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効果的な訂正フィードバックについての考察 国際教養大学専門職大学院 日本語教育実践領域 11 期生 孫会偉

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Academic year: 2021

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効果的な訂正フィードバックについての考察

国際教養大学専門職大学院 日本語教育実践領域11期生 孫会偉 1

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発表の流れ

• 本リサーチのテーマにたどり着くまでのプロセス • 本リサーチの目的 • 先行研究 • 実習概要 • 検証ー検証対象 検証項目 検証方法 • 結果 • 考察・改善案 • 今後の課題 2

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テーマにたどり着くまでのプロセス

• 訂正フィードバックの余裕があまりなかった。 • 自身の文法項目理解への不安があった。

• 感想発表や最終発表の授業を中心に担当していた。 • 言語形式面のフィードバックがあまりできなかった。

• 言語形式面の訂正フィードバックを臨機応変にしよう。 • うまく行かないことが多かった。 3 秋実習において一回の授業で一つの文法項目を中心に教えていた。授業時間 が25分で短かったため,この短い授業時間で文法の説明などに精一杯で訂正フ ィードバックの余裕があまりなかった。また,自身の文法項目理解への不安か らそれができないことが多かった。この時,臨機応変にフィードバックができ なかったことを反省した。 冬実習は,文法中心の授業ではなく,会話中心の授業であった。感想発表や 最終発表の授業を中心に担当していた。これらの活動において発表の内容面の フィードバックを特に意識して行ったが,言語形式面のフィードバックがあま りできなかった。言語形式面のフィードバックにもっと努力するべきだと反省 した。 それで,春実習で言語形式面の訂正フィードバックを臨機応変にしようと決 めたが,訂正フィードバックがうまく行かないことが多かったと感じた。今 後,より効果的な訂正フィードバックを行うため,訂正フィードバックについ てリサーチを行った。

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本リサーチの目的

効果的な訂正フィードバックを行うための方策を考察する。 ⇓ 2つの視点で考察 1)筆者自身の訂正フィードバックの傾向 (訂正フィードバックのタイプ、タイミング等) 2)フィードバックの効果 (うまく行った場合とうまく行かなかった場合) 4 訂正フィードバックの傾向を分析し,訂正がうまく行く場合とうまく行かな い場合と両方を考察し,より良い訂正フィードバックの改善案を示したい。

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先行研究(

Lyster&Ranta,1997)

フィードバックのタイプ 代表例 明示的訂正 学生:私は大学に日本語を勉強します。 教師:actionが行われた場所のときは「に」じゃなくて「で」を 使います。だから「大学で」ですね。 リキャスト 学生:私は大学に日本語を勉強します。 教師:ああ、大学で日本語を勉強しますね。 学生:はい、そうです。 明確化要求 学生:私は大学に日本語を勉強します。 教師:え?何と言いましたか? 学生:あ、大学で日本語を勉強します。 メタ言語フィードバック 学生:私は大学に日本語を勉強します。 教師:actionが行われた場所のときに使う助詞は「で」です。 学生:あ、大学で日本語を勉強します。 誘導 学生:私は大学に日本語を勉強します。 教師:あれ?私は大学… 学生:あ、大学で日本語を勉強します。 繰り返し 学生:私は大学に日本語を勉強します。 教師:私は大学に日本語を勉強します? 学生:あ、大学で日本語を勉強します。 5 それぞれのフィードバック・タイプの定義  明示的訂正:教師が学習者の発話が間違えていると指摘し,正しいものを 示すこと  リキャスト:学習者の間違えた文を,正しい文にして言い直すこと 明確化要求:聞き返すこと メタ言語的フィードバック:文法などの説明をすること 誘導:学生がもう一度言い直して,正しく使えるような質問をすること 繰り返し:学習者の発話を,ちょっと語尾をあげたりして繰り返して,学 習者に間違いを気づかせること

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先行研究(

Lyster&Ranta,1997)

2種類以上のフィードバックの例 • 繰り返し+明示的訂正=明示的訂正 例 学生:私は大学に日本語を勉強します。 教師:私は大学に日本語を勉強します? actionが行われた場所のときは「に」じゃなくて 「で」を使います。だから「大学で」ですね。 6 上記の例では,「私は大学に日本語を勉強します?」は繰り返しというタイ プのフィードバックであり,「actionが行われた場所のときは「に」じゃなくて 「で」を使います。だから「大学で」ですね。」は明示的訂正というタイプの フィードバックである。 Lyster&Ranta(1997)の研究ではこの2種類のフィードバックの組み合わせ を明示的訂正に分類した。この例で出た組み合わせ以外の組み合わせもある。 Lyster&Ranta(1997)は当時の研究で出た組み合わせを6タイプのフィードバ ックのいずれかに分類した。

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先行研究

学生の反応(Lyster&Ranta,1997) 学生の反応 Uptake Repair (self-repair、peer-repair、 repetition、incorporation ) Needs repair (acknowledgment、same error、different error、off target、hesitation、partial repair) No uptake 7 具体的な分類は以下の三種類である。 (下記の内容は先行論文に基づき翻訳してまとめたもの) 1. アップティック(Uptake)-リペア(repair) • 繰り返し(repetition):修正したところのみ復唱 • 組み込み(incorporation) :修正したところを文に入れて言ってみる • 自己修正(self-repair):フィードバックで正用提示がない場合,フィードバ ック後,学習者本人が自ら正しい使い方を言い出す。 • ピア修正(peer-repair):フィードバック後,間違った学習者本人でなく,ほ かの学習者が正しい使い方を言い出す。 2. アップティック(Uptake)-ニーズリペア(needs repair) • 承認(acknowledgment):フィードバック内容に対し,「分かった!」「その通 りです。それが言いたかった」などのような返事をする。 • 同じ誤用の繰り返し(same error) • 新たな誤用の産出(different error) • 的外れ(off target):フィードバックに反応したが,フィードバックの焦点と ずれた反応をする。 • 躊躇(hesitation) • 部分的修正(partial repair) 3. No uptake 教師のフィードバックに反応なく,すぐ次の話に移るなど。

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先行研究

Repair ↡ 第二言語習得を促す (Lowen,2005; Lowen,2012; 名部井,2015) 8 多くの先行研究によると,フィードバックの後でのリペアは第二言語習得を 促していると示している。(Lowen,2005; Lowen,2012; 名部井,2015)

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実習概要

 実習期間:2020年3月9日から20日 • 学習者 :台湾の元智大学の学生(初級レベル) • 授業形式 :遠隔形式(ZOOMを利用した同期型) • コース目標 :口頭運用能力の向上  コースの構成 ◯1分間スピーチ ・自分が好きな動画、Youtuberについて ・発表後、質疑応答 ◯会話授業 ・旅行や日常で使われる言葉・会話を勉強 ・勉強したことを使って会話練習 ◯文化授業 ・日本の文化を紹介し、同じトピックで台湾について話す ◯最終発表 ・個人プレゼンテーション ・一週目で勉強したテーマから自分が好きなトピックを選ぶ (例:オススメの食べ物,台湾の伝統文化,オススメの映画等々) 9

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検証

―検証対象

授業のテーマ メインルーム での時間 ブレイクアウト ルーム での時間 一回目 「パーティーで初対面の人 と話す」 41分 14分 二回目 「日本の喫茶店での会話」 41分 14分 三回目 「秋田の文化」 43分 ― 四回目 「日本人の友達や日本人 の先生を誘う」 42分 ― 五回目 「食事のマナー&おごって もらう時のマナー」 40分 ― 10 春実習で担当した5回分の授業を検証対象とした。 Zoomのメインルームで全員情報を共有できる。ブレイクアウトルームは, Zoomミーティングを最大で50の別々のセッションに分割することができる。三 回目~五回目のブレイクアウトルームの録画データが保存されなかったため, 対象から外した。

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検証ー検証項目

1.どのようなフィードバック・タイプの使用傾向があるか。 2.どのようなタイミングでフィードバックをしようとしているか。 3.それぞれのフィードバック・タイプの効果はどうなっているか。 うまく行かなかった理由は何か。 11

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検証

―検証方法

Step1:録画ビデオを書き起こす。 対象:言語形式面の誤用に対したフィードバック場面 Step2:データ分類 ・誤用の種類(孫によって分類) ・フィードバックのタイミング(孫によって分類:次のスライド) ・フィードバックのタイプ(Lyster&Ranta,1997) ※先行研究にないタイプあれば追加 ・学生反応の種類 ※うまく行った場合:Repair

うまく行かなかった場合:Needs repair、No uptake Step3:データ統計・グラフ化⇒量的分析 Step4:典型例の抽出 ⇒質的分析 12 言語習得の三要素は言語形式(form),意味内容(meaning),言語機能(function) と言われている。本リサーチは言語形式面の誤用を対象として観察する。言語 形式面の誤用とは文法規則,語彙,イディオム,発音,形態などの誤用であ る。誤用の種類(筆者によって分類)は今回の研究であまり焦点に当てていな いため,詳しい説明を省略する。

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検証

―検証方法

●フィードバックのタイミング • A 学生同士が話している途中、あるいは学生の 個人発表の途中でフィードバックする。 • B 教師が学生と会話している時、フィードバックする。 • C 学生同士の会話の後、あるいは学生の個人発表の後 でフィードバックする。 13

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結果

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フィードバックのタイプの使用傾向と効果

26.5% 36.7% 8.2% 0.0% 12.2% 4.1% 2.0% 2.0% 2.0% 2.0% 2.0% 2.0% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 図1 フィードバックのタイプの使用傾向 図2 フィードバックの効果 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% うまく行かなかった割合 うまく行った割合 15 左の図はフィードバック・タイプの使用傾向を示している。主にリキャスト (36%),明示的訂正(26%),誘導(12%)という3タイプのフィードバック を使用していたことが分かった。 右の図はフィードバックの効果を示している。それぞれのフィードバックの タイプの効果について,フィードバックの使用率は10%(5回)以下のものを 研究対象から外した。データ数の少ないフィードバックのタイプの効果が統計 データから分からないためである。 明示的訂正が一番うまく行った。その次はリキャストであった。誘導は一番 うまく行かなかった。 全体的に見ると,リキャストの使用傾向が一番強かったが,その効果は何と も言えない。 では,リキャストに焦点を当てて成功例と失敗例を説明する。

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リキャストの成功例

1T:パーティーで何を話しましたか。 2S:じかんしょうかい 3T:じこしょうかい? 4S:じこしょうかい、はい! 5T:そうですか。自己紹介ですか。 16 教師は「パーティーで何を話しましたか。」と質問し,2で学生は「じかんし ょうかい」と答えた。誤用は「じかんしょうかい」であった。3で教師は「じ こしょうかい?」とリキャストの手法でフィードバックした。学生はフィード バックを聞いた後,4で「じこしょうかい,はい!」と繰り返し,リペアする ことができた。 リキャストは暗示的かつ正用を示すフィードバックである。Long(1991)に よれば,リキャストはコミュニケーションの自然な流れを止めずに正しい形に 気づかせる効果がある。この例では教師はさりげなく学生の誤りを訂正するこ とで話しの流れを遮断することなく,学生自らは誤用の修正ができた。春実習 で例のような単純な単語レベルに対したリキャストはほぼ成功した。学生はリ キャストの内容に気づきにくいと言われたが,例のような単純な単語レベルの リキャストだったら,気づきやすいと考える。

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リキャストの失敗例

1T:台湾のお箸はどうですか。大陸と同じですか。 2S:日本とちょっと同じです。でも、あまりとがるわく ない。 3T:うん、あまり尖っていない。 4S:はい 17 教師は「台湾のお箸はどうですか。大陸と同じですか。」と質問した。それに 対し,2で学生は「日本とちょっと同じです。でも,あまりとがるわくない。」 と答えた。この答えで「とがわくない」という誤用が出た。3で教師は「う ん,あまり尖っていない。」と言い,「リキャスト」の手法でフィードバックし た。このフィードバックに対し,4で学生は「はい」と承認(acknowledgment) した。この承認はニーズリペアの一種である(Long,1991)。 この例は,前のリキャストの成功例で出た誤用と違い,単純な単語レベルの 誤用ではなかった。学生は「尖る」の否定形への転換は正しくできなかった。 その理由は1)「尖る」という単語が未定着の語彙だった,2)状態を描写す る時,原則は「~ている」を使うということが分からなかった,3)五段活用 動詞の「て」形の変換ルールが曖昧だった,ということが考えれる。 リキャストは暗示的な正用提示であるため,学生はリキャストの内容に気づ きにくいと言われている。勿論,どこが間違っているか一層分かりにくいと考 える。この例では,学生は教師のリキャストを聞いたら,どこか間違っている か,分からないまま,「はい」だけを返事してきたと推測する。この場合,教 師は誤用に気づかせるようにリキャストの内容を短くしたり,ニーズリペアの 後,更なる働きかけたりすればよかったと思う。

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フィードバックのタイミング

34.3% 42.9% 22.9% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% A B C 図3 フィードバックのタイミング A 学生同士が話している途中、あるいは学生の 個人発表の途中でフィードバックする。 B 教師が学生と会話している時、フィードバック する。 C 学生同士の会話の後、あるいは学生の個人 発表の後でフィードバックする。 18 図3はフィードバックのタイミングの傾向を示している。Bのタイミングでフ ィードバックをしょうとする傾向が一番強かった。その次はAのタイミングで あり,傾向が一番弱かったのはCのタイミングであった。

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タイミングBの例

1T:食べ方は台湾と同じですか。 2S:台湾も茶碗をもらって食べる。 3T:あ、茶碗を持って食べる。 4S:持って食べる。 ※B:教師が学生と会話している時、フィードバックする。 19 まず,一番多くフィードバックしたタイミングBの例を説明する。 教師は「食べ方は台湾と同じですか。」と質問した。それに対し,2で学生は 「台湾も茶碗をもらって食べる。」と答えた。この答えで「もらって」は誤用 である。3で教師は「あ,茶碗を持って食べる。」とフィードバック(リキャス ト)した。このフィードバックに対し,4で学生は「持って食べる」と修正し た。この例のように,教師は会話の参加者の一人として会話の流れをコントロ ールしながら随時にフィードバックができ,タイミングBで多くのフィードバ ックがみられた。

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タイミングCの例

• 「一分間スピーチ」 S:私は高校生の時、ノーメスがたくさんがあったので、毎日飲む前 にエナさんの動画を見ました。その時から、エナさんへ、エナへテー マが私の一番の好きなユーチューバーになりました。残念にことだが、 エナさん最近では、あまり作ったないです。ですから、ほかにユーチュ ーバーをお勧めです。このユーチューバです。・・・ 1T:今からフィードバックをします。「残念にこと」は間違ってい ます。「残念にこと」じゃなくて、何が正しいですか? 2S:残念にことだが 3T:「残念なこと」は、正しいですね。 4S:はい ※C:学生同士の会話の後、あるいは学生の個人 発表の後でフィードバックする。 20 タイミングCではフィードバックの頻度が一番低かった。 この例は学生が一分間スピーチをした後,フィードバックをした例であっ た。例では学生は三つの誤用を連続で産出した。 誤用1:「エナさんへ,エナへエナへテーマが私の一番の好きなユーチューバ ーになりました。」:「○○○テーマが○○○ユーチューバー」という意味をなさない 文になっている。 誤用2:「残念にことだが」の「に」 誤用3:「作ったない」の「作る」の過去形の否定形 しかし,誤用2だけフィードバックをした。誤用1と誤用3へのフィードバッ クをしなかった。やはり,例のように,学生がまとまった長い話をした後で は,フィードバックしにくいと感じ,タイミングCでフィードバックがあまり できなかった。

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結果まとめ

 リキャストの多用 • 効果大:単純な語彙 • 効果小:少し複雑な変換ルールや文法項目  フィードバックのタイミングの傾向 • 教師が学生と会話している時:傾向が強かった。 • 学生同士の会話の後、あるいは学生の個人発表の後:傾向が弱かった。 21 教師はリキャストというタイプのフィードバックを使用しようとする傾向が 強かった。単純な語彙に対してリキャストの効果が見られたが,少し複雑な変 換ルールや文法項目に対したリキャストの効果があまりなかったと分かった。 教師が学生と会話している時,フィードバックしようとする傾向が強く,随 時にフィードバックができた。しかし,学生同士の会話の後,あるいは学生の 個人発表の後でフィードバックがあまりできなかった。特に学生がまとまった 長い話の中で誤用が連続的に出現した場合,フィードバックしにくいと感じ た。

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考察・改善案

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考察

1

1)リキャストの多用 ⇓ できるだけ学生の会話の流れを遮らないようにしようとする傾向がある。 ※文法説明の回避(メタ言語フィードバックの使用率:0%) しかし、 春実習で半分程度のリキャストが失敗で終わった。 ⇓ 失敗した理由 1)リキャストの内容を気づきやすくするように工夫しなかった。 2)ニーズリペアの後、更なる働きかけをしていなかった。  私の考え 今回のプログラムの目的:口頭運用能力の向上 ⇓ コミュニケーションの支障にならない項目:メタ言語フィードバックで文法を説明する必要がない ⇓ 文法規則等を完全に理解させることを目指せず、間違ったことに気づかせれば良いではないか 23

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改善案

1-

リキャスト失敗例の改善案

パタ―ン1 1T:台湾のお箸はどうですか。大陸と同じですか。 2S:日本とちょっと同じです。でも、あまりとがるわくない。 3T:尖っていない? 4S:はい、尖っていないです。 パターン2 1T:台湾のお箸はどうですか。大陸と同じですか。 2S:日本とちょっと同じです。でも、あまりとがるわくない。 3T:尖っていない? 4S:はい。 5T:そうですか。尖っていないですね。 では、尖っていない、言ってください。 6S:尖っていない。 24 先ほど紹介したリキャストの失敗例の中の「とがるわくない」という誤用は 産出されたが,意味理解やコミュニケーションに支障を来すわけではなかっ た。間違ったことに気づかせるように工夫すれば良いと考える。 リキャストのデメリットは気づきにくいということであるが,気づきやすく するため,短いリキャストのほうが有効だと言われている。パターン1の3で教 師は2の学生の誤用(「とがるわくない」)に対して「尖っていない?」と疑問 文で短くリキャストをする。3の疑問文に対して4で学生は「はい,尖っていな いです。」と答えてくれるように期待する。間違っているところだけをリキャ ストし,疑問文で正しい答えを引き出せると思う。正しい答えを引き出せば, 間違ったことに気づせることができると思う。 しかし,パターン2のように,4で誤用に気づかないまま,「はい」だけで終 わってしまう可能性もある。この場合,5のように教師は「そうですか。尖っ ていないですね。では,尖っていない,言ってください。」というふうに復唱 させる方法もある。学生は復唱することでリペアができると同時に,間違った ことに気づくと思う。

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考察

2

タイミングCでフィードバックに困難を感じた。 ・複数の誤用 ・話を聞きながら、すべての誤用に気づくことに 自信がない ・すべての誤用を完璧に記録できない ・タイミングCでは、学生は自分の誤用を覚えて いるかどうか心配 25

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- 167 - 改善案2- フィードバックのタイミングの改善案 • フィードバックの優先順位を考慮すること • 「グローバル・エラー」 VS 「ローカル・エラー」 どちらが優先? ポイント:学生のニーズや授業の目的に応じるべきだと思う • 今回のプログラム:コミュニケーション重視! ⇓ 「グローバル・エラー」 > 「ローカル・エラー」 • タイミングCの例のフィードバックの優勢順位 「エナさんへ、エナへテーマが私の一番の好きなユーチューバーになりました。」>「作ったない」>「残念にこと」 ↓ 「エナのテーマが私の一番の好きなテーマになりました。」 or 「エナが私の一番の好きなユーチューバーになりました。 」 26 誤用には「グローバル・エラー」と「ローカル・エラー」がある。グローバ ルエラーは意味の理解やコミュニケーションの支障となる誤りであり,ローカ ル・エラーは意味の理解やコミュニケーションの支障にならない誤りである。 学生のニーズや授業の目的に応じてどんなタイプの誤用を優先してフィードバ ックするか授業が始まる前に決めておくべきだと思う。今回の授業目的は口頭 運用能力の向上なので,ローカル・エラーより,グローバル・エラーを少し優 先してフィードバックをしたほうがいいと思う。 タイミングCの例では,意味の理解やコミュニケーションの支障となる誤り であるかどうかという視点から見れば,「エナさんへ,エナへテーマが私の一 番の好きなユーチューバーになりました。」の「・・・テーマが・・・ユーチ ューバーになりました」という誤用が三つの誤用の中で一番コミュニケーショ ンの支障になりうると考える。その次にコミュニケーションの支障になるのは 「作ったない」の「作る」の過去形の否定形である。「残念にこと」の「に」 という誤用はコミュニケーションにほぼ影響がないと考える。 このような連続的にエラが出現し,すべての誤用に対して完璧にフィードバ ックができない場合,「グローバル・エラー」の特性の強い誤用を優先的にフ ィードバックするべきだろう。この例でいうと,「エナさんへ,エナへテーマ が私の一番の好きなユーチューバーになりました。」を優先的にフィードバッ クするべきである。恐らく,「エナのテーマが私の一番の好きなテーマになり ました。」あるいは,「エナが私の一番の好きなユーチューバーになりまし た。」ということが言いたかったのだと思われる。学生に確認しながら,正し い言い方に誘導すべきだと思う。

(27)

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今後の課題

• フィードバックの漏れ • リキャスト以外のフィードバックの使用 • 意味やコミュニケーションにおけるフィードバックの重視 27 まず,学生の発表の中で誤用があったのに,学生の発表の後でフィードバッ クしなかったことが多かった。これから,優先順位をつけたりして解決方法を いろいろ試してみたい。 また,リキャストの使用頻度がかなり高かったが,うまく行かなかったこと も多かった。今後,他のフィードバックタイプも試してみる。今後の授業で一 つ一つのフィードバックの仕方を丁寧に試し,内省する。 今回,言語形式面上の誤用に対したフィードバックについて内省したが,意 味やコミュニケーションにおけるフィードバックにおいても課題が多い。今後 意味やコミュニケーションにおけるフィードバックを内省し,更にスキルアッ プしたい。

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参考文献

名部井敏代 (2015).「ヴァーバル・インターアクションと訂正 フ ィードバック」大関浩美編『フィードバック研究への招待- 第二言語習得とフィードバック-』東京: くろしお出版, pp. 31-70.

Long, M. H. (1991). Focus on form: A design feature in language teaching methodology. In K. de Bot, R. Ginsberg & C. Kramsch (Eds.),Foreign language research in cross-cultural perspective (pp. 39-52). Amsterdam/Philadelphia: John Benjamins. Lowen, S. (2005). Incidental focus on form and second language

learning. Studies in Second Language Acquisition, 27, 361-386. Lowen, S. (2012). Uptake. In P. Robinson (Eds.), The Routledge

Encyclopedia of Second Language Acquisition(pp. 675-677). New York: Routledge

Lyster, R. & Ranta, L. (1997). Corrective Feedback and Learner Uptake. Studies in Second Language Acquisition, 20, pp.37- 66.

参照

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