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プレス通知資料(研究成果)
報道関係各位
2018 年 8 月 17 日
国立大学法人 東京医科歯科大学
学校法人 日本医科大学
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
軟骨遺伝子疾患の原因遺伝子であるSox9の発現システムの解明
― 先天性骨軟骨形成異常症の病態解明へ向けた発見 ―
【ポイント】 SOX9 は、性分化や軟骨細胞の分化に必須の役割を持つ転写因子であり、その SOX9 遺伝子もしくは そのエンハンサーの突然変異により、先天性骨軟骨形成異常症 (キャンポメリックディスプラシア)が 引き起こされることがわかっていました。 今回研究チームは、CRISPR/Cas9 を用いたゲノム編集技術を複数の研究手法(クロマチン免疫沈降 (ChIP)と次世代シークエンサーおよび質量分析、エピジェネティックスな編集制御、エンハンサーのノッ クアウトマウスの作成・解析)と組み合わせることによって、マウスの肋軟骨部位に特異的なエンハン サー (Rib Cage Specific Enhancer: RCSE) が Sox9 遺伝子から遠く離れた 1Mb 付近に存在し、これが 転写因子 Stat3 によって制御されることをつきとめました。 この発見は、キャンポメリックディスプラシアやアキャンポメリックディスプラシアといった先天性骨軟骨 形成異常症の病態解明へとつながる可能性があります。 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科システム発生再生医学分野の淺原弘嗣教授と日本医科大学 医学部整形外科学大学院生ならびに東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科システム発生再生医学 分野特別研究学生の望月祐輔大学院生は、日本医科大学医学部整形外科学、慶應義塾大学医学部整形外 科学、産業技術総合研究所創薬分子プロファイリング研究センターらのグループとの共同研究で、Sox9 遺伝子から遠く離れた 1Mb 付近に存在するエンハンサーとそこに結合する Stat3 という転写因子が、肋軟骨に おける Sox9 遺伝子の作動を制御する発現システムであることを見出しました。この研究成果は、先天性骨形 成異常症キャンポメリックディスプラシアの原因の解明に寄与する可能性があります。この研究は、文部科学 省科学研究費補助金(基盤研究)ならびに日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業 (AMED-CREST)「メカノバイオロジー機構の解明による革新的医療機器及び医療技術の創出」研究開発領域解禁日時:2018 年 8 月 24 日(金)午前 0 時(日本時間)
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における研究開発課題「腱・靱帯をモデルとした細胞内・外メカノシグナルの解明とその応用によるバイオ靱帯 の創出」(研究開発代表者:淺原弘嗣)、の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌 Developmental Cell (デベロップメンタル・セル)に、2018 年 8 月 23 日午前 11 時(米国東部時間)にオンライン 版で発表されます。 【研究の背景】 軟骨細胞の分化や発生に必須の役割を持つ転写因子として SOX9 (SRY-box9) が挙げられます。この SOX9 遺伝子もしくはその周辺の突然変異により骨軟骨の異形成と性分化異常を主徴とする、重篤な先天性 骨形成異常症 (キャンポメリックディスプラシア, アキャンポメリックディスプラシア)を引き起こすことが知られ ておりましたが、SOX9 の遺伝子のスイッチ部分(エンハンサー)は、非常に長い距離(約 2Mb)のどこかに存在 するといった特殊なものであるため、現在まで解明されていませんでした。 【研究成果の概要】近年、遺伝子改変を可能とする CRISPR (clustered regularly interspaced short palindromic repeats) /Cas system を用いて、 エンハンサーの同定やエピジェネティックス制御の戦略が報告がされています。我々はこれ らシステムを組み合わせることで、未だ明らかでない Sox9 の軟骨特異的なエンハンサーの同定を試みました。 まず、Sox9 の近傍に設計した CRISPR/Cas system をレトロウイルスによりマウスの初代肋軟骨細胞に対し導 入後、クロマチン免疫沈降とシークエンス(ChIP-seq)によって Sox9 から約 1Mb 離れたところに軟骨エンハンサ ー(RCSE)の候補を見出しました(図1)。
図 1 Sox9 上流 1Mb 付近に存在する肋軟骨特異的エンハンサー (RCSE) を同定するまでの模式図
A. 胎児マウスの初代肋軟骨細胞を採取し、レトロウイルスを用いて Sox9 プロモーター領域付近の guide RNA (gRNA)と deactivated Cas9 (dCas9)を遺伝子導入後、HA 抗体にて ChIP-seq を施行した模式図。
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B. ChIP-seq の結果。gRNA 領域に強いピークを認める他に、Sox9 遺伝子から約 1Mb 離れた箇所に有意なピ ーク (RCSE)を認めました。 肋軟骨細胞において、この軟骨エンハンサーの候補領域に遺伝子の作動をストップする機能のあるエピジェ ネティックシステムを誘導すると、Sox9 の遺伝子の作動が弱まることが確認されたため、遺伝子スイッチとして 機能することが示唆されました。 また、この RCSE が作動する部位で青く染まる LacZ-トランスジェニックマウスを作成したところ、肋骨の軟骨 に青い染色が見られたため、RCSE は肋軟骨においてのみ Sox9 を作動させるスイッチであることがわかりまし た(図2)。
図 2 RCSE 領域を Sox9 プロモーターにつなぎ LacZ 配列を含んだベクターを用いたトランスジェニックマウスの 作成
A. E12.5 ならびに E14.5 のトランスジェニックマウスで X-gal 染色を行った全体像。E12.5 および E14.5 両方で 肋軟骨特異的な染色を認めており、E14.5 では胸骨部分にも染色を認めました。
B. E14.5 のトランスジェニックマウスの切片。肋軟骨、および胸骨に染色を確認できます。
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軟骨を含んだ胸郭のみの低形成・狭小化を認めました(図3)。また切片では肋軟骨のみで増殖軟骨細胞層の 狭小化、および肥大軟骨細胞層の増大を認めました。これによって、このスイッチが肋軟骨における Sox9 遺伝 子の作動に必要不可欠であることが証明されました。 図 3 RCSE 領域を欠失させたノックアウトマウスの作成 A. E16.5 の骨格標本。RCSE ノックアウトマウスでは肋軟骨を含んだ胸郭のみの狭小化・低形成を認めまし た。 B. 生後 10 週のマイクロ CT 画像。骨格標本と同様、RCSE ノックアウトマウスで胸郭のみの狭小化・低形成を 認めています。 最後に、この RCSE に結合するタンパクを質量分析装置をもちいて解析したところ、Sox9 のスイッチを押す転 写因子として Stat3 (Signal transducer and activator of transcription 3)が同定されました。この Stat3 遺伝子を 欠損させると、Sox9 が作動しなくなり、軟骨発生が抑制されました。5
図 4 転写因子 Stat3 が肋軟骨特異的エンハンサーである RCSE 領域を介して Sox9 の発現を制御している模 式図 【研究成果の意義】 現在、ゲノムの機能を解析するための様々な手法が開発されていますが、それぞれ一長一短があり、まだま だ、未解明の先天性疾患や難病が多く残されています。 本研究では、最近までに報告されてきた複数の CRISPR/Cas9 を用いた研究手法を組み合わせることによっ て、初めて肋軟骨における Sox9 遺伝子のスイッチ機構を明らかにすることができました。これらの結果は、先 天性骨軟骨形成異常症(キャンポメリックディスプラシア)の疾患メカニズムの解明につながるものであり、本研 究で用いられた手法は他の疾患の研究にも生かされることが期待されます。 【論文情報】 掲載誌: Developmental Cell
論文タイトル: Combinatorial CRISPR/Cas9 approach to elucidate a far-upstream enhancer complex for tissue-specific Sox9 expression
【研究者プロフィール】 淺原 弘嗣
東京医科歯科大学 システム発生再生医学分野 教授 ・研究領域