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回復期脳卒中片麻痺患者に対する部分免荷型トレッドミル歩行練習の即時効果

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 45 巻第 3 号 197 ∼ 片麻痺患者に対する部分免荷型トレッドミル歩行練習の即時効果 202 頁(2018 年). 197. 実践報告. 回復期脳卒中片麻痺患者に対する部分免荷型トレッドミル 歩行練習の即時効果* ─非免荷型トレッドミル歩行練習との比較─. 佐 藤 瑞 騎 1)# 倉 田 昌 一 2) 岩 倉 正 浩 3)4) 大 倉 和 貴 3) 新 田 潮 人 5) 照 井 佳 乃 4) 佐 竹 將 宏 4) 塩 谷 隆 信 4). 要旨 【緒言】片麻痺患者に対する部分免荷型トレッドミル歩行練習(以下,BWSTT)の即時効果を明らかに する。【方法】片麻痺患者 10 名(平均年齢 71 ± 11 歳)に BWSTT と非免荷型トレッドミル歩行練習(以下, FBWTT)を施行し,10 m 歩行試験の結果を比較・検討した。評価項目は歩行速度,歩幅,歩行率,左右・ 上下重心移動距離,左右・上下 RMS,麻痺側脚・非麻痺側脚の 1 歩行周期変動係数とし,3 軸加速度計 を用いて抽出した。【結果】BWSTT により最大歩行速度,歩幅,歩行率,麻痺側脚の 1 歩行周期変動係 数,上下 RMS が有意に改善した。また同様の項目と非麻痺側脚の 1 歩行周期変動係数において BWSTT が FBWTT より有意な改善が認められ,歩行速度変化率は歩行率変化率と正の相関が認められた。 【結論】BWSTT は片麻痺患者に対して歩行能力向上の即時効果が期待され, FBWTT よりも有意であった。 また歩行速度の改善は歩行率の改善が寄与していた。 キーワード 脳卒中片麻痺患者,部分免荷型トレッドミル歩行練習,非免荷型トレッドミル歩行練習,3 軸加速度計. 行速度が分速 20 m 以上であれば活動的な家庭生活が可. はじめに. 能となるとしている。また分速 60 m 以上であれば芸術.  脳卒中片麻痺患者が呈する歩行障害は ADL と QOL. 鑑賞や絵・陶芸といった余暇活動をすることができ,分. に大きく影響を与える因子と推察され,リハビリテー. 速 80 m 以上であれば他人の世話等もできるとし,最大. ションにおいて重点的にアプローチされるひとつの症状. 歩行速度は ADL と関連していると報告している. と考える。患者の歩行能力を評価する簡便な方法として. のため歩行練習を施行し,その効果を検証する際,最大. 10 m 歩行試験があり,佐直ら *. 1). は片麻痺患者の最大歩. Immediate Effects of Body-weight-supported Treadmill Training in Patients with Chronic Hemiparesis after Stroke in the Recovery Stage: A Comparison with Full-body-weight Treadmill Training 1)大曲厚生医療センター (〒 014‒0027 秋田県大仙市大曲通町 8‒65) Mizuki Sato, PT, MS: JA Omagari Kosei Medical Center, Department of Rehabilitation 2)北秋田市民病院リハビリテーション科 Masakazu Kurata, PT: JA Kitaakita Municipal Hospital, Department of Rehabilitation 3)市立秋田総合病院リハビリテーション科 Masahiro Iwakura, PT, MS, Kazuki Okura, PT, MS: Akita City General Hospital, Department of Rehabilitation 4)秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻理学療法学講座 Masahiro Iwakura, PT, MS, Yoshino Terui, PT, PhD, Masahiro Satake, PT, PhD, Takanobu Shioya, MD, PhD: Akita University Graduate School of Health Sciences, Department of Physical Therapy 5)能代厚生医療センターリハビリテーション科 Shioto Nitta, PT, MS: JA Noshiro Kosei Medical Center, Department of Rehabilitation # E-mail: harinezumi1231@gmail.com (受付日 2017 年 10 月 2 日/受理日 2018 年 2 月 2 日) [J-STAGE での早期公開日 2018 年 3 月 22 日]. 1). 。そ. 歩行速度に着目することは有意義であると考えられる。  近年,歩行練習の方法として機械により体重を免荷 して行う歩行練習である部分免荷型トレッドミル歩行 練習(body-weight-supported treadmill training:以下, BWSTT)が注目されている。トレッドミル歩行練習は 脳卒中治療ガイドライン 2015 同 2004. 3). 2). ではグレード B とされ,. の グ レ ー ド C よ り 評 価 が 高 く 推 移 し た。. BWSTT の特徴として,免荷と機械による体幹支持機構 から患者の運動負荷量を軽減させることが挙げられ. 4). ,. また転倒の危険性も低下させると考えられるため,平地 における歩行練習よりも高いパフォーマンスでの歩行練 習を反復して練習をすることができる。これは歩行様の 筋活動や下肢の振りだしの運動学習を促し. 4). ,慢性期の. 片麻痺患者においては全荷重でのトレッドミル歩行練習 (full-body-weight treadmill training: 以 下,FBWTT).

(2) 198. 理学療法学 第 45 巻第 3 号. 図 1 Alter G®(左)と BM-2200(右). よりも歩行速度向上,歩行距離拡大の効果があると報告 されている. 5)6). 。また Ada ら 7)は亜急性期から BWSTT. を施行すれば,平地歩行での練習よりも早期歩行自立と. を得て実施した(2014 年 9 月)。また,対象者には事前 に本研究の説明を紙面を用いて行い,同意書への署名を もって同意を得た。. 高い在宅復帰率が期待されると報告している。さらに Muhammad ら. 8). は BWSTT と 非 BWSTT を 比 較 し,. Timed up and Go test(以下,TUG)や歩行速度の改. 1)練習方法. は BWSTT. ®  BWSTT は反重力トレッドミル Alter G (日本シグ. と床上での歩行練習はともにバランス能力と下肢機能を. マックス株式会社,東京)を用いた(図 1 左) 。Alter. 改善させるが,BWSTT のみに歩行時の股関節伸展の可. ® G は使用者が専用のショーツを履き,コックピットと. 動域拡大の効果があると報告している。. ® 呼ばれる Alter G 本体のスペースに入る。そしてショー.  しかし,BWSTT の慢性期脳卒中片麻痺患者における. ® ® ツと Alter G 本体をジッパーにて固定し,Alter G 内. 研究はみられるが,回復期における検討は少なく,また. へ空気を注入することで,使用者の体重を免荷して歩行. 善効果があると報告した。さらに Mao ら. FBWTT と比較した文献も少ない. 9). 2.方法. 10‒15). ため,発症後早. 練習を行うことができる空圧式免荷トレッドミル歩行装 ®. 期における BWSTT の効果に統一の見解はないのが現. 置である。Alter G は体幹ベルトと大. ベルトにより. 状と考える。そこで本研究では回復期脳卒中片麻痺患者. 使用者を免荷するハーネス式の免荷装置と違い,ショー. に対し,1 日目に BWSTT または FBWTT を施行し,2. ツによる面での支持となる機構から,免荷量が増えるこ. 日目にもう一方を施行することで,発症後早期の脳卒中. とによるベルトの不快感が少なくなると考えられる。ま. 片麻痺患者に対する BWSTT と FBWTT の即時効果を,. ® た,Alter G は専用のショーツを履き,本体とジッパー. 各種歩行パラメータと歩行中の動的評価から,明らかに. で固定することで装着は完了するため,ハーネス式の体. することを目的とした。. 幹ベルトや大. ベルトの装着よりも容易であると考えら. れる。本研究における免荷量の設定は,免荷量が 25%. 対象と方法. 以下であれば BWSTT 時の筋活動量が免荷量 0% の時と. 1.対象. 4) 10) を参考に 20% と 有意差がないこと ,また先行研究.  対象は当院の脳神経外科病棟に入院する脳卒中片麻痺. 設定した。また,歩行時間と歩行速度は 5 分間の歩行練. 患者の中で全身状態が安定して理学療法が処方された患. 習を休憩を入れて 2 回行い. 者の内,初回発症であり,歩行時下肢に疼痛が生じず,. で対象者の主観的に歩行可能な最大速度,または客観的. 介助なしで平地歩行が安定し,認知症や失語症,高次機. に下肢の振りだしが可能な最大速度と設定した。. 能障害がなく研究の説明を理解できる者とした。またこ.  FBWTT はグランドトレッドミルである BM-2200(株. れまでトレッドミルによる歩行練習を経験している者は. 式会社フォーアシスト,東京)を用いた(図 1 右)。歩. 除外した。本研究の対象者は 10 名(平均年齢 71 ± 11. 行時間と歩行速度は,BWSTT と同様に設定した。. 歳・発症からの期間 16 ± 10 日)で実施した。なお,本. 2)評価項目. 16). 研究は 2008 年のヘルシンキ宣言(ソウル). を遵守し,. 平成 26 年度大曲厚生医療センターの倫理委員会の承認. 10). ,歩行速度は Alter G® 上.   介 入 前 に 対 象 者 の 性 別, 年 齢, 診 断 名, 麻 痺 側, Brunnstrom stage(以下,Br.st) ,介入時の発症からの.

(3) 片麻痺患者に対する部分免荷型トレッドミル歩行練習の即時効果. 199. 図 3 RMS 算出の計算式. 図 2 MG-M1110TM と装着の様子. 日数を評価した。また歩行能力の評価として,平地にて 10 m 歩行試験を最大歩行で 3 回実施し,10 m の歩行路. 図 4 実験の流れ. の前後には補助路として 3 m ずつ用意した。10 m 歩行 TM. 試験では後述する MG-M1110. から歩行速度,歩幅,. 歩行率,左右・上下重心移動距離を測定した。また本研. 介入前に乱数表を用いて 1 日目に行う BWSTT または. 究の結果には 3 回の実施の中でもっとも歩行速度が速い. FBWTT いずれかの歩行練習の方法をランダムに決定し. ものを採用し,10 m 歩行試験から得られる他の評価. た。それから 10 m 歩行試験,BWSTT または FBWTT. 項 目 は そ の 回 の 結 果 を 採 用 し た。 さ ら に BWSTT と. いずれかの歩行練習,10 m 歩行試験を実施し,その歩. FWBTT の両試験の介入前と介入後の結果から,変化. 行練習の即時効果を記録した。そして 2 日目に,同様の. 率[{(介入後−介入前)/ 介入前}× 100]をそれぞれ算. 流れで,1 日目に施行していない歩行練習を実施し,そ. 出した。. の歩行練習の即時効果を記録した。.  10 m 歩行試験における歩行速度等の歩行能力の測定 TM.  なお,10 m 歩行試験中における施行間,各歩行練習. (LSI メディエンス社製,. 中の休憩においては,対象者の体力が十分に回復したこ. 75 H × 50 W × 20 Dmm:約 120 g)を用いた(図 2) 。. とを確認したうえで,次の段階に進んだ。また歩行練習. は,歩行分析計 MG-M1110 TM. は 3 軸加速度計であり,第 3. 後の 10 m 歩行試験は,5 分間の休憩後,バイタルサイ. 腰椎棘突起部に装着することで左右・上下・前後の加速. ン・主観的疲労感がおおよそ開始前の状態に戻ったこと. 歩行分析計 MG-M1110. 度をそれぞれ感知・記録する. 17). 。そして付属のソフト. (LSI メディエンス社製,ゲイトビュー. TM. )を用いるこ. を確認したうえで施行した. 10). 。. 4)統計処理. とで,任意の範囲の歩行速度,歩幅,歩行率,左右・上.  すべての評価結果には正規性の検定として Shapiro-. 下重心移動距離等を算出することが可能である。また本. Wilk 検定を行い,その結果に基づいて以後の検定を選. 研究ではさらに,得られた加速度データから上下・左右. 択した。. Root Mean Square(以下,RMS)と 1 歩行周期の変動.  BWSTT および FBWTT の即時効果を検証にするた. 係数(coefficient of variation:以下,CV)を評価した。. めに,それぞれの介入前後の結果に対し,対応のある t. RMS はそれぞれの方向で得られた加速度を図 3 の計算. 検定または Wilcoxon の符号付順位検定を行った。また. 式に代入することで求められ,歩行におけるその方向へ. BWSTT と FBWTT の即時効果の差を検証するために,. の身体動揺の程度を表すとされている. 18). 。また 1 歩行. 各歩行練習の変化率に対し,対応のない t 検定または. 周期の CV は任意の区間のすべての 1 歩行周期時間の標. Mann-Whitney の U 検定を行った。. 準 偏 差 を 平 均 値 で 除 し,100 を か け る こ と で 求 め ら.  加えて,BWSTT の歩行速度変化率と他の評価項目関. 19). ,ある区間の 1 歩行周期時間のばらつきを示して. 係を検証するために,Pearson の積率相関係数または. いる。なお,RMS は歩行速度の 2 乗に比例することか. Spearson の順位相関係数を使用した(上下・左右 RMS. ら,RMS は歩行速度の 2 乗で除することで,歩行速度. においては歩行速度の 2 乗にて除して調整しているた. れ. 18). 。. め,この統計は行わなかった)。すべての統計処理は統. 3)評価の流れ(図 4). 計ソフト IBM SPSS Statistics 21.0 を用い,いずれも有.  BWSTT と FBWTT の即時効果の差を検証するため,. 意水準 5% をもって統計学的有意とした。. の影響を除外した.

(4) 200. 理学療法学 第 45 巻第 3 号. 速度(変化率 8.9%),歩幅,歩行率,麻痺側の 1 歩行周. 結   果. 期 CV,そして上下 RMS がそれぞれ有意に改善してい.  本研究の設定において,著明な血圧の変動や転倒と. た。FBWTT に有意差が認められた項目はなかった。. いった事故等はなかった。BWSTT 中の平均歩行速度は.  表 3 に BWSTT と FBWTT の変化率の比較を示す。. 73.3 m/ 分,FBWTT 中 は 平 均 55.5 m/ 分 で あ っ た。. 前記の項目に加えて非麻痺側の 1 歩行周期の CV に有意. BWSTT では平地歩行よりも速い速度で歩行練習が可能. 差が認められた。. であった。.  表 4 に BWSTT の歩行速度変化率と他の評価項目の.  表 1 に対象者の特性を示す。対象者の Br.st はⅣが 1. 変化率の相関を示す。歩行速度変化率は歩行率の変化率. 人,Ⅴが 5 人,Ⅵが 4 人と麻痺は比較的軽度と考えられ. と有意な正の相関関係が認められた。. た。また発症からの介入時の期間は 16 ± 10 日であった。  表 2 に BWSTT と FBWTT による即時効果の結果を 示す。BWSTT により有意差が認められた項目は,歩行. 考   察  本研究は発症後早期の脳卒中片麻痺患者に対し BWSTT と FBWTT をそれぞれ施行し,歩行速度や歩 幅に加え,歩行時の身体動揺を表す左右・上下 RMS. 表 1 対象者特性 性別. 転倒予測として有用と考えられる 1 歩行周期の CV. ,. 20). を評価することで,BWSTT の即時効果を明らかにする. 男性:7 名  女性:3 名. 年齢(歳). 18). ことを目的とした。. 71 ± 11. 診断名. 脳梗塞:4 名  脳出血:6 名.  BWSTT の効果が明らかになっていないひとつの理由. 麻痺側. 右:5 人  左:5 人. として,BWSTT の免荷量や歩行速度,歩行時間の設定. Ⅳ:1 人 Ⅴ:5 人 Ⅵ:4 人. が一律でないということが挙げられる。免荷量の設定に. 移動項目の FIM(点). 5:1 人 6:4 人 7:5 人. 関して,一般に免荷量が増加することにより歩行時の筋. 発症からの期間(日). 16 ± 10. Br.st. 活動が低下するが,25% の免荷量までは歩行時の筋活. 表 2 BWSTT と FBWTT による即時効果 BWSTT 前. BWSTT 後. FBWTT 前. FBWTT 後. 歩行速度. (m/ 分). 66.7 ± 10.9. 72.7 ± 12.5 **. 70.0 ± 9.2. 69.0 ± 6.6. 歩幅. (cm). 52.0 ± 5.2. 54.0 ± 5.4 *. 52.0 ± 4.9. 52.0 ± 4.6. 128.2 ± 12.5. 134.0 ± 12.2 *. 135.3 ± 10.9. 133.0 ± 8.2. 2.9 ± 0.7. 2.5 ± 0.7 *. 3.4 ± 1.5. 3.2 ± 0.9. 2.3 ± 0.6. 2.1 ± 0.7. 2.6 ± 1.1. 2.9 ± 0.8. 4.6 ± 1.3. 3.4 ± 0.8. 5.3 ± 0.9. 5.7 ± 1.9. 歩行率. (歩 / 分). 1 歩行周期 CV(麻痺側).  . 1 歩行周期 CV(非麻痺側) 左右重心移動距離. (cm). 上下重心移動距離. (cm). 3.4 ± 0.8. 3.5 ± 1.1. 3.9 ± 0.5. 3.6 ± 0.4. 左右 RMS.  . 0.4 ± 0.2. 0.4 ± 0.2. 0.4 ± 0.2. 0.4 ± 0.2. 上下 RMS.  . 2.4 ± 0.6. 2.0 ± 0.5 *. 2.1 ± 0.4. 2.2 ± 0.4. **: p < 0.01 *: p < 0.05. 表 3 BWSTT と FBWTT の変化率の比較(%) BWSTT 変化率. FBWTT 変化率. 歩行速度. 8.9 ± 4.2 **. ‒ 0.9 ± 7.2. 歩幅. 3.9 ± 1.6 *. ‒ 0.1 ± 3.9. 歩行率. 4.7 ± 4.7 *. ‒ 1.5 ± 5.6. ‒ 12.7 ± 24.5 *. 8.8 ± 10.2. 1 歩行周期 CV(非麻痺側). ‒ 4.7 ± 43.3 *. 11.4 ± 25.1. 左右重心移動距離. ‒ 9.8 ± 18.2. 上下重心移動距離. ‒ 1.7 ± 16.4. ‒ 6.0 ± 8.6. ‒ 3.4 ± 8.6. ‒ 0.9 ± 11.8. 1 歩行周期 CV(麻痺側). 左右 RMS 上下 RMS **: p < 0.01 *: p < 0.05. ‒ 15.5 ± 6.8 **. 2.7 ± 16.1. 3.2 ± 14.7.

(5) 片麻痺患者に対する部分免荷型トレッドミル歩行練習の即時効果. 9) れ ,これは歩行の振りだしの際に用いられる股関節屈. 表 4 BWSTT による歩行速度変化率 と他の評価項目の変化率の相関 評価項目 歩幅. 201. 曲筋群の筋張力を高めるとされている. 23). 。これら安定. r または ρ. した立脚期と立脚後期の股関節伸展の誘導,さらに筋張. ‒ 0.296. 力の高まりにより歩幅拡大と歩行速度の改善が成された. 歩行率. 0.723 **. と考えられた。これらに加え,免荷と体幹支持機構によ. 麻痺側 CV. 0.345. る容易な立脚期形成は,BWSTT による歩行練習中の良. 非麻痺側 CV. 0.179. 好なアライメント形成につながると想定される。これに. 左右重心移動距離. ‒ 0.270. 上下重心移動距離. ‒ 0.245. より BWSTT 中に円滑な麻痺側脚の振りだし,上下の 動揺の少ない歩容が学習され,平地歩行において 1 歩行. **: p < 0.01. 周期 CV・上下 RMS の改善につながったと考えられた。 ここで 1 歩行周期 CV に関し,Hausdorff ら 4). 動量が免荷なしと比較し有意差がないこと ,また先行 研究. 10). を参考に,本研究では免荷量を 20% と設定した。. 20). は 1 歩行. 周期 CV は,健常高齢者において転倒群は非転倒群より も高値であるとし,これは TUG や歩行速度よりも転倒. また歩行速度と歩行時間の設定に関しては,対象者の. 予測に有用としている。また新井らは地域在住高齢者の. もっとも高いパフォーマンスを引きだせるよう,対象者. 転倒群の 1 歩行周期 CV が 2.9%(非転倒群は 2.3%) ,さ. の主観的な歩行可能な最大速度,または客観的に麻痺側. らに脳卒中患者のカットオフは 3.3% であると報告して. 下肢の振りだしが可能な最大速度とし,歩行時間は 5 分. いる. 間× 2 回を休憩を挟んで設定した. 10). 。. 24)25). 。これらの研究は本研究と測定方法に若干違. いがあるために単純比較はできないが,本研究の対象者.  歩行速度について,本研究における介入前の最大歩行. の介入前の 1 歩行周期 CV は麻痺側下肢で 2.9% であり,. 速度は平均分速 66.7 m であり,BWSTT により平均分. 転倒群の値と近い値であった。しかし BWSTT により,. 速 72.7 m に改善した。歩行速度の変化率は 8.9% であっ. 1 歩行周期 CV は 2.5% まで有意に低下したことから,. た。しかし同年代の健常高齢者の最大歩行速度は平均分. さらなる検討が必要であるが,BWSTT は回復期脳卒中. 21). ,麻痺が比較的軽度と考えられる本. 速 104 m であり. 片麻痺患者の転倒予防につながる可能性があることが示. 研究の対象者においても,同年代の健常高齢者より最大. 唆された。. 歩行速度は遅いという結果であった。また BWSTT に.  上記より BWSTT は多くの即時効果があることが示. 10). は歩行速度の変化率. されたが,加えて歩行速度の変化率は歩行率の変化率と. は最大 5.0% としており,本研究は. 有意な正の相関関係が認められた。このことから歩行速. 先行研究と同様,BWSTT による歩行速度改善効果を支. 度の改善には歩行率の改善が寄与しているものと考えら. 持する結果となった。また,本研究の歩行速度の変化率. れた。近藤ら. よる即時効果について,武井ら が 8.8%,高尾ら. は,武井ら. 10). 22). と同程度,高尾ら. 22). より同程度以上の. 傾向にあった。この理由として,本研究と武井ら 対象者は,高尾 こと(武井ら. 22). 10). 10). の. の研究と比べて麻痺が軽度であった. は Br.st のⅢが 1 名,Ⅳが 11 名,Ⅴが. 10 名,Ⅵが 8 名,高尾ら. 22). はⅢが 3 名,Ⅳが 4 名,Ⅴ. が 1 名),また介入時間は本研究と武井ら 22). 10). が 5 分間. 26). は脳卒中片麻痺患者において歩行速度. が分速 60 m 以上の場合,さらなる歩行速度の向上は重 複歩距離ではなく歩行率の改善に寄与するとしている。 本研究における最大歩行速度は分速 66.7 m であること から,本研究における歩行速度向上は近藤ら. 26). と同様. に,歩行率の改善が要因のひとつと考えられた。  一方で,FBWTT の即時効果は認められなかった。. は 20 分間と本. 理由としては,BWSTT では可能であった平地歩行より. 研究と比べて長かったことが挙げられる。それぞれの研. も高いパフォーマンス,本研究の場合は平地よりも速い. 究に BWSTT 中の歩行速度等の記載がないため推察と. 歩行速度での歩行練習を施行できなかったためと考えら. × 2 セットであるのに対し,高尾ら. なってしまうが,これらにより本研究と武井ら 22). 10). は,. れる。BWSTT では 10 名のうち 8 名の対象者が平地よ. の研究より速い速度での歩行練習が可能とな. りも速い速度で歩行練習を施行することが可能であった. り,より大きい歩行速度の改善効果が認められたのでは. が,FBWTT では 2 名の対象者に留まった。これは免. ないかと考えられた。. 荷・体幹支持機構がないためと考えられ,歩行練習中に.  また BWSTT により歩幅は拡大,歩行率は向上,麻. 容易な立脚期の形成が困難となり,また転倒に対する不. 痺側の 1 歩行周期 CV・上下 RMS も改善した。BWSTT. 安が BWSTT よりも大きくなったと想定され,結果,. では 20% の免荷と体幹支持機構により,歩行時の立脚. 平地よりも歩行速度が遅くなってしまったと推察され. 中期における立脚支持が免荷なしと比べ容易となると推. た。また Ada らは地域在住の片麻痺患者に対し,2 ヵ. 察される。また,トレッドミル上における歩行は,ベル. 月または 4 ヵ月のトレッドミル歩行練習は,コントロー. トコンベアによって立脚後期の股関節伸展が誘導さ. ル群と比較し歩行距離延長の効果があるとしているが,. 高尾ら.

(6) 202. 理学療法学 第 45 巻第 3 号. この効果は練習を終了すると消失してしまうと報告して いる. 27). 。これらのことから FBWTT で歩行速度向上等. の効果を得るためには,短期的な介入ではなく継続的な 介入が必要な可能性が示唆された。  本研究の限界点としては,対象者が少ない点が挙げら れる。また発症後早期における BWSTT の即時効果は 明らかになったが,これらの継続的な介入による効果の 検証,加えてその効果がどのくらいの期間継続するかと いう検証が必要なことと考えられる。さらに BWSTT 中におけるベルトコンベアによる立脚後期の形成,股関 節屈曲筋の筋張力向上を考察で示したが,本研究の対象 者 に 真 に 表 れ て い た か を 明 ら か に す る た め に は, BWSTT 中において電子角度計や筋電図を利用した歩行 分析が必要と考えられた。 結   論  回復期脳卒中片麻痺患者において,BWSTT により歩 行速度向上,歩幅拡大,歩行率改善,1 歩行周期 CV 改 善,上下 RMS 改善という即時効果が認められ,歩行速 度向上は歩行率改善と有意な正の相関関係が認められ た。また,BWSTT の即時効果は FBWTT では認めら れず,FBWTT で歩行能力改善の効果を得るためには, 継続した介入が必要である可能性が示唆された。 利益相反  本研究において開示すべき利益相反に相当する事項は ない。 文  献 1)佐直信彦,中村隆一,他:在宅脳卒中患者の生活活動と 歩行機能の関連.リハビリテーション医学.1990; 28(7): 541‒547. 2)小川 彰,出江紳一,他:脳卒中治療ガイドライン 2015. 協和企画,東京,2015,pp. 270‒318. 3)篠原幸人,吉本高志,他(編) :脳卒中治療ガイドライン 2004.協和企画,東京,2004,pp. 169‒216. 4)高橋一揮,佐藤洋一郎:体重免荷トレッドミル歩行におけ る下肢筋活動と呼吸循環応答.理学療法科学.2011; 26(1): 83‒88. 5)Barbeau H, Visintin M: Optimal outcomes obtained with body-weight support combined with treadmill training in stroke subject. Arch Phys Med Rehabil. 2003; 84(10): 1458‒1465. 6)Takao T, Tanaka N, et al.: Improvement of gait ability with a short-term intensive gait rehabilitation program using body weight support treadmill training in community dwelling chronic poststroke survivors. J Phys Ther Sci. 2015; 27(1): 159‒163. 7)Ada L, Dean CM, et al.: Randomized trial of treadmill walking with body weight support to establish walking with in subacute stroke: the MOBILISE trial. Stroke. 2010; 41(6): 1237‒1242. 8)Ullah MA, Shafi H, et al.: The effects of gait training with body weight support (BWS) with no body weight support. (no-BWS) in stroke patients. J Pak Med Assoc. 2017; 67(7): 1094‒1096. 9)Mao YR, Lo WL, et al.: The effect of body weight support treadmill training on gait recovery, proximal lower limb motor pattern, and balance in patients with subacute stroke. Biomed Res Int. 2015; 2015: 175719. 10)武井圭一,金子誠喜,他:回復過程の脳卒中片麻痺者への 部分免荷トレッドミル歩行練習の特徴.理学療法学.2010; 37(3): 139‒145. 11)武井圭一,金子誠喜,他:脳卒中片麻痺者への発症後早期 の部分免荷トレッドミル歩行練習の短期介入適応の検討. 理学療法科学.2010; 25(3): 349‒355. 12)Hesse S, Konrad M, et al.: Treadmill walking with partial body weight support versus floor walking in hemiparetic subjects. Arch Phys Med Rehabil. 1999; 80(4): 421‒427. 13)Kosak MC, Reding MJ: Comparison of partial body weightsupported treadmill gait training versus aggressive bracing assisted walking post stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2000; 14(1): 13‒19. 14)Peurala SH, Airaksinen O, et al.: Effects of intensive gaitoriented physiotherapy during early acute phase of stroke. J Rehabil Res Dev. 2007; 44(5): 637‒648. 15)Da Cunha IT, Lim PA, et al.: A comparison of regular rehabilitation and regular rehabilitation with supported treadmill ambulation training for acute stroke patients. J Rehabil Res Dev. 2001; 38(7): 245‒255. 16)WORLD MEDICAL ASSOCIATION DECLARATION OF HELSINKI Ethical Principles for Medical Research Involving Human Subjects, 2008. http://www.wma.net/ en/10home/index.htm.(2016 年 1 月 3 日引用) 17)Moe-Nilssen R: A new method for evaluating motor control in gait under real-life environmental conditions. Part 2: Gait analysis. Clini Biomech. 1998; 13: 328‒335. 18)Menz HB, Load SR, et al.: Acceleration patterns of the head and pelvis when walking on level and irregular surface. Gait Posture. 2003; 18(1): 35‒46. 19)Hausdorff JM, Edelberg HK, et al.: Increased gait unsteadiness in community-dwelling elderly fallers. Arch Phys Med Rehabil. 1997; 78(3): 278‒283. 20)Yoneyama M, Mitoma H, et al.: Effect of age, gender and walkway length on accelerometry-based gait parameters for healthy adult subject. J Mech Med Biol. 2016; 16(2): 1‒20. 21)高尾敏文,斉藤秀之,他:慢性期脳卒中片麻痺患者に対す る体重免荷トレッドミル歩行練習の即時効果および経時効 果.理学療法学.2011; 38(3): 180‒187. 22)越 智 文 雄, 村 田 賢 二: 歩 行 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン ─ 部 分 免荷トレッドミル歩行訓練.J Clin Rehabil.2005; 14(6): 501‒515. 23)Hausdorff JM, Rios DA, et al.: Gait variability and fall risk in community-living older adults: a 1-year prospective study. Arch Phys Med Rehabil. 2001; 82(8): 1050‒1056. 24)新井智之,柴 喜崇,他:10 m 歩行における歩行周期変動 と運動機能,転倒との関連─小型加速度計を用いた測定─. 理学療法学.2011; 38(3): 165‒172. 25)新井智之,柴 喜崇,他:脳血管障害者の転倒と歩行周 期変動との関連.総合リハビリテーション.2013; 41(3): 269‒274. 26)近藤正太,荒木創一,他:歩行速度変化に伴う片麻痺患者 の重複歩距離と歩行率の検討.理学療法科学.1995; 10(1): 11‒14. 27)Ada L, Dean CM, et al.: Randomized trial of treadmill training to improve walking in community-dwelling people after stroke: the AMBULATE trial. Int J Stroke. 2013; 8(6): 436‒444..

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参照

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