• 検索結果がありません。

ハムストリングスの膝伸展作用を生かし,起立動作の介助量が軽減した1 症例

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ハムストリングスの膝伸展作用を生かし,起立動作の介助量が軽減した1 症例"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

症例報告

ハムストリングスの膝伸展作用を生かし,

起立動作の介助量が軽減した 1 症例

黒澤 智視

1)

,高徳 昭彦

1)

,野澤 洋平

1)

,川合 直美

1)

,金子 操

1)

Tomomi KUROSAWA1), Akihiko TAKATOKU1), Yohei NOZAWA1), NAomi KAWAI1), misAo KANEKO1)

要旨:[はじめに]一定の運動学的条件を満たすと,ハムストリングスが膝伸展作用を有することが 先行研究で示されている.これら条件に着目した介入により,膝伸展動作の代償で起立動作が可能 となった症例を経験した.[症例紹介]皮膚筋炎,交通外傷による大腿の皮膚移植が既往にある 60 代女性で, 蜂窩織炎で入院となった.大腿四頭筋の筋力が特に低下していた.[経過]起立時の膝伸展動作をハムストリ ングスで代償することで,移乗動作の介助量が軽減し,ADL が向上した.[結論]両側の大腿四頭筋の筋力の 著明な低下に対し,ハムストリングスの膝伸展作用を生かし,起立動作が改善した. キーワード:ハムストリングス・大腿四頭筋・起立動作 1) 自治医科大学附属病院リハビリテーションセンター:栃木 県下野市薬師寺3311-1(〒329-0498)TEL:0285-58-7163 Rehabilitation Center, Jichi Medical University: 3311-1 Yakushiji,

Shimotsuke-Shi, Tochigi 329-0498, Japan. TEL: +81 285-58-7163 受付日 2020年11月6日 受理日 2020年12月19日 Ⅰ.はじめに 大腿四頭筋は代表的な膝関節の伸展筋であり,ハ ムストリングスは膝の屈曲筋である.これら二筋は 拮抗筋とされ,大腿四頭筋は股関節の屈曲・膝関節 の伸展作用を持ち,一方で,ハムストリングスは, それぞれの関節に反対方向へ作用する. 1903年にLombardは拮抗筋である2つの二関節 筋が協調的に作用して下肢が伸展することをカエ ル後肢で示した1).大腿四頭筋とハムストリングス の同時収縮で下肢が伸展するメカニズムは,遺体解 剖を用いたレバーアームの研究でも検証されてお り2),先述した拮抗二関節筋は協調的に働くとされ る. さらに,Blaimontらにより,一定条件下ではハム ストリングスが膝伸展作用を有することが報告され ている3).下肢悪性腫瘍で大腿四頭筋の広範な切除 により膝伸展機能が障害された患者に対し,表面筋 電図と三次元運動解析装置で運動学的解析を行った 報告では,ハムストリングスが膝伸展機構の代償へ 果たす役割が大きいことが示されている4).また, 電気刺激を用いた荷重解析システムでの検証では, 膝屈曲60°の座位姿勢で足部と骨盤が固定された状 態において,ハムストリングスが膝伸展運動へ寄与 したとしている5, 6).このように,Blaimontらの見 解を肯定するような,客観的な運動学的データを根 拠とする報告は多数ある. 今回,原疾患・既往の病態,廃用の影響により, 特異的に大腿四頭筋の筋力が低下した症例を経験し た.前述した報告を基に介入を行ったところ,膝伸 展動作の代償が起こり,起立動作の介助量が軽減し たため,症例として報告する.

(2)

Ⅱ.症例紹介 間質性肺炎合併の皮膚筋炎,糖尿病で当院アレ ルギーリウマチ科に通院中の60代女性で,交通事 故で両下腿を負傷して皮膚移植の既往があった(図 1).数ヵ月前に右下肢の蜂窩織炎に対して当院で 加療後,他院へ転院していた.その後自宅退院し たが,左下肢の腫脹と疼痛が出現し体動困難とな り,当院へ救急搬送され,左下肢蜂窩織炎の診断 で入院となった.他院へ入院中に1度,当院では理 学療法介入の6日前に移乗時の転倒歴があった.入 院8病日で理学療法介入が開始となった.倫理的配 慮として,本症例には事前にプライバシーの保護 に十分留意することを説明し,書面で同意を得た. Ⅲ.経 過 1.理学療法初回評価 安静時では鼻カヌラ1 L/mでSpO2は94–95%, 体動で90%までの低下を認めた.下肢で明らかな 腫脹や熱感は認めず,明らかなROM制限もなかっ た.筋力は下肢全体で低下を認め,その中でも大 腿四頭筋のMMTは右側で2,左側で1であった. ハムストリングスは両側で3であった(表1).寝返 り・起き上がり・端座位は見守りで可能であったが, 起立は座面高を調整しても困難であった.ADLは 排泄も含め終日ベッド上での生活となっており, Barthel Indexで40点であった.入院時の血液ガ ス デ ー タ は,PHが7.451,PaCO2が40.0 mmHg, PaO2が66.1 mmHg,HCO3が27.2 mEq/Lで あ っ た.生化学データでは,CPK値が25 U/Lであった. 入院時にはCRP値が22.81 mg/dLであったが,理 学療法介入前では0.89 mg/dLであった. 2.解釈と方針 体動による酸素化の低下は見られたものの,下腿 の腫脹はなく,血液ガスデータやCRP値のピーク アウトから蜂窩織炎や間質性肺炎の病勢は落ち着 いていると考えられた.また,CPK値の高値も認 めず,皮膚筋炎の再燃は起きていないと判断でき た.しかし,既往の皮膚筋炎と皮膚移植,今回の 病態管理目的での安静臥床に起因した廃用の影響 と思われる下肢筋力低下を認め,特に大腿四頭筋 で顕著であった.移乗時の介助量が大きく,ADL 低下に繋がっていた. 理学療法での目標は,廃用性変性の予防,活動 量向上・離床を目的とした起立動作の介助量軽減 とし,バイタルサイン,自覚症状,血液データを 経時的に確認し介入した. 前述したBlaimontら3)の報告では,ハムストリ ングスが膝伸展作用を有する条件として,①足部 が地面に固定され膝屈曲0–60°,②股関節の前方に 上方から下方へ力が掛かり,骨盤が固定された状 態,を挙げている(図2).従って,これら条件に 表 1 初回評価と最終評価時の変化 X 日 X+7 日 R L R L MMT 上肢 4 4 4 4 腸腰筋 3 3 3 3 中殿筋 2 3 2 3 大腿四頭筋 2 1 2 1 ハムストリングス 3 3 3 3 前脛骨筋 3 3 3 3 下腿三頭筋 2 2 2 2 Barthel Index 40 点 60 点 移乗 0 点 10 点 トイレ動作 0 点 5 点 歩行 0 点 5 点 図 1 交通外傷後の皮膚移植概要

(3)

着目し,介入方法を工夫した.①は膝屈曲60°とな るような座面調整を行い,②は股関節の前面で下 方へ力が加わるよう,股関節の屈曲,体幹・骨盤 の前傾を促す目的で,前方で手すり把持ができる 環境設定を実施した. 3.理学療法経過 入院後8病日より理学療法介入開始となった.初 回日をX日とし,X+7日までの期間で合計6日間の 介入を実施し,その経過を表2に示した.当初は起 立困難であったが,介入2日目以降は,前述した環 境調整の条件下で起立練習を繰り返すと,介助量 は軽減していった. 一般的な起立動作(図3のA)では,膝より上方 の体節の合成重心と膝関節中心との距離が大きい (図3のb)ため,強い膝伸展モーメントが要求さ れ,その大部分を大腿四頭筋が担うが,本症例で は大腿四頭筋の筋力低下から不可能であった.そ こで,環境調整を行い,ハムストリングスでの膝 伸展作用による起立動作(図3のB)をX+2日より 試みた.起立時の体幹前傾は,Blaimontらの図2の (c)の条件を満たすことに加え,膝より上方の体 節の合成重心と膝関節中心との距離を小さくする (図3のe)ことへも繋がり,要求される膝伸展モー メントの減少へ寄与する. 膝関節屈曲60°以上ではハムストリングスの膝関 節伸展作用は期待できず,実際に本症例でも起立 は困難であった.しかし,膝関節屈曲60°(図3の d)までをベッドや車椅子の座面高調整,あるいは 図 2 Blaimont らの類推モデル3) 足部が固定された状態の骨盤・大腿・下腿の類推モデル. 通常の状態でハムストリングスが収縮すると骨盤の後傾 (股関節の伸展)が起こる(a,b).股関節の前方に上方 から下方へ力 (P:Pressure) が掛かり,骨盤が固定され た状態では,ハムストリングスが収縮すると膝関節は伸 展する(c). 図 3 起立動作のシェーマ 通常の起立動作(A)では,膝より上方の体節の合成重心と,膝関節中心の距離が大きい(b)ため,大腿四頭筋が強 い膝伸展モーメントを発揮し,膝の伸展に貢献している.ハムストリングスでの膝伸展作用による起立動作(B)では, 体幹の前傾に伴い,膝より上方の質量の合成重心と,膝関節中心との距離が小さくなる(e)ため,要求される膝伸展モー メントは減少する.

(4)

上肢でのプッシュアップによる離殿で補えば,膝 伸展が起こり,起立動作自体は見守りで可能となっ た.その際に徒手的にハムストリングスを触知す ると収縮していることが確認できた. 最終評価時点ではMMTは初回評価時と変化は なかったが,起立や移乗は監視下で可能となり, Barthel Indexは60点へ向上した(表1,2). X+9日に鼻カヌラ1 L/m投与の管理状況で,リ ハビリ目的で他院へ転院となった. Ⅳ.考 察 本症例では大腿四頭筋の筋力低下が強く認めら れ,既往の皮膚筋炎とその治療でのステロイド使 用の影響が考えられた.ステロイド投与により筋 力低下は起こるとされ,特に下肢の近位筋優位に 目立つ傾向があると報告されている7).また,大腿 の皮弁を採取した患者で顕著な後遺障害は生じな いが,外側大腿回旋動脈の分枝や支配神経を処理 すると,大腿四頭筋機能は低下する可能性がある とされており8),既往の皮膚移植の影響もまた考え られた. 大腿四頭筋の筋力低下に伴い,起立動作の不安 定性を呈しており,介助量が大きいことが問題点 として顕在化していた. 筋力増強のメカニズムには神経学・形態学的要 因がある.神経学的要因によりトレーニング初期 から筋力増強は起こるが,筋肥大として効果が 反映されるのは8週以降とされており9),本症例 においても,短期間で大腿四頭筋の筋力の大幅 な改善を期待することは難しいと考えられた.そ こでMMT3レベルのハムストリングスに着目し, Blaimontらの報告をもとに,前方での手すり把持, 座面の調整を行い,起立動作の反復を行ったとこ ろ,6日間の介入であったが,MMTは著変ない中 でも,起立・移乗の介助量は軽減した. 本症例への理学療法介入経験は,筋の作用やそ の特性に着目することで,基本動作の達成やADL 向上へ比較的短期間で貢献できる可能性を示唆し ている. Ⅴ.結 論 荷重下でのハムストリングスの膝伸展作用を考 慮した環境調整と動作の提案により,対象者の ADLが向上した.Impairmentレベルでの直接的 な機能改善がなくとも,身体機能を正確に評価し, 適切な解釈のもとで,動作の評価,指導や環境調 整を行うことで,対象者の動作やADLは向上し得 る.基本動作に関与する理学療法士にとってこれ らの観点は重要である. 引用文献

1) Lombard WP: The tendon action and leverage of two-joint muscles of the hind leg of the frog, with special reference to the spring movement. Contributions to Medical Research, America, 1903,

(5)

pp280–301.

2) 金承革,田中克己,竹島 治生・他:大腿二頭筋 長頭と腓腹筋のレバーアーム特性が膝関節屈伸 運動へ与える影響.バイオメカニクス,2018, 24:

37–45.

3) Blaimont P, Klein P, Alameh, et al.: The Function of hamstrings: A pathogenic hypothesis of femoropatellar osteoarthritis. Surg Arthrosc Knee, 1988, 55–57. 4) 高木啓至,井上 悟,佐藤睦美・他:下肢悪性骨 腫瘍症例における機能的膝伸展機構の運動学的解 析,第 46 回日本理学療法学術大会抄録集,2011. 5) 宮 地  司, 酒 井 孝 文, 梅 居 洋 史・ 他:Closed Kinetic Chain における二関節筋作用の解析.日本 臨床バイオメカニクス学会誌,2009, 30: 401–404. 6) 河村顕治:変形性関節症における温熱と CKC 運動 の効果.Jpn Rehabil Med, 2010, 47: 862–866. 7) Bowyer SL, LaMothe MP, Hollister JR: Steroid

myopathy: incidence and detection in a population with asthma. J Allergy Clin Immunol, 1985, 76: 234–242.

8) 黒木知明,吉本信也:前外側大腿皮弁を試みた 34 例の検討.昭和医会誌,2012, 72(4): 453–470. 9) Kraemer WJ, Fleck SJ, Evans WJ: Strength and

power training:physiological mechanisms of adaptation. Exerc Sport Sci Rev, 1996, 24: 363–397.

参照

関連したドキュメント

デジタル 口座 サービス

(回答受付期間) 2020年 11月 25日(水)~2021年 1月

(※)Microsoft Edge については、2020 年 1 月 15 日以降に Microsoft 社が提供しているメジャーバージョンが 79 以降の Microsoft Edge を対象としています。2020 年 1

であり、最終的にどのような被害に繋がるか(どのようなウイルスに追加で感染させられる

<第2次> 2022年 2月 8 日(火)~ 2月 15日(火)

報告日付: 2017年 11月 6日 事業ID:

大正13年 3月20日 大正 4年 3月20日 大正 4年 5月18日 大正10年10月10日 大正10年12月 7日 大正13年 1月 8日 大正13年 6月27日 大正13年 1月 8日 大正14年 7月17日 大正15年

第1回 平成27年6月11日 第2回 平成28年4月26日 第3回 平成28年6月24日 第4回 平成28年8月29日