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抑うつ状態に対する理学療法効果の検証ならびに病態生理学に基づいた作用機序の基礎的検討

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 154 43 巻第 2 号 154 ∼ 155 頁(2016 年) 理学療法学 第 43 巻第 2 号. 平成 25 年度研究助成報告書. 行う群(運動群,14 匹) ,通常飼育群(13 匹)に分けた。すべ てのラットに対して実験開始前に 1 日 10 分間のハンドリング. 抑うつ状態に対する理学療法効果の検証 ならびに病態生理学に基づいた作用機序 の基礎的検討. を 3 日間行った。なお,実験動物へのすべての処置は名古屋大 学医学部保健学科動物実験委員会の承認のもとで行った(承認 番号:022-032)。 2.拘束ストレス負荷および運動  まず,トレッドミル運動の事前練習を行い,1 週間飼育した. 石田和人 1),中島宏樹 2),玉越敬悟 1)3),高松泰行 1)4). 時点から毎日,CRS またはトレッドミル運動を実施した。CRS としてラットを内径 5 cm,長さ 20 cm のプラスチック製の透 5). 1). 明な円筒内に閉じこめた。具体的には,Naert らの方法. 2). 参考に 1 日 3 時間,21 日間連続で行った。また,トレッドミ. 3). ル運動は毎日 CRS 負荷直後に行った。運動条件は,1 日 30 分. 4). 間,21 日間毎日とし,速度は Lou らの方法 6)にしたがい,最. 名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻 一宮市立市民病院リハビリテーション室 新潟医療福祉大学理学療法学科 国立病院機構東名古屋病院リハビリテーション部. を. 初の 5 分間は 5 m/min,次の 5 分間は 8 m/min,残り 20 分間 要旨:慢性拘束ストレス(以下,CRS)負荷による抑うつモデ. は 11 m/min とした。なお,トレッドミル走を学習できなかっ. ルラットを作成し,トレッドミル運動が抑うつ発症に及ぼす効. たラットは実験から除外した。. 果と樹状突起の形態変化に着目して検討した。ラットを CRS 群,. 3.抑うつ様行動の評価. CRS 負荷後にトレッドミル運動を加える運動群,通常飼育群に. 1)強制水泳テスト. 分けた。ストレス負荷には 1 日 3 時間,21 日間連続で円筒(内.  CRS 負荷期間の最終日に直径 40 cm,深さ 30 cm の水(25. 径 5 cm,長さ 20 cm)内に閉じこめる拘束ストレスを用いた。. ± 1 °C)の入った円柱形の水槽にラットを 15 分間入れる。そ. 運動群は CRS 負荷直後に 30 分間のトレッドミル運動を行った。. の 24 時間後に再び水槽内に入れ,5 分間観察する。行動解析. スクロース消費テストおよび強制水泳テストで抑うつ行動を評. は水槽の上方からビデオ撮影し,immobility time(頭部を水面. 価した。最後に脳組織を取りだし Golgi-Cox 染色法に供して樹. 上に保つのに必要な最小限の動作しか行わない時間)を計測し. 状突起の解析を行い,副腎を採取しその重量を算出した。21 日. た。Immobility time の延長を抑うつ様行動として評価するも. 間の CRS により,抑うつ行動を示し,海馬歯状回顆粒細胞層の. のである 7)。. 樹状突起退縮を認めた。また,副腎重量の増加も認められた。. 2)スクロース消費テスト. これに対しトレッドミル運動を実施すると,抑うつ行動がみら.  Naert らの方法 5)を参考に CRS 最終日の翌日実施した。テ. れず,樹状突起の退縮が抑制されることが示された。以上より,. ストの前に,すべてのラットは 17 時間(17 時∼ 10 時)水を. 運動が抑うつの予防に寄与する効果を有することが示された。. 与えず,毎回午前 10 時にテストを開始した。テストは 3 時間. キーワード:抑うつ,慢性拘束ストレス,運動. での 4%スクロース溶液と水の消費量を測定し,4%スクロー ス溶液の消費量を総消費量で除してスクロース消費率を算出し. 緒  言. た。通常,ラットは甘味を好みスクロース消費率が有意に大き.  抑うつは現代人の大きな健康問題のひとつである。身体運動 ‒4). には,うつ病発症を予防する効果があるとの報告があり 1. ,. くなるが,スクロース消費率の低下は,抑うつ症状のひとつで ある快感消失を評価する指標となる。. 抑うつに対する理学療法の有効性について検討を進めること. 4.組織学的検討. は,理学療法の可能性を発展させる意味においても有用と考え. 1)Golgi-Cox 染色. られる。しかし,運動による抑うつ発症予防の効果およびその.  CRS 最終日の翌日,深麻酔下で脱血後,脳を摘出し,14 日. 機序については十分に解明されていない。. 間,冷暗所で Golgi-Cox 溶液中に保存した。最後の 3 日間は.  慢性ストレスは,うつ病の重要な危険因子であり,慢性スト. 30%スクロース溶液に浸し,切片作成はビブラトームを用い. レス負荷に伴う海馬や前頭前野領域の樹状突起の退縮がうつ病. て 200 µ m 厚の連続前額断切片を作成した。Takamatsu らの方. の一因であると考えられている。本研究では,ラットを用い実. 法 8)に準じて Golgi-Cox 染色を行った。観察領域は海馬および. 験的に慢性ストレスを負荷することにより,抑うつ状態を再現. 前頭前野内側領域とした。Sholl の解析法 9)を用いて総樹状突. する動物モデルを確立し,それに対して運動による予防的効果. 起長を計測した。. が得られるか否かについて検討する。本研究では病態生理学に. 2)副腎重量. 基づいた作用機序を追求することを方向性とするが,まずその.  CRS 負荷により,視床下部−下垂体−副腎(hypothalamic-. 第一段階として,樹状突起の形態的変化に着目した解析を行った。. pituitary-adrenal axis;以下,HPA)系が亢進しているかどう. 方  法. かを確認するため,両側の副腎を採取し,副腎重量の平均値を. 1.実験動物. 体重で除して副腎重量体重比として算出した。.  実験動物には,SD ラット(雄,6 週齢,150 ∼ 170 g,41 匹). 5.統計学的解析. を用いた。環境に慣れさせるため実験開始 1 週間前から飼育を.  SPSS ver16.0 を 用 い, 一 元 配 置 分 散 分 析 お よ び Post hoc. 開始し,1 匹につき 1 ケージで飼育した。ラットに CRS を負. test として Tukey’s test を用いた。また,統計学的検定にお. 荷する群(CRS 群,14 匹),CRS 負荷後にトレッドミル運動を. ける有意水準は 5%とした。.

(2) 抑うつ状態に対する理学療法効果と作用機序. 155. 結  果. 施したトレッドミル運動は抑うつ発症予防効果をもたらすうえ.  3 週間の拘束ストレス負荷により,CRS 群は 2 週目以降,運. で,HPA 系の過活動を緩和し海馬での樹状突起退縮を抑える. 動群は 1 週目以降,体重が通常飼育群に比較し低値を示した。. ことによりその効果を発揮したことが考えられる。. 1.抑うつ様行動の評価.  さらに,今回の結果で運動により樹状突起の退縮抑制がみら. 1)強制水泳テスト. れた海馬歯状回は,輪車による自発運動により脳由来神経栄養.  CRS 群では,immobility time が通常飼育群に比較し有意に. 因子(以下,BDNF)の発現増加が確認されている領域として. 高値を示した(p < 0.05)。一方,運動群は通常飼育群との間. 知られている 12)。また,BDNF は,ストレス負荷により,そ. に有意差は認めず同程度であった。. の発現が減少し,運動を実施することで発現量を増加させるこ. 2)スクロース消費テスト. とが報告されており 4)13),本研究で得られた慢性拘束ストレ.  運動群は通常飼育群に比べ有意に低値を示した(p < 0.05)。. スによる樹状突起の退縮および抑うつ状態の再現,およびそれ. 2.組織学的評価. に対する運動の神経保護的作用を解析するうえで,BDNF の発. 1)総樹状突起長(Golgi-Cox 染色). 現に関する解析を加えることも必要であると考えられる。.  海馬歯状回において CRS 群の樹状突起長は通常飼育群およ.  今後,さらなる検討を重ねることで,抑うつ状態の病態生理. び運動群に比べて有意に短かった(p < 0.05)。一方,海馬錐. 学を考慮したエビデンスに基づく運動の効果を追求し,さらに. 体細胞層(CA3,CA1)領域および前頭前野領域(前部帯状回,. は抑うつという精神科領域における理学療法の展開につながる. 前辺縁皮質,下辺縁皮質)においては,群間で有意差はみられ. 可能性を有する点で期待できる。. なかった。. 文  献. 2)副腎重量. 1)North TC, McCullagh P, et al.: Effect of exercise on depression. Exerc Sport Sci Rev. 1990; 18: 379‒415. 2)Strawbridge WJ, Deleger S, et al.: Physical activity reduces the risk of subsequent depression for older adults. Am Epidemiol. 2002; 156: 328‒334. 3)Singh NA, Clements KM, et al.: The efficacy of exercise as a long-term antidepressant in elderly subjects: a randomized, controlled trial. Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001; 56: 497‒504. 4)Zheng H, Liu Y, et al.: Beneficial effects of exercise and its molecular mechanisms on depression in rats. Behav Brain Res. 2006; 168: 47‒55. 5)Naert G, Ixart G, et al.: Brain-derived neurotrophic factor and hypothalamic-pituitary-adrenal axis adaptation processes in a depressive-like state induced by chronic restraint stress. Mol Cell Neurosci. 2011; 46: 55‒66. 6)Lou SJ, Liu JY, et al.: Hippocampal neurogenesis and gene expression depend on exercise intensity in juvenile rats. Brain Res. 2008; 1210: 48‒55. 7)Porsolt RD, Le Pichon M, et al.: Depression: a new animal model sensitive to antidepressant treatments. Nature. 1977; 266: 730‒732. 8)Takamatsu Y, Ishida A, et al.: Treadmill running improves motor function and alters dendritic morphology in the striatum after collagenase-induced intracerebral hemorrhage in rats. Brain Res. 2010; 1355: 165‒173. 9)Sholl DA: The measurable parameters of the cerebral cortex and their significance in its organization. Prog Neurobiol. 1956; (2): 324‒333. 10)Christiansen SH, Olesen MV, et al.: Fluoxetine reverts chronic restraint stress-induced depressionlike behaviour and increases neuropeptide Y and galanin expression in mice. Behav Brain Res. 2011; 216: 585‒591. 11)Xu Y, Lin D, et al.: Curcumin reverses impaired cognition and neuronal plasticity induced by chronic stress. Neuropharmacology. 2009; 57: 463‒471. 12)Neeper SA, G mezPinilla F, et al.: Physical activity increases mRNA for brain-derived neurotrophic factor and nerve growth factor in rat brain. Brain Res. 1996; 726: 49‒56. 13)Adlard PA, Cotman CW: Voluntary exercise protects against stress-induced decreases in brain-derived neurotrophic factor protein expression. Neuroscience. 2004; 124: 985‒992..  副腎重量体重比は CRS 群が通常飼育群に対して有意に高値 を示した(p < 0.01)。また,運動群は CRS 群よりも有意に低 値を示した(p < 0.05)。 考  察   本 研 究 で は,3 週 間 の CRS 負 荷 に よ り ス ク ロ ー ス 消 費 テ ストでのスクロース消費率低下および強制水泳テストでの immobility time 増加を示し,抑うつ状態を再現するモデルを提 示することができた。また,Golgi-Cox 染色による樹状突起長の 解析から,海馬歯状回領域における樹状突起の退縮が確認され た。一方,CRS 負荷期間中に毎日 30 分間のトレッドミル運動 を行うことにより,抑うつ発症を予防し,同時に海馬歯状回の 樹状突起の退縮が抑えられた。すなわち,運動による抑うつ発 症の予防効果を示す結果が得られた。また,副腎重量は,CRS により増大し,運動を加えると増大しない結果となり,今回用 いた拘束ストレスにより,いわゆる HPA 系の過活動が惹起さ れ,副腎から分泌されるコルチコステロンの濃度が慢性的に上 昇し,海馬へのネガティブフィードバック機構が破綻をきたし た結果,海馬歯状回における樹状突起の退縮をもたらす結果を 導いたものと解釈できる。このことは先行研究 5)10)11)におい ても,CRS 負荷が HPA 系の亢進をもたらし,抑うつ様行動を 引き起こすことが報告されており,今回の我々の結果は同様の 傾向を示すものであった。なお,本研究では,コルチコステロ ン値を計測しておらず,本病態をより詳細に解析するにあたり, その確認が必須と考えられる。また,その結果もたらされる海 馬への悪影響を考えるうえで,海馬における糖質コルチコイド 受容体の発現を解析することも有効であると考えられる。  また本研究では,CRS 負荷期間中にトレッドミル運動を行 うことにより,副腎重量の増加が抑制されることが示された。 すなわち,抑うつに対する運動の予防効果には CRS 負荷によ る HPA 系の亢進を抑制する作用が関与することが想定される。 先行研究では,1 週間の自発運動後に 4 週間の慢性ストレスを 負荷すると,ストレス負荷後のコルチコステロン濃度が低値を 示し,海馬における糖質コルチコイド受容体 mRNA の発現が 高値を示すことが報告されている. 4). 。以上のことから,今回実.

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