2015 年 8 月 1 日受理 連絡責任者:中川淳也 ([email protected])
東近江地域における水稲新品種 「みずかがみ」 の普及について
中川淳也
滋賀県東近江農業農村振興事務所農産普及課(〒 527-8511 滋賀県東近江市八日市緑町 7 番 23 号) 要旨:滋賀県では,水稲新品種「みずかがみ」を主力品種として育て,近江米全体の品質向上につなげたいと考 えている.2013 年の東近江地域での作付面積は 101ha で,県内「みずかがみ」作付面積の 60%を占めた.東近江 地域の関係機関・団体と連携して,生産者に対する技術指導ならびに生産拡大を働きかけた結果,2014 年の作付 面積は,東近江地域で 573ha,県全体で 1,120ha となった.2014 年は日照不足の影響で品質・収量が低下したが, 早生品種としては 1 等米比率が高く,実需の評価も高い.2015 年は東近江地域で 1,000ha,県内で 2,000ha を目標 に生産拡大を推進している. キーワード:水稲,みずかがみ,高温登熟性,普及はじめに
近年の登熟期間の温暖化の影響によって,米の品質低下 が問題となっている.品質低下の主要な要因である白未熟 粒の発生は,出穂後 20 日間の日平均気温が 27℃以上で多 くなるため(寺島ら 2001,若松ら 2007),梅雨明け前後に 出穂期を迎える滋賀県の極早生・早生品種は,出穂後の高 温に曝されやすく,品質低下が生じやすい. そこで,滋賀県農業技術振興センターでは水田に高温登 熟性検定ハウスを設置し,2009 年から高温登熟性検定を 実施し,その結果を品種育成に反映させている(中川・森 2012). この高温登熟性検定によって 2012 年に新品種「みずか がみ」(美しく輝く豊かな琵琶湖の水が連想されることか ら命名し,品種名にあわせて「ゆたかな水に かがやく実り」 というキャッチフレーズも選定した)が育成され,2013 年から滋賀県農作物奨励品種等指定規程における指定品種 に採用し滋賀県内での普及が始まった(中川ら 2014). 本稿では,東近江地域(第 1 図)での取り組みを中心と して,滋賀県での「みずかがみ」の普及推進について報告 する.「みずかがみ」の特徴
水稲新品種「みずかがみ」は,「大育 1744」(後の「滋 賀 66 号」)を母,「滋賀 64 号」を父として人工交配を行っ た後代より育成された品種である.熟期は「コシヒカリ」 より 4 日早い早生の粳種で,やや短稈で偏穂重型の草型を 示す.耐倒伏性は 強 ,葉いもちの抵抗性は やや強 , 穂いもちの抵抗性は 中 ,そして穂発芽性は 難 である. 収量性は「コシヒカリ」と同程度である.高温登熟性に優 れ,玄米の外観品質は「コシヒカリ」および「キヌヒカリ」 より明らかに優る.炊飯は光沢に優れ,食味は「コシヒカ リ」と比べて同程度からやや優る,良食味品種である.「みずかがみ」の推進計画
滋賀県では,生産者や指導機関,関係団体が一体となっ て「みずががみ」を近江米の主力品種として育て,近江米 全体の品質向上につなげたいと考えており,2013 年 150ha か ら,2014 年 1,000ha,2015 年 2,000ha へ と 生 産 拡 大 し, 流通・消費者に PR して実需の評価を得る計画を立ててい る. しかし,多くの生産者が個別に栽培や出荷をすると,食 味や品質にばらつきが生じて正当な評価を得られない,あ るいは実需評価を得るために必要な量を集荷できないなど の恐れがある.そこで,「みずかがみ」の栽培にあたって は「環境こだわり栽培」(化学合成農薬・化学肥料(窒素 成分)を慣行の半分以下とし,琵琶湖をはじめ環境にやさ しい技術で栽培する(滋賀県 2014))をはじめとして,第 1 表のとおり要件を設けている.このうち①と⑧はまと まった流通ロットを確保することを,②∼⑦は極良食味の 特性を十分に発揮させ品質を均一化することを目的とした ものである.⑨は近隣農業者に「みずかがみ」を展示し品 種特性を理解してもらい,次年度の拡大につなげることを 目的としたもので,すべてのほ場で環境こだわり栽培の看 板とあわせて設置することとしている(第 2 図). 流通・販売面では,生産量の少ない 2013 年は県内に限 䐟ᙜヱရ✀䛾స䛜㻢㻜䠽௨ୖ䛷䛒䜛䛣䛸䜢ᇶᮏ䛸䛩䜛 䐠⎔ቃ䛣䛰䜟䜚㎰⏘≀䛾⏕⏘ィ⏬ㄆᐃ䜢ཷ䛡䜛䛣䛸 䐡┴䛜⟇ᐃ䛩䜛᱂ᇵᇶ‽䛻ἢ䛳䛯᱂ᇵ䜢⾜䛖䛣䛸 䐢㔞✀Ꮚ᭦᪂䛧䚸⮬ᐙ᥇✀䛿⾜䜟䛺䛔䛣䛸 䐣✀Ꮚ䜢➨୕⪅䛻ㆡΏ䛧䛺䛔䛣䛸 䐤㻝㻚㻤㻡㼙㼙௨ୖ䛾⥙┠䛷ㄪ〇䛩䜛䛣䛸 䐥ฟⲴ䛻䛒䛯䛳䛶䛿㎰⏘≀᳨ᰝ䜢ཷ᳨䛩䜛䛣䛸 䐦⮬ᐙᾘ㈝ศ䜢㝖䛟⏕⏘㔞䛾䛚䛚䜐䛽㔞䜢㞟Ⲵᴗ⪅䛻ฟⲴ䛩䜛䛣䛸 䐧䜋ሙ┳ᯈ䜢タ⨨䛩䜛䛣䛸 第 1 表 「みずかがみ」生産者の要件 23 作物研究 60:23 − 26(2015)Copyright 近畿作物・育種研究会 (The Society of Crop Science and Breeding in Kinki, Japan)
定して流通させ,県民への認知度を高めたうえで,2014 年からは県外,特に京阪神を中心に販売する計画としてい る.また,視覚から消費者に訴えることで売場での存在感 を高めるため,小売店の店頭に並ぶパッケージも品種名か らイメージした青色のデザインで統一している (第 3 図).
東近江地域の概要
東近江地域は,近江八幡市,東近江市,日野町,竜王町 の 2 市 2 町からなり,滋賀県の中央部,琵琶湖の東部に位 置し,東は鈴鹿山脈が連なり,西は琵琶湖まで及び,面積 は県下の約 2 割を占める(第 1 図).鈴鹿山脈を源とする 愛知川,日野川が東から西に流れ,その下流には沖積地が 広がり,湖辺には津田内湖,大中の湖などの干拓地が多数 見られる. 2013 年の農林水産省の耕地面積調査によると,管内の 耕地面積は 16,310ha で,このうち水田面積は 15,530ha(対 耕地面積比:95.2%),畑地面積は 772ha (同:4.7%)であ り,水稲を中心とした土地利用型農業が展開されている. 2013 年の水稲作付面積は 11,423ha で県内の約 1/3 を占め る.普及活動
普及 1 年目にあたる 2013 年の東近江地域における「み ずかがみ」作付面積は 101ha(生産者数 160 戸)で,県内 作付面積の 60%を占め,当地域の品質・作柄が次年度以 降の普及拡大に大きく影響する重要な位置づけとなった. そこで,当課では,東近江地域の関係機関・団体と連携し て,生産者に対する技術指導ならびに次年度以降の生産拡 大を働きかけることとし,以下の活動を 2013 年,2014 年 の 2 ヵ年行った. (1)支援体制の確立 「みずかがみ」の立毛を初めて見る関係者も多いことか ら,管内 4 JA の営農指導員と市町担当者を対象とした栽 培研修会を開催した(第 4 図).研修会では,現地ほ場を 巡回して生育状況等の情報を共有するとともに,当課から 品種特性や栽培上の注意点について説明し関係者の理解を 深め,関係機関・団体が連携して生産者への支援に当たる ことを確認した. また,生育期間中,東近江地域の「みずかがみ」展示ほ について,JA と協力して生育調査を行い,営農指導員の スキルアップを図った. (2)技術情報の提供 「みずかがみ」は「コシヒカリ」と比較して出穂・成熟 期が早いため作業の前倒しが必要となる.ほとんどの生産 第 1 図 滋賀県における東近江地域 第 2 図 「みずかがみ」と環境こだわり栽培の看板 第 3 図 「みずかがみ」のパッケージ 作物研究 60 号(2015) 24者が「みずかがみ」を初めて栽培することから,適期作業 についての情報提供が重要と考えられた.そこで,栽培上 特に重要となる,①中干し,②穂肥(出穂前後の水管理も 含む),③斑点米対策としての畦畔 2 回連続草刈り,④収 穫の 4 つのポイントについて,それぞれの時期に「みずか がみ情報」を各 JA 等を通じて生産者に配布し,生育状況 に合わせた適期作業を促した(第 5 図). (3)普及拡大に向けた PR 普及拡大を図るためは,生産者・消費者に対する PR も 重要と考えられた.そこで,関係機関・団体と協力し,県 庁農業経営課・食のブランド推進課とも連携を取りながら, 集落営農組織の集会や各 JA の環境こだわり部会等での「み ずかがみ」の紹介,東近江市および近江八幡市での農林水 産まつりでの試食 PR などを行った(第 6 図).
活動の成果
2013 年は,5 月中旬以降,生育期間を通して気温が高く, 出穂・成熟期は想定より 5 ∼ 7 日程度早くなったが,収穫 時期について情報提供したことから,適期に収穫・調製作 業が行われた.登熟期間もかなりの高温で推移したが,白 未熟粒の発生は少なく,1 等米比率は 87.9%と高くなった. 収量も,目標の 540kg/10a を超える生産者が多く,収量・ 品質ともに満足いく結果となった. また,一般財団法人日本穀物検定協会が実施する米の食 味ランキングにおいて,参考品種ではあるが滋賀県産米と して初めて「特 A」に評価され,食味の面でも良い結果が 得られた. これらのことから生産者の関心も高まり,2014 年の作 付面積は,東近江地域で 573ha,県全体でも目標の 1,000ha を超える 1,120ha となり,本県主産地としての役割を果た すことができた. 2014 年は,登熟期間にあたる 8 月の日照時間が平年比 53%と過去最低であった.特に第 1,2 半旬は寡照に経過 したため,早生品種では登熟不良となり,収量が低下する とともに乳・心白粒の発生によって外観品質も低下した. 「みずかがみ」においても収量・外観品質の低下がみられ, 収量は東近江地域の調査等では 480 ∼ 510㎏ /10a,2014 年 12 月 22 日公表の 1 等米比率は 62.4%(農林水産省)であっ た.しかし,「コシヒカリ」,「キヌヒカリ」および熟期が 比較的近い極早生の「あきたこまち」の 1 等米比率は,そ れぞれ 39.5%,38.1%および 48.6%とさらに低かった.また, 滋賀県農業技術振興センターの作況調査結果では「みずか がみ」は「コシヒカリ」より減収程度が小さかった(デー タ略).これらのことから「みずかがみ」は,従来の滋賀 県における早生品種と比べて,寡照年でも品質・収量が安 定していると考えられた. また,2014 年産のコメの食味ランキング結果はまだ公 第 4 図 「みずかがみ」栽培研修会 第 5 図 みずかがみ情報 第 6 図 東近江地域での試食 PR 25 東近江地域における水稲新品種 「みずかがみ」 の普及について表されていないが,関係者による食味試験や各種 PR イベ ントでの試食では 2014 年の気象条件下でも食味の評価は 高かった.
今後の取り組み
2014 年から京阪神を中心として県外でも販売が開始さ れたが,テレビ CM などの PR 活動の効果もあり,売れ行 きは順調で実需からの引き合いも強い.今後,実需が必要 とする量を確実に生産することが重要であり,2015 年は 県内で 2,000ha,東近江地域で 1,000ha を目標に生産拡大 を推進しているところである(第 7 図). 今後の普及拡大に向けた技術的課題は 3 点あげられる. まず 1 つめは,斑点米対策である.2013 年の 2 等以下格 付理由の多くはカメムシによる斑点米の混入であった.こ のことを踏まえ,斑点米対策としての畦畔 2 回連続草刈り の徹底や薬剤による適期防除を重点的に指導する必要があ る.2 つめは,肥沃地での栽培である.「みずかがみ」は 倒伏しにくい品種であるが,2014 年は東近江地域の肥沃 地では大豆跡栽培等で倒伏が発生した.大豆跡等では施肥 量を半分とするよう指導しているが,肥沃地ではより適切 な施肥量を検討し,指導する必要がある.3 つめは,食味 レベルの維持である.引き続き「特 A」評価を得られるよ うに,生産者が増えても高いレベルで均質な「みずかがみ」 を生産する必要がある.現在,玄米タンパク質含量の測定 は,一部の生産者のサンプルに限られているが,これを全 生産者に拡大する計画がある.実施には多大な労力が見込 まれるが,玄米タンパク質含量を把握し個別に栽培改善を 図ることで,全体の食味レベルの底上げにつなげられる. 今後も継続して関係機関と密接な連携を図り,きめ細かな 技術指導を徹底したい.引用文献
寺島一男・齋藤祐幸・酒井長雄・渡辺富男・尾形武文・秋 田重誠 (2001) 1999 年の夏期高温が水稲の登熟と米品質 に及ぼした影響.日作紀 70: 449-458. 中川淳也・森 茂之 (2012) 滋賀県における水稲の高温登熟 性基準品種の選定.作物研究 57: 23-31. 中川淳也・吉田貴宏・森 茂之・日野耕作・山田善彦・宮 村弘明・西谷清彦 (2014) 高温登熟性に優れる水稲新品 種「みずかがみ」の育成.滋賀農技セ研報 52: 1-14. 滋賀県 (2014) 環境こだわり農産物認証制度のあらまし. 2015-02-09 閲覧 http://www.pref.shiga.lg.jp/g/kodawari/kodawari/ ¿ les/260318kodawari-aramashi-hp.pdf 若松謙一・佐々木修・上薗一郎・田中明男 (2007) 暖地水 稲の登熟期間の高温が玄米品質に及ぼす影響.日作紀 76: 71-78.Extension of New Rice Cultivar “Mizukagami” in East Omi Region
Junya NakagawaEast Omi Agricultural and Rural Development Promotion Of¿ ce
(7-23 Yokaichimidorimachi, Higashiomi, Shiga 527-8511, Japan)
Summary:
Keywords: Rice cultivar, Mizukagami, Ripening capability under high temperature conditions, Extension
Journal of Crop Research 60: 23-26(2015) Correspondence: Junya Nakagawa([email protected]) 第 7 図 東近江地域における普及拡大
作物研究 60 号(2015)