1. はじめに 大型の構造物や材料など固体の非破壊検査には超音波が広く 用いられている。一般的な方法としては検査対象に超音波パル スを送波し,この反射波を受波して波形,伝搬時間や周波数成 分などから健全性を評価するもので,これはパルスエコー法と 呼ばれる代表的な方法である。パルスエコー法を含む超音波に よる検査方法はいずれも対象物の表面で超音波の信号の送受波 を行うもので,固体内部における超音波の伝搬挙動は完全には 把握できない。特にき裂などの欠陥や残留応力の存在により音 波伝搬路が弾性的および構造的に均一でない場合,対象となる 固体中での音場は複雑になることが予想される。このため信頼 性の高い非破壊検査のためには,超音波伝搬の可視化によって 音波の伝搬過程を含めた音場の把握が不可欠であると考えられ る。 超音波の音場を数値的に画像化する方法には有限要素法や有 限差分時間領域法を用いたものがある。計算機上でモデルを作 成し,これらの汎用数値解析手法による音場の計算結果を画像 として表示することにより可視化ができる。近年は高機能な解 析ソルバが市販されユーザが自ら解析用のコードを作成するこ となく音場の可視化も可能である[1]。しかし,数値的な方法で は媒質内部の音速や減衰定数などの設定や,波源となる圧電振 動子のモデル化においても実験条件とすべて同一になるように することは困難な場合があり,可視化結果が実際の音場とは異 なる可能性がある。 実験的に音場の可視化を行う方法としてストロボ光弾性法が 知られている。これは光と固体試料の弾性特性との相互作用に よる光弾性現象を利用したものである[2]。静的な応力を観察す る光弾性法では物体の外力に起因する内部応力により複屈折が 発生するため,この成分を検出して内部の応力の観察や測定を 行う。この方法により超音波の動的な応力変化による固体の複 屈折を観測すれば超音波の伝搬を光学的に把握することができ る。ストロボ光弾性法はある時刻における音波の波面をフリー ズして可視化できるため,パルス超音波の伝搬の観測に有効で ある[3]。先行研究[4],[5]では,き裂が発生している固体中の超 音波伝搬の可視化などが行われているが,残留応力のような静 的な応力と音波による動的な応力を同時に可視化する報告は少 ない。 本論文は,ストロボ光弾性法によって静的な応力が存在する 固体中において動的な応力である音波が伝搬する様子を同時に 観測することを試みたもので,鋭敏色法とセナルモン法の結果 を参照して,応力の分布や応力の符号も同時に可視化するもの である。また,低い電圧で圧電振動子を駆動し超音波が伝搬し ていない状態の画像と超音波が伝搬している画像との差分処理 によって高感度化を行う方法についても述べる[6],[7]。 以下では,アクリル試料中に開口き裂を模擬したスリットを 設け,スリットの周辺に静的な残留応力が発生している状態で 1MHzの超音波を伝搬させ,残留応力と超音波伝搬が同時に 可視化できることを示し静的な残留応力が可視化結果に与える 影響について述べる。 2. 観測方法 観測対象であるアクリル板の寸法をFigure 1(a)に示す。 アクリル板は長さ100mm,幅100mm,厚さ20mmで図のよう にスリットを有するものである。縦波音速は2700m/s,減衰係 数は0.43dB/mmである。超音波の送波に使用する圧電振動子 は長さ30mm,幅 7mm,厚さ2.2mmの矩形のもので共振周波 数は 1MHz付近にある。圧電振動子は図に示すようにアクリ ル板の上面にサリチル酸フェニルを使用して接着した。スリッ Visualization of 1-MHz burst, sinusoidal, ultrasonic-wave propagation in an acrylic plate sample
with a slit is achieved using a stroboscopic photo-elastic system to gain insight into how sound fields respond to residual stress. In the acrylic plate, a slit was introduced to allow the residual stress to be distributed. A C-MOS camera was used to obtain the images, which were then processed to enhance the contrast. The distribution and location of the residual stress were identified using a commercial strain detector. The ultrasonic wave around the slit in the sample was clearly visualized and was found to be affected by the birefringence of the residual stress. Visualization of both the dynamic stress of sound propagation and the static residual stress were successfully achieved.
Key Words : Strobe photo-elastic method, Visualization, Ultrasound, Residual stress, Subtraction image
平成27年10月16日受付 ; 平成28年 2 月10日受理 *秋田大学大学院 工学資源学研究科
〒010‐8502 秋田県秋田市手形学園町1番1号
† Graduate School of Engineering and Resource Science, Akita University 1-1, Tegata Gakuen-machi, Akita 010-8502, Japan
トの端の部分の拡大図をFigure 1(b)に示す。スリットの幅 は約 2mmである。この部分にはくさびを挿入し,スリットが 開口するように力を印加した。 はじめに静的な応力を鋭敏色法およびセナルモン法により観 察した。直交ニコル状態では応力が発生している部分が,検光 子を透過した光の明暗として観察できる。鋭敏色法では直交ニ コル状態で観察対象と検光子の間に一波長板を挿入すると,対 象に発生している複屈折成分の通常光線と異常光線のリタデー ションの変化により干渉色が変化するため,応力の分布を観 察できる。本報告で用いた一波長板のリタデーションは570nm である。セナルモン法は直交ニコル状態で観察対象と検光子の 間に四分の一波長板を挿入し,透過光の輝度が高くなっている 部分が検光子の回転により最も暗くなったとき,この回転角に 対応するリタデーションが得られる方法である。リタデーショ ンは応力に対応するため,検光子の回転角が大きければ大きい ほど,対象の部分における応力は大きい。Figure 2 に可視化シ ステムを示す。静的な応力の可視化には連続光源を使用し,市 販のディジタルカメラ(Camera: Canon, PowerShot G11)に より撮影を行った。 Figure 3 にストロボ光弾性法を用いた超音波の可視化シス テムを示す。ストロボ光源はアルゴン管であり,アルゴンガス や水銀ガスなどの混合ガス中で放電を行うことによって原子の 輝線スペクトルに応じた光が出力される原理を利用している。 すなわち,この光源は幅広いスペクトルを持つ白色光を発生す る。発光装置は放電ユニット(Sugawara Lab., NPL-2)と電源 ユニット(Sugawara Lab., NP-1A)で構成されている。放電 ユニットの閃光時間は75ns,放電管入力は17mJ/flashである。 ピンホールを通過したストロボ光源の光は凹面鏡で平行光と なる。平行光は偏光子(polarizer)を透過し直線偏光となり, アクリル板試料に入射する。この時,応力が発生している部 分で複屈折が発生し,これによる異常光が検光子(analyzer) を透過する。検光子を透過した光をコンピュータに接続した C-MOSカメラ(C-MOS camera: Artray, ARTCAM-200CMV-USB3)で撮影し画像を取得した。
圧電振動子はバースト正弦波の電圧信号によって駆動した。 発振器(Function generator: KEYSIGHT, 33600A)のCH1か ら出力した周波数 1MHz,波数30のバースト正弦波を,バイ ポーラ増幅器(Bipolar amplifier: NF Corp., HSA4101)により 100 Vpp程度に増幅して使用した。この電圧で駆動すると圧電 振動子からアクリル板中に送波される超音波の音圧は最大で 230 kPa程度となる。一般に可視化のシステムでは音波に対す る光の相互作用を大きくするために数百~数千 Vの高い電圧 で駆動し音波の強度を大きくすることが多いが,この場合圧電 振動子や媒質に弾性的な非線形性を生じることがある。本シ ステムで行っている100 Vpp程度の電圧では振動子および媒質 中に非線形性の影響が現れない[8]。一方,同一の発振器のCH2 から100 Hzの連続トリガ信号を出力し,これを発振器のトリ ガ入力端子とストロボ光源の遅延装置(Delay unit: Sugawara Lab., FG-310)に接続し,発振器からバースト信号を出力する タイミングとストロボ光源が動作するタイミングを同期させ た。遅延装置の遅延時間ΔTを変化させることにより,駆動電 圧信号を圧電振動子に入力してからストロボ装置が動作するま での時間を任意に制御できるため,超音波伝搬の時間推移を連 続的に観測できる。 Figure 3 のストロボ光弾性法による可視化実験系において, コンピュータで取得される超音波伝搬画像(以下,超音波画像) の例をFigure 4(a)に示す。本法で得られる画像において超 音波の波面はコントラストが小さくほとんど見えないことが分 かる。これは圧電振動子を比較的低い電圧で駆動しており,超 音波の音圧が小さいためである。波面の表示を明瞭にするため に,超音波画像とFigure 4(b)に示すような超音波が伝搬し ていない画像(背景画像)の差分を行うプログラムを構築し画 像処理を行った。本法において使用した光源はアルゴン管であ り確率的な放電による発光を利用しているため,光量が時間的 に揺らいでいる。Figure 5 はストロボ光源の光をコンピュータ に接続したC-MOSカメラにより連続撮影して,輝度のデータ を 1 枚ずつ取得しグラフに表したものであるが,この結果から (a)Overall view, (b)Enlarged view of the part
of the slit.
Figure 2 Static stresses visualization system using sensitive tint method and Senarmont method.
も光源の光量が揺らいでいることが分かる。この光源の光量の 揺らぎの影響を抑制するために超音波画像と背景画像それぞれ を複数枚連続撮影し,画像データのRGB信号成分を加算して いく。この加算したデータ同士の差分を取り正規化を行うこと で,Figure 4(c)のように超音波の波形に対応した波面を明 瞭に観測することができる。連続撮影の枚数が100枚前後であ れば,十分に光量の揺らぎの影響を抑制することが可能である。 本法ではアクリル板の加工により発生した静的な応力と超音波 による音圧を同時に観測するため,超音波画像を100枚,背景 画像を97枚としてそれぞれを加算し,差分および正規化を行っ た。 3. 観測結果 Figure 6 に直交ニコル状態でアクリル棒に外力を加え,検光 子の透過光の変化を撮影した結果を示す。Figure 6(a)およ び(b)はアクリル棒を横置きした場合の外力の有無による透 過光の変化を,(c)および(d)はアクリル棒を縦置きした場 合の外力の有無による透過光の変化をそれぞれ撮影したもので ある。この状態では外力が加わっている部分における透過光の 輝度変化が観察可能である。 Figure 7 に一波長板を使用し鋭敏色法として干渉色の変化 を撮影した結果を示す。本実験で用いたアクリル試料では縦方 向の引張力および横方向の圧縮力はピンク色や黄色などの干渉 色で観察され,縦方向の圧縮力及び横方向の引張力は青色や緑 色などで観察される。ピンク色や黄色の干渉色は570 nmより リタデーションが小さく,青色や緑色の干渉色は570 nmより リタデーションが大きいことを示している[9]。Figure 7(a)お よび(b)はアクリル棒を横置きにして外力の有無による干渉 色の変化を撮影した結果である。Figure 7(a)ではアクリル 棒の端で静的な応力が干渉色の変化として可視化できているこ とが分かる。Figure 7(b)では圧縮力を印加するとアクリル 棒の端のピンク色と黄色の干渉色がさらに明るく表示され,リ Figure 4 Image processing method to enhance the
ultra-sonic propagation image.
(a)With sound,(b)Without sound,(c)Pro-cessed image.
Figure 5 Fluctuation of light of strobe unit.
Figure 6 Visualization results of stresses of the acrylic rod using photo-elastic method.
(a)Without external force(landscape),(b)With external force(landscape),(c)Without external force(portrait),(d)With external force(portrait).
Figure 7 Visualization results of stresses of the acrylic rod using sensitive tint method.
(a)Without external force(landscape),(b)With external force(landscape),(c)Without external force(portrait),(d)With external force(portrait).
状態では,Figure 6(b),(d)と同様の画像となる。Figure 8(a) はアクリル棒を横に置き,検光子を反時計回りに回転させた結 果である。また,Figure 8(b)はアクリル棒を縦に置き,検 光子を時計回りに回転させた結果である。これら 2 つの画像で は,圧縮力を印加した部分が暗くなっており,外力を印加する 向きによってリタデーションの変化量の符号が異なることを示 している。 Figure 1 に示したアクリル板試料において,一波長板を用い て静的な力を可視化した結果をFigure 9 に示す。アクリル板
Figure 8 Visualization results of stresses of the acrylic rod using Senarmont method.
(a)Rotated in the counterclockwise(landscape), (b)Rotated in the clockwise(portrait).
Figure10 Visualization results of stresses of the acrylic plate using Senarmont method.
(a)Rotated in the counterclockwise of 60 degrees, (b)Rotated in the clockwise of 60 degrees.
Figure 9 Visualization result of stresses of the acrylic plate using sensitive tint method.
Figure11 Visualization results of ultrasonic propagation in the acrylic plate using strobe photo-elastic method. (a)ΔT=8 µs,(b)ΔT=10 µs,(c)ΔT=14 µs, (d)
た。これらの複屈折発生部ではリタデーションの変化量の符号 が異なっていることが明らかである。光弾性法やセナルモン法 により検出できる複屈折光の輝度やリタデーションは静的な応 力や動的な音圧に対応しているため,これらの測定により物体 内部に発生している力の定量化が可能と考えられる。 Figure 11に遅延装置のΔTを 8 µs,10 µs,14 µsおよび20 µsと 徐々に変化させ超音波伝搬の時間推移を観測した結果を示す。 差分画像処理により超音波の波面を明瞭に観測できる。また, アクリル板上部に接着した圧電振動子からアクリル板下部に向 かって超音波が伝搬している様子が観測できる。Figure 11(d) ではスリットの部分で音波が回折していることが分かる。また, Figure 9 の干渉色が変化している部分において,静的な残留応 力に動的な超音波の音圧が重畳し,特に波面の輝度が高くなっ ている。すなわち超音波伝搬時にはき裂に過大な応力が加わっ ていることを示している。 Figure 9 のピンク色・黄色と青色で示された部分において Figure 11では波面の位相が反転している様子が観測される。 Figure 11に位相が反転して見える部分を点線で示した。超音 波送波時の伝搬過程を直交ニコル状態により観測する場合,リ タデーションが大きいほど透過光の強度は大きいので,音圧に よるリタデーションと静的な応力によるリタデーションが相加 する部分は明るく,相減する部分は暗く表示される。すなわち Figure 9 のリタデーションが570 nmより小さいピンク色や黄 色の部分(縦方向の引張力の部分)と570 nmより大きい青色 の部分(横方向の引張力の部分)において,Figure 11では超 音波の引張力と圧縮力がそれぞれ観測されるため,超音波の波 面が反転して見えると考えられる。ストロボ光弾性法による超 音波音場の観測時には静的な応力による複屈折のリタデーショ ンの影響を考慮する必要があるといえる。また,可視化実験に より超音波の音圧値を測定するには静的な応力によるリタデー ションの補償が必要であると考えられる。 中の超音波伝搬の時間推移が観測できることを示した。その結 果,静的な残留応力がストロボ光弾性実験で観測される超音波 の伝搬に影響を与えることが明らかになった。 今後は音場画像から超音波伝搬による固体中の複屈折量およ び超音波の音圧の定量計測の可能性に関して検討を行う予定で ある。 参考文献 [1] http://www.engineering-eye.com/ComWAVE/ [2] 梅崎栄作:光弾性法による応力分布測定技術の現状と展望, 精密工学会誌,Vol.79,No.7,pp.607-608(2013) [3] 山本 健,超音波の光学的可視化-シュリーレン,フレネ ル,光弾性及び鋭敏色可視化法による音場の観察-,信学 技報,US2012-25,pp.29-34(2012) [4] 古村一朗,古川 敬,関野晃一:光弾性可視化法による 超音波探傷シミュレーションソフトウェアの検証,溶接・ 非破壊検査技術センター 技術レビュー,vol.3, pp.9-14 (2007) [5] 関野晃一,古川 敬,古村一朗,清水紘治:光弾性法を用 いたき裂部の周辺の超音波可視化,溶接・非破壊検査技術 センター 技術レビュー,vol.3,pp.15-19(2007)
[6] N.Kudo, H,Ouchi, K.Yamamoto, and H.Sekimitsu: A simple Schlieren system for visualizing a sound field of pulsed ultrasound, Journal of Physics: Conference Series 1, pp146-149(2004)
[7] K.Imano: Optical observation method for ultrasonic field using the shadowgraph introducing pulse inversion averaging, IEICE Electronics Express, Vol.11, No.17, pp.1-6 (2014)
[8] 今野和彦:レーザ光をプローブとして用いる超音波音場観 測,光学,44巻,No.12,pp.488-493(2015)