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「戦略論」から生物進化を考える授業、その可能性と課題 : 鳥の「飛ぶ」と、その理由に着目して

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Academic year: 2021

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(1)Title. 「戦略論」から生物進化を考える授業、その可能性と課題 : 鳥の「飛ぶ 」と、その理由に着目して. Author(s). 水口, 拓真; 倉賀野, 志郎. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第35号: 51-67. Issue Date. 2003-11. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/1295. Rights. 本文ファイルはNIIから提供されたものである。. Hokkaido University of Education.

(2) 釧路論集一北海道教育大学釧路校研究紀要一第35号(平成15年) KushiroRonshu−JournalofHokkaidoUniversityofEducationat Kushiro−No.35:5ト67.. 「戦略論」から生物進化を考える授業、その可能性と課題 一鳥の「飛ぶ」と、その理由に着目して− 水口拓真*、倉賀野志郎 授業基礎開発系・教育内容・方法研究室(大学院:学校教育専修). LessonPlanofthinkingevolutionfrom“strategy”. −fiyinganditsreason− TakumaMizuguchi・ShiroKuragano. 要 旨. “進化”という言葉には挟む余地さえ与えない暗黙さを強要しているかのような、生物はそうこうしてい るうちに進化して、陸に上がり、空に進出し…と形式的に理解されていることが多い。ここには“問い”や. “なぜ?”という視点が背景に退けられているのである。その“なぜ?”という問いに“進化した”や、“法 則”で答えると、一見すると理解されているようだが、事柄と事柄とのつながりや、新たな課題はそこから は生まれにくい。. 科学教育においては、“科学する”といった「科学」を解き明かしていくために重要な、自分の仮説を構想 してみることなどの科学的発想の自由さを伝えることをしないで、成果や結論・法則のみを教えるという傾. 向が強いように思われる。このような暗記主体の、知識主体の一方通行的な「教え」が今日問題になってい る子どもの「理科離れ」の一つの要因になっているのではないかとも考えられる。我々は「理科離れ」とい うものを打開していく一つの方法として“考えるおもしろさ”を子どもに伝えることも重要ではないかと考. えている。. 今回は、その自分の仮説を立てて、それを論議することを授業にもちこむ試みの一つとして、いまだ解明 されていない最先端の「謎」を子どもにぶつけてみてはどうか、ということから、「烏の飛翔の謎」に迫るこ ととした。. この“考えるおもしろさ”を生物分野で子どもに伝えるために、そもそもの「進化」について言及されて いる「戦略(論)」という視点を科学教育にも転用することを背景としている。本論文ではこの「戦略論」が どのように科学教育、とりわけ生物(進化)教育に位置づけていくか、ということの一端を、具体的な教材 プランと、その授業実践によってその可能性と課題とを探ったものである。. ぜ?”という視点が背景に退けられているのである。これ. はじめに. は生物学の歴史的事例に限定されることではないが、年表. 科学教育の、とりわけ小学校・生物学分野に「考えるお. 的に「暗記」されていることが多い。その“なぜ?”とい. もしろさ」を. う問いに“進化した”や、“法則”で答えると、一見すると 理解されているようだが、事柄と事柄とのつながりや、新. “進化した”、ということはなにか無言の説得力を持って. たな課題はそこからは生まれにくい。. いるように思われる。進化という言葉には挟む余地さえ与. 科学教育においては、“科学する”といった「科学」を解. えない暗黙さを強要しているかのような、生物はそうこう. き明かしていくために重要な、自分の仮説を構想してみる. しているうちに進化して、陸に上がり、空に進出し…と形. ことなどの科学的発想の自由さを伝えることをしないで、. 式的に理解されていることが多い。ここには“問い”や“な. 成果や結論・法則のみを教えるという傾向が強いように思. ー51−.

(3) 水 口 拓 真・倉賀野 志 郎. われる。このような暗記主体の、知識主体の一方通行的な. 花は花粉を散布するために様々な戦略(作戦)でその「運. 「教え」が今日問題になっている子どもの「理科離れ」の. び屋」となる虫を呼び寄せ、様々な戦略で虫の身体に花粉 を付ける。植物の種子の多くが香りもよくて甘い実(フルー ツ)の中にあるのは、それによって様々な生物をひきつけ、. 一つの要因になっているのではないかとも考えられる。 我々は「理科離れ」というものを打開していく一つの方 法として“考えるおもしろさ”を子どもに伝えることも重. それをエサに種子を散布してもらおうという植物の「戦略」. 要ではないかと考えている(1)。. である。花は単にきれいだから咲こうと思ったわけではな い。フルーツもただおいしいから実をつけたわけではない。. 今回は、その自分の仮説を立てて、それを論議すること を授業にもちこむ試みの一つとして、いまだ解明されてい. そこには植物の「戦略」が確実に存在すると考えざるを得. ない最先端の「謎」を子どもにぶつけてみてはどうか、と. ないのである。花や実の進化は散布という「戦略」によっ て合目的的に起こっていると考えると、説得力のある展開 が可能となる。 このようなことを“切り口”とすると、たくさんの“な ぜ?”や“不思議”が存在する。なぜ花はカラフルできれ いなのか? なぜフルーツは香りがよく、甘くておいしい のか? 戦略に着目することによって、この“なぜ?”を 論じ、仮説を構想することが行いやすくなる。この「戦略」 への着目は、この花と実の進化を解き明かすための視点を 提供していくことができる。. いうことから、「烏の飛翔の謎」に迫ることとした。 この“考えるおもしろさ”を生物分野で子どもに伝える ために、そもそもの「進化」について言及されている「戦 略(論)」という視点を科学教育にも転用することを背景と している(2)。本論文ではこの「戦略論」がどのように科学教. 育、とりわけ生物(進化)教育に位置づいていくのか、と いうことのⅣ一端を、具体的な教材プランと、その授業実践 によってその可能性と課題とを探ったものである。. この他に、植物と植食虫との間の相互の働きかけ戦略に よる「共進化」や擬態戦略などは、戦略的視点で見ないと. [1]「戦略」という視点から生物教育を考える. その相互の働きかけによる進化の構造を理解できにくくな. (1)「戦略論」という生物のそのものの把握の仕方. る。また進化を解き明かす上で非常に重要な「生物多様性」 と「性」の謎も、この「戦略」に考えれば、解き明かすこ とができるのではないか、という視点もある。「性」がある から「多様性」がある、というのでは後付けの、結果的な. (1−1)自然の構造の反映として戦略を考えていく. 「総合的な学習」を理科という視点から考える時には、 つながりがある事柄を、つながりがあるように描く事が必 要であると考える。反対につながりがないものは、つなげ るべきではないこととなる。この背後には本質的な統一性 があり、一見するとつながりが無さそうなことがつながっ. 単なる現象論になってしまう。. 今日有力な「赤の女王説」もその一つである。変わりた くないがために、同じところに留まっているためには、絶 えず動き回っていなければならない、というものであり、 放っておくと、簡単にウイルスなどに進入され、自己が維 持できなくなってしまうため、それを防ぐためには、絶え ず他の遺伝子とチェックすることによって、変化を抑えよ うとしているという説で、生き続けるためには、絶えず走 り続けていなければならない、ということである。絶えざ る泥棒に対して、絶えざる錠前の変更が余儀なくされ、そ. ていることや、反対にそうであると考えていたことが、無 関係であることはよくある。理科という視点から総合的な 学習を考える場合には、このような総合性と、その背後に ある統一性を深めて行くことに着目する必要があると考え る。. 例えばゲームについて考えてみよう。ゲーム性が直接に 現れて来るのは生物のレベルで、特に最近でば’戦略”とい う視点から考えられることが多いようである。自然の構造 そのものが、このような戦略的ゲーム性を含んでいるとす るならば、そのゲーム性を授業に持ち込もうと考える方が. のためには多様な錠前の設計図が必要になるというようら. なる。こういった意味では「性」と「多様性」そのものの 存在が戦略的といえそうなのである(6)。 さらに、「戟略」という視点は「生き物の進化ゲーム」(7) でも植物と昆虫の関係、擬態の不思議さ、実らない花の謎. 素直なことだろう。それを無理やりに削ぎ落としてしまっ たのでは、子どもの興味・関心を引き出すことに無理があ るだけでなく、自然の理解そのものにも無理があることに. といった生物の形態・機能には何か合理的な理由があるの. だ、と捉え、それを「戦略」的な視点に着目し、探ろうと. なる(:う). している。. (ト2)擬人的視点による、“なぜ”を考える あたかも、生物(植物/動物)が、意志に基づいて戦略 を選択しているかのように現れることがある。このような 生物そのものに視点をおいて語られているものも多い(4)。. そしてもう少し大きく考えると、地球と生物についても、 「共進化」での戦略的な視点で解読していこうという「全. 地球史解読計画」も推進されている(8)。そこでは「生命と地 球の共進化」の自然構造を解き明かす接近視点として、「戦 略」的視点に基づいて「仮説ころがし」としての「物証に. 具体的な植物戦略論…植物の種子散布戦略・花の受粉散. 布戦略を例にとって見てみよう(5)。. 基づいた作業仮説の検証や棄却」が納得のいく論理を解き. ∬52−.

(4) 「戦略論」から生物進化を考える授業、その可能性と課題 直す作業として行われている。地球の熟的構造の変異に対 する、つまり環境の変化に対応する形で生物の進化が「戦 略的」に現れ、地球の熟的構造史と生物進化のイベントと の関連を解き明かしていく、というものである。. 働きかけ・考えそのものも似た面をもっている。その探求 過程、強いて言えば自然探求ゲームを授業という限定され た範囲のことではあるが、その一端を授業に持ち込むと考 えるのもその一つの現れと考えることができよう。仮説実 験授業研究会では、問題、仮説、実験がシリーズとして配 置され、討論が重視されているが、問題がゲーム的である とともに、討論が科学者そのものの社会性の反映であると されている(9)。. 生物の謎を戟略的視点で解き明かそうという試みは多い. が、それはこれまでの例をみても、生物(進化)の構造そ のものが「戦略的」にできていることの反映に他ならない. といえるだろう。こういった意味で「戦略」という視点は. 先述したように、生物進化の構造そのものの「戦略」を 反映して、生物進化を解き明かしていくため、「戦略的な視. 生物を捉えなおしていく大きな視点の一つをなしている可. 能性があるだろう。 整理すると下記のような視点となる。. 点」に着目した「学び」・「授業開発」を展開するという構. 想ということになる。 このような授業構想は、まず、子どもの気持ちや考えを 投入しやすく、進化に(知識的にではなく)「なぜ?」を論 じることができる。また、「なぜ?」に着目することによっ て、自分の仮説を構想してみることのおもしろさ・科学的 発想の自由さを学ぶことができる可能性も出てくる。この ためには、進化の「なぜ」を考え、その考えそのものの教 材化を試みることが必要となる。 これらはまとめると、下記の点が配慮されていることと なる。 ①子どもの気持ちを投入しやすい。“意志”に着目して、“擬 人的”に対応する。ここでは、学習者の視点移入におい て、自由に発想するおもしろさが現れることとなる。 ②進化(知識ではなく)に“なぜ”を論じることができる。. [戦略と進化]. *動的な相互作用の措抗関係のダイナミズムを把握するこ. と。その履歴が歴史となる。 *進化をその微視的な履歴の帰結としての積分的な把握が. 進化である。 *上記の意味での微視的進化戦略は、絶えず生じている。 日々の活動が歴史を創る。 *戦略は、生物そのものの主体的戦略とは異なる。意志が あるかのように見えるが、そのものが自覚的に戦略を設. 定しているわけではない。集団現象の動的な相互作用の 帰結としての目的的戦略として現れる。 [相手と共による共進化]. *戦略で重要なことは、共進化の進化ゲームである。ここ では環境とのかかわりでの共進化が課題となる。 *共進化は場合によっては袋小路に陥る可能性を学んでい. (教えの視点から). る。(共倒れ:絶滅) *一般性が広い戦略は、環境変化にも対応できるが、特殊. ③“構想してみる”ことのおもしろさ・科学的発想の自由. さを学ぶことができる。(学びの視点から). 化した戦略は変化がない時には良いが、一端、状況が変. 化すると絶滅することとなる。 *その上で、事実確認を地道な作業・調査によってなし得 ることも知っておく必要がある。. [2]どのような教材プラン(素案)が考えられるだろうか。 (1)“戦略論”的視点からみた教育内容・授業プラン開発例. 実証的背景が最終的には必要(場合によっては科学/発. 講義上で作成した“戦略論”的視点に基く授業プラン素. 見の進歩を待つ)となる。. 案の一部は下記のようなものである。(《》は授業プランを 意味する。◎夕張フリースクールで授業実践を行ったプラ ンである。数字は実施年月). (2)科学(進化)教育上の課題:戦略論への着目 進化の構造そのものが「戦略的」にできているのであれ. * 《目は口ほどにものを言う:容貌の社会生物学入門》. ば、その「学び」そのものを「戦略」に着目して、その「戦 略的」な視点そのものを授業に持ち込もう、そこから授業 を創っていこう、と考えるのも素直なところであろう。そ うしなければ、進化の本質を「学ぶ」ことが難しくなると 考えられる。理科の対象である自然そのものがゲーム的で あるとするならば、その学びそのものにも戟略を位置づけ るということである。. *問題意識:少女漫画の目ばどうして大きいのか、か ら目の意味を探る. *《へそとたまご》:ゾウの“卵”から晴乳類の進化の謎に 迫る. *問題意識:胎生と母乳保育が、なぜ必要となったの か、どこから進化したのか. *《おしっこから性器の進化史を探る》:水を制するものは、. ただし、戦略という視点での考察は、論理的仮説設定で あり、事実確認とは区分して考えておく必要がある。教育 上では、“構想してみる”ことのおもしろさ・科学的発想の 自由さを学ぶことが課題となる。. 進化を制す?. *問題意識:羊水から検討開始/腎臓進化と性器進化 は関係があった *《ムシ・トリ戦略》:花・実/烏/虫の共進化から:ムシ・. よく分からない自然現象を解き明かそうとする科学者の. トリの相互戦略. −53一.

(5) 水 口 拓 真・倉賀野 志 郎. 実際に存在しない花戦略も良しとし、ありそうもないもの でも、調べてあれば、その方がはるかにおもしろいと考える。 とにもかくにも、花の立場にたって、ただ食いをさせな いように、なるべく節約して虫をどのように利用するかの 戦略を立てる(例えばニセ蜜の準備)。しかしあまり虫をやっ. *問題意識:果実と烏・虫から広げて、ムシ・トリの 関係を探る *《動物の色覚と植物との共進化:環境とのかかわりから動 物の色覚進化史を探る》. *問題意識:花/烏/虫の3者の共進化の一つを色覚. つけることばかり考えると、送粉もしてもらえなくなる。 他方では、虫等の立場にたって、より効率的にただ食いす る戦略を考える。これも架空でかまわない。花の横から穴 をあけてのただ食いも有りとする(現実にある)。これが第 一段階である。戦略を公開した次の段階では、それを打破 する戦略を考えてもらう。とにかく相手をやっつけるため に構造・機能を含めて“進化”してもらう。相手を変える という方法もありうる。夜に移動するというのはよくある。 おもしろくなれば、共進化していくことになる。 子どもが考えていく基礎となりうるのは、店としては客 を呼びこむ、消費者としてはより安く、良い品をそろえた. からとらえる * 《果物/野菜戦略論》◎2000.6. *問題意識:広い意味では、植物から見るときゅうり もなすびも、フルーツに。 * 《魚の色と形》◎2000.9. *問題意識:魚の色と形も、植物や果実についての考 えを拡張して戦略として考える * 《雑草戦略》◎2001.9/12 *問題意識:雑草は、どうして人間の近くにあるのか、 を戦略として考える. * 《花と虫の巧みな駆け引き:花の送粉戦略》◎2002.9 *問題意識:蜜と花粉との仲良く交換では済ませられ. 店を選ぶ・・・このイメージを転用していくということと. ない、駆け引きの世界がある。. なる。店づくりをはでにして目立たせる、ちらしをまいて. * 《烏の「飛ぶ」に着目して》◎2002.9/12. 宣伝する・・・これは花が行っている戦略そのものでもあ. * 《烏はなぜ飛ぶのか?:烏の進化から探る。→本稿での. る。このようなゲームを考えると、やがては夜咲く花や、 地面の下に咲く花、また逆に目立たない“花”はどうして. 授業実践. いるのだろうかという疑問もわいてくる。. このような送粉戦略のみならず、種子散布戦略、性:異 性獲得戦略、花/虫/烏戦略(10)などが 考えられる。植物の 立場にたって生き残り戦略なども考えられる。. (2)《花と虫の巧みな駆け引き》 と 《果物/野菜戦略論》 とを例として * 《花と虫の巧みな駆け引き)(10). 生物の他とのかかわりを考え始めると、そのゲームの様. * 《果物/野菜戦略論》. ら見るならば、プレゼントに精力を使わずにただで送粉の. 種子散布でも同様なことが考えられる。種を蒔くためだ けでも、果実の表面に種子を置くのか、中に置くのかとい う戦略の違いもでてくる。例えば植物戟略論では、昨年、. ために虫を使いたいし、他方の虫から見るならば、そんな. 授業プランづくりの過程でニンジンがどうして赤いのか、. わずらわしい事に使われずにもし可能ならば、たった一つ の花から蜜等をたらふくもらいたい。ただ食いさせないた. いろいろと議論になったことがある。動物等に食べられて はこまる植物にとっては貯蔵庫なので、なんらかのプロテ. めに、花の構造は複雑になる。例えば蜜の位置を深くする. クト(例えば毒等)が必要となるのだがニンジンではどう. し、他方の深くなった蜜を楽に取るために、蜜を吸い取る である。きってもきれない抜き差しならない関係にはまり. なのだろうかと、考え始めると、色々な想像(地面に対する 擬態等)が沸いてくることとなる。動物(虫/烏等)を利用 しての種子散布を考えるならば、とても人間からみると迷. こんでいく可能性もあり、下手をすれば共倒れ(共に絶滅). 彩色としか思えないようなスイカはどのような戦略を考え. にもなりかねない。このような事例は枚挙にいとまがない。. 体の大きさが成長に変わることによって戦略が選定される. ているのだろうか。これでも、いろいろな仮説が考えられ る。時期がくると色づく、または匂いが強くなったりして 呼び寄せる。それにしても中が赤い(赤以外もある)のは どうしてだろうか。このように考えてくると、身の回りに 普通にしか思えないことも、視点を変えて例えば植物に立 場に立って見ると、“普通”ではなくなってくるわけである。 うまく視点を変えてもせめぎ合いを見いだせば、ゲームの 題材となるのである。性そのものについては多くのゲーム が考えられる。文字通り『植物のこころ』(塚谷裕一、岩波. と説明すると合理性が理解できる。). 書店)を読むわけである。. 相は多彩になる。送粉(おしべ)の虫などの活用を見ると、 そのゲーム的様相は共進化として現れてくる。一方の花か. ストロー部分は長くなる等々。これはまさに共進化ゲーム. 誤解のないように、生物は物理・化学分野と同様に、生 物そのものが意志をもつ、目的をもって行動するが故にゲー ムになったのではなく、さまざまな作用・行動・形態を取 る中で、淘汰されていく中で浮かび上がっていくものであ る。しかし、この行動を、戦略から考えると合理的に納得 を生む論理を組みあげることができるのである。(この一例 はサイズアドバンテージ理論。雌雄が転換できるとするし、. このような戦略ゲームの授業パターンは、例えば送粉戦 略では、まずは既存の花や、生物の知識は前提とはしない。. −54−.

(6) 「戟略論」から生物進化を考える授業、その可能性と課題 [3]「鳥の飛翔」に着目しての夕張フリースクールでの授. (2)鳥に着目した戦略論から進化を考える授業実践:《鳥. 業実践. の「飛ぶ」に着目して》. ゲーム的であることを考える重要な視点は、相互の働き かけの動的な過程に焦点をあてることで、これは結果とし ては、進化(“戦略”をマイクロ進化とも考えている)も法 則や、そのメカニズムを問うこととつながっている。. (1)「夕張自由が丘学園」での授業実践 授業実践をした「夕張自由が丘学園」はいわゆるフリー. スクールで、様々な理由を抱えた子どもたちが集まってく る。この学園の一つの理念として「指導要領にとらわれな い、学ぶ楽しさをここ夕張という地で追求したい」という ものがある。我々教育内容・方法研究室の希望する学生が 中心となって「夕張隊」と称して、年に5回ほど寄宿制で. ここでは具体的に烏の飛翔をテーマとしての「戟略論」に. 着目し、創りだした教材プランの授業実践から、その可能 性や課題・問題点を述べていきたい。授業実践を行ったの は2002年9月と12月とである。. ある学園に一週間ずつ泊り込みで文字通り寝食を共にして. 「烏」の「戦略」に着目した授業プランを連続した二っ. いる。寝食を共にするからこそ見える・見せる子どもたち の姿や気持ちがある。「なぜつまらない勉強をしなければな らないのか?」といったように、ここの子どもたちはなに. のものとして創り上げた(12)。ぞれぞれ実際に授業実践をし たわけだが、紙面の関係上、その両方を紹介、展開するこ. か無意識のうちに「やることの意味」を問い続けているこ. 践(12月)を重点的に取り上げたい。今回の授業実践から は、自然科学者顔負けの考え・説も飛び出ている。. とはできないが、ここでは記録に関しては、後半の授業実. ととなる。しかし子どもたちは決して考えたり行動するこ とや、なにかに打ち込むことができなかったり、嫌いなわ けでは決していないと思われるが、それをみつけることが. (2−1)前半:烏の「飛ぶため」の戦略を考える…烏の「飛. できなかったり、食わず嫌いだったりするのではないかと 思われる。. ぶため」を探ろう. これは二部構成の前半にあたる授業プランであり、後半. そんな子どもたちに「考えるおもしろさを感じさせたい」. に取り扱うテーマを解き明かしていく上で重要な布石にな. との考えからの授業が、今回紹介するものである。こんな にも身近な“なぜ?’’から拡がる世界、謎が解けたときの. るとともに、身近な「烏の飛翔」の自然構造をもう一度開 い直し、構築していくためのものである。烏が「飛ぶため」 に自らの身体に施している工夫や、そのための制約・努力. おもしろさ、仮説を構築してみるおもしろさや、おもしろ くて気になることを増やし、おもわず調べたくなるような、 そのおもしろさを知るが故にさらに知りたくなる、調べて. を「飛ぶため」の「戦略」として考えていくことを趣旨と. している。「ヒトが飛ぶためにはどうしたらよいか? どこ. みたくなる“問いの連鎖”とでもいうものにこだわって授. を改造すれば飛べるようになるのか?」という問いから始. 業実践をしてきた場所の一つが夕張自由が丘学園というこ. まる。身近な烏をもう一度「飛ぶ」という視点で見つめな おす、当たり前だと思っていたことに疑問を投げかけ、そ. とになる(11)。. 鳥類、「飛ぶため」の相関図 勝胱をなくす. 強力な「高速代謝エンジン」 0. 0 ∈. 〒芸空車;う 空二旬 三二÷≒:ニ≡三二=二. く=>. ⊂:⊃. 烏の「飛ぶため」として以下のものに着目した。. こからもう一度その「構造」を捉えなおすことを目的とし. ている。烏の「飛ぶ」という戦略を、鳥がどのようにして 「飛んで」いるのかを、「戦略(工夫・制約・努力)」とい う視点で解き明かす、というのがこの授業プランである。. (1)部品「戦略」. (卦体のわりにとても長い腕. ②翼をバサバサやるための強大な胸の筋肉. −55−. く:=⊃.

(7) 水 口 拓 真・倉賀野 志 郎. となっている。. ③強力な「高速代謝エンジン」 ④羽毛. (2−2)後半:烏はどうして飛ぶのか? 鳥類の進化(戦略). (2)徹底した「軽さ」の追求「戦略」. を議論する:なぜに着目した授業. ⑤中空の骨. ⑥勝胱をなくす(重たい尿を身体に溜めない). ここ数年は、特に今年、去年は鳥類の進化に関わる重大. ⑦ペニスをなくす. な化石が数多く発見された年であった。様々な羽毛を持つ. ⑧水っぽい糞(固まるまで身体に溜めておくと重たい). 恐竜化石、地球史上初めて四本の脚に羽毛を持つ生物化石 など… 。そしてこの「鳥類の進化・起源」は「烏はなぜ飛. ⑨消化しきれないものを口から頻繁に吐き出す…ペリット ⑩飲み込んだ歯…「砂嚢」という消化器官. んだのか?」という大きな謎と関連していて、いまだそれ. このように鳥は「飛ぶため」に少なくともここにあげた. は解き明かされていない。そのホットなテーマを、いまだ. 工夫や努力を行っており、自らの身体に制約を設けている。. 解き明かされていないテーマを戦略的な視点で「科学する」. ここで一つの大きな“問いJ’にぶちあたることとなる。授. ことを、つまりいまだ明確に解き明かされていないことを. 業において実際に子どもがもった“問い”は「そこまでし. テーマにして、子ども自身が仮説をたててみて「戦略論」. てなんで鳥は飛ばなきゃならないの? そんなに大変だっ. を議論する、ということを行う事を目的している。そのお. たら、飛ばなきゃいいのではないか」というものであった。. もしろさは、科学は科学者のみが取り扱う遠いところにあ. そう、なぜそこまでして烏は「飛ぶ」のか? という“問. るものではなく、こんなにも身近にある、ということも味. い”である。この大きな「謎」の余韻をのこしたまま、前. あわせたいという願望もあるからである。. 半の授業は終了している。これは後半の授業での、「烏はな. 前半の授業の「烏はなぜそこまでして飛ぼうとするのか」. ぜ飛ぶのか?」という謎を徹底的に議論することへの伏線. を踏まえて、後半の授業は次のような構成になっている。. [授業の構成。流れ] ①.前半の授業を振り返る…烏の「飛ぶため」は? ②.ではなぜそこまでして飛ぶのか?−「飛びたかった」のか? (積極説)or「飛ばなきゃだめだった」のか?(消極説)を考える。. ③.考える材料①:「鳥類の先祖と、その周りにいた捕食者たち」を提示. 鳥の先祖. こんなにも大きさが違う. 大型捕食者. ④.先ほどの二つの「進化的立場」コーナー(仮説コーナー①)に分かれてみる。 ⑤.考える材料②‥『烏なのに、「飛んでいない」「飛ぶことをやめてしまった」生物』を提示 (ここではダチョウ、ニワトリ、ペンギンの写真を提示). ⑥.次に鳥の先祖はどこから飛んだのか? を問う −「地上から」なのか、「高いところ」なのか ⑦.仮説コ←ナー②に分かれてみる(下図参照) なぜ?→. 飛びたかった?(積極説). どこから?J. 飛ばなきゃだめだった?(消極説). 地上から? 高いところから? 飛びたかった. 地上から. てく. 飛ばなきゃだめだった. (丑. 高いところから−②. 高いところから−④. −56−.

(8) 「戦略論」から生物進化を考える授業、その可能性と課題 ⑧.考える材料③:「烏の身体になにかヒントはないだろうか?」を提示 (ここではキジ、タンチョウ、タカの写真を提示). ⑨.考える材料④:「羽毛をもっていないのに飛んでいる生物」を提示 (ここではコウモリ、モモンガに加えて翼竜の写真を提示). ㊤?m■ShT出;ゝ1→に1軋か吋劇中亘−d. 翼 竜. ⑩.考える材料⑤:「羽毛をもつ恐竜について」を提示. アーケオブテリクス. シノサウロブテリクス. カウデイブテリクス. シノルニトサウルス. (ここでのイラストは主にhttp://www.dino−Paradise.com/j/news/cgiの図版を授業で利用している。) ⑪.今までの全ての「考える材料」をまとめたものを提示. 今までの「考える材料」を一つにまとめたワークシート ⑫.最終議論・説のまとめ. ⑬.最後に、今可能性の高そうな仮説を提示・検証 このような流れで授業は構成されているが、「考える材料」. して提示した。. (b)考える材料②:『烏なのに、「飛んでいない」「飛ぶこ. について、それを取り上げた意図は下記のようなものである。. (a)考える材料①:「鳥類の先祖と、その周りにいた捕食. とをやめてしまった」生物』について. 者たち」を提示したことについて. ペンギン・ダチョウ・ニワトリなどの烏が「なぜ飛ぶ. 鳥類の祖先はいったいどのような環境下で生活してい. ことをやめたのか?」「なぜ飛んでいないのか?」という. 体の大きさとその周りにいたと思われる大型捕食者の身. ことの原因・理由を考えることによって、そこから逆に 「なぜ飛んだのか?」を探ろうとしたのが、ここでのね らいである。どのような条件・環境が揃うと烏は飛ばな. 体の大きさを実物大で比較したものを「考える材料」と. いようになるのだろうか。そこから逆に飛ぶようになる. たのか。どのような環境が彼らを「飛ぼう」とさせたの か。その一端を、と思い、そのサイズ…つまり祖先の身. −57−.

(9) 水 口 拓 真・倉賀野 志 郎. 理由を探るものである。. れを議論して、子ども自身で「科学する」おもしろさを. (c)考える材料③:「烏の身体になにかヒントはないだろ. と位置づけ、この「羽毛恐竜」を考える材料として盛り 込んでいる。. うか?」について. やはり「鳥」そのものの身体を観察しないことには始ま. らない。そして、「地上」なのか?「高いところ」なのか?. [4]鳥の「飛ぶ」と、その理由に着目しての「戦略論」か. という焦点で議論を進めるためには、烏の身体的特徴を 考える必要がある。地上適応していそうか、高いところ. ら生物進化を考える授業. (樹上)適応していそうなのかを「考える」材料として、. (1)戦略論そのものを議論する授業の記録(一部). 特に「足の構造」を提示した。写真の選択としては、上 を見てもらうとわかるように、地上にいるキジ・タンチョ ウ、そして樹上にいるタカをそれぞれ意図的に提示した。. この授業の目的は「戟略」的な視点で烏の謎、とりわけ 「なぜ飛ぶのか」という構造を考えていくこと、そして子 ども自身が仮説を構想し、「戦略論」そのものを議論してみ. (d)考える材料④:「羽毛をもっていないのに飛んでいる. る、ということである。その仮説の構想のため上記のよう. 生物」について. な「考える材料」の提示が行われている。その効果や、子 どもが構想した仮説、議論の様子などの記録(写真も含め. 純粋に「羽毛」について議論してみることも試みてい. る。羽毛がないのに自由に飛んでいる生物を考えると、. て)が下記のようなものである。 授業記録として以下のようなものを授業全編を通して録っ. では一体「羽毛の存在とは一体なんなのか」という疑問. が生じる。 飛んでから羽毛が生えたのか? 飛ぶ前に. てあるが、紙面の関係上、全てのものを載せることは困難. 羽毛が生えたのか?という問いとなる。. なので、ここでは子ども達が構想した仮説や、議論するに あたっての「進化的立場」などの記録を中心に掲載しておく。. (e)考える材料⑤‥「羽毛をもつ恐竜について」について 鳥類の起源や鳥類の進化を考える上で今一番ホットな. 話題がこの「羽毛恐竜」の存在であろう。鳥類・羽毛と. (注)この授業記録中の人物名称について…実名で表記され. いったようなテーマなので、これを避けることはできな. ているのは子どもとともに授業に参加した大学生、そして. いだろう。まだ答えがでていない最先端の課題だが、そ. A、T、Kなどは夕張自由が丘学園の子どもを示している。 本来、全編を通して記録した授業記録の一部. 子どもの発言など. ヨ受業者の発問など ・ではG(男)の説を聞いてみたいと思います。. G(男):「コウモリつぼくコウモリ、モモンガっぼく飛んでいるう ちに、コウモリっぼくどんどん飛んでって、羽でつかくなっ て、こういうふうに飛んだと」 洋子:「えっと最初は滑空だったと」 G(男):「滑空!」. 洋子:「滑空でどんどん降りていたんだけど、そにあいだ、低くど んどん距離がなっていったって?」. G(男):「高いところから滑空してて、それがどんどん滑空距離伸. びてって、羽強くなってって、羽毛どんどん強くなって…」 森:ト・・羽はえて、飛ぶようになったと」 洋子:「羽毛はなんのため?」. G(男):「羽毛は空気抵抗を守るのと、寒いのと、身体守るの」 洋子:「空気抵抗も全部あると」 G(男)「そそそそそう」 洋子:「身体を守る」 G(男):「うんそそそそそ」. 森:「こいつ寒そう。えらい寒そう」 ※T(男)、A(男)にいくえ、K(女)が加わり、かなり白熱したバ. トルトークを繰り広げている A(男):「飛びたかったって、ありえないよね」 いくえ:「寒かったから…」. 授業及び記録は、この後も続くのだが、要約的に表現してまとめてあるのが、次節である。. −58−.

(10) 「戦略論」から生物進化を考える授業、その可能性と課題. (2)授業記録:「進化的立場」の移り変わり・子どもが構想した進化説. 月・■働膠ク表ゎク. 子ども. 富田さん. ①.「飛びたかった」・「飛ばなきゃだめだった」に分かれる. ②.T(男)君が移動. ー59−. 鈴木さん.

(11) 水 口 拓 真・倉賀野 志 郎. ③.さらにそれぞれ「地上から」と「高いところから」に分かれる. ⑤.最終的な「進化的立場」. ④.M(男)君が移動. −60−.

(12) 「戦略論」から生物進化を考える授業、その可能性と課題. β.■アど〆臓乙/そ ノ題牝家/ ※ここでは論理的に説を構築していた. G(男)君. K(女)ちやん. の説を取り上げたい。. −61−. A(男)君. T(男)君.

(13) 水 口 拓 真・倉賀野 志 郎. :飛びたかった=⇒飛ばなきやだめ. だった。地上から. について∼. り)ニワトリのような飛べない烏が昔にいたら、. 飛べないからかっこうの餌食。そう考えると…「飛ばなきゃだめだった」だ!!. −62−.

(14) 「戟略論」から生物進化を考える授業、その可能性と課題. ・高いところから落ちたら死ぬだろ!死ぬじやん!† ・ジャンプしてそうな脚してる。崖とかから落ちて死に続ければ「走ってい るうちに飛んだ」というのはありえると思う。 ・わざわざ足のカギヅメだけで登っていく(樹などに)やついないと思う。 ふつうに飛べなきゃ登れない!. ・地上から飛んできて、それでなんか掴むものが必要になったからあのツメ ができた。地上に戻ったら結局狙われるから…。. ・空の方が寒いから. 地上から飛んで、飛んでいるから寒いから羽毛がはえて、羽毛がはえたあと、 地上に戻って休んでいたら襲われるから、掴まらなきゃいけないからツメが. 発達して、掴まった。. ー63−.

(15) 水 口 拓 真・倉賀野 志 郎. ・樹にあがって逃をヂて、樹が混んだからどんどん広がるためにピョンピョン跳ねる うちに飛びだした。 ・ピョンピョン跳ねているうちに足強くなっていった。 ・高いところから滑空して、どんどん滑空距離延びていって、羽でっかくなって羽 毛が強くなった。最初は滑空だった! ・羽毛は空気抵抗と、寒いのと身体守るの。. 逃げてるうちに樹に登って、そこでエサを得るために樹の間をピョンピョン跳ねて たら、そこでも強いヤツがでてきて、さらに逃げやすいように樹と樹の間を滑空し ているうちに飛びやすいように羽がはえた。つまり、モモンガっぼく飛んでるうち にコウモリっぼくなっていってから烏になった!. ※先述したようにここでは「飛びたかった・地上から」以外のものを取り上をヂた。なお、「飛びたかった。 地上から」に関しては、授業記録を参照にしてほしい. ー64−.

(16) 「戦略論」から生物進化を考える授業、その可能性と課題 (3)授業実践を終えて…今後の課題・問題点. づけするの?. ・恐竜とかから逃げるためでしょ。理由は「襲われている」 しかない。 ・移動する必要があった。やっぱり逃げたかった…。. (3−1)選択肢として「目的」的なものをだしたことについて この授業においては、「飛びたかった」ためと、「飛ばな きやだめだった」ためという選択肢を提示したわけだが、 ここにはいくつかの課題も存在している。 授業実践後の反省会における夕張自由が丘学園代表:鈴. この問題はある意味「進化は目的的か?」という一連の. 的な考え方一飛びたかった−をだしたのはなぜか?」と. 論争を思い出させる(13)。ただ、「戦略」に着目するというこ とは先述したように、「あたかも、生物(植物/動物)が、. いう問題がある。そしてこの選択肢が抱える問題を子ども. 意志に基づいて戦略を選択しているかのように現れる」の. 木秀一先生(北大教育学部名誉教授)の指摘では「目的論. であり、その擬人的視点によって、「なぜ?」という理由を. 達も感じることになるのである。 積極的に「戦略」を用いていくのではなく、生きるため. 考えたほうが生物進化の自然構造を非常に明確に捉えるこ. とができるからである。ここでは、あたかも「目的」的に その戦略が現れる、ということである。だがここで重要な ことは先述したように、その背景にはある種の「消極的な 理由」がある、ということである。. の駆け引きが(ゲーム性をもつことになる)「戟略」となっ て現れてくるのであり、「やむを得ず」進化するということ である。「うまくいっている」ものをわざわざ変える必要性 はない。「変わりたくない」のである。これが「戦略」の根 底にあるのだが、この「積極」的な、「目的」的な選択肢を. 『利己的な遺伝子(リチャード・ドーキンス)』が提起し. 出してしまったことによって、一見すると自分の意図に反. ているように(14)、この「進化は目的的か?」という議論は. することになるが、この選択肢を設けた背景には次のよう. 生物進化を解き明かす上で別途必要なことではあるが、こ の授業実践に関しては、こちらが意図する「戦略」的な視 点(ある種の目的的選択)と、その「目的」的なものの背. な考えがあったからである。 「かわりたくない」「∼せねばならない」という切実な「消 極的」な動機で「積極的」に「戟略」をもちいる、という. 景に存在する「∼せねばならなかった」という「消極的な. ニュアンスならば、決して先述したような「戦略論」の根. 動機」だけを切り取ったものが子どもの中で混同してしまっ. 底には反していない。「積極的」に戦略をもちいた背景には. ている。つまり、子どもたちにとって、どちらの立場にも その根底には「∼せねばならなかった」状況があるのだが、 それを踏まえて「だから飛びたい」のか、「だから飛ばなけ ればならなった」のか、というニュアンスの議論になって しまったのである。そして結果的に子どもがその選択肢の. 「かわりたくない」「∼せねばならない」という「消極的」 な動機が存在していれば根底には反していないのではない か、ということである。 しかしそこの微妙なニュアンスは当然伝わらず、結果的 にその「矛盾性」を授業中に子どもが感じてしまうことと. 矛盾を感じてしまったことは授業におけるK(女)の発言−. なった。一方でこの選択肢は「議論」の対象としてはそこ. 「そしたらさ−、理由を考えたらみんなあっちに(飛ばな. そこの効力をもっていた(議論内容の質は抜きにして)の. きやだめだったコーナー)動かなきやだめなんでしょ?」一. もまた事実ではあるが、子どもが構想した仮説記録をみて. に代表されている。 このようなことから、この選択肢の「問い」は大きな反 省点の一つだろう。. もらえばわかるように、この「積極的(目的的)」か、「消 極的」か、という議論には考え自体に幅やバリエーション がない(以下参照)。後半の「地上から」か、「高いところ」 からか、という議論や「羽毛の謎」の議論に比べるとより. (3−2)構成に向けての課題. いっそう明確である(後半の議論では実に多様な考え・仮. 改良点としては、次のような点が考えられる。 まず「飛ぶことによってどうなるか、ということを議論・. 説を構築していた)。. 確認」するということである。「飛ぶ」ことには当然メリッ トとデメリットがある。烏の「飛ぶため」は制約、制限と. ・飛びたかったから飛んだ。飛びたい烏にどうやって理由. −65−.

(17) 水 口 拓 真・倉賀野 志 郎. いう意味ではデメリットと捉えることができる。では反対. ては、今日でも飛翔の地上起源説、樹上起源説は自然科学. に「メリット」はなんだろうか?. 者の間でも熱く議論されていて、未だ解き明かされていな. 「飛ぶ」ということによってどうなるのだろうか? と. い。解き明かされていないが故に、「授業」というステージ. いうことを簡単にでも議論・確認しておけば、それが反対. でも似たような議論を繰り広げることができた、ともいえ. に「なぜそこまでがんばってまで飛ぶのか?」を、そして. る。授業後も「烏の図鑑」を眺めていた子どもや、さらに. 戦略的な視点で「飛ぶ」を考えるヒントになったのではな. 自分の説をぶつけてきた子ども出てきており、謎を解き明. いだろうかと、考えられる。. かすのに科学者だろうが子どもだろうが専売特許はなく、. その中で、考える材料(彰:「鳥類の先祖と、その周りにい た捕食者たち」や考える材料②:『烏なのに、「飛んでいな. 科学は遠いところにあるものではなく、身近にあるという ことを実感させてくれている。. い」「飛ぶことをやめてしまった」生物』を提示するべきだっ. 法則や公式を教えることだけではない構想してみるおも. たこともあげられる。そしてその後にはじめて「どこから. しろさとしての「擬似的科学者活動」を子ども達に実感さ. 飛んだのか?」ということで「地上から」か、「高いところ. せることを一つ一つ積み上げていくことが、今、求められ. から」かという個々の進化的立場に分かれ、議論を繰り広. ていることであろう(15). げるほうよかったことも指摘しうるだろう。 (5)課題と関連させて、さらに拡大しての考えられる授業. (4)子ども達が仮説を構想し、「生物進化」そのものを議. プラン. 紙面の関係上、細かい反省点・問題点は省略してあるが、. 論する可能性. 今回の授業の論議では、ダーウィンに代表される「自然. それらを含めての検討は今後の戦略的視点による授業プラ. 選択(自然淘汰)」や「突然変異」などの「進化論」を知ら. ン創りにおいて、一つの大きな指針になる、と感じている。. なくても進化を議論することができるし、逆にそれらの「法 則」を知らないが故にここまでできた、という可能性もあ. 業プランとしては以下のようなものが考えられる。. この授業実践から拡がる課題や、関連して考えられる授. るだろう。そういった意味で進化の「法則」を教える場面. ・新天地を求めた生物∼陸に上がった生物…なぜ生物は「上. においては、その「進化」について個々で仮説を構想して. 陸」したのか‥・その保湿戦略(「上陸するため」を探る). みることの重要性を再認識した。今回は、この「最先端の. ・飛ぶ爬虫類…翼竜の「飛ぶため」の戦略を探る(巨大化 の謎・なぜ飛ぶのか?). 科学」をぶつけてみたこととなるが、これについて子ども. 達が構想した説は自然科学者のそれと比較しても、発想や 着想に関してはなんら遜色はなかったと言えるだろう。子 ども達からは次のような意見が出されている。. ・飛ぶ晴乳類…コウモリの「飛ぶため」の戦略を探る(な ぜ飛ぶのか?). ・飛ぶことを「やめた」烏の謎を探る. ・あのカギヅメついた脚があるから樹に登れる。地上で生. 注. 活していたらああいうツメにならない。樹の上で生活し. (1)「子どもが知的関心を揺さぶられて“小さな科学者”. ているからああいうツメになる。. として科学を“創造”するとともに、科学を文化とし. ・地上から飛んで、飛んでいるから寒いから羽毛がはえて、. て学ぶ理科によってこそ、“理科離れ”の阻止が期待で. 羽毛が生えたあと、地上に戻って休んでいたら襲われる から、掴まらなきゃいけないからツメが発達して、掴. きるのではないか。」(森一夫、『理科はなぜ離れられて. まった。. と再生』、岩波書案、2001年所収. しまったのか』)。左巻健男編、『理科・数学教育の危機. (2)「進化は、私たちに生き物に対して抱く“なぜ?”と. ・逃げているうちに樹に登って、そこでエサを得るために. 樹の間をピョンピョン跳ねてたら、そこでも強いヤツが でてきて、さらに逃げやすいように樹と樹の間を滑空し ているうちに飛びやすいように羽がはえた。つまり、モ. いう疑問に答えてくれるのです。高校までの生物の教 科書に決定的に欠けているのは、この“なぜ?”とい う疑問ではないでしょうか」、長谷川眞理子、『生き物. をめぐる4つの「なぜ」』、集英社出版、2002年、p4. モンガっぼく飛んでいるうちにコウモリっぼくなっていっ. てから烏になった!. (3)倉賀野志郎、「理科における思考力とは」、『小学校理科. 戦略的な視点に着目しての授業展開では、先述したよう. (4)個体群間の相互作用や、進化とゲームに関係する本は. の学習ゲーム集』所収、学事出版、2001年 な選択肢(問い)の改良等の検討課題があるが今ある事実. 多い。例えばE.R.ピアンカ、『進化生態学』、蒼樹書房、. 結果などをもとに、授業に組み込むことによって子どもな りに論理立てて、仮説を十分構想することができる、授業. 1980年、J./メイナード・スミス、『進化とゲーム理論』、 産業図書、1985年、最近では佐伯膵、『進化ゲームとそ. で「進化」を議論しあう、という可能性がありうることが. の展開』、共立出版、2002年等がある。また、『植物の. 示されている。「鳥類の進化・飛翔の謎」ということについ. こころ』(塚谷裕一、岩波書店、2001年)として表現さ. −66−.

(18) 「戦略論」から生物進化を考える授業、その可能性と課題 れてあるものもある。 (5)井上民二・加藤真、『花に引き寄せられる動物・花と送 粉者の共進化』、平凡社、1993年,鷺谷いづみ・大串隆 之、『動物と植物の利用しあう関係』、平凡社、1993年 (6)マット・リドレー、『赤の女王』、翔泳選書、1995年 (7)酒井聴樹・高田壮則・近雅博、『生き物の進化ゲーム』、 共立出版、1999年. (8)川上紳一、『生命と地球の共進化』、NHKブックス、2000 年・丸山茂徳・磯崎行雄、『生命と地球の歴史』、岩波 新書、1998年。また、雑誌『科学』に掲載されたこの 関係の論文が『プルームテクトニクスと全地球史解読. 計画』(熊澤峰夫編、岩波書店、2002年)としまとめら れている。. (9)「科学的な認識は、社会的な認識である。」板倉聖宣、. 『仮説実験授業のABC』、1977年、p20. (10)上田恵介、『花・烏・虫のしがらみ進化論』、築地書館、 1995年 (11)教育内容・方法研究室での夕張フリースクールでの授. 業実習を含めての4年間のカリキュラム構造について. は、倉賀野志郎、『子ども達のとの触れ合い学習を重視 した、一年次前期の学生教育について』(北海道教育大. 学教育実践総合センター紀要、2003年4月号)に、ま た、夕張での活動の一端は、鈴木秀一、倉賀野志郎+ 釧路教育大の学生たち、『“卵”教師たちの挑戦』(高文 堂出版社、2002年)にまとめてある。 (12)授業プラン作成に当たり、多くの文献に基いたが、主 な参考文献は下記のものである. ・岡本 新、『ニワトリの動物学』、東京大学出版、2001年 ・山岸 哲、『オシドリは浮気をしないのか ∼鳥類学. への招待∼』、中公新書、2002年 ・ジョンボネッ. ト・ウェクソウ、『進化の歴史・生命誕. 生35億年シリーズ8:空を飛んだ生物』、草土文化社、 1993年. (13)目的論と結びつけた進化論を扱ったものも少なくない。 例えばローベルト・シュペーマン、ラインハルト・レー. ブ、『進化論の基盤を問う:目的論の歴史と復権』(東 海大学出版会、1987年)や牧野尚彦、『ダーウィンと ヒラメの眼:進化論をみなおす』(青土社、2002年)が ある。. (14)リチャード・ドーキンス、『利己的な遺伝子』、紀伊国 屋書店、1980年 (15)「授業に必要なのは現象に裏付けられた論理構造のお. もしろさ」ではないかという指摘もなされている。(金 子隆、『楽しい実験は理科離れを加速する?』)。左巻健 男編、『理科・数学教育の危機と再生』、岩波書案、2001 年所収. ー67−.

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参照

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