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 日本語学習者にとって、日本語の丁寧体と普通体の使い分け、すなわちスピーチレベルシフトの習得は難しいと言われている

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Academic year: 2021

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修士論文(要旨) 2012 年 1 月 初対面二者間会話におけるスピーチレベルシフトとその指標的意味 指導 宮副ウォン裕子 教授 言語教育研究科 日本語教育専攻 210J3005 篠崎佳恵

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目 次 用語の定義 ···1 第 1 章 はじめに ···2 1.1 研究の背景 ··· 2 1.2 研究の目的 ··· 2 1.3 本論文の構成 ··· 2 第 2 章 先行研究 ···4 2.1 母語場面のスピーチレベルシフトに関する先行研究 ··· 4 2.2 接触場面のスピーチレベルシフトに関する先行研究 ··· 5 2.3 指標性に関する先行研究··· 5 2.4 本研究の位置づけ ··· 8 第 3 章 調査概要 ···9 3.1 調査協力者 ··· 9 3.2 調査方法 ··· 9 第 4 章 分析方法 ··· 11 4.1 文字化の基準 ···11 4.2 スピーチレベルの分類基準···11 4.3 スピーチレベルの判定基準詳細 ··· 12 第 5 章 分析 ···14 5.1 グローバル分析 ··· 14 5.2 ローカル分析 ··· 19 第 6 章 総合的考察 ···40 6.1 普通体の指標的意味について ··· 40

6.1.1 普通体の unmarked use と marked use ··· 40

6.1.2 普通体の unmarked use/marked use と相手の印象の関連 ··· 41

6.1.3 接触場面におけるアイデンティティ「共同作業者」について ··· 42 6.2 母語場面と接触場面における規範の相違について ··· 43 6.2.1 スピーチレベルの選択と聞き手の評価 ··· 43 6.2.2 心的距離の見積もり ··· 44 第 7 章 まとめと今後の課題 ···46 参考文献 ···a 添付資料 1:インタビューシート ···i 添付資料 2:同意書 ···ii 添付資料 3:文字化資料 ··· iii

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1 キーワード【スピーチレベルシフト 接触場面 指標性 タスク 言語の社会化】 要旨 日本語学習者にとって、日本語の丁寧体と普通体の使い分け、すなわちスピーチレベルシフ ト(以下、SL シフト)の習得は特に難しいと言われている。そのため、これまで母語場面や 接触場面の談話を対象として、SL シフトの機能や、学習者の特徴を明らかにする多くの研究 がなされてきた。しかしながら、大部分の研究は初対面の 1 回の接触のみを対象としており、 時の経過につれて変化する人間関係の実態を考察した実証的研究の蓄積は乏しい。加えて、こ れまでの研究ではBrown & Levinson(1987)のポライトネス理論を基に、SL シフトを「ポラ イトネス・ストラテジー」として一面的に捉えたものが多く、SL シフトの多様性・多義性を 十分に説明できたとは言えない。この解明のために、本研究では新しいアプローチとして指標 性の概念を用いた。本研究は、母語場面および接触場面の同年代初対面二者間会話におけるSL シフトに着目し、その指標的意味を明らかにすることを目的とする。 Cook(2008)では、ウチの関係にある会話参加者間の談話で用いられる丁寧体に着目し、そ の指標的意味を考察している。その結果、丁寧体は「Self-presentational Stance(姿勢を正す)」 を直接指標し、それがウチの文脈で用いられる場合は、「責任者」「知識がある者」「遊び」な ど様々な社会的アイデンティティやアクティビティを間接的に指標することを明らかにした。 その上で、言語形式が指標する意味を社会的文脈に照らして理解することが、コミュニケーシ ョン能力を向上させる上で非常に重要だとしている。本研究は Cook(前掲書)の考察結果に 基づき、初対面会話で用いられる普通体の指標的意味を明らかにしようとするものである。 本研究で使用したデータは、稿者が収集した母語場面3 組、接触場面 3 組、各 4 回分の準自 然談話と、その文字化資料、およびフォローアップインタビューである。調査協力者は20~30 代の日本人9 名、中国人 3 名(日本語上級)であった。自然な会話を持続させるため、「短期 留学生のためのパンフレットを作る」という作業を1 対 1 でしてもらい、その様子を録画、録 音した。 分析方法としては、各ペアのスピーチレベルの比率および変遷を量的に明らかにするグロー バル分析と、個々の発話に着目して動的かつ相互構築的な指標的意味を質的に明らかにしてい くローカル分析の2 種を行った。グローバル分析の結果、母語場面においては同年代の初対面 会話で丁寧体を基本レベルとすることが規範と考えられていること、2 者間のスピーチレベル は全体的にほぼ相似をなすこと等がわかった。接触場面においては、日本語母語話者が普通体、 非母語話者が丁寧体を基本レベルとした不均衡な状態で会話を進めたペアが多かったこと等 が明らかになった。ローカル分析では、普通体の直接的指標を聞き手への意識が低くなる 「off-stage」の情意的スタンスと捉えて分析を行なった。母語場面では 1)独り言、2)感嘆、3) 引用、4)共同作業者などのアクトやアイデンティティが、普通体により間接的に指標されて いることがわかった。接触場面では、これらに加え、5)母語話者支援者のアイデンティティ も観察された。これらの例から、普通体と「心的距離」・「上下関係」を直接的に結びつけるこ とはできず、普通体は実際の談話において社会的文脈に応じた多様な指標的意味を持っている ことが示された。 総合的考察では、初対面場面における普通体の使用には上記1)~5)のように「心的距離」

や「上下関係」に直接寄与しないunmarked use と、それ以外の marked use があることを示した。 unmarked use/marked use の比率は会話参加者の互いの印象に影響を与えており、これを考慮に

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入れることで、SL の変遷および人間関係の変化について、より深い理解が可能になることが 明らかになった。 また、本研究の談話収集において内容重視のタスクを取り入れたことで、アイデンティティ の交渉過程を観察することが出来た。接触場面においては、「日本語母語話者」対「非母語話 者」という二項対立的な立場と、それに相対する対等な「共同作業者」という立場を、会話参 加者が動的かつ双方向的に構築していたのである。このことからは、教室授業にタスクを取り 入れる有用性も示唆された。 最後に、母語場面と接触場面では、SL の選択に対する評価や心的距離の見積もりにおいて、 差異があることがわかった。相互行為の前提となる共通の規範が存在しない接触場面において は、指標性の解釈も母語場面とは異なる。これが、母語場面と異なる結果をもたらしたと考え られる。 2

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Cook, H. M. (2008). Socializing Identities through speech style. Buffalo: Multilingual Matters.

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