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腰部疾患手術後の遺残下肢症状に対する電気療法の継続効果

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(1)理学療法学 第 45 巻第 5 号 291 ∼ 腰部疾患手術後の遺残下肢症状に対する電気療法の継続効果 296 頁(2018 年). 291. 研究論文(原著). 腰部疾患手術後の遺残下肢症状に対する電気療法の継続効果* 宮城島一史 1)2)# 対 馬 栄 輝 2) 石 田 和 宏 1) 佐 藤 栄 修 3) 百 町 貴 彦 3) 柳 橋   寧 3) 安倍雄一郎 3). 要旨 【目的】本研究の目的は,腰部疾患手術後の遺残下肢症状に対する入院中の電気療法の継続効果を検討する ことである。 【方法】対象は,腰椎後方手術後に下肢症状が遺残した 50 例とし,症状部位に 10 分間電気療 法を実施した。入院中に電気療法を継続した例(電気継続群) ,電気療法の継続を中止した例(電気中止群) の 2 群に分類し,下肢症状の VAS を調査した。 【結果】電気継続群は 39 例,電気中止群は 11 例であった。 電気継続群の VAS(術前→初回電気療法前→退院時)は 70 → 40 → 14 mm であり,各時期で有意差を認め た。電気中止群の VAS は 63 → 45 → 41 mm であり,初回電気療法前から退院時で有意差を認めなかった。 多重ロジスティック回帰分析の結果,退院時の VAS(オッズ比:1.04)が選択された。 【結論】腰部疾患手 術後の遺残下肢症状に対し,入院中に電気療法を継続した群は,退院時の症状の回復が良好であった。 キーワード 腰部疾患手術後,遺残下肢症状,電気療法,継続効果. ること. はじめに. 8). ,またブロック療法では実施時の激しい疼痛が. あることにより安易に実施できないこと. 9). が挙げられ.  腰部疾患手術後は術前の症状が大幅に改善するが,下. る。遺残下肢症状をさらに改善させるには理学療法によ. 肢の疼痛やしびれなどの遺残症状を呈する患者は少なく. る介入が求められるが,運動療法や徒手療法のみでは改. なく,その遺残率は 26 ∼ 66% と報告されている. 1‒5). 遺残下肢症状は,術後の愁訴,不満のひとつであり. 。. 1). ,. 6). 善が乏しく,物理療法を併用すればよいことがある。過 去の報告では,腰部への電気療法に関する報告 11)12). 10). や超. 患者満足度が低下するともいわれている 。また,遺残. 音波療法の報告. 下肢症状を認めた例では術後の入院期間を長期化させる. 理的作用の特性を十分に考慮すれば,副作用や実施時の. 7). がある。物理療法は,使用する物. 。つまり,腰部疾患手術後の理学療法. 苦痛はほとんどなく,さらに適度な刺激により心地よさ. において,クリニカルパスに沿った自宅退院を達成させ. を感じることから臨床では非常に好まれる治療法であ. るためには,遺残下肢症状に対するアプローチが重要と. る。しかし,ドレーンが挿入され術創部が治癒していな. なると考える。. い術後早期は,感染などの影響を考えると腰部への物理.  遺残下肢症状に対する治療としては,薬物療法,ブ. 療法が積極的に実施できない。そこで,我々は術部周囲. ロック療法などがあるが,薬物療法は副作用の影響があ. ではなく下肢に電極を貼付する電気療法を術後早期から. との報告もある. *. Effects of Continuing Electrotherapy for Residual Leg Symptoms after Lumbar Surgery 1)我汝会えにわ病院リハビリテーション科 (〒 061‒1449 北海道恵庭市黄金中央 2 丁目 1‒1) Kazufumi Miyagishima, PT, MSc, Kazuhiro Ishida, PT, PhD: Department of Rehabilitation, Eniwa Hospital 2)弘前大学大学院保健学研究科 Kazufumi Miyagishima, PT, MSc, Eiki Tsushima, PT, MSc, PhD: Graduate school of Health Science, Hirosaki University 3)我汝会えにわ病院整形外科 Shigenobu Satoh, MD, Takahiko Hyakumachi, MD, Yasushi Yanagibashi, MD, Yuichiro Abe, MD: Department of Orthopedic Surgery, Eniwa Hospital # E-mail: kazufumi.miyagishima-pt@hotmail.co.jp (受付日 2017 年 12 月 26 日/受理日 2018 年 5 月 31 日) [J-STAGE での早期公開日 2018 年 7 月 12 日]. 実施している。過去に遺残下肢症状に対し,10 分間の 電気療法を行うことで,約半数に即時効果を認めたと報 告した. 13)14). 。しかし,実際に即時効果を認めた例が,. 退院時に良好な経過をたどるのか,電気療法継続による 効果があるのかどうかは不明である。  そこで本稿では,整形外科手術後の電気療法の効果に 関して,症状の程度を評価する方法としてよく用いられ 10)15)16). る VAS(visual analogue scale). を 使 用 し て,. 入院中の腰部疾患手術後患者において遺残下肢症状に対 する電気療法の継続効果を検討することを目的とした。.

(2) 292. 理学療法学 第 45 巻第 5 号. 表 1 症例の内訳(n=50). 対象および方法 性別(例). 1.対象  対象の適応基準は,当院にて腰椎後方除圧術または固 定術を目的として入院し,著者が担当した 100 例とした。 除外基準は,①心臓ペースメーカーを留置している例, ②問診表の記入が困難または記入に不備があった例,③ 術後の予定したプロトコルからの除外例,④電気療法実. 男性. :. 31. 女性. :. 19. 年齢(歳). 52.6 ±. 18. ( 22 ∼. 身長(cm). 162.9 ±. 7.4. ( 150 ∼ 179 ). 体重(kg). 68.4 ±. 13. ( 46 ∼ 113 ). 2 BMI(kg/m ). 25.3 ±. 3.3. ( 18 ∼. 40 ). 腰椎椎間板ヘルニア. :. 24. )から末梢に. 腰部脊柱管狭窄症. :. 12. 痛みまたはしびれの遺残症状を呈した 50 例を本研究の. 腰椎変性すべり症. :. 6. 調査対象とした(表 1)。. 腰椎多数回手術例. :. 3.  対象者にはヘルシンキ宣言に則り十分な配慮を行い,. 腰椎分離すべり症. :. 2. 施の同意が得られない例とした。除外基準に該当しない 例のうち,術後に殿部(腸骨稜より下. 疾患(例). 82 ). 17). 本研究の趣旨,目的,方法,参加の任意性と同意撤回の 自由およびプライバシー保護についての十分な説明を行. 術式(例). い,同意を得た。なお,本研究はえにわ病院倫理委員会 (受付番号 35)ならびに弘前大学大学院医学研究科倫理 委員会の承認(整理番号 2013-364)を得て実施した。 2.方法. 罹病期間(月). 1)治療機器の設定・治療手順. MOB の有無(例).  治療機器は中周波電気治療器(スーパーテクトロン HX606,テクノリンク社製)を用いた(図 1)。治療時 間は 10 分間(出力時間 6 秒,休止時間 4 秒の間欠刺激), 治療モード(出力波形)は A-mode(1.1 ∼ 1.3 kHz の 周波数の範囲で変化するランダムアクセス波)とし た. 13)14). 。強度は電気刺激によって不快感,疼痛が出現. しない最大限の強さに設定した。10 分間の治療中,対. その他. :. 3. ヘルニア摘出術. :. 18. MF. :. 10. PLIF. :. 11. MED. :. 5. PLF. :. 3. その他. :. 3. 20.3 ±. 36. 有 :. 6. (. 1 ∼ 180 ) 無 : 44. 平均±標準偏差(最小値∼最大値) MOB:Multiply operated back(腰椎多数回手術例) BMI:body mass index MF:medial facetectomy(内側椎間関節切除術) MED:microendoscopic discectomy(内視鏡下ヘルニア 摘出術) PLF:posterolateral lumbar fusion(腰椎後側方固定術) PLIF:posterior lumbar interbody fusion(腰椎後方椎体 間固定術). 象の訴えに合わせて強度を調節した。治療肢位はベッド. 図 1 中周波電気治療機器(スーパーテクトロン HX606,テクノリンク社製) a:治療機器 b,c:導子の装着(症状部位に合わせた大きさの導子を使用).

(3) 腰部疾患手術後の遺残下肢症状に対する電気療法の継続効果. 293. 上背臥位,側臥位などの症状が増強しない安楽臥位とし. 立変数を性別,年齢,BMI,術式,罹病期間,MOB,. た。皮膚抵抗を減少させるために導子のスポンジを十分. 術後の投薬の有無,術前・退院時の下肢筋力,術前・初. に水で湿らせた後,症状部位に導子を貼付した。導子の. 回電気療法前・退院時の遺残下肢症状の VAS および足. 大きさは症状部位に応じて 4,6,8 cm の吸引式丸形導. 部の症状の有無とし,尤度比基準の変数増加法による多. 子を使用し,遺残下肢症状の強い順に最大 4 つ貼付した。. 重ロジスティック回帰分析を適用した。有意水準は 5%. 症状範囲が広い例は,症状の強弱や患者の訴えに合わせ. と し た。 な お, デ ー タ 集 計 と 解 析 に は SPSS19.0J for. て貼付し,症状部位の変化や症状の強弱に応じて毎日変. Windows(日本アイ・ビー・エム)を使用した。. 更した。 2)検討時期・検討項目. 結   果.  腰椎除圧術症例は術後 5 日目,腰椎固定術症例は術後.  電気継続群は 39 例,電気中止群は 11 例であり,電気. 7 日目のリハビリテーション室における理学療法開始日. 中止群において電気療法実施直後の症状悪化例は存在し. に初回電気療法を実施した。. なかった(表 2)。電気継続群における初回電気療法直.  入院中に 1 日 1 回,週 5 ∼ 6 回電気療法を継続した例. 後の即時効果を認めた例は 33 例(84.6%),認めなかっ. (電気継続群),2 ∼ 3 回の電気療法で効果が認められず. た例は 6 例(15.4%)であった。. に電気療法の継続を中止した例(電気中止群)の 2 群に.  電気継続群の VAS(中央値)は術前 70 mm,初回電. 分類し検討した。なお,当院ではクリニカルパスに電気. 気療法前 40 mm,退院時 14 mm であり,どの時期にお. 療法が入っており,倫理的な配慮から電気未実施群を設. いても有意差を認めた(p < 0.05,効果量 r = 0.66 ∼. けられなかったため,電気療法は必ず 2 回以上行い,電. 0.86) 。電気中止群の VAS は術前 63 mm,初回電気療. 気中止群を設定し,対照群とした。2 回目または 3 回目. 法前 45 mm,退院時 41 mm であり,術前から初回電気. の治療後において,筆頭演者が口頭および VAS にて電. 療法前では有意差を認めたが(p < 0.05,効果量 r =. 気療法の効果に関して質問した。なお,数回の電気療法. 0.63),初回電気療法前から退院時では有意差を認めな. により明らかな VAS の改善がなく,症状の軽減がない. かった(p = 0.93,効果量 r = 0.03,表 3)。. と患者が訴えた場合,治療継続の有無に関しては選択肢.  多重ロジスティック回帰分析の結果,退院時の VAS. を与え,患者自身が判断した。それに対して,「症状に. (オッズ比 1.04,95%信頼区間:1.02 ∼ 1.07)が選択さ. 変化がないので電気療法を行わなくてもよい」と患者自 身が訴え,その後入院中の電気療法を継続しなかった例 を電気中止群とした。. れた(p < 0.05,判別的中率 84.0%,表 4) 。 考   察.  各群において,術前,初回電気療法前(術後 5 ∼ 7 日.  電気継続群では VAS の改善度が大きかった。電気療. 目),退院時(術後 2 ∼ 3 週)に遺残下肢症状の程度を. 法の疼痛軽減機序には,ゲートコントロール理論と内因. 18). を調査した。VAS の評価は,横 100 mm. 性疼痛抑制機構(内因性オピオイド放出)の大きく 2 つ. の線が記載された紙面を渡し,「現在の①腰痛,②脚の. が関与している。前者はおもに即効性のある疼痛軽減効. 痛み,③脚のしびれはどの程度ですか? 0 はまったく. 果,後者はおもに持続性のある疼痛軽減効果と関連が深. 症状がない,100 は耐えられない症状です。あてはまる. いとされている. 程度に線を引いてください」というそれぞれの問いに対. 高強度(患者が耐えうる最大強度)の方が疼痛軽減効果. し,患者が自己記入した。個々の症例に合わせて電気療. を認め,疼痛部位と一致したデルマトーム上に電極を配. 法,体幹・下肢のストレッチングおよび筋力強化,日常. 置した方が疼痛軽減効果を認めたと述べている。本研究. 生活動作指導を退院時まで継続した。. における刺激強度は,初回の患者への配慮を含めた臨床.  2 群間で比較する検討項目は,性別,年齢,BMI(body. 的な観点から「患者が耐えうる最大強度」にしなかった. mass index) ,術式(除圧術・固定術) ,罹病期間,MOB. ものの,「電気刺激によって不快感,疼痛が出現しない. (Multiply operated back) ,術後の投薬の有無,術前・退. 最大限の強さ」に設定したことから,ゲートコントロー. 院時の下肢筋力,術前・初回電気療法前・退院時の遺残. ル理論による疼痛抑制機序が働き,即時効果が得られた. 下肢症状(疼痛またはしびれ)の VAS とした。MOB は,. と考える。また,刺激周波数は低周波よりも高い中周波. 今回の手術前に脊椎手術の既往がある場合とした。. 帯域の広帯域多重複合波(ランダムアクセス波)を使用. 3)統計解析. したこと,電極配置部位を症状部位にした。下肢症状を.  各群の VAS の変化量については Friedman 検定と多. 神経障害性疼痛として考えると,下肢の皮膚分節からの. 重比較法(Wilcoxon の符号付順位検定を Shaffer 法で. 電気刺激が脊髄における疼痛感覚の上行性を遮断してい. 補正)を使用し,Cohen の方法を用いて効果量(r)を. る可能性があり,これにより疼痛軽減効果が得られたの. 算出した。また,従属変数を電気療法の継続の有無,独. ではないかと推察する。電気療法を同一の周波数,パル. 示す VAS. 19)20). 。Chesterton 21) は, 高 周 波 数,.

(4) 294. 理学療法学 第 45 巻第 5 号. 表 2 電気継続群・電気中止群の内訳 電気継続群(39 例) 性別(例). 電気中止群(11 例). 男性. :. 23. 女性. :. 16. 51.5 ±. 16. (. 22 ∼. 76 ). 身長(cm). 163 ± 6.9. (. 150 ∼. 体重(kg). 66.8 ±. 13. (. 46 ∼. 24.5 ± 4.3. (. 18 ∼ 40.4 ). 年齢(歳). BMI(kg/m2) 疾患(例). 術式(例). 男性. :. 女性. :. 3. 56.7 ±. 23. (. 25 ∼. 82 ). 175 ). 163 ± 9.2. (. 154 ∼. 179 ). 113 ). 69.4 ±. 19. (. 46 ∼ 93.8 ). 26 ± 5.6. (. 19 ∼. 腰椎椎間板ヘルニア. :. 9. 腰部脊柱管狭窄症. :. 腰椎変性すべり症. :. 腰椎多数回手術例 腰椎分離すべり症. :. 6. 18. 腰部脊柱管狭窄症. :. 3. 5. 腰椎変性すべり症. :. 1. :. 2. 腰椎多数回手術例. :. 0. :. 3. 腰椎分離すべり症. :. 1. その他. :. 3. :. 15. MF. :. 8. PLIF. :. MED. :. PLF その他 21.2 ±. MOB の有無(例). 40. (. その他. :. 0. ヘルニア摘出術. :. 3. MF. :. 2. 10. PLIF. :. 1. 3. MED. :. 2. :. 3. PLF. :. 0. :. 0. その他. :. 3. 1∼. 有:6. 40 ). 腰椎椎間板ヘルニア. ヘルニア摘出術. 罹病期間(月). 8. 180 ). 17.8 ±. 無 : 33. 14. (. 2∼. 有:0. 38 ). 無 : 11. 術前患者用 BS-POP(点). 16.6 ± 3.7. (. 10 ∼. 26 ). 15 ± 2.4. (. 12 ∼. 20 ). 術前治療者用 BS-POP(点). 9.2 ± 3.7. (. 8∼. 15 ). 9.4 ± 2.1. (. 8∼. 15 ). 術前下肢筋力(MMT). 4 以上 :. 35. 退院時下肢筋力(MMT). 4 以上 :. 36. 72.9 ±. 19. 術前 VAS(mm). 3 以下 : 3 以下 : (. 25 ∼. 4. 4 以上 :. 10. 3. 4 以上 :. 10. 76.7 ±. 31. 100 ). 3 以下 :. 1. 3 以下 : (. 0∼. 1 100 ). 電気療法前 VAS(mm). 40.3 ±. 23. (. 4∼. 88 ). 43.1 ±. 27. (. 6∼. 95 ). 退院時 VAS(mm). 24.5 ±. 19. (. 3∼. 85 ). 49.1 ±. 35. (. 7∼. 98 ). MOB:multiply operated back,腰椎多数回手術例 BMI:body mass index BS-POP:brief scale for psychiatric problems in orthopaedic patients VAS:visual analogue scale. 表 3 VAS の推移 術前. 初回電気療法前. 退院時. VAS (mm). Mean ± SD. Median. IQR. Mean ± SD. Median. IQR. Mean ± SD. Median. IQR. 電気継続群. 72.9 ± 18.7. 77.0. 23.0. 40.3 ± 23.2. 40.0. 35.5. 24.5 ± 21.8. 16.0. 23.0. 電気中止群. 76.7 ± 31.3. 95.0. 31.5. 43.2 ± 27.1. 45.0. 27.5. 49.1 ± 34.8. 41.0. 61.5. Mean:平均値 SD:standard deviation,標準偏差 Median:中央値 IQR:Interquartile range,4 分位範囲. 表 4 電気療法継続の有無に影響する要因. 退院時の VAS (mm). オッズ比. 95% 信頼区間 (下限∼上限). 有意確率(p). 1.04. 1.02 ∼ 1.07. 0.047. 判別的中率:84.0% Hosmer と Lemeshow の検定 p = 0.85.

(5) 腰部疾患手術後の遺残下肢症状に対する電気療法の継続効果. ス幅,強度で毎日実施すると鎮痛効果が低下していると いわれている. 22). 。特に刺激強度は非常に重要であり,. 快適ではあるが可能な限り電流強度を上げることで,多 くの神経線維を活動参加させ,鎮痛を引き起こすといわ れている. 23). 。持続性のある疼痛軽減効果については,. 295. い課題が残されている。今後は対照群を明確に規定し, 前向きに調査していきたい。 結   論  電気継続群では VAS の改善度が大きかった。これは. 高周波数を用いたため持続的な効果のメカニズムには疑. 手術による自然回復,薬物療法の効果,運動療法の効果. 問が残るが,電気療法毎に徐々に強度を上げ,高刺激強. に加え,電気療法の継続効果が大きかったと推察でき. 度を用いたため,内因性疼痛抑制機構に基づいた持続的. る。さらに,多重ロジスティック回帰分析の結果,退院. な効果が得られた可能性を考える。. 時の VAS のみ選択され,電気継続群が電気中止群と比.  当然,今回の結果は手術による自然回復,薬物療法の. 較して退院時の VAS が良好である結果であった。2 群. 効果,運動療法の効果などもある。しかし,多重ロジス. 間において,他の因子よりも退院時の VAS の影響度が. ティック回帰分析の結果,退院時の VAS のみ選択され,. 強く,交絡因子を除いて結果を解釈できると考える。. 電気継続群が電気中止群と比較して退院時の VAS が良.  腰部疾患手術後の遺残下肢症状に対し,入院中に電. 好であった。よって,電気継続群と中止群の 2 群間にお. 気療法を継続した群は,退院時の症状の回復が良好で. いて,他の因子よりも退院時の VAS の影響度が強く,. あった。. 交絡因子を除いて結果を解釈できると考えられることか ら,電気療法継続の効果がまったくないとはいえない。 竹内ら. 24). は,腰部脊柱管狭窄症に対する除圧術後症例. に対する電気療法を実施した群は,術後 1 ヵ月時の疼痛, 歩行満足度が有意に改善したと報告している。本研究 は,腰部脊柱管狭窄症以外の症例や腰椎固定術症例も混 在しているが,同様な結果を示しており,遺残下肢症状 に対する電気療法は,疾患や術式を問わず有効な治療法 である可能性が考えられる。このような症例に対して は,術後の運動療法・ADL 指導が実施しやすくなり, 術後プロトコルに沿ったスムーズな自宅退院につながる だけでなく,術後の患者満足度の向上にもつながると考 える。しかし,電気療法の数回の効果が乏しい場合は, 電気療法の継続効果も乏しくなる可能性があり,治療選 択や予後予測にも使用できる可能性がある。電気療法の 効果が乏しい場合は,臨床では超音波療法. 11). を試して. みるのもひとつであるが,今後検討が必要である。  電気療法の効果に影響を与える要因として,痛みの破 局的思考,うつ,不安感の強い症例は鎮痛効果が小さい との報告がある. 15). も報告されている. 。また,近年ノセボ(nocebo)効果. 25). 。電気療法の効果を説明してから. 実施すると,ネガティブな説明をしてから実施するより も疼痛閾値が電気療法後に上昇するといわれている。理 学療法士として,電気療法の方法,効果などについて十 分に時間をかけて説明することがきわめて重要となる。 そのため,今後は疼痛の程度の評価だけでなく,質的評 価も重要となる可能性がある。  本研究の限界として,1 名の担当者が取り込み基準, 評価,グループ分け,治療・解析を行っている点が挙げ られる。また,ランダム化比較試験ではないため,電気 中止群の定義が曖昧な点や,電気療法の継続と電気療法 の中止を決めることと,退院時の VAS との因果関係に ついては,さらなる追究を行って確認しなければならな. 利益相反  開示すべき利益相反はない。 文  献 1)西村行政:腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症に おける後方除圧術後のしびれ遺残率.臨整外.2005; 40: 981‒984. 2)栗原 章,木村 浩,他:腰部脊柱管狭窄症手術例の検討. 臨整外.1981; 16: 586‒597. 3)森 良樹,小川亮恵:腰椎椎間板ヘルニアに対する Love 法および骨形成的部分的椎弓切除術の手術成績について. 中部整災誌.1991; 34: 637‒638. 4)沼沢拓也,末綱 太:腰椎椎間板ヘルニア治療に対するク リニカルパス導入による効果および影響.日本腰痛会誌. 2002; 8: 83‒88. 5)関 修弘,木田 浩:腰部脊柱管狭窄に対する開窓術の長 期成績.臨整外.2000; 35: 489‒496. 6)大谷晃司,菊地臣一,他:腰椎変性すべり症の手術療法に 対する患者満足度に関与する因子─術後 10 年経過例での 検討─.日脊会誌.2002; 13: 113. 7)沼沢拓也,末綱 太:腰椎椎間板ヘルニア治療に対するク リニカルパス導入による効果および影響.日本腰痛会誌. 2002; 8: 83‒88. 8)川上 守,玉置哲也:保存療法の適応と限界 2)薬物療法. MB Orthop.2001; 14(12): 32‒36. 9)田口敏彦:急性腰痛に対するブロック療法.MB Orthop. 2000; 13(7): 24‒31. 10)Unterrainer AF, Friedrich C, et al.: Postoperative and preincisional electrical nerve stimulation TENS reduce ostoperative opioid requirement after major spinal surgery. J Neurosurg Anesthesiol. 2010; 22: 1‒5. 11)石田和宏,吉本 尚,他:腰椎後方手術後の遺残症状に対 する超音波療法の効果─無作為単盲検プラセボ対照比較試 験─.理学療法学.2007; 34: 226‒231. 12)青木一治,友田淳雄,他:腰椎椎間板ヘルニア術後残存 症状に対する超音波療法の効果.日本腰痛会誌.2003; 9: 131‒136. 13)宮城島一史,対馬栄輝,他:腰椎後方手術後にみられる 遺残下肢症状に対する初回電気療法の即時効果.J Spine Res.2013; 4: 1019‒1023. 14)宮城島一史,対馬栄輝,他:腰椎後方手術後の遺残下肢 症状に対する初回電気療法の即時効果に影響する因子.J.

(6) 296. 理学療法学 第 45 巻第 5 号. Spine Res.2014; 5: 956‒961. 15)Rakel BA, Zimmerman MB, et al.: Transcutaneous electrical nerve stimulation for the control of pain during rehabilitation after total knee arthroplasty: A randomized, blinded, placebo‒controlled trial. Pain. 2014; 155: 2599‒ 2611. 16)徳田光紀,庄本康治,他:肩関節術後症例に対する経皮的 電気刺激治療の効果─電極設置部位に着目して.理学療法 科学.2012; 27: 565‒570. 17)松平 浩,山崎隆志,他:腰痛とはどの部位の痛みをいう か─患者,整形外科医へのアンケートによる調査─.日本 腰痛会誌.2001; 7: 49‒54. 18)Keele KD: The pain chart. Lancet. 1948; 2: 6‒8. 19)齋藤昭彦:経皮的電気神経刺激(TENS).物理療法学(第 3 版).網本 和(編),医学書院,2008,pp. 146‒154. 20)Cheng GA,星野一夫:疼痛コントロール 経皮的電気神 経刺激(TENS).物理療法学テキスト.細田多穂(監) ,. 南江堂,2008,pp. 183‒201. 21)Chesterton LS, Foster NE, et al.: Effects of TENS frequency, intensity and stimulation site parametermanipulation on pressure pain thresholds in healthy human subjects. Pain. 2003; 106: 73‒80. 22)Liebano RE, Rakel B, et al.: An investigation of the development of analgesic tolerance to transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) in humans. Pain. 2011; 152: 335‒342. 23)Agripino ME, Lima LV, et al.: Influence of Therapeutic Approach in the TENS ̶ induced Hypoalgesia. Clin J Pain. 2015; Apr 28 [Epub ahead of print]. 24)竹内雄一,星野雅俊,他:腰部脊柱管狭窄症術後の下肢残 存症状に対する経皮的電気刺激療法の効果.J Spine Res. 2014; 5: 938‒943. 25)Vance CG, Dailey DL, et al.: Using TENS for pain control: the state of the evidence. Pain Manag. 2014; 4: 197‒209.. 〈Abstract〉. Effects of Continuing Electrotherapy for Residual Leg Symptoms after Lumbar Surgery. Kazufumi MIYAGISHIMA, PT, MSc, Kazuhiro ISHIDA, PT, PhD Department of Rehabilitation, Eniwa Hospital Kazufumi MIYAGISHIMA, PT, MSc, Eiki TSUSHIMA, PT, MSc, PhD Graduate school of Health Science, Hirosaki University Shigenobu SATOH, MD, Takahiko HYAKUMACHI, MD, Yasushi YANAGIBASHI, MD, Yuichiro ABE, MD Department of Orthopedic Surgery, Eniwa Hospital. Purpose: The purpose of this study was to elucidate the effects of continuing electrotherapy for residual leg symptoms after posterior lumbar surgery. Methods: The subjects were 50 patients with residual leg symptoms after posterior lumbar surgery. The treatment time was 10 minutes. The patients were classified into two groups: one whose electrotherapy was continued during hospitalization (electrical continuation group, n = 39) and one whose electrical therapy was stopped (electrical withdrawal group, n = 11). The visual analog scale (VAS) scores of the lower extremity symptoms were compared between the two groups. Results: The VAS scores of the electrical continuation group preoperatively, before the first electrical therapy, and at discharge were 70, 40, and 14 mm, respectively, with significant differences between time periods. The VAS scores of the electrical discontinuation group at the three time points were 63, 45, and 41 mm, respectively, with no significant difference between discharge and discontinuation of the initial electrical therapy. On multiple logistic regression analysis with continuity of electrotherapy as the dependent variable, the VAS score at the time of discharge (odds ratio: 1.04) was identified as an important factor. Conclusion: It appears that symptoms at discharge could be alleviated by continuing electrotherapy for residual leg symptoms after posterior lumbar surgery. Key Words: After lumbar surgery, Residual leg symptoms, Electrotherapy, Effects from continuing.

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表 3 VAS の推移 VAS

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