石油開発史上悪夢ともいえる米国メキシコ湾 原油流出事故 英系メジャー(国際石油資本)である BP をは じめとした欧米メジャーが,北海油田をはじめ とした海上油田の本格的な開発を開始して,40 年以上の歳月が経過する。北海油田が1960年代 に本格的な開発を開始された時点では,気象条 件の厳しさ,水深100メートルを超す海底油田の 開発ということから,1969年7月20日に成功し た月面着陸よりも高い技術が必要であるとエネ ルギー専門家は考えていた。その後,海上油田 開発技術が進歩し,1970年代後半から米国メキ シコ湾における深海部油田の開発が始まり,現 在では水深3,000メートルを超える深海におけ る油田開発にまで進歩している。しかし,筆者 は長い間懸念を持っていた。それは,人類が有 人で潜水できる100メートルから200メートルを はるかに超えた深海における石油・天然ガス開 発は,事故が起こった場合の有人による復旧が 不可能であり,安全対策が完全に整備されない うちに,深海部油田開発技術だけが先に進歩し てしまうという歪さである。そうした筆者の長 年にわたる懸念が現実のものとなってしまっ た。2010年4月20日に,メキシコ湾の米国ルイ ジアナ州沖合い80キロメートルにおいて,英系 メ ジ ャ ー で あ る BP が 権 益 の65%を 持 っ て お り,オペレーター(主操業者)となって掘削し て い た 深 海 部 油 田 で あ る デ ィ ー プ・ウ ォ ー ター・ホライズンのマコンド油井が暴噴事故を 起こし,海面上のプラットフォームにおいて尊 い11名の犠牲者を出したうえに,深海油田から の大量の原油流出が7月中旬までの3ヵ月間に わたって続くという大惨事が発生した。原油流 出が長期間にわたって食い止められなかった理 由は,水深1,500メートルに達する深海海底の原 油生産施設が破壊したため,復旧作業が難航し たからに他ならない。本来は,海底の原油取り 出し部には原油噴出防止装置(BOP:Blowout Preventer)が設置されており,原油・天然ガス暴 噴事故の場合には,BOP が即座に作動して,バ ルブを封鎖し,原油流出を防ぐ仕組みとなって いる。実際の油田・ガス田の開発においては, 原油,天然ガスの暴噴事故は頻繁に起こる現象 である。しかし,2010年4月20日の事故におい ては,原因究明には1年を超える時間がかかる と予想されるものの,BOP そのものが何らかの 理由により損傷して,作動しなかった。そのた め,BP は,遠隔操作ロボット(ROV:Remotely Operated Vehicle)によって,BOP のバルブを閉 める作業を行ったが,水深1,500メートルという 高圧(150気圧)と,太陽の光が届かない暗黒, さらには低温のために天然ガスがメタン・ハイ ドレートとなって原油流出遮断装置を妨害す る,等の様々の作業障害要因が重なり,2010年 7月中旬まで原油流出封鎖作業を成功させるこ とができなかった。 和光大学 経済経営学部教授 経済学科長 岩 間 剛 一
米国メキシコ湾原油流出事故により
一段と重要性を高める中東産原油
20 中東協力センターニュース 2010・8/92010年7月15日に,BP は原油噴出部分に鋼鉄 製の蓋をして,大部分の原油回収にようやく成 功し,メキシコ湾への原油流出量は大幅に減少 したと発表した。しかし,最終的には2010年8 月中旬以降に2本のリリーフ・ウェルという復 旧作業のための支援井戸を海底下4,000メート ルまで掘削して,セメントを流し込み,マコン ド油井の原油流出を根元から止める必要があ る。リリーフ・ウェルの1本は7月末時点では 海底下3,500メートル程度まで掘削が進んでお り,早ければ8月上旬にはマコンド油井の原油 流出部分封鎖の最終的な作業を開始できる可能 性があり,8月上旬には部分的に汚泥を注入し て油井を塞ぐ一時作業を開始している(もっと も,この論考が公刊された時点で,リリーフ・ ウェルによるセメント注入によって,原油流出 塞ぎ込み作業が100%成功している保証はない。 それは,作業を実 際 に 行 っ て い る BP 自 身 も 100%確実な作業ではないと認めているからに 他ならない)。 BPによる最初の発表においては日量5,000バ レル以上の原油が深海からメキシコ湾に流出し て い る と し て い た が,米 国 の 地 質 調 査 所 (USGS)は,原油流出量は日量3万バレルから 6万バレルに達し,筆者の推定では7月中旬ま でに最大では合計540万バレルと,米国における 石油開発史上過去最悪の1989年に発生したエク ソン(現在のエクソンモービル)のタンカーで あるバルデス号のアラスカ沖合いにおける座礁 による原油流出量26万バレルを,20倍以上も上 回る過去最大の原油流出事故 (Giant Oil Spill) が発生した状況となっている。油田権益の65% を持つオペレーターである BP は,4月の原油 流出事故発生時点では実際の作業会社であるス イスのトランス・オーシャン社と原油噴出装置 を製造したキャメロン・インターナショナル社 に責任があるとしていたが,米国世論の強い非 難を受けて,トニー・ヘイワード CEO(最高経 営責任者)は,「BP が全面的に責任を負い,メキ シコ湾の環境保護のために全力を尽くす」とい う声明を発表している。ただし,トニー・ヘイ ワード CEO は,2010年6月17日に米国下院エネ ルギー・商業委員会の公聴会で謝罪した直後 に,自分が持つヨット・レースの見学で即座に 英国へ帰国したことから,米国国民の間におい ては,BP に対する反感が一段と高まり,2010年 7月27日の BP による第2四半期決算発表にお いて,トニー・ヘイワード CEO は,今回の原油 流出事故の責任をとって,2010年10月1日に辞 任することを発表した。米国メキシコ湾におけ る原油流出事故は,単に BP という一石油企業 の経営にとどまらず,世界の石油・天然ガス開 発に重大な影響を与える可能性が高く,開発コ ストの上昇に伴う原油価格への影響,石油産業 の再編にもつながってくる。そして,今後も年 率1%以上の割合で増加する世界の石油需要を 満たすために,世界の原油埋蔵量の半分以上を 占め,かつ生産コストの安い中東産油国の原油 供給の重要性が一段と高まる結果をもたらすと 筆者は考えている。そうした21世紀半ばに向け ての世界の石油・天然ガス開発の動向と中東産 油国の原油が国際石油情勢に果たす貢献につい て,詳細に分析することとする。 米国の原油生産を支えていたのはメキシコ湾 深海部油田開発 米国では,アラスカ州,カリフォルニア州を はじめとした環境意識の高い州では,原油埋蔵 量が豊富に存在するにもかかわらず,油田開発 が20年以上にわたって手付かずの状態にある。 アラスカ州の ANWR(北極圏野生生物保護区: Arctic National Wildlife Refuge)における油田開 発は,筆者が1980年代後半に石油公団(現在の 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)企画調査部 に出向していた時代から,莫大な原油埋蔵量が 確認されながらも,環境保護団体の強い反対に 21 中東協力センターニュース 2010・8/9
米国の原油生産量推移(単位:千b/d) 6,200 6,400 6,600 6,800 7,000 7,200 7,400 7,600 7,800 8,000 1999年2000年2001年2002年2003年2004年2005年2006年2007年2008年2009年 よって,21世紀に入った今も開発されていない。 特に,1989年のエクソンのタンカーによる原油 流出事故を契機として,アラスカにおける自然 環境保護意識が一段と高まり,油田開発に前向 きなブッシュ大統領をはじめとした共和党政権 の時代においても,アラスカ州における油田開 発は,政治的に困難な状況にあった。それに対 して,メキシコ湾は,テキサス州,ルイジアナ 州,ミシシッピ州,アラバマ州という産油州に 面し,共和党選挙基盤の牙城でもあることから, 環境規制が比較的厳しくない場所であり,カリ フォルニア州においては,厳しく規制されてい る油田開発,LNG(液化天然ガス)受入基地の 建設等が活発に進められていた。特に,21世紀 に入って,米国本土48州の原油生産が一段と減 少する中で,メキシコ湾の新規深海部油田の開 発による原油・天然ガス生産増が米国の原油生 産を,事実上支えてきたといえる。 1970年の1,000万 b/d をピークとして,減少傾 向を続けてきた米国の原油生産量が2009年に増 加したのは,BP をはじめとしたメジャーによる メキシコ湾の深海部油田の開発によるところが 大きいのである(図表1)。ブッシュ大統領時代 から,米国のエネルギー安全保障のために,メ キシコ湾の油田開発は原油生産量増加の切り札 として位置づけられてきた。しかし,筆者は海 上における油田開発である以上,ちょっとした 作業の手違い,パイプ破損が原油流出につなが り,一度原油流出事故が発生すれば,陸上油田 の場合と違って,海上における原油流出に伴う 損害は桁外に大きく,さらに海水中に原油が混 濁してしまい,中和剤等の化学薬品が環境汚染 を深刻化してしまう。それが米国全体の環境保 護意識に火をつけ,米国国内における新規油田 開発そのものがストップしてしまうのではない かと懸念していた。その懸念が,現実のものと なりつつある。しかも,メキシコ湾において近 年開発が進められている油田は,水深1,000メー トルを超える深海部油田であり,もっとも深い 油田は水深3,000メートルを超える。ブラジル沖 合いの岩塩層にある巨大油田プレサルは,原油 埋蔵量が500億バレル超と中東産油国の巨大油 田に匹敵するものの,水深5,000メートルにも達 する。こうした深海における原油生産は,技術 的に未知の領域である部分も多く,人間が潜水 して作業できる水深が100メートルから200メー トル程度にとどまることから,一度事故が起き た場合の修復は,陸上油田や浅海部油田とは比 較にならないほど難易度が高い。さらに,今回 のメキシコ湾深海部油田の事故による原油流出 (図表1)米国の原油生産量推移 出所:BP 統計2010年6月 22 中東協力センターニュース 2010・8/9
量がエクソン・タンカー事故を上回る米国史上 過去最悪のものとなってしまったことから,か ねてより油田・ガス田開発に伴う環境破壊に大 きな懸念を持っていた米国の環境保護団体の姿 勢を強硬なものとし,ひいては世界の石油・天 然ガス開発に重大な影響を与える可能性が高ま っている。 メジャーが活路を見出していた深海部油田開発 BP,シェルをはじめとしたメジャーは,1960 年代以降に海上油田の開発を活発化させてき た。オランダ沖合いのガス田発見とともに,英 領北海,ノルウェー領北海で巨大油田・ガス田 が次々と発見され,北海油田の開発が本格化し た。北海油田は,気象条件が過酷であるうえに, 水深が200メートルを超え,技術的には極めて困 難であるとされていた。1970年代後半からは, 米国メキシコ湾の海上油田開発が本格化した。 海上油田は,米国内務省鉱物資源管理局の定義 によれば,水深1,000フィート(300メートル)以 内を浅海(Shallow Water),1,000フィート超を 深海(Deep Water)と呼び,メキシコ湾の油田の 水深は1,000メートルを優に超える。それにもか かわらず,メジャーが中心となって,深海部油 田開発が進められた理由は,第1に1970年代の 2度にわたる石油ショックを経て,メジャーが 取 得 で き る 中 東 産 油 国 の 陸 上 油 田 等 の イ ー ジー・オイル(開発が容易で,生産コストの安 い油田)が激減したからである。現在では,世 界の原油埋蔵量の8割は産油国国営石油企業が 所有しており,メジャーが保有する原油埋蔵量 は7%から8%程度に過ぎない。 第2に外国石油企業の資金と技術を必要とす るイラク,リビアが鉱区の対外開放を最近は進 めているものの,国際競争入札には国内のエネ ルギー需要が急激に増加し,石油資源がノドか ら手が出るほど必要な中国,インドをはじめと した新興経済発展諸国の国営石油企業が経済性 を度外視して入札することが多くなり,経済合 理性を追求するメジャーの目線に適った油田権 益の取得が難しいことが挙げられる。メジャー は,あくまでも欧米流の市場経済のもと,四半 期ごとの利益重視と株主への短期的利益の還元 という経営戦略を策定していることから,新興 経済発展諸国の国営石油企業との競争条件の厳 しい中東諸国の陸上油田開発には消極的になら ざるを得ない。 第3に深海部油田の開発は技術的な難易度が 高く,新興経済発展諸国の国営石油企業では開 発を行うことができず,メジャーが独占的な優 位性を持って開発を進めることができる石油・ 天然ガス開発フロンティアである。水深1,000 メートルを超える深海部油田の開発技術を持っ ている石油企業は,BP,シェルをはじめとした メジャーとアナダルコをはじめとした米国の中 堅石油企業の一部に限られ,欧米石油企業の独 占状態にある。 こうした理由から,BP,シェルをはじめとし たメジャーは,1970年代の後半以降から,深海 部油田の開発技術に磨きをかけてきたのであ る。特に,米国メキシコ湾は,米国内務省によ る鉱区リースにあたっての税制優遇,稠密な海 底パイプ・ライン・ネットワークの展開によっ て,開発条件が大幅に改善し,メジャーにとっ て開発の容易なイージー・オイル化し,開発が 急速に進んでいた。メキシコ湾における深海部 油田の開発は,1979年のシェルによるコニャッ ク油田の開発を嚆矢として,2008年時点で4,000 ヵ所を超える深海部油田鉱区リースが,米国内 務省鉱物資源管理局によって行われている(図 表2)。 深海部油田の開発は,1970年代後半のメキシ コ湾から始まり,1990年代前半にはブラジル沖 合い,1990年代後半には西アフリカ沖合い,2000 年代からは東南アジア沖合いへと,開発地域を 急速に拡大してきた。現在では,カスピ海を含 23 中東協力センターニュース 2010・8/9
米国メキシコ湾水深別リース鉱区割合(%) リース鉱区総数7,310ヵ所2008年末 43 28 19 10 1,000フィート以下 1,500-4,999フィート 5,000-7,499フィート 7,500フィート以上 メジャーの石油・天然ガス生産量推移 (単位:千b/d) 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 4,500 5,000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 BP シェブロン コノコ・フィリップス エクソンモービル シェル トタール めた全世界において深海部油田の開発が進めら れている。メジャーの中でも,BP はメキシコ湾 深海部油田の開発を積極的に進め,巨大ハリ ケーンによる被害もなかったことから,石油・ 天然ガス生産量を順調に拡大し,2009年におけ る石油・天然ガス生産量では,エクソンモービ ルを抜いて,世界第1位の400万 b/d(石油換算) にも達している(図表3)。 メキシコ湾原油流出事故は原油価格上昇の要因 になる可能性 メキシコ湾における原油生産量は2009年時点 において160万 b/d 程度と,米国国内の原油総生 産量674万 b/d の23.7%にも相当する(BP 統計 と米国内務省鉱物資源管理局統計。ただし,BP 統計は NGL(天然ガス液)を含むため,原油ベー スで見るとメキシコ湾の原油生産 (Crude Oil) 比率は,もっと高くなる)。米国内務省鉱物資源 管理局の統計では,2007年時点におけるメキシ (図表2)米国メキシコ湾における水深別リース鉱区割合(%) 出所:米国内務省鉱物資源管理局 (図表3)メジャーの石油・天然ガス生産量推移(単位:千b/d) 出所:メジャー各社決算短信 24 中東協力センターニュース 2010・8/9
米国におけるメキシコ湾油田原油生産量 割合(%)2007年(米国内務省) 17.8 7.6 74.6 深海部油田 浅海部油田 その他米国国内 コ湾の原油生産量は米国全体の25.4%に達する とされている(図表4)。21世紀に入ってからは, 探鉱・開発条件の改善,海底探査技術の向上, 深海掘削技術の進歩,海底パイプライン網の整 備等によって,メキシコ湾深海部油田の開発が 一段と進んでいる。特に,BP,シェルはメキシ コ湾深海部において巨大油田を次々と発見して いる。しかし,メキシコ湾は,巨大ハリケーン の通り道であり,巨大ハリケーンが通過するた びに原油生産停止という事態が何度も発生して いる。2005年8月末にカテゴリー5という超巨 大ハリケーンであるカトリーナがメキシコ湾に 来襲した際には,米国国内の原油供給が減少す るという思惑から投機資金が原油先物市場に殺 到し,原油価格を高騰させている。2010年夏以 降も,メキシコ湾深海部油田による原油流出事 故が拡大し,米国政府による安全確認のために メキシコ湾全体の油田の点検が実施されるよう な事態となった場合,さらには巨大ハリケーン がメキシコ湾に来襲し,原油回収作業が難航し て,原油生産基地が操業を停止した場合には, 米国国内における原油生産量の減少に伴う原油 在庫の減少から,WTI 原油が上昇する可能性が 高い。既に,米国政府は原因究明が完了するま で新規の深海部油田開発を当面ストップする意 向を表明している。10月上旬までは,ハリケー ン・シーズンであるために,メキシコ湾にハリ ケーンが接近すると,米国国内原油需給逼迫の 思惑から WTI 原油価格は1バレル80ドルから 100ドルまで上昇する可能性が高い。既に,2010 年8月上旬時点において,メキシコ湾に熱帯低 気圧が接近していることから,WTI 原油価格は 1バレル80ドルを超える水準にある。 メキシコ湾周辺は,米国石油産業の中心地と して,沿岸部には製油所が集中しており,湾内 には油田・ガス田が数千ヵ所ある。そのため, ひとたびハリケーンが来襲すると,原油・天然 ガスの生産が停止するだけでなく,ガソリンを はじめとした石油製品の製造もストップしてし まう。そのため,米国国内における軽質原油の 需給逼迫,ガソリンの需給逼迫が同時に発生し, ニューヨークの NYMEX(ニューヨーク商業取 引所)における WTI 原油先物へ投機資金が流入 し,WTI 原油価格が高騰する可能性が高い。特 に,21世紀に入ってからは,原油市場は外国為 替市場のような金融市場の一つとしての性格を 強く帯びるようになり,米国の金融政策を背景 とした投機資金の動き,それに加えて世界の石 油需給というよりも,米国国内の原油需給,ガ ソリン需給,WTI 原油の受け渡し地点であるオ (図表4)米国におけるメキシコ湾の原油生産量割合2007年(%) 出所:米国内務省鉱物資源管理局統計 25 中東協力センターニュース 2010・8/9
米国におけるメキシコ湾ガス田天然ガス 生産量割合(%)2007年(米国内務省) 5.0 8.8 86.2 深海部ガス田 浅海部ガス田 その他米国国内 クラホマ州クッシングの WTI 原油在庫状況と いう,極めて米国の局所的な状況によって原油 価格が高騰することが多くなっている。米国に おいては,ギリシャ危機に端を発する景気の二 番底到来への懸念から,金融緩和政策が続けら れており,行き場を失っている過剰なマネーが 安全資産である国債に現状では滞留しているも のの,ひとたび米国の石油需給が逼迫すれば, 高利回りを期待できる原油先物市場に投機資金 が流れ込む可能性が高い。その意味で,2010年 8月から10月にかけて,米国の金融市場の動向 と,メキシコ湾へのハリケーンの来襲によって は,WTI 原油価格が再び1バレル100ドルを突 破する可能性もある。 BPの経営危機はメジャーと石油技術企業の 再編につながる可能性 現状では,米国メキシコ湾における最終的な 原油流出量がどれだけ拡大するか,まったく予 想が立てられない状況にある。水深1,000メート ルを超える深海における原油流出を阻止する技 術は米国政府にはなく,米国政府はただ傍観し ているだけだというオバマ政権に対する批判も 高まっており,深海部油田開発を積極的に進め てきた BP,シェルの高い技術に基づく回復作業 に頼るしかないことが実情である。メキシコ湾 は漁業,観光,野生生物保護区としても重要な 地域であり,水産資源の損害,リゾート地の原 油汚染,水鳥の壊滅等の産業・環境破壊は拡大 の一途を辿り,既に BP は50,000件を超える損 害賠償を求められている。実際の油井掘削作業 は,海洋掘削専門のトランス・オーシャン社が 行っており,原油噴出防止装置はキャメロン・ インターナショナル社が製造したものの,両社 ともに巨額の損害賠償の資力はなく,オバマ政 権も,「全責任は BP にある」と言明しているこ とから,BP はメキシコ湾の原油除去費用だけで 100億ドル,環境保護団体からの懲罰的損害賠償 を含めると600億ドルを超える賠償金を負担し なければならなくなる可能性もある。BP の自己 資本は1,000億ドルを超えるものの,今後の原油 流出状況によっては,さらに賠償額が膨らむ可 能性がある。また,米国政府は今回の事故を受 けて,メキシコ湾深海部油田の開発を6ヵ月間 停止する政策を打ち出しており,メキシコ湾深 海部油田の開発を21世紀の経営戦略の中核に据 えていた BP の今後の経営への打撃は計り知れ ない。米国海上油田の開発政策の動向によって は,海上油田掘削企業の統合・再編,BP の海外 石油資産の売却,さらには他メジャーとの合併 (図表5)米国におけるメキシコ湾天然ガス生産割合(%) 出所:米国内務省鉱物資源管理局統計 26 中東協力センターニュース 2010・8/9
による石油産業の新たな再編につながる可能性 さえあると筆者は考えている。BP は,2010年6 月17日には,損害賠償に備えた200億ドルに達す る基金の創設を米国オバマ大統領と合意してお り,2010年第3四半期に30億ドル,2010年第4四 半期に20億ドル,その後は四半期ごとに12億 5,000万ドルずつ積み立てることとし,この基金 は環境破壊に対する賠償とルイジアナ州政府の 対策費用に充てられるが,200億ドルという金額 が BP の賠償額の上限ではないと,オバマ大統 領と米国政府は明言している。2010年7月27日 に行われた2010年第2四半期の決算発表におい ては,321億ドルの原油回収・損害賠償費用を計 上し,2011年までに300億ドルの資産売却を行う ことを表明している。既に,米国の中堅石油企 業であるアパッチに北米,エジプトをはじめと した石油・天然ガス資産を70億ドルで売却する ことで合意している。 BPと激突する米国政府と米国石油企業 今回の BP による原油流出事故は,BP が安全 を無視した,強引なコスト削減優先の手抜き作 業を行った可能性が高いと見る石油専門家が圧 倒的に多い。エクソンモービル,アナダルコの 経営陣は,BP の安全対策軽視を声高に非難して いる。深海部油田の掘削コストは,1日1億円 以上かかるため,1ドルでも安く油田開発を行 うために,BP は原油流失防止のための原油噴出 防止装置(BOP)に係わる安全点検の時間を節約 した可能性が高い。BP は,業績躍進の影で,徹 底的な人員削減,資産売却を行っており,他方 短期間のうちにアモコ,アルコを買収している ことから,従業員同士のコミュニケーションが 十分にとれていないために,安全作業の手順が 徹底していなかった可能性がある。BP は,好業 績を挙げながらも,リストラクチャリングの手 を緩めず,トニー・ヘイワード CEO も,7,000人 を超える中間管理職の削減を行い,精製・販売 部門の合理化も進め,円滑な事業運営に支障を きたしているということが石油業界の一般的な 評価である。マコンド油井の権益の25%を保有 するアナダルコは,BPから2億7,200万ドル(約 300億円)という対策費用の一部負担を求められ ていることに反発し,「BP の無謀な掘削作業が 事故の原因である。全責任は BP にある」とし て,費用負担を断固として拒否している。他の 石油企業も米国議会の公聴会において,BP の深 海部における油田開発の杜撰さを強調してい る。また,民主党は2010年11月に中間選挙を控 えており,米国世論を背景に BP への責任追及 を一段と強めている。 原油流出事故の原因究明には1年以上の時間 を必要とすると思われるが,BP はコスト削減を 優先した余り,企業存亡の危機に直面するとい うツケを払わされたという結果となる可能性が 高い。エネルギー企業は,営利企業として利益 追求という使命があると同時に,石油製品の安 定供給,安全操業,地球環境保護というミッシ ョンもあることを忘れてはならない。多くの, 自由主義経済学者,規制緩和論者は,エネルギー 業界においても競争を促進し,消費者に安い石 油製品を供給し,利益を挙げられない企業は市 場から退出すべきだと主張する。しかし,エネ ルギーは市況商品であると同時に戦略物資であ り,国民生活に不可欠の財である。新たに BP の CEO に就任するロバート・ダドリー氏は,短 期的な利益追求は,長期的には株主の利益にも, エネルギー安全保障向上にもつながらないと表 明している。これまで利益追求を極限まで行っ て,株主への利益還元を優先し,純利益拡大に 陶酔して,飽くなきコスト削減を続け,その結 果として地球環境に取り返しのつかない事故を 発生させた BP の原油流出事故は,国民生活に 不可欠な石油という戦略商品を供給する世界の 石油産業に貴重な教訓を与えたといえる。 27 中東協力センターニュース 2010・8/9
アジアの石油需要見通し(単位:万b/d) 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 1980年 2007年 2020年 2030年 2035年 世界の石油消費量推移(単位:万b/d) 6000.0 7000.0 8000.0 9000.0 10000.0 11000.0 12000.0 13000.0 14000.0 2007年 2010年 2020年 2030年 (万 b / d ) 豊富な埋蔵量と安価な生産コストの中東産原油 の魅力 21世紀半ばに向けて,世界の主要な原油生産 地域は,!中東諸国,"米国メキシコ湾,西ア フリカ等の深海部油田,#北極海をはじめとし た極寒地油田,等に絞られてきている。それに 対して,中国,インドをはじめとした新興経済 発展諸国の高度経済成長に伴って,世界の石油 需要は今後も年率1%程度の割合で増加するこ とは確実である。2010年における中国の自動車 販売台数は1,700万台を超えることが予想され, 石油需要は一段と増加する。これからの成長セ クターであるアジアの石油需要は,2035年には 4,000万 b/d を超え(図表6),世界の石油需要の 半分近くに達し,その大部分は中東産油国から の輸入に頼ることとなる。 世界の石油需要は,2020年には現在の8,600万 b/d から1億 b/d を突破すると見込まれている (図表7)。それに対して,十分な原油生産能力 を持っているのは中東産油国だけである。中東 (図表6)アジアの石油需要見通し 出所:筆者推定 (図表7)世界の石油需要見通し 出所:IEA 見通し 28 中東協力センターニュース 2010・8/9
2009年末国別原油埋蔵量(単位:億バレル) 世界の原油埋蔵量1兆3,331億バレル 2,646 1,723 1,376 1,150 1,015 978 742 443 398 372 2,488 サウジアラビア ベネズエラ イラン イラク クウェート UAE ロシア リビア カザフスタン ナイジェリア その他 地域別油田発見・生産コスト(ドル/バレル) 0 10 20 30 40 50 60 70 米国海上 米国陸上 カナダ 欧州 アフリカ 中東 原油の持つ魅力は,第1に埋蔵量の豊富さであ る。世界における原油埋蔵量のほぼ3分の2は 中東産油国に集中している(図表8)。 BP統計では,2010年版において初めてベネズ エラがイランを抜いて,世界第2位の原油埋蔵 量保有国に登場し,エネルギー専門家の注目を 集めているものの,ベネズエラの原油のほとん どはオリノコ超重質油であり,精製の容易な在 来型原油の大部分は中東産油国によって占めら れているという状況に変化はない。第2に中東 原油の生産コストの安さは,世界の主要な油田 の中においてもずば抜けて優れている。先進国 の油田開発が,深海部,極寒地,超重質油へと 技術的に困難かつ開発コストの高いフィールド に向かい,生産コストは1バレル当たり深海部 で50ドル以上,サウジアラビアの原油埋蔵量に 匹敵するカナダのオイル・サンドに至っては80 ドル以上にも達するのに対して,中東の陸上油 田の場合には10ドル未満の場合が多い(図表 9)。中東産原油の生産コストが安いということ は,それだけ世界的な原油価格上昇圧力を緩和 する効果が期待できることを意味する。 (図表8)国別原油埋蔵量(単位:億バレル) 出所:BP 統計2010年6月 (図表9)地域別原油生産コスト比較 出所:米国エネルギー省統計 29 中東協力センターニュース 2010・8/9
米国メキシコ湾原油流出事故により一段と重要 性を増す中東産原油の役割 米国における今後の海上油田開発政策の動向 によっては,西アフリカ沖合い,ブラジル沖合 いにおける深海部油田開発に影響を与える可能 性もあり,ロイヤル・ダッチ・シェル,シェブ ロンをはじめとした深海部油田開発に力を入れ ているメジャーの経営戦略の見直しにつながる 可能性は極めて高い。また,トランス・オーシ ャン社をはじめとした海上油田掘削企業の統 合・再編,BP の海外石油資産の売却,さらには 環境リスクへの抵抗力を強めるために他メジ ャーとの合併による石油産業の新たな再編につ ながる可能性さえ考えられる。 筆者が大きく懸念することは,地球温暖化問 題への関心の高まりの中,石油・天然ガスとい う化石燃料が炭酸ガス排出の元凶扱いされる状 況において,その前提としての石油・天然ガス 開発そのものが環境を汚染するものという偏っ た考え方が世界中に広がることである。既に, 一部の環境保護論者は,石油開発の危険を訴え かけ,これからは電気自動車の時代であるとい う不条理なキャンペーンを展開している。この ままでは,経済的に一番優れたエネルギーであ る石油・天然ガス開発に全面的なストップがか けられ,中東産油国のみならず,日本及び世界 のエネルギー業界は,今後の事業展開において 大きな打撃を受け,石油・天然ガスの安定供給 に支障が発生する可能性も高い。BP による原油 流出事故発生へのエネルギー専門家による原因 究明を含めて,世界における石油・天然ガス供 給体制への冷静な対応が求められているのであ る。 その意味において,2010年4月20日に発生し た BP による原油流出事故は,単に BP の経営問 題だけにとどまらない広範な影響を世界の石 油・天然ガス開発に与える可能性が高い。特に, メキシコ湾の原油流出事故は,米国オバマ大統 領が海上油田開発という現実的なエネルギー政 策を打ち出した直後だけに,世界の深海部油田 開発に与える打撃は大きい。オバマ大統領は, 国内原油自給率の向上という観点から,2010年 3月31日に新規油田開発に係わる5ヵ年計画 (2013年から2017年)を発表した。その内容は, !アラスカ北部沖合い油田開発,"大西洋沿岸 部油田開発,#メキシコ湾東部油田開発,等で あり,フロリダ州沖合い,バージニア州沖合い の油田開発を含む現実的なものであった。オバ マ大統領は,排出量取引を含む地球温暖化対策 法案への共和党の支持をとりつけるべく,米国 国内におけるエネルギー開発と地球環境保護を 結びつける戦略であった。地球温暖化対策法に おいては,!2020年までに温室効果ガスを2005 年比17%削減すること,"再生可能エネルギー の発電に占める割合を2012年までに10%,2025 年までに25%に高めること,#2015年までにプ ラグ・イン・ハイブリッド車を100万台普及さ せること,$2050年までに温室効果ガス排出量 を80%削減するため,キャップ・アンド・トレー ド方式による排出量取引を導入すること,とい う意欲的な内容が盛り込まれていた。ところが, その直後にメキシコ湾における原油流出事故が 発生し,オバマ政権の対応の遅れと具体的な対 策の欠如に米国国民の非難が集中した。そのた め,メキシコ湾における原油流出事故への対応 を最優先し,2010年5月には米国における新規 油田・ガス田開発への見直しを実施した(図表 10)。 米国メキシコ湾における原油流出事故は,今 後の国際石油情勢における中東産原油の重要性 を一段と増すこととなるといえる。第1にメキ シコ湾においては,160万 b/d 程度の原油が生産 されているが,今後の新規油田の開発が当面停 止されると,米国メキシコ湾において1年につ き20万 b/d 程度の原油生産の伸びが期待できな くなる。これは,将来的には世界の原油需給逼 30 中東協力センターニュース 2010・8/9
迫要因となる可能性があるものの,OPEC(石油 輸出国機構)全体としては,2010年6月時点に おいて630万 b/d 程度の余剰生産能力があるこ とが(図表11),原油価格高騰を抑制する重要な 働きを果たすものと考えられる。短期的な世界 の石油需給逼迫という状況を引き起こさないと ともに,長期的には中国,インドをはじめとし た新興経済発展諸国の石油需要の急増への対応 を,中東産原油が担うこととなると考えられる。 第2に深海部油田の開発に係わって安全基準 が強化され,開発コストが増加する可能性が高 い。原油噴出防止装置(BOP)の安全基準の強化 と点検手順の厳密化,ケーシング等の作業手順 の厳密化,緊急対応策の強化,等の対策コスト の上昇が考えられる。こうした深海部油田開発 における安全対策手順の強化は,開発コストの 増加に跳ね返る。さらに,BP が巨額の賠償責任 を負うこととなると,深海部油田開発に係わる ・今後6ヵ月にわたり大水深(500フィート以上:その理由としては,有人による復旧作業が困難なこ と)における掘削を禁止する。ただし,開発中の油田は除く。 ・2010年8月に予定していた深海部を含むメキシコ湾海域の鉱区入札を中止。 ・アラスカ北部沖合いにおいて,今後1年間掘削禁止 ・2012年に予定しているバージニア州沖合い鉱区の入札を延期 OPEC加盟国 2010年6月原油生産量 原油生産能力 余剰生産能力 アルジェリア 1.25 1.40 0.15 アンゴラ 1.78 2.00 0.22 エクアドル 0.45 0.48 0.03 イラン 3.70 3.95 0.25 クウェート 2.31 2.60 0.29 リビア 1.56 1.75 0.19 ナイジェリア 1.94 2.25 0.31 カタール 0.82 1.00 0.18 サウジアラビア 8.25 12.10 3.85 UAE 2.29 2.72 0.43 ベネズエラ 2.23 2.45 0.22 OPEC11ヵ国 26.58 32.70 6.12 イラク 2.31 2.50 0.20 OPEC合計 28.89 35.20 6.31 (図表10)オバマ政権の新規油田開発停止措置 出所:各種新聞報道 (図表11)OPECの原油生産動向(単位:百万b/d) 出所:IEA オイル・マーケット・リポート2010年7月13日 31 中東協力センターニュース 2010・8/9
保険料が上昇する。既に,深海部における油田・ ガス田開発への保険料が50%以上引き上げられ たプロジェクトもある。米国メキシコ湾におけ る深海部油田開発技術は,西アフリカ沖合い, ブラジル沖合いをはじめとした世界の深海部油 田開発のモデルとなっており,世界全体の深海 部油田の開発コストを20%から30%増加される 可能性が石油専門家から指摘されている。深海 部油田の開発は,BP,シェル,シェブロンをは じめとしたメジャー以外にも,アナダルコ,ア パッチ,ヘス等の中堅石油企業も行っており, 開発コストの上昇は,メジャー以上に中堅石油 企業の経営に圧迫を与え,新規油田開発を消極 的にさせる可能性が高い。その場合に,原油生 産に伴う環境汚染のリスクが格段に小さい中東 産原油の開発コスト,保険料コストが上昇する 可能性はほとんどなく,低いコストによる原油 生産は,世界全体としての原油生産コスト上昇 を抑制するという大きな貢献を果たすこととな る。 第3に米国メキシコ湾の原油流出事故の被害 を目の当たりにして,他国も深海部油田開放に 慎重になる可能性がある。北海油田においては, ノルウェー政府は深海部油田の新規権益付与を 見合わせており,英国政府は海上油田の点検頻 度を増やすことを表明している。カナダは,北 極海における環境破壊を懸念して,海上油田開 発の規制を強化する方向にあり,巨大油田の開 発が期待されているブラジルは,米国政府によ る深海部油田の規制動向に注意を払い,今後の 石油開発政策を決定する姿勢である。こうした 動きが,西アフリカ諸国,東南アジア諸国にま で広がると,世界全体の深海部油田開発が今後 数年,場合によっては10年程度停滞する可能性 があると筆者は見ており,急増する世界の石油 需要をバランスするうえで,豊富な中東産原油 の生産の重要性は一段と高まるものとなる。 第4に21世紀に入ってからの巨大油田の発見 は,中東地域が圧倒的に多い(図表12)。巨大油 田は,規模の経済(Economy of Scale)が働き, 単位バレル当たりの生産コストの低減につなが り,一度に大量のロットの原油が輸出できるた めに,需要が増加しているアジア諸国への超大 型タンカー(VLCC)を利用した輸送効率の向上 につながる。 これらの中東において新たに発見された油田 は,すべて陸上油田であり,技術的難易度が高 くなく,開発コストが安いうえに,海上油田と 異なり,開発に伴う環境汚染リスクが極めて小 さいというメリットを持っている。 第5に陸上油田開発技術のコモディティー (一般汎用商品)化が挙げられる。20世紀までは, 国 名 油田・ガス田 埋蔵量 発見年 イラン キシュ油田 65億バレル 2005年9月 イラン アザデガン油田 64億バレル 1999年3月 イラン ヤダバラン油田 40億バレル 2001年9月 サウジアラビア ニバン油田 28億バレル 1999年11月 イラン ザクフール油田 23億バレル 2007年6月 クウェート ウム油田 21億バレル 2006年3月 イラク ミラン油田 20億バレル 2009年5月 (図表12)新規に発見された中東油田 出所:各種新聞報道 32 中東協力センターニュース 2010・8/9
石油開発に係わる先端技術はメジャーが独占し ていた。しかし,メジャーは経営の徹底的な合 理化とコスト削減を重視し,油田開発技術を外 部化(アウト・ソーシング)し,先端技術はシ ュランベルジェ,ハリバートンをはじめとした 油田開発サービス企業が持つようになり,中東 産油国国営石油企業も,潤沢なオイル・マネー をもとに油田サービス企業の技術を有料で活用 して,独自に巨大油田の開発を進めることが可 能となった。今では,メジャーからの強い影響 を受けることなく,油田開発・埋蔵量管理の技 術と油田開発プロジェクトのトータル・コーデ ィネーションを油田開発サービス企業と共同で 行い,生産コストの安い原油生産が可能となり, 国際石油市場への中東産原油の安定供給に寄与 している。 メジャーが得意分野としてきた深海部油田の 開発に大きな暗雲が立ち込め,世界的な原油供 給懸念が高まる中,!原油埋蔵量が豊富で," 生産コストが格段に安く,#環境汚染リスクが 小さい,という多くの長所を持つ中東産原油は 世界の石油需要増に的確に対応することが可能 であり,かつ原油価格高騰を抑止する重要性を 一段と増しているといえるのである。 33 中東協力センターニュース 2010・8/9