シンポジウム 1
S1-1 ロボット支援下子宮体癌手術の保険収載後の検証
横山良仁 弘前大学大学院医学研究科 産科婦人科学講座 2018 年 4 月婦人科悪性腫瘍の中で子宮体癌低リスク群のロボット支援下子宮全摘術(骨盤リンパ節郭清の み)が保険収載となった。増加している子宮体癌症例にロボット手術が保険下に使用できることは患者側も 医療側も福音である。しかしながらロボット支援下子宮体癌手術を施行するための施設基準が設定された。 当手術を10例以上実施した経験を有する医師が常勤であること、腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(ロボット支援 下子宮体がんも含む)を年間 5 例以上実施していることという 2 つの基準が医療者側の大きな障壁となるも のと思われた。しかし 2017 年のロボット手術件数が 240 件であったのに対し、2018 年は 10 月までに 650 件 に急増した。良性疾患でのロボット手術が20例から269例と13倍増え、悪性腫瘍のロボット手術も208件か ら381件と約2倍に増加した。予想に反し、ロボット手術を導入する施設は2017年まで58施設であったのに 対し2018年だけで27施設が新たにロボット手術を導入した。そこで露呈されたのが、メンターサイト不足、 プロクター数の絶対的な不足、プロクター制度が不備、ということ、開腹、腹腔鏡、ロボット手術の棲み分 けはどうするかという教育面の問題も懸念されてきた。ロボット手術の安全な普及のため手術教育について 私見を述べてみたい。これまでは開腹手術を覚え、それから腹腔鏡手術なりロボット手術なりの技術を取得 してきたと思われる。しかし、ロボット手術から入り、開腹を覚えるということも教育面で考慮されても良 いのではないか思われる。しかしそこには緊急時に開腹手術ができなくなるという技術的な問題が横たわり 一筋縄ではいかない問題をはらむ。その点につきディスカッションをしてみたい。 略 歴 1988年 弘前大学医学部卒業、産科婦人科学講座入局 1992年 弘前大学大学院医学研究科修了 1994年 文部教官助手(弘前大学助手医学部附属病院) 2001年 ケンブリッジ大学婦人科病理部門へ留学(文部科学省在外研究員) 2003年 弘前大学医学部産科婦人科学講座講師 2011年 弘前大学大学院医学研究科産科婦人科学講座准教授 2016年8月 弘前大学大学院医学研究科産科婦人科学講座教授 【社会活動】 日本産科婦人科学会代議員、日本婦人科腫瘍学会理事、婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG)理事、日本女性医学学会理事、 日本産科婦人科内視鏡学会理事、日本産婦人科手術学会理事、日本婦人科ロボット手術学会理事、 産婦人科漢方研究会常任世話人 【資格】 日本産科婦人科学会認定医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、シンポジウム 1
S1-2 ロボット支援子宮体癌手術導入時の工夫と注意点について
梅村康太 豊橋市民病院 女性内視鏡外科 2018年4月より子宮体癌に対するロボット支援下手術が保険適応となり全国に拡がりつつある。本術式導 入時の工夫と注意点について以下に述べる。当院では da Vinci Si システムを用いており最初のポート配置 では第3アーム用ポート作成位置に注意している。腹部外側にポートを作成する際に、患者右腕と干渉して 第3アームの可動域が狭くなることがあるが、患者右腕を身体より側下方に固定すると干渉を低下させるこ とができる。第3ポート作成時には腹腔内で腸管と腹膜が癒着していて、トロッカー挿入ができない場合が ある。対策として助手用ポートからの鉗子操作で癒着剥離するか、第 1、第 2 アームのみドッキングしてロ ボット操作により癒着を剥離した後にトロッカーを留置する方法がある。コンソール操作を行う際は第1モ ノポーラシザーズ、第 2 プリサイスバイポーラ、第 3 カディエールフォーセプスを使用している。基本操作 はモノポーラとバイポーラ鉗子による組織の把持と切除であるが、術野展開する際には第3アームの使用法 が重要となる。準広汎子宮全摘術を行う際には、第3アームによる子宮牽引操作と、経腟側より腟パイプを 入れ子宮頸部周囲にテンションをかけることで、尿管と子宮動脈の分離、膀胱子宮靭帯前層処理が容易とな る。骨盤リンパ節郭清を行う際には、左右側臍靭帯を直針にて腹壁側へ吊り上げて、内腸骨動脈、閉鎖リン パ節周囲までの術野確保を行う。側臍靭帯をロボット鉗子にて直接強く牽引すると断裂することがあるので 注意を要する。内外腸骨動脈分岐部周囲のリンパ節摘出時の際には、第3アームを利用し外腸骨動脈を内側 へ圧排し、腸腰筋とのスペースを作ると十分な視野確保が可能となる。できたスペースにカメラを近接する ことで、細かな血管の確認や適切な切除ラインを視認できる。ロボット支援下手術の際には、第3アームに よる牽引、圧排を用いることで安定した視野、操作が可能で有効な手段となるが、干渉しない位置にポート を作成することが重要である。 略 歴 1998年 札幌医科大学卒業 2006年 札幌医科大学 産婦人科 助教 2011年 倉敷成人病センター 産婦人科 医長 2013年 豊橋市民病院 女性内視鏡外科 部長 【所属学会・専門医等】 日本産婦人科学会 専門医・指導医 日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医・指導医シンポジウム 1
S1-3 肥満合併子宮体癌患者に対するロボット支援下子宮体癌根治術
近藤英司、松本剛史、真木晋太郎、二井理文、吉田健太、平田 徹、竹内沙織、田畑 務、 池田智明 三重大学 産婦人科 【諸言】肥満は子宮体癌のリスク因子であり、手術体位による合併症(深部静脈血栓症やコンパートメント症 候群)の頻度は健常者よりも多く、またMinimally invasive surgeryでは骨盤高位は必須であり、ロボット支 援下手術ではさらに骨盤高位 25 度となるため、呼吸器系および循環器系に負担がかかり術中呼吸管理も困 難である。その反面いったん術野が展開された場合は開腹手術に比べ、手術手技は容易である。今回は肥満 合併子宮体癌患者のロボット支援下手術の有用性および麻酔管理・体位について検討した。 【目的と対象】当院では、2018年3月からロボット支援下子宮体癌根治術を施行し、現在まで18例施行した。 そのうちBMI 30以上の肥満合併例7例(BMI;31.5-50.2)であり手術成績や麻酔管理を検討した。 【結果】非肥満群11例および肥満群7例の年齢・BMI・手術時間・出血量・入院日数それぞれの中央値は、47 歳(29-69)・47.5 歳(30-59)、21.9(18.2-29.4)・38.2(31.5-50.2)、骨盤リンパ節郭清なし 188 分(167-202 分)・253 分(186-302分)、骨盤リンパ節郭清あり291分(226-362)・300分(276-323)、5ml(5-2788)・50ml(5-500)、5日 (5-15)・5 日(4-7)であった。非肥満群に総腸骨静脈損傷による開腹移行 1 例を認めた。肥満群の麻酔管理は 最高気道内圧を 35cmH2O 以下とし、術後の低換気回避、覚醒の良い麻酔を行い、頭低位時は下肢の血圧を 維持した。 【結語】肥満患者に対して気腹圧だけでは腹壁の挙上が困難であり、視野の確保が難しい。ロボット支援下手 術は骨盤高位 25 度が必要であるが BMI30 ≧でも安全に施行でき、手術時間の延長はやや認められるが麻酔 管理および合併症対策を十分に行えば安全に施行できる。しかし、今後長時間になった場合などの検討は必 要である。 略 歴 1996年 3月 山口大学医学部卒業 1996年 4月 三重大学医学部附属病院 医員 2003年 3月 三重大学医学部大学院医学研究科単位取得満期退学 2004年 7月 医学博士 2013年 10月 がん研有明病院 婦人科 医長 病棟医長 2016年 7月 三重大学医学部附属病院 助教 婦人科病棟医長 2017年 7月 三重大学医学部附属病院 講師 医局長シンポジウム 1
S1-4 保険適用術式の安全普及に向けてのポイント
小林裕明 鹿児島大学医学部 産科婦人科学 保険収載された低リスク体癌に対するロボット手術に関して、3名の先生方にはそれぞれの観点からの安 全な普及に向けての方策を述べて頂く予定である。私は今から始める施設にとって留意すべきポイントを総 論的に解説する。各留意点を以下のように時系列に分けた。 手術開始前:1)Intuitive Surgical(IS)社が提供するトレーニングとは別の、関連手術スタッフによる実機 を用いたロールインからロールアウトまでのシミュレーション、2)スタッフ間共有マニュアルの作成、3) コンソールシミュレーターを用いた鉗子操作の練習、4)婦人科医師たちによる実機+ポート設置のうえでの 腹部モデルを用いた鉗子の出し入れ、鉗子干渉時の対処法などの確認、手術中:5)緊急開腹時の役割分担確 認、6)目的に合った鉗子・縫合糸選択、7)“3つのC”(Camera & Clutch work, Counter traction)の重要性、8) 膀胱鏡・脱気後止血確認の有用性、手術後:9)プロクターおよびIS社アシスタントからの意見収集、10)改 善点に関するスタッフ間話し合い。 以上の各ポイントを動画や写真を交えながら解説する。また、実用的な配布マニュアルのもとに動画を交 えて行う講習会の定期的開催や Si と Xi の両機器の違いも理解したプロクターの育成も安全な国内普及には 必要である。本シンポジウムがこれからロボット体癌を始める施設には有用な情報となり、すでに開始して いる施設には今後の改善に向けての参考となれば幸いである。 略 歴 1985年 九州大学医学部卒業、九州大学医学部産婦人科入局 1991年 九州大学大学院卒業(医学博士学位取得) 1991-93年 カナダ・トロント大学・博士研究員留学 2009年 九州大学医学部産科婦人科・准教授 2014年 鹿児島大学医学部産科婦人科・准教授 2016年 鹿児島大学医学部産科婦人科・教授 【所属学会等】 日本産科婦人科学会(代議員、専門医・指導医)、日本婦人科腫瘍学会(理事、腫瘍専門医・指導医、センチネルリンパ 節関連委員会委員長)、日本臨床細胞学会(評議員専門医・指導医)、日本癌治療学会(代議員)、日本産婦人科手術学会(常 務理事)、日本ロボット外科学会(理事、国内 A 級認定術者・メンター)、日本婦人科ロボット手術学会(理事)、日本産 婦人科乳腺医学会(理事)、日本女性医学学会(理事)、日本産科婦人科内視鏡学会(理事)、日本内視鏡外科学会(学会推 奨プロクター)、JCOG(婦人科代表委員、頸癌プロトコール委員長)、JGOG(日韓婦人科腫瘍協議会委員)、日本癌学会、シンポジウム 2
S2-1 ロボット支援広汎子宮全摘術の現状と展望
京 哲 島根大学医学部 産科婦人科 我々は開腹広汎子宮全摘術の経験をベースに2015年から腹腔鏡下広汎子宮全摘術を開始した。広汎子宮全 摘術の手技が開腹、腹腔鏡というアプローチの違いによって異なるのは望ましくないという考えで開腹の手 技を腹腔鏡で再現しようと工夫を重ねるうちに、一部の手技においては腹腔鏡の特性を生かした新たな手技 を適用するようになってきた。膀胱子宮靭帯前層は開腹術では尿管トンネルを作成することが大前提であっ たが、腹腔鏡により得られる拡大視野は、尿管トンネル入り口の血管、膜構造を明確にし、トンネルの作成 を行うことなく、剥離操作を主体とした前層の展開が可能となった。さらには開腹術ではその展開が容易で はなかった腟側腔が腹腔鏡による気腹圧の存在により容易になり、膀胱、尿管を視認しながら安全に前層を 処理する手技が確立された。以上の経緯から、そもそも尿管トンネルとは、あるいは前層、後層とは何なの かという根源的な問題が浮き彫りになってきたのは、腹腔鏡の導入による副次的産物であろう。 さらに2016年からロボットを導入したが、これは何を上乗せすることになったのであろうか? 我々の20 〜 30 例程度のロボット広汎子宮全摘術の経験では、腹腔鏡の手技から大きく異なる手技の適用には至って いない。しかしながらロボットによるさらなる 3D 拡大視野と動作の精緻性は新たな手技の展開をもたらす 可能性があり、リンパ節廓清、基靱帯、膀胱子宮靭帯の処理などは期待されるターゲットである。以上のよ うな観点から、本シンポジウムでは腹腔鏡、ロボット手術のdataを多角的に検討し、ロボット手術がもたら すメリットについて考察したい。 略 歴 1986年 産業医科大学医学部卒業 1986年 大阪大学産婦人科研修医 1987年 大阪府立病院産婦人科研修医 1989年 大阪大学微生物病研究所婦人科医員 1993年 米国ノースウエスタン大学分子細胞生物学上席研究員 1995年 金沢大学産婦人科助手 1999年 金沢大学産婦人科講師 2010年 金沢大学産婦人科臨床教授 2014年 島根大学産婦人科教授シンポジウム 2
S2-2 当科施行例から考えるロボット支援子宮頸癌手術の可能性とメリット
小阪謙三 静岡県立総合病院 産婦人科 当科でこれまで施行した子宮頸癌に対するロボット支援下手術を振り返り、そのメリットと可能性を考察 したい。 当科では 2014 年 6 月より臨床研究として 10 例、2016 年 12 月より先進医療 B(兼臨床研究)として 8 例、計 18例の子宮頸癌症例に対してロボット支援下根治術を行ってきた。術式は単純子宮全摘術1例、準広汎子宮 全摘術(type 2)2例、広汎子宮全摘術(type 3)14例、広汎子宮頸部切除術1例である。 結果:広汎子宮全摘術の出血量は平均61.1mlであった。同時期に行った開腹術、あるいは腹腔鏡下手術と 比較しても少量であった。リンパ節数は平均31.8個であり、開腹術と比較してやや少なめであり、腹腔鏡下 手術とは同程度であった。明らかな術中合併症は認めておらず、Grade 2以上の術後合併症は、体位保持器 具によると考えられた尺骨神経障害1例、術後比較的早期の発熱・炎症を伴う下肢リンパ浮腫が1例であった。 術後再発は1例に認め、傍大動脈リンパ節再発であった。腟断端再発、腹腔内再発は経験していない。 以上のように、当科施行例から示唆された客観的メリットとして出血量の少なさが挙げられた。また、主 観的印象としては、カメラに手振れがないのでよりマイクロ的な精緻な手術が可能であること、術者の標準 体位が座位であるので長時間手術の際に体力的な負担が軽減される可能性、カメラワークも術者が行うため 助手が悪性腫瘍手術の解剖を熟知していなくとも手術の遂行が比較的容易であること、すなわち経験年数の 浅い助手のみでもストレスが少なく手術が遂行でき診療におけるマンパワーの配分に貢献する可能性、など が考えられた。将来的な可能性については、今後多くの企業による機器の改良・価格低減が期待される。 略 歴 京都大学医学博士 1992年 京都大学卒業。京都大学医学部附属病院産婦人科研修医 1994年 静岡県立総合病院医師 1995年 三菱京都病院医師 1998年 京都大学大学院 2002年 京都大学医学部婦人科学産科学教室:助手2006-2009年 Edouard Herriot病院(フランス・リヨン:前主任教授D. Dargent)留学
radical trachelectomyおよび婦人科悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術の研修を行う 2009年 京都大学医学部婦人科学産科学教室:講師
シンポジウム 2
S2-3 子宮頚癌T1b1または2a1,N0症例におけるロボット支援下広汎子
宮全摘術の実施妥当性
藤堂幸治 北海道がんセンター 婦人科 【目的】初期子宮頸部浸潤癌(T1b1/2a1)におけるロボット支援下広汎子宮全摘術の実施妥当性を検討する。 【方法】2010年1月より2018年4月の間に北海道がんセンターで治療を行った子宮頸癌583例のうち、初回治 療として広汎子宮全摘術(広汎子宮頸部切除術)および所属リンパ節摘出を行ったT1b1/2a1,N0の170例を 背景とした。うち非ロボット鏡視下手術(通常の腹腔鏡手術)4例を除いた166例を研究対象とし、カルテ調 査に基づく後方視的検討を行った。周術期合併症は神経因性膀胱とそれ以外に分けて検討した。神経因性膀 胱のアウトカムは「なし / 軽度」と「高度」にわけた。高度の神経因性膀胱とは残尿量が常時多いまたは不安 定なため自己導尿を指導し、なおかつ 30 日以内に自己導尿の離脱が適わなかった場合とした。種々のアウ トカムは開腹手術群(O群134例)とロボット手術群(R群32例)で比較を行った。 【結果】年齢中央値 44 歳、進行期分布は Ib1 期 95%、IIa1 期 5% であった。リンパ節転移は 11% に認められ た。腫瘍径中央値は 20mm であった。年齢、BMI、進行期、組織型、リンパ節転移頻度、腫瘍径、既往円 錐切除の頻度は両群間に差を認めなかった。ただし R 群で脈管侵襲陽性例が有意に少なく(49% vs. 19%, P=0.022)、術後治療の追加例が少ない傾向があった(39% vs. 22%,P=0.072)。追跡期間は R 群で有意に短 かった(22か月 vs. 47か月,P<0.0001)。予後についてはR群で再発率(6.7% vs. 3.1%,P=0.69)、死亡率(5.2% vs. 0.0%,P=0.35)ともに下回ってはいたが、有意差を認めなかった。手術時間はR群で有意に長かった(268 分 vs. 415 分,P<0.0001)が、出血量は有意に少なく(492cc vs. 30cc,P<0.0001)、入院期間が短かった(24 日 vs. 10日,P<0.0001)。高度神経因性膀胱がR群で少ない傾向があった(49% vs. 31%,P=0.078)。高度神 経因性膀胱の発症は第21例を最後に11例連続で観察されていない。 【結論】初期子宮頸部浸潤癌(T1b1/2a1)に限定して行えば、ロボット支援下広汎子宮全摘術は実施妥当性が 認められる。しかも膀胱機能障害の程度を開腹手術と比較して低減できる可能性が高い。 略 歴 1993年7月 北海道大学医学部医学科 卒業 1993年7月 北海道大学医学部付属病院産婦人科 医員(研修医) 1995年4月 北海道大学大学院医学研究科博士課程 2005年8月 北海道大学医学部産婦人科 助手 2008年6月 国立病院機構北海道がんセンター 婦人科医長 2009年4月 北海道大学大学院医学研究科連携大学院 客員准教授シンポジウム 2
S2-4 当科におけるロボット支援広汎子宮全摘出術
新倉 仁1),渡邉 善2),橋本千明2),田邉康次郎1),徳永英樹2),島田宗昭2),八重樫伸生2) 1)国立病院機構仙台医療センター 産婦人科,2)東北大学 産婦人科 子宮頸癌に対する広汎子宮全摘出術に関しても他の疾患と同様、低侵襲化への試みがなされてきている。 東北大学産婦人科においても開腹手術においては術中神経刺激を利用した神経温存術式やセンチネルリンパ 節生検の利用による系統的リンパ節郭清の省略などの妥当性、有用性を検証してきた。一方で、2015年より ロボット支援手術の子宮頸癌手術への応用にも取り組んできた。ロボット支援手術では従来の腹腔鏡下手術 に比して、より繊細な操作が可能なため広汎子宮全摘術のような婦人科領域の中で難易度の高い手術に応用 することは、さらなる出血量の減少や手術時間の短縮などに有利な可能性が考えられる。さらに、ラーニン グカーブの短縮も期待されており、腹腔鏡下手術が普及して、低侵襲手術の利点を多くの人が享受できるた めにも有利と思われる。また、センチネルリンパ節生検においてはロボット支援下手術でトレーサーとして ICGを使用するセンチネルリンパ節の同定方法はもっとも同定率が高いとの報告が多くなされている。当科 ではこれまで、8症例に対し、ロボット支援広汎子宮全摘を施行した。新規技術としての安全性の担保を考え、 腫瘍径は2cm未満のものを対象としていたため、手技的には比較的容易な症例が対象となってはいるものの、 当科における腹腔鏡下広汎子宮全摘術の経験はなかったにもかかわらず、ロボット支援手術から開腹手術へ の移行例はなく、全手術時間は中央値で412分(最大474分)、出血量の中央値は56ml(最大で600ml)と安全 に導入可能であったと考えている。7例に施行したセンチネルリンパ節生検もRIにパテントブルーかICGを 併用する方法での同定率は 100% で、バックアップ郭清でも偽陰性例はなく、ロボット支援手術への適用は 可能であると考えられた。膀胱子宮靭帯処理で、パワーデバイスをなるべく用いない術式としてからは神経 温存状態も良好で、開腹手術以上の精度が期待される。 略 歴 【学歴】 1988年 東北大学医学部医学科卒業 【職歴】 1995年 岩手県立北上病院産婦人科科長 1998年 仙台社会保険病院産婦人科医長 2009年 東北大学大学院医学系研究科婦人科学分野准教授 2012年 東北大学病院婦人科科長、特命教授 2018年 国立病院機構仙台医療センター産婦人科部長シンポジウム 2
S2-5 ロボット支援下広汎子宮全摘は保険収載すべきではないのか?
馬場 長 岩手医科大学 産婦人科 昨春、良性疾患および初期子宮体癌に対してロボット支援下に子宮摘出を行うことが保険収載され、産婦 人科領域でもロボット支援下手術を汎用できる体制が整った。同時に初期子宮頸癌に対する腹腔鏡下広汎子 宮全摘術(LRH)が先進医療での運用期間を経て、開腹での広汎子宮全摘術(RH)の代替手術選択肢として保 険収載された。子宮頸癌に対してもロボット支援下の広汎子宮全摘術(RALRH)が先進医療で運用されてお り、子宮体癌と同様のロードマップを辿るのであれば来春の保険収載が望まれるところであるが、先進医療 での症例登録数が伸び悩み、保険収載の実現が危ぶまれている。 さらに昨春来、米国を中心とした大規模研究によりLRH/RALRHがRHと比して腟断端周囲の再発が多く、 腫瘍径が 2cm を超える患者の生存予後が特に不良であることが示され、全世界的に論議を呼んでいる。本 邦で LRH/RALRH を日常診療として運用するにあたっては、予後を担保するべく治療対象だけではなく術 者や施設も絞りこんだ方がよいという慎重論もあるが、術中・術後の合併症が少なく既に保険適用となった LRHを国民に広く提供できないのであれば、次回以降に保険適用術式の拡大を望むことは難しいと考えられ る。 もとよりロボット支援下手術は高解像度拡大3次元視野でコンピューター制御された自由度の高い手術手 技が可能であり、骨盤深部の子宮頸癌手術に適していると期待されるが、質の高い手術を遂行するには 30 例程度の症例経験が必要とされる。このラーニングカーブを短縮し、導入直後から安全・確実なRALRHの 運用を実現するには、腟切断や摘出標本搬出も含めて留意すべきpit fallを押さえ共通言語化した術式の確立 と普及が不可欠である。発表者も2012年よりRALRHに携わり、さまざまな治療経験を得てきた。その経験 を本シンポジウムで共有することでRALRH導入を検討する多くの施設の一助としたいと考えている。 略 歴 1998年 京都大学医学部卒業、京都大学産科婦人科入局 2007年 京都大学大学院医学研究科卒業、学位取得 2008年 京都大学大学院医学研究科器官外科学婦人科学産科学 助教 2013年 同 講師 2017年 同 准教授 2018年 岩手医科大学産婦人科 主任教授 日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本婦人科腫瘍学会専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡)、 日本がん治療認定医、日本ロボット外科学会専門医ワークショップ 1
WS1-1 腹腔・骨盤内血管の走行・解剖の知識
藤井多久磨 藤田医科大学 産婦人科 ロボット手術では解像度の高い 3D カメラにより、従来では見えにくい微細な血管の走行もよく見えるよ うになり、初心者でも比較的容易にアドバンスの手術に着手することが可能となってきた。そのため、血管 の走行・解剖に熟知していることは婦人科悪性腫瘍の術者としてはますます重要なこととなってきた。たと えば、内腸骨動脈の分枝型として 1 −3 型があると提唱されている。1 型は内腸骨動脈から上殿、下殿動脈、 内陰部動脈がそれぞれ独立して分岐している。2型は内腸骨動脈から上殿動脈が分岐し、下殿と内陰部動脈 が共同管を形成し分岐している。3型は内腸骨動脈から上殿・下殿動脈が共同管として分岐し、内陰部動脈 は独立して分岐している。上殿動脈は腰仙骨神経幹と S1 との間を貫いて骨盤外へと走行している。下殿動 脈はS2,S3(時にS1,S2)の間を貫いて骨盤外へと走行している。 下腹部正中創開腹による手術解剖では後腹膜切開により後腹膜腔に入るため、内腸骨動静脈領域では構造 上、動脈が先に見えてくる。したがって、通常の手術操作では静脈の走行を全て露わにする機会はほとんど なくブラックボックスの領域となっている。静脈は動脈以上にバリエーションも多いためか、手術解剖書で も詳細が記載されていることはあまりない。静脈は動脈の背側に位置するために、動脈を摘出しなければ詳 細な静脈の走行はわからないことから、通常の手術では静脈の走行を確認することは困難である。静脈は動 脈と並走しているが、隣接静脈間で吻合を形成し、結果として動脈を囲んでいるようなところもみられる。 たとえば、総腸骨静脈は外腸骨、内腸骨静脈(抹消には上殿静脈、下殿、内陰部静脈の名称がついている) が合流している。閉鎖静脈、子宮静脈、膀胱静脈は内腸骨静脈へ合流するというよりは中腸骨静脈として集 合し、中間内腸骨静脈を介し内腸骨静脈と吻合しているものがある。この吻合により形成されたループの内 側には上殿、下殿動脈が貫いた状態で観察され、これは静脈の異型走行として報告されている。腹腔・骨盤 内の血管の走行に対する知識は益々重要となってきている。 略 歴 1987年 慶應義塾大学医学部卒業 1991年 国立がんセンター研究所リサーチレジデント 1996年 米国 エール大学腫瘍内科 リサーチアソシエイト 2005年 慶應義塾大学医学部産婦人科専任講師 2013年 藤田医科大学産婦人科教授ワークショップ 1
WS1-2 サージョンコンソールからみた手術解剖
加藤友康 国立がん研究センター中央病院 婦人腫瘍科 daVinci のサージョンコンソールバックスからみた術野は、開腹手術や腹腔鏡手術と異なることは言うま でもない。開腹では患者の左か右立ち、骨盤腔内に頭を傾けて手術を行う。一方ロボット支援腹腔鏡下では いわば麻酔科医が術野を覗くような視線である。頭側から撮像した開腹手術やロボット手術の動画を見て、 骨盤内の神経系、血管系解剖の立体構築を把握する。 また患者の体位も術野に影響する。頭低位にすることで消化管を上腹部に納め骨盤腔の術野を広く確保す る。その角度は開腹とロボットではおよそ 20 度の差があり、血管の分枝方向が異なるため血管損傷に留意 する。対策として、外腸骨動脈をある程度広く露出する、直腸側腔暫定剥離で内腸骨動静脈壁を確認してお くと良い。また術前に3D-CT血管像を作成し、血管の分枝の方向を把握しておくと良い。得に、内腸骨動静 脈の分岐や上臀動静脈や閉鎖動静脈には有効であろう。 骨盤内臓器の摘出で鏡視下手術が有利な点は、血流の多い骨盤内臓器を気腹圧で静脈の拡張が抑えられ、 出血量が少なくなることにある。ただし静脈が細くなるため、開腹と同じ volume 感がない。膀胱子宮靭帯 前層の展開が終了した場面が良い例である。ここを一括切断するMeigs術式であれば挟鉗する組織量が減り 好都合である。一方、腟傍組織と膀胱子宮靭帯後層を分離する岡林術式となると、両者の境界のみきわめが 必要である。尿管を尿管膀胱移行部周辺まで十分に剥離すると黄色の領域(三角陥凹部)が見えてくる。こ の外側が膀胱子宮靱帯後層、内側が腟傍組織である。外側の部分の主体は膀胱静脈であり、深子宮静脈と合 流する。これを応用した見分け方は、「基靭帯臓側断端を動かしたときに連動する領域が膀胱子宮靱帯後層」 である。なお、基靭帯臓側断端を動かすのは第一助手が行う方が良い。触覚のない daVinci の鉗子では基靭 帯内の静脈が避ける危険がある。 略 歴 1983年3月 東京医科歯科大学医学部卒業 1983年6月 川崎市立川崎病院産婦人科臨床研修医 1985年6月 国立がんセンター婦人科臨床研修医 1992年7月 財団法人癌研究会附属病院婦人科医員 2005年3月 財団法人癌研有明病院婦人科 医長 2006年4月 国立がんセンター中央病院婦人科 病棟医長 2015年1月 国立がん研究センター中央病院婦人腫瘍科科長 現在に至るワークショップ 2
WS2-1 ロボット支援腹腔鏡下子宮全摘(RASH)導入後の習熟期間について
~Dr. AとDr. Oの差はあるのか?~
太田啓明,戸枝 満,手石方康弘,市川冬輝,白根照見,濵﨑洋一郎,澤田麻里,坂手慎太郎, 紀平知久,菅野 潔,白根 晃,柳井しおり,安藤正明 倉敷成人病センター 産科婦人科 「緒言」2018 年 4 月に婦人科でついに子宮体癌のみならず良性疾患に対してもロボット手術が保険収載され た。Robot assisted simple hysterectomy(RASH)導入から8か月が経過し、手術延長に要因や習熟期間につ いて、術者別に検討した。 「方法」RASH ではコスト削減のために、第 3 アームを使用せず、子宮マニュピレーターを使用し、4 ポート とした。カメラポートは臍上 3cm もしくは臍底を使用し、スコープは 0 度と 30 度ダウンを術者が選択した。 アシストポートは第1もしくは第2アーム外側下方7cmに7mmポートを設置した。鉗子はシザース、バイポー ラフォーセプス、ニードルドライバーの3本と、悪性ロボット手術の半数に減らした。シーリングデバイス は使用せず、吸引注水管はreusableのものとした。体位は砕石位、ドッキングは術者により左側および右側 侵入角 30 度のサイドドッキング、頭低位は 20 度弱に設定した。本検討は倫理員会で承認され、インフォー ムド・コンセントを得ている。導入8か月でRASHは109件試行した。TLH経験20年のDr. Aが66件、経験 7年のDr. Oが32件、他2名のDrが11件執刀した。Dr. Aの摘出重量500g以上の12症例とDr. Oの2症例を 棄却し、ラーニングカーブを累積近似曲線より作成し、RASHの習熟期間を手術時間より検討した。 「結果」Dr. Aは平均手術時間は98分、出血は128ml、摘出子宮重量は342gであった。Dr. Oはそれぞれ、115分、 95ml、262gであった。Dr. Aは10例まで急激に手術時間が短縮し、30例でplateauに達し、予測推定手術時 間は88分であった。Dr. Oも10例までに手術時間が短縮し30例で同じくplateauに達し、予測推定手術時間 は108分であった。 「結語」RASH は TLH にある程度習熟していれば 10 件でコツがつかめ、30 件で習熟に達し、120 分以内に施 行できると考える。また、経験が20年超えるような達人であれば90分を切ることができる。 略 歴 1999年 日本大学医学部卒業、日本大学産婦人科学教室入局 2005年 日本大学大学院発生生殖学卒業、医学博士 2006年 倉敷成人病センター医員 2009年 同医長 2016年4月 同主任部長 2018年11月 日本大学医学部産婦人科兼任講師 第7回日本婦人科ロボット手術学会事務局長(2019年2月倉敷開催)ワークショップ 2
WS2-2 当施設におけるロボット支援下子宮全摘術の現状と課題
西澤春紀1),伊藤真友子1),鳥居 裕1),宮村浩徳1),安江 朗2),廣田 穰1),藤井多久磨1) 藤田医科大学 産婦人科1),鈴木病院 産婦人科2) 産婦人科領域におけるロボット支援手術は、産婦人科良性疾患に対する子宮全摘術と子宮体癌を対象とし た子宮悪性腫瘍手術が2018年4月より初めて保険収載され、今後は慎重な運用と適応拡大が重要である。当 施設では 2012 年 4 月より子宮筋腫を中心とした婦人科良性疾患に対するロボット支援下子宮亜全摘術(RA-LSH)を開始し、以降、子宮筋腫核出術(RA-LM)、子宮全摘術(RA-TLH)、仙骨腟固定術(RA-LSC)、また 2013 年 10 月以降には婦人科悪性腫瘍に対するロボット支援手術を順次導入した。このうち、婦人科良性疾 患に対する RA-LSH および RA-TLH は、従来より当施設で実践されてきた腹腔鏡下手術に準じた手技・手 法で実施しているが、術中術後の重篤な合併症の発生や開腹移行例はなく、これまで安全な運用が可能で あった。手術手技が比較的安定している RA-LSH(48 例)について従来の腹腔鏡下手術(conventional-LSH: 72 例)と手術成績を比較すると、摘出重量(g):436.8 ± 27.7 vs 394.8 ± 23.4(p=0.38)と出血量(ml):83.3 ± 18.1 vs 79.7±16.6(p=0.88)は差を示さなかったが,手術時間(分):251.5±10.1 vs 220.1±6.8(p<0.01)は, RA-LSH で有意な延長を認めた。手術侵襲度を比較すると、術後 3 日目 WBC:5873.9 ± 193.3 vs 6587.5 ± 232.9(p=0.02)、術後 1 日目 CRP:3.9 ± 0.2 vs 5.85 ± 0.6(p=0.02)と face rating scale で評価した術後疼痛は RA-LSHで有意な低減を認めた。また,両術式における初回より30症例までの手術時間との関連を単回帰式 にて検討すると,RA-LSHで有意な負な相関を認めたのに対し,conventional-LSHでは相関を示さなかった (r=-0.73,p<0.01 vs r=-0.03,p=0.85)。以上の結果より、ロボット支援手術は従来の腹腔鏡下手術に比べ、 手術時間の延長を認める一方で、同等の術創であれば専用トロカーのリモートセンターを適切に設置するこ とにより、腹壁への負担は軽減する可能性が考えられた。また、learning curveは著明に短縮するため、個々 の手術手技や術式の習熟度の向上が早期に得られることが示唆された。 ロボット支援手術は、本邦における歴史は浅く、限られた施設で行われているのが現状であるが、コン ピューター制御による技術革新が手術成績の向上をもたらすとともに、婦人科手術の新たな潮流を築いてい くものと思われる。 略 歴 1997年 藤田保健衛生大学病院 産婦人科入局 2000年 静岡赤十字病院勤務 2001年 藤田保健衛生大学医学部 産婦人科 助手 2007年 藤田保健衛生大学医学部 産婦人科 講師 2012年 藤田保健衛生大学医学部 産婦人科 臨床准教授ワークショップ 2
WS2-3 良性疾患に対するロボット支援腹腔鏡下子宮全摘術の現状と今後
[公募演者] 長尾有佳里1),梅村康太1,2),鈴木邦昭1),山田友梨花1),尾瀬武志1),窪川芽衣1),嶋谷拓真1), 植草良輔1),國島温志1),甲木 聡1),藤田 啓1),矢吹淳司1),河合要介1),永井智之1), 岡田真由美1),安藤寿夫3),河井通泰1) 豊橋市民病院 産婦人科1),豊橋市民病院 女性内視鏡外科2),豊橋市民病院 総合生殖医療センター3) 【緒言と目的】当院では2014年8月から院内倫理委員会承認の上、子宮悪性腫瘍に対するロボット支援下手術 を行ってきたが、2018年4月に良性疾患に対するロボット支援腹腔鏡下子宮全摘術が保険収載されたことに 伴い、2018年5月から良性疾患に対しても開始した。これまでの症例を検討し現状と今後について考察した。 【方法】2018 年 5 月から 10 月までに良性疾患に対するロボット支援下子宮全摘術を 24 例に行い、内訳は子宮筋腫13例、子宮頚部異形成8例、子宮腺筋症3例であった。全症例でDa Vinci Siを用い、サイドドッキング 法にて施行した。 【結果】各項目の中央値(範囲)は、年齢 46(32-69)歳、BMI21.6(16.8-36.7)、全手術時間 124.5(78-212)分、執 刀開始からコンソールまでの準備時間20.5(12-33)分、コンソール時間84.5(45-178)分、出血量5(5-112)ml、 摘出検体重量190(55-480)g、術後入院日数は全例4日であった。開腹や腹腔鏡下手術への移行、輸血例など 手術合併症は認めなかった。 【考察】従来より執刀開始からコンソールまでの準備に時間を要することはロボット支援下手術の欠点とされ ていたが、同じチームで何度か行うことで短縮可能であり、当院での検討でも最短 12 分と腹腔鏡下手術と さほど変わらない時間であった。多関節で手振れの少ないアームと 3D 拡大視野による深く狭い領域での正 確な操作は、子宮悪性腫瘍手術のみでなく高度癒着など難易度の高い良性症例でも活きると考える。腹腔鏡 下手術には存在しない第3アームの有効な使用が手術の質を上げるポイントとなる。 【結語】良性疾患に対するロボット支援腹腔鏡下子宮全摘術の導入は安全に可能であった。手技の定型化とと もに、ロボットの利点をさらに生かす工夫が今後必要である。
ワークショップ 2
WS2-4 コスト削減ロボット支援良性子宮全摘術の導入
[公募演者] 鈴木徹平,上野琢史,山田拓馬,竹田健彦,宇野 枢,田野 翔,鵜飼真由,原田統子, 岸上靖幸,小口秀紀 トヨタ記念病院 産婦人科 【緒言】婦人科領域では 2018 年 4 月に子宮良性疾患に対するロボット支援腹腔鏡下子宮全摘出術(RA-TLH) が保険適用となった。しかしロボット支援手術と従来の腹腔鏡下での子宮全摘出術(TLH)は同じ保険点数 (42,050点)で、そのコストが問題となる。今回我々は、コスト削減RA-TLHを導入したので報告する。 【方法】当院ではRH-TLHにおいてカディエールフォーセプス(CF)、モノポーラーカーブドシザーズ(MC)、 メリーランドバイポーラー(MB)、ラージニードルドライバ、メガニードルドライバ、ベッセルシーラーの 6 個のインストゥルメント(INST)を使用してきた。この場合、INST のコストは 1 症例当たり 252,780 円で TLH のシングルユースの鉗子のコストである 91,170 円と比較して高い。そのため、難易度の低い RH-TLH に対してINSTを減らし、リユースの鉗子を用いた通常の腹腔鏡下手術を併用することでコスト削減が可能 かどうかを検討した。【結果】INST を CF、MC、MB の 3 本にすることで、INST のコストを 105,757 円に削減して RA-TLH を完遂 できた。しかし、上部靭帯の処理、尿管の同定、子宮動脈の処理、傍子宮結合織の露出までda Vinciを用い て行えたが、その後は通常の腹腔鏡下手術に移行して、リユースの鉗子のみで手術を完遂する必要があった。 また、カニューラが長いため、通常の内視鏡用の鉗子では術野に届かない場合もあり、長い内視鏡用の鉗子 を使用する必要があった。 【結論】婦人科においてロボット支援手術は悪性腫瘍手術でこそその真価を発揮するものと考えられる。しか し、安全に導入するためには良性腫瘍手術の経験が必要不可欠である。現状では良性疾患に対するRA-TLH を継続していくためにはコスト削減の方策が必要となり、INSTの削減はその選択肢の一つとなり得る。
ワークショップ 3
WS3-1 当院における保険適用後のロボット支援下子宮体癌手術と良性疾患
に対するロボット支援下手術の現状
中山健太郎,石川雅子,石橋朋佳,中村康平,山下 瞳,吉村 由紀,京 哲 島根大学 産婦人科・がんゲノム医療センター 当院では、2016年から子宮頸癌に対する先進医療Bでロボット支援下広汎子宮全摘術を施行し、現在まで に 20 例施行している。2018 年度から良性の子宮摘出、子宮体癌のロボット支援下手術が保険適用となった ことに伴い、当院でもこれらのロボット支援下手術を日常臨床として導入したので、その現状について報告 する。 当科は他科とのかね合いで、手術室でのロボットの使用は 2 回 / 週である。子宮筋腫に対しては、岬角ま でのものはロボット支援手術の積極的適応とし、岬角を超えるものは TLH の適応としている。良性疾患対 するロボット手術ではロボットアームは3本とし、経費削減に努めている。また、子宮体癌IA期に対しては 積極的にロボット手術の適応としている。子宮体癌でも、筋腫や腺筋症合併等の理由で摘出の際に子宮細断 が必要なものは従来の腹腔鏡手術の適応として、両者の使い分けを試みている。 ロボット支援下手術は TLH よりも近接視野での操作が可能となり、細かな血管をプレコアグレーション しながら、術野展開することが容易となり、TLH や腹腔鏡下子宮体癌手術と比べて、出血量は減少した印 象があるが、手術時間はあきらかに延長した。また、保険適用後のロボット支援下手術では、輸血、開腹移 行例は認めなかった。本発表では、当院での腹腔鏡とロボット手術の成績を比較したデータをもとに考察も 行う予定である。 略 歴 1996年 東京医科大学卒業 1996年 島根医科大学産科婦人科 研修医 2004年〜2006年 Johns Hopkins大学 婦人科病理 ポスドク 2008年 島根大学医学部附属病院産科婦人科 講師 2016年 島根大学医学部産科婦人科 准教授 2016年 島根大学医学部附属病院 診療教授 2018年 島根大学医学部附属病院 がんゲノム医療センター、センター長ワークショップ 3
WS3-2 ロボット支援手術の保険収載と今後:希望と課題
大須賀 穣 東京大学大学院医学系研究科 産婦人科学 本邦での婦人科領域でのロボット手術は2018年4月に良性子宮腫瘍に対する子宮全摘と、早期子宮体癌に 対する根治術が保険適応となった。これを受けて、今後ロボット支援手術が増加することが予想される。将 来に対する希望と、現状の課題を考えてみたい。ロボット支援手術の魅力は、3D立体視と10倍までの拡大 視が可能であること、鉗子先端部の可動域の自由度が高いこと、手ぶれのない操作が行えること、などがあ げられる。このため、体が術野に入って手術をしている感覚があり、よって、ラーニングカーブは腹腔鏡よ り早い。今後の機器の進歩を想定すると、近未来においてロボット支援手術が婦人科手術の主流になるのは 想像に難くない。一方で、現実的な問題に目を向けてみると課題も少なくない。まずは採算性である。現時 点では保険点数は腹腔鏡と同等であり、機器のコスト等を考えると収益性の面から実施できない施設もある。 次に、教育・普及におけるハードルである。プロクター制度による普及を考えるとき、現時点でプロクター が非常に少ないという問題がある。さらに、手術機器や術者の地域格差も大きい。これらの問題は時間とと もに自然に解決される部分も大きいが、学会などによる支援も重要と考える。最後は現存の器具の限界であ る。現在の鉗子には触覚がない。また、瞬時に多様な角度から俯瞰的に観察することは不能で、このような 面は開腹手術に劣っている。限界を明確にすることは、ロボット支援手術の適応を考える上でも重要である が、今後の機器開発のためにも重要である。さて、学会の役割はロボット支援手術の健全な発展を目指すも のである。研究、教育、啓発などに加えて、医工連携などロボット手術の発展のため本学会から少しでも多 くのものを発信できることを期待している。 略 歴 専門:生殖医学、女性医学、産婦人科内視鏡手術学。 主たる研究対象:女性の健康、不妊症、子宮内膜症、子宮筋腫など。 【略歴】 1985年 東京大学医学部卒 1995年 医学博士(東京大学) 1995-1997年 米国スタンフォード大学産婦人科に留学 2011年 東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座 准教授 2013年 同 教授 【役職】 日本産科婦人科学会特任理事、日本生殖医学会副理事長、日本産科婦人科内視鏡学会副理事長、 日本内視鏡外科学会理事、Reproductive Sciences Associate Editor、台北医学大学客員教授、他ワークショップ 3
WS3-3 ロボット支援手術の保険適用
西井 修 帝京大学医学部附属溝口病院 産婦人科 ロボット支援内視鏡手術は、平成 30 年診療報酬改定において、新たに 11 術式が保険適用となった。婦人 科領域では、腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮体がんに限る。)と腹腔鏡下膣式子宮全摘術で適用された。 診療報酬は2年ごとに改定される。各関連学会の要望項目は医療技術評価提案書(医技評)として、外科系 学会社会保険委員会連合(外保連)を通して、改正年度の 5 月頃に厚労省に提出される。医技評は、診療報 酬調査専門組織医療技術評価分科会(医療技術評価分科会)において、学術的・専門的見地から検討される。 その後、厚労省保険局医療課のヒアリング、中医協総会を経て、厚生労働大臣に診療報酬点数改定案が答申 され、翌年3月に告示される。 平成 30 年度診療報酬改定に際しては、医療技術評価分科会において、現在保険適用されていないロボッ ト支援内視鏡手術については、既存技術と比較した優越性についての科学的根拠を現時点で示すことが困難 な状況にあることが確認された。一方で、内視鏡の操作性の高さ等のロボット支援内視鏡手術の利点が指摘 され、また、現在保険適用されていないロボット支援内視鏡手術の中には、既存技術と同等程度の医学的有 効性および安全性を有するものも存在すると考えられる。ロボット支援内視鏡手術のうち、既存技術と同等 程度の有効性および安全性を有すると考えられるものの、優越性を示す科学的根拠が確立していないものに ついて、保険診療上の取扱としてどのように評価するかなどが課題となり、ロボット支援機器を用いた内視 鏡手術に対する評価について学術的・専門的見地から検討された。その結果、医療技術評価分科会に提案の あったロボット支援手術 15 術式のうち、既存技術と同等程度の有効性・安全性があると評価されたものに ついては、診療報酬改定において対応する優先度が高い技術となった。また、ロボット支援内視鏡手術を新 たに保険適用するに当たっては、施設基準として、当該ロボット支援内視鏡手術又は関連する手術の実績や、 関係学会によるレジストリに参加する等の要件を設けることとなった。 略 歴 1981年 3月 東邦大学医学部医学科卒業 1981年 6月 東京大学医学部附属病院分院産婦人科研修医 1983年 10月 東京都立築地産院研究員 1984年 4月 東京大学医学部附属病院分院産婦人科文部教官助手 1998年 5月 国立習志野病院産婦人科厚生技官 2001年 4月 東京大学医学部附属病院女性外科講師ワークショップ 4
WS4-1 鏡視下手術の術者がロボット手術を導入する際の心得とトレーニング
−両術式の相違から有効な共存法を考える−
北出 真理 順天堂大学医学部 産婦人科学講座 2018年の4月にロボット支援下手術が子宮体癌・良性子宮疾患に対して保険適用となり、全国での普及の 兆しが見えた一方で、腹腔鏡手術との棲み分けが新たな課題となっている。 腹腔鏡手術を介さず直接ロボット支援手術を導入する施設では、視野やポート挿入には慣れる必要がある ものの、3D 画像と広い関節可動域を実現したロボット支援手術のラーニングカーブは腹腔鏡手術より迅速 である。一方、腹腔鏡下膣式子宮全摘術の術式が確立している施設ではロボット支援手術のメリットを見出 す事が難しく、腹腔鏡下手技が逆に足枷となるリスクもある。本口演では、腹腔鏡手術の術者がロボット手 術を導入するにあたり留意すべき点を提示し、両術式の手技の相違を詳細に分析した上で、スムーズな移行 のためのコツとトレーニング法を提案する。 当施設でのロボット支援手術施行例は良悪性併せて 12 症例とまだまだラーニングカーブの途中ではある が、腹腔鏡手術は年間800件前後施行しており、ロボット支援手術へのスムーズな移行にはいくつかの障壁 を乗り越える必要があった。最も痛感したのは、ロボット支援手術で使用するデバイスに慣れる必要がある 事、また子宮の適切な牽引方向を指示する事の難しさであった。鏡視下手術から入った術者の場合、視野が 遠目になりやすい事を念頭に置き、ロボット支援手術で使用するデバイスの特性や操作に普段から慣れてお く事、子宮操作のシュミレーションや言語化を普段から助手と行っておく事などが重要と考えられた。 またロボット支援手術にadvantageがあるのは腹壁の挙上力と骨盤深部の操作であり、肥満症例や深部操 作を要する子宮頸癌などは良い適応となる。また近接できる 3D 視野により尿管の分離や癒着剥離操作には 有用であるが、子宮が大きめの場合はカメラポートの位置やマニピュレーター操作がキーとなる。 ロボット支援手術と腹腔鏡手術は症例に応じて上手く使い分ける事ができれば最強であるが、選択肢の拡 大のためには症例の蓄積と適切なトレーニングによる手技の習熟が不可欠であると考えられた。 略 歴 1991年 3月 順天堂大学医学部卒業 1991年 6月 順天堂大学医学部産婦人科学講座 入局 1994年 7月 順天堂大学医学部産婦人科学講座 助手 1997年 11月 順天堂大学浦安病院産婦人科 助手 2000年 6月 順天堂大学医学部産婦人科学講座 助手 2003年 1月 順天堂大学医学部産婦人科学講座 講師 就任ワークショップ 4
WS4-2 ロボット支援手術を安全に行うために
伊東宏絵 東京医科大学 産科婦人科学分野 保険収載により、良性子宮疾患や初期子宮体癌に対するロボット支援手術を開始する施設が増加している。 ロボット支援手術はすでに米国ではスタンダード的手術であり、その導入も比較的容易になっている。しか し、特殊な機器を使用するため、コメディカルとの連携も重要である。現在導入1症例目の施行に際しては、 企業と日本産科婦人科学会での規定、また各施設による倫理委員会内規に沿って行うと思われるが、実際に 稼働する際に戸惑うことも多い。初期導入時では以下の点が安全に施行する上で重要と考える。 1. 症例選び:良性子宮疾患は、自施設において通常の開腹で 2 時間以内に終了する症例。子宮体癌は、1A G1でリンパ節郭清は施行しても生検程度のみの症例とする。開腹歴はなく、BMIは30未満が良い。緑内障、 脳疾患、虚血性疾患がないことを術前に必ず確認しておく。 2. 体位:25 〜 30 度の頭低位が術野としては理想的であるが、気道内圧などの問題もあり麻酔科医師との話 し合いが望ましい。腟式操作の点から砕石位や開脚位が選択肢に上がる。マニピュレーターの操作性を考 えると砕石位が簡便であるが、コンパートメント症候群や血栓症には十分な対策が必要である。 3. ポート配置:機種SiおよびXとXiでは異なるが、ポート間は4指以上が望ましい。SiおよびXは、海外で はドーム型を推奨しているが日本人にはM字型を勧める。Xiは、基本的に横1列で問題ない。 4. 操作:繊細な鉗子操作を心がけ、カメラ(遠近切替、術野は中心になるように)、3rd アーム(術野確保、 操作補助)は極力動かす。左右のフットスイッチの踏み間違いに注意する。 可能であれば腹腔鏡と開腹手術に精通している医師の連携が望ましい。腹腔鏡に精通している施設か否か でポート設置までに要する時間は異なるが手術時間は簡単な症例であっても長時間に及ぶ。ロボット支援手 術では、術者が極度に集中する傾向にあるので、トイレに行くなど休憩や気分転換も重要である。 略 歴 1987年 東京医科大学医学部入学 1993年 東京医科大学病院産科婦人科学分野臨床研修医 2004年 東京医科大学産科婦人科学分野講師ワークショップ 4
WS4-3 ロボット支援手術に対する教育システム確立の重要性
万代昌紀 京都大学大学院医学研究科 婦人科学産科学分野 2018 年 4 月に婦人科領域で 2 つのロボット支援術式が保険収載された。これにともなって、現在、日本産 科婦人科学会への施設登録が急増しており、日本でロボット手術に参入する施設が増加していることがわか る。ロボット手術を安全に普及させ、また、後継者を育成するためには海外でおこなわれているようなシス テマチックな教育・トレーニングコースを日本においても整備することが急務である。ロボット手術のトレー ニングには開腹術とも腹腔鏡手術とも異なる面があり、これを適切に扱う必要がある。まず、第一に、今後 しばらくは、ロボット手術に参入する術者にはさまざまなバックグラウンドがあることに留意する必要があ る。良性手術だけをとっても、腹腔鏡手術に十分に習熟した術者から、ほとんど開腹手術しかしたことがな い術者までが含まれる可能性がある。さらに悪性腫瘍手術となると、開腹手術の技量と腹腔鏡手術の技量そ れぞれに異なる術者がロボット手術に参入することが考えられる。このような時期に、安全に普及を進める ためには、まず、各関連学会が協力して、どのような技量を最低限備えた術者がロボット手術を始めるべき か、というポリシーをはっきりさせる必要がある。さらに同時に、そのような技量を身につけるためのトレー ニングコンテンツをすみやかに供給すべきである。このような教育コンテンツすなわち、教育ビデオや講習 会といったものは、どのような技量の術者を対象に、何を身につけることを目的に行うのかを常に明確に示 すことが重要であり、これによって無駄を省いて最短時間で必要な技量を学習できる。第二に若手に対する 教育の方法を確立する必要がある。すなわち、初心者は開腹、腹腔鏡、ロボットのすべてを教育しなければ ならないが、これをばらばらに提供するのではなく、お互いに相補する形で学ぶことによって、より短期間 に効率的に技量の上達を図ることができる。このように、日本において、ロボット手術をはじめとする手術 教育をシステマチックに進めるためには多くの課題があり、各関連学会が役割分担をして有機的におこなう ことが重要である。 略 歴 2018.3 京都大学大学院医学研究科 婦人科学産科学分野教授 日本婦人科ロボット手術学会理事、日本婦人科腫瘍学会常務理事、 日本産婦人科内視鏡学会常務理事・ロボット支援下手術委員会委員長、 日本産科婦人科学会社保委員会内ロボット手術委員会委員長、パネルディスカッション 1
PD1-1 daVinci Siサージカルシステムによるポート配置とドッキングの工夫
小谷泰史,鈴木彩子,村上幸祐,高矢寿光,中井英勝,松村謙臣 近畿大学医学部 産科婦人科学教室 当院では 2013 年 12 月に da Vinci Si サージカルシステムを導入し、現在まで 23 例の手術を施行してきた。 その内訳は、子宮頸癌9例、子宮体癌12例、子宮筋腫2例である。本年度より婦人科疾患は保険収載され今 後ますます増加してくるものと思われる。 当院でのロボット支援下手術時のポ−ト配置は、右パラレルドッキングで行っており、臍上3横指のとこ ろにカメラポートをたて、その左右に弧を描くようにポート配置を行っている。助手は左側に立ち支援し、 手術操作を行っている。一方、ロボット支援下傍大動脈リンパ節郭清は、現在まで7例行っている。右パラ レルドッキングで骨盤内操作を行った後に、一度ロールアウトし、ペイシェントカートを反転させた逆パラ レルドッキングで傍大動脈リンパ節郭清術を行っている。しかし、逆パラレルドッキングは当初、アームの 可動域の制限などがかなり強く、郭清に無理があった。しかし施行錯誤を繰り返し、カメラポートを極力尾 側にすること、患者の右手を出来るだけ背側にすること、そして外部に腹膜を吊り上げるなど様々な工夫を することにより、当初悪かった可動域も少しずつ改善し、摘出リンパ節個数も増加してきた。摘出傍大動脈 リンパ節個数は6個、4個、10個、20個、25個、21個、22個と増加していき、最近は安定した個数になって きた。da Vinci Siサージカルシステムは、一度ドッキングをするとなかなか体位やポートの位置などの変更が難 しく、ポート配置とドッキングの工夫により可動域がよくなり、手術パフォーマンスが向上する。 略 歴 2003年3月 近畿大学医学部 卒業 2003年4月 近畿大学医学部産科婦人科学教室 入局 2009年3月 近畿大学医学部大学院医学研究科外科系修了 医学博士取得 2009年4月 近畿大学医学部産科婦人科学教室 助教 2014年4月 近畿大学医学部産科婦人科学教室 医学部講師 現在に至る 【専門医】 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)、日本内視鏡外科学会技術認定医、 がん治療認定医、日本婦人科腫瘍専門医、日本ロボット外科学会専門医
パネルディスカッション 1
PD1-2 開脚位、右サイドドッキングによる当科のロボット支援手術について
[公募演者] 越智寛幸,細川義彦,志鎌あゆみ,田坂暢崇,秋山 梓,櫻井 学,水口剛雄,佐藤豊実 筑波大学 産婦人科 当科では、倫理委員会の承認を得て H26 年 12 月よりダヴィンチ Si を用いた手術を開始し、本年 10 月まで に 36 例のロボット支援手術を行なった。手術方法は未だ試行錯誤の中だが、現在当科で行なっている手術 の概要ついて報告する。カメラポートを恥骨結合の頭側 23cm にオプティカル法で挿入後、扇型に計 5 本の ポートを配置する。助手用ポート(12mm)は通常カメラ左側に配置するが、痩せ型の方では左最外側とする。 気腹圧は10mmHg、高流量に設定し、自動排煙装置を使用、スコープは30°斜視としている。体位は開脚位、 15〜20°程度の頭低位とし、右尾側(<45°)から斜めにドッキングする。3rdアームは患者右側に配置し、術 者は左手で把持兼用のメリーランドバイポーラ、右手でハサミ鉗子と、3rdアームの把持鉗子を操作し、術 者単独で左右からの術野展開を可能としている。腟断端縫合等の運針は3rdアームの把持鉗子で安定して行 えたため、EndoWristは交換なく 3 本で完結することが多く、必要時に持針器を追加した。助手は、患者左 側で腹腔内操作を行い、子宮悪性腫瘍手術では結紮クリップ、広汎子宮全摘や傍大動脈節郭清症例ではシー リングデバイスを使用している。右サイドドッキングは、各インストゥルメントアームの数字は患者左側を 向くように配置すると、アーム間干渉が減り可動域が広がるようである。手術台の選択によると考えられる が、パラレルドッキングと比較して手術台ベース部とペイシェントカート脚部の干渉が減り、アームが届か ないことはなかった。開脚位をとることも容易で、経腟操作が不自由なく行えた。また、狭い手術室で角に 配置したカートを直線的に接続することが可能となり、準備時間は徐々に短縮した。傍大動脈節郭清の際に は手術台を左90°回転後に接続することで、上腹部操作を行っている。術式の定型化・簡素化をめざすとと もに、新規術者の育成を今後の課題としたい。パネルディスカッション 1
PD1-3 ロボット支援下広汎子宮全摘術の導入初期成績
上浦祥司 大阪国際がんセンター 婦人科 世界的には広汎手術は腹腔鏡下からさらにロボット支援下手術に急速に移行しつつあり,本邦でも腹腔鏡 下広汎子宮全摘術が 2014 年 12 月に,ロボット支援下手術は 2016 年 4 月に先進医療として一部の施設で開始 された。 当院では 2016 年 11 月に臨床研究として院内倫理委員会承認後,他科での腎部分切除,胃癌手術の先進医 療症例集積の終了を待って2017年1月より試験を開始した。症例選択はFIGO 1A2期,1B1期,2A1期とし, 先進医療 B で対象となっている 2B 期症例は除外した。緑内障の否定,血管硬化性変化がないこと頸部血管 エコーにて確認し,直近2ヶ月以内の喫煙歴を有するものも除外とした。 手術スタッフは婦人科腫瘍専門医,腹腔鏡下手術技術認定医を術者,第1助手とし,看護師,臨床工学技 士も含めて固定チームとした。daVinci-Si systemをパラレルドッキングし,V-care,ベッセルシーラーを使用, 気腹装置はAirSealを用いている。ポート配置は当初M型配置としたが,3症例目からは通常の孤状配置とし, assist portも2本に増やしている。また,6例目より頭低位に伴う脳圧亢進およびコンパートメント症候群の 予防を目的として,コンソールタイム3時間で一旦頭低位を解除している。 手術手順としては,基本的に開腹手術の手技をロボット手術に置き換えることを目標にしている。 症例は 1B1 期 9 例,2A1 期 1 例で腺癌 3 例,扁平上皮癌 7 例であった。平均手術時間 7 時間 33 分(402-516 分),コンソール時間6時間7分(338-464分),出血量78ml(0-380ml),摘出リンパ節数24個(11-40個)であっ た。術中合併症として尿管軽度損傷 1 例,閉鎖神経熱損傷 1 例,V-care による子宮穿孔 1 例を認めたが後遺 障害は生じなかった。術後には腟断端膿瘍1例を認めたが抗生剤にて軽快した。pT2b,pN1であった4例に CCRT,再発中リスクの2例にRTの追加施行を要した。扁平上皮癌,pT1b1,pN0で再発低リスクであった 1症例に腟断端再発,骨盤内播種を術後6ヶ月に認め,CCRTにてCRが得られた。LACC trial の結果を踏まえて,今後は腟カフ形成,manipulator の使用を控えるなどの対策を取る必要が ある。
略 歴
1983年 大阪大学医学部卒業
1987年 米国ニューヨーク大学医学部病理学教室に留学 1991年 大阪大学産科学婦人科学教室,文部教官助手