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遺産相続、学歴及び退職金の決定要因に関する実証分析 『家族関係、就労、退職金及び教育・資産の世代間移転に関する世帯アンケート調査』

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26 第二部:個票データによる分析事例

2-1. 贈与・相続による世代間移転

第二部では、『家族関係、就労、退職金及び教育・資産の世代間移転に関する世帯アンケ ート調査』の個票データを用いて、遺産相続 (2-1 節)、学歴 (2-2 節)及び退職金 (2-3 節)が どのような要因によって決定されているのかを分析する。 まず本節では、贈与・相続を通じた世代間の資産移転の実態を明らかにする。第一部で 見たように、今回の調査では世帯主とその配偶者の属性に加えて彼らの両親の属性も詳細 に尋ねられているため、贈与・相続へ与える子供と親双方の要因の影響を分析することが できる。贈与・相続を通じた世代間移転は、世代を越えて資産格差を固定化する恐れがあ るため、その実態を明らかにすることは格差問題を考える上で大きな意義があると考えら れる。このような問題意識から、これまでにも我が国の贈与・相続額の水準や、その世帯 資産額に占める比率が推定されてきた(Hayashi [1986]、Dekle [1989]、Barthold and Ito [1992]、 高山他 [1996]、Campbell [1997]、麻生 [1998]、Shimono and Ishikawa [2002]、Shimono and Otsuki [2006]、ホリオカ [2008]、Horioka [2009])。しかし、先行研究の多くでは世帯属性をコント ロールせずに贈与・相続の標本平均などが計算されていた。贈与・相続を受け取る確率と その額は世帯属性に応じて大きく異なると考えられるため、本稿では世帯属性の違いによ って贈与・相続を受け取る確率や額がどの程度異なるかを分析する1。具体的には、まず、 贈与・相続の受取確率関数と受取額関数を推定し、どのような属性を持つ世帯が贈与・相 続を受け取る確率が高いか、また、額が大きいかを推定する。次に、この結果に基づき、 学歴、職業、両親の存命状況などの属性別に贈与・相続の受取確率及び期待受取額を計算 する。最後に、贈与・相続額と所得・資産額との関係を分析することにより、贈与・相続 が世帯間の所得・資産格差を拡大させているか否かについても考察を加える。

2-1-1 実証モデルと推定

2-1-1-1 順序プロビット法と区間回帰法

この節では、贈与・相続の受取額関数を推定するための実証モデルを説明する。我々が 行ったアンケート調査では、贈与・相続の受取額は、8 つの階級(1. 受けたことはない、2. 200 万円未満、3. 200~500 万円未満、4. 500~1,000 万円未満、5. 1,000~2,000 万円未満、6. 2,000~3,000 万円未満、7. 3,000~5,000 万円未満、8. 5,000 万円以上)と「9. よくわからない」の計 9 つの 項目から選択される。このうち「9. よくわからない」を選択した標本を除けば、贈与・相 続の受取は、順序付けられた8 つの階級から一つを選ぶ多項選択問題として定式化される。 この場合、贈与・相続の受取額関数の推定に際して、区間回帰法と順序プロビット法を用 1 通常、贈与・相続の決定要因を分析する際には、それらの行動が利己主義(ライフサイクル仮説)、利他主 義、王朝仮説のどのモデルとより整合的かが主題となる場合が多い。しかし、今回我々が行ったアンケー ト調査の情報だけでは各モデルの妥当性を正確に評価することが難しいと判断されるため、本稿ではこの 点を主題として扱わなかった。

(2)

27 いることができる2。このうち順序プロビット法においては、各階級をとる確率に与える世 帯属性の影響(限界効果)を推定することもできる。 これらの推定法においては、8 つの階級を表す被説明変数

y

iとそれに対応する連続潜在変 数 * i y の間に以下のような関係が想定される。

⎪⎩

<

<

=

8 * 7 1 * 0

8

1

κ

κ

κ

κ

i i i

y

if

y

if

y

M

(1) i i i

x

u

y

*

=

β

+

)

,

0

(

~

N

σ

u

i ここで、

κ

0

=

−∞

κ

8

=

とする。また、

x

iは説明変数のベクトル、

u

iは誤差項を表す。 すると、標本

i

(

i

=

1 L

,

,

n

)の贈与・相続受取額が階級

j

(

j

=

1 L

,

,

8

)の範囲に入る確率は以 下のように定義される。

(

)

⎟⎟

⎜⎜

Φ

⎟⎟

⎜⎜

Φ

=

<

<

=

− −

σ

β

κ

σ

β

κ

κ

κ

π

j i j i j i j ij

x

x

y

* 1 1

Pr

(2) ここで、

Φ

(•

)

は正規分布の累積分布関数である。順序プロビット法では、パラメータ

κ

β

を識別するために

σ

=

1

、つまり連続潜在変数の誤差項に標準正規分布が仮定される。一 方、区間回帰法では、

κ

が既知のため

σ

の値も推定可能となりこの仮定は不要となる。 (2)式のような確率関数を各標本について定義することができるので、対数尤度関数は以 下のように書ける。

[

]

⎟⎟

⎜⎜

⎟⎟

⎜⎜

Φ

⎟⎟

⎜⎜

Φ

=

=

− = =

∑∑

κ

σ

β

κ

σ

β

σ

κ

β

N j i j i i j i

x

x

j

y

x

y

L

1 1 8 1

ln

1

)

,

;

,

,

(

ln

(3) この式を最尤推定することで

β

κ

σ

の不偏推定量を得ることができる。

2-1-1-2 説明変数の選択と記述統計

(3)式中の説明変数ベクトル

x

iに含まれるべき変数として、贈与・相続を受け取る子供世 代(世帯主と配偶者)と遺す側である親世代(世帯主の両親と配偶者の両親)の両方の属性が考 2 贈与・相続額はゼロを端点として下から検閲された(censored)データとなっている他、贈与・相続額が 5,000 万円以上の世帯は上限の無い一つの階級に分類されるため上からの検閲(トップ・コーディング)の問 題も生じ得る。また、本稿では贈与・相続額を「9. よくわからない」と回答した世帯は分析対象としてい ないが、この場合標本選択によるバイアスが生じる恐れがあるので、これらの世帯を含めた上でHeckman 推定を行った方がよいかもしれない。これらの推定上の問題への対処は今後の課題としたい。

(3)

28 えられる。子供世代の属性として、年齢、職業、学歴、兄弟姉妹数、長男あるいは長女か 否かのダミー変数、資産・所得額などが考えられる。一方、親世代の属性としては、これ らの属性に加えて遺産動機の種類・強さなども候補となる。このうち、親世代の資産・所 得額と遺産動機の種類・強さは今回のアンケート調査では尋ねられていないので説明変数 として加えることはできない3。親世代の所得額の代理変数として彼らの最も長く就いてい た職種、産業、及び勤め先企業の従業員規模などがあるものの、既に死別した両親につい てはこれらの情報を得ることができないため用いることができなかった。この他、両親の 最終学歴は彼らの資産・所得額と相関が高いと予想されるため、親の経済力を表す変数と して妥当性が高いように思われるが、実際には贈与・相続の説明力があまり高くなかった ので分析には用いなかった4。 このような変数選択の結果、本稿の

x

iには世帯主と配偶者の年齢、職業(世帯主が自営業、 配偶者が非専業主婦・主夫)、学歴、兄弟姉妹数、長男(長女)か否かを表すダミー変数、及 び両親の生存状況などが含まれる。世帯主が自営業であれば、会社経営の引き継ぎととも に世帯資産を贈与・相続の形で譲り受けることが予想される。また、世帯主と配偶者の学 歴が高いことは両親の教育にかけるコストが高かったことを反映しているかもしれず、贈 与・相続額が教育投資の分だけ減少する可能性がある。兄弟姉妹数が多ければ法定相続分 が減少すると考えられる一方で、長男・長女であることは遺言で相続分の指定がない限り は贈与・相続に影響を与えないはずである。親の死亡は相続経験額を大きくすると考えら れる。なお本稿では、アンケートの調査時点以降のライフステージの変化によって値が変 化しない属性変数を主に用いる。ライフステージの違いは世帯主と配偶者の年齢でコント ロールすることとし、調査時点以降にも変化しうる両親との同・別居状態や世帯構成(三世 代同居、核家族など)などの変数は用いなかった5。 本稿の推定に用いた、既婚で世帯主と配偶者両方の情報が利用可能な 829 世帯の世帯属 性の記述統計量が表2-1-1 に示されている。世帯主と配偶者の平均年齢はそれぞれ 52.8 歳と 50.6 歳であり、本稿第一部で確認した標本全体の平均値と大きく異ならない。世帯主が調 査時点で自営業である、もしくは過去に自営業であった世帯の比率は9%となっている。ま た本稿では、学卒年から調査時点までに継続して働いていない期間が半分に満たない配偶 者を非専業主婦・主夫と定義しているが、この比率は 8 割を超える。世帯主と配偶者の最 終学歴の分布を比較すると、世帯主の方が大学もしくは大学院を卒業している割合が倍以 上大きい。これは、世帯主の多くが男性で配偶者の多くが女性であるという両者の性別の 3 アンケート調査では回答者(主に世帯主か配偶者)の遺産動機の種類は尋ねられているが、両親については 尋ねられていない。 4 両親の最終学歴には欠損値が多いことも分析に用いなかった理由の一つであるが、世帯主及び配偶者の 両親の最終学歴を説明変数として用いたとしても、次節以降の推定結果に大きな変化はない。 5 野口他 (1989)や鬼頭他 (1993)では「親との同居」が相続を受ける確率を高めることが指摘されている。 しかし、調査時点で親と同居していなくとも将来的には親と同居する世帯や、過去に親と同居していたも のの親が死亡したために同居でなくなった世帯なども存在するため、調査時点における「親との同居」は 世帯構成以外の様々な要因を表す可能性がある。本稿ではこのような理由から、世帯構成を表す変数を説 明変数として用いなかった。

(4)

29 平均 標準偏差 最小値 最大値 世帯主年齢 52.8 12.1 22 80 配偶者年齢 50.6 11.6 20 78 世帯主が自営業 0.090 - 0 1 配偶者が非専業主婦・主夫 0.821 - 0 1 世帯主が中卒 0.093 - 0 1 世帯主が高校・高専・専門学校・短大卒 0.521 - 0 1 世帯主が大卒以上 0.386 - 0 1 配偶者が中卒 0.078 - 0 1 配偶者が高校・高専・専門学校・短大卒 0.766 - 0 1 配偶者が大卒以上 0.156 - 0 1 世帯主の兄弟姉妹数 3.4 1.8 1 12 配偶者の兄弟姉妹数 3.2 1.6 1 12 世帯主か配偶者が長男 0.608 - 0 1 世帯主か配偶者が長女 0.606 - 0 1 世帯主の親の片方のみが死亡 0.285 - 0 1 世帯主の両親ともに死亡 0.367 - 0 1 配偶者の親の片方のみが死亡 0.306 - 0 1 配偶者の両親ともに死亡 0.274 - 0 1 ライフサイクル資産額(万円)2 2114.6 2559.9 -4923.3 18750 世帯主所得額(主たる仕事からの年間収入、万円)3 630.2 362.7 0 1875 配偶者所得額(主たる仕事からの年間収入、万円)3 145.6 224.5 0 1875 標本数 829 表2-1-1 世帯属性の記述統計量1 世帯主が自営業 配偶者が非専業主婦・主夫 世帯主(配偶者)が中卒 世帯主(配偶者)が高校・高専・専門学校・短大卒 世帯主(配偶者)が大卒以上 世帯主(あるいは配偶者)の兄弟姉妹数 ライフサイクル資産額 持家の戸建住宅・マンションおよび住宅の敷地の調査時点の市場価値の 合計額(住宅ローンの残存額を控除した値)から、過去に両親や親類から受 けた贈与・相続額を差し引いた額。 世帯主(配偶者)の最終学歴が高等学校卒、あるいは短大・高専・専門学校 卒の場合に1、それ以外の場合に0となる。 世帯主(配偶者)の最終学歴が大学卒、あるいは大学院卒の場合に1、それ 以外の場合に0となる。 注1      変数の定義 転職、退職の経験があり、辞めた会社・仕事(二つ以上ある場合は最も長く 勤めた会社[就いた仕事])が「自営業」、「家族従業者」、「企業経営者」であ る場合、あるいは転職、退職の経験がなく、調査時点の職種が「自営業」、 「家族従業者」、「企業経営者」である場合に1、それ以外の場合に0となる。 学卒年から調査時点までの期間のうち、継続して働いていない期間が半分 未満の場合に1、その期間が半分以上の場合もしくは調査時点で働いてい る場合に0となる。 世帯主(配偶者)の最終学歴が小学校・中学校卒の場合に1、それ以外の場 合に0となる。 世帯主(あるいは配偶者)を含めた兄弟姉妹の人数。 注2: ライフサイクル資産額の標本数は578。 注3: 世帯主と配偶者それぞれの所得額の標本数は559。

(5)

30 違いを反映しているものと思われる。兄弟姉妹数は世帯主と配偶者ともに平均 3 人程度、 世帯主か配偶者が長男である比率と長女である比率はどちらも約 6 割である。世帯主と配 偶者の両親の生存状況については、世帯主の方が少し年齢が高いことを反映して両親がと もに死亡している割合が高い。さらに、本稿では調査時点の実物資産の合計額から過去に 受けた贈与・相続額を差し引いた値を、その世帯が自分たちで蓄積した資産額(ライフサイ クル資産額)と定義しているが、この平均値は 2,115 万円となっている。世帯主と配偶者の 主たる仕事からの年間収入はそれぞれ630 万円と 146 万円である。 標本数 比率(%) 受けたことはない 502 60.55 200万円未満 78 9.41 200-500万円未満 72 8.69 500-1000万円未満 62 7.48 1000-2000万円未満 42 5.07 2000-3000万円未満 31 3.74 3000-5000万円未満 16 1.93 5000万円以上 26 3.14 計 829 100 受取額の平均(万円)1 1379.8 表2-1-2 過去に受けた贈与・相続額 表2-1-2 は、推定に用いる世帯の贈与・相続受取額の分布を示している6。これによれば、 推定対象となる世帯の約 60%が調査時点までに贈与・相続を受けた経験がないと答えてお り、ある時点の横断面で見た場合、贈与・相続を既に受け取った経験のある世帯は半数も いない。野口他 (1989)、鬼頭他 (1993)、高山他 (1996)、ホリオカ (2008)でも同種のアンケ ート調査が行われているが、どの調査においても調査時点までに贈与・相続経験のない世 帯の比率は 60%前後となっており、我々が行った調査と同様の結果が得られている。しか し、贈与・相続を受け取った経験のある世帯のみに限定した場合の受取額の平均は約1,380 万円であり、ライフサイクル資産額の平均が約2,115 万円であることを考慮すると、贈与・ 6 贈与・相続受取額は「過去に両親や親類から受けた贈与・相続はいくら位ですか」という質問の答えを 利用している。この他、持家の取得方法が「相続、贈与などを受けた」となっている世帯と住宅の敷地の 所有関係が「所有(親からの相続や贈与)」となっている世帯については、それぞれ持家と敷地の調査時点の 市場価値が分かるので、これらの情報と贈与・相続受取額として答えられている値が整合的かを確認し、 齟齬がある場合は贈与・相続受取額を補正した。例えば、持家住宅と敷地の市場価値の和が700 万円にも 関わらず、贈与・相続受取額が「1. 受けたことはない」、「2. 200 万円未満」、「3. 200~500 万円未満」のい ずれかとなっている場合には、この標本の答えを「4. 500~1,000 万円未満」の階級へと修正した。本稿の以 下の分析では、このような修正を行った贈与・相続額を用いている。 注1: 贈与・相続を「受けたことはない」世帯 を除いて計算した贈与・相続の受取額の平 均。

(6)

31 相続はそれを受け取った世帯の資産のうち約40%を占める大きな要素であるといえる7。

2-1-1-3 推定結果

2-1-1-1 節で説明した順序プロビット法と区間回帰法のどちらを用いて贈与・相続の受取 確率と受取期待額を計算するのがより適切かを判断するために、贈与・相続受取額関数の 推定結果を比較したい。前述したように、順序プロビット法では(1)式の誤差項

u

iの分散

σ

が 1 に基準化されており、得られた係数(

β

)のままでは区間回帰法の値と比較することができ ない。そこで、区間回帰法で推定された

σ

を係数に乗じることで比較可能な値へと修正し た。表2-1-3 にはこの二つの推定方法の他に、最小二乗法による結果も示されている。また、 表2-1-4 には順序プロビット法で計算した贈与・相続の受取確率に与える各世帯属性の限界 効果が示されている89。贈与・相続の受取確率と受取額への共通した影響として、世帯主の 最終学歴が大卒以上であることと、親の一方あるいは両方が死亡していることがそれらを 有意に増加させる効果が見られる。世帯主の学歴が高い方が贈与・相続の受取確率とその 額が大きくなることは、子供に対する教育投資と贈与・相続が代替的ではない可能性を示 している。また、親の死亡が贈与・相続の受取確率と受取額をともに高めることは、親の 死亡時の相続が世代間移転の機会として重要であることを示している。この他、世帯主あ るいは配偶者が長男であることを表すダミー変数は、順序プロビット法による贈与・相続 額関数の推定(表 2-1-3 の(C)列)以外の推定で係数が有意に正となっている。世帯主か配偶者 が長男である世帯ほど贈与・相続の確率とその額が大きくなる理由として、長男が老後の 親の面倒をみることの見返りとして土地・家屋などの不動産を相続している可能性が考え られる。しかし、長男であることが贈与・相続の受取額に有意な影響を与える一方で、兄 弟姉妹数については有意な影響が見られない。遺言で相続分の指定が無い限りは兄弟姉妹 数が多いほど相続額が減少していくと考えられるので、この結果は予想に反する。しかし、 経済的に余裕のある親ほど子供を多く育てられるとすれば、兄弟姉妹数が親の経済力の代 理変数となっているのかもしれない。この場合には兄弟姉妹数の係数に正方向のバイアス が生じることになるため、係数が負に推定されない可能性がある10。また、世帯主が自営業 である(あった)ことを表すダミー変数は、最小二乗法と区間回帰法による贈与・相続額 7 贈与・相続受取額は階級値であるため、(受取経験のある世帯についての)平均値を計算する際には階級値 を各階級の中央値に置き換えた。また、ホリオカ (2008)にならい、最下位の階級である「2. 200 万円未満」 については上限である200 万円に 0.8 を乗じた値(160 万円)を用い、最上位の階級である「8. 5,000 万円以上」 については下限である5,000 万円に 1.25 を乗じた値(6,250 万円)を用いた。2-2-2 節で贈与・相続の期待受取 額を計算する際にも、上記の方法で階級値を置き換えた値に各階級の期待確率を乗じて足し合わせること で求めた。 8 贈与・相続を受け取る確率に与える各世帯属性の限界効果は、順序プロビット法によって計算される贈 与・相続を「受けたことはない」となる確率に与える限界効果の符号を逆転させて得られる。 9 表 2-1-補 A には、「1. 受けたことはない」から「8. 5,000 万円以上」までの各カテゴリーが選択される確 率に与える各世帯属性の限界効果が示されている。 10 2-1-2 節で述べたように、本稿で用いたアンケート調査からは親の所得額や資産額を正確に知ることがで きないため、親の経済力に関わる変数を推定式に加えることができなかった。もしこれが可能であれば兄 弟姉妹数の係数をより正確に推定できるかもしれない。

(7)

32 推定方法 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数×σ 世帯主年齢 1.5 65.4 5.6 56.0 0.129 0.069 * 136.1 世帯主年齢の二乗 -0.043 0.608 -0.069 0.521 -0.001 0.001 * -1.2 配偶者年齢 61.8 66.9 52.2 57.2 -0.008 0.070 -8.6 配偶者年齢の二乗 -0.467 0.647 -0.395 0.553 1.6E-04 0.001 0.167 世帯主が自営業 591.5 154.2 *** 500.7 132.8 *** 0.110 0.148 115.9 配偶者が非専業主婦・主夫 -67.4 114.7 -56.3 98.5 0.013 0.110 13.5 世帯主が中卒 -251.9 174.5 -214.7 149.6 -0.168 0.176 -177.6 世帯主が大卒以上 197.6 102.2 * 187.2 87.8 ** 0.357 0.097 *** 376.3 配偶者が中卒 -163.9 187.7 -153.5 161.0 -0.309 0.192 -326.3 配偶者が大卒以上 227.4 133.6 * 181.8 114.8 0.099 0.125 104.2 世帯主の兄弟姉妹数 -19.0 29.2 -17.4 25.0 -0.030 0.028 -32.0 配偶者の兄弟姉妹数 26.2 35.7 21.6 30.6 0.007 0.035 7.3 世帯主か配偶者が長男 230.4 99.0 ** 201.1 84.9 ** 0.158 0.096 166.6 世帯主か配偶者が長女 47.3 99.1 46.6 85.0 0.043 0.095 45.0 世帯主の親の片方のみが死亡 330.1 121.3 *** 296.4 104.1 *** 0.382 0.117 *** 403.1 世帯主の両親ともに死亡 431.2 157.6 *** 370.8 135.4 *** 0.340 0.148 ** 358.7 配偶者の親の片方のみが死亡 -33.4 119.2 -27.8 102.4 0.095 0.113 100.1 配偶者の両親ともに死亡 -4.6 157.4 -11.5 135.3 0.012 0.148 12.2 定数項 -1776.1 853.7 ** -1618.7 730.6 ** - -誤差分散 (σ) 1235.6 1054.4 -対数尤度 F値/LRカイ二乗値 *** *** *** 自由度修正済み決定係数/疑似決定係数 標本数 表2-1-3 贈与・相続受取額関数の推定結果 4.49 80.89 103.18 最小二乗法 区間回帰法 順序プロビット法 - -4958.12 -1101.60 (A) (B) (C) 829 0.0705 - 0.0447 注1: ***、** 及び * は、推定された係数がそれぞれ1%、5%、10%の水準で統計学的に有意にゼロと異なることを意味する。

(8)

33 推定方法 被説明変数 限界効果 標準誤差 世帯主年齢 0.049 0.026 * 世帯主年齢の二乗 -4.E-04 2.E-04 * 配偶者年齢 -0.003 0.027 配偶者年齢の二乗 6.E-05 3.E-04 世帯主が自営業 0.042 0.058 配偶者が非専業主婦・主夫 0.005 0.042 世帯主が中卒 -0.063 0.064 世帯主が大卒以上 0.137 0.037 *** 配偶者が中卒 -0.112 0.065 * 配偶者が大卒以上 0.038 0.049 世帯主の兄弟姉妹数 -0.012 0.011 配偶者の兄弟姉妹数 0.003 0.013 世帯主か配偶者が長男 0.060 0.036 * 世帯主か配偶者が長女 0.016 0.036 世帯主の親の片方のみが死亡 0.148 0.046 *** 世帯主の両親ともに死亡 0.131 0.057 ** 配偶者の親の片方のみが死亡 0.036 0.044 配偶者の両親ともに死亡 0.004 0.057 標本数 表2-1-4 贈与・相続の受取確率に対する世帯属性の限界効果 順序プロビット法 829 贈与・相続を受けたことがある 関数の推定において有意に正に推定されており、贈与・相続額を 500 万円以上増加させる 効果を持つ。世帯主が自営業者である場合、親から会社経営とともに世帯資産を贈与・相 続の形で引き継いでいるのかもしれない。 なお、表2-1-3 の(A)列、(C)列に示されている決定係数があまり高くないが、この理由と して贈与・相続を説明する上で重要な変数を加えていない可能性を指摘できる。表2-1-3 の 特定化ではなるべく多くの標本数を確保するために、世帯の資産額及び所得額を説明変数 として加えていないが、2-1-3 節で見るように、実は資産額と所得額は贈与・相続の説明力 が非常に高い。実際、表2-1-7 でこれらを説明変数として加えると、表 2-1-3 よりも決定係 数がかなり高くなる。また、両親の遺産動機の種類や経済力も贈与・相続と強い相関を持 つはずであるが、本稿ではこれらの情報は用いることができないため、決定係数が低めに 出ている可能性がある11。 11 Greene (2008, p.38)でも述べられているように、一般的に、個票横断面データを用いる場合には決定係数 はそれほど高い値とはならない傾向があるようである。実際、本稿2-2 節、2-3 節でも順序プロビット法を 用いた推定を行っているが、多くの説明変数の有意性が高い特定化であっても決定係数が0.15 程度にとど まる場合が見られる。これらの点に鑑みれば、表2-1-3 の決定係数の水準は決して高くはないものの、低す 注1: ***、** 及び * は、推定された限界効果がそれぞれ 1%、5%、10%の水準で統計学的に有意にゼロと異なることを 意味する。

(9)

34 次節では順序プロビット法の推定結果に基づいて、ある世帯属性が与えられた際の贈 与・相続の受取確率と受取期待額を計算する12。表2-1-3 の結果から、次節における受取期 待額の計算は、(1) 世帯主の職業(勤め人、自営業)、(2) 世帯主と配偶者の両親の生存状況、 (3) 世帯主と配偶者の学歴の組み合わせの三つの属性で区分して行う。また、受取確率の計 算は、表 2-1-4 の結果に基づき、(1) 世帯主と配偶者の両親の生存状況、(2) 世帯主と配偶 者の学歴の組み合わせの二つの属性で区分して行う。

2-1-2 世帯属性別の贈与・相続の受取確率と受取期待額

2-1-2-1 贈与・相続の受取確率

この節では表2-1-4 の順序プロビット法の推定結果を用いて、ある世帯属性が与えられた 場合の贈与・相続の受取経験確率(=1-「受けたことはない」の確率)の理論値(予測値)を計算 する。平均的な世帯が生涯にどのくらいの確率で贈与・相続を受け取るのかを明らかにす るために、世帯主が70 歳男性・兄弟姉妹数 4 人・長子、配偶者が 67 歳女性・兄弟姉妹数 4 人・長子である世帯13を想定して受取経験確率を計算した14。表 2-1-5 には、世帯主と配偶 者の両親の生存状況(全員生存、全員死亡)と、世帯主と配偶者の学歴の組み合わせ別に、贈 与・相続の経験確率を計算した結果が示されている。この結果によると、贈与・相続を受 け取る確率は、世帯主と配偶者の学歴水準と両親の生存状況に大きく依存していると言え る。とくに、学歴が高いほど贈与・相続を受け取る確率が高くなる傾向が顕著である。世 帯主と配偶者の最終学歴がともに中学校卒業である場合には、親が全員存命なら16.6%、親 が全員死亡でも 27%しか贈与・相続を受け取ることが期待できないが、両者がともに大学 以上卒業である場合には、これらの値よりもそれぞれ40%近く高い 52.9%と 66.7%となる。 子供に対する教育投資が大きい親ほど贈与・相続によって世代間移転を行う傾向が強いよ うであり、贈与・相続は学歴の違いによって生じる所得・資産格差をさらに拡大させる方 向に働くといえる。また、両親の生存状況の違いによる受取確率の差については、世帯主 ぎるわけでもないと言えよう。なお、2-1-2 節における贈与・相続の受取確率の理論値の計算は、表 2-1-4 で有意に推定されなかった「世帯主が自営業」のダミー変数と「配偶者が非専業主婦・主夫」のダミー変 数を除外した上で順序プロビット法の推定結果に基づいて行なわれているが、この特定化でも疑似決定係 数の値は0.0447 で変わらなかった。 12 区間回帰法でも順序プロビット法と同様に贈与・相続額の期待値を計算できるが、後者で計算された各 階級をとる確率の平均値の方が標本分布に近いので、順序プロビット法に基づいて期待値を計算した。な お、二つの推定方法の間でこのような違いが見られる理由として、推定するパラメータの数が異なること が考えられる。つまり、区間回帰法では閾値

κ

が既知であるため推定対象とならずに固定された値となる が、順序プロビット法では実際の確率と近くなるようにこれらを自由に決めることができる。 13 世帯主の年齢を 70 歳としたのは、両親が全員生存のケースを考えることが非現実的とならない範囲で、 生涯にわたる受取確率と受取期待額の理論値を計算するためである。また、配偶者の年齢である67 歳は、 世帯主が70 歳である場合の配偶者の年齢の平均値である。世帯主と配偶者の兄弟姉妹数をともに 4 人とし たのは、70 歳の世帯主、67 歳の配偶者の兄弟姉妹数の平均が約 4 であることによる。さらに、両親からみ た世帯主と配偶者の続柄は、それぞれ長男と長女の比率が最も高かったので双方を長子と設定した。 14 前述したように、表 2-1-4 の結果から、世帯主及び配偶者の職業は贈与・相続の受取確率に有意な影響 を与えないので、受取確率の理論値を計算する際には、これらの変数を説明変数として含まない確率関数 の推定結果を用いる。

(10)

35 世帯主の学歴 配偶者の学歴 中卒 中卒 16.6% 27.0% 中卒 高校・高専・専門・短大卒 26.0% 38.8% 中卒 大学以上卒 31.1% 44.5% 高校・高専・専門・短大卒 中卒 22.9% 35.1% 高校・高専・専門・短大卒 高校・高専・専門・短大卒 34.0% 47.7% 高校・高専・専門・短大卒 大学以上卒 39.5% 53.6% 大学以上卒 中卒 34.4% 48.2% 大学以上卒 高校・高専・専門・短大卒 47.0% 61.1% 大学以上卒 大学以上卒 52.9% 66.7% 表2-1-5 世帯属性別の贈与・相続受取確率1 親が全員存命 親が全員死亡 と配偶者の両親が全員存命の場合よりも全員死亡している方が10~14%ほど高い。たとえば、 世帯主と配偶者がともに高校・高専・専門・短大卒の世帯では、世帯主と配偶者の両親が 全員存命の場合は34%、全員死亡の場合は 47.7%が贈与・相続を受け取ることが期待でき、 その差は13.7%となっている15。

2-1-2-2 贈与・相続の受取期待額

この節では、ある世帯属性が与えられた場合の贈与・相続の受取期待額を計算する。順 序プロビット法による推定から 8 つの贈与・相続額階級のそれぞれが実現する確率を各世 帯について計算できるので、この値に贈与・相続額の各階級の中央値を乗じ、それらを足 し合わせることで贈与・相続の受取期待額を算出できる。表2-1-6 には、前節で想定した平 均的な世帯について、世帯主の職業(勤め人、自営業)、世帯主と配偶者の両親の生存状況及 び世帯主と配偶者の学歴の組み合わせに応じた贈与・相続の受取額の期待値が示されてい る。世帯主の職業は順序プロビット法では係数が有意に推定されていないものの、最小二 乗法と区間回帰法では有意な効果を持つ重要な変数であるため、ここではこの変数でも贈 与・相続額の期待値を区分した。また、本稿では贈与・相続を受け取らない可能性も含む 期待値E(贈与・相続額)と、贈与・相続を受け取ることで条件付けた期待値 E(贈与・相続額 |贈与・相続額>0)の二つを計算した。 表 2-1-6 の上段に示されている E(贈与・相続額)の計算結果によると、贈与・相続の受取 額は、世帯主と配偶者の学歴と両親の生存状況に応じて大きく異なる。とくに、学歴の組 み合わせによって贈与・相続の受取期待額は約 4~5 倍もの開きがある。世帯主と配偶者の 学歴がともに中卒の場合には、世帯主の職業と親の生存状況に応じて142.1 万円から 343.6 万円の贈与・相続の受取しか期待できないが、双方が大学以上卒の場合には732.3 万円から 15 世帯主と配偶者の両方が高校・高専・専門学校・短大卒の世帯は、本稿で分析対象となった 829 世帯の 中に388 世帯(46.8%)存在し、最も割合の高い平均的な学歴の組み合わせといえる。 注1: 確率は、世帯主が70歳男性、兄弟姉妹数4人、長子で、配偶者が67歳女性、 兄弟姉妹数4人、長子である世帯について計算した。

(11)

36 親が全員存命 親が全員死亡 親が全員存命 親が全員死亡 中卒 中卒 142.1 281.2 177.9 343.6 中卒 高校・高専・専門・短大卒 260.1 481.0 318.7 575.4 中卒 大学以上卒 311.8 564.4 379.4 670.5 高校・高専・専門・短大卒 中卒 198.5 378.7 245.7 457.4 高校・高専・専門・短大卒 高校・高専・専門・短大卒 351.8 627.5 426.1 742.2 高校・高専・専門・短大卒 大学以上卒 417.4 728.9 502.1 856.4 大学以上卒 中卒 380.8 672.6 459.8 793.2 大学以上卒 高校・高専・専門・短大卒 630.6 1043.5 745.7 1205.5 大学以上卒 大学以上卒 732.3 1187.0 860.3 1362.5 親が全員存命 親が全員死亡 親が全員存命 親が全員死亡 中卒 中卒 790.0 981.3 844.6 1054.6 中卒 高校・高専・専門・短大卒 955.1 1202.5 1026.0 1296.7 中卒 大学以上卒 1017.9 1285.9 1094.7 1387.7 高校・高専・専門・短大卒 中卒 873.9 1093.9 936.8 1178.0 高校・高専・専門・短大卒 高校・高専・専門・短大卒 1063.9 1347.0 1145.2 1454.1 高校・高専・専門・短大卒 大学以上卒 1135.9 1441.9 1224.0 1557.2 大学以上卒 中卒 1096.2 1389.6 1180.6 1500.5 大学以上卒 高校・高専・専門・短大卒 1349.9 1720.7 1457.3 1858.4 大学以上卒 大学以上卒 1445.1 1842.8 1560.7 1989.5 世帯主と配偶者の学歴 世帯主と配偶者の学歴 世帯主の職業 表2-1-6 世帯属性別の贈与・相続受取額の期待値(万円)1 E(贈与・相続額) E(贈与・相続額|贈与・相続額>0) 勤め人 自営業 1,362.5 万円の贈与・相続の受取が期待できる。表 2-1-5 で見られたように、贈与・相続を受 け取る確率が学歴の水準によって大きく異なることが、このような受取額の違いをもたら していると考えられる。また、分析対象となった標本の半数近くを占める高校・高専・専 門・短大卒同士の世帯では、351.8 万円から 742.2 万円の贈与・相続の受取を期待できる。 この値は、ホリオカ (2008)と Horioka (2009)において 2006 年のアンケート調査から計算さ れた相続額(受け取っていない世帯を含む全世帯)の平均値 343.4 万円よりも若干大きい値と なっている16。 次に、表 2-1-6 の下段に示されている条件付き期待値(E(贈与・相続額|贈与・相続額>0)) の計算結果によると、贈与・相続を受け取る世帯の期待値は、受け取らない可能性を含め て計算した値よりもはるかに大きくなる。これらの世帯の中での属性の違いによる期待値 の差は上段ほど大きくなく、世帯主と配偶者の学歴の組み合わせの違いによって生じる期 待値の差は 2 倍にも満たない。したがって、贈与・相続を受け取る機会さえあれば、生涯 に合計で 800 万円~2,000 万円もの資産を世代間移転の形で受け取ることが期待できるよう である。また、世帯主と配偶者が高校・高専・専門・短大卒同士の平均的世帯では1,000 万 円から 1,500 万円ほどの贈与・相続を受け取っており、相続を受けた世帯の平均額が 1447 万円となっているホリオカ (2008)や Horioka (2009)と近い結果となっている。親の死亡時に 16 ホリオカ (2008)及び Horioka (2009)では本稿の表 2-1-6 の計算とは異なり世帯主と配偶者の年齢で条件付 けられていないことが本稿の値の方が大きくなった理由として考えられる。また、これらの論文で用いら れている『世帯内分配・世代間移転に関する研究』のアンケート調査では生前贈与が尋ねられておらず、 このことも本稿の値の方が大きくなった理由の一つかもしれない。 注1: 確率は、世帯主が70歳男性、兄弟姉妹数4人、長子で、配偶者が67歳女性、兄弟姉妹数4人、長子である世 帯について計算した。

(12)

37 しか相続が発生しないことを考慮すると、ホリオカ (2008)や Horioka (2009)で既に相続を受 けたと答えた世帯の年齢層は、本稿で期待値を計算する際の条件付けに用いた世帯主70 歳、 配偶者67 歳に比較的近いのかもしれない。このことが、本稿の条件付き期待値と近い値と なっている理由の一つとして考えられる。

2-1-3 贈与・相続と所得・資産格差

前節では世帯主と配偶者の学歴が高いほど贈与・相続の受取確率と受取額が大きくなる という結果が得られた。このことは親の教育投資と贈与・相続による世代間移転が代替的 ではないことを示唆しており、子供の教育にお金をかけることのできる裕福な親を持つ世 帯ほど多くの贈与・相続を受け取る可能性があることを示している。この節では贈与・相 続と世帯間の所得・資産格差の関係をより詳しく見るために、世帯主と配偶者の学歴の他 に、世帯のライフサイクル資産額と世帯主と配偶者それぞれの所得額(主たる仕事からの年 間収入)を説明変数として追加する。所得・資産額の多い世帯ほど贈与・相続の受取確率と 受取額が大きければ、贈与・相続が世帯間の格差を大きくする方向に働いていると言える17。 世帯主と配偶者の所得額及び世帯のライフサイクル資産額は、通常は年齢とともに大き くなると考えられるため、これらの変数をそのまま説明変数として用いると、推定された 係数に年齢の効果が含まれてしまう可能性がある。このため本稿ではこれらの変数を世帯 主年齢とその二乗項に最小二乗回帰した残差(各年齢の予測値と各世帯の実現値との乖離) を説明変数として用いた。こうすることで年齢の効果を除去することができ、異なる年齢 の世帯間で所得額と資産額が比較可能となる。なお、世帯主と配偶者それぞれの所得を年 齢項に回帰する際には、一般的な定年年齢である60 歳未満の者のデータのみを用いた18。 表2-1-7 には、このようにして計算した年齢調整済みのライフサイクル資産額、あるいは 年齢調整済みの世帯主所得額・配偶者所得額の各説明変数を贈与・相続額関数に追加して 推定を行った結果が示されている。どの推定方法でもライフサイクル資産額と世帯主所得 額の係数は有意に正に推定されており、資産蓄積能力、所得稼得能力が高い世帯ほど贈与・ 相続を受け取る確率が高く、その額も大きいことが分かる。具体的には、ライフサイクル 資産額が 1,000 万円増加すると贈与・相続の受取確率は 2.7%上昇し、贈与・相続の受取額 は79.5 万円~115.6 万円増加する。世帯主所得額については 100 万円増加すると贈与・相続 の受取確率は1.3%上昇し、贈与・相続額は 29.1 万円~47.4 万円増加する。 では、ライフサイクル資産額と世帯主所得額の多寡に応じて贈与・相続を受け取る確率 17 野口 (1990)や松浦 (2006)では、相続経験の有無が世帯資産額に与える影響が推定されており、相続経験 のある世帯ほど世帯資産額が大きくなるという結果が得られている。また、ホリオカ (2008)と Horioka (2009)では、相続額とライフサイクル資産額の相関係数の符号が負であることから、相続は資産格差を縮小 する方向に働くと結論付けられている。 18 60 歳以上の者については、就業するかしないかの選択が重要となるためサンプルセレクションを考慮し たモデルで推定することが必要になると考えられる。また、就業している者の中で就業形態、職位、労働 時間などのちらばりが大きいため、安定した年齢・所得プロファイルを描くことが難しい。これらの理由 により、所得については59 歳以下の者のデータのみを用いた。

(13)

38 推定方法 係数 標準誤差 係数 標準誤差 限界効果2 標準誤差 係数 標準誤差 係数×σ 年齢調整済みライフサイクル資産額3 (千万円) 115.6 22.7 *** 101.6 19.7 *** 0.027 0.010 *** 0.071 0.020 *** 79.5 誤差分散 (σ) 1310.4 1124.6 -F値/LRカイ二乗値 自由度修正済み決定係数/疑似決定係数 標本数 推定方法 係数 標準誤差 係数 標準誤差 限界効果2 標準誤差 係数 標準誤差 係数×σ 年齢調整済み世帯主所得額3 (百万円) 47.4 12.6 *** 40.7 10.7 *** 0.013 0.006 ** 0.036 0.015 ** 29.1 年齢調整済み配偶者所得額3 (百万円) 10.9 19.1 9.6 16.2 0.004 0.008 0.011 0.022 9.2 誤差分散 (σ) 972.2 817.2 -F値/LRカイ二乗値 自由度修正済み決定係数/疑似決定係数 標本数 表2-1-7 ライフサイクル資産額もしくは世帯主・配偶者所得額を説明変数に含む贈与・相続額関数の推定結果 最小二乗法 区間回帰法 ライフサイクル資産額を説明変数に追加したモデル 順序プロビット法 所得額を説明変数に追加したモデル4 最小二乗法 578 6.48 0.1459 112.13- 126.100.0743 区間回帰法 順序プロビット法 559 118.63 0.0813 5.03 0.1208 94.6 -注1: ***、** 及び * は、推定された係数がそれぞれ1%、5%、10%の水準で統計学的に有意にゼロと異なることを意味する。 注2: 贈与・相続の受取確率に対する年齢調整済みライフサイクル資産額、年齢調整済み世帯主所得額・配偶者所得額の限界効果。 注3: 各説明変数の年齢調整済みの値は、ライフサイクル資産額と各所得額をそれぞれ年齢及び年齢の二乗項に回帰した残差として作成した。 注4: 推定には、世帯主と配偶者ともに59歳以下の世帯のみを使用。

(14)

39 及び受取期待額の理論値はどのように変化するのだろうか。表2-1-8 と表 2-1-9 にはそれぞ れ年齢調整済みライフサイクル資産額と年齢調整済み世帯主所得額に応じた贈与・相続の 受取確率と受取期待額の理論値が計算されている19。表2-1-8 では年齢調整済みライフサイ クル資産額が-2,500 万円から 7,500 万円まで増加すると、世帯主と配偶者が中卒同士の世帯 で受取確率が 6.9%から 21.8%へ、高校・高専・専門学校・短大卒同士の世帯で 24.9%から 51.2%へ、大学以上卒同士の世帯で 35.7%から 63.3%へ上昇するという結果になっている。 受取期待額については、まず贈与・相続を受け取ることで条件付けない期待額(E(贈与・相 続額))は、中卒同士の世帯で 43.0 万円から 196.6 万円へ、高校・高専・専門学校・短大卒同 士の世帯で237.9 万円から 757.0 万円へ、大学以上卒同士の世帯で 410.5 万円から 1,147.4 万 円へ増加する。一方、条件付き期待額(E(贈与・相続額|贈与・相続額>0))は、中卒同士の世 帯で627.0 万円から 901.4 万円へ、高校・高専・専門学校・短大卒同士の世帯で 955.1 万円 から1,478.7 万円へ、大学以上卒同士の世帯で 1,150.1 万円から 1,811.8 万円へ増加する。こ れらの結果から、資産蓄積能力の高い世帯ほど贈与・相続を受け取る確率が高く、その期 待額も大きいものの、ライフサイクル資産額の 1 億円の違いによる期待額の差はたかだか 737 万円(大学以上卒同士の E(贈与・相続額))であり、資産格差拡大の効果はそれほど大きく はない。表2-1-9 には年齢調整済み世帯主所得額別の贈与・相続の受取確率と受取期待額の 理論値が示されているが、世帯主所得額1,000 万円の違いによる期待額の差はたかだか 324 万円(大学以上卒同士の E(贈与・相続額))となっており、ここでも格差拡大の効果は限定的 と言える。 表2-1-8 と表 2-1-9 で得られた結果は、子供世代の資産・所得額が大きい世帯は親世代も 裕福であるために贈与・相続される確率が高く、その額も大きくなる傾向があることを示 しているのかもしれない。本稿で用いたアンケート調査からは親の経済力を表す変数が得 られないため、それを説明変数に加えた上で贈与・相続額関数を推定することができない が、もしこれが可能な場合には、本稿と異なる結果が得られるかもしれない。たとえば、 親が、資産蓄積能力の乏しい子供もしくは所得稼得能力の低い子供に対して優先的に贈 与・相続を行う場合、両者は代替的となることが予想される。この点については今後の検 討課題としたい。

2-1-4 小括

本節では、贈与・相続を通じた世代間の所得・資産移転の実態を明らかにすることに取 り組んだ。まず、贈与・相続の受取確率関数と受取額関数の推定を通じて、どのような属 性を持つ世帯が贈与・相続を受け取る確率が高く、その額が大きいかを推定した。この結 果、世帯主の学歴が高いこと、世帯主の親の死亡、世帯主あるいは配偶者が長男であるこ 19 表 2-1-8 と表 2-1-9 の二行目にはそれぞれ「40 歳時点で評価した」ライフサイクル資産額と世帯主所得 額が記載されている。一行目の年齢調整済みの値は、世帯主の各年齢における予測値からの「乖離」の大 きさを表すが、この値からは「水準」の情報が得られないため、例として世帯主が40 歳時点の資産額と所 得額それぞれの予測値に「乖離」の大きさを足すことで「水準」に置き換えた値も載せた。

(15)

40

-2500

0

2500

5000

7500

-1088.7

1411.3

3911.3

6411.3

8911.3

世帯主と配偶者の学歴

Pr(贈与・相続)

6.9%

9.5%

12.9%

17.0%

21.8%

E(贈与・相続額)

43.0

64.9

95.9

138.7

196.6

E(贈与・相続額|贈与・相続額>0)

627.0

681.8

744.8

817.5

901.4

Pr(贈与・相続)

24.9%

30.8%

37.3%

44.2%

51.2%

E(贈与・相続額)

237.9

326.9

440.6

582.9

757.0

E(贈与・相続額|贈与・相続額>0)

955.1

1060.1

1181.0

1319.9

1478.7

Pr(贈与・相続)

35.7%

42.5%

49.5%

56.5%

63.3%

E(贈与・相続額)

410.5

545.5

711.6

911.7

1147.4

E(贈与・相続額|贈与・相続額>0)

1150.1

1284.4

1438.2

1613.4

1811.8

表2-1-8 ライフサイクル資産額別の贈与・相続の受取確率と受取期待額(万円)

1

年齢調整済みライフサイクル資産額

(万円)

世帯主の40歳時点で評価したライフサイクル資産額(万円)

両者とも中学卒 両者とも高校・高専・専門学校・短大卒 両者とも大学以上卒 注1: 期待確率は、世帯主が70歳男性、兄弟姉妹数4人、長子で、配偶者が67歳女性、兄弟姉妹数4人、長子であり、それぞれの親が全員死亡している世 帯について計算した。 注2: 期待額は、世帯主が70歳男性、勤め人、兄弟姉妹数4人、長子で、配偶者が67歳女性、兄弟姉妹数4人、長子であり、それぞれの親が全員死亡して いる世帯について計算した。 注3: 「世帯主の40歳時点で評価したライフサイクル資産額」とは、ライフサイクル資産額を世帯主年齢とその二乗項に最小二乗回帰した結果得られる世帯 主40歳時点のライフサイクル資産額の予測値(1411.3万円)を基準として、そこから-2500万円、0、2500万円、5000万円、7500万円だけそれぞれ乖離した 場合のライフサイクル資産額の水準。

(16)

41

-250

0

250

500

750

306.9

556.9

806.9

1056.9

1306.9

世帯主と配偶者の学歴

Pr(贈与・相続)

16.0%

18.3%

20.8%

23.5%

26.3%

E(贈与・相続額)

90.8

108.9

129.9

154.3

182.4

E(贈与・相続額|贈与・相続額>0)

571.5

600.0

630.9

664.4

700.6

E(贈与・相続額)

30.3%

33.5%

36.9%

40.3%

43.9%

E(贈与・相続額|贈与・相続額>0)

214.3

251.0

292.8

340.0

393.1

E(Y|贈与・相続額>0)

739.6

782.1

828.2

878.1

932.1

Pr(贈与・相続)

48.0%

51.7%

55.2%

58.8%

62.3%

E(贈与・相続額)

482.2

551.8

628.7

713.4

806.2

E(贈与・相続額|贈与・相続額>0)

1019.1

1084.5

1155.2

1231.3

1313.3

表2-1-9 世帯主の所得額別の贈与・相続の受取確率と受取期待額(万円)

1

年齢調整済み世帯主所得額(万円)

40歳時点で評価した世帯主所得額(万円)

両者とも中学卒 両者とも高校・高専・専門学校・短大卒 両者とも大学以上卒 注1: 期待確率は、世帯主が70歳男性、兄弟姉妹数4人、長子で、配偶者が67歳女性、兄弟姉妹数4人、長子であり、それぞれの親が全員死亡している世 帯について計算した。 注2: 期待額は、世帯主が70歳男性、勤め人、兄弟姉妹数4人、長子で、配偶者が67歳女性、兄弟姉妹数4人、長子であり、それぞれの親が全員死亡して いる世帯について計算した。 注3: 「世帯主の40歳時点で評価した世帯主所得額」とは、世帯主所得額を世帯主年齢とその二乗項に最小二乗回帰した結果得られる世帯主40歳時点 の世帯主所得額の予測値(556.9万円)を基準として、そこから-250万円、0、250万円、500万円、750万円だけそれぞれ乖離した場合の世帯主所得額の水 準。

(17)

42 とが贈与・相続の受取確率と受取額を大きくすることが分かった。また、世帯主が自営業 である(あった)ことは、贈与・相続の受取確率には有意な影響を与えないが、受取額を増加 させる。次に、これらの推定結果に基づき、学歴、世帯主の職業、両親の存命状況別の贈 与・相続の受取確率及び期待受取額を計算した。贈与・相続の受取確率と期待受取額は、 世帯主と配偶者の学歴水準と、世帯主の両親が存命か否かによって大きく異なる。とくに、 世帯主と配偶者が中卒同士の世帯よりも大学以上卒同士の世帯は受取確率が2.5~3.2 倍大き く、期待受取額は 4~5 倍も大きいことが分かった。最後に、贈与・相続額と所得・資産額 との関係を分析した。この結果、所得・資産額が大きい世帯ほど贈与・相続の受取確率と 受取額も大きいことが分かった。したがって、贈与・相続は世帯間の所得・資産格差をよ り拡大する方向に作用すると考えられる。しかし、ライフサイクル資産額 1 億円の増加、 あるいは世帯主所得額 1,000 万円の増加に伴う受取期待額の変化はたかだか数百万円であ り、贈与・相続による格差拡大効果は限定的なものと言えよう。 今回のアンケート調査では親の資産額や所得額などの情報が得られないため、親の経済 力を表す変数を推定式に加えることができなかった。親の経済力は子供の贈与・相続受取 確率と受取額に大きな影響を与えると考えられるので、この変数を用いていない点は今後 改善の余地があると言える。

参考文献

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推定方法 被説明変数

限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差

世帯主年齢 -0.049 0.026 * 0.006 0.003 * 0.009 0.005 * 0.010 0.005 *

世帯主年齢の二乗 4.E-04 2.E-04 * -5.E-05 3.E-05 * -7.E-05 4.E-05 * -9.E-05 5.E-05 *

配偶者年齢 0.003 0.027 0.000 0.003 -0.001 0.005 -0.001 0.005

配偶者年齢の二乗 -6.E-05 3.E-04 7.E-06 3.E-05 1.E-05 4.E-05 1.E-05 5.E-05

世帯主が自営業 -0.042 0.058 0.004 0.005 0.007 0.009 0.008 0.011 配偶者が非専業主婦・主夫 -0.005 0.042 0.001 0.005 0.001 0.007 0.001 0.008 世帯主が中卒 0.063 0.064 -0.008 0.009 -0.012 0.012 -0.013 0.013 世帯主が大卒以上 -0.137 0.037 *** 0.014 0.004 *** 0.023 0.007 *** 0.027 0.008 *** 配偶者が中卒 0.112 0.065 * -0.016 0.012 -0.022 0.014 -0.023 0.014 * 配偶者が大卒以上 -0.038 0.049 0.004 0.005 0.006 0.008 0.008 0.010 世帯主の兄弟姉妹数 0.012 0.011 -0.001 0.001 -0.002 0.002 -0.002 0.002 配偶者の兄弟姉妹数 -0.003 0.013 3.E-04 0.002 5.E-04 0.002 0.001 0.003 世帯主か配偶者が長男 -0.060 0.036 * 0.007 0.005 0.011 0.007 0.012 0.007 世帯主か配偶者が長女 -0.016 0.036 0.002 0.004 0.003 0.006 0.003 0.007 世帯主の親の片方のみが死亡 -0.148 0.046 *** 0.014 0.004 *** 0.023 0.007 *** 0.029 0.009 *** 世帯主の両親ともに死亡 -0.131 0.057 ** 0.013 0.006 ** 0.022 0.009 ** 0.026 0.011 ** 配偶者の親の片方のみが死亡 -0.036 0.044 0.004 0.005 0.006 0.007 0.007 0.009 配偶者の両親ともに死亡 -0.004 0.057 0.001 0.006 0.001 0.010 0.001 0.011 LRカイ二乗値 *** 疑似決定係数 標本数 829 カテゴリー4: 500-1000万円未満 カテゴリー1: 受けたことはない カテゴリー2: 200万円未満 順序プロビット法 表2-1-補A 贈与・相続の受取確率に対する世帯属性の限界効果 カテゴリー3: 200-500万円未満 103.18 0.0447 注1: ***、** 及び * は、推定された係数がそれぞれ1%、5%、10%の水準で統計学的に有意にゼロと異なることを意味する。

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推定方法 被説明変数

限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差

世帯主年齢 0.008 0.004 * 0.007 0.004 * 0.004 0.002 * 0.007 0.004 *

世帯主年齢の二乗 -7.E-05 4.E-05 * -6.E-05 3.E-05 * -3.E-05 2.E-05 -6.E-05 3.E-05 *

配偶者年齢 -0.001 0.004 -4.E-04 0.004 -2.E-04 0.002 -4.E-04 0.004

配偶者年齢の二乗 1.E-05 4.E-05 8.E-06 4.E-05 5.E-06 2.E-05 8.E-06 3.E-05

世帯主が自営業 0.007 0.010 0.006 0.009 0.003 0.005 0.006 0.009 配偶者が非専業主婦・主夫 0.001 0.007 0.001 0.006 4.E-04 0.003 0.001 0.005 世帯主が中卒 -0.010 0.010 -0.008 0.008 -0.004 0.004 -0.007 0.007 世帯主が大卒以上 0.023 0.007 *** 0.020 0.006 *** 0.011 0.004 *** 0.020 0.007 *** 配偶者が中卒 -0.018 0.010 * -0.014 0.008 * -0.008 0.004 * -0.012 0.006 ** 配偶者が大卒以上 0.006 0.008 0.005 0.007 0.003 0.004 0.005 0.007 世帯主の兄弟姉妹数 -0.002 0.002 -0.002 0.002 -0.001 0.001 -0.002 0.001

配偶者の兄弟姉妹数 4.E-04 0.002 4.E-04 0.002 2.E-04 0.001 4.E-04 0.002

世帯主か配偶者が長男 0.010 0.006 0.008 0.005 0.005 0.003 0.008 0.005 世帯主か配偶者が長女 0.003 0.006 0.002 0.005 0.001 0.003 0.002 0.005 世帯主の親の片方のみが死亡 0.025 0.009 *** 0.022 0.008 *** 0.013 0.005 ** 0.023 0.009 ** 世帯主の両親ともに死亡 0.022 0.010 ** 0.019 0.009 ** 0.011 0.006 * 0.019 0.010 ** 配偶者の親の片方のみが死亡 0.006 0.007 0.005 0.006 0.003 0.004 0.005 0.006 配偶者の両親ともに死亡 0.001 0.009 0.001 0.008 3.E-04 0.004 0.001 0.008 LRカイ二乗値 *** 疑似決定係数 標本数 表2-1-補A 贈与・相続の受取確率に対する世帯属性の限界効果(つづき) カテゴリー8: 5000万円以上 0.0447 829 103.18 順序プロビット法 カテゴリー6: 2000-3000万円未満 カテゴリー7: 3000-5000万円未満 カテゴリー5: 1000-2000万円未満 注1: ***、** 及び * は、推定された係数がそれぞれ1%、5%、10%の水準で統計学的に有意にゼロと異なることを意味する。

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2-2. 教育による世代間移転

本節では、世代間の所得・資産移転について、特に教育を通じた移転に着目した分析を 行う。近年、我が国では、所得・資産に関する格差の問題が注目されているが、格差は相 続等を通じて次世代に移転する。格差の世代間移転として第一に想起されるのは、第2-1 節 で分析した遺産の相続を通じるものだが、人的資本への投資としての教育が子供の将来の 所得水準を引き上げる可能性を踏まえれば、教育を通じた格差移転を無視することはでき ない。取り分け、我が国においては親が大学レベルまでの学費等を負担することが一般的 であり、その収益を子供が将来所得として受け取るという形態で教育を通じた親から子へ の資産の移転が発生している可能性が高い。今回の調査では、教育投資に要する費用、及 びその収益に関する問いは設けていないが、高校から大学にかけて要する費用は 1 千万円 程度とされており20、また、学歴の差に基づく生涯勤労所得格差は、賃金統計に基づく概算 でも最大で 5~8 千万円弱にも及ぶことから21、金銭的な遺産相続の額との比較で言っても、 教育には大きな世代間移転効果があると言えるだろう。 表2-2-1 学歴間生涯勤労所得格差(同性高卒労働者の生涯勤労所得との差額、万円) 1985 1990 1995 2000 2005 男性  中学卒業 -2,070 -2,178 -2,206 -2,092 -2,084  高専・短大卒 1,462 1,301 1,164 916 1,191  大学・大学院卒 5,363 5,893 6,089 5,954 5,906 女性  中学卒業 -2,377 -2,563 -2,681 -2,430 -1,747  高専・短大卒 2,636 2,813 2,959 3,043 3,486  大学・大学院卒 6,012 6,748 7,463 7,815 7,714 注)生涯勤労所得は、賃金基本構造調査の一般労働者(産業計、企業規模計)のきまって支給する現金給与と  年間賞与その他特別給与のデータから、59歳迄の期間の勤労所得として概算(マクロの所得成長率=割引率を仮定)。  データの年は、ラベル年を含む前後計5年間の値の平均値を表記している。

2-2-1. 教育水準の決定要因分析

以下では、このような問題意識に立ちつつ、子供の教育水準の決定要因に関する簡単な 分析結果を報告する。子供の教育水準の決定要因分析については、北條 (2008)によくまと められているように、我が国においても幾つかの研究成果があり、親の学歴や所得水準が 教育投資を高める傾向が報告されている(樋口[1992]、中村[1993])他、男子と女子の違い や兄弟数、出生順序等の世帯構成が子供の教育水準に与える影響も分析されている。そこ で、まず、そうした先行研究の結果が今回の調査の個票データを用いた分析でも支持され 20 日本政策金融公庫、平成21 年『教育費負担の実態調査』によれば、高校入学から大学卒業までに必要 な費用は子供一人あたり1,007 万円である。 21 ここでの賃金格差は、賃金の学歴別集計に基づくものであって、純粋な意味での教育投資の収益率とは 大きく異なっている可能性に留意が必要である。例えば、学歴の違いは個々人が持っている本来の能力(潜 在能力)を反映している可能性があり、そうした場合、潜在能力の高い個人は、実際には進学しなくても 高い賃金を受け取るかもしれない。

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47 るか、また、考えられる複数の要因の中で、教育水準の決定において特に重要なものは何 か、を確かめるべく、個々人の学歴水準(中卒=9、高卒=12、短大等卒=14、大卒以上=16) 22を被説明変数とした順序プロビット回帰を行った23 教育水準に影響する変数として回帰で考慮したのは、(1) 本人の性別や誕生年(本人属性)、 (2) 兄弟姉妹数と長子か否か(兄弟姉妹に関する特性)、(3) 両親の誕生年と学歴(親の属性)、 (4) 親の所得、資産(親の経済状況)、の 4 つの要因である。特に、教育を通じた世代間移 転に注目する意味で、(3)と(4)を区分けして、それぞれが子供の教育をどの程度説明するか を検討してみた。 本人属性のうち、性別につては、女子よりも男子において大学進学率が高いことはよく 知られており、実証的にも検証されている(Ono[2004])。また、戦後、日本では高学歴化が 急激に進んでいることから、誕生年が大きくなる(後に生まれる)ほど、教育水準は高く なっていることが予想される。 兄弟姉妹構成が教育に与える効果については、兄弟姉妹の人数が増えると(親の教育費 負担が増大し)教育水準が低下することが多くの先行研究で報告されている。また、長男 の進学率が高くなる傾向があることも指摘されている。回帰モデルではこれらの効果をと らえるため、兄弟数、姉妹数それぞれと、当該人が当てはまる場合に 1 をとる長男/長女ダ ミーを説明変数とした。 親の属性については、父親、母親それぞれの誕生年と、両親の学歴を表すダミー変数で コントロールした。親の誕生年を回帰に含めたのは、親が属する世代によって自らの子供 に施したい教育水準が違っている可能性があると考えたことによる。親の学歴が子供への 教育投資に影響することは多くの実証研究で検証されているが、両親それぞれの役割につ いては、母の影響を強調する研究、父のそれを強調する研究の双方が存在し、いずれか一 方のみの学歴で子供の教育が説明できることはなさそうである。そこで本稿では、両親の 学歴の全ての組み合わせを表すダミー変数を用いて、親の学歴ペアが子供の教育に与える 影響を見ることにした。 最後に親の経済状況については、父親、母親それぞれの勤労所得と両親世帯の保有資産 を説明変数に加えてみた。経済的に恵まれた家庭の子供が高い教育を受けていることは広 く認識されているが、親の経済的状況と親の学歴には強い相関があると考えられ、純粋効 果を見る上では両者を同時に考慮した分析が不可欠だろう。また、第2-1 節の遺産相続の分 析でも述べた通り、ワンショットのアンケート調査結果から得られる所得や資産のデータ 22 既述の通り、今回の調査では学歴について、(一旦就学を終えた個人についてのみ入手可能な)最終学 歴(実績)と全ての個人で回答を得た目標学歴の二つを収集している。そのいずれを分析対象にするかに は一長一短があり、分析目的に応じて判断されるべきものだが、本節では、標本数を確保し、将来に向か っての動向まで見通せるというメリットを考え、目標学歴ベースのデータを報告することにした。ちなみ に、両方のデータが入手できた個人に限定して見れば、両系列にはほとんど差は見られない。また、表2-2-2 と同様の回帰を、実績ベースの学歴で行った結果は、節末尾の表2-2-補 A に示してある。 23 予備的作業として、全く同一の説明変数を用いた最小二乗法による回帰も行ってみたが、得られる結論 は本稿で報告しているプロビット回帰のそれとほとんど変わらない。

参照

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