Title
担子菌の子実体形成過程に特異的に発現するタンパク質の
解析( 内容の要旨 )
Author(s)
小田, 亜紀
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第234号
Issue Date
2001-09-13
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/2575
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏 名(本掴)籍) 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与年月 日 学位授与の要件 研究科及び専攻 研究指導を受けた大学 学 位 論 文 題 目 審 査 委 員 会 小 田 亜 紀 (神奈川県) 博士(農学) 農博甲第234号 平成13年9月13日 学位規則第4粂第1項該当 連合農学研究科 生物資源科学専攻 信州大学 担子菌の子実体形成過程に特異的に発現するタン パク質の解析 主査 信州大学 教 授 柴 井 博四郎 副査 信州大学 助教授 千 菊 夫 副査 岐阜大学 教 授 中 村 征 夫 副査 静岡大学 教 授 岡 部 満 康 副査.信州大学 教 授 大 政 正 武 論 文 の 内 容 の 要 旨 子実体の形成時,生活環の他の段階と比べて非常に特徴的な大きさや形態をもつ器官を作り上げる,形態 的に著しい変化を示す現象である.また,食料資源として産業的な観点からも重要である.しかし,子実体 形成に関わる遺伝子や,それら遺伝子の役割,遺伝子産物の離,などの分子レベルでの子実体形成のメカ ニズムは.よくわかっていない.本研究は,担子菌顆の子実体形成に関わるタンパク葺を解析し,子実体形 成の分子生物学的なメカニズムを解明する目的で行ったものである. 実験ではまず第1に,■エノキタケ子実体形成過程におけるタンパク賓の発現をSDS-PAGEによって分 析し,子実体に大主に発現するタンパク寛について分子的な特徴を明らかにした.SDS-PAGEによって, 子実体に大量に発現する糾,27,けkDaタンパク賓を見いだした.これらのうち,糾kDaタンパク質と17 姐aタンパク賓を精製し,N末端ア草ノ醒の配列の解析を行ったが,2つのタンパク実はいずれもN末端 アミノ醗が修飾されていて,解析できなかった.17kDaタンパク実について,内部部分アミノ酸配列を解析 し,LYDDVVPKおよぴFADENFQUくという配列を得た.これらの配列はベプチジルプロリルシストラ ンスイソメラーゼの一経であるサイクロフィリンと「致し,17kDaタンパク寛がサイタロフィリンであるこ とが明らかになった. サイクロフィリンは,情報伝達にかかわり,免疫抑制剤サイクロスボリンAと複合体を形成してカルシ ニューリンを阻害し,免疫を抑制する、また,ペプチド中のプロリンペプチド結合のシス体とトランス体を 変換する異性化酵素でもあるという2つの面をもつ.以上のことから,子実体形成における17kDaタンパ ク賓の役割は,低温という情報の伝達に関わって細胞を子実体形成へ向かわせる,または,低温状況下にお いて細胞内のタンパク葉を変性から保護し,そのことによって細胞の生存を推持する役割を担っている,の -14一
2通りの可能性がある.17kDaタンパク巽が比較的大量に発現することから,前者の可能性は低いと考えら れる. 第2に,サイクロフィリンの阻害剤であるサイクロスボリンAの,エノキタケへの栄義生長と子実体形 成への影響を調べることによって,サイクロフィリンの生理的な役割を解析した. サイクロスボリンAは25℃における菌糸生長にはほとんど影響しなかった.しかし,13℃およぴ4℃に おける生長は阻害した.25℃から13℃または4℃への温度シフトによって誘導される子実体形成も阻害され た.このことはサイクロフィリンのストレスタンパク巽としての性質を示している.サイクロフィリンは子' 実体形成をになう諸タンパク質の低温下における活性保持に働くストレスタンパク箕であると思われる. また,サイクロスボリンAの他の微生物に及ぼす効果をエノキタケの場合と比較検討するために,原核生 物として大腸菌,真核生物として,キノコに近い2種類の辞母,すなわち出芽酵母と分裂酵母を,またさら にキノコ類としてヒラタケ,ナメコ,タモギタケに対するサイクロスボリンAの影響を調べた.サイクロス ボリンAの嶺生物に及ばす影響は,3種類Iこ大別できると考えられる.第1はまったく影響を受けない大味 菌,第2は,サイクロスボリンA高感受性の仁脚,A鴫野n及びヒラタケ,ナメコ,クモギタケ, 第3は,サイクロスボリンA_低感受性の出芽酵母,分裂酵母とエノキタケである. 審 査 結 果 の 要 旨 子実体の形成は,生活環の他の段階と比べて非常に特徴的な大きさや形態をもつ器官を作り 上げる,形態的に著しい変化を示す現象である.また,食料資源として産業的な観点からも重
要である.しかし,子女体形成に関わる遺伝子や,それら遺伝子の役割,遺伝子産物の機能,
などの分子レベルでの子実体形成のメカニズムは,よくわかっていない.本研究は,担子音類 の子実体形成に関わ卑タンパク責を解析し,子実体形成の分子生物学的なメカニズムを解明す る目的で行ったものである. 実験ではまず第1に,エノキタケ子実体形成過程におけるタンパク賃の発現をSDS-PAGE によって分析し,子実体に大量に発現するタンパク賃について分子的な特徴を明らかにした. Sl)S-PAGEによって,子実体に大王に発現する34,27,17kDaタンパク巽を見いだした.こ れらのうち,34kDaタンパク賃と17kDaタンパク賃を精製し,N末端アミノヰの配列の解 析壷行ったが,2つのタンパク寛はいずれもN未靖アミノ酸が修飾されていて,解析できなか った.17kDaタンパク実について,内部部分アミノ酸配列を解析し,LYDDVVPKおよぴ FAD叩LKという配列を得た.これらの配列はベプチジルプロリルシストランスイソメラー ゼの一種であるサイクロフィリンと一致し,17kDaタンパク貢がサイクロフィリンであること が明らかになった. サイクロフィリンは,情報伝達にかかわり,免疫抑制剤サイクロスボリンAと複合体を形 成してカルシニューリンを阻害し,免疫を抑制する.ノ また,ペプチド中のプロリンペプチド結 合のシス体とトランス体を変換する異性化酵素でもあるという2つの面をもつ.以上のことか ら,子実体形成における17kDaタンパク実の役割は,低温という情報の伝達に関わって細胞 -15一を子実体形成へ向かわせる,または,低温状況下において細胞内のタンパク賓を変性から保護 し,そのことによって細胞の生存を維持する役割を担っている,の2.通りの可能性がある.17kDa タンパク寛が比較的大量に発現することから,前者の可能性は低いと考えられる. 第2に,サイクロフィリンの阻害剤であるサイクロスボリンAの,エノキタケヘの栄養生長 と千束体形成への影響を調べることによって,サイクロフィリンの生理的な役割を解析した. サイクロスボリンAは25℃における菌糸生長にはほとんど影響しなかった.しかし,13℃ およぴ4℃における生長は阻害した.25℃から13℃または4℃への温度シフトによって誘導さ れる子実体形成も阻害された.このことはサイタロフィリンのストレスタンパク冥としての性 質を示している.サイクロフィリンは子実体形成をになう請タンパク賓の低温下における活性 保持に働くストレスタンパク賓であると思われる. また,サイクロスボリンAの他の微生物に及ぼす効果をエノキタケの場合と比較検討するた めに,原核生物として大腸菌,真核生物として,キノコに近い2種類の辞母,すなわち出芽辞 母と分裂酵母を,またさらにキノコ類としてヒラタケ,ナメコ,タモギタケに対するサイクロ スボリンAの影響を調べた・サイクロスボリンAの微生物に及ぼす影響は,3種軌こ大別でき ると考えられる・第1はまったく影響を受けない大腸菌,第2は,サイクロスボリンA高感受 性の凡鱒坪晰研,A・頑訂,及びヒラタケ,ナメコ,クモギタケ,第3は,サイクロスボリン A低感受性の出芽辞母,分裂酵母とエノキタケである. このように本論文では・エノキタケの子実体に発現するタンパク質を検索し,その鱒能およ び生理的な役割について解析し,子実体形成について興味深い知見が得られた. 以上の結果,審査垂鼻全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合農学研究科の学位論文として 十分価値あるものと認めた. 基礎となる学術誌文 l)小田亜紀,千菊夫,黒澤辰-(2001).エノキタケの子実体形成に関連したタンパク質の解 析.日本農芸化学会誌75,21∼認. 2)小田亜紀中井亮介,干菊夫・黒澤辰-(200l)・エノキタケ(肋醐〟伽…血坤叫の子実体 形成におけるサイクロフィリンの役乱生物工学会誌79,127∼132、