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生体に学ぶソフトメカニクス

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Academic year: 2021

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(1)

やわらかい物質の物理学(2):

自然現象との接点

九州大学大学院工学研究院機械工学部門

准教授

山口

哲生

静岡県立大学市民勉強会 2016年3月5日 1

本日のおはなし

0.自己紹介 1.やわらかい物質の物理学(1):いきものとの接点 • ソフトマターとは? • ゲルの体積相転移とBZゲル • 表面張力で動く液滴 • 関節軟骨の極低摩擦とゲル人工軟骨 • ヤモリ模擬粘着材料 休憩(30分) 2.やわらかい物質の物理学(2):自然現象との接点 • ソフトマターの摩擦メカニズム • 地震現象のアナログ実験 • アナログ実験の意義 • そのほかの現象(付加体形成,柱状節理,火山噴火)のアナログ実験 3.まとめ 4.参考図書 2

(2)

ソフトマター =

ソフト(やわらかい)+マター(物質)

(cf. ダークマター = ダーク(暗黒)+マター(物質)) ソフトマターとは,高分子,コロイド,液晶,界面活性剤などからなる “やわらかい”物質の総称. フランスのPierre-Gilles de Gennes が彼のノーベル物理学賞 授賞 式(1991)で紹介したことから,広く名称が知られるようになった.

ソフトマターとは?

Pierre-Gilles de Gennes (1932-2007) 3 物質による分類:高分子,コロイド,液晶,界面活性剤,… 形態による分類:ゴム,ゲル,オイル,粉体,泡,二重膜,関節軟骨,… 4

ソフトマターとは?

(3)

5

ゲルとは?

架橋点 高分子 ゲルの特徴: ‐水などの液体を大量に含む. ‐やわらかい高分子材料. ゲルの例:ゼリー,寒天,こんにゃく,軟骨,etc. 溶媒

基板

ゲル

F

N

F

S • すべり摩擦は,2つの物体が接触して相対運動しているときに起こる現象 • 通常,摩擦係数μを用いて議論される • すべり摩擦においては,摩擦界面が重要な役割を果たす N S

F

F

F

S N

F

: 摩擦力 : 垂直荷重 摩擦界面 6

すべり摩擦

(4)

X = V t k x M Fs U = dx/dt V

dt

dx

U

F

t

V

x

k

dt

dU

M

s

(

)

バネにかかる力 摩擦力 ブロックに関する運動方程式

2 different criteria for occurrence of stick-slip motion (i) (ii) Fs U x

)

(U

F

F

S

s

0

dU

dF

S かつ F x

)

(x

F

F

S

s

k

dx

dF

S

かつ k: large k: small F = Fs(x) Vt Fs(x) = -k (Vt - x) 速度弱化 すべり弱化

すべり摩擦におけるスティック-スリップ運動

タイプ ヌルヌルしたゲル ベタベタしたゲル 基板との相互作用 弱い引力または反発 強い引力 摩擦メカニズム 摩擦係数 μ < 10-2(低摩擦) μ~1 (高摩擦)

J. P. Gong, Soft Matter 2, 544 (2006)

潤滑層の形成 高分子ネットワークの

吸着・脱離 Repulsion adsorption model (J. P. Gong and Y. Osada, J. Chem. Phys. 1998)

固液2相性潤滑効果

(5)

9

ベタベタしたゲルのスティック

-スリップ運動

非接触域の波が伝わる スーパーゲル(東急ハンズで販売) (ポリオレフィン系ゲル、パラフィンで膨潤) •G’ =15 KPa •tanδ = 0.01 (ω = 0.01/s), 0.1 (ω = 10/s) •W =0.15 J/m2 (JKR test)

T. Yamaguchi, S. Ohmata, M. Doi, J. Phys. Cond. Matt., 21, 205105 (2009) M. Morishita, M. Kobayashi, T. Yamaguchi., M. Doi, J. Phys. Cond. Matt., 22, 365104 (2010)

ゲルシート(上面にPETフィルム)

一定速度 V

Load Cell (Fix)

ガラス板 ゴム板

スティック

-スリップ運動のメカニズム

Glass plate スティック

V

せん断

PET フィルム (自由に曲がるがほとんど伸びない) ゲル 10

(6)

Glass plate 剥離

V

せん断

ゲル後端 スリップ

スティック

-スリップ運動のメカニズム

11 Glass plate 剥離 粘着

V

せん断

自発曲率 スティック スリップ

スティック

-スリップ運動のメカニズム

12

(7)

Glass plate 剥離 粘着

V

進展

ゲル後端 ゲル前端

スティック

-スリップ運動のメカニズム

13 Glass plate 粘着

V

ゲル前端

スティック

-スリップ運動のメカニズム

14

(8)

Glass plate 剥離

V

スティック

-スリップ運動のメカニズム

15 1. サンプル (スーパーゲル, 東京ハンズで販売) 2. 実験装置

粘着性ゲルシートにおける

スティック-スリップ運動と応力不均一化

ゲルシート

V一定

ロードセル (Fix) ガラス板 70mm 150mm もともと曲がっている (R = 75 mm) ベタベタ 5 mm PET フィルム(伸びない) gel ゴムシート CCD カメラ 光源 V ロードセル 白紙 ゲルシート ゴムシート 16

(9)

引張速度依存性

ゲルシート V

Load Cell (Fix)

ガラス基板 引張力

黒色ゴムシート

ストライプ領域 (V = 1000 μm/s)

※Play back speed: x8

バブル領域 (V = 2μm/s) 遷移領域 (V = 50μm/s) 150mm

高引張速度域の特徴づけ

これまでの研究

エネルギーの釣り合い (Roberts & Jackson, Nature 1975)

v

v

nG

FV

(

)

)

(v

G

:破壊エネルギー(J/m2)

V

n

: すべり速度 : シャルマック波の数

F

: 摩擦力(単位幅あたり)

v

: シャルマック波の速度 (m/s)

F, v

シャルマック波速度 v Opening Closing しかしながら,F, n, vなどを説明する理論は(我々が知る限り)なかった. 本研究:V, G(v)から,F, n, v, Lc(接触長), Ln(非接触長), λ(パルス波長), Tpulse (パルス周期)を記述することに成功.実験結果との良い一致を確認. 875 . 0 ) 1 ( 2 2 0 ) 1 ( 2 1 0 0 ~ ) ( ) 3 ( 6        V v V G H v H Tpulse     Slope = - 0.875 パルス周期の引張速度依存性 18

(10)

低引張速度域でのバブルの不規則な振る舞い

バブル領域 (V = 2μm/s)での挙動 摩擦力の時間変化

Chaudhury & Kim EPJE (2005) こんな経験あり ますか??? 閉じ込められた 泡 20 摩擦力降下量ΔFの定義 force time ΔF V = 1000μm/s V = 1 μm/s V = 100 μm/s V = 10 μm/s 摩擦力降下量ΔFの累積頻度分布

すべりの規模と頻度との関係

ストライプやバブルが動くと,溜まっていたひずみが解放. ひずみが解放されると,摩擦力が低下. すべりの規模を表す量として,摩擦力降下量ΔFを定義し,その頻度を解析. 両対数プロットで,直線に載ることが分かった.

(11)

Cumulative distribution N Frequency distribution n

5

.

1

/

)

1

.

9

(log

0

M

M

(M0: Earthquake moment) 「強震動の基礎」より Moment magnitude Around Japan (1965-1974) 世界の地震活動  地震は,2つのプレート間やプレート内部 で起こる.  すべりは,プレート境界のほんの一部で 起こる.  規模と頻度との関係は,グーテンベルグ -リヒター則として知られている.

地震のグーテンベルグ

-リヒター則

CCD camera White light Polarizer Analyzer Pull Load cell Gel-sheet

複雑性の理解に向けて:応力分布の可視化

Glass plate

光弾性(複屈折)法

22

(12)

光弾性像 低引張速度では,バブルの運動によってひずみの平滑化 と蓄積が同時に起こる. ⇒ 下手な塗装工と同じ?? V = 2 μm/s (バブル) V = 1000μm/s (ストライプ)

応力可視化実験の結果

定量的評価のためには,他の手法を適用する必要あり. 23

T. Yamaguchi, M. Morishita, M. Doi, T. Hori, H. Sakaguchi, J.-P. Ampuero,

J. Geophys. Res. Solid Earth, 116, B12306 (2011)

材料: アクリル樹脂 (PMMA),シリコーンゲル (PDMS) (ゲル: H = 10 mm, G = 1 x 105Pa) 実験条件: - 沈み込み速度 V = 1000, 100, 10, 1 μm/s - 荷重一定 (FN) ,沈み込み角度 (θ)一定 実験装置の模式図: Camera σN 大陸プレート 海洋プ レート 沈み込み 荷重分布 沈み込み帯の模式図

地震のアナログ実験

(13)

摩擦力の時間変化 (V = 10 μm/s) Slope: - 0.10 - 0.41 - 0.64 - 0.74 ΔF 頻度分布 ΔF P( X > Δ F) Camera 動画 (8倍速)

スティック

-スリップ挙動

ゲル表面近傍にマーカー微粒子を 多数埋め込むことにより,PIV (Particle Image Velocimetry) 法 を用いてゲル変位場の可視化を 試みた

PIV法を用いたすべり挙動の可視化

画像の例 すべり方向 30 mm 100 mm Silicone Gel Plexiglass block Load cell V = 10 μm/s fixed Frictional interface Video Camera (15fps)

High speed Camera (500fps)

Glass bead (~0.1 mm) 実験装置 20 mm 1mm 風洞実験におけるPIVの適用 26

(14)

• 半無限弾性媒質に対する

静的グリーンテンソル

• 応力―変位関係

せん断応力分布の推定

                   ) 0 , 0 ( ) 0 , 0 ( ) , ( ) , ( y x yy yx xy xx y x F F G G G G y x u y x u         1 32 4 1 r x r Gxx  3 4 1 r xy G Gxyyx

)

'

,

'

(

)

'

,

'

(

)

,

(

x

y

dr

G

x

x

y

y

x

y

u

i

ij

zj         1 32 4 1 r y r Gyy 

H. Delanoë-Ayari et al. (2008), A. Chateauminois et al. (2008)

ゲル (せん断弾性率μ ポアソン比0.5) uj (x, y) Fi (0, 0) z = ∞ z x, y z = 0 既知 未知 変形前の画像との比較から,ゲルの 変位場を計測. 27 Friction force

dy

dx

t

y

x

t

F

Area zy y

(

)



(

,

,

)

Θ = 0.45 [deg.] FN= 10 [N] G = 3.7 x 105[Pa] 力センサで計測 画像から推定

計算のチェック

x y

View from the bottom

(15)

Analysis with Empirical Green’s function By S. Ide (U. Tokyo)

巨大地震に至る過程で,小中規模の地震活動が見られる. 29

“巨大地震”に至る過程

東北地方太平洋沖地震 (

M

w

=

9.0)との関連

試料端にすべりが広がると

加速し,さらに広い領域を

すべらせる

Large slip 経験的グリーン関数法を用いた 破壊過程の解析 (東大理・井出氏より提供) Continental

plate Oceanic plate すべり速度の時間変化

1.2° 最大イベントにおける

(16)

ゲルのすべり摩擦実験

粘着性ゲルシートの摩擦実験 • 引張速度の変化によって,規則-不規則転移を生じた. • 規則的なシャルマック波伝搬を記述する理論を構築した. • 不規則な振る舞いと地震現象との間に類似の関係が存在する. 沈み込み帯のアナログ実験 ゲル表面近傍にマーカー粒子を多数配置し,PIV法を用いて変位場 を取得した後,グリーン関数を用いて応力場を得た. 巨大なスリップの前駆現象として小・中規模のすべりが多数起こり, その結果特徴的な応力場を形成した. 31 全体のまとめ 今回は,“くっつく・はがれる”に関するいくつかの研究例を示した. 特にはがれるときには,系のジオメトリに強く依存したダイナミクスが 現れるため,その様子を把握(可視化)しながら研究することがとても 大事である.

アナログ実験の意義

自然現象の研究手法 1.実際の現象の観測 2.現象を構成する物質を対象とした実験 3.コンピュータシミュレーション 4.アナログ実験 物質を用いた計算機実験. 2.とは意味合いが異なる. デメリット: X実際の現象とは異なる現象を見てしまう可能性がある. Xコンピュータシミュレーションと比べると情報を得にくい. メリット: ○うまくいけば,さまざまな実現象を観測できる. ○研究が容易,さまざまなインスピレーションが得られる. ○仮に実際の現象とは異なっても,自然現象には変わりない. ○材料開発などの工学的応用に展開できる. 32

(17)

そのほかの現象のアナログ実験

33 付加体の形成 大陸プレートの先端にくさび形の付加体が形成される. 形成過程において,付加体内部に断層ができる. 巨大地震を引き起こすことが懸念されており,断層形成メカニズム を理解することは重要. ⇒砂を用いた実験が行われている. 大陸プレート 海洋プレート 付加体 断層 京都大学・山田准教授グループ 火山噴火 ⇒ 水の中で牛乳(コロイド分散液)を噴き出す 柱状節理 ⇒ 水に溶いたでんぷんを乾燥させる 溶岩流,雪崩,地すべり,砂丘,マントル対流,クレーター,…

そのほかの現象のアナログ実験

34 アイスランド イタリア・エトナ火山 (Y. Suzuki氏の実験)

(18)

後半のまとめ

• ヌルヌルしたゲル,ベタベタしたゲル • ベタベタしたゲルのスティック-スリップ運動 • 地震のアナログ実験 • アナログ実験の意義 • そのほかのアナログ実験 35 ポイント: ソフトマターは,そのやわらかさゆえ,スティック-スリップ運 動の際に不均一なすべりを引き起こすことができる.その性質を 用いると,数100km規模の自然現象を実験室の中で容易に再現 することができる.実験室で研究することで,再現性に乏しい自 然現象を詳細に理解する機会が生まれる(かもしれない).

参考図書

36 1.科学は冒険 講談社ブルーバックス ピエール=ジル・ドジェンヌ,ジャック バドス著, 西成,大江訳 2.ソフトマター物理学入門 土井正男著 岩波書店 3.表面張力の物理学 D. ケレ 著,奥村剛訳,吉岡書店 4.ヤモリの指 ピーター・フォーブス著 吉田三知世訳 早川書房

(19)

37

ご清聴ありがとうございました

参照

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