法が提 唱されるようになってきている。特に近年では、タイムベース競争やスピード経営が競争優 位を築くための重要な戦略のひとつとされている。すなわち、外部環境変化の捕捉、変化に 関する社内での情報共有、共有された情報に基づく戦略・戦術の策定、施策実行の最終的な 意思決定、事後のフィードバック等の一連のプロセスをいかに素早くかつ確実に遂行できる かが、これからの企業間競争の要諦である。そしてこのような企業を取り巻く環境の変化を

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― 148 ― 受けて、IT投資の目的も単なる業務効率化だけでなく、戦略的かつ迅速な企業経営の実現 のために実施・評価されるように変化してきている。 図表3-1は、企業向けIT投資の対象となる代表的な企業向け情報システム分野とIT投資に 対する効果・評価における考え方の変遷について、1990年以前から2010年代までの期間を5 つの時代区分にまとめたものである。企業の情報システムが主に大型汎用コンピュータであ った時代からダウンサイジングが進み、さらに業務におけるインターネット利用が普及する につれて、IT投資に対する効果・評価における考え方も、経済性中心から企業経営への迅 速な貢献度といった直接測定することが困難なものへと変遷していることがわかる。 図 表 3-1 企 業 向 け IT 投 資 ト レ ン ド と IT 投 資 評 価 の 変 遷 年 代 代 表 的 な 企 業 向 け 情 報 シ ス テ ム 分 野 IT 投 資 に 対 す る 効 果 ・ 評 価 に お け る 考 え 方 第 1 期 (1990 年 以 前 )  MIS( 経 営 管 理 シ ス テ ム )  DSS( 意 思 決 定 支 援 シ ス テ ム )  CIM( コ ン ピ ュ ー タ 統 合 生 産 ) IT に か か る 費 用 が 増 大 し 、そ の 投 資 に 採 算 性 が あ る か ど う か が 問 題 と さ れ 、 費 用 便 益 分 析 や 、 そ れ ら を 発 展 さ せ た 経 済 性 評 価 ( 回 収 期 間 法 、 NPV 法 、IRR 法 等 )が 主 流 と な る 。 第 2 期 (1990 年 代 前 半 )  SIS( 戦 略 的 情 報 シ ス テ ム )  CAD/CAM/CAE  Office Automation (OA)  Factory Automation (FA)  Store Automation (SA) 投 資 と 効 果 の 因 果 関 係 の あ い ま い さ に 関 し て“生 産 性 パ ラ ド ッ ク ス ”が 提 唱 さ れ 、経 営 戦 略 へ の IT の 直 接 的 な 貢 献 や 経 営 戦 略 と IT 戦 略 と の 整 合 性 が IT 投 資 の 重 要 な 要 素 と し て 議 論 さ れ る よ う に な る 。 す な わ ち 、IT 投 資 の 計 画 段 階 に お い て は ROI 等 の 経 済 性 だ け で な く 、経 営 戦 略 を 支 援 す る IT 投 資 で あ る か ど う か の 戦 略 性 に 関 す る 検 討 が 重 要 と さ れ る 考 え 方 が 広 ま る 。 第 3 期 (1990 年 代 後 半 )  分 散 コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ  オ ー プ ン・ア ー キ テ ク チ ャ ー  イ ン タ ー ネ ッ ト /イ ン ト ラ ネ ッ ト  グ ル ー プ ウ ェ ア  ERP( 統 合 基 幹 業 務 パ ッ ケ ー ジ )  OLAP( オ ン ラ イ ン 分 析 処 理 ) BSC 手 法 の 普 及 に よ る CSF や KPI な ど 、 経 営 管 理 目 標 や プ ロ セ ス に 対 応 し た 指 標 を 利 用 し た 投 資 評 価 が 議 論 ・ 提 唱 さ れ る 。 す な わ ち 、IT 投 資 と 効 果 と い う 個 別 か つ 直 接 的 な 因 果 関 係 の 追 求 よ り も 、 そ こ に 関 わ る 見 え な い 資 産 ( = イ ン タ ン ジ ブ ル ズ ) や 業 務 プ ロ セ ス な ど の 要 素 が 大 き く 影 響 を 与 え る こ と が 明 ら か に さ れ 、 そ れ に 対 す る 様 々 な ア プ ロ ー チ が 提 起 さ れ た 。

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IT 投資効果に関する理論的考察 図 表 3-1 企 業 向 け IT 投 資 ト レ ン ド と IT 投 資 評 価 の 変 遷 年 代 代 表 的 な 企 業 向 け 情 報 シ ス テ ム 分 野 IT 投 資 に 対 す る 効 果 ・ 評 価 に お け る 考 え 方 第 1 期 (1990 年 以 前 )  MIS( 経 営 管 理 シ ス テ ム )  DSS( 意 思 決 定 支 援 シ ス テ ム )  CIM( コ ン ピ ュ ー タ 統 合 生 産 ) IT に か か る 費 用 が 増 大 し 、そ の 投 資 に 採 算 性 が あ る か ど う か が 問 題 と さ れ 、 費 用 便 益 分 析 や 、 そ れ ら を 発 展 さ せ た 経 済 性 評 価 ( 回 収 期 間 法 、 NPV 法 、IRR 法 等 )が 主 流 と な る 。 第 2 期 (1990 年 代 前 半 )  SIS( 戦 略 的 情 報 シ ス テ ム )  CAD/CAM/CAE  Office Automation (OA)  Factory Automation (FA)  Store Automation (SA) 投 資 と 効 果 の 因 果 関 係 の あ い ま い さ に 関 し て“生 産 性 パ ラ ド ッ ク ス ”が 提 唱 さ れ 、経 営 戦 略 へ の IT の 直 接 的 な 貢 献 や 経 営 戦 略 と IT 戦 略 と の 整 合 性 が IT 投 資 の 重 要 な 要 素 と し て 議 論 さ れ る よ う に な る 。 す な わ ち 、IT 投 資 の 計 画 段 階 に お い て は ROI 等 の 経 済 性 だ け で な く 、経 営 戦 略 を 支 援 す る IT 投 資 で あ る か ど う か の 戦 略 性 に 関 す る 検 討 が 重 要 と さ れ る 考 え 方 が 広 ま る 。 第 3 期 (1990 年 代 後 半 )  分 散 コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ  オ ー プ ン・ア ー キ テ ク チ ャ ー  イ ン タ ー ネ ッ ト /イ ン ト ラ ネ ッ ト  グ ル ー プ ウ ェ ア  ERP( 統 合 基 幹 業 務 パ ッ ケ ー ジ )  OLAP( オ ン ラ イ ン 分 析 処 理 ) BSC 手 法 の 普 及 に よ る CSF や KPI な ど 、 経 営 管 理 目 標 や プ ロ セ ス に 対 応 し た 指 標 を 利 用 し た 投 資 評 価 が 議 論 ・ 提 唱 さ れ る 。 す な わ ち 、IT 投 資 と 効 果 と い う 個 別 か つ 直 接 的 な 因 果 関 係 の 追 求 よ り も 、 そ こ に 関 わ る 見 え な い 資 産 ( = イ ン タ ン ジ ブ ル ズ ) や 業 務 プ ロ セ ス な ど の 要 素 が 大 き く 影 響 を 与 え る こ と が 明 ら か に さ れ 、 そ れ に 対 す る 様 々 な ア プ ロ ー チ が 提 起 さ れ た 。 第 4 期 (2000 年 代 )  DWH( デ ー タ ウ ェ ア ハ ウ ス )  DM( デ ー タ マ ー ト )  BI( ビ ジ ネ ス イ ン テ リ ジ ェ ン ス )  SCM( サ プ ラ イ チ ェ ー ン マ ネ ジ メ ン ト )  CRM( 顧 客 情 報 管 理 )  SFA( 営 業 支 援 ) イ ン タ ー ネ ッ ト の 爆 発 的 普 及 と グ ロ ー バ ル 化 の 急 速 な 進 展 に よ り 、 競 争 優 位 性 を 得 る た め の 条 件 と し て 、 タ イ ム ベ ー ス 競 争 や ス ピ ー ド 経 営 が 謳 わ れ る よ う に な る 。 IT 投 資 に 関 し て も 、経 営 情 報 の 即 時 反 映 お よ び 即 時 共 有 に い か に 資 す る か と い う 観 点 が 重 要 視 さ れ る よ う に な る 。 第 5 期 (2010 年 代 )  ビ ッ グ デ ー タ  ク ラ ウ ド・コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ  ス マ ー ト デ バ イ ス  Marketing Automation( MA)  FinTech  IoT/IoE/M2M  AI ク ラ ウ ド ・ コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ お よ び ス マ ー ト デ バ イ ス の 普 及 に よ り 、 時 間 と 場 所 を 問 わ ず に 企 業 内 シ ス テ ム を 利 用 で き る よ う に な る 。加 え て 、 IoT、AI、MA 等 の 進 化 に よ り 、直 接 人 を 介 さ な い シ ス テ ム が 発 達 す る 。 こ れ に よ り 、 新 た な IT 資 産 か つ IT 人 材 の 確 保 を 最 小 限 に し な が ら 迅 速 な IT 投 資 が 可 能 と な る 。 出 典 : 松 島(2007)を 基 に 第 4 期 以 降 筆 者 加 筆

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― 150 ― ② IT投資マネジメントの分析アプローチ 前項で述べたとおり、IT投資マネジメント研究はテクノロジーの進化や時代の要請とと もに発展している。近年では、より現実的な投資効果を導出するために、さまざまな視点で のアプローチ方法が提唱されてきており、このことからも経済性に関する視点からだけでは 投資効果の導出は困難であるということが窺える。 図表3-2は、IT投資マネジメントにおける主な分析アプローチ方法である「資源ベースア プローチ」「プロセスアプローチ」「合意形成アプローチ」についてまとめたものである。 ③ 合意形成モデル 松島(1999,2007)は、IT投資マネジメント分析における合意形成アプローチでは、経営 者が情報システム部門に対して投資を行い、情報システム部門がIT投資によって資源を調 達して利用部門に対してサービスを提供し、利用部門はこの情報サービスを活用して部門業 績を改善し企業業績の向上に貢献する合意形成モデルを提唱しており、これら三者が三位一 体となった循環的な関係によって、IT投資は回収されるとしている。 また、松島(2013)は、上記モデルに、経営者から利用部門へのIT投資目的説明、利用 部門から情報システム部門へのIT化要求、情報システム部門から経営者へのIT活用による 業務改革提言のプロセスを加え、IT投資の合意形成は単に一方通行的なプロセスではなく 双方向性を有しながら成されているとし、従来のモデルを発展させている。図表3-3は、IT 投資マネジメントにおける合意形成モデルとその発展形を図示したものである。 図 表 3-2 主 な IT 投 資 マ ネ ジ メ ン ト 分 析 ア プ ロ ー チ 分 析 ア プ ロ ー チ 種 別 内 容 資 源 ベ ー ス ア プ ロ ー チ 企 業 が 保 有 す る 資 源( 見 え な い 資 産 も 含 む )に 着 目 し 、資 源 面 に お い て 競 争 力 強 化 に 寄 与 し て い る か 評 価 す る ア プ ロ ー チ 。 プ ロ セ ス ア プ ロ ー チ 投 資 と 効 果 の 間 に マ イ ル ス ト ー ン を 置 き 、途 中 経 過 ( 投 資 後 の プ ロ セ ス )の 成 果 を 確 認 し て い く ア プ ロ ー チ 。 合 意 形 成 ア プ ロ ー チ 投 資 の 意 思 決 定 に 係 る 調 整 メ カ ニ ズ ム と し て 、利 害 関 係 者 間 の 合 意 形 成 を 重 視 す る ア プ ロ ー チ 。 出 典 : 松 島(2007)を 基 に 内 容 部 分 を 筆 者 一 部 加 筆

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IT 投資効果に関する理論的考察 合意形成モデルの考え方は、IT投資効果分析において、組織や利害関係者の合意形成と いう、従来型の経済性効果分析にはない要素・プロセスを取り入れており、中小企業におけ るIT投資効果を研究するための分析視座のひとつとして、また、仮説を設定・検証する際 のひとつのアプローチとして有効であると考える。 ④ 戦略的IT投資効果の考え方 松島(2013)は、各案件に対する投資の結果として何らかの効果が生じ、それらを金額換 算し合計するという手法が従来の投資効果を測るアプローチとするならば、ある戦略目標を 達成するために打ち出された施策の実行に対し、IT資源を含むさまざまな資源が活用され た結果としての客観的な目標達成度が戦略的IT投資効果であるとしている(図表3-4)。 図 表 3-3 IT 投 資 マ ネ ジ メ ン ト に お け る 合 意 形 成 モ デ ル の 発 展 出 典 : 松 島(2007,2013) 経営者 利用 部門 情報シス テム部門 効果 投資 サービス提供 経営者 利用 部門 情報シス テム部門 IT投資 効果報告 IT投資意思決定 ITサービス提供 IT化要求 IT活用によ る業務改革 提言 IT投資 目的説明 図 表 3-4 戦 略 的 IT 投 資 効 果 の 考 え 方 出 典 : 松 島(2013) 効果1 効果2 効果3 経済効果1 経済効果2 経済効果3 換算 換算 換算 ・ ・ ・ ・ ・ ・ I T 投 資 効果金額合計 ⇒IT投資効果 IT投資 施策1 施策2 施策3 IT資源 人 的 資 源 機 械 設 備 ・ ・ ・ 戦略目標 イ ン タ ン ジ ブ ル ズ ⇓ 達成度 ⇓ 戦略的 IT投資効果

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― 152 ― 実際のビジネス現場においても、業務プロセスを省力化・効率化することで期待されるコ スト削減分をキャッシュフローに見立て、NPV法を活用してキャッシュフローの現在価値 と投資額の差から投資の意思決定や効果導出を実施するようなアプローチでは、近年のBI、 SCM、CRM、SFA、ビッグデータ基盤などといった、実業務に直接関係ないが経営戦略立 案のために重要な情報システムに対する投資効果を導出するのは極めて困難である。 以上のことから、IT投資マネジメントの視点における効果については、企業が設定した 何らかの戦略目標に対する達成度を基に導出することが、実務上においても現実的かつ実用 的であると考えられる。 (2)IT投資の資源配分に関する先行研究 IT投資を考えるうえでは、前節で述べたような投資に対する効果とともに、投資対象と なる情報システムが企業にとってどのような性質のものなのかを把握することが重要である。 いかに高い効果が見込まれるシステムでも、投資主体である企業の状況に合わなければ、そ の効果は限定的なものになるであろう。特に、大企業と比較して資源が限られている中小企 業においては、自社のIT環境についての重要性やリスク等を勘案した位置づけを把握する ことは、投資の意思決定および最適資源配分の視点で有益であるといえる。 本節では、企業における経営資源の効率かつ効果的配分を分析するために有用な考え方と フレームワーク、およびフレームワークをIT投資対象の分類と分析のために応用した先行 研究についてレビューするとともに、中小企業におけるIT投資への有用性について考察する。 ① コア-コンテキスト分析フレームワーク コア-コンテキスト分析フレームワークとは、企業内において絶え間ないイノベーション が行われるために、その諸活動(業務・市場・製品など)の競争優位性や差別化能力を分析 し、企業の成長段階に応じた経営資源の再配分に関する指針を示すマネジメント・フレーム ワークである。本フレームワークは、自社が持つ貴重な経営資源(人材や資金)を投下すべ き業務領域とアウトソーシングすべき領域を見分けるツールとして、Moore(2005)によっ て提唱された。 「コア」とは、企業の競争優位や差別化を実現するイノベーションが継続的かつ効率的に 行われるために、企業の活動プロセスを顧客獲得のための差別化を生み出す要素と定義し、 一方の「コンテキスト」は、差別化を生み出さない全ての要素としている。 また、「ミッションクリティカル(重要任務)」とは、失敗や問題が起こると即時に企業の 存続や成長に直接的で深刻なダメージを及ぼすリスクの高い要素と定義し、一方の「非ミッ ションクリティカル」は、失敗や問題があってもリスクが限定的で企業の存続や成長に直接 的で深刻なダメージを及ぼさない要素としている。これら2つの視点から4つの象限に分類し、 企業内に滞留する経営資源を適切に再分配する際の枠組みとして用いられる(図表3-5)。

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IT 投資効果に関する理論的考察 イノベーションは第1象限(ノンミッションクリティカル・コア)で研究開発やテストマ ーケティングとして始まり、市場性があると見込まれたときに第2象限(ミッションクリテ ィカル・コア)に移行する。この段階で、イノベーションが顧客に受け入れられれば、市場 が立ち上がって事業は成長するが、それは競合他社を招き寄せることになるため、やがてイ ノベーションはキャッチアップされて陳腐化し、結果としてビジネス環境は第3象限(ミッ ションクリティカル・コンテキスト)の段階に移行する。 Mooreは、第3象限は成長が見込めない割にはリスクが大きく、慎重な業務オペレーショ ンが求められるため、この領域にコアと同等の人材や時間を使い続けるのは経営資源の浪費 にほかならないと断じ、ミッションクリティカル・コンテキストではアウトソーシングなど を積極的に進めて貴重な自社資源を解放し、第4象限(ノンミッションクリティカル・コン テキスト)への移行を促すべきだと主張している。 ② IT投資分類への応用 横田(2013)は、前述のコア-コンテキスト分析フレームワークをIT投資分野の分類に応 用し、第1象限には「独自のシステムであるが、停止しても業務に直接影響はないシステ ム」、第2象限には「独自のシステムであり、かつ停止すると業務に直接影響がある基幹系シ ステム」、第3象限には「汎用性の高いシステムであるが、停止すると業務に直接影響する業 図 表 3-5 コ ア -コ ン テ キ ス ト 分 析 フ レ ー ム ワ ー ク 出 典 :Moore (2005),横 田 (2007)

コンテキスト

コア

ミッションクリティカル 非ミッションクリティカル 第1象限 第2象限 第3象限 第4象限 失敗や問題があっても即 時に企業の存続や成長に 直接的で深刻なダメージ を及ぼさないプロセス 問題があると、即時に重 大なリスクが発生するプ ロセス コア以外の中でもリスクの 低いプロセス コア以外の全てのプロセス

独自性

強 弱 低 高

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― 154 ― 務/管理系システム」、第4象限には「汎用性の高いシステムで、かつ停止しても業務に直接 影響しないシステム」の4つに分類している(図表3-6)。この分類は、既に導入したシステ ムが自社の業務にとってどのような位置づけとなるかということを端的に表現できるだけで なく、これからIT投資する場合の方向性の設定や優先順位づけ、また投資後のシステムに 対する重要度や自社内における位置づけの変更等の際にも有用だと考えられる。 コア-コンテキスト分析フレームワークと似た考え方に「IT投資ポートフォリオ」がある が、これはリスクの高低の軸は共通であるものの、他方の軸が収益の大小で設定されており、 投資対象を経済性で評価しなければならないため、実用的とは言い難い。それに対し、コア-コンテキスト分析フレームワークは、投資対象における差別化度合いや独自性を軸に設定す ることで、企業の収益に直接関連しないシステムも分析対象にできることが特長的だといえ る。よって本稿においても、中小企業のIT投資分野の分類および投資後の動向に関する考 察に図表3-6を活用する。 (3)IT投資に効果的な組織特性に関する先行研究 IT分野に限らず、企業において何らかの設備投資を行う際には、経営者単独の意思決定 ということは考え難い。前述の「合意形成モデル」でも述べたように、投資の意思決定には 経営者の他にも様々な利害関係者が登場し、最終的には「組織」として意思決定を行うのが 図 表 3-6 フ レ ー ム ワ ー ク の IT 投 資 分 類 へ の 応 用 出 典 : 横 田(2013)

コンテキスト

コア

ミッションクリティカル 非ミッションクリティカル 第1象限 第2象限 第3象限 第4象限 独自のシステムであるが、 停止しても業務に直接影 響はないシステム 独自のシステムであり、 かつ停止すると業務に直 接影響がある基幹系シス テム 汎用性の高いシステムで、 かつ停止しても業務に直接 影響しないシステム 汎用性の高いシステムであ るが、停止すると業務に直 接影響する業務/管理系シ ステム

独自性

強 弱 低 高

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IT 投資効果に関する理論的考察 一般的である。 本節では、企業の組織特性を可能な限り定量化させるための方法論として、組織IQに関 する考え方や先行研究についてレビューするとともに、効果的なIT投資を行う組織特性の 定量化について考察する。 ① 組織IQ 組織の特性および組織のあり方と業績との関係性を研究したものが組織IQである。組織 図 表 3-7 組 織 IQ の 5 原 則 組 織 IQ の 5 原 則 概 要 外 部 情 報 認 識

(EIA : External Information Awareness)

自 社 に 影 響 を 与 え る よ う な 外 部 情 報 や 競 合 状 況 に つ い て 鋭 い 認 識 を 持 ち 、情 報 に 対 し て 高 い 感 度 を 維 持 す る こ と 。

内 部 知 識 発 信

( IKD : Internal Knowledge Dissemination)

組 織 に 蓄 積 さ れ た 外 部 情 報 を 、組 織 横 断 的 に 双 方 向 で 共 有 し 、か つ 過 去 の 企 業 活 動 等 を 継 続 的 に 学 習 す る こ と 。

効 果 的 な 意 思 決 定 機 構

( EDA : Effective Decision Architecture) 可 能 な 限 り 的 確 な 判 断 が で き る だ け の 十 分 な 情 報 を 保 有 し て い る 下 の レ ベ ル に 権 限 を 移 譲 す る こ と で 、組 織 内 で 共 有 し た 情 報 を 効 率 的 に 意 思 決 定 に 活 用 す る 組 織 機 構 の こ と 。 組 織 フ ォ ー カ ス

(OF: Organization Focus)

組 織 効 率 を 向 上 さ せ て 限 ら れ た 経 営 資 源 を 効 果 的 に 利 用 し て い く た め に 、本 来 独 立 し て 動 い て い る 各 部 門 を 、明 確 な ビ ジ ョ ン や 目 標 に 沿 っ て ベ ク ト ル を 合 わ せ る こ と で 、 有 限 な 資 源 を 集 中 さ せ る こ と 。 目 標 化 さ れ た 知 識 創 造 (TKG : Targeted Knowledge Generation) 企 業 の 規 模 に 関 わ ら ず 、ア ン ト レ プ レ ナ ー シ ッ プ ( 起 業 家 精 神 ) や ビ ジ ネ ス ・ オ ー ナ ー シ ッ プ ( 事 業 主 体 性 ) を 認 め 、 創 造 性 を 生 み 出 す 企 業 文 化 を 継 続 さ せ る こ と 。 出 典 : 鈴 木(2001a)

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― 156 ― IQとは、1990年代前半に、米スタンフォード大学と独アウグスブルグ大学が中心となって 実施された研究成果を基に考案された、組織の活性度を定量的に表す尺度である。IQとは 本来、個人の知的能力を測る尺度のひとつであるが、組織IQは組織を人間に見立て、組織 が持つ情報を素早く処理し、効果的な意思決定を行う能力、すなわち知的情報処理能力を測 る尺度である。 組織IQは、図表3-7に示すように、経営要素を5原則(「外部情報認識」「内部知識発信」 「効果的な意思決定機構」「組織フォーカス」「目標化された知識創造」)として体系化した経 営モデルであり、組織にとって不可欠な経営要素を実証研究に基づいて特定化したものであ る。具体的には、それぞれの原則に対応した調査項目をスコア化することで、財務情報では 把握しにくい「組織における経営状態」の定量化・見える化を可能とするものである。その 結果から、問題が見つかればそれらを改善することで、企業の経営スピード全体を向上させ、 経営効率の向上に役立てることができる。 組織IQは、組織がまず必要な情報を効率的・効果的に「①獲得(外部情報認識)」して 「②共有(内部知識発信)」し、方針を「③決定(効果的な意思決定)」したうえで「④実行 (組織フォーカス)」、その後に知識を「⑤創造(目標化された知識創造)」し、また①に戻る という経営の基本的なプロセスが前提になっている(図表3-8)。 組織IQプロセスにおいては、「外部情報認識」「内部知識発信」および「効果的な意思決 定機構」については「情報活用系」に分類され、「組織フォーカス」および「目標化された 知識創造」については「資源活用形」に分類される。特にプロセスの前段階である情報活用 図 表 3-8 組 織 IQ プ ロ セ ス 出 典 : 鈴 木(2001a)を 基 に 筆 者 一 部 加 筆

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IT 投資効果に関する理論的考察 系において実施される組織内外の情報資源(いわゆるインタンジブルズ)の効果的な活用 が、経営の効率化にとって重要であることを示している。 中小企業においてIT経営を持続的に実践し効果を上げていることは、ビジネスの効率化 すなわちスピード経営の実現のために、組織内外の情報を活用しながらIT投資の意思決定 を効果的に実施し、それらの活動を継続していることを意味している。したがって、スピー ド経営を実現するための方法論である組織IQの枠組みを利用することで、IT投資を効果的 かつ持続的に実施している企業の組織特性を、定量的に分析・評価することが可能になると 考える。 ② 中小企業における組織IQとIT投資に関する先行研究 大森・姉尾(2007)は、中小企業におけるIT投資効果の研究のなかで、企業の組織特性 のパラメータに組織IQの枠組みを利用している。また、組織特性に対応した投資効果を表 すパラメータにバランスト・スコアカード(Balanced Scorecard)の枠組みも利用してい る。これらの枠組みをIT投資効果の分析に利用することで、従来のような投資の経済性効 果分析ではなく、IT投資を成功させる要因および今後企業が行うIT投資の傾向について興 味深い分析をしている。よって本稿においても、IT投資を積極的に実施している中小企業 の組織特性に関する考察に組織IQの考え方を活用する。 (4)本節の小括 本節では、中小企業における持続的な投資効果に資するIT投資のプロセスや、投資効果 を持続させている企業の組織特性を導出できるような先行研究についてレビューしてきた。 本項では、本節の小括として、レビューした先行研究をまとめるとともに、中小企業におけ るIT投資効果の考察に対してこれらの研究結果を適用することの限界を示す。 ① 先行研究レビューのまとめ IT投資効果に関しては、20世紀後半より様々な研究がなされているものの、投資に対す る経済性の効果算定だけでは投資を意思決定した側の期待した効果を表しているとは言い切 れない時代になってきていることから、「IT投資マネジメント」理論による多面的な投資効 果の検証が有効である。当該理論では、経済性で評価されやすい企業の業績向上目的のみな らず、戦略目標の達成を目的とするような戦略的なIT投資は、複数の利害関係者の合意が 基本となる「合意形成モデル」により意思決定されるとしている。 IT投資においては、効果的側面だけでなく、投資対象となる情報システムが企業にとっ てどのような性質のものなのかを把握することが重要である。この点については、投資対象 システムを企業の状況や業務の重要性およびリスクの大小に分類し、企業における位置づけ を可視化する方法として「コア-コンテキスト分析フレームワーク」が有用である。この枠 組みにより、IT投資する場合の方向性の設定や優先順位づけ、また投資後のシステムに対

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― 158 ― する重要度や自社内における位置づけの変更等に活用することができる。 さらに、「合意形成モデル」や「コア-コンテキスト分析フレームワーク」を用いてIT投 資を実施している企業の特性を調べる場合、何らかの指標ないしは定量化が必要である。こ のための手段としては、組織IQの枠組みを利用して企業の状態をスコア化することにより、 IT投資を実施する企業の特性を定量化することが可能となる。 ② 先行研究の限界 本節で取り上げた「合意形成モデル」「コア-コンテキスト分析フレームワーク」「組織 IQ」といった理論やフレームワークは、多数の事例研究を基に考案されただけに、様々な 研究でも引用・応用されている。しかしながら、理論の基礎となる事例企業はグローバル企 業や大企業が多く、自社が保有する豊富な資源・組織をより活用するための戦略や施策を立 案するためには極めて有用であると考えられるものの、資源が限られ、他社および関連企 業・機関等との密な関係性のなかで経営している中小企業には必ずしもそのまま適用するこ とはできない。このため次節においては、これらの理論やフレームワークを発展させ、中小 企業でも適用可能な効果的IT投資について考察する。

4 中小企業への適用可能性

本節では、前節までに考察してきた現状分析および先行研究レビューを基に、IT投資効 果に関する諸理論の中小企業への適用可能性について考察する。 (1)考察にあたってのポイント 前節では、企業におけるIT投資効果を考察するうえでの先行研究、およびそれらの研究 から導き出された理論およびフレームワークについて考察してきた。そこでも述べたように、 これらの理論は汎用的で有用であるものの、主に規模の大きな企業や組織が対象であり、資 源の限られた中小企業にそのまま適用することはできない。また、IT投資に対する効果を 分析する際は、経済性効果だけを対象にしても実態とかけ離れたものになりやすい。そこで 本節においては、「中小企業の企業規模と組織特性」「経済性以外の投資効果」および「投資 効果の持続性」の3点に立脚し、特に持続性に焦点を当てながら考察することとしたい。 (2)中小企業におけるIT投資効果に関する考察 本稿でこれまで考察してきた現状分析および先行研究を基に、本項ではIT投資効果に関 する諸理論の中小企業への適用可能性について、以下の4点(「組織内外の情報活用と意思決 定」「投資に伴う社内外の組織との合意形成」「経済性以外の投資評価」「投資対象を取り巻 く状況の変化に応じた資源配分の変更」)について考察する。

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IT 投資効果に関する理論的考察 ① 組織内外の情報活用と意思決定 組織内外の情報を積極的に活用し、かつ効率的な意思決定がなされていれば、中小企 業においてもIT投資を効果的に持続させることができる。 本稿では大企業に比べて経営資源の乏しい中小企業を対象としている。したがって、IT 投資を継続的に実施して効果を上げるということは、ITを経営環境の変化に対して迅速か つ柔軟に対応すべく利活用すると言い換えることもできる。すなわち、IT投資を効果的に 継続するということは、組織IQの観点からすると、組織内外の情報を活用し、かつ効率的 な意思決定を実施している「情報活用系(外部情報認識・内部知識発信・効果的な意思決定 機構)」の活動が積極的であると考えることができる。 ② 投資に伴う社内外の組織との合意形成 投資の意思決定に関して、経営者のみならず、社内外の様々な企業・機関と連携しな がら合意形成することで、中小企業においてもIT投資を効果的に持続させることがで きる。 経営資源の限られた中小企業は、大企業のようにITの専門部署やIT系子会社等を保有し ていないため、IT導入は自社以外の組織や機関を活用せざるを得ない。そのため、IT導入 に伴う意思決定には、合意形成モデルが示すように、経営者とともに情報システム担当者や 利用部門が三位一体となって関与することに加えて、ITベンダ、地域の金融機関、商工会 図 表 4-1 想 定 さ れ る 中 小 企 業 に お け る IT 投 資 意 思 決 定 モ デ ル 出 典 : 筆 者 作 成 経営者 利用部門 情報システム担当者 金融機関 外部機関 IT投資 効果報告 IT投資意思決定 ITサービス提供 IT化要求 IT活用に よる業務改 革提言 IT投資 目的説明 支援依頼 補助金交付/ 専門家派遣等 融資 支援依頼 支援依頼

外部連携

ITベンダ 導入・保守

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― 160 ― 議所などの社外の組織・機関が関与し、相互に連携して合意形成が行われていると考えられ る。 したがって、中小企業がIT投資を効果的に持続させるためには、合意形成モデルのよう な3者間における閉じた循環的関係ではなく、図表4-1に示すような、社内外の様々な企業・ 機関と継続的関係を築きながら、ともに意思決定を行う関係性を構築する必要があると想定 される。これは、組織IQの観点においても、組織IQの5原則における「資源活用系(組織フ ォーカス・目標化された知識創造)」の積極的な活動が必要であるとも考えられる。 ③ 経済性以外の投資評価 経済性以外の目に見えない効果も評価することで、中小企業においてもIT投資を効 果的に持続させることができる。 既述のように、IT投資の効果は売上の増加やコストの減少といった経済性効果のみで測 ることは困難である。また、戦略的にITを利活用していると評価されるようなケースでは、 投資効果は必ずしも貸借対照表や損益計算書上で導出できるものだけではない。意思決定ス ピードの向上、部門横断的な即時情報共有、社内コミュニケーションの活発化などといっ た、企業経営における重要課題であるが測定することが難しい項目についても評価する必要 がある。 したがって、IT投資の効果を継続的に得るためには、定量化や可視化が比較的困難であ る経済性以外の投資評価についても、継続して実施する必要があると考えられる。 ④ 投資対象を取り巻く状況の変化に応じた資源配分の変更 まず汎用性の高いシステムであるが停止すると業務に直接影響する業務/管理系シス テムに投資し、その後のシステムを取り巻く状況の変化に応じて資源配分を変化させる ことで、中小企業においてもリスクを低減させながらIT投資を効果的に持続させるこ とができる。 社内資源の多くを新規IT導入のために投入できない中小企業にとって、攻めの分野に投 資するためには、投資対象が業務上重要な位置づけであったとしても、リスク低減の理由か ら、まずは導入が容易で可能な限りコストを抑えることのできる汎用的なシステムを採択す ると考えられる。具体的には、人事・給与・生産・販売・財務系管理システムやそれらを統 合したERPパッケージ等のバックエンド業務システム、およびCAD/CAMやPOSステム等 のフロントエンド業務システムが挙げられ、これらは業務を遂行する上で止めることはでき ないものの、共通的な機能を有し、かつ導入実績が豊富なパッケージシステムであることが

(24)

IT 投資効果に関する理論的考察 多い。当該システムは、コア-コンテキスト分析フレームワークでいうところの「ミッショ ンクリティカル-コンテキスト領域」であり、自社独自の仕様を実装すべく一から開発した システムではないが、業務上無くてはならない位置づけのものである。 また、IT投資を効果的に実施している企業は、システムを取り巻く状況の変化に応じて、 自社における位置づけを変えていることが想定される。例えば、投資当初は「ミッションク リティカル-コンテキスト領域」であったが、業務遂行上システムの重要性が高まったので、 さらなる投資を行い「ミッションクリティカル-コア領域」へ位置づけを変えたり、または ITコストの削減や他のシステムへの投資が必要になったため、「非ミッションクリティカル-コンテキスト領域」へ位置づけを変更することでリスク低減を図ったりする場合である。つ まり、リスクを低減させながらIT投資を効果的に持続するためには、図表4-2に示すように、 「ミッションクリティカル-コンテキスト領域」に対してリスクの低い汎用的なシステムを導 入した後に、システムを取り巻く状況の変化に応じて位置づけを変化させながら、柔軟な資 源配分を実践していく必要があると考えられる。

5 おわりに

今後の研究では、中小企業に対してIT投資に関する実証研究を実施し、それらを統計的 に分析することにより、前節で設定した各考察について検証する。また、検証から得られた 結果を基に、IT投資に不安・不満を感じている中小企業にとって持続的な成長戦略の手段 図 表 4-2 想 定 さ れ る 投 資 対 象 シ ス テ ム の 位 置 づ け 変 化 出 典 : 横 田(2013)を 基 に 筆 者 加 筆 コンテキスト コア ミッションクリティカル 非ミッションクリティカル 第1象限 第2象限 第3象限 第4象限 独自のシステムであるが、 停止しても業務に直接影 響はないシステム 独自のシステムであり、 かつ停止すると業務に直 接影響がある基幹系シス テム 汎用性の高いシステムで、 かつ停止しても業務に直接 影響しないシステム 汎用性の高いシステムであ るが、停止すると業務に直 接影響する業務/管理系シ ステム リ ス ク 独自性 強 弱 低 高 更なる 投資 ITコスト の削減

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― 162 ― のひとつとして寄与するIT投資モデルを明らかにすることを試みたい。

注記

1) 2)で定めた中小企業以外の企業 2) 従業員300人以下(卸売業、サービス業では100人以下、小売業では50人以下)の企業 3) 従業員20人以下の企業 4) 中小企業から小規模事業者を除いたもの

参考文献

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IT 投資効果に関する理論的考察

Abstract

In small and medium enterprises (SMEs) in Japan, deployment and utilization of IT are not progressing as compared with large enterprises. One of the reasons is that the impact of IT investment is unclear.

In this paper, I review previous research on ”IT investment management”, ”Resource allocation of IT investment” and ”Organizational characteristics effective for IT investment” and consider the applicability to SMEs.

Key Words:Small and Medium Enterprises, IT Management, IT Investment Management,

Impact of IT investments, Core/Context Analysis Framework, Organizational IQ

Theoretical consideration on the impact of

IT investments: Applicability to small and

medium enterprises

参照

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