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2018年度日本基礎心理学会第1回フォーラム時代は変わる―再現可能性問題から基礎心理学のパラダイムシフトへ―

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DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.37.24 165 山田: 時代は変わる

2018年度日本基礎心理学会第1回フォーラム

時代は変わる

―再現可能性問題から基礎心理学のパラダイムシフトへ―

The Times They Are A-Changin’

:

From the reproducibility problem to the paradigm shift of psychonomic science

日   時: 2018年6月2日(土)14時∼17時 会   場: 慶應義塾大学三田キャンパス西校舎527教室 講 演 者: 池田功毅(中京大学)「再現可能性問題は心理学教育をどう変えるか?」 小杉考司(専修大学)「新しい統計学とのつきあいかた」 渡邊芳之(帯広畜産大学)「和文学会誌は再現性問題にどのように立ち向かうか」 企   画: 山田祐樹(九州大学)・田谷修一郎(慶應義塾大学)・川畑秀明(慶應義塾大学) 司   会: 山田祐樹(九州大学) 共   催: 三田哲学会 企 画 趣 旨 実験して,論文書いて,投稿して,雑誌に載せる。こ れは実験心理学者の日常的な営みである。実験心理学の 世界に足を踏み入れてからというもの,我々は幾度とな くこの過程を繰り返してきたはずだ。しかし近年,この 常識が大きく揺らいでいる。2011年頃から「心理学の再 現可能性の危機」への警鐘が鳴らされるようになってき たのである。象徴的な出来事の一つはBem (2011) の予 知 (予感) 研究に関する一連の議論であり,もう一つは Stapelの研究不正による大規模な論文撤回である。どち らも非常に生産的な熟練の研究者が中心となって起こっ たことであり,それだけに我々の感じた衝撃や落胆は大 きなものであった。そしてダメ押しになったのが,実験 心理系有力誌に掲載された多数の論文について非常にネ ガティブな追試結果がScienceで報告されたことである (Open Science Collaboration, 2015)。これらの問題は,ひ

とえに我々がその日常的な研究実践を信じて疑わなかっ たこと,我々が実験から論文掲載までの過程のみに熱中 し,その後その結果が再現可能であるかどうかを無視し てきたことに端を発しており,それがどれだけ科学とし ての心理学を汚染してきたかということを突きつけた。 そこで本フォーラムは,基礎心理学における再現可能 性問題を研究者・関係者間で共有し,その解決策を模索 するための情報とそれに基づく議論の場を提供すること を目的として企画・開催された。登壇していただいた3 名の講演者はそれぞれ基礎心理学者,あるいは基礎心理 学近隣領域の研究者としてこの問題に様々な角度から取 り組んで来られた。今回は研究者教育,統計,ジャーナ ルの3つの観点から本テーマについての示唆に富む講演 がなされ,最後に非常に充実したパネルディスカッショ ンが行われた。 池田功毅先生には,再現可能性問題に関するこれまで の経緯を概観していただいた後,主に学生への再現可能 性教育について議論していただいた。再現可能性を著し く低下させる原因であるpハッキングやHARKingなどの QRP (Questionable Research Practices; 問題のある研究慣 行),あるいは誤った統計運用などについては,そもそ も研究者養成の段階で科学リテラシーや統計に関して十 分な教育がなされていないことに端を発する。こうした 事柄を大学初年次から卒業研究までのカリキュラムに多 く導入することの重要性を指摘され,またこれらのスキ ルを身につけることは,研究者になるためだけでなく就 職においても有効である可能性も示唆された。小杉考司 先生には,心理学で用いられる統計法に関するお話をし ていただいた。頻度主義的統計,ベイズ的統計それぞれ の長短所について非常に詳細な解説がなされ,再現可能 性問題の解消のためにはベイズ統計を用いるのが効果的 であることが説明された。また,小杉先生もベイズ統計 をベースとした統計教育を初学者に対して実施すること

The Japanese Journal of Psychonomic Science 2019, Vol. 37, No. 2, 165–166

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166 基礎心理学研究 第37巻 第2号 の重要性を述べられた。最後に,渡邊芳之先生には, 2000年以前までの再現可能性問題の経緯や,査読,追 試,オープン化などにおけるジャーナル側の抱える問題 に触れられたうえで,そこでの和文学会誌の役割につい て議論いただいた。さらに,日本パーソナリティ心理学 会の理事長として,「パーソナリティ研究」における最 近の取り組みについても紹介がなされた。その中で 「パーソナリティ研究」にて事前登録制度を導入する計 画について述べられたが,先日実際に公式スタートした ことが詳細な編集指針とともに示された (加藤,2018)。 本フォーラムは以下の点で意義深かった。まず,101 名という多数の参加者に対し,再現可能性問題の様々な 側面について講演者の3名ともが非常にわかりやすい紹 介を行ったことである。今回フィードバックアンケート を実施したが,その中で,この問題に初めて触れたとい う感想も多くあり,啓蒙的意義は大きかったと思う。次 に,今回扱った教育,統計,論文出版という3つのテー マは,研究者の日常活動と直結しているため,話の具体 性が高く,聴衆に対して実践的なメッセージを与えるこ とができた(ことがアンケートからもわかった)。アン ケートのことばかりで恐縮だが,中には続編を希望する 声も多くあった。そうした声の中にはさらに具体的・実 践的な内容を求めるものも多く,例えば論文執筆時の統 計の扱い方や,ベイズ統計自体のより詳細な話など,統 計学への注目の高さがうかがえた。企画者としては,今 回は出版制度や統計における変革がもたらしうる正の側 面について扱う話が多かったので,同時に発生しうる負 の側面 (e.g., Yamada, 2018) についてもしっかりと認識で きるような機会があれば良いのではないかと思う。ちな みに同様の意見がアンケートにもあった。 最後に,日本基礎心理学会としての新たな指針や再現 可能性問題への意見・取り組みなどに興味を持つ人々も いた(これもアンケートより)。このフォーラムが単な る一回性のイベントとして終わるのではなく,今後の学 会の着実な動きへとつながることを願ってやまない。 引用文献

Bem, D. J. (2011). Feeling the future: Experimental evidence for anomalous retroactive influences on cognition and af-fect. Journal of Personality and Social Psychology, 100, 407– 425.

加藤 司 (2018).『パーソナリティ研究』の新たな挑戦 ――追試研究と事前登録研究の掲載について――  パーソナリティ研究,27, 99–124. Advance online publi-cation. http://doi.org/10.2132/personality.27.2.11

Open Science Collaboration (2015). Estimating the reproduc-ibility of psychological science. Science, 349: aac4716. Yamada, Y. (2018). How to crack pre-registration: Toward

transparent and open science. Frontiers in Psychology, 9: 1831.

参照

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