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国土技術政策総合研究所 研究資料

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国土技術政策総合研究所資料

ヒートアイランド対策に資する

「風の道」を活用した都市づくりガイドライン

鍵屋浩司・足永靖信

Urban Development Guidance for

Urban Heat Island Countermeasures Utilizing “Kaze-no-Michi”

Koii KAGIYA and Yasunobu ASHIE

国土交通省 国土技術政策総合研究所

I S S N 1 3 4 6 - 7 3 2 8 国総研資料 第730 号 平 成 2 5 年 4 月

TECHNICAL NOTE of

National Institute for Land and Infrastructure Management

No.730 April 2013

National Institute for Land and Infrastructure Management Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism, Japan

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国土技術政策総合研究所資料 Technical Note of NILIM

第 730 号 2013 年 4 月 No.730 April 2013

ヒートアイランド対策に資する「風の道」を活用した都市づくりガイドライン

鍵屋 浩司 *

足永 靖信 **

Urban Development Guidance for Urban Heat Island Countermeasures Utilizing "Kaze-no-Michi" Koji KAGIYA Yasunobu ASHIE 概要 本ガイドラインは、都市の低炭素化の促進に関する法律(平成 24 年 12 月施行) の基本方針および低炭素まちづくり計画作成マニュアルに関連した、ヒートア イランド対策に関する技術的資料としてとりまとめることが検討されているも のであり、これまでに実施してきた一連のヒートアイランド研究の成果を反映 させたものである。 キーワード : ヒートアイランド、風の道、都市計画 Synopsis

This guidance has been considered to be finalized as a technical advice in connection with the fundamental policy and the manual for low carbon city development under the Low Carbon City Promotion Act (enforced in December, 2012). And the results of a series of our research on urban heat island countermeasures have been reflected in this guidance.

Key Words: Urban Heat Island, Kaze-no-Mich, Urban Planning

* 都市研究部 都市開発研究室 Urban Development Division,

(当時) Urban Planning Department

建築研究部 環境・設備基準 Environmental and Equipment Standards

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はしがき

ヒートアイランド対策は、ヒートアイランド対策大綱(平成 16 年)の決定以降、

重点的に解決すべき都市環境問題として国が地方公共団体、民間と連携して積極的

に取り組んでいる政策課題である。

国土技術政策総合研究所は、国土交通省総合技術開発プロジェクト「都市空間の

熱環境評価・対策技術の開発(平成 16~18 年度)」をはじめ、様々な研究課題につ

いて関係各機関と連携しながら、効果的なヒートアイランド対策のための都市づく

りの技術の研究・開発を行ってきた。

これまでの成果を反映させた本ガイドラインは、平成 24 年 12 月に施行された都

市の低炭素化の促進に関する法律に基づく「都市の低炭素化の促進に関する基本的

な方針」および「低炭素まちづくり計画作成マニュアル」に関連し、本省都市局か

ら地方公共団体等に対しヒートアイランド対策に関する技術的助言として提供さ

れることを念頭においてとりまとめたものである。

本ガイドラインが、国や地方公共団体等による都市づくりにおいて、効果的なヒ

ートアイランド対策の立案に役立てられ、良好な都市環境形成の一助になることを

期待する。

平成25年3月

国土交通省国土技術政策総合研究所

副所長 金井 昭典

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概 要

都市のヒートアイランド対策として、土地被覆の改善、人工排熱の削減、市街地

形態の改善がある。土地被覆の改善や人工排熱の削減による気温上昇の緩和のほか、

都市空間において通風・換気を確保して熱がよどまないようにするためには、市街

地形態の改善が必要である。

そのため、海や山、緑地等の地域の冷熱源からの風を都市空間内に導く連続した

オープンスペース(開放的な空間)で、都市空間の地上付近の通風・換気に有効な

「風の道」の確保を行うほか、その周辺の都市空間の緑化や人工排熱の削減等の対

策と連携して講ずることが有効である。都市において、

「風の道」として風通しが

よく、風の通り道となる空間は、具体的には河川や緑地、街路、建物の隙間空間の

連なりなどがある。

このような背景から、本ガイドラインは、ヒートアイランド対策に資する「風の

道」を活用した都市づくりについての基本的な考え方や推進手法を示すことを目的

に、地方公共団体の都市計画担当者や環境計画担当者等が各都市に流れている冷涼

な風に配慮して、各都市の地域特性に合った効果的な対策を講ずるための取り組み

を支援するものとして作成した。

さらに、低炭素都市づくりに資する効果的なヒートアイランド対策を検討するた

めの簡易評価ツールを開発した。このツールは、市街地の特性に応じて様々なヒー

トアイランド対策による効果を概略的に見積もるためのツールである。このツール

とその技術資料を資料編とした。

なお、本ガイドラインの作成にあたって、早稲田大学名誉教授 尾島俊雄先生、

首都大学東京名誉教授 三上岳彦先生、神戸大学名誉教授 森山正和先生、財団法

人都市緑化機構研究顧問 半田真理子先生から多大なるご指導・ご協力を頂きまし

た。ここに記して謝意を表します。

鍵屋浩司 国土技術政策総合研究所都市研究部都市開発研究室主任研究官

(現在、独立行政法人建築研究所防火研究グループ主任研究員)

足永靖信 国土技術政策総合研究所建築研究部環境・設備基準研究室室長

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ヒートアイランド対策に資する

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目 次

はじめに ... 1 (1)ガイドラインの目的 ... 1 (2)ガイドラインの対象 ... 1 (3)ガイドラインの位置付け ... 1 (4)ガイドラインの構成 ... 1 第1章 「風の道」を活用した都市づくりの基本的考え方 ... 3 1-1 ヒートアイランド現象の現状 ... 3 (1)ヒートアイランド現象の実態 ... 3 (2)ヒートアイランド現象の原因 ... 6 (3)ヒートアイランド現象の影響 ... 7 1-2 ヒートアイランド対策の考え方 ... 8 (1)ヒートアイランド対策大綱における基本方針 ... 8 (2)ヒートアイランド対策のスケールと評価指標 ... 8 1-3 都市を流れる風の性質 ... 10 (1)都市を流れる風 ... 10 (2)都市における風の特性 ... 16 1-4 ヒートアイランド対策に資する「風の道」 ... 18 (1)「風の道」とは ... 18 (2)「風の道」の分類 ... 23 第2章 「風の道」に配慮したヒートアイランド対策の進め方 ... 27 2-1 ヒートアイランド対策マップの作成 ... 27 (1)ヒートアイランド対策マップとは ... 27 (2)ヒートアイランド対策マップの構成と位置づけ ... 27 (3)ヒートアイランド対策マップの作成手順 ... 30 2-2 「風の道」に配慮したヒートアイランド対策の方法 ... 57 (1)都市形態の改善 ... 57 (2)地表面被覆の改善 ... 62 (3)人工排熱の低減 ... 63 2-3 ヒートアイランド対策と省 CO2の関係 ... 64 (1)空調負荷の削減による CO2削減効果 ... 64 (2)樹木による炭酸ガス固定による効果 ... 65 (3)ヒートアイランド対策と省 CO2との関係 ... 65

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第3章 「風の道」を活用した都市づくりの推進に向けて ... 67 3-1 推進に向けた各主体の役割 ... 67 (1)行政 ... 67 (2)住民・事業者等 ... 68 3-2 都市づくりにおけるヒートアイランド対策の配慮の方法 ... 68 (1)都市計画マスタープラン等への位置づけ ... 68 (2)地区計画等への反映 ... 70 (3)建築協定の活用 ... 71 (4)開発許可制度の活用 ... 71 (5)都市再開発等における配慮 ... 71 (6)低炭素まちづくり計画等との連携 ... 71 (7)その他 ... 72 3-3 推進に向けた課題 ... 72 附章 「風の道」を活用した都市づくりに関する事例集 ... 73 事例1 大崎駅周辺地域都市再生ビジョン ... 73 事例2 品川駅・田町駅周辺まちづくりガイドライン ... 74 事例3 日本橋・大丸有地区周辺におけるヒートアイランド対策に関する検討 ... 76 事例4 「風の道」ビジョン ... 78 事例5 みどりの風の道形成事業 ... 81 参考資料1 地区スケールの「風の道」のイメージの例 ... 83 (1)地区スケールの「風の道」のイメージ作成の目的 ... 83 (2)東京臨海・都心部における「風の道」のイメージ ... 84 (3)神戸市の六甲山系南麓における「風の道」のイメージ ... 86 参考資料2 参照したシミュレーション結果 ... 96 (1)東京 23 区全域及び東京臨海・都心部のシミュレーション ... 96 (2)日本橋地区・東京駅周辺地区のシミュレーション ... 102 (3)新橋・虎ノ門地区のシミュレーション ... 106 (4)神戸市の冷気流のシミュレーション ... 119 参考資料3 ヒートアイランド対策の評価ツール(詳細版、簡易版)について ... 110 (1)評価ツールの種類 ... 110 (2)評価ツールの主な機能 ... 110

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はじめに

ここでは、本ガイドラインの目的や対象、位置づけ、構成について示している。 (1)ガイドラインの目的 都市のヒートアイランド対策として、土地被覆の改善、人工排熱の削減、市街地形態の改善 がある。土地被覆の改善や人工排熱の削減による気温上昇の緩和のほか、都市空間において通 風・換気を確保して熱がよどまないようにするためには、市街地形態の改善が必要である。 そのため、海や山、緑地等の地域の冷熱源からの風を都市空間内に導く連続したオープンス ペース(開放的な空間)で、都市空間の地上付近の通風・換気に有効な「風の道」の確保、そ の周辺の都市空間の緑化や人工排熱の削減等の対策と連携して講ずることが有効である。都市 において、「風の道」として風通しがよく、風の通り道となる空間は、具体的には河川や緑地、 街路、建物の隙間空間の連なりなどがある。 このような背景から、本ガイドラインは、ヒートアイランド対策に資する「風の道」を活用 した都市づくりについての基本的な考え方や推進手法を示すことを目的に作成した。 (2)ガイドラインの対象 本ガイドラインは、全国のヒートアイランド現象が顕著な都市を対象に、屋外空間の快適性 向上を求める住民・事業者のために、地方公共団体の都市計画担当者や環境計画担当者等が各 都市に流れている冷涼な風に配慮して、各都市の地域特性に合った効果的な対策を講ずるため の取り組みを支援するものとして、地方自治法第 245 条の4の規定に基づき行う「技術的な 助言」の性格を有するものである。 (3)ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、都市の低炭素化の促進に関する法律(平成24 年 12 月施行)の基本方針 および低炭素まちづくり計画作成マニュアルに関連した、ヒートアイランド対策に関する技術 的資料としてとりまとめることが検討されている。 (4)ガイドラインの構成 本ガイドラインは主として、3つの章から構成されている。 第1章では、まずヒートアイランド現象の実態や原因、影響について概観し、ヒートアイラ ンド対策の考え方を示している。また、都市を流れる風の性質を示し、ヒートアイランド対策 に資する「風の道」の定義や分類について整理している。 第2章では、「風の道」に配慮したヒートアイランド対策の進め方として、都市計画的に「風 の道」を活用してヒートアイランド対策を行うために作成するヒートアイランド対策マップや 「風の道」に配慮したヒートアイランド対策の方法を示している。 第3章では、ヒートアイランド対策に資する「風の道」を活用した都市づくりを推進してい

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くため、推進に向けた各主体の役割や都市づくりにおけるヒートアイランド対策の配慮の方法、 推進に向けた課題を示している。

なお、附章では、「風の道」を活用した都市づくりの具体例として、地方公共団体等が実施 している「風の道」を活用した都市づくりの事例についても紹介している。

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第1章 「風の道」を活用した都市づくりの基本的考え方

第1章では、まずヒートアイランド現象の実態や原因、影響について概観し、ヒートアイラン ド対策の考え方を示している。また、都市を流れる風の性質を示し、ヒートアイランド対策に 資する「風の道」の定義や分類について整理している。

1-1 ヒートアイランド現象の現状

(1)ヒートアイランド現象の実態 ① 地球温暖化とヒートアイランド現象 地球温暖化は二酸化炭素(CO2)やメタンガスなどの温室効果ガスの増加に伴って地球表面の 大気や海洋の平均温度が上昇する現象である。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評 価報告書(2007 年)より、世界の平均気温は 100 年間(1906~2005 年)で 0.74℃上昇したと 報告されている(図1-1)。概ね同じ期間(1898~2006 年)における日本の平均気温は、気 象庁の気候変動監視レポート 2006 によると、都市化の気温への影響が少ないと考えられる 17 地点1において 100 年あたりおよそ 1.07℃の割合で上昇している(図1-2)。 ヒートアイランド現象とは、都市の中心部の気温が郊外に比べて島状に高くなる現象である。 図1-3は統計期間が 1931~2010 年で上記と異なり、単純に比較できないが、17 地点では 100 年あたり 1.5℃の割合で平均気温が上昇しているのに対し、東京の平均気温の上昇は 3.3℃、名 古屋や大阪の平均気温の上昇も 2.9℃であり、東京などの大都市では日本の平均気温のおよそ 2倍の割合で上昇している。各都市と 17 地点平均の上昇率の差は、主にヒートアイランド現象 による上昇分とみられ、その影響が無視できないことを示している。 滑らかな曲線は10 年平均値、丸印は各年の値を、青い陰影部はそれぞれの平均値の不確かさの幅を示す 図1-1 世界の平均気温の変化2 1 網走、根室、寿都、山形、石巻、伏木(高岡市)、長野、水戸、飯田、銚子、境 浜田、彦根、宮崎、多度津、名瀬、石垣島の 17 地点(これらの観測点も都市化の影響が全くないわけではない) 2 文部科学省・気象庁・環境省・経済産業省:IPCC 第 4 次評価報告書統合報告書政策決定者向け要約(2007)

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4 都市化の気温への影響が比較的少ない 17 地点(※)の平均気温の平年差(1971 年から 2000 年までの平均値から の差)の変化(5 年の移動平均処理を行っている) 図1-2 日本の平均気温の変化3 細い折れ線は観測値、太い折れ線は5 年間の移動平均値を示す。赤い▲は庁舎の移転があった時期を示す。 図1-3 東京、名古屋、大阪、都市化の影響の小さい17 地点平均における気温の長期変化4 3 気象庁:地球温暖化に関する知識, 2010 年 8 月 4 気象庁:ヒートアイランド監視報告,平成 22 年度

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5 ② 30℃以上の合計時間数の増加 三大都市圏における 30℃以上の合計時間数の変化を見ると、図1-4より東京周辺では 1980 年代前半には練馬、越谷、浦和(現さいたま)や熊谷周辺の領域で 180 時間程度であったが、 最近では 330 時間に増加している。図1-5より名古屋周辺では、1980 年代前半には名古屋や 岐阜、多治見周辺の領域で 240 時間であったが、最近では 420 時間に増加している。一方、大 阪周辺では、図1-6より 980 年代前半には豊中、大阪、堺周辺の領域と京都で 210 時間であ ったが、最近では2倍の 420 時間に増加している。 <1980~1984 年> <2006~2010 年> 図1-4 関東地方における 30℃以上の合計時間数の分布(5年間の年間平均時間数)5 <1980~1984 年> <2006~2010 年> 図1-5 中部地方における 30℃以上の合計時間数の分布(5年間の年間平均時間数)5 5 環境省:ヒートアイランド対策マニュアル

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6 <1980~1984 年> <2006~2010 年> 図1-6 近畿地方における 30℃以上の合計時間数の分布(5年間の年間平均時間数)5 (2)ヒートアイランド現象の原因 ヒートアイランド現象の主な原因としては、人工排熱の増加、地表面被覆の人工化、都市形態 の高密度化の3つがあげられている。これら3つの原因には主に以下の特徴がある。 ① 人工排熱の増加 建物の空調機器や自動車、工場や清掃工場、火力発電所におけるエネルギー消費は最終的に 熱として環境中に放出される。空冷式の空調機器や燃料の燃焼に伴って発生する熱の大部分を 占める顕熱は大気を暖め、気温上昇の原因の一つとなる。 ② 地表面被覆の人工化 地表面被覆のうち、アスファルトやコンクリート等の舗装面や建物の屋根面は、夏季の日中 に日射を受けると表面温度が 50~60℃程度にまで達し、大気を加熱するとともに、日中に都市 内の舗装面に蓄えられた熱は、夜間の気温低下を妨げる原因となる。 ③ 都市形態の高密度化 空地の減少や中高層の建物の増加などにより都市形態が高密度化すると、風向きによっては 地上近くの弱風化、風通しの悪化などにより熱の拡散や換気力を低下させる可能性がある。ま た、高密度化した都市内では、天空率が小さく、夜間の放射冷却が阻害されるために、熱が溜 まりやすくなる。

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7 (3)ヒートアイランド現象の影響 ヒートアイランド現象によって、表1-1に示すような人の健康や生活、動植物など様々な影 響が生じることが指摘されている。 表1-1 ヒートアイランド現象による様々な影響の例 影響項目 影響の内容 人の健康 熱中症 高温化(主に夏季)により、熱中症の発症が増加するおそれがある。 睡眠阻害 高温化(主に夏季の夜間)により、夜間に覚醒する人の割合が増えて 睡眠が阻害されるおそれがある。 大気汚染 都心部で暖められた空気により起こる熱対流現象により、大気の拡散 が阻害され、大気汚染濃度が高まるおそれがある。 高温化(主に夏季)することにより、光化学オキシダントが高濃度と なる頻度が増えるおそれがある。 人の生 活 エネルギー消費 夏季の高温化により、冷房負荷が増えエネルギー消費が増加する。一 方、冬季の高温化は暖房エネルギーを削減する。 集中豪雨 地表面の高温化により、都市に上昇気流が起き、大気の状態によって は、積乱雲となって短時間に激しい雨が降る場合があると言われてい る。 植物の生 息 開花・紅葉時期 の変化 春の開花時期が変化したり、紅葉時期が遅れる可能性がある。 出典)環境省:ヒートアイランド対策ガイドライン

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1-2 ヒートアイランド対策の考え方

(1)ヒートアイランド対策大綱における基本方針 平成 16 年 3 月にヒートアイランド対策大綱(ヒートアイランド対策関係府省連絡会議)が策 定され、関係府省が連携してヒートアイランド対策が進められてきたが、改訂ヒートアイラン ド対策大綱におけるヒートアイランド対策の基本方針では、これまで①人工排熱の低減、②地 表面被覆の改善、③都市形態の改善、④ライフスタイルの改善を柱として進められてきたのに 対して、⑤適応策の推進についても対策の柱の一つとして位置付け、国民の理解と協力の下で 対策を推進していくとしている。 ① 人工排熱の低減 省エネルギーの推進、交通流対策等の推進、未利用エネルギー等の利用促進により、空調シ ステム、電気機器、燃焼機器、自動車などの人間活動から排出される人工排熱を低減させる。 ② 地表面被覆の改善 緑地・水面の減少、建築物や舗装などによって地表面が覆われることによる蒸発散作用の減 少や地表面の高温化を防ぐため、地表面被覆の改善を図る。 ③ 都市形態の改善 都市において緑地の保全を図りつつ、緑地や水面からの風の通り道を確保する等の観点から 水と緑のネットワークの形成を推進する。また、長期的にはコンパクトで環境負荷の少ない都 市の構築を推進する。 ④ ライフスタイルの改善 都市における社会・経済活動に密接に関連するヒートアイランド現象を緩和するために、ラ イフスタイルの改善により都市の熱の発生抑制を図る。 ⑤ 人の健康への影響等を軽減する適応策の推進 ヒートアイランド現象によって生じる暑熱環境による人の健康への影響等を軽減するため、 短期的に効果が発現可能な適応策の導入を推進する。 (2)ヒートアイランド対策のスケールと評価指標 都市づくりにおけるヒートアイランド対策のスケールとしては、広域スケール、都市スケー ル、地区スケールの3種類がある。例えば、広域スケールから都市スケールにおいては、「風の 道」によるヒートアイランドの分断等が検討可能であるが、地区スケールになれば、個々の建 物も見えるようになり、屋上や敷地の緑化、街路樹の整備等が検討可能である。 スケールに応じて対策効果を把握する評価指標も異なり、都市スケールより大きなスケール

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では主に気温や風速などが用いられるのに対して、地区スケールでは気温に加えて、街路空間 の快適性等の評価を考慮し、体感指標なども用いられる。

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1-3 都市を流れる風の性質

(1)都市を流れる風 夏季にヒートアイランド現象が顕著な都市を流れる風には、一般風(地形など局地的な影響を 受けず、気圧差によって吹く広い地域を代表する風)のほか、特にヒートアイランドが発生する ような夏季の晴天日に顕著で、地形などの影響により吹く局地的な風として、以下のようなもの がある。 ・海陸風(海風と陸風の循環) ・湖陸風(湖風と陸風の循環) ・山谷風(山風と谷風の循環) ・都市緑地からの移流・にじみ出し ① 海陸風 海陸風は、陸地と海との温度差によって生じる以下のような流れの循環である。 ・海風 海と陸の比熱の差に伴い、日中は陸地の方が暖まりやすく、海の方が温まりにくい。昼間 に日射により暖められた陸では上昇気流が発生し、地表付近の気圧が低くなるため、それを 補うように、図1-7(a)のように日中は海から陸に向かい冷涼な風が吹く。 夏の午前中に沿岸部で海岸線にほぼ直交して侵入する中規模海風(図1-8グレーの矢印) と、夏の午後から夜間にかけて海から内陸部に吹く大規模海風(図1-8黒い矢印)があり、 陸に流入する海風の厚み、風向や風速が異なる。 東京や大阪などの大都市では、図1-9のように都心部の高温域は周囲より低圧となるた め、ヒートアイランド循環によって夜間から早朝まで海風が吹く場合が多い(図1-10 上図)。 ・陸風 日没後は比熱の小さい陸地の方が放射冷却により冷えやすく、比熱の大きい海の方が温度 は下がりにくいため、一般的には夜間になると、海上の空気が上昇し、それを補う形で図1 -7(b)のように、昼間とは逆に陸地から海に向かい冷たい陸風が吹く。 東京や大阪などの大都市では、ヒートアイランド循環により陸風は都心部で上昇し、沿岸 まで到達しない(図1-10 下図)。

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11 図1-7 海陸風の模式図6 0 1 2 3 高度 (km ) 中規模海風(主に午前中) 大規模海風(午後~夜間) 出典)浅井富雄:ローカル気象学,東大出版会(1996)を加工して合成 図1-8 中規模海風と大規模海風(南関東の例)

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12 大手町を基準とした補正海面気圧(偏差)の分布図(2004 年 7 月 8 日 2 時) 図1-9 ヒートアイランドが形成される場合の東京都心の低圧部の例7 海 陸 風 海 風 図1-10 大都市の海陸風の模式図 7 高橋一之・高橋日出男・三上岳彦ら:静力学平衡を仮定して補正したデータによる東京都心部の気圧低下の検出, 天気 58(2), pp.131-141, 2011.2.28

昼間

夜間

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13 ② 湖陸風 琵琶湖等の面積の大きな湖では、図1-11 のように湖の水と周囲の陸地との比熱の差により 温度差が生じ、一般風の弱い晴れた日には湖陸風の循環が見られる。湖は海よりもスケールが 小さいため、海陸風と比べて湖風、陸風とも基本的に弱い。 ・湖風 海陸風と同様に、昼間には日射により暖まりやすい陸で上昇気流が発生し、地表付近の気 圧が低くなることを補うように、比熱が大きく暖まりにくい湖から陸に向かって冷涼な風が 吹く。 ・陸風 海陸風と同様の原理により、夜間は放射冷却により冷えやすい陸地から比熱が大きく温度 が下がりにくい湖へと向かう風が吹く。湖の周辺は山に囲まれていることが多く、山風との 区別が難しい場合がある。 (昼間) (夜間) 図1-11 湖陸風8 ③ 山谷風 山谷風は、盆地や谷、山沿いの平野等において見られる流れの循環である。昼間は日射によ り山の斜面が加熱されて上昇気流が生じ、谷から山を上る谷風が吹き、夜間は山の斜面が放射 冷却により冷却されて下降気流が生じ、山から谷への山風が吹く。図1-12 は谷に沿った山谷 風の発達を示す概念図である。 このうち、ヒートアイランド対策に資する風としては、夜間における山風や斜面下降風であ り、日没後斜面が放射冷却により冷えることで斜面下降風が生じ、それが谷底に集積されて山 風として流出する。 例えば、神戸市の市街地に近い六甲山系の南麓などで冷気流が観測されている。 8 「滋賀県の気象」彦根地方気象台

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14 山風 谷風 谷風と 斜面上昇風 山風と 斜面下降風 斜面下降風 斜面上昇風 山風と 斜面上昇風 谷風と 斜面下降風 図1-12 山谷風の発達を示す概念図9 図1-13 山風のイメージ(山からの冷気流) ④ 都市緑地からの移流・にじみ出し 昼間の都市緑地は、蒸発散や緑陰による表面温度上昇抑制により相対的に周辺市街地より低 温であり、日射により暖められた周辺市街地では上昇気流が生じるため、海陸風の弱い条件下 では都市緑地から周辺市街地への風の流れが生じ、都市緑地で生成された冷気は風下の市街地 に移流する。 風が弱く大気が安定した夜間にも、開放的で放射冷却により冷えやすい都市緑地からの冷気 は風の流れにより気温の高い周辺市街地に移流する。また、深夜から早朝等の無風時において、 都市緑地に滞留した冷気が重力により沈降して周辺へにじみ出す現象が新宿御苑等で観測され

9 Defant, F.: Local Winds. Compendium of Meteorology, T. M. Malone, Ed., Amer. Meteor. Soc., 655-672, 1951(吉野正敏: 新版小気候より)

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15 ている。風による移流に比べて 10 分の1以下のスケールの流れであるが、緑地周辺の気温が低 下することが確認されている。 図1-14 都市緑地からの移流・にじみ出し10 ガイドラインにおいては、このうち海や湖、山、都市緑地など地域の冷資源からの冷涼な風と して、以下をヒートアイランド対策に資するものとして位置づける。 ・海風 ・陸風 ・山風 ・都市緑地からの移流・にじみ出し 10 八都県市首脳会議環境問題対策委員会幹事会:「風の道」に関する調査・研究業務調査報告書

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(2)都市における風の特性

地表近くで活発な対流現象が生じている層(内部境界層)は、海風により沿岸部では薄く、 内陸に行くほど厚さを増す。そのため、少なくとも海岸からある程度内陸側に入った地表近く の高さでは、直接海風の恩恵を得ることはできなくなる。 都市がある場合は、建物等により地表面の摩擦(粗度)が大きくなり、さらに高温で風の弱 い内部境界層が形成され、海風はより内陸に到達しにくくなる。 図1-15 海風の侵入に伴う内部境界層の発達の模式図11 風速の鉛直分布 0 50 100 150 200 250 0 2 4 6 8 風速(m/s) 高さ(m) 都市内風速(例) 自然風速 (べき指数0.15) 図1-16 東京の500m メッシュにおける昼平均風速鉛直分布の例12 マクロ的には都市の建物による凹凸の増加により、図1-16 のように地表付近の平均風速は弱 められる。一方、図1-17 右側の拡大図のように地表付近の都市空間をミクロに見た場合、高層 建物の壁面に衝突した風が地上に吹き降り、都市空間の風速を増加させるなど、建物群により地 表付近の風の乱れが増し、上空の冷たい空気との熱交換を促進する。これは、建物周囲の限定さ れた範囲で発生する強風(ビル風)であり、海風等とはスケールが異なる風である。

11 T.R.Oke:Boundary Layer Climates,2nd ed,1987

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17 ビル風は、建物単位で対策を講ずるものである一方、例えば海風は風速 5m/s 程度で都市に流れ 込む比較的弱い風であり、この風を活用するためには臨海部から内陸部に至る面的な対策を考え る必要がある点でもビル風とは異なる性格のものである。 図1-17 建物による鉛直混合の増大13 一般に上空に行くほど風速が強い。都市の上空を面的に流れる風(上空風)は、その下方に絶 えず風の流れを供給しており、河川や街路等のような隙間空間が大きいほど風が強く、連続した 隙間空間の方が強い風が維持されて下流に移流しやすい。 また、舗装面等の地表面温度が高い場所では、空気が熱せられて上昇しやすい。空気が上昇し た場所は低圧となるため、上空あるいは風上側からの冷たい空気が地表付近に流れ込む。 13 成田健一:ヒートアイランド現象と都市構造問題の最新事情~都市気候との関係をも踏まえて, 資源環境対策 Vo1.47,No.8, pp.23-28,2011.8

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18

1-4 ヒートアイランド対策に資する「風の道」

(1)「風の道」とは ①「風の道」の定義 本ガイドラインにおいて、ヒートアイランド対策に資する「風の道」とは、海や山、緑地等 の地域の冷熱源からの風を都市空間内に導く連続したオープンスペース(開放的な空間)で、 地上付近の都市空間の通風・換気に有効なものとする。都市において、「風の道」として風通し がよく、風の通り道となる空間は、具体的には河川や緑地、街路、建物の隙間空間の連なりな どがある。 都市計画において地域の冷熱源からの風を導く「風の道」への配慮を行うためには、「風の道」 のイメージを明確にする必要がある。 ②「風の道」の効果 「風の道」の効果を定量的に検討した解析例として、国土交通省国土技術政策総合研究所と 独立行政法人建築研究所の共同研究「都市空間の熱環境評価・対策技術の開発」による成果を 紹介する。 ・大規模な再開発に伴い確保された「風の道」の効果 東京臨海・都心部の大規模再開発が検討・実施されている日本橋地区及び東京駅周辺地区を 対象に、大規模な都市再開発に伴う都市形態の変化が、夏季日中における都市の熱環境に及ぼ す効果・影響を把握するため、市街地模型を用いた風洞実験(図1-18・図1-19)や地球シ ミュレータによる数値解析の結果を以下に示す。 臨海部から都心部に至る 2.5km にわたる市街地を再現した風洞実験により、大規模再開発に よる通風の変化を分析したところ、地区Ⅰにおいては再開発により風環境が 10%以上向上する 範囲は日本橋川から約 150m の範囲に及んでいることが確認された(図1-20)。 図1-18 風洞内における市街地模型の配置14 14 鍵屋浩司、足永靖信、増田幸宏、大橋征幹、平野洪賓、尾島俊雄:大規模な都市再開発が熱環境に及ぼす効果・影響に関す る実験的検討、日本建築学会環境系論文集、第649 号、pp. 305-312、2010.3

(29)

19 図1-19 市街地模型による都市再開発計画の再現14 図1-20 再開発前後の風速の変化(風洞実験)14 数値解析、風洞実験、実測調査の結果から日本橋川や八重洲通りにおいて、河川や街路の隙 間空間を連続的に流れる風が存在することが確認された。地区Ⅱでは再開発によって、既存の 駅ビルが撤去されたことと、新規に建設されたツインタワーの壁面による吹き下ろしや回り込 みの風の影響により、駅前広場から東京駅八重洲口付近において地上 4~40m の風速比(再開発 前に対する同じ地点での再開発後の風速の割合)が大きく上昇し、その影響は丸の内の行幸通 りまで波及している。 数値解析結果より、首都高速の高架道路撤去・地下化と日本橋川周辺建物の低層化・低容積 化による風速の増加、東京駅周辺の再開発による気温低下傾向を確認した。検討対象領域全体 では地上 5m 付近で 30℃以下の面積が増加する。

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20 図1-21 八重洲通り、行幸通りにおける高さ毎の風速比の変化14 (点線;ハッチ:高層化等の更新された建物、点線:再開発により除却された建物) 図1-22 地上 2m における再開発後の気温分布及び現状との比較14 ・「風の道」のヒートアイランド対策効果 ヒートアイランド対策としての「風の道」の重要性について、東京都心部の3つのそれぞれ 500m四方の地区を対象に、夏季の 14 時を想定した様々なヒートアイランド対策の対策効果を 比較した。各地区の位置と特徴を図1-23 に示す。

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21 海風利用型(業務地区) 新橋 内陸型(業務地区) 神田 都市内緑地・都市内 水面利用型 新宿御苑 図1-23 シミュレーション対象地区の概要 新橋地区は臨海部の環状 2 号線の整備が予定されている業務地区、神田は中規模の業務ビル が密集する街区、新宿御苑は隣接する大規模緑地を含む業務地区である。それぞれの地区に、 様々な対策を一様に講じた場合の平均気温低下量を表1-2に示す。 さらに、この効果をわかりやすくするために、地上緑化による緑被率 30%を一般的な市街地 の望ましい対策量と考えて、この効果を基準に他の対策効果を指標化したものを表1-3に示 す。これによると、臨海部の新橋地区では道路整備による効果は他の対策の2倍以上となって おり、内陸部でも新宿御苑地区の結果が示すように、オープンスペースを効果的に整備すれば、 大規模緑地からの風の流れを有効に市街地に導入することができることを示唆している。

(32)

22 表1-2 気温のシミュレーション結果 (夏季14 時の地区内地上 1.5m の平均気温の変化、単位℃) 分類 海風利用型 (業務地区) 内陸型 (業務地区) 都市内緑地・ 都市内水面利用型 対象地区 新橋 神田 新宿御苑 地上緑化(保水性 舗装を含む)30%

-0.093

-0.102

-0.128

各建物の屋上の 30%を緑化

-0.014

-0.017

-0.011

省エネにより人工 排熱30%削減

-0.058

-0.073

-0.043

以上の対策の 総合効果

-0.166

-0.191

-0.185

道路整備による 「風の道」の形成

-0.208

空地の確保

-0.155

以上の全対策の 総合効果

-0.362

-0.191

-0.340

表1-3 気温低下量に基づく対策効果の比較 (夏季14 時 高さ 1.5m の地上緑化 30%による平均気温低下量で基準化) 分類 海風利用型 (業務地区) 内陸型 (業務地区) 都市内緑地・ 都市内水面利用型 対象地区 新橋 神田 新宿御苑 地上緑化(保水性 舗装を含む)30%

1.00

1.00

1.00

各建物の屋上の 30%を緑化

0.15

0.17

0.09

省エネにより人工 排熱30%削減

0.62

0.72

0.34

以上の対策の 総合効果

1.78

1.87

1.45

道路整備による 「風の道」の形成

2.24

空地の確保

1.21

以上の全対策の 総合効果

3.89

1.87

2.66

(33)

23 ③「風の道」を活用したヒートアイランド対策の考え方 都市のヒートアイランド対策として、土地被覆の改善、人工排熱の削減、市街地形態の改善 がある。 土地被覆の改善や人工排熱の削減による気温上昇の緩和のほか、都市空間において通風・換 気を確保して気温上昇の緩和や大気環境の改善を行うために、市街地形態の改善が必要であり、 海や山、緑地等の地域の冷熱源からの風を都市空間内に導く連続したオープンスペース(開放 的な空間)で、地上付近の都市空間の通風・換気に有効な「風の道」の確保を行う。 さらに、「風の道」の効果を向上させるために、「風の道」やその周辺の都市空間の緑化や人 工排熱の削減等の対策と連携して講ずるものとする。 (2)「風の道」の分類 ①海風が流れる「風の道」 昼間に海から沿岸の都市に流入する海風は、超高層建物の高さをはるかに超える厚みを有し、 水平方向の流れに加えて鉛直方向の流れも有する立体的な流れである。ヒートアイランド対策 に資する冷涼な海風の流れを都市空間内に導くための河川や緑地、街路等の連続したオープン スペース(開放的な空間)を“海風が流れる「風の道」”とする。 また、琵琶湖のような大きな湖においては、湖陸風の循環が見られる日の昼間の湖風も海風 と同様に立体的な流れであると考えられ、「風の道」の分類においては、冷涼な湖風も基本的に 海風に準じた風として、同じ分類に含めることとする。 海風が流れる「風の道」には、以下の2タイプがある。 ・海風(湖風)が海岸(湖岸)から地表面に沿って街路や河川、緑地等を通じて都市空間に流 入するタイプ ・上空を流れる海風(湖風)が街路や河川沿いの建物群に誘導されて地表面付近を流れるタイ プ なお、海風が流れる「風の道」を重点的に確保する場所としては、都心部の高温化が顕著な 海岸から数km程度の範囲で、高層ビル等が多いところが有効である。

(34)

24 風の道 海側 陸側 海風 海風 海風 海風 海風 海風 海 風 風の道 海 風 陸 側 海 側 海風 海風 海風 海風 海風 海風 <街路> <河川> 海側 風の道 海 風 海風 海風 海風 海風 海風 海風 陸側 <緑地> 昼間に海風(湖風)が海岸(湖岸)から地表面に沿って街路や河川、緑地等を通じて 都市空間に流入するタイプ 風の道 海風 海風 海 側 陸側 海風 海風 海風 海風 風の道 海風 海風 海 側 陸 側 海風 海風 海風 海風 <街路> <河川> 上空を流れる海風(湖風)が街路・河川沿いの建物群に誘導されて地表面付近を流れ るタイプ 図1-24 海風が流れる「風の道」の分類

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25 ②山風・陸風が流れる「風の道」 夜間に谷間に冷気が集積されて市街地へ流出する山風、あるいは斜面から直接市街地へ冷気 が流出する斜面冷気流は、ヒートアイランド対策に有効である。夜間の冷涼な山風や斜面冷気 流を平地の市街地に導入するため、平面的な山風が流れるための河川や街路等の開放的で連続 した空間を“山風が流れる「風の道」”とする。 図1-25 山風が流れる「風の道」15 一方、大気の安定する夜間に陸から海に向かう平面的な弱い陸風もヒートアイランド対策に 資する冷涼な風であり、陸風を都市空間内に導くための河川や緑地、街路等の連続したオープ ンスペース(開放的な空間)を“陸風が流れる「風の道」”とする。 一般的には昼間の海風が流れる「風の道」と同じ空間であることが多い。 風の道 陸側 海側 図1-26 陸風が流れる「風の道」 ④ 市緑地からの移流を導く「風の道」 ヒートアイランド対策に資する都市緑地からの冷気の移流を周辺市街地に導くための街路や 河川、建物間のオープンスペース等の連続した隙間空間を“都市緑地からの移流・にじみ出し を導く「風の道」”とする。

(36)

26

図1-27 都市緑地からの移流を導く「風の道」16

(37)

27

第2章 「風の道」に配慮したヒートアイランド対策の進め方

第2章では、「風の道」に配慮したヒートアイランド対策の進め方として、都市計画的に「風の 道」を活用してヒートアイランド対策を行うために作成するヒートアイランド対策マップや「風 の道」に配慮したヒートアイランド対策の方法を示している。 2-1では、ヒートアイランド対策マップの構成と位置づけや作成手順を示し、さらにヒート アイランド対策マップを例示している。 2-2では、「風の道」に配慮したヒートアイランド対策を検討する際に参考となる知見等を示 している。

2-1 ヒートアイランド対策マップの作成

(1)ヒートアイランド対策マップとは ヒートアイランド現象は、都心部から郊外に向かって、都市とその周辺の広い範囲に影響を 及ぼす可能性があるため、効果的に対策を講ずるには、その影響範囲を把握し、重点的に対策 を講ずるべき範囲を明らかにした上で、具体的な対策を検討する必要がある。 都市計画を通じて「風の道」に配慮したヒートアイランド対策を効果的に講ずるためには、 ヒートアイランド現象の現況やヒートアイランド現象の要因(地表面被覆、人工排熱、都市形 態)の分布を把握した上で、ヒートアイランド対策に資する「風の道」を空間的に明示し、「風 の道」に配慮したヒートアイランド対策の方針を示す必要がある。 『ヒートアイランド対策マップ』とは、ヒートアイランド対策に資する「風の道」を活用し た都市づくりを推進するため、地方公共団体が都市の風の流れや気温分布といったヒートアイ ランドの現況と、その要因となる地表面被覆や人工排熱、都市形態(市街地の凹凸)の分布等 を地図化して系統的に「見える化」し、「風の道」に配慮したヒートアイランド対策の方針等を 立案することを目的として作成するものである。 なお、ドイツでは「風の道」を都市計画に活用して大気環境の改善に資するクリマアトラス を作成している。日本では、都市環境気候図と称して、ヒートアイランド対策に活用している マップがあるが、都市計画的に「風の道」を活用してヒートアイランド対策を行うために作成 したのが『ヒートアイランド対策マップ』である。 (2)ヒートアイランド対策マップの構成と位置づけ ①ヒートアイランド対策マップの構成 地方公共団体が作成するヒートアイランド対策マップは、以下の現況図と対策方針図により 構成するものとする。 ・現況図 地表面被覆や都市形態、人工排熱、気象などのヒートアイランド現象の現況の把握に必要 な基礎データの中から地方公共団体が都市気候等の専門家の協力を得るなどして、ヒートア

(38)

28 イランド対策の目的に応じて重点的に実施すべき対策に関連するものを組み合わせた図 ・対策方針図 現況図に基づいて、地方公共団体が都市気候等の専門家の協力を得るなどして、地域特性 に対する配慮と科学的知見を踏まえて、ヒートアイランド対策上、望ましい対策の方針を示 した図 ②ヒートアイランド対策マップのスケール 図2-1に示す以下のヒートアイランド対策のスケールに応じて、各々のスケールのヒート アイランド対策マップを作成する。  広域スケール(100km 圏内程度) 都市部のヒートアイランド現象による影響が広域的に及ぶ範囲  都市スケール(10km 圏内程度) 広域スケールの中で高温域の中心となり重点的にヒートアイランド対策を検討すべき範囲  地区スケール(1km 圏内程度) 土地利用や地形、建物群の配置や風の流れ等の地域特性を把握可能で、ヒートアイランド 対策を具体的に計画する範囲 図2-1 ヒートアイランド対策を検討するためのスケール(例) 表2-1に示すように、各々のスケールに応じて、ヒートアイランド対策マップの作成主体 や対策の内容も異なる。基本的には、都道府県が広域スケールから都市スケールのヒートアイ ランド対策マップを作成した上で、市区町村がそれらを参照して、都市スケールから地区スケ ールのヒートアイランド対策マップを作成する流れが想定される。

広域スケール

(100km圏内程度)

都市スケール

10km圏内程度

地区スケール

1km圏内程度

(39)

29 表2-1 ヒートアイランド対策マップのスケールと作成主体等 ス ケール 作成主体の例 対策の例 広域スケール 広域連合等、都道府県 国土形成計画、大規模なオープンスペース保全 (近郊緑地保全等) 都市スケール 都道府県、市区町村 大規模な市街地開発事業、幹線道路整備、公 園・緑地整備、河川改修等 地区スケール 市区町村、都道府県 地区計画等、都市再生特別地区、風通しに配慮 した建物配置、都市緑化、人工排熱削減等 広域スケールでは、都心から郊外に向かって流れていく過程で熱せられた空気が、どの程 度の範囲まで気温に影響を及ぼすかを把握した上で対策を検討することが重要である。首都 圏を例にとると、東京湾から東京都心に流れ込む海風は、例えば南風の場合、東京都の北側 の埼玉県付近まで進入して気温分布に影響を与える可能性があり、このような広域的な観点 を踏まえ、それぞれの対策がどの程度の影響・効果があるのかを把握することが有効である。 都市スケールでは、都市に流入する風の流れを把握して、都市の通風・換気に配慮した風 を遮らない都市構造を計画することが有効である。また大規模な緑地はクールアイランドを 形成し、そのようなオープンスペースをネットワークで結ぶことが重要である。こうした取 組を推進する上で、風の流れや土地利用現況、気温分布等を地図化して、都市計画や都市開 発の際に活用することが有効である。 地区スケールでは、都市再開発等の都市が変化する機会を捉えるなどして、ヒートアイラ ンド現象の緩和に加えて、空間利用者の快適性の向上といった適応策の観点も考慮して対策 を実施することが重要である。 ③ヒートアイランド対策マップの位置づけ 図2-2に示すように、地方公共団体は、現況の把握に基づいて対策方針の立案を行い、ヒ ートアイランド対策マップ(現況図、対策方針図)の作成を行う。 都市計画的に「風の道」を検討・確保していくことを踏まえると、主に地方公共団体の都市 部局が主体となり、環境部局等の他部局と調整を図りながらヒートアイランド対策マップを作 成することが望ましい。 一方、事業者等(事業者としての地方公共団体も含む)は、地方公共団体が作成したヒート アイランド対策マップの対策方針図に基づき、本ガイドライン・運用指針等を踏まえて計画・ 事業案における対策目標の設定を行い、ヒートアイランド対策への配慮に関して、必要に応じ て国土交通省が開発したシミュレーションツール等を活用して評価し、地方公共団体との協議 を通じて合意形成を図り、計画・事業を決定する。 なお、ヒートアイランド対策のスケールに対応して、ヒートアイランド対策マップの作成主

(40)

30 体が異なる場合、地方公共団体相互の方針の調整を図ることが考えられる。

現況の把握

対策方針の立案

計画・事業の立案

現況図

対策方針図

その他のツール

シミュレーション

ツール(PCソフト)

即地的かつ具体的な対策 の量や配置による効果を 予測

ガイドライン

運用指針等

ヒートアイランド対策の 考え方、ヒートアイランド 対策マップの作成方法、 地域特性に応じた対策 メニューを明示 地方公共団体

計画・事業の決定

計画・事業案

事業者等 ヒートアイランド対策マップ

対策への配慮

合意形成

図2-2 ヒートアイランド対策マップの位置づけ (3)ヒートアイランド対策マップの作成手順 ヒートアイランド対策マップは、図2-3に示す手順により作成する。

地表面被覆

都市形態

人工排熱

気象

現況図

基礎データ

対策方針図

都市気候に関する知見と

地域特性に基づく検討

図2-3 ヒートアイランド対策マップの作成方法 ①基礎データの整理 地方公共団体は、各都市におけるヒートアイランド現象の現況を把握し、現況図を作成する ため、以下の基礎データを整理する。 ・ヒートアイランド現象の要因となる地表面被覆や都市形態、人工排熱に関するデータ ・気温分布や風の流れ等のデータ

(41)

31 具体的には、表2-2のようなデータの内容や出典(例)が考えられる。 表2-2 主な基礎データの種類と内容 種類 内容 データの出典(例) データから得られる情報 地表面被覆 土地利用 国土数値情報(土地利用細分メッシュ) 数値地図5000(土地利用) 都市計画基礎調査(GIS) 地表面被覆の種類 (地表面被覆の人工化の状況、 緑地分布等) 建物(形状) 都市計画基礎調査(GIS) 都市計画基本図デジタルマッピング(DM) 基盤地図情報(建築物の外周線) 緑地(草地、樹木) 自然環境保全基礎調査(植生調査) 緑の実態調査 空中写真 都市形態 地形・標高 基盤地図情報等(メッシュ標高) 地形図 地形による凹凸 (河川や谷戸など風の通り道と なる地形的特性) 緑地 自然環境保全基礎調査(植生調査) 緑の実態調査 空中写真 公園・緑地等の開放的な空地の 位置や規模、連続性(ネットワー ク) 建物(形状、高さ) 都市計画基礎調査(GIS) 都市計画基本図デジタルマッピング(DM) 基盤地図情報(建築物の外周線) 空中写真 建物による凹凸 (都市形態の高密度化の状況、 街路等の隙間空間の位置や規 模、連続性) 人工排熱 建物(形状、用途、 階数) 都市計画基礎調査(GIS) 基盤地図情報(建築物の外周線) 空中写真 人工排熱量※ (建物から放出される人工排熱 の状況) 交通量 交通量調査(道路交通センサス等) 人工排熱量※ (自動車から放出される人工排 熱の状況) 気象 風向・風速 気象台・アメダス 大気汚染常時監視局 予測計算結果 風の流れの傾向(卓越風向) 風の強さ 気温 気象台・アメダス 大気汚染常時監視測定局 地方公共団体の観測点(百葉箱等) 予測計算結果 気温の分布 表面温度 地方公共団体による赤外線熱画像撮影 予測計算結果 表面温度の分布 ※排熱量(エネルギー消費量)原単位と組み合わせて算出

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32 ここで、地表面被覆や都市形態の把握に必要な土地利用や建物の分布、人工排熱の計算に必 要な建物用途別の建物面積や建物階数等のデータの多くは、地方公共団体の有する都市計画基 礎調査のデータを活用することができると考えられる。都市計画基礎調査の結果は、近年の GIS の普及に伴い、東京や大阪等の大都市を中心に地方公共団体により詳細な GIS(地理情報シス テム)データとして整備されている場合が多い。 なお、地方公共団体が作成するヒートアイランド対策マップに基づいて、事業者等が計画・ 事業における対策への配慮について評価を行う際にも、同様にシミュレーションツール等によ り予測計算を行うことが考えられ、その場合は地方公共団体が現況図や対策方針図の作成に活 用した基礎データと同等のデータにより評価が行われるように配慮が必要である。 ・地表面被覆 土地利用や建物については、必要とするスケールに応じて、国土交通省が提供している国土 数値情報(土地利用細分メッシュ)、国土地理院が提供している数値地図 5000(土地利用)や 基盤数値情報の建築物の外周線の GIS データ、あるいは地方公共団体による都市計画基礎調査 に基づく GIS(都市計画 GIS)データ、都市計画基本図デジタルマッピング(DM)の GIS データ のほか、市販の電子地図の建物データ等を活用することが考えられる。 緑地については、環境省の自然環境保全基礎調査(植生調査)の植生分布や地方公共団体に よる緑の実態調査に基づく緑地分布のデータをスケールに応じて利用することが考えられる。 ・都市形態 「風の道」として都市の隙間空間を検討する際には、特に市街地の凹凸が重要な要素となる。 地形・標高については、図2-4のように国土地理院から様々なスケールで電子化された基盤 地図情報等のメッシュ標高データが発行されおり、これを GIS(地理情報システム)上で編集 することで、現況図の背景図等の基礎データとして利用できる。 建物高さの把握に関しては、地方公共団体の都市計画基礎調査による都市計画 GIS データが 利用可能な場合は、建物階数より高さを求められる。その他の場合は、上記の建築物の外周線、 都市計画基本図 DM データ等の建物形状に、都市計画基礎調査の建物階数分布図や空中写真を活 用して建物階数を付与することが考えられる。 また、地表面被覆と共通の緑地に関するデータより、緑地や公園等の開放的空間の位置や規 模、連続性を把握することができる。 ・人工排熱 人工排熱については、建物からの人工排熱を計算する場合には、地方公共団体の都市計画基 礎調査のデータより建物の用途や階数の把握が必要となる。また、自動車の排熱を求めるには、 幹線道路を通過する自動車などの交通量を把握する必要があり、国土交通省が実施している道 路交通センサスに代表される統計データを使用するなどの方法が考えられるが、入手が困難な 場合は、交通量の実態を想定してある一定の人工排熱を仮定する方法もある。建物や自動車の

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33 排熱を求めるための排熱量(エネルギー消費量)原単位は、国土交通省・環境省による既往の 調査結果17等が利用可能である。 ・気象 気温や風等の気象データについては、気象庁の気象台やアメダスのデータ、地方公共団体が 測定している環境省の大気汚染常時監視測定局等の気象観測データ(図2-7)、あるいは地方 公共団体が独自に観測した気温(図2-8)や赤外線熱画像撮影による表面温度等のデータ(図 2-9)の活用が考えられる。 一方、気温や風の流れ等については、例えば国土交通省が開発したヒートアイランド対策評 価シミュレーションツール(参考資料3)により予測計算を行い、詳細に把握した結果(図2 -10)等を利用することも考えられる。 出典)国土地理院1:25,000 デジタル標高地形図「東京都区部」 図2-4 標高データの例(東京臨海・都心部) 17 国土交通省・環境省:平成 15 年度都市における人工排熱抑制によるヒートアイランド対策調査報告書

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34

図2-5 建物や緑地を俯瞰する空中写真の例(3次元表示)

(45)

35 (1998~2001 年までの 8 月の晴天日(73 日)の風向出現頻度) 資料)神戸大学森山正和研究室(2007) 図2-7 大気汚染常時監視測定局データによる夏季の風配図の例(神戸市) 図2-8 気温観測データの例(東京都港区)18 18 港区ヒートアイランド現象解析調査

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36 (平成22 年 8 月 21 日の表面温度分布) 図2-9 赤外線熱画像による表面温度データの例(東京都千代田区)19 図2-10 国土交通省のヒートアイランド対策評価シミュレーションツール 19 平成22 年度千代田区緑の実態調査及び熱分布調査業務報告書

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37 ②現況図および対策方針図の作成 ・現況図 地方公共団体は、①の基礎データを用いて、各都市の地域特性に配慮した上で、都市気候の 専門家等の協力により重点的に検討すべき対策(例えば、風通しを良くして都市内の気温低下 や大気汚染の緩和を図る、屋外の体感温度を低下させる等)に関連する基礎データを組み合わ せて現況図を作成する。 気温分布や風の流れなどは、アメダスや大気汚染常時監視測定局の気象観測データのほか、 地方公共団体独自の気温や表面温度観測データ等を活用して、必要に応じて国土交通省のシミ ュレーションツール等による予測結果を利用することも考えられる。 ・対策方針図 地方公共団体は、現況図に基づいて、都市気候等の専門家の協力により都市気候に関する知 見を踏まえ、地域特性にも配慮して、ヒートアイランド対策上望ましい対策の方針を図示した 対策方針図を作成する。 なお、必要に応じて、前述のシミュレーションツール等を利用して、対策効果の把握のため の予測計算を実施し、予測結果を参考に対策方針図を作成することも考えられる。 対策方針図において、ヒートアイランド対策に資する「風の道」として図示する内容や「風 の道」のタイプとの対応については、表2-3に示す「風の道」の分類を参考に検討を行う。 特に、都市スケールの対策方針図では、都市計画においてより活用しやすいものとするため、 1級~3級の「風の道」に分けて図示することが考えられる。 表2-3 「風の道」の分類 都市緑地 からの移流・ にじみ出しを 導く風の道 1-1 1-2 2-1 2-2 3 1級 都府県をまたがる大規模 河川における風の流れ ● 荒川、隅田川、多摩川 2級 街路、鉄道敷、河川、連続 した緑地等のオープンス ペースにおける風の流れ ● ● ● ● 日本橋川、行幸通り、 八重洲通り、環状2号 線、目黒川 3級 緑地等の局所的な風の流 れ ● 皇居周辺、明治神宮、 新宿御苑 ※風の道のタイプ 1-1: 海風が流れる「風の道」-昼間に海風(湖風)が海岸(湖岸)から地表面に沿って街路や河川、緑地等を通じて都市空間に流入するタイプ 1-2: 海風が流れる「風の道」-上空を流れる海風(湖風)が街路・河川沿いの建物群に誘導されて地表面付近を流れるタイプ 2-1: 山風が流れる「風の道」 2-2: 陸風が流れる「風の道」 3-3: 都市緑地からの移流・にじみ出しを導く「風の道」 風の道 の分類 内容 風の道のタイプ 「風の道」の例(東京) 海風が流れる 風の道 山風・陸風が 流れる風の道

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38 ・基本的な作成方法 地域特性に配慮し、都市気候等の専門家の協力を得て作成する現況図と対策方針図には、様々 な作成方法があると考えられるが、「風の道」やヒートアイランド対策を検討する上で重要な風 向風速や気温等の評価を実測データ等に基づく場合と、シミュレーションを活用する場合に大 別される。それらの違い応じた現況図と対策方針図の基本的な作成方法を以下に示す。 イ)現況図の作成方法 風向・風速や気温などの実測データ等に基づいて現況図を作成する方法として、広域スケー ルなど対象領域内の観測点の密度がある程度得られる場合は、面的に風向風速分布図や気温分 布図などを描くことが可能だが、その他観測点の密度が低い場合は、観測点における卓越風向 や周辺の観測点との気温の違いなどを把握するための図を作成することになる。後者の方法で 現況図を作成する場合は、図2-11 のように、ヒートアイランドの要因と関連のある建蔽率の 分布図や標高図、土地利用分布図と卓越風向などを重ね合わせる方法がある。 一方、シミュレーションを活用して現況図を作成する場合は、図2-12 のように、シミュレ ーションの初期値・境界条件や入力データとして必要な標高や土地利用、建物等の基礎データ を準備してシミュレーションを実行し、計算結果として得られる風向風速や気温等の分布図か ら現況図として必要なものを選択して作図する。 ロ)対策方針図の作成方法 風向風速等の実測データ等に基づいて対策方針図を作成する場合、都市スケールでは、標高 図を背景図として、海風や陸風などの風向と河川、幹線道路の幅と向き、大規模な緑地の分布 を考慮して、「風の道」の図示を行う。地区スケールでは、標高図や建物分布図などを背景図と して、「風の道」のほか、必要に応じて緑化や排熱削減等の方針を示す(図2-13)。 一方、シミュレーションを活用して対策方針図を作成する場合は、実測データ等に基づく場 合より解像度の高い気温分布や風向風速分布を参照して、主な風の通り道や気温が高くヒート アイランド対策の必要性が高い場所を把握した上で、標高図や建物分布図を背景図として、「風 の道」のほか、必要に応じて緑化や排熱削減等の方針を示す(図2-14)。

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39 ヒートアイランド対策マップ (現況図) 基礎データ 地形・標高 標高図 土地利用・緑地 交通量 土地利用/ 緑地分布図 人工排熱分布図 建物 建物高さ/建蔽率 等の分布図 赤外線熱画像 表面温度分布図 気温(観測) 気温分布図 必 要 に 応 じ て 選 択 選 択 し た 図 の 重 ね 合 わ せ 風向・風速(観測) 風配図(卓越風向) /風向風速分布図 図2-11 実測データ等に基づく現況図の作成方法 ヒートアイランド対策マップ (現況図) 基礎データ 標高 土地利用・緑地 顕熱・潜熱分布図 建物 表面温度分布図 交通量 気温分布図 気象データ (気温、風速等) 風向風速分布図 必 要 に 応 じ て 選 択 必 要 に 応 じ て 選 択 ・ 組 み 合 わ せ シ ミ ュ レー シ ョ ン 図2-12 シミュレーションに基づく現況図の作成方法

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40 ヒートアイランド対策マップ (現況図) 標高図 土地利用/ 緑地分布図 気温(観測値) ヒートアイランド対策マップ (対策方針図) 標高図 建物分布図 風向・風速(観測値) 風の道 必 要 に 応 じ て 選 択 ・ 組 み 合 わ せ 緑化や排熱削減等 の方針 基礎データ 標高 建物 参 照 図2-13 実測データ等に基づく対策方針図の作成方法 ヒートアイランド対策マップ (対策方針図) ヒートアイランド対策マップ (現況図) 気温分布図 標高図 建物分布図 風向風速分布図 風の道 必 要 に 応 じ て 選 択 ・ 組 み 合 わ せ 緑化や排熱削減等 の方針 基礎データ 標高 建物 参 照 図2-14 シミュレーションを活用した対策方針図の作成方法

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41 ③ヒートアイランド対策マップの例 ・広域スケールの例 広域スケールについては、ヒートアイランド現象による広域的な影響範囲を把握するため、 気象実測データや都市気候シミュレーション等によって、広域的な気温分布や風系を現況図と して示すことが考えられる。 図2-15 は、実測データ等を活用した広域スケールの現況図の例として、首都圏約 200 地点 の広域 METROS(広域 METROS 研究会)の気温データ、気象庁のアメダス、環境省の大気汚染物 質広域監視システム、民間気象会社の風データより作成した全地点平均気温と各実測地点の気 温偏差及び風速の分布図である。気温分布は海風による影響を強く受けており、沿岸に近い地 域ほど気温が低くなっている。図2-15 の現況図は、図2-16 のように、風向風速や気温の観 測データよりそれぞれの分布図を作成して重ね合わせたものである。 一方、図2-17 は、シミュレーションを活用した現況図の例として、首都圏の夏季晴天日の 14 時における LOCALS-UCSS シミュレーションによる気温と風向風速の分布図を重ね合わせて描 画した例である。夏季の日中における風の流れが把握できるほか、内陸部で高温化している一 方、臨海部では海風により気温上昇が抑制されていることがわかる。図2-18 のように、必要 な基礎データをシミュレーションに入力し、計算結果の風向風速と気温を重ねた分布図である。 (2006 年夏季の海風前線日における 14 時の全観測地点平均気温からの気温偏差・風速分布) 図2-15 広域スケールの現況図の例(気象観測データ)20 20 大和・三上・高橋:夏季日中における首都圏のヒートアイランド現象に海風が与える影響, 地學雜誌 120(2), 325-340, 2011.4.25

参照

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