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A. スミスとマルサス地代論の構造

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A. スミスとマルサス地代論の構造

著者

遠藤 和朗

雑誌名

東北学院大学経済学論集

176

ページ

31-47

発行年

2011-03-10

URL

http://id.nii.ac.jp/1204/00024441/

(2)

A.スミスとマルサス地代論の構造

速藤和朗

1. はじめに 2.地代の定義 3,地代の原因 4.地代の分離と騰貴 5. 自然地代と必要価格 6,結びにかえて 1 . はじめに マルサス (Malthus,ThomasRobert,1766-l834)は‘ 土地所有者階級の繁栄が国家の繁栄と固 く結びついていることを.スミス(Smith,Adam, 1723-90)に言及しながら次のように述べている。 「アダム・スミスによって、土地所有者の利害は国家のそれと密接に関連しており,そして前 者の繁栄または苦境は後者の繁栄または苦境を意味する, と述べられている。本章で定立きれた 地代理論は. この叙述を力強く確証するように思われる‘〕 もし土地におけるある一定の自然的資 源のもとにおいて,土地所有者の利益に役立つおもな原因が, 資本の増大, 人口の増大.農業上 の改良. および通商の繁栄によってひきおこきれる粗生産物に対する逓増的需要であるならば, 地主の利害を国家および人民のそれと別個のものと考えることは, ほとんど不可能であるように 思われる' )。」 (PPE, 204-5.訳(上) . 301頁) このように, マルサスは, 地主の利害と国家および人民の利害が一致するとし, したがって地 代の増大は. 資本や人口の増大, 農業の改良. 通商の繁栄, すなわち国民経済の発展の指標にほ かならないことを表明しているのである。それ故,地代は, ある階級から他の階級への収入の移 転にすぎず, 名目的な術値の創造であるとするブキヤナン (BuChanan,David, 1779-1848)やリ カードウ (Ricardo,David, 1772-1823)等の見解とは異なり, マルサスは, 地代が新たな富の創 l ) 本稿で主として利用するマルサスとスミスの文献は以卜.のとおりである。引用にあたっては文中に 略記してページ数を表示し‘ あわせて郎訳の頁数も記すことにする。 (l)Malthus,T.R. ,PF加”ノ"q/、駒"""JE"""U'""s雄瀝泓“"1"1/iEw/ひ〃Jf"'Pmど""/A"J蝉蜘", Isted. , 1820、PPEと略記する) 》引用はプレンの編集したVariorumEdition,CambridgeUniversity PressVoLl:1986を用いる〔,邦訳は小林時三郎訳「維済学原理j岩波文庫(上・下) 1968年による. (2)Malthus,T R、,A〃〃zqi""!加/0//z(JAZ""イ沌鋤㎡Pmgアゼssq/、Re"""‘/hePrj"”始め' z""c〃〃お Regw"fd, 1815. (IVPRと略記する)。引用は”花WD雄s"TIzO"z"ROI)Fガハ”"純S,V01.7,William

Pickering, 1986より行う。邦訳は楠井隆§ ・束斑生訳「マルサス穀物条例論一地代論一』岩波文庫. 1940年による。

(3)Smith,A、 ,A"J"9"a)' i"/() /JM""師沌鰯越Ca""scI〃力EWt'a"hqf""/0"s,GlasgowEdition,2voIs, 1976 (WNと略記する)。邦訳は大河内一り)監訳「国富論j l , 中公文庫, 1978年による。

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東北学院入学経済学論集第1765 造であり,真実価値にほかならないことを強調するのである。 「地代は. たんなる名目価値でもなければ, または一組の人びとからほかの組の人びとへと不 必要かつ有害に移転された畑値でもなく, 国民的財産の全価値のもっとも真実かつ本質的な一部 分」 (段段E,p.155,訳(上),222頁)なのである, このようなマルサスの認識の背景には. スミス地代論におけるいわゆる農業投資の有利性の考 え方に対するマルサスの賛意がある。周知のようにスミスは, 「国富論』第2編第5章「資本の ざまざまな用途について」において, 「等量の資本で. 農業者の資本ほと.多孟の生産的労働を活 動させるものはない。ここでは,労働する使用人ばかりか労働する家畜も堆産的労勵著である。 そのうえ, 農業では. 自然も人間とならんで労働する」と述べ.農業労働がもっとも生産的であ ると主張して. 地代を「自然の力の産物」 とみなし, 「その'玉│の住民の真の富と収入」の一部分 であると説いたのである. (cf.WJV,Vol.1,pp.363-4,訳1,568R) マルサスは, 「外III穀物輸入制限政策に関する見解の諸根拠」 (1815年)や「経済学I乳理」初版 (1820年)のなかでスミスの農業投資の有利性を承認している。 「アダム・スミスは正当にも, 「工業に使用せらるる生産的労働の等量は, 決して農業に於け る程大なる再生産を惹起せしめない」 と考察している。 ・ ・ ・土地に投下される各5000ポンドは, 単 に資本の通常利潤を償うのみでなく, また地主の手に落ちる追加的価値をも産出するのである, 而してこの付加的伽値は単に個々人や個々人の集団に対する利益たるのみならず, 一国の製造品 に対するもっとも確たる国内需要, その金融的支持のためのもっとも有効なる基金, 更にその陸 海軍にとっての雄大の自由に処理しうべき力を提供するものである2}。」 こうして、 スミスにとってもマルサスにとっても, 地代は富の創造なのであった。 しかし他 方, マルサスは. 1815年に公│:I」された『地代の性質と増大, 及びそれが支配せらるる諸原理に関 する研究: (以1、. 「地代謝)や「経済学原理jをとおして. スミスの地代の学説全体について は, 「地代をまったくその正しい照明に当てて考察し” そしてかれの著作をつうじて, ほかのど の論者よりもこの主題について妥当な観察を点綴さしている」としながら, 「粗生産物の高い価 格のもっとも本質的な原因を. たとえかれはしばしばそれにふれているにしても, ‐│-分明らかに 説明していないのである。そして, “.かれは,生活の必要品と独占商品との高い価格の朧囚のあ いだの真のちがいについて明確な印象を読者に与えていない」 (甚孕E,p・135,訳(上) # 190頁, cf, IVFR# p.116,RR, 107-8H) と述べて‘ スミスの地代の説明に対して不満を表lリIしているのである。

2) Malthus,T、R. , YWITCm""dSQrα〃吻加m測り〃jルEPひ"の' q/.Rfs/"( ""g"ifJ"71"/α"p}2qf脚ノ忽噌〃

Cひγ";"""d"""JA""dなわ'406s"""01zO)z j吻移C""L(zzLIs'', 1815, in"FcW【"齢q/Tソ,“"“

R"6"/MM"""雄Vol.7,WilliamPickering, 1986,pp.167.8、楠井隆生・束開生訳Iマルサス織物条例諭 一地代論一」 1940イト, 90-91頁。 マルサスは‘ 「綴済学服理」初版においても次のように述べている。 「この腺理にしたがえば, 農業労働が一般的にもつとも生産的なものとなろう。なんとなれば. 実際 に使川されているほとんどすべての土地生産物は, ただたんにそれに用いられた労働者に支払うのに | ・分な交換価値をもつだけでなく. 農業薪の前払いした資本の利潤および地主の貸し付けた土地の地 代も支払うに足りるだけのものをもっているからである。」 (PPE,p.38,訳(上),60頁) −32 ワ﹄

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I、スミスとマルサス地代論の構造 本稿では. マルサスがスミス地代論のどのような点を評価して継承したのか, またどのような 点を批判して独EIの兄解を腱開したのかを考察することをとおして. マルサス地代論の論理構造 を明らかにしようとするものである。

2.地代の定義

マルサスの地代にl則する本格的な腓究は, 上述の『地代論』に始まる。これは, かれ自ら「私 は早晩, それらに川版に適した形を与える心算であったが, この研究の題目が目卜機諭せられて いる論題と極めて密接にl則連しているということが,私を促して今直ちにこれを発表することを 急がしめたのである」 (AIFR, p.115, RR105頁) と語っているように, 当時の時論的問題である穀 物法改定問題に対応するために苔かれたものであるが,本稿では. 『地代窺を参照しつつI経 済学原理』初版を中心にマルサスの地代論について検討するものである3'・ きて, マルサスはI経済学朧理』初版のなかで地代を次のように定義する。 「土地の地代は, 全生産物の価値のうち. このときの農業資本の通常普通の利潤率で測ったと ころの.投下資本の利潤を含んだ. その種類のなんであるかを問わずその耕作に属するいつきい の出費の支払いの後に,土地の所イ『者に残る部分である,と定義することができる。」 (PFE,p.143, 訳(上), 189R) このように, マルサスによれば,地代とは. 農業資本家が生産した全生産物の価仙のうち,投 下資本を回収し瞥迩の利潤を差しり│いた後に, 土地所有者に残る部分であるというのである。こ れは. スミスの地代の鯉炎を継承するものである。スミスにあっても.地代は. 土地生産物の通 常の価格から投下資本を凹収し. ざらに通常利潤を差し引いたあとに残る価格超過分にほかなら ないのである。彼は. 1.1ml寓諭.1第1編第11章の「土地の地代について」において次のように地 代を定義している 「地代とは. f地の使川に対して支払われる価格とみなされるものであって.それはとうぜん, 借地人がその土地の現実の状態のもとで支払うことのできる最高の価格である。借地契約の条件 を取り決めるにあたって地主は. 借地人が種子を供給し労働に支払い, 家畜やその他の農耕用具 の購買と保持に要する尚本を維持してゆくのに十分な額に, その近隣地方の麗業箇本の通常の利 潤を加えた額よりも大きい生産物の分け前が, 借地人の手に残らないようにつとめる。これは明 らかに,借地人が槻をしないでそれで満足できる最小の分け前であり, これ以上の分け前を地主 が借地人に残そうとすることは峨多にない[]生産物のうち, この分け前を上│'11る部分がどれほど であろうと. または'可じことであるが, その価格部分がどれほどであろうと.地順がそれを自分 3) マルサス地代I愉についてのI地代論」 と 「経済学原理」 との│則連については‘ 羽,!10'li哉「マルサス 地代論の展│#l」 「絲済系l 1則東学院大学第206%2001年,横山照樹「マルサス地代紺の考察一 「地代I蒲」 と 「原理」第3噸第1 ≦1節を! ' '心にして 」 『経済学論叢』 |可志社大学第56巻第'13・2005年. inl 「マ ルサス自然地代錨の号.察」 「維済学論渡」同志社大学第57巻第4号2006年、 liil iマルサス地代論の腱間 「地代論_l と 「脈理」輔3噸の第6節以降を中心にして−」 『経済学論離I l'il志祉大学輔59巻第1サ 2"7年. 参照〕 J>』〕 一・J− 3

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東北学院大学経済学論集第176号

の地代としてとりあげようとするのは当然である。」 (WIV,Vol.1,p.160,訳1 ,240頁)

ここでスミスは,穀物のような生産においては,借地人である農業資本家には投下資本と近隣 地方の通常利潤とを回収した額を超える超過部分が生ずることを明らかにし, それが地代だと規 定しているのである'1)。 したがって, この価格の超過分の説明が地代の定義においては必要にな る。マルサスはこのことをはっきりと次のように述べている。 「地代は耕作に用いられた労働の賃金と掛本の利潤とを支払うのに必要なものを越える価格の 超過分であるから,研究の第一の対象となるものは, この価格の超過分の原因または諸原因であ る。」 (段段E,p.134,訳(上), 189頁) スミスは,後に詳述するように, この価格の超過分の原因を穀物に対する需要の大きさに求め ている。すなわち.穀物に対する需要が他の生産物に対する需要よりも大きいから穀物の高価格 が生まれ.地代を生じきせているというのである。 しかし, マルサスは, この価格の超過分の原 因をめぐる説明において. スミスや近代の諸論者の見解を「普通の独占の特徴である生産費を越

える価格の超過分に余りにも似たものと考えている」 (PPE,p,135,訳(上) , 190頁)として批判

するのである。 マルサスによれば, スミスは‘確かに地代について他のどの論者よりも妥当な考察をしている が‘ 「判[生産物の高い価格のもっとも本質的な原因を. たとえかれはしばしばそれにふれている にしても, 十分明らかに説明をしていないのである。そして,独占ということばを,立ちと.まっ てそのもっとも根本的な特性に注目することをしないで, しばしば土地の地代に適用することに よって, かれは, 生活の必要品と独占貨物との高い価格の原因のあいだの真のちがいについて明 確な印象を読者に与えていない」 (RPE,p.135,訳(上), 190頁) というのである。 このようにマルサスは.粗生産物高価格の原因についてのスミスの説明に不満を表明している のである。 これは, スミスが「土地の利用に対して支払われる価格とみなされる地代は, とうぜん, ‐一つ の独占価格である。それは,地主が土地の改良に費やしたものにも,彼が取得できるものにもまっ たく比例しないで, 農業者が支払うことのできるものに比例するのである。土地の生崖物のう ち,普通市場にもたらきれるものは, その通常の価格が. それを市場にもたらすのに用いられね ばならない資本を通常の利潤といっしょに│同│収するに足りるようなものでなければならない。 も し, 通常価格がこれより大きければ, その余剰部分は, とうぜん土地の地代になるであろう。 も しそれがこれより大きくなければ, その商品が市場にもちこまれても. それは地主になんの地代 も提供できない。価格がそれより大きいか大きくないかは,需要に依存するのである。土地生産 物のうちには, 需要が大きく, それを市場に供給するのに十分な額以上の価格をつねにもたらす ようなものがあみのにたいして,他方では.その需要がこうした大きい価格をもたらすかもしれ 4) スミスの地代の規定については,鈴木亮「アダム・スミスの土地所有論」経済学史学会細IILI窩論 の成立」岩波吉店, 1976年.所収. 羽鳥卓蹴「A-スミスにおける地代と原生産物禰要」 I熊本学1判大 学経済諭集」第3巻第1 ・ 2号, 1996年, 参照。 J1 −34−

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A.スミスとマルサス地代論の櫛造 ないし. もたらさないかもしれないようなものがある。前者は. その地主につねに地代を提供す るにちがいない。後背は. 事情におうじて. 地代を提供することもあるし.提供しないこともあ る」 (WIV,Vol・ pp・l61-2,3(I,243-4R) と述べているように. スミスの説明のなかに.独占商 品の説明と類似するある暖昧さがあるとマルサスは考えているものと思われる。すなわち,地代 が「一つの独,li価格」であり. 農業において地代が生じるのは. その生雌物に対して需要が大き いので高価格をもたらしているという表現は, マルサスによれば‘稀少なブドウ酒のように, 生 産物の供給の制限に対して「需要は生産自体の外部にありかつそれから独立している…その価格 は,それに対する競争.者の数,能力,および気まぐれ以外の限界をもたない」 (RPE,p.147,訳(上), 205頁) とする独II7価格のばあいと類似しているのではないかというのである《, しかし. スミス が「需要に依存する」という意味は,独占商品のような供給制限のもとでの外部的需要のことで はなく, |可じ土地生産物でも食物の場合には需要が大きいので. その販売価格において投下資本 を回収し、 さらに通常利潤を差し引いたあとにつねに地代が残るが,衣服や住居の材料などの士 地生産物の場合には滞要の如何によって地代が生じる場合もあるが生じない場合あるということ なのである5'・ 以_上から, マルサスは. スミスの‘ 地代は「一つの独占価格である」とする表現を通常の意味 の独占価格とあまりにも結び付けすぎていたのである。スミスが地代を「一つの独占価格」といっ た意味は, 「どんな陸iでも. その 上地がすべて私有財産になってしまうと. 地主たちは. 他のす べての人々と同じように. 自分たちか種子をまきもしなかった場所で収統を得たがり,土地の自 然の生産物に対してさえ地代を要求する」 (WMVol.1, p67,訳1 , 84rI) と述べているように. 地代が土地所有と結びついていることを示しているに過ぎないのである。

3.地代の原因

マルサスは, 生産斑を越える価格の超過分である地代について. スミスの説明は不十分であ ること, また当時の論苦であるシスモンディ (SimondedeSisimondi, JeanCharlesLeonard, 1773-1842)およびブキヘ・ナンのように6I .地代は消費者の犠牲において雛得きれた独占価格で販 5) スミスによれば. 食物′”藍においては, その生産に比例して人1 1が剛卯するからつねに大きな需要 があるが. 衣服や伽II卜の材・料への蒋要は.上地の耕作と改良とによって食物が唯噸され人I 1が期加し たのちになって, はじめて滞要が供給よりも大きくなって地代が生じるというのである。 「食物は地代の本源的な源泉であるばかりではない。のちになって地代を生じるあらゆる他の部分 の土地生産物は, そのmi仙の中の地代部分を,土地の改良や耕作による食物生産の労働力の改善から 引きHIすのであるⅧ」 (WJV,Vol pp.165,訳1 ,274頁) 6) 中村職治「スミス地代論の波紋 19世紀初頭「独占価格」規定をめぐって一」腹胤大学「経済論艘」 第17巻第3,4り・ 1994年, 羽,喝卓競「ブキャナンのスミス地代論評注」 「熊本学隙l大学経済論集」第2 巻第1¥- 1995年,参照. マルサスは次のように述べている。 「シスモンデイ氏のすぐれた著作「IWi巣的甜についてjにおいて. かれは地代の主題にかんする評注のなかでつぎのように述べている。 「土地の地代のこの部分は‘ エコ ノミストたちが、 IRI氏的窩になにほと’かを加えた労働のただ一つの成果として純生産物という名称で 飾ったものである“だが逆に, この部分はその価値が純粋に名目的であって.典実価値を少しも保持 しない労働生唯物のただ一つの部分である. とかれらに反対して主張しえよう‘ 実際のところ, そ/ゞ 35− こり

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東北学院大学経済学諭集第176)j 売された結果であり, したがって,地代は新たな富の創造や真実価値ではなく、 消費者に有害な 価値の移転にすぎないという見解に対してはまったくlril意できるものではないとして斥けたのち に.生産費を越える粗生産物の価格の超過の原因として三つ挙げている。 「第一に. そしておもに,土地の性質であるが, それは土地に用いられる人たちを維持するの に必要なものよりも, より多くの生活必要品を土地が生み出すようになしうるものである。第二 には,適当に分配されるときにはそれ自身の需要をつくりだし, または生崖された必要品の分量 に比例して需要者の数をますことのできる生活必要品に特有な性質である。そして, 第三に, 自 然的にも人工的にも肥沃な土地が比較的希少なことである。」 (』ユPE,pp.139-40,訳(上),195-6R) 第一の土地の性質は, 土地の多産性を意味するものでありド 「自然の人間への賜」である。す なわち, 農業においては,土地の多産性という性質が農業に従事する人々の生活維持に必要な部 分よりも多くの剰余生産物の生産を可能にするというのである。そして, この剰余がすべての地 代の基礎または原因なのである, しかし, 土地耕作における剰余生産物が地代になるというマル サスの所説は, 第二の原因の生活必需品にはそれ自身に対する有効需要を創造するという性質が あるとする見解と結びついている。 「しかしながら. なおこの剰余は,必要でかつ重要であるけれども. もしそれが. それを消費 すべき人口をふやし、 また, そのかわりに生産される物姑によって, それにたいする有効需要を つくりだす能力をもつこと力さないならば, その剰余が労働およびそのほかの貨物の比例的分量 を支配することを可能にしてくれる価値を,確実にもつことはないであろう。」 (PPE,p.141,訳 (上) , 197頁) すなわち,生産きれた剰余生産物が「適当に分配きれたとき」,穀物は供給量がたとえ増加し ても, 人'二Iが増加してそれに応じて必ず需要がついてくるので, 供給過剰による穀物の価格の下 落はありえないということなのである7'。 「こうして、土地の肥沃度は.耕作者の欲求を越える必要品の剰余量を生み出すことによって, 地代を生む能力を与えてくれる。そして適当に分配されたときには.生活の必要品に付きものの 特有な性質が. それを需要する人口を生み出すことによって. この剰余に価値を与える有力なか つ永続的な傾lfilをもっている」 (FPE,p.144,訳(上) , 201頁)のである。 、‘れは. 光り手がかれの特権を利用して価絡をつりあげた結果生まれるものにすぎず、売られたものが‘ 実質的にili値をますわけでないからである。」われわれ自身のlKIのもっと近代の諸論者に普及している 兄解は, この問題については右と同じ見解に傾いているように思われる。」 (野猫, pp.136-7,訳(上) . 192頁) ブキャナンについても, マルサスによれば, 彼は「独占の観念」を強め, 「それが地主に与えるとこ ろのものを消賢者から奪い去るもの」であl) , 「地代または純剰余が生まれるもととなる高い価格は, 販光すべき農業生巌物をもつ地主を富ますけれとキも, Irilじ比例で. その購買者である人びとの富を減 らすのである。そしてこのゆえに.地主の地代をもってI上│商にたいする明らかな付加と考えるの{よまっ たく不正確である」 (PPE, pp.138,訳(上), 194R) というのである。 したがって, ブキヤナンにおい て地代は「一階級からほかの階級に移転きれた収入にほかならないから. それは社会の元本にたいし てなんの付加をも形成しえない」のであった。 7) 刈烏卓哉「マルサス地代論の展開」 「経済系」関東学院入学第206if2001年,6-8頁,参照, −36− 6

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ヘ.スミスとマルサス地代論の櫛造 第三の「肥沃な土地が比較的希少なこと」の意味は, 次節で詳しく述べるように, 地代が利潤 および賃金から分離する次第を説明するものである。 マルサスは以上の三つの原因を統一的に把握することによって地代の成立を説明しているが.

これらの第一.第二の原因はスミスの所説からの継承であると思われる8)。スミスは「国富論』

において次のように述べているのである。 「人間は,他のすべての動物と│司じように, その生存手段に比例して自然に繁殖するものであ る。だから食物にはつねに需要がある。食物はつねに,大なり小なりの労働を峨買ないし支配す ることができる。 しかも, 食物を得るためによろこんで何事かをする人がかならずいるものであ る。 .…たいていの土地は.それがどんな位置にあろうと,食物を市場にもたらすために必要ないっ さいの労働を扶養する−その労働者を最大限に優遇するとしても−に足りる以上の食物を生産す るものである。そのうえ, この余剰は, この労働を雇用した資本を, その利潤を添えて回収して もなおあまりあるものである。それゆえ.地主に対する地代としてつねになにほどかのものが残 る。」 (W7V,Vol.pp.162-3,訳1 ,245-6頁) このように, スミスによれば,食物の生産においては, その土地で労働する人々を扶養するの に足りるよりもはるかに多量の食物を生産するという。これは. マルサスのいう第一の腺因に相 当するものである。さらに. 第二の原因に相当するものとして, 食物の生産の増加は人口増加を もたらし,必ず食物需要の増加を伴うというのである。 したがって, スミスにあっては, 食物生 産の場合,位置においてどのような土地においても.すなわち鎧劣等地においても,農業資本家 はかならず資本を回収するほかに平均利潤を上回る超過分を収得することができるというのであ る。そして. この平均利潤を上回る超過分の収益は,地代として地主が取得することになる。 こうして, スミスは, 食物生産の場合には,土地の多産性と穀物の需要向ll造性によって最劣等 地に投下された資本でも社会の平均利潤を上回る剰余を生み.地代が生ずることを明らかにした のである。 このような最劣等地でも地代が生ずるとする認識は,他の土地生産物である家畜の肉の場合も 同様である。スミスは次のように述べている. 「ノルウェーやスコットランドの不毛の荒野でも. 畜牛のためのある種の牧草は生える。この 畜牛の乳や幼牛は, 家畜の世話をするのに必要なすべての労働を維持し, その農業者すなわち家 畜郡の所有者に通常の利潤を与えるだけでなく, なおその土地の地主に少額の地代を与えても. なお常にあまりがあるほどである。この地代は,牧草の品質に比例して増加する。優秀な牧場で は, 劣等な牧場に比べて同じ面積に飼うことのできる畜牛の数は多い。そのうえ, 多くの畜牛を 小面積に集めることができるから, その世話や生産物の収集のための労働は少なくてすむ。すな わち地主は, 一つには生産物の増加と, もう一・つにはこの生産物によって扶錐してゆかねばなら 8) 飯塚正朝氏は, マルサスの地代発生の第一原因と第里原因がスミスに源流があることを指摘してお られるが,氏はスミス地代論をJ.ステュアートとの比較で検討きれている.飯塚正朝「「'五l衞論」 と 十八世紀スコットランド経済社会I九州大学出版会, 1990年、 42頁参照. −37− 7』

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東北学院大学維済学論集第176号

ぬ労働の節約と. この両面から利益を受けるのである。」 (WIV,Vol.p.163,訳1,246頁)

このように, 家畜の肉を生塵する牧場においては,最劣等の牧場でも地代が生ずるが,優秀な 牧場ではより大きな地代が生ずるというのである。すなわち, スミスは,最劣等地における地代 だけでなく,差額地代の存在を認識しているのである。むろん, ここでいう地代は.食物生産の 場合であって, この場合は. 食物に対する需要が大きいので. しかも食物には需要創造性がある から,市場価格がたえずその生産に投下された資本を通常利潤とともに回収するのに足りる以上 の額であった。 しかし, スミスによれば, 同じ土地生産物であっても, すでに明らかなように. 食物以外の土地生産物の場合,地代を提供することもあるし提供しないこともあるのであった9)o 以上のように, マルサスの指摘している粗生産物高価格の原因の三つのうち, 第一と第二の原 因については, スミスにあった所説を継承したものであるが, 第三の原因である「肥沃な土地が 比較的稀少なこと」については, リカードウが唯一地代発生の原因として挙げているものである。 マルサスは次のよういう。 「リカードウ氏は, わたしが以前に示唆したように, 地代の増進にかんしてただ一つの単純で かつ狭小な見解をとっている。かれは地代をもって.生産の困難の増大から生ずる価格の増大に よってのみひきおこされるものと考えている。」 (PPE,pp.211-2,訳(上) 309頁)。 リカードウの「経済学および課税の原理』によれば,水や空気のように豊饒肥沃な土地が豊富 に存在し, その社会の人口を十分に扶穂できるとすれば‘ 地代は存在しない。誰でも自由に豊富 な土地を使用できるのであるから,土地の使用に対してだれも支払う必要はない。土地の使用に 対して地代がつねに支払われるのは、 「もっぱらその量が無限でなく, 質が均一でないからであ り, 人口の増加につれて, 質が劣悪であるか,位置が不便な土地が,耕作きれるようになるから である。社会の進歩につれて, 第二等の肥沃度の土地が耕作されるようになると,地代は直ちに 第一等地に始まる。そしてその地代の額は. これら二つの土地部分の質の差異に依存するであろ う。第三等地が耕作に引き入れられると,地代は直ちに第二等地に始まる。そしてそれは前回同 様,両地の生産力の差異によって規定される。同時に. 第一等地の地代は上昇するであろう。な ぜなら, それはつねに,一定量の資本と労働を用いて両地が産出する生産物の差額だけ, 第二等 地の地代を上回るはずだからである。人口増加の一歩ごとに,一国はその食料供給を増加しうる ためには, より劣悪な質の土地に頼ることを余儀なくきれ, より肥沃なすべての土地では,地代 が上昇するであろう10)。」 ここでは,肥沃度が異なる同一面積の土地に一定量の資本と労働とを用いて生産きれた生産物 に差額が生じ, それが地代になることが説かれている。すなわち.収穫逓減の法則を前提に, 人 口増大による食料需要の増加は劣等地耕作の進展を進め,穀物価格が騰貴する結果,優等地に地 9) スミスによれば, 土地生産物でも炭坑・鉱111の場合には‘ 鎧劣等地では地代は生まれない。 (cf WIVIVol 1.p163.訳1,246R)

1O) Ricardo,D ,OF"ノ肥P〆j蝿ゆんs呼脚/"“ノE""0nfj'"zdThrjm"Or, intheW()γルs“噸CD"そ”ひ"‘fw"q/ Dα"趣Ri""コり, editedbyP.SraffawiththeCOllaborationofM.H.Dobb、CambridgeUniversityPress,

1951,Vol-Lp-70,羽鳥卓也・吉澤芳樹訳「経済学および課税の原剖岩波文庫(t) 1987年. 106頁。

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1.スミスとマルサス地代鏡の椛進 代が発生することになる。 この場合. 蚊劣等地においても一般的利潤は保証きれているので優等 地では超過利潤が生じ. それが地代になるのである。 リカードウは.地代を価値の観点から把握 する。それによると.穀物のmli雌は雌劣等地に投l、 きれた最大労働品によって決定きれ,一物一 価の法則によって市場では慨等地の雑物も同じ価値基準をもつから, より少ない労働量で生産さ れる優等地ではその差額が地代になるというのである。 このような, リカードウの兼額地代において特徴的なことは, 第一に,穀物の価値は,最劣等 地の条件によって決定され‘ 雌劣等地において地代は生ぜず.穀物の価値は賃金と利潤に分解す る。地代は価格の構成要索ではないのである。第二に. 地代は富の創造ではない。 したがって, 一国の生活必需品と便宜品を少しも増大させないということである。地代は農業資本家の一般的 利潤の一部分であったものを劣等地耕作の進展とともに地主が取得したものなのである。 以上のリカードウの策額地代論を踏まえてマルサスは, スミスの所説を継承した第一・第二原 因とリカードウが唯一の地代発生の脈l刈として挙げている第三原因の三つの原因を相互に関連付 けながら統一的に理解することによって.彼独自の地代論を展開することになったのである[。 こ のことをマルサスは次のようにまとめている。 「第一に述べた土壌の性質,すなわち耕作に用いられる人々の維持に必要とされるよりもより 大きな部分の堆活必要IY!を生産する土壌の能力は, 明らかに地代の雄礎であり, 地代増大の限界 でもある。指摘した第二の性醐,すなわち食物の豊かさのため人口がふえるという傾向は,耕作 者が第一の耕作地において錐得しうる必要I砧の紫l1余に価値を与えるためにも, またもっとも富ん だ土地から猫得できるものよりもより多くの食物に対する需要をつくりだすためにも,必要なこ とである。そして, Wlらかに第二の自然的帰結である第三の原因または肥沃な土地が比較的に稀 少なことは,士地からえられる一般的剰余の一部分を, 地主への地代という特定の形態に分離す るために.最後に必要なものである。」 (PPE,pp 151-2,訳(I=) ,214頁) のちに詳述するように,雌劣等地においても地代が生ずるとするスミスの所説については, 当 初マルサスは批判するのであるが, I経済学原理j初版においては容認することになる。

4.地代の分離と騰貴

マルサスによれば.肥沃なt地が哩窟にあり,耕地を求めるものが誰でもそれを手に入れるこ とができる社会の初期には.地代を支払う者はいない。土地から生産される剰余生産物は, 農業 者と労働者との間で分割されて. ,刊い利潤と尚い貸金とが形成され地代は存在しない。 しかし, このような状況が続くことはありえない。すべての国の土地という土地がもっとも肥沃であると は限らない。極々さまざまな土壌および位置をもつ土地が存するのである。蝦大の自然的肥沃度 をもちかつ鎧も便利な位世を占めている土地に用いる手段を越える資本の播積は,必然的に利潤 率を低下させ, 他方, 生活資料を越える人'二lの増加傾向は. ある時間の後には労働の賃金を引き 下げることになる。 こうして生産街は減少することになるが.生産物の価値は. その固有の性質 から絶えず生産費を超過しているので.地代が利潤および賃金から分離するというのである。 −39− 9

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来北学院大学経済学鐡災第176¥ マルサスは, 以上のように地代の成立を捉え, 地代が土地で生醗きれた「侭I民的財朧の全価値 のもっとも真実かつ本質的な一部分」にほかならないことを強調するのであった。彼は次のよう にいう。 「それゆえに, 一国民があるかなりの程度の富およびあるかなりの人口の稠裕ざに達すると. ある質の土地への−−穂の固着物としての地代の分離は,亜力の原理の作川と│両1じょうに不変の‐ 法則であるということ、および.地代は,たんなる名月価値でもなければ, またはひと組みの人々 からほかの組の人々への不必要かつ有害に移転された価傾でもなく 、 ’五l民的財・産の全価値のもっ とも真実かつ本質的な一部分であって. 自然の法則によってだれによって土地が所有されようと も.すなわち少数のものによってであろうとあるいは多数のものによってであろうと, または地 主や国王によってであろうと、 あるいは実際の耕作者によってであろうとも. それがあるべきと ころの, すなわち土地に配置されているものであるということは、 争いない真理として規定する ことができよう。」 (PPE,p.155,訳(上) ,222-3頁) ところで. マルサスは. 劣等地耕作の進展については次のように魂明している。すなわち‘ 最 優等地が耕作されているときに.その同じ土地に追加資本が投トーきれれば,収稚逓減の法則によっ て利潤率は低ドする,この場合の利潤が劣等地の耕作で得られる利潤よりも低くなるとき. 劣等 地耕作が進められることになる。 したがって. 資本蓄積が進腱し人l」が墹加するごとに利潤と賀 金が下落して, その結果として劣等地の耕作がひきあうことになる。それをマルサスは次のよう に述べている。 「第一にえらばれた土地において,使用追加資本の収益を劣等地から独得できるものよりもよ り少なくするような, 資本の蓄積がおこるときには, こうした劣芋地の耕作はあきらかにひきあ うはずである。」 (PPE,p.153,訳(上) .217頁) そして, マルサスによれば, 「資本の利潤かまたは労働の賃金かまたは│曲j者がなおいっそう下 落したときには. さらにより貧弱なまたはさらに位置の悪い土地が耕作にひき入れられるのであ ろう。そしておのおのの段階で. もし生産物の価格が下落しないとすれば. t地の地代が騰貴し なければならないことは,明らかなことである」 (〃?E# p.154,"( (t) ,218頁) というのであるニ このようにして、 マルサスにおいては劣等地耕作か進められ, その什々の段階で地代は騰貴する ことになる。 ところで, マルサスは, 資本の蓄積と人口増加が進展する祉会の進歩とともに地代が噌加する ことを述べるのであるが, さらに彼は地代の増加の諸原1Mをより詳しく考察する。彼によれば, 地代は土地生産物の通常術格と, その生産費との差額にあるのだから‘ 地代はその差額が大きく なればそれだけ増大することになる。その差額を大きくする要凶として‘ マルサスは│ノリつ挙げて いる□ 「地代の鵬落を支配する法則をよりくわしく研究するに当たって, 生雄物の価格に比べて耕作 費を減少させまたは生産手段の原価を低減させるおもな諸脈因を, もっと特別に列挙しなければ ならない〕 これらのうちそのおもなものは四つであるように見える.第・に. 元本の利潤をひき 10 −40−

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A.スミスとマルサス地代論の構造 さげるところの資本の蓄積第二に,労働の賃金をひきざげるところの人口の増大. 第三に, 一 定の成果を生み出すのに必要とされる労働者の数を減少させるところの農業上の改良, または努 力の増大. そして第四に, 名目上生産費をひきざげることなしに, この出費と生産物の価格との 差額をふやすところの需要の増大による農業生産物の価格の増大。」 (PPE,pp.160-61,訳(上) , 230頁) 第一と第二の原因については,すでに述べたとおりである。第三の原因は.一定の結果を生ず るのに必要な労働者数を減少させる農業上の改良または努力の増大の場合である。 マルサスによれば, もし農業改良が,生産物の分量を増加させることなく生産費を大いに減少 させた場合には.穀物価格は不変であるから, 農業者の利潤は法外に高くなる。 しかし. そうな れば,商工業からの資本の競争によって農業利潤が以前の水準に戻ることになり,穀物の価格と 減少した生産費との差額は増大するから,地代は上昇することになるというのである。 また, 農業改良によって土地耕作が進展し、生産物の産出量を増加させ需要と比較して供給が 過剰となるときは.短期的には,生産費を削減しても穀物価格を引き下げることになるから,穀 物価格とその減少した生産費との間の価格差額はしばらくは増大しない。 しかし過剰の穀物も, それが「適当に分配されたときにはそれ自身の需要をつくりだし, または生産された必需品の分 量に比例して需要者数をますことのできる生活必需品に特有な性質」から.穀物価格を以前の価 格にまで引き_lふげることになり,生産費との差額は増大するので地代は上昇するというのである。 第四の原因は. と÷んな源から生まれたものであろうとも, 生産物の価格と生産費との差額を大 きくするような需要の増大による農業生産物の価格の騰貴に基づくものである。マルサスは, そ の具体的需要の増大の例として「北アメリカにおける貨幣価格の状態と耕作の急速な進展」によ る場合と「われわれ自身の国において, 1793年から1813年の終わりにかけて20年間の穀物に対す る需要」の場合を挙げている。いずれも㈱地代は利潤または賃金の下落なしに騰貴するのであった。 以_上から明らかなように. マルサスは,生産物拙格とその生産費との差額を大きくする上迩の 四原因のそれぞれを検討することによって,社会の発展とともに地代が騰貴することを論証した のである。 「そこでわれわれは.地代の騰貴の進展は.新しい土地の耕作の増進およびふるい土地の改良 の増進に必然的に関係しているように思われるということ. また, この騰貴は.繁栄と富との増 大のもっとも確かな徴証である四つの原因一すなわち. 資本の蓄積人口の増大, 農業の改良, およびそれにたいする外国における大きな需要か商工業の拡大化によってひきおこされる粗生産 物の高い市場価格一の作用の自然的かつ必然的な結果であるということを,理解するのである。」 (FPE、p.178,訳(lt),262-3頁) 地代の騰貴とは逆に.地代を下落に導く諸原因には,資本の減少,人口の減少,悪い耕作制度, および粗生産物の低い市場価格が挙げられる。それらは貧困と衰微の徴証であり, そして劣等地 の耕作の放棄と優等地の継続的な土質低卜・と必然的に関連することになる。 −41− ll

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東北学院大学経済学論集第1763 5. 自然地代と必要価格 スミスにおいては,すでに明らかように,最劣等地でも地代が生ずるのであった。彼は, 「国 富論』第1編第6章「商品の価格の構成部分について」においてⅢ 「どんな国でも, その土地が すべて私有財産になってしまうと.地主たちは, 他のすべての人々とl可じように, 自分たちが種 子をまきもしなかった場所で収益を得たがり.土地の自然の生産物に対してきえ地代を要求する。 …この部分が, またはこれと同じことになるが, この部分の価格が, 土地の地代を構成し, そし てそれは、大部分の商品の価格のなかで第三の構成部分となるのである」 (1J"V,Vol、1,p67,訳1 , 84-5頁) と述べているように. 土地が私有財産になるやいなや, その所有者は地代を取得するよ うになるというのである。つまり,地代は価格の構成部分の一つなのである。 したがって, スミ スは, 第7章「商品の自然価格と市場価格について」では,商品価格を椛成する賃金・利潤・地 代の要素価格が自然率以上に, あるいは自然率以下になるに応じて, 生産要素供給者がその供給 量を増やしたり減らしたりすることによって. 自ずと商品の需給の調整がはかられ、商1拍の市場 価格と自然価格とか一致する方向に向かうことを明らかにしている。 ところが, マルサスは. 「地代論」においては, 最劣等地においては地代は存在しないとして スミスを次のように批判しているのである。 「私は.食物を生ぜしむるすべての土地が必然的に地代を生ぜしめなければならぬという彼(ス ミスー引用者)の考えに同意することができない。進歩せる国々において継続的に耕作せられて ゆく諸々の土地は,単に利潤および労働にたいして支払うのみであろう。労働への支払いをもも ちろん含めての使用せられたる資本に対する適正なる利潤は.常に耕作に対する充分なる刺激で あるであろう。」 (jVPR,p.116,訳108頁) このように当初マルサスは,穀物の価格は,現実に使湘きれている最劣等地の生産費(賃金 と平均利潤)に等しいと述べて, 最劣等地においては地代は存在しないと主張していたのであ る。 しかし,彼はI経済学原理』初版では, 「実際には, 土地がそれを入手しようとする人には だれにでも獲得できるという場合はきわめてまれである。そしてその自然状態において食物を生 みだすすべての占有地は,耕作きれていようといまいとつねに地代を生みだすというのは,おそ らく普通的に真実であろう」 (PPE, p.135,訳(上), 190-1頁) というような文章を付加して, 自 然状態において食物を生みだすすべての土地には地代が存在するというように考えを改めたので ある すなわち. 『経済学原理j初版においてマルサスは,穀物価格は, 「現実に使われている雄 劣等質の土地の生産費にそれがその自然的状態において生み出すはずの地代」 (PPE, p、183,訳 (上) , 271頁) を加えたものによって規定されるとして. 『地代論」での考え方を変更したので ある。 マルサスによると, 土地には所有者が存在するから, 最劣等地であっても. その自然状態にお いて食物が自生しているような土地は,牧場の形で使用ざれ地主にそれ相応の地代をもたらして いたはずであるから. 「どんな地主でも,かれの土地を牧場に設定し,そしてそれへの資本の年々 の支出を節約することによって.ずっと多くの地代をうることができるときには, ほとんとゞまた −42− 12

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凡.スミスとマルサス地代論の構造 はまった<地代を支払わない耕作農民に耕作をまかせることはなかろう。 したがって.現実に耕

作きれている最劣等地の生産物も.けっして全部が利潤と賃金とに分割きれえない」 (PPE,p.189,

訳(上) , 279頁) というのである。 このように、 マルサスは,穀物価格の規定にあたっては, 「文明化した国においては・ 未耕地 はつねに、家畜を養い木材を産するというその自然力に比例して,地代を生みだす」 (段段E,p.188, 訳(上) 278頁) ということを考慮しなければならないと考えたのである「> それではこのような所説の変更はなぜ生じたのであろうか'''。これは,一つには前述のように, 現実に占有されている土地には,地代が存在しているという現実的な事実認識である。二つには, スミスの所説のなかにあった小麦畑と他の農産物畑との間の土地の転用問題の考え方をマルサス も受け入れた結果ではないかということである。 スミスの土地転用問題とは, 小麦畑は牧草地や他の農産物畑に転用できるので.小麦畑の地代 が他の用途に用いられる耕地の地代を規制するというものである。 「大国はどこでもⅢ 耕作され た土地の大部分が人間の食物または家畜用の飼料の生産に使用ぎれている。このような土地の地 代と利潤が,他のすべての耕作地の地代と利潤を左右する。」 (WrV,Vol.1,p 168,訳1,255頁)。 すなわち, 人LIの増加と生活水準の上昇とともに,小麦以外のさまざまな上地生産物に対する需 要が生じてくると,小麦畑は牧場や果樹園, 野菜畑などに転用することができる。 また需要の変 化によっては.牧場や野菜畑などを小麦畑に再転用することも可能である。 したがって,牧場や 果樹園野菜畑などの地代は小麦畑の地代によって規定されることになる。スミスは小麦畑では 最劣等地においても地代が生まれると考えていたから.牧場その他の土地生産物に用いられてい る土地においても最劣等地に地代が生ずることになる。 スミスはつぎのようにいう。 「人間の食物を生産する耕地の地代は他の用途に用いられる大部 分の耕地の地代を規制するのである。どんな特定の生産物も, その地代を, 食物を作る耕地の地 代より低いままでおいておくことはできない。 というのは, その場合, その土地はただちに他の 用途に向けられるだろうからである。 また逆に特定の生産物が通常のもの以上の地代をもたらす のなら. それはその生産物に適した土地の量があまりに少なく, その結果, 有効需要が充足され ないからなのである。 ヨーロッパでは, 人間の食物として直接役立つ主要な土地生産物は小麦で ある。それゆえ,特殊な位置の土地を除けば. ヨーロッパでは, 小麦畑の地代が他のあらゆる耕 地の地代を規制する。」 (”ノV,Vol.l,p.175,訳1,264-5R) マルサスにおいても,穀物と牧草あるいは森林との土地転用問題について, 『経済学原理j初 版第3章第5節「 言l地からえられる生産物の現実の分量が,現存の地代および現存の価格に依存 することについて」において次のように記きれている。 「文明化した国においては,未耕地はつねに,家畜を養い木材を産するというその自然力に比 例して.地代を生み出すのである。そしてもちろん, 土地が耕作を放棄きれたときには、特にも しこのことが他国からのよりやすい穀物の輸入によってひきおこされ, したがって人' 1の減少な 1l) 大村照夫『マルサス研究』 ミネルヴァ書房, 1985年, 第6章旧然地代論」参照。 −43− 13

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東北学院大学経済学諸集第176り しに行われるならば, こうして放棄された最後の土地は,前よりはかなり少ないであろうが, 牧 場の形で相応の地代を生むであろう。前節で述べたように, 地代は減少するであろうが, しかし 土地に投下された資本にもまたはそれから得られる生産物にも比例するほどに減少しないであろ う。 とゞんな地主でも.彼の土地を牧場に設定し, そしてそれへの資本の年々の支出を節約するこ とによって,ずっと多くの地代をうることができるときには, ほとんどまたはまったく地代を支 払わない耕作農民に耕作を任せることはなかろう。したがって,現実に耕作されている雄劣等地 の生産物も, けっして全部が利潤と賃金とに分割されえないし. また右に仮定した場合にはそれ に近くもないので, こうした土地の状態またはその肥沃度の税度は, おそらくはその土地の利潤 率を規制し得ないのである。」 (段段E,pp.188-9,訳(上),278-9頁) 見られるように, マルサスによれば, 文明国においては, そのt地が未耕作であったときに生 じていた「自然地代」は生じるので,安価な外国穀物の輸入によって, 国内の劣等地が放棄され る場合も, その土地を再び牧場として使用されれば, その土地の地主にはいくらかの地代が支払 われるのは当然であるというのである。 したがって.現実に耕作されている最劣等地の生産物も、 けっして全部が利潤と賃金に分割きれえないのであり,最劣等地においても地代が生ずることに なるのである。 以Iきのことは, マルサスが, 『経済学原理」初版第2章第3節「生産費について. それが交換 価値におよぼす影響を論ずる」において, ある商品が市場に継続的に供給きれるために論じてい た三つの条件と符合することになる。すなわち, 三つの条件とは, その生産に用いられた労働者 の賃金を支払うもの. 資本の利潤を支払うもの, および土地の地代を支払うものということにな る。これらの条件を充たす価格は.スミスが自然価格と呼んだところのものであるが,マルサスは, それを必要価格(necessaryprice) と呼ぶ。必要価格とは, 商品を規則正しく市場にもたらすの に必要な価格のことである。彼は, 最劣等地においても地代が生ずることの認識を受けて, それ を次のように表現している。 「土地がその自然的状態において生産するものに対して支払われる地代は,利潤およびilli格の 構成部分に関する問題においては殿も本質的な違いをなしているものであるが, 土壌が等級を もっているその普通の状態にある進歩的な国々おいては,穀物はその自然価格または必要価格で、 すなわち現実の分量を市場にもたらすのに必要な価格で売られているという重要な学説を. どの 点からも無効にするものでないことが見られるであろう。この価格は平均的には. 少なくとも, 現実に耕作されている最劣等地におけるその生産費ならびにその自然的状態におけるこうした上 地の地代に, ひとしいものでなければならない。なんとなれば, もしそれがなんらかの程度にこ れ以下に下落するならば, こうした土地の耕作者は,地主に. かれがこの土地から耕作せずに控 得しうるとおなじ高さの地代を支払いえないであろうし, したがって土地は耕作されずに放i間き れ. そして生産物は減少するであろうからである。それゆえに, その自然状態における土地の地 代は明らかにあらゆる耕作物の棚格のきわめて重要な一部分であるから, もしそれが支払われな いならばこうした生産物は市場にもたらきれないであろうし, そして穀物にたいして現実に支払 14 −44−

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A,スミスとマルサス地代,為の柵造 われる真実価格は, 平均的に同じ分量の生産に絶対に必要であり.前述のことばでいうと,穀物 は.生産趾全体については.その必要価格で売られているのである。」 (PPE,pp.190-91,訳(上), 285-6頁) こうして、 マルサスは, 「穀物は,現実に生睦された分量については, 製造品のように, その 必要価格で売られているという学説」を「経済学原理」初版の地代章においても論証したのであっ w"-12} ノー 。 6‘結びにかえて われわれは, これまでマルサスの地代論をスミスとの関連において検討してきた。地代の定義 についてマルサスは,土地生産物の通常価格から投下資本を回収し, ざらに通常利潤を差し引い たあとに残る価格の超過分であるとするスミスの定義を継承している。 しかし, スミスが地代を 「一つの独占価格」 といい,食物生産物の高価格の服因を需要が大きいからであるとしている点 については. 「生活の必要品と独占貨物との高い価格の原因のあいだの真のちがいについて明確 な印象を読者に与えていない」として, スミスの説明の峻昧さを指摘している。あわせて, シス モンディやブキャナンのいうような.地代が独占価格の結果にほかならず, したがって消甜者の 犠牡において盤得された名目価値にすぎず富の創造ではないとする考え方も斥けている。 マルサスにとっては,地代は,単なる名目価値でもなければ有害な移転価値でもなく, 国民的 財産の全価値の最も真実かつ本質的な一部分なのである。これは,農業投資の有利性に蕊づいて, 地代は, その'卦の住民の真の富と収入の部分であるとするスミスの考え方を受け入れたもので ある。 しかし. マルサスは, スミスの主張する農業投資の有利性によってでもなく,彼独自の論 理において,生産費を越える価格の超過分を説明するのである。彼は, その価格超過の原因を三 つ挙げている。第一は土壌の能力である.すなわち,士地は耕作に従事する人びとの維持に必要 ときれるよりも多くの剰余生産物を産するというものである。第二は、生活必需品特有の有効需 要創造性である。これは,土地生産物は自ら需要を創造する性質をもっているから供給過剰によ る価格の低1,.はありえないということである。そして, この第一と第二の原因から第三の叫咽で ある肥沃な土地が希少であることが, 「地代という特定の形態に分離」することになるというの である。 これらのマルサスの地代発生原因の説明のうち第一と第二の原因については,実はスミスの所 説のなかにあったものを継承したものである。すなわち, スミスによれば.食物生産の場合には, その土地で労働する人びとを扶養するのに足りるよりもはるかに多量の食物の生産がロ」.能であっ たのである。 さらに, 食物生産の増加は必ず人LI増加を伴うので食物需要の増加がもたらきれ‘ 最劣等地に役ドされた資本でも社会の平均利潤を上lulる剰余,すなわち地代が生まれるのである。 このようなスミスの所説がマルサスの生産費を越える価格の超過分の説明に取り入れられている 12) マルサスは次のように述べている. 「…地代の支払いは多数の貨物の供給の絶対的必要条件であり そして価格の一柿成部分と考えるのが正しいという結果となる。」 (FPE,p97,訳(k) , 140頁) 15 一‘15−

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東北学院大学経済学諭弗第1763 が, マルサスは, 」二述の第一原因と第二原因. そしてリカードウが唯一の地代発生の原因として 挙げている第三の原因とを相互に関連付けながら統一的に把握することによって, 彼独自の地代 論を展開することができたのである。 マルサスにおいては,地代は土地生産物の通常価格とその生産費の差額にあるのだから, その 差額を大きくすればそれだけ地代が増大することになる。彼はその差額を大きくする要因として 四つ挙げている。第一に利潤を引き下げる資本の蓄積, 第二に労働の賃金を引き下げる人口の増 大, 第三に農業上の改良, そして第四に需要の増大による農業生産物価格の騰貴である。マルサ スは, これらの四つの要因を考察することによって.社会の発展とともに地代が騰貴することを 論証したのである。 ところでⅢ スミスの地代論においては,最劣等地においても地代が生ずるというのであるが, マルサスは当初I地代論」においては,穀物の価格は,現実に使用きれている最劣等地の生産費 (平均利潤と賃金)に等しいと述べて,最劣等地には地代は存在しないと主張していた。 しかし ながら,現実に占有されている土地には地代が存在しているという事実とスミスの所説のなかに あった小麦畑と他の農産物畑との間の土地転用問題の考え方を受け入れて. I経済学原理』初版 においては. それまでの考え方を改めて,穀物価格は, 「現実に使われている最劣等質の土地の 生嵯費にそれがその自然状態において生み出すはずの地代」の額を加えたものによって規定され ると主張したのである。このことは,マルサスが,商品が市場に継続的に供給されるために論じ ていた三つの条件と符合することになる。すなわち,三つの条件とは,労働者の賃金と資本の利 潤, そして地代である。これらの条件を充たす価格を, スミスは自然価格と呼び, マルサスは必 要価格と呼んだのである。マルサスは,最劣等地においてもこれらの三つの条件が整っているこ とを論証したのである。つまり,穀物は必要価格で取り引きが行われていることが論証されたの である。 以上から明らかなように. マルサスは, スミスの地代学説の根幹部分の多くを継承しつつ, そ の修正と補完を行って自己の地代論を展開したということができる。 参考文献

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