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立位大腿拳上動作における体幹・骨盤・大腿リズムの加齢変化

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 46 巻第 5 号 343 ∼立位大 350 頁(2019 拳上動作における体幹・骨盤・大 年). リズムの加齢変化. 343. 研究論文(原著). 立位大. 拳上動作における体幹・骨盤・大. リズムの加齢変化*. 本 島 直 之 1)# 関 屋   昇 2) 山 本 澄 子 3). 要旨 【目的】立位での大 拳上運動は日常生活動作と密接な関わりがある。そこで,立位大 拳上運動を三次元 的に解析し,大 挙上,骨盤傾斜および体幹運動の関係と,それらへの加齢の影響を明らかにすることを目 的とした。 【方法】対象は健常成人 20 名(若年者,高齢者各 10 名)とし,運動課題は静止立位と立位から の片脚大 拳上運動とした。三次元標点計測により体幹傾斜,体幹屈曲,骨盤傾斜,大 傾斜角度および骨 盤と体幹の位置を,床反力計測により足圧中心位置を求め,それらの関係を検討した。 【結果】立位姿勢は 両群に差は認められなかった。骨盤後傾,骨盤側方傾斜および体幹前屈運動は若年者,高齢者ともに大 挙 上角度に対して一定の割合で直線的に増大し,その割合は高齢者において小さかった。 【結論】立位での大 挙上運動における体幹・骨盤・大 リズムの存在と加齢の影響が明らかとなり,大 挙上運動を評価する 際に体幹も含めて行う必要性が示唆された。 キーワード 大 拳上運動,体幹,骨盤,三次元動作解析,加齢. 股関節屈曲肢位を MRI(magnetic resonance imaging:. はじめに. 磁気共鳴画像)を用いて計測した報告 1)2). 6). では,股関節. 等の日常生. 屈曲角度が増すにしたがい,骨盤後傾の割合が約 3.6%. 活動作と密接に関わっているため,この動きを正確に把. から約 9%へと変化し,その変化は二次回帰曲線をなす. 握することは理学療法における評価や治療において重要. としている。加えて,大.  大. 挙上運動は歩行動作や跨ぎ動作. うに,大. 挙上運動中には骨盤後傾が大. 3). 有する患者の場合では,背臥位での股関節屈曲に対する. 挙上角度に対. 骨盤後傾の割合が健常者と比較して大きくなるという報. して一定の割合で生じることが知られており,骨盤大 リズム. 4). と呼ばれているが,このリズムの研究には結. 果のバラつきが大きい。背臥位での大 る骨盤大. 挙上運動におけ. リズムについては,能動的股関節屈曲のビデ. 4). 告. 7). や,腹筋群のトレーニングにより骨盤後傾の割合. が小さくなるという報告 運動における骨盤大. 8). もある。立位での大. 挙上. リズムについては,動作解析装置. を使用して二次元解析をした結果. 9). ,その割合は最終可. 挙上角度 124.3°に対し. 動域で 18.1%(大. 挙上角度 98.9°に対して骨盤後傾. て骨盤後傾 34.2° )であるが,ジャイロセンサーを使用. 18.8°)であり,大. 拳上と骨盤後傾の間には強い相関. オ解析. した研究 (大. の結果で約 28%(大. 骨寛骨臼インピンジメントを. のよ. である。肩関節運動にみられる肩甲上腕リズム. 5). では,股関節屈曲角度 10° ∼ 90°まで約 9.4%. 挙上角度 79.5°に対して骨盤後傾 7.5°)であり,そ. の関係は直線的としている。さらに,他動的に設定した. 関係があると報告されている。しかし,実際の股関節運 動は様々な関節の三次元の運動が関与している. The Trunk-pelvis-femur Rhythm during Unilateral Hip Flexion Movement in Young and Elderly Subjects 1)農協共済中伊豆リハビリテーションセンター (〒 410‒2507 静岡県伊豆市冷川 1523‒108) Naoyuki Motojima, PT, MSc: Nakaizu Rehabilitation Center 2)昭和大学 Noboru Sekiya, PhD: Showa University 3)国際医療福祉大学大学院 Sumiko Yamamoto, PhD: Graduate school International University of Health and Welfare # E-mail: n.motojima@gmail.com (受付日 2018 年 11 月 22 日/受理日 2019 年 7 月 16 日) [J-STAGE での早期公開日 2019 年 9 月 28 日]. に. もかかわらず,これらの先行研究はすべて二次元の解析 であり,また骨盤,大. *. 10‒12). 析. 骨および腰椎にのみ着目した解. 13) 14). に留まっている。また,この運動は歩行や走行,. 跨ぎ動作. 2). や階段の昇段動作 15) などの日常生活の重. 要な課題に含まれる運動であり,加齢の影響が大きいこ とが予想されるが,先行研究では大. 挙上運動への加齢. の影響は検討されてこなかった。  そこで本研究は,立位での大 挙上運動時の体幹,骨盤, および大 の間の関係を三次元動作解析装置を用いて明ら かにすること,これらの関係について若年者と高齢者を比.

(2) 344. 理学療法学 第 46 巻第 5 号. 図 1 計測機器の配置と計測座標系の設定. 図 2 赤外線反射マーカ位置(A)と大. 外側に貼付したジグ(B). 3.運動課題. 較し加齢の影響を明らかにすることを目的とした。.  図 1 に示すように計測室座標系を定義した(鉛直上向. 方   法. きを Z,右向きを X および前向きを Y とした) 。課題①. 1.対象. 静止立位:図 1 に示すように,2 枚の床反力計の中央付.  対象は過去 10 年間に特記すべき整形外科的および神. 近に正面(Y 方向)を向いて,立ちやすい足の開きで楽. 経学的疾患の既往のないことを条件に募集した常勤職を. な姿勢を 5 秒間とるように指示した。課題②大. もつ健常若年男性 10 名(若年群:平均年齢 24.3 ± 4.5 歳,. 動:静止立位(手の支持はない)から開始して,最終可. 身長 175.5 ± 5.6 cm,体重 62.4 ± 5.9 kg)およびシルバー. 動域まで自然な動きで遂行するように指示した。先行文. 人材派遣センターに協力を依頼し,65 歳以上を条件に. 献. 募集をかけて集まった健常高齢男性 10 名(高齢群:平. 9)14). 挙上運. にならい,メトロノーム(KORG 社製)の音. (60 beats/m)に合わせて,動作開始から 1 秒間で支持. 均年齢 72.2 ± 4.1 歳,身長 167.6 ± 4.0 cm,体重 62.8 ±. 側へ体重移動し,次の 2 秒間で大. 挙上運動の開始から. 5.1 kg)とした。. 終了までを行わせた。測定前に運動課題の練習を 15 回 行った後,計測を行った。試行数は 5 回とし,各試行間. 2.計測機器. には 1 分程度の休憩を設けた。大.  図 1 に示すように三次元動作解析システム VICON. に運動することを目視で確認した。被験者は大. が矢状面から外れず. MX(VICON 社製,カメラ 10 台,サンプリング周波数. 動を制限しないトランクス型の下着を着用した。. 挙上運. 100 Hz),および床反力計 2 枚(AMTI 社製 40 cm × 40 cm,サンプリング周波数 100 Hz)を配置した。直径. 4.データ処理. 14 mm の赤外線反射マーカを図 2A に示す 22 点の位置.   計 測 し た デ ー タ は, ロ ー パ ス フ ィ ル タ ー(Butter-. に貼付した。股関節点は上前腸骨棘(anterior superior. worth Filter,遮断周波数 6 Hz)を用いてノイズを除去. iliac spine;以下,ASIS)と大転子を結んだ直線上で大. した。図 3 に示すように,体幹セグメントは胸骨頸切痕. 転子側から 1/3 の点とした のマーカを貼付した大 上運動時に大 れる大. 16). 。大. 部外側には,3 つ. 外側ジグ(図 2B)を,大. 挙. 外側の皮膚でもっとも動きが少ないとさ. 部の中央. 17). に貼付した。. 直下(原点),Th1 および Th7 の三点を用いて,骨盤セ グメントは左右 ASIS および大. 挙上側の上後腸骨棘. (posterior superior iliac spine;以下,PSIS)の三点を 用いて定義した。また,大. セグメントは内外側上顆の. 中点(原点),臨床歩行分析研究会が推奨する計算方.

(3) 立位大. 拳上動作における体幹・骨盤・大. リズムの加齢変化. 345. 図 3 上部体幹・骨盤・大 セグメントの定義 <上部体幹セグメント> 胸骨頸切痕マーカを原点とし,Th1 マーカから原点に向かうベクトルを y 軸,y 軸と「原点から剣状突起に向かうベクトル」 との外積ベクトルを x 軸,x 軸と y 軸に直交するベクトルを z 軸とした.空間座標に対する x 軸周りの角度を上部体幹前 後傾,y 軸周りを上部体幹側方傾斜,z 軸周りを上部体幹回旋角度とした. <骨盤セグメント> 両 ASIS マーカの中点を原点とし,原点から右 ASIS に向かうベクトルを x 軸,x 軸と「大 挙上側の PSIS から原点に向 かうベクトル」との外積ベクトルを z 軸,これらに直交するベクトルを y 軸とした.空間座標に対する x 軸周りの角度を 骨盤前後傾,y 軸周りを骨盤側方傾斜,z 軸周りを骨盤回旋角度とした. <大腿セグメント> 静止立位の計測時に,両側の股関節点を結んだ線上で股関節点から両 ASIS の長さの 18% 内挿し,仮想の股関節中心点を 算出する.この仮想の股関節中心点を大 骨外側に貼付したジグ上で定義する.股関節屈曲運動の計測時には,この座標 値を使って,空間座標系における仮想の股関節中心点を算出する.この仮想の股関節中心点と,大 骨の内外側上顆に貼 付したマーカの 3 点から大 セグメントを定義した.内・外側上顆マーカの中点を原点とし,原点から外側上顆を通るベ クトルを x 軸,x 軸と「原点から股関節中心に向かうベクトル」の外積ベクトルを y 軸,これらに直交するベクトルを z 軸とした.空間座標における x 軸周りの角度を大 骨挙上角度,y 軸周りを大 骨側方傾斜角度,z 軸周りを大 骨回旋 角度とした.. 法. 16). で算出した股関節点および外側上顆の三点を用い. を用いて求め,x 軸周りの角度を体幹前屈として算出し. て定義した。. た。上部体幹後傾,骨盤後傾,大.  静止立位姿勢の分析は矢状面(YZ 平面)において行. 測室座標系における体幹,骨盤および大. い,5 秒の計測時間のうち最初と最後の 1 秒を除いた 3. の x 軸回りの角度とした。骨盤側方傾斜は前額面上の. 秒間の平均値を算出した。各体節の位置関係を把握する. 運動で y 軸周りの角度と定義した。各セグメントの定. ために,① 2 枚の床反力計のロードセルから合成して求. 義と角度算出には,VICON Body Builder(ver. 3.6)を. めた床反力作用点(足圧中心,Center of pressure;以. 用いた。これらの位置と角度は静止立位からの変化量と. 下,COP) を 通 る 鉛 直 線 に 対 す る 上 半 身 質 量 中 心 点. し,大. (Th7 と剣状突起の中点. 17). を近似的に用いた点 upper. 骨セグメント. 挙上角度 5 度ごとに切り出して 5 試行の平均値. を代表値として用いた。. Center of Mass;以下,uCOM)の前後位置,② COP.  大. を通る鉛直線に対する骨盤中心点(両上前腸骨棘(以下,. 影響を調べる目的で,大. ASIS)と両上後腸骨棘(以下,PSIS)の中点)の前後. 挙上は,それぞれ計. 挙上角度と各パラメータとの関係,および加齢の 挙上角度と年齢を要因とした. 「2 要因のうち 1 要因が反復測定の 2 要因分散分析」を. 位置,③ COP を通る鉛直線に対する外果マーカの前後. 行った。加えて,大. 位置の 3 つを算出した。. を見るために回帰分析(大.  大. 帰)を行い,回帰式と Peason の積率相関係数を求めた。. 挙上運動の分析では,① COP と uCOM および骨. 挙上角度と各パラメータとの関係 挙上角度への各変数の回. 盤中心点の前後位置(静止立位でのそれぞれの前後位置. 2 群間の比較には t 検定を用いた。すべての検定におけ. を 0 としたときの各点の動作時の位置) ,②計測室座標. る有意水準は 5% とし,統計処理には統計処理ソフト. 系における体幹,骨盤,大. EZR(ver.3.4.1)を使用した。. セグメントの三次元角度. (回転順序 xzy),さらに③骨盤セグメントに対する体幹 セグメントの三次元角度をオイラー角(回転順序 xzy).  本研究は国際医療福祉大学倫理委員会で承認を得て (承認番号 09-125)行われた。計測実施前に各被験者に.

(4) 346. 理学療法学 第 46 巻第 5 号. 対して研究計画書と説明文書を示し,研究の内容とリス クに関する説明を文書と口頭で行い,十分な理解が得ら れた後に同意を得た。 結   果  大. 挙上運動の分析では,最終大. 挙上角度の平均は. 若年群で 88.6°± 5.5°,高齢群で 88.4°± 9.5°,運動速度 は若年群で 32.6 deg/s ± 6 deg/s,高齢群で 33.0 deg/s ± 7.8 deg/s であり,いずれにおいても 2 群間に有意差 は認められなかった(最終大. 挙上角度:t = 0.08,p =. 0.94,運動速度:t = 0.05,p = 0.95) 。しかし,骨盤に 貼付したマーカは股関節最大屈曲位においてモーション アーチファクトが大きいことが報告されている め,本研究では大. 18)19). た. 挙上角度 70°までを対象として解析. を行った。1 次回帰および 2 次回帰における寄与率を求. 図 4 立位姿勢における uCOM,骨盤,外果の位置 エラーバーは標準偏差を示す.uCOM:上半身質量中心点 を示す.. めた結果,2 次回帰のほうがわずかに寄与率が高くなる パラメーターがあったが,その差はわずかであり,1 次 回帰でもきわめて高い寄与率であった(1 次回帰の寄与 率を図 6 ∼図 8 に示す,2 次回帰の寄与率:骨盤後傾: 0.997,骨盤側方傾斜:0.999,体幹前屈:0.998,上部体 幹後傾 0.986) 。この結果と,立位における骨盤大 ムの先行研究. 9). リズ. の解析方法を参考に,1 次回帰分析を. 行い,直線の勾配を求めた。これにより,大. 挙上角度. に対する骨盤後傾角度の割合を勾配を用いて示し,高齢 者と若年者の間で比較した。 1.静止立位時の uCOM,骨盤中心点および外果の前後 位置  若年群と高齢群の立位姿勢における COP に対する uCOM・骨盤・外果の平均位置を図 4 に示す。COP に 対する uCOM 位置は若年群 ‒ 12.5 ± 16.7 mm,高齢群 ‒ 11.8 ± 15.9 mm,骨盤の位置は若年群が 5.3 ± 17.2 mm, 高齢群が ‒ 2.2 ± 14.2 mm,外果の位置は若年群が ‒ 68.9 ± 22.1 mm,高齢群が ‒ 55.6 ± 18.3 mm であった(す べて前方が+)が,いずれにも年齢差は認められなかっ た(uCOM:t = 0.12,p = 0.45, 骨 盤:t = 1.07,p = 0.15,外果:t = 1.47,p = 0.07) 。 2.大. 挙上運動時の COP,uCOM,骨盤中心点の前後. 位置  図 5 に,若年群と高齢群の COP,uCOM および骨盤 中心点の前後位置を,静止立位からの変位として示す。 2 要因分散分析の結果では,3 つのパラメーターとも大 挙上角度の主効果が有意であったが年齢の主効果およ び大. 挙上角度と年齢の交互作用は認められなかった. (COP:それぞれ p < 0.001,p = 0.78,p = 0.88,uCOM: それぞれ p < 0.001,p = 0.76,p = 0.17,骨盤中心点: それぞれ p < 0.001,p = 0.99,p = 0.22) 。これらの結. 図 5 大 拳上運動における uCOM, 骨盤中心点および COP の前後位置.

(5) 立位大. 拳上動作における体幹・骨盤・大. リズムの加齢変化. 347. 図 6 大 挙上運動中の骨盤後傾角度 エラーバーは標準偏差を示す.回帰式は横軸を x,縦軸を y とした.. 図 7 大 挙上運動中の骨盤側方傾斜角度 エラーバーは標準偏差を示す.回帰式は横軸を x,縦軸を y とした.. 図 8 大 挙上運動中の体幹前屈角度 エラーバーは標準偏差を示す.回帰式は横軸を x,縦軸を y とした.. 図 9 大 挙上運動中の上部体幹後傾角度 エラーバーは標準偏差を示す.回帰式は横軸を x,縦軸を y とした.. 果は,COP の前後位置,uCOM 前後位置および骨盤前. 側方傾斜角度(大. 後位置は大. る傾向を示した。骨盤側方傾斜角度に関する 2 要因分散. 挙上角度に依存して一定の傾向で動くが,. 加齢の影響は認められなかったことを示している。. 分析の結果,大. 挙上側への挙上)が直線的に増大す 挙上角度の主効果が認められた(p <. 0.001)が,年齢の主効果および年齢と大 3.大. 挙上角度に対する骨盤後傾角度.  図 6 に大. 挙上角度の. 交互作用は認められなかった(それぞれ p = 0.93,p =. 挙上角度に対する骨盤後傾角度の推移を大. 0.06) 。交互作用は認められなかったものの p = 0.06 で. 挙上角度 5 度ごとに示す。若年群,高齢群ともに,大. あったため,1 次回帰分析を行った結果,直線の傾きは. 挙上に伴って骨盤後傾が直線的に増大する傾向を示し. 若年群が 0.14,高齢群が 0.11 であった。. た。骨盤後傾角度に関する 2 要因分散分析の結果,大 挙上角度の主効果および,年齢と大. 挙上角度の交互作. 5.大. 挙上角度に対する体幹前屈角度. 用が有意であった(それぞれ p < 0.001, p < 0.01)が,.  図 8 に大. 年齢の主効果は認められなかった(p = 0.07) 。交互作. す。若年群,高齢群ともに,大. 用は,若年群と高齢群で直線的変化の傾きが異なること. 角度が直線的に増大する傾向を示した。体幹前屈角度に. を示している。1 次回帰分析の結果では,直線の傾きは. 関する 2 要因分散分析の結果,体幹前屈については,大. 若年群が 0.11,高齢群が 0.07 であり,骨盤後傾運動は 若年群の方が大きかった。. 挙上角度に対する体幹前屈角度の推移を示 挙上に伴って体幹前屈. 挙上角度と年齢の主効果および年齢と大. 挙上角度の. 交互作用が認められた(いずれも p < 0.001) 。交互作用 は,若年群と高齢群で直線的変化の傾きが異なることを. 4.大. 挙上角度に対する骨盤側方傾斜角度.  図 7 に大. 挙上角度に対する骨盤側方傾斜角度の推移. を示す。若年群,高齢群ともに,大. 挙上に伴って骨盤. 示している。1 次回帰分析の結果では,直線の傾きは若 年群が 0.11,高齢群が 0.06 であり,体幹前屈運動は若 年群の方が大きかった。.

(6) 348. 6.大. 理学療法学 第 46 巻第 5 号. 挙上角度に対する上部体幹後傾角度.  図 9 に大.  また,本研究の結果から,矢状面上の骨盤大. 挙上角度に対する上部体幹後傾角度の推移. ム. 2‒4). リズ. に加えて骨盤側方挙上角度にも直線的関係にあ. を示す。上部体幹後傾角度に関する 2 要因分散分析の結. ることが確認され,前額面上においても一定のリズムが. 果,大. 存在することが明らかになった。そのリズムは大. 拳上角度と年齢の主効果および交互作用は認め. られなかった(それぞれ p = 0.06,p = 0.12,p = 0.43) 。. 角度 0 ∼ 70 度に至るまで若年群が 14%(大. 挙上. 挙上角度. 10°あたり骨盤側方傾斜約 1.4°),高齢群が 11%(大. 考   察. 挙上角度 10°あたり骨盤側方傾斜約 1.1° )であった。さ.  本研究では,日常生活で多用される大. 挙上運動への. 加齢の影響を三次元動作解析装置を用いて検討した。大 挙上運動に関する動作分析の報告は散見されるが,体. らに,体幹運動を含めて解析した結果,体幹前屈運動に ついても大 11%(大. 挙上角度 0 ∼ 70 度に至るまで若年群が. 挙上角度 10°あたり体幹前屈約 1.1° ),高齢. 幹の動きを含めた三次元動作解析の報告や加齢の影響を. 群が 6%(大. 検討したものは筆者らが渉猟した範囲ではなかった。. 一定のリズムの存在が確認された。. 1.大. 2.大. 挙上運動の三次元解析による骨盤・体幹運動の. リズム. 挙上角度 10°あたり体幹前屈約 0.6°)と. 挙上運動における体幹・骨盤運動のリズムの加. 齢変化.  本研究の結果,矢状面上の骨盤大 に近いものであり,大. リズムは直線関係. 挙上角度にかかわらず概ね一定. であった。この結果は大. 挙上の能動運動を連続的に計. 5). 測した研究(背臥位 ,立位. 9). )の結果を支持している。. 二次の曲線関係を報告した研究. 6). との違いは運動課題.  運動開始時の姿勢がその後の運動に影響することが予 測された. 20). ため,静止立位姿勢における足関節,COP,. 骨盤中心,および上半身重心の位置関係の加齢変化を検 討したが,いずれにおいても加齢の影響は認められな かった。また,運動中の COP や uCOM,骨盤中心点位. の「能動対受動」と「運動対姿勢」の 2 つの問題がかか. 置についても加齢の影響は認められなかった。. わっている可能性がある。.  若年者においても高齢者においても大.  本研究では,大. 挙上角度 0 ∼ 70 度の範囲で大. 挙. 挙上角度の増. 大に伴って骨盤後傾角度,骨盤側方傾斜角度,体幹前屈. 上角度に占める骨盤後傾の割合は若年群が 11%(大. 角度が概ね直線的に増大することが示されたが,その程. 挙上角度 10°あたり骨盤後傾約 1.1° ),高齢群が 7%(大. 度は高齢者の方が小さかった。骨盤の矢状面上の動き. 挙上角度 10°あたり骨盤後傾約 0.7° )であり,立位で 行われた先行研究. 9). よりも小さい結果となった。この. 原因として,先行研究では前方の支持物を用いた大. 挙. は,腰椎をはじめとする脊柱および股関節と協調. 11)21). し,脊柱と股関節の協調性は加齢の影響を受ける 13)が, 本研究の結果から,骨盤大. リズムは,矢状面だけでな. 上運動であり計測最終可動域の範囲が本研究より大きい. く前額面運動においても加齢の影響を受ける可能性が新. こと(平均 98.8 度) ,および今回の結果から新たに明ら. たに示唆された。渋谷ら. かになった前額面上の骨盤の動きが,二次元解析の矢状. 骨棘形成をはじめとする脊柱の退行性変化が起こること. 面上の運動に含まれて計測された可能性があることが挙. を示しており,加齢による脊柱の可動域低下が骨盤運動. げられる。. の減少につながった可能性が考えられる。しかし,脊柱.  背臥位での骨盤大. リズムの先行研究と比較すると,. 今回の結果はビデオ解析の先行研究. 4). の約 27% と比べ. の可動域の減少が骨盤大. 22). は,加齢に伴って,椎体の. リズムの変化として現れたと. しても両者の直線関係が保たれているということは大. てかなり小さかった。この先行研究との違いの原因とし. 挙上運動におけるこのリズムの重要性を示唆している。. ては,測定方法の違い(骨盤傾斜角度を ASIS と PSIS.  加齢による筋力低下も骨盤大. を結んだラインの傾斜角度で算出していること,大. して考えられる。片脚立位動作において,鈴木ら. 挙. リズムの変化の 1 因と 23). は. 上の運動速度が規定されていなかったこと)が挙げられ. 骨盤水平位を保持するための胸腰部脊柱起立筋活動の顕. る。一方,結果の信頼性が高いと考えられるジャイロセ. 著な増大を示している。今回の大. ンサー. 5). や MRI を用いて解析した先行研究 6) と比較. 動作よりも大. 挙上運動は片脚立位. 拳上角度が大きく,骨盤の水平位を保つ. すると,骨盤後傾の割合が本研究結果の方が大きい結果. ための腰背部脊柱起立筋活動増加が推察される。ヒトの. となった。背臥位よりも立位での骨盤後傾の動きが大き. 筋力は 50 歳以降,年齢とともに低下し,特に下肢や背. くなった原因として,背臥位では大. 筋の筋力低下の割合が上肢よりも大きく. 挙上運動と協調す. 24). ,単位横断 25). 。また,. る脊柱および骨盤の動きが床面によって制限されている. 面積あたりの筋力である固有筋力が減少する. ことが考えられる。また,立位では大. 挙上に伴って増. 体幹筋の筋厚は腹直筋・内外腹斜筋・胸最長筋・腰部多. 大する重力抵抗に対抗するために骨盤後傾が増大した可. 裂筋が歩行自立度の低い高齢者において有意に小さ. 能性がある。. い. 26). 。このような腰背部の筋力低下によって,大. 挙.

(7) 立位大. 拳上動作における体幹・骨盤・大. 上角度の増大に伴う骨盤後傾運動や側方挙上運動が困難 となり,運動の減少につながったことが考えられる。  若年群も高齢群も大. 挙上運動に伴って骨盤後傾に加. えて体幹前屈が生じていたが,その程度は高齢群の方が 小さかった。大. 挙上運動中の筋活動を考えると,体幹. 背部筋は遠心性収縮し,体幹前面筋と股関節屈曲筋は求 心性収縮することが推測される。加齢変化により全身の 筋力低下が起こる. 24). 高齢群は,骨盤後傾と体幹前屈を. 少なくすることで体幹前面筋の筋長の変化を小さくする ことにより,筋の長さ・張力関係を最適化している可能 性がある。  本研究の結果では,大. 挙上運動に伴う COP の前後. 位置変化には加齢の影響が認められなかった。前後方向 の運動への加齢の影響が側方運動と比べて少ないかある いは認められないことは,歩行中の「COP と COM を 27) 結ぶ線の傾き」 ,障害物跨ぎ動作中の COM 位置変化. 量. 28). ,側方ステップ動作中の COP 移動量 29)と移動速. 度. 30). 等で報告されている。大. 挙上運動において前後. 方向の姿勢調節は重要と考えられるが,今回の研究で COP 前後位置変化に加齢の影響が認められなかったこ とは,前後方向の姿勢調節機能が加齢により低下しにく いことと関連しているかもしれない。  本研究の限界として,脊柱と下肢の可動域と筋力の詳 細な評価を行っていないこと,運動学的データのみで筋 電図学的解析を行っていないことが挙げられ,加齢変化 の詳細については推測の域を脱し得ない。また,今回の 対象はシルバー人材センターに登録されている高齢者で あり,比較的活動量の多い高齢者であったと推測される。 そのため,今後は円背 傾. 33). 31)32). ,股・膝関節屈曲,骨盤後. および脊柱の変形等によって特徴づけられる高齢. 者特有の姿勢変化. 34). を有した対象や,股関節や脊柱の. 疾患を有する対象を用いて多面的分析を行う必要がある。 結   語  本研究では,大. 挙上運動における体幹・骨盤運動の. 三次元解析を行い,加齢の影響を検討した。その結果, 大. 挙上運動において骨盤後傾と大. 挙上側への骨盤挙. 上および体幹前屈が一定の割合で生じていることが示さ れ,骨盤後傾と体幹前屈の割合は高齢者が若年者と比較 して小さいことが明らかになった。この結果は,骨盤大 リズムと体幹運動への加齢の影響を示しているととも に,大. 挙上運動における骨盤・体幹リズムそのものの. 重要性を示唆している。また,日常生活動作の中で頻回 に起こる大. 挙上運動を評価する際に体幹も含めて評価. を行う必要性を示唆しており,臨床における諸動作の評 価や治療に有用な基礎的情報となると考えられる。. リズムの加齢変化. 349. 利益相反  本研究における開示すべき利益相反はない。 文  献 1)Patla AE, Rietdyk S: Visual control of limb trajectory over obstacle during locomotion: effect of obstacle height and width. Gait Posture. 1993; 1: 45‒60. 2)Patla AE, Prentice SD: The role of active intersegmental dynamics in the control of limb trajectory over obstacles during locomotion in human. Exp Brain Res. 1995; 106: 499‒504. 3)Inman VT, Saunders M, et al.: Observations on the function of the shoulder joint: J Bone Joint Surg Am. 1944; 26A: 1‒32. 4)Bohannon RW, Gajdosik RL, et al.: Relationship of pelvic and thigh motions during unilateral and bilateral hip flexion. Phys Ther. 1985; 65(10): 1501‒1504. 5)小 川 智 美, 関 屋  昇: 大 腿 挙 上 運 動 に お け る 大 腿 挙 上 角度と骨盤後傾運動のリズム.理学療法学.2002; 29(4): 119‒122. 6)竹井 仁,根岸 徹,他:MRI による大腿挙上角度運動 の解析.理学療法学.2002; 29(4): 113‒118. 7)Van Houcke J, Pattyn C, et al.: The pelvifemoral rhythm in cam-type femoroacetabular impingement. Clin Biomech. 2014; 29(1): 63‒67. 8)Elia DS, Bohannon RW, et al.: Dynamic pelvic stabilization during hip flexion: A comparison study. J Orthop Sports Phys Ther. 1996; 24(1): 30‒36. 9)Murray R, Bohannon RW, et al.: Pelvifemoral rhythm during unilateral hip flexion in standing. Clin Biomech. 2002; 17: 147‒151. 10)Hong DA, Cheung TK, et al.: A three-dimensional, sixsegment chain analysis of forceful overarm throwing. J Electromyogr Kinesiol. 2001; 11(2): 971‒978. 11)Bruijn SM, Meijer OG, et al.: Coordination of leg swing, thorax, and pelvis rotations during gait: The organization of total body angular momentum. Gait Posture. 2008; 27: 455‒462. 12)上田泰之,浦辺幸夫,他:若年者と高齢者における上肢 挙上時の体幹アライメントの違い.体力科学.2008; 57: 485‒490. 13)Kuo Yi-Liang, Tully EA, et al.: Lumbofemoral rhythm during active hip flexion in standing in healthy older adults. Man Ther. 2010; 15: 88‒92. 14)Tully EA, Wagh P, et al.: Lumbofemoral rhythm during hip flexion in young adults and children. Spine. 2002; 27: E432‒E440. 15)Andriacchi TP, Andersson GB, et al.: A study of lowerlimb mechanics during stair-climbing. J Bone Joint Surg Am. 1980; 62A: 749‒757. 16)倉林 準,持丸正明,他:股関節中心推定法の比較・検討. バイオメカニズム学会誌.2003; 27(1): 29‒36. 17)久 保 裕 子, 山 口 光 國, 他: 姿 勢・ 動 作 分 析 に お け る 身 体重心点の視覚的評価の検討.理学療法学.2006; 33(3): 112‒117. 18)Kuo YL, Tully EA, et al.: Skin movement errors in measurement of sagittal lumbar and hip angles in young and elderly subjects. Gait Posture. 2008; 27(2): 264‒270. 19)Cappozzo A, Catani F, et al.: Position and orientation in space of bones during movement: experimental artefacts. Clin Biomech. 1996: 11(2): 90‒100. 20)小林 武:姿勢の評価のあり方.理学療法.2007; 24(1):.

(8) 350. 理学療法学 第 46 巻第 5 号. 133‒136. 21)Kapandji IA:関節の生理学Ⅲ 体幹・脊柱.荻島秀男 (訳),医歯薬出版,東京,1986,pp. 64‒65. 22)渋谷光柱,大井淑雄:加齢に伴う脊柱の変化.総合リハ. 1981; 9(12): 981‒987. 23)鈴木 哲,平田淳也,他:片脚立位時の体幹筋活動と重心 動揺との関係.理学療法科学.2009; 24(1): 103‒107. 24)木村彰男:老化の障害学.筋力と筋持久力.総合リハ. 1991; 19(4): 301‒304. 25)池添冬芽,市橋則明:高齢者の運動機能評価.高齢者の機 能障害に対する運動療法.市橋則明(編) ,文光堂,東京, 2010,pp. 33‒38. 26)Ikezoe T, Mori N, et al.: Effects of age and inactivity due to prolonged bed rest on atrophy of trunk muscles. Eur J Appl Physiol. 2012; 112(1): 43‒48. 27)Lee HJ, Chou LS: Detection of gait instability using the center of Mass and center of pressure inclination angles. Arch phys Med Rehabil. 2006; 87: 569‒575. 28)Chou LS, Kaufman KR, et al.: Medio-lateral motion of the. center of mass during obstacle crossing distinguishes elderly individuals with imbalance. Gait Posture. 2003: 18: 125‒133. 29)建内宏重,米田稔彦,他:側方へのステップ動作開始時に おける姿勢制御の加齢による変化.理学療法科学.2006: 21(3): 267‒273. 30)竹内弥彦,田中康之,他:足圧中心動揺と筋力の関係から 見た高齢者の側方ステップ反応特性.日本生理人類学会 誌.2006: 11(4): 7‒12. 31)Kado DM: Narrative review: hyperkyphotic in older person. Ann Intern Med. 2007; 147: 330‒338. 32)Kado DM: The rehabilitation of hyperkyphotic posture in the elderly. Eur J Phys Rehabil Med. 2009; 45(4): 583‒593. 33)羽崎 完:高齢者の姿勢アライメント障害に対する運動介 入.高齢者の機能障害に対する運動療法.市橋則明(編) , 文光堂,東京,2010,pp. 123‒124. 34)仲田和正,岩谷 力,他:高齢者の姿勢 その分類とメカ ニズム.別冊整形外科.1987; 12: 2‒6.. 〈Abstract〉 The Trunk-pelvis-femur Rhythm during Unilateral Hip Flexion Movement in Young and Elderly Subjects. Naoyuki MOTOJIMA, PT, MSc Nakaizu Rehabilitation Center Noboru SEKIYA, PhD Showa University Sumiko YAMAMOTO, PhD Graduate school International University of Health and Welfare. Purpose: The purpose of this study was to identify the relationship between the movements of the pelvis, trunk, and thigh during unilateral hip flexion in the standing position and the aged-related effects of this relationship. Method: The study contained two groups with 10 male subjects in each: a young group (mean age 24.3 years, SD 4.5 years), and an elderly group (mean age 72.2 years, SD 4.1 years). Three-dimensional motion analysis of the trunk, pelvic and lower extremities and ground reaction force measurements were performed during hip flexion in the standing position: the segmental positions, joint angles, and center of pressure were calculated. The relationship among each parameter was analyzed. Result: Pelvic posterior tilt, lateral tilt and trunk flexion movements increased linearly with hip flexion, irrespective of age. Aging effects were found in pelvic posterior tilt and trunk flexion movements, indicating smaller movements in the elderly group than in the young group. Standing posture did not show any age-related effects. Conclusion: These results suggest the significance of the relationship between age and the movements of the pelvis, trunk and hip flexion during hip flexion tasks in the standing position and the necessity to analyze trunk and pelvic movements while evaluating motor tasks with hip flexion. Key Words: Hip flexion, Trunk, Pelvis, 3Dmotion analysis, Aging.

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図 2 赤外線反射マーカ位置(A)と大腿外側に貼付したジグ(B)

参照

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