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重度・重複障害児の個別指導の在り方 -「生活」、「発達段階」、「コミュニケーション」に重点をおいた指導を通して-

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(1)Title. 重度・重複障害児の個別指導の在り方 −「生活」、「発達段階」、「 コミュニケーション」に重点をおいた指導を通して−. Author(s). 佐藤, 麻里子; 青山, 真二. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 60(2): 71-82. Issue Date. 2010-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/1104. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第60巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.60,No.2. 平成22年2 月 February,2010. 重度・重複障害児の個別指導の在り方 −「生活」,「発達段階」,「コミュニケーション」に重点をおいた指導を通して−. 佐藤麻里子・青山 真二*. 北海道教育大学札幌枚大学院学枚教育専攻 青山研究室 *北海道教育大学札幌枚特別支援専攻. ConsiderationofIndividualTeachingforSeverelyHandicappedChildren −FocuslngOntheTeachingPointsofLife,StagesofDevelopmentandCommunication−. SATOMarikoandAOYAMAShinji* GraduateSchoolofSchooIEducation,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. *DepartmentofSpecialEducation,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 概 要 本稿は,肢体不自由を主とする特別支援学校の訪問学級に在籍する重度・重複障害児を対象に,言葉の指 導を行った事例である。その際,指導目標と指導内容を「生活」,「発達段階」,「コミュニケーション」を重. 視して設定し,指導を行った。その結果,対象児の発語が増加した。その内訳においては,特に指導時間中 に学習した生活に関わる道具などの名詞や動詞の発語数の増加がみられた。. Ⅰ はじめに 1.問題の所在. 1−1 重度・重複障害児教育の現状と課題. 1979年の養護学校義務制実施以降,重度・重複障害児を取り巻く環境は改善されてきたが,重度・重複障 害児への支援方法の開発や支援の在り方については手探りが続いている(坂口,2008)。1970年以降,重度・ 重複障害児に関する研究がなされ,理論と実践が積み上げられているが,研究数は少なく(徳永,2003), 指導に関する課題は,実態把握における客観性を高めることの困難性(普島,2003)や,「曖昧な評価」(川 間ら,2001),「過剰な読み取り(過剰解釈)や租雑な読み取りに陥る危険性」(松田,2001)など課題は多い。. 同様に,指導目標や指導内容に関する課題も多くあげられる。. 71.

(3) 佐藤麻里子・青山 真二. 1−2 指導目標と指導内容の設定 指導目標や指導内容の設定は,学習指導要領に明記され,その指導内容は「児童生徒に経験することが, 望まれる内容として非常に概括的に示され」,詳細は「各学校で学校,地域の実態,児童生徒の障害の状態 に応じて,具体的で詳細な指導内容を設定」するもの(阿部,2006)である。つまり,それらの設定は,個々 の生徒の実態に応じて行われ,実際的には各担任に任せられることになる。よって,指導が「担当者の経験 や力量」や,「担当者の見方」に左右されること(下山,2008)があり,指導の在り方が担当教師によって 大きく違いが見られることもある。. 重度・重複障害児の指導目標は「中学部だから」,「集団学習で00を計画しているから」といった生活年 齢や学習内容を拠り処にした設定は,目標にその子の実態が反映されにくいことや,指導内容が「いわば『な. んでもあり』の状況に陥りやすい」(川上,2008)ことが課題となっている。これらの設定について根拠を 示すことが必要とされている。. 重度・重複障害児の指導においては,「他者からの働きかけを理解して適切に応答する」力をつけるとい う指導目標(二宮,2001)や「QOLの高い指導内容」(箆,2004)の重要性があげられている。また,発達 段階に応じて指導内容表が作成される試み(伊藤,1984)がされるように,発達段階を重視した指導も多い。 このように,重度・重複障害児の指導は,「生活」や「発達段階」の視点が重要とされている。また,重度・. 重複障害児における「コミュニケーションに関する取り組みの重要性は広く認識」(渡追,2008)され,そ の指導が必要とされているが,コミュニケーションに関する研究は少なく,聴覚・視覚・運動感覚刺激を与 える視点からの研究が主となっている(徳永,2003)。 以上の通り,重度・重複障害児の指導目標と指導内容は「生活」や「発達段階」,「コミュニケーション」. が重要とされているが,その実践と考察は十分とは言えない。よって,重度・重複障害児の指導目標と指導 内容の在り方について,それらの理論と実践を結びつけた研究が必要であると考えられる。. 2.研究の目的 本研究においては,「生活」,「コミュニケーション」,「発達段階」の視点を重視した指導目標と指導内容. の重要性について,重度・重複障害児A児の指導を通して,検討することを目的とする。. Ⅱ 方 法. 1.「発達段階」「生活」「コミュニケーション」 重度・重複障害児の指導目標,指導内容の設定において,「発達段階」「生活」「コミュニケーション」の 視点の重要性について考察するため,3つの視点を整理する。. 1−1 「生活」. 学習指導要領(文部科学省,2009)において,「障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克 服する」(自立活動の指導)ことが目標とされ,川間(2009)は,「生活上の困難についての目標は家庭との 連携が今まで以上に必要」としている。また,永石(2008)は,重複聴覚障害児について,「主体的に生活 を構築することがきわめて困難な前提条件がある」と述べているように,重度・重複障害児は,生活するこ とそのものに困難性や課題を伴いやすい(三木,2004)と考えられる。よって,指導は「子どもの生活を支 える取り組み」,「ライフ・サイクルの視点を視野にいれた」取り組み(平井,1996)が重要であると考えら れる。. 72.

(4) 重度・重複障害児の個別指導の在り方. 1−2 「発達段階」. 学習指導要領(文部科学省,2009)の総則において,指導は,「児童又は生徒の発達の段階を考慮」する ことが明記されている通り,発達段階を踏まえて実態把握を行い,指導目標,指導内容を設定することは必 要不可欠である。また,重度・重複障害児は,その障害特性から自発的な行動が生まれにくく,主体的な取 り組みが必要であるという点から「できるようになりたい,わかるようになりたい」という子供のねがい,. つまり発達要求に対して教育が介在することの重要性(白石,1999)が考えられる。. 1−3 「コミュニケーション」 コミュニケーション上の様々な困難は,子どもたちを不確定な状況に置き,安心して生活するための心理 的基盤を損なわれやすい(永石,2008)ため,コミュニケーションは,「家庭や地域社会で社会的に意味の ある関係を築いていくために最も重要なスキル」(キヤスリーン・ダイヤら,2004)と考えられる。また,「現. 在,および将来のQOLという観点からみてもコミュニケーション指導は不可欠」(長崎・小野,2003)で ある。. さらに,重度・重複障害児の指導について川住(1990)は,「コミュニケーション関係の形成は,最も重 要な課題のひとつ」と述べている。それは,「意思伝達手段の獲得」という目的だけでなく,「子どもたちの. 諸活動がこの関係を支えに発展」していくと位置付けられるためであり,重度・重複障害児の指導では,コ ミュニケーションが重要な観点の一つであると考えられる。. 以上より,学校数育という限られた指導時間,回数の中で,学習に対して繰り返しの必要性のある重度・ 重複障害児の指導を行う場合に,確実な力を身に付けるため,「生活」,「発達段階」,「コミュニケーション」 の視点が重要であると考えられる。. 2.研究の対象. 研究の対象は,肢体不自由を主とする特別支援学校の訪問学級に在籍する小学部2年生(2008年の指導時) の女子である。筆者(以下,S)は,2008年4月より初めて訪問教育の担当となり1年間,事例対象児(以 下,A児)の担任として指導にあたった。. 2−1 対象生徒の実態 (1)身体の状況. A児は,筋肉の疾患により人工呼吸器による呼吸管理を必要としている。食事は鼻腔経管による栄養摂取 など,日常生活全般において医療介護が必要である。また,筋力の低下がみられるが,手を触ると指先を動 かす,「目はどこ?」と聞くと黒眼を動かすなど,意図的に動かすことのできる身体部位がある。手の指先 や目の他,口,鼻,足の指先,腹についても意図的に動かすことができる。 (2)生活の様子. A児は,日常生活のほとんどをベッド上で過ごしている。母親と一緒に過ごすことが多く,母親との関わ りを楽しんでいる。外出は,月1回の定期的な通院の他,家族での外出が年に数回ある。これまで,体調面 や移動面により,スクーリング(学校に登校して授業に参加する)は年1回程度の実施であった。 1週間の生活は週3回の指導の他,訪問着護や訪問リハビリテーション等があり,A児は,各時間におい て教師や看護師,作業療法士,理学療法士等とのかかわりがある。. 73.

(5) 佐藤麻里子・青山 真二 (3)学 習. 学習場面の行動観察より把握した実態について述べる。A児は,指導開始前に筆者が教材碇示の準備をし ていると,そちらへ視線を向けるなど教材・教具に対して興味関心が強かった。 呼吸管理のための気管切開をしているが,発語が可能であり,慣れた母親は,ほぼすべての言葉を聞き取 ることができた。4月当初,Sは,母親に復唱してもらいながらA児の言葉を把握していった。身近な人の 名前や動物の名前,「1,2,3(算数)」など授業で使う言葉,「大丈夫」「お片付け」「やった−」などの 言葉を記録した。「またね∼」という言葉は,さようならのあいさつ,物をしまう,活動を終わりにするな ど様々な意味で使われ,ひとつの言葉を色々な意味で使っていた。また,欲しい物がある場合には,物の名 前と同時にその目的の物に視線を向けるなど,色々な体の機能を使って伝えていた。 また,身体的な面では難しいことが多いが,自らやりたい気持ちがとても強い,他者から何か言われるこ とに対して,「あー」と不快な声を出して拒否をするなどの様子が見られ,自我意識の芽生え(『肢体不自由 児の発達と指導』,1997)と考えられる。 認知・理解については,物の名称や形状,身近な人の名前や動物の名前(「うさぎ」,「みゃ−(ねこ)」), 色の名前を理解して,発語することができた。また,食べ物や果物を見ると「アムアムアム」と言いながら, 口を動かすことができた。. 2−2 諸検査の結果 重度・重複障害児では,上述の通り,実態における客観的評価の難しさ(普島,2003)があげられるが, 可能な限り客観的で正確な実態把握を行うために,複数の発達検査を行った。MEPA−R(1),発達検査. Version5(特別支援学校の教員作成)(2),NCプログラム(3),乳幼児のコミュニケーション発達アセスメン ト基本100語チェックリスト(4),以上4つの検査より,本児の実態について評価を行った(′1、ablel)。諸検 査の結果,言語は2歳から3歳程度,コミュニケーションについては,1歳から1歳半程度の発達段階と考 えられた。. 【Tablel】諸検査の結果(2008年4月∼5月) 検査名 MEPAR. 認知,言語,コミュニケーション. 言語(受容・表出):2歳程度. 身体に関すること 運動・感覚 0か月. 社会性(対人関係):1歳半程度 発達検査 Version5. 認知(記憶・再現,文字群解・表現)2歳半 身体の動き:0か月 コミュニケーション:1歳半 手の働き:4か月後半 対人関係(集団参加):1歳半. NCプログラム. 言語(理解):3歳帯度(表出):2歳半 文字:(読字):3歳(書字)0歳. 運動:0歳. 記銘:(視覚)1歳・(聴覚)3歳 視覚操作:3歳,数:3歳 乳幼児のコミュニ. 「基本の100語」中,39語を聞き取った。. ケーション. 2−3 本人や保護者の願い A児から直接,願いを聞き取ることは,難しかったが,学習の様子を見ながら,保護者と話し合いを行っ た。A児は,言葉の学習やSと一緒に絵を描くなどの,さまざまな学習に対して,自分の理解できたことや,. 74.

(6) 重度・重複障害児の個別指導の在り方. 積極的に発語していた。その様子よりA児は,さまざまな教材を用い,見る,Sと一緒に動かすなどいろい ろなバリエーションのある学習を楽しむことを願っているのではないかと考えられた。 また,保護者は,「会話が上手になって欲しい,会話を楽しんでほしい」,「生活にかかわる言葉,いろい. ろな言葉を学習してほしい」という願いや,「将来的に,自分で絵本を読めるようになってほしい」などの 願いも持っていた。. 3.指導場面. 3−1 ベースラインの測定 2008年4月中の指導,1ケ月間にビデオによる記録を行い,以下の通り言葉を聞き取った。名詞69語,あ いさつにかかわる言葉が6語,動詞5語,そして形容詞・その他が5語であった(Table2,3)。. 【Table2】1カ月間の発語数(2008年4月) 名. 詞 キ. 人. 色 形. 白 道括 且. ク 夕. 習. 体. そ. 食. 動 物 学生 フ. の. 曜 ‖. 然. 物. 他. 2. 4. あ しヽ さ. 動 詞. 形. そ. 容. の. 詞. 他. l. 13. 0. 13. 19. 5. 10. 3. 6. 5. 4. 【Table3】発語の内訳(抜粋)(2008年4月) 【名 詞】人…お母さんなど家族,教師,理学療法士,作業療法士,看護師など 色・形…赤,青,三角,四角. 動物・自然…うさぎ,きつね,くま,魚,お鼻. 生活・学習道具…時計,パソコン,ガーゼ. キャラクター…ミニーちゃん,アンパンマン,プーさん. 数,曜日…1,2,3. 食べ物…パン. その他…あいうえお,かきくけこ. 【あいさつ】いただきます,バイバイ 【動 詞】お片づけ(する),あむあむ(する) 【形容詞】同じ,かわいいね 【その他】元気ですか. 3−2 問題の分析 ベースラインの測定結果について,他児との比較を行った(Table4)。他児は,長崎・小野里(2003) が生後直後から2歳まで観察記録を行った障害のない女児である。17か月の女児と比べると,その語彙数合 計は,2倍以上であり,23か月の女児と比べると,3分の1であった。また,A児の品詞をみると全体の中 で名詞の割合は多いが,動詞の割合は低く,それは17か月の女児と比べて同様に低かった。 【Table4】他児との比較 名 詞. 動 詞. 形容詞・その他. 事例対象児. 69個(81%). 5個(6%). 11個(13%). 85個. 他児(17か月). 19個(48%). 18個(46%). 1個(5%). 38個. 他児(23か月). 126個(52%). 64個(26%). 52個(21%). 語彙数合計. 242個. 75.

(7) 佐藤麻里子・青山 真二. 動詞では,「ちょうだい」など発達段階において,比較的早い時期に獲得される言葉は記録されなかった。. また,名詞については,身近な人名やキャラクタ一名が多かった。すべての品詞において,生活に関係する ような言葉は少なかった。. 3−3 指導目標 以上の分析を基に,「生活」「コミュニケーション」「発達段階」という視点を重視し,上述した本人・保. 護者の願いと照らし合わせながら,指導目標を選定した(Table5)。 (1)「生活」. A児の生活の中心は家庭であり,身体的にも制限があることから,生活経験を増やすことが必要である。 家庭におけるA児の主体的な生活をしていくため,A児自身が生活に関わることについて理解できる指導目 標を設定した。また,A児の言葉の学習を通して,家族,教師,看護師などA児との関わりを増やし,深め ることができると考え,生活にかかわる言葉の学習が必要であると考えた。以上の生活の視点を重視し,指 導目標を設定することにより,A児の生活の質を高めることができると考えた。 (2)「発達段階」. A児の発達段階は,上述の通り,言語は,2歳から3歳程度,コミュニケーションは,1歳から1歳半程 度と考えられた。1歳半から2歳児において学習する言葉と照らし合わせながら,A児にとって必要な言葉 を選択し,それを目標とした。 (3)「コミュニケーション」. 意思表示,要求を表す言葉を指導目標とした。発達段階を考慮し,生活の中で必要なコミュニケーション に関する事項を指導目標とした。A児は,自分の気持ちを言葉の抑揚によって伝えることもあり,それが正 しく相手に伝わらないときには,泣いてしまうこともあった。A児にとって,伝わりやすく,またコミュニ ケーションの受け手にとっても,より分かりやすい意思表示,要求を表す言葉を学習する必要性があると考 え,指導目標を設定した。. 【Table5】A児の指導目標 1.生活にかかわる身近な言葉の学習を通して,自ら使うことのできる言葉を増やす 2.自分の気持ちや要求,「はい」「いいえ」の意思表示を明確に伝える. 3−4 指導内容 (1)指導内容の設定. 指導内容は,下記の3つの視点を中心にして,乳幼児の「基本の語彙」(長崎・小野,2003)を参考にし ながら,生活の中で実際に使う場面を考えて保護者と検討,確認を行い,設定した。 ① 「生活」. 第1に,現在,将来の生活において必要な言葉を指導内容とした。例えば,「取って」「00して」など自 分の要求を伝え,周囲を動かすことのできる言葉や「暑い」,「寒い」,「痛い」,体の部位など生活上,体調 管理のために必要な言葉である。. 第2に,生活において,使用額度の高い言葉を指導内容とした。例えば,母親がよく使用する言葉,日常 生活の場面(起床,身支度,食事,入浴など)において使う言葉である。. 76.

(8) 重度・重複障害児の個別指導の在り方. ② 「発達段階」. 発達段階を考慮し,指導内容に取り入れた。具体的には,A児の好きな活動であるごっこ遊びを指導内容 として取り入れた。ごっこ遊びは,幼児の遊びの一つで,生後12カ月噴から見られることが多く(随田,1993),. 簡単な模倣的なものから複雑なごっこ遊びへと移行していく。また,簡単な物のやりとりや役割を設定した ごっこ遊びの展開は,ことばを解したコミュニケーションの力を促進する(是枝,2003)ものであり,指導 内容として有効と考えた。 ③ 「コミュニケーション」 意思表示,要求を表す言葉を指導内容とした。「はい」「いいえ」などの意思表示,「取って」,「00して」. など,自分の要求を伝え,周囲を動かす言葉の学習により,言葉の意味理解が深まると考えた。指導は,母 親に協力してもらい,母親に対し,学習で使う道具をA児の近くに持ってきて場面設定をした。そのことに より,指導内容と実際の生活場面でのつながりを強めることができると考えた。 (2)指導プログラム. 生活場面を設定し,日常生活で使う動詞と,生活で使う道具の名前を組み合わせて指導した。指導プログ ラム①(Table6)は,入浴場面を設定し,入浴時に使う道具の名前とそれらを使用するときの動作を組み 合わせて指導した。指導プログラム②(Table7),指導プログラム③(Table8)の各プログラムにおいて 学習する言葉の抜粋については,以下の通りである。. 【Table6】指導プログラム①「入浴」 体 名 詞. 頭,手,足,おなか,背中. 生活の道具 お風呂,タオル,スポンジ,せっけん,シャンプー. 動 詞 動. 作 取って,アワアワ(泡立てる),ゴシゴシ(洗う),ジャー(流す) 【Table7】指導プログラム②「身支度,着替え」 体. 名 詞. 頭,千,足,おなか,背中,右手,左手,口. 生活の道具 コップ,歯ブラシ,ズボン,シャツ,靴下,帽子,手袋,ジャンパー,スカート. 動 詞 動. 作 ぶくぶくぺ−(うがい),シヤカシヤカ(歯を磨く) 【Table8】指導プログラム③「食べる,作る」. 名 詞. 果物(りんご・いちご・バナナ・スイカ・メロン・ぶどう・みかん),野菜(にんじ ん・じゃがいも・玉ネギ・なすび・きゅうり・トマト・ピーマン). 食 べ 物. 生活の道具 お皿,スプーン,フォーク,まな板,包丁 動 詞 動. 作 食べる,作る,まぜまぜ(混ぜる),落ちる(ポタポタ). 3−5 指導方法 (1)教材・教具. 教材・教具は,可能な限り実物を使用した。指導プログラム①での教材は,浴室やシャワーなどお風呂に 関連するものが描かれている布絵本,ぬいぐるみ,タオル,スポンジ,せっけん,シャンプーを使用した。 それらの教材・教具は,ごっこ遊びの中で活用し,イメージと実際の経験が結びつくようにした。指導プロ グラムにおいても同様であった。. 77.

(9) 佐藤麻里子・青山 真二. 【Table9】指導プログラム①入浴(抜粋) ① 教材提示の際,お風呂で使う道具の名前と具体物のマッチング (例)S「これは?」A児「スポンジ」 ② 場面ごとに使う道具を選択 (例)「お母さん,スポンジ取って」 ③ 母親がA児に手渡し,Sと一緒にぬいぐるみの体を洗う,拭く部位を決め,言葉と合わせ て,動かす。 (例)「おてて,ゴシゴシゴシ」. 【TablelO】ごっこ遊びと並行して行った実際の活動(抜粋) ① 入浴. せっけんを使って,泡立て,手を洗う,ぬいぐるみを洗う. ② 身支度,着替え A児の前で教師がジャンパーなど身支度を毎時間行う ③ 作る,食べる. 果物を使ったチョコレートフォンデュ,カレーライス作り等. (2)指導の流れ. 以上の道具をSと一緒に触れ,操作することによって,言葉と物を対応させていくように指導した。それ らの道具の操作の際は,母親に対して「00取って」という場面を設定し,自分の欲しいものをより具体的 に伝えることができるよう指導した(Table9)。また,実生活での経験とそのイメージを確実に結び付け るため,ごっこ遊びの後,可能な範囲で実際場面を作り,指導を行った(TablelO)。 (3)保護者との連携. 指導時間は,母親が一緒に活動をしている。そのため,本児からの発語を待つこと,家庭生活でもできる だけ指導場面と同じ言葉を使うようにしてもらうことなど,指導に対する理解と協力を得た。. 4.評価方法・指導期間. 4−1 評価方法 指導場面をVTRカメラで録画し,指導後にVTR録画をもとに対象生徒の言葉の発生頻度を記録した。 その言葉を復唱によるものか,自発的なものかに分類し,その習得状況を評価した。また,一つの指導プロ グラムにおける指導ステップの通過基準としては,発語数が復唱語数の回数よりも増加したなら,次の指導 プログラムに移行することとした。. 4−2 指導期間 指導期間は,2008年4月10日∼2009年3月23日までで,原則として週3回,本児の家庭を訪問し,13時30 分∼15時30分までその指導にあたった。計110回を予定していたが,全97回の実施となった。回数の中には, グループ訪問(訪問教育担当者を中心に,数名のグループとなって各家庭を訪問する)や集団学習,各行事 等も含まれている。. 5.結果と考察. 5−1 結 果 2008年4月には記録されず,2009年3月の1カ月間に新しく発語された数を記録した(Tablell,Fig.12)。 言葉は,写真や絵を理解してその名称が言えた時に発語として記録した。この写真や絵の理解は,日常生活. 78.

(10) 重度・重複障害児の個別指導の在り方. の文脈を離れ,より抽象的な「物」を理解していることの表れであり,知識として獲得されたことを意味す る(長崎・小野2003)という考えに基づいた。発語全体では,134語となり,49語増加している。特に,名 詞と動詞の増加が見られた。品詞別にみると,その内訳は以下の通りである。 (1)名 詞. 名詞は,2009年3月に新しく98語を記録した。その内訳では,「キャラクター」の発語は増加しなかったが, その他の発語数は増えている。名詞については,「体」,「生活・学習道具」,「食べ物」の発語数が多かった。 (2)あいさつ. あいさつは,2008年4月には「バイバイ」,「いただきます」などの言葉が記録された。2009年3月には, 指導中に使っていた「始めます」,「終わります」などの言葉を記録している。 (3)動 詞. 動詞は,2008年4月では5語であり,上述の通り他児との比較においても発語数は,少なかった。2009年 3月に新しい言葉23語を記録した。内訳において,動詞は,23語中16語が事物の動きや様子などの感じを音 声として例えた擬態語や物体の音響を表した擬声語であった。 (4)形容詞. 形容詞は,2009年3月に新しい言葉6語を記録した。「大きい」,「/トさい」など比較の言葉,「違う」「残念」. などの言葉を記録している。また,2008年4月には,学習中にうまくできなかった場面で「あーあ−」と発. 【Tablell】品種別 発語数の比較 名. 詞. キ 人. 色. 体. 形. 2nn8. さ. 曜. 容 詞. 詞. 他. の 計. 物 自 然 道括‖ 具・ フ ク 夕 口 10. 5. 4月. 2009. しヽ. 習. 13 19. 0. あ. 動 物 学生. 3. 2. 4. 6. 5. 4. 1. 4. 23. 6. 3 134. 85. 69 13. 7. 3月. 2. 28. 0. 12 21 10. 98. 【Fig.12】発語数の比較. ■H20年4月 発語数. □H21年3月増加した発語数. [〓[廿や. []lナ. ・●◆ ・′:二・・. 79.

(11) 佐藤麻里子・青山 真二. 語していたものが,「残念」のように変化している。. 5−2 考 察 事例は,指導目標と指導内容を「発達段階」「生活」「コミュニケーション」を重視して設定した。指導を 通して,発語の増加が見られたことについて以下の通り考察する。 (1)発語数の増加. 名詞と動詞の増加した発語は,指導時間に学習した言葉と一致しており,指導時間に学習した言葉以外の 言葉は聞き取られなかった。それは,観察した発語場面が指導時間であったこと,Sを見て,以前の学習が 思い出されて発語につながったことが考えられる。. また,A児は,家庭生活で指導と関係のある映像や写真,絵などを見ると,その名称とSの名前を発語し ていることが保護者から確認できた。特に「体」や「生活・学習道具」の一部,動詞「取って」という言葉 が,実際の入浴や着替えの場面で発語している,とのことであった。以上より,指導時間における言葉の学 習がある程度,定着しており,妥当性のある指導目標と指導内容であったと考えられる。 (2)言葉の質的変化. 形容詞において,学習中にうまくできなかった場面において「あーあ−」と発語していたものが,「残念」. のように変化している。この言葉は,指導期の後半(9月∼10月)に入ってから変化がみられた。言葉の発 生について,浜田(1993)は,おとなと赤ちゃんの間での相互主体的なやりとりや,話し手と聞き手の関係 の成立が前碇として必要であると述べている。また,そこに肉声が交わされ,体験が共有されることによっ てはじめて,声が「意味するもの」になるとしていることから考えると,SとA児の相互のやり取りの成立 が発語の変化につながったと言える。 (3)指導目標と指導内容. ① 生 活 A児の言葉の増加は,生活の流れに基づいた指導であったためと考えられる。「子どもはきまりきった生 活の流れの中で,大人のことばを聞き,徐々にその意味がわかる」(長崎・小野,2003)からである。. また,A児は訪問学級の対象で,限られた指導場面,回数,時間であったが,A児の発語が増加したこと は,指導時間と家庭生活で活用,それを教師や保護者が復唱する過程のなかで学習されていったと考えられ る。その点において,生活と指導目標と指導内容のつながりの重要性を示していると言える。. 課題としては,指導内容として選択した言葉が,生活の中で使用される頻度や活用性などを検討すること である。そのことにより,A児にとって,より必然性のある言葉の学習をしていく必要がある。 ② 発達段階. A児の指導内容は,発達段階に応じた,ごっこ遊びを取り上げた。それは,子どもの生活の中心は遊びで あり,遊びは子どもの発達を促す源,教育の活動として意義あるもの(伊勢田,1984)であるからである。 その中で動詞は,擬態語,擬声語を中心に増加した。それは,発達初期における動作が,それに合う擬態語 を併せることで記憶が促進(遠矢,2002)されたこと,7∼9か月程度の幼児で見られ,動作に伴って生じ るいろいろな音に興味を持ち,擬音語(ジャー),擬声語(ボン)などが覚えやすく,印象にも残りやすい(長. 崎・小野,2003)ことが関連していると考えられる。また,動詞はSがA児の手をとり一緒に動かすという 指導方法であった。これは,乳幼児段階においては「運動や動作を主体とした連合能力を高めていく必要」(小. 林・是枝,2003)があるからである。連合能力とは,人間がさまざまな能力を同時に連合させて行使する力 であり,その育成は,知的な発達の促進にもつながるものである。このように,発達段階を重視した指導が 重要であると言える。. 80.

(12) 重度・重複障害児の個別指導の在り方. 以上の通り,「発達段階」は重要であるが,A児の指導を振り返り「発達段階」のみを重視した指導では,. 日常生活とかけ離れた指導目標や内容となってしまったり,同じ指導の繰り返しになってしまう可能性も考 えられた。そのため,他の「生活」や「コミュニケーション」の視点も含めて設定することが重要である。 ③ コミュニケーション. A児には,要求言語と意思表出を中心に指導を行った結果,教師や母親と言葉を介した物のやりとりが成 立することになった。A児にとっては,自分の欲しいものを手に入れることができる言葉として学習され, 指導場面以外での使用が多く見られた。「取って」という言葉は,19か月から20カ月程度の幼児が発語(津守・ 稲毛,1980)する言葉である。また,物を受け渡す行為は,「コミュニケーション行動としての機能」を持ち, 「『もの』を介しての周囲のやりとりは,周囲の人たちとの社会的な交渉の可能性を拡大して,子どものコミュ. ニケーション行動を活性化」(鹿取,1993)するものであり,A児にとっても,他者とのコミュニケーショ ンを活性化する言葉であったと考えられる。. また,子どもは「日々の暮らしのなかで環境からの刺激を取り入れ,他者と相互交渉する経験が言語・コ ミュニケーション能力を育てる」(林,2008)とされており,生活の中でコミュニケーションの力を育てる ことの重要性とコミュニケーションにおいて子どもにかかわる人全てが,重要な支援者であると言える。さ らに,語彙の種類には「個人差がみられ,これらは周囲の大人の接し方が影響している」(小林,1997)と 述べられているように,生活全般におけるコミュニケーション環境が重要であると考えられる。. 以上,A児の指導より,おでかけ,お風呂など『日常生活ルーティン』において,どのようなコミュニケー ションをしたらよいかを発達段階に応じて,課題設定することの重要性(長崎・小野,2003)が明らかになっ たと言える。そして,重度・重複障害児の個別指導の在り方として,その目標,内容の設定において,「生活」, 「コミュニケーション」,「発達段階」の視点は重要であり,それらの視点がより適切な指導,より良い生活 につながると考えられる。. [注]. (1)MEPA−R:1985年に発行されたMEPAを基本とし,運動・感覚,言語,社会性の3分野6領域にわたって,チェックし, それぞれの指導方針を示している。また,児童の運動技能,身体技能,身体意識や心理的諸技能が今どこまで発達している かを把捉し,発達支援の手がかりを得ることができる。 (2)発達検査Version5:特別支援学校教諭,大串義信(2001)によって作成された実践・発達診断ソフト。田中昌人・田中 杉恵の「子どもの発達と診断1乳児期前半∼5幼児期Ⅲ」,西村章次「実践と発達の診断(試案)表」等をもとに診断項目 が設定してある。実践の手がかり,「発達」「興味・関心」「生活」のつながりの把握等をねらいに作成された。 (3)NCプログラム:認知・言語促進プログラムの略称のこと。発達年齢6ケ月から6歳までの発達障害児を対象とする。認 知・言語能力を支える6発達領域(視覚操作,言語,記銘,文字,数,運動)にわけて,評価が可能。. (4)乳幼児のコミュニケーション発達アセスメント基本100語チェックリスト:長崎勤(1995)により,1歳半から2歳まで に典型的に出現する単語100語を集めたもので,ことばを獲得し始めた頃からの幼児を対象としている。. 【引用・参考文献】 ・阿部芳久(2006)知的障害児の特別支援教育の教育課程『知的障害児の特別支援教育入門』日本文化科学社 p.18 ・伊勢田亮(1984)障害児の遊びシリーズ①『障害の重い子の発達と遊び』ぶどう礼 ・伊藤真次(筑波大学附属桐が丘養護学校 発達と指導研究グループ)(1984)障害の重い子どもの指導内容の選択と配列 肢体不自由教育 64号pp.18−26. 81.

(13) 佐藤麻里子・青山 真二 ・永石晃(2008)第4章 聴覚障害と知的障害を併せ有する子どもの事例『障害の重い子どものための授業づくりハンドブッ ク』全国心身障害児福祉財団(編)pp.116−130 ・川上康別(2008)第3章 授業づくり人門 1『障害の重い子どものための授業づくりハンドブック』全国心身障害児福祉 財団(編)pp.74−81. ・川住隆一(2000)障害の重い子どもとのコミュニケーションと環境 肢体不自由教育146号 ・川開催之介(2009)「特別支援学校学習指導要領の改訂と自立活動」肢体不自由教育190 pp.14−19 ・キヤスリーン・ダイヤー,スティーブンC.ルイス 訳:ニ凹地真美(2004)『実際に使えるコミュニケーション・スキルの 指導』学苑社 p.6 ・小林春美(1997)語彙の獲得『子どもたちの言語獲得』大修館書店 pp.85−109 ・小林芳文・是枝喜代治(2003)自立活動の計画と展開3「コミュニケーションを育てる自立活動」明治図書 ・是枝喜代治(2003)第4章 コミュニケーションを育てる展開『コミュニケーションを育てる日立活動』′ト林芳文・是枝喜 代治(編著)明治図書 p.71 ・坂口しおり(2008)障害の重い子供のコミュニケーション評価と支援の考え方 肢体不自由教183,pp.12−17 ・鹿取廣人(1993)第2章 言語発達の心理学的基礎『ことばの発達の障害とその指導』飯高京子・若菜陽子・長崎勤(編) 学苑社 pp.42−46 ・梅田征子(1993)第3章ことばを支える認知機能の発達『ことばの発達の障害とその指導』飯高京子・若菜陽子・長崎勤(編) 学苑社 pp.62−66 ・下山直人(2008)第1章 特別支援教育への転換と障害の重い子どもの教育『障害の重い子どものための授業づくりハンド ブック』全国心身障害児福祉財団(編)p.18 ・白石正久(1999)『発達とは矛盾をのりこえること』全国障害者問題研究会. ・津守真・稲毛教子(1980)Ⅱ質問項目について『乳幼児精神発達診断法 0才∼3歳まで』大日本図書 ・徳永豊(2003)重度・重複障害児のコミュニケーション行動における共同注意の実証的研究 研究成果報告書国立特殊教育. 総合研究所 ・酋島茂登(2003)第2章 授業づくりの基礎『障害の重い子どものための授業づくりハンドブック』全国心身障害児福祉団. 体(編)pp.5455 ・遠矢浩一(2002)第4章 擬態語・擬音語とからだ『コミュニケーションという謎』秦野悦子・やまだようこ(編)ミルネ ヴァ書房pp.79−97 ・長崎勤・小野里美帆(2003)『コミュニケーションの発達と指導プログラム』日本文化科学社. ・二宮昭(2001)第8章 重複障害『障害特件の理解と発達援助』ナカニシヤ出版 pp.129−130 ・浜田毒美男(1993)第4章発達からことばを考える『ことばの発達の障害とその指導』飯高京子・若菜陽子・長崎勤 学苑 社pp.80−90. ・林紀子(2008)前言語期の音声学習から始まる言語習得への道すじ 発達障害研究 30,3,pp.141−152 ・松田直(2001)超重症児に対する教育のあり方に関する臨床的研究 平成10年度∼12年度研究成果報告書 ・三木裕和(2004)第1章 重症児教育の考え方『重症児教育一視点・実践・福祉・医療との連携』兵庫県重症心身障害児教 育研究集会実行委員会(編)クリエイツかもがわ pp.80−96 ・箆晶子(2004)施設内訪問学級の授業『重症児教育一視点・実践・福祉・医療との連携』兵庫県重症心身障害児教育研究集 会実行委員会(編)クリエイツかもがわ pp.123−132 ・文部科学省(1997)第5節 情緒,社会性の発達と障害『肢体不自由児の発達と指導』文部科学省(文部省)pp.51−64. (佐藤麻里子 札幌校大学院生) (青山 真二 札幌校教授). 82.

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参照

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