ドイツにおける大学基盤交付金制度
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基礎経費・アウトプット指標・業績協定―
Block Funding in German Higher Education:
Basic Funds, Output-Indicators and Performance Agreements
竹中 亨
TAKENAKA Toru
Research on Academic Degrees and University Evaluation, No. 22 (March, 2021)[the essay/material] National Institution for Academic Degrees and Quality Enhancement of Higher Education
2 .2000年前後のドイツの高等教育の規制緩和 ··· 22 3 .ドイツの大学の収入構造と基盤交付金 ··· 25 4 .基礎経費(過去踏襲・交渉方式とインプット指標方式) ··· 26 5 .アウトプット指標による交付方式 ··· 28 6 .業績協定による交付方式 ··· 31 7 .大学経営の戦略化と業績協定 ··· 33 8 .終わりに―「分権的な選択と集中」 ··· 35 ABSTRACT ··· 39
* 大学改革支援・学位授与機構 研究開発部 教授
1 本稿作成にあたっては,多くの機関や研究者の方々への面談を行った。とりわけ以下の方々の御協力に深く感謝する次 第である(アルファベット順,面談日,なお年はいずれも2019年)。
Manfred Heinemann(ハノーファー大学 Leibniz Universität Hannover,11月16日),Michael Hoelscher(シュパイアー 行政学大学 Deutsche Universität für Verwaltungswissenschaften Speyer,学術マネジメントセンター Zentrum für Wissenschaftsmanagement,11月15日),Thimo von Stuckrad(学長会議 Hochschulrektorenkonferenz,11月22日),Ralf Tegtmeyer(高等教育発展機構 HIS-Institut für Hochschulentwicklung,11月18日),Frank Ziegele(高等教育センター Centrum für Hochschulentwicklung,11月20日)。
1 .はじめに
本稿は,ドイツにおける大学への基盤交付金 Grundmittelの制度を紹介するものである。基盤 交付金は,政府が大学の運営を補助するため一括 交付する資金で,日本の国立大学への運営費交付 金もその一種である。ドイツの州立大学にとって, 基盤交付金は主たる財源をなす。これが,どのよ うな仕組みで算定され,配分されるかを紹介する のが本稿の目的である1。 昨今,わが国では運営費交付金をめぐる議論が 盛んである.日本の研究力は,しばしば指摘され るように,低落傾向が続いている。次代を見すえ て日本発のイノベーションを生み出すうえで大きドイツにおける大学基盤交付金制度
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基礎経費・アウトプット指標・業績協定―
竹中 亨*要 旨
本論文の目的は,ドイツにおける大学への基盤交付金の制度を紹介することである。基盤交付金は,ド イツの高等教育の基幹をなす州立大学にとって,主たる財源をなすものである。基盤交付金は,固定的な 基礎経費の部分と,アウトプット指標,業績協定のそれぞれから算定される成果連動的部分からなる。こ のうち,基礎経費は過去踏襲分と,インプット指標からの算定とで決定される。大学財政の安定性を考慮 して,前者の比重が圧倒的に大きい。アウトプット指標による算定では,指標数を少数に絞り,かつ算定 割当額を小規模にとどめるという方針がとられている。予算額の過度の変動を防ぐためである。大学政策 の鍵になるのは業績協定である。これは政府と個々の大学が,大学ごとの特性やヴィジョンを踏まえて目 標を定めて締結する。これにより,大学の個別性を反映することが可能になり,高等教育全体として,学 術の多様性を担保する仕組みとなっている。キーワード
ドイツ,基盤交付金,基礎経費,指標,業績協定 な役割を果たすのが大学,ことに科学技術研究で 中軸をなす国立大学である。こうして,国立大学 の教育研究を活性化することが喫緊の課題となっ ている。 活性化に向けて最大の鍵となるのが,教育研究 推進のための資金交付である。財政事情がきわめ て厳しいなか,活性化を実現するには,限られた 資金をどう配分すべきかが厳しく問われる。とく に焦点となるのが成果連動の交付方式である。こ れについては目下,賛否が分かれている。一方に は,成果連動の要素を拡充することが効率的な資 金投入を可能にし,教育研究を活性化するのに効 果的だと考える見方がある。しかし他方では,慎 重論も根強い。成果連動がそもそも高等教育にプラスになるのか,かえって大学の教育研究の基盤 を損ない,あるいは自由な研究を圧殺するのでは ないかという疑念である。 今後,運営費交付金をめぐる議論はいっそう活 発化すると考えられる。議論を深めるうえで,諸 外国で高等教育への資金交付がどう行われている かを見るのは大いに有益である。とりわけ貴重な 参考材料を提供してくれるのがドイツの事例であ る。 ドイツの例を取りあげるとなると,日本の高等 教育制度は明治以来ドイツを模範にしてきたから, という声を往々にして聞く。しかし,ここでドイ ツを取りあげるのはそのゆえではない。理由は次 の 2 つである。 第 1 に,ドイツが学術研究において,日本と同 等もしくはそれ以上の高い業績を挙げている点で ある。もっとも,これはすでに周知の事実であり, 若干のデータを挙げておくに留める。たとえばタ イムズの2020年度の大学ランキングをとるなら, ここで上位100位以内に入っている大学は,ドイツ は32位のミュンヘン大学を筆頭に 8 校あるのに対 して,日本は東京大学(36位)と京都大学(65位) の 2 校のみである(THE, 2019)。もう一つ,いわ ゆる TOP 10%論文の国際シェアの各国順位を見 ると,調査対象の27分野のいずれにおいても,ド イツは日本を上回っている(科学技術振興機構, 2017, 16)。 もちろん,ドイツの好業績は種々の要因による ものであって,大学の財務制度が主因だというわ けではない。だが,そうしたドイツがどのような 交付金制度をとっているのかという関心は,自ず から生まれるところである。 第 2 に,日本の国立大学から見たとき,ドイツ の高等教育の制度と構造が,とりわけ財務面にお いて類似している点である。ドイツの主要大学は 州立の総合大学 Universität である。ドイツには, これ以外に専門大学 Fachhochschule という種類 の高等教育機関があり,校数では58%と過半を占 める。また,私立の大学も今日では31%を占める までになっている(文部科学省,2019)。しかし, ドイツの高等教育の柱となっているのはやはり, 州に支えられる,文理諸分野の学部を擁すること の多い大規模な総合大学である。現に,大学ラン キングで挙がる大学はいずれもこの種類の大学で ある。 州立ということで,これらの大学は財政的に州 に依存するところが大きい。詳細は後段でふれる が,最大の財源となるのは州からの基盤交付金で, おおよそ収入の 7 割を占める。日本の国立大学の 場合,運営費交付金の割合は2017年で50.6%であ る(付属病院収入を除く)。これに学納金18.0%加 えると(文部科学省,2019),使途指定のない収入 が占める割合は約 7 割となり,ほぼドイツの場合 の数字と同じである2。 管見のかぎりで,ドイツの大学の財政制度を 扱った研究はわが国ではほとんどない。木戸裕や 金子勉が最近のドイツの高等教育の各局面を取り あげているが,財務面にはとくに立ち入ってはい ない(木戸,2012,金子勉,2015, 1-195)。国立 大学財務・経営センターは,欧米諸国の大学の設 置形態と管理・財政制度を調査研究したなかで, ドイツの大学の制度についてふれている(国立学 校財務センター,2002;国立大学財務・経営セン ター,2010)。それ以外に,科学技術研究に焦点を 当てたうえでのドイツの学術制度全体を捉えたも のとして,永田博の研究がある(永田,2016)。
2 .2000年前後のドイツの高等教育の規制
緩和
20世紀末に,ヨーロッパではいたるところで高 等教育の見直しが行われた(金子元久,2010)。大 きく言えば,公的財政の逼迫を背景に,規制緩和 が進められたのである。そのなかで,もともと地 方行政で用いられた行政手法であるニューパブ リ ッ ク マ ネ ジ メ ン ト New Public Management (NPM)が高等教育にも適用されるようになった。 その先鞭をつけたのはイギリスやオランダだが, ドイツも1990年代に大学制度にこれを導入するよ うになった。 ドイツでは,それ以前からも高等教育の制度 改革の試みはあったが,大きく進んだのはや はり1990年代から2000年代にかけてのことで ある。節目となったのが1998年の大学大綱法 Hochschulrahmengesetzの第 4 次改正であった。 2 ドイツの州立大学では原則として学費は不要なので,大学の収入に学納金という項目はない。同法は,連邦レベルで高等教育制度の根幹を斉一 的に定めるものである。その改正と連動して,各 州で州大学法の改正が相次いた。こうして以下の ような改革が進められた(Bogumil/Heinze, 2009, 8)。 改革の第 1 の柱は,大学への権限委譲である。 それまで,ドイツの大学は州政府からの監督下に あった。業務運営は,教育省による詳細な規制や 指導に沿って行われた。財政面でも,いわゆる官 房会計 Kameralistik の原則によって,収入支出の 両面にわたって政府の指示に服していた。つまり, 大学は完全に政府の傘の下にあったわけである。 改革によって,権限のかなりが政府から大学に 移された。たとえば,学則の制定や教授人事の承 認である。財政面では,企業会計原則が取り入れ られ,多くの大学で一括予算 Globalbudget の制 度が導入された。州からの交付金は一括支給され るようになり,大学はそれを物件費や人件費等の 区別なく機動的に投入できるようになった。大 学財政はそれまでのような単年度決算,収支均 衡,使途指定などの軛から解放されたわけである (Floren, 2017, 103f.)3。 第 2 の柱は,競争環境の導入である。政府は事 細かな監督から退く一方,成果の事後検証に集中 した。上記の大学大綱法改正は,大学を研究,教 育,若手育成,共同参画の分野における成果に即 して評価すること,さらに大学への資金交付をそ の成果に連動させることを明記している。こうし て,大学は目に見える成果をあげ,さらにそれを もって他大学と競争することを求められたのであ る。 第 3 の柱は,大学内の管理運営組織の改革であ る。ドイツの大学は,伝統的には教授主体の運営 方式だったのが,1960年代末から70年代にかけて の学生運動をうけて,成員参加型の運営に傾いて いた。その端的な表れは,参事会 Senat を始めと する学内の諸機関の役割の拡大である4。参事会 は,教授から学生まで大学の各職分グループの 代表から構成される,大学の最高意思決定機関で ある。敢えて言えば,「立法」優位の構造だと言え よう。 このあり方は,規制緩和改革を通して,「執行」 に比重を置く方式へと変わった。全学レベルでは 学長室 Rektorat の,部局レベルでは学部長室 Dekanatの権限が大きくなった。しかし,もっと も顕著な例は大学評議会 Hochschulrat の設置であ る。これは,学長室の上に置かれた執行機関で, メンバーの過半は他大学,産業界の出身者など学 外者から構成される。学長室が経常的な業務執行 を担当するのに対して,大学評議会は学長室を監 督する一方,戦略的な経営方針を策定する使命を もつ。外部のステークホルダーの声を反映させつ つ,大学経営の戦略性を高めるという点で,ドイ ツの企業統治に特徴的な監査役会 Aufsichtsrat と 類比されるものである。 大学評議会はそれまでの参事会の権限を一部吸 収したから,学長室の権限拡大と相まって,大学 中央での「執行」が拡大した。一方,参事会は最 高意思決定機関たる地位は変わらないものの,そ の実質的な発言力は低下した。 このドイツの高等教育改革は,財務面を軸とし た権限委譲,競争の要素の導入,学長等経営陣の リーダーシップ強化など,ほぼ同時期の日本の国 立大学法人化と共通点が多い。ドイツでは,いか にしてこのような規制緩和が可能になったのかは 大いに興味あるところである。その背景事情は, 筆者の面談した専門家によると,おおむね以下の とおりである。 第 1 に,全般的背景として,国家予算の逼迫が 明らかになり,高等教育の分野でも歳出削減と効 率化が必要になった点が挙げられる。その一方で, 大学進学者数の増加に見られるように,大学の社 会的使命は拡大する傾向にあった。行政はこの相 矛盾する要請のただ中に置かれたわけである。一 般論として,行政権限を手放すことに省庁側は積 極的ではない。しかし,やむをえない状況に直面 して,政府は解決策として規制緩和を選んだ。予 算を減らす代わりに,使い方は大学に任せる,と いう一種の取引である。 第 2 に,大学側でも,新たな時代状況下で大学 3 但し,消費的経費と投資的経費の間には一定の垣根がある。また人件費管理ではなく,旧来のような定数管理を行って いる州はまだあり,その場合には使途制限は残る。 4 ドイツの大学の学内組織は州,大学ごとにさまざまで,名称も一定していない。以下では,代表的な名称を挙げる。ま た,高等教育を所管する省の名称も州によって異なるので,本稿では便宜上「教育省」に統一する。
を経営していくのに,行政からの細かな規制が桎 梏と感じられるようになっていた。生涯教育を始 め,従来はなかったような新たな需要が生じてき ている一方,大学間競争は国内でも,また国際化 を通じて国外でも激化している。機動的な大学経 営が求められるようになったわけである。規制緩 和はたしかに,財政逼迫から生じる諸々の軋轢を 行政が大学側に転嫁するという面があり,大学に は負担である。だが,それ以上に経営自由度の拡 大の方が魅力だと大学側には思われたわけでる。 もちろん,規制緩和は大学側に対応する態勢が なければ進まない。権限が委譲されても,それを 使いこなすだけの能力がなければ,混乱が生じる だけである。こうして,大学の事務方トップの事 務総長 Kanzler の主導で学内体制を整備する大学 が現れた。これが第 3 の事情である。こうして大 学は,経営能力,さらに戦略的な企画力を身につ ける方向へと進んだ。 その際,これを支援する動向が外にあったこ とは見逃せない。今日,ドイツには「高等教育 センター」Centrum für Hochschulentwickllung (CHE),「HIS 大 学 発 展 機 構」HIS-Institut für Hochschulentwicklung (HIS-HE),「学術マネジメ ントセンター」Zentrum für Wissenschafts-man-agement(ZWM)など,高等教育関係のシンクタ ンク,コンサルタンシーがいくつもある。また, 学長会議 Hochschulrektorenkonferenz (HRK) も, 業務の一環として大学向けのコンサルティングを 行っている。こうした機関の活動が,大学が経営 改革を実行するうえで大きな役割を果たした。同 時に,学術マネージャー Wissenschaftsmanager と よばれる高度専門職の大学職員の養成も進みはじ めた。 第 4 に,政策面からも大学経営の戦略化を促す 動きがあった。一つは,認証評価制度である。 2007年に導入されたシステム認証は,旧来のプロ グラム認証とは異なって,学位プログラム自体を 評価の対象とするものではない。学位プログラム での教育の質を保証するための学内統制・監査体 制が整備・機能しているかを検証するものである。 したがって,システム認証を受審しようとするな ら,内部質保証の制度と実践を整えなければなら ない。そのなかで,報告と指示のコミュニケー ションの構造が学内で整備された(竹中,2020)。 もう一つは,「エクセレンス・イニシアティブ」 Exzellenzinitiative助成金の影響である。これは, 研究力向上のため,優良大学を選抜して集中的に 助成金を提供する連邦・州共同のプログラムだが, その助成の柱の 1 つが「将来構想」であった。こ れに申請しようとすれば,大学は長期計画を立案 し,重点分野を定め,目標設定と達成戦略を明確 にする必要があった5。これが,大学経営の戦略化 を促す作用を生んだわけである。加えて言えば, エクセレンス・イニシアティブは競争的資金だっ たから,諸大学は競って経営戦略化を進めること になった。 以上,ドイツの高等教育制度は2000年前後を節 目に,規制緩和へと大きく変針した。もちろんそ の一方で,与えられた権限を大学が適正に活用し ているかをチェックする必要がある。具体的には, 大学が教育研究で所期の成果を挙げているかを検 証すること,また大学が良好な成果を挙げるよう 誘導し,あるいはそのための制度環境を整えるこ とが求められる。これらは,ドイツでは「大学統 制」Hochschulsteuerung と称されている。 大学統制で焦点となるのは資金交付である。規 制緩和の後では,自立化した大学に対する統制手 段は限られるが,そのなかで財務は最大のもので ある。鍵になるのが,成果連動的要素の導入であ る。 つまり,成果連動の要素をどの程度,かついか に用いれば,大学の教育研究の活力を増進できる のかという問題に,日本と同様,ドイツも直面し ているわけである。この問題に,ドイツがどのよ うな回答を与えているのか,それが本稿の関心で ある。 本論に入る前に,以下の点を注意しておきたい。 ドイツでは,予算を含め,高等教育の制度が甚だ 多様である。教育が州の所管となっているため, 州ごとに制度や規則が異なるからである。もちろ ん,州間の相違があまりに大きくならないよう, 全体としての調整ははかられている。各州の教育 5 2006年から2017年まで 2 期に分けて実施された。助成総額は46億ユーロである。2019年からは,「エクセレンス・ストラ テジー」Exzellenzstrategie と改称のうえ,若干の制度変更を加えて継続されている(Deutsche Forschungsgemeinschaft, 2019)。
相は,「常設州教育相会議」Ständige Konferenz der Kultusminister der Länderという枠組みで定期 的に会合し,政策・制度の調整をはかっている。 その結果,たとえば大学の認証制度などはほとん ど全国統一的になっている。しかし,大学への資 金交付方法に関しては,州による相違が甚だ大き い。 加えて,大学ごとの差も大きい。14世紀に設立 されたハイデルベルク大学を筆頭に,ドイツの大 学のなかには長い歴史をもつところが少なくない。 その中で大学ごとに形成されてきた制度・慣行に は重みがあって,第二次世界大戦後に成立した現 行の高等教育制度のよく束ねうるところではない。 以上の 2 つの意味から,「ドイツの高等教育財政 制度」なるものは存在しないと言っても過言でな い。ただ,本稿は,ドイツの制度それ自体に学術 的関心を抱くものではない。日本がドイツからい かなる参考材料を得られるかに狙いを置いている。 そのため,州レベルの異同にはあまり立ち入らず に,できるだけ各州の制度に共通する枠組みに焦 点をあてて論を進めたい。
3 .ドイツの大学の収入構造と基盤交付金
ドイツの州立大学の収入構造はグラフ 1 のとお りである。ここに示すように,州からの基盤交付 金が全体の72%を占める。一方,連邦などによる それ以外の公的交付は17%に過ぎず,民間や EU からの収入も大した割合ではない。なお,連邦か らの交付金は,使途を基本的に研究に限定してお り,多くはプロジェクト型補助金である。ドイツ では基本法(憲法)の規定によって,教育は連邦 ではなく州の管轄とされているため,連邦は原則 として,教育目的には支出できない6。つまり,州 からの基盤交付金こそが,教育研究等の大学の基 幹業務を財政的に支えているわけである。 では,基盤交付金はどのように算定されている のか。ヨーロッパの大学の予算制度を概観したプ リュヴォらによれば,大学への基盤交付金につい て,多くの国ではおおよそ次の算定方式を用いて いる。すなわち,(1)過去実績・交渉,(2)算定 式,(3)業績協定で,このうち(2)はさらに (2-1)インプット指標による分と,(2-2)アウト プット指標による分に分かれる(Pruvot et al., 2015, 156)。これら 4 つの方式を理念型的に説明 すれば,以下のごとくである。 過去実績・交渉方式は,先立つ年の額を基礎に し,状況の変化などを勘案して若干の増減を行っ て額を決めるものである。あるいはまた,過去分 とは関係ないが,特殊事情による特別経費や別扱 いの施設なども,ここに含めてよいだろう。いず れにしても,具体的な額を定めるうえでは,政府 と大学との間での個別交渉が鍵になる。予算額の 変動は増減分に限られるから,財源としてはきわ めて安定的である。他方,算定根拠には不透明性 が拭えない。 算定式方式は,数値指標と算定式によって割当 額を機械的に算出するものである。取りあげるべ き指標,算定のための数式,基盤交付金のうちで この方式に割り当てる予算額を予め定めておく。 諸大学から指標値が提出されると,これを算定式 に代入して,配分額を算出するのである。充当す る予算額が決まっているので,競争する大学間の ゼロサムゲームとなる。算定の根拠が明快で,そ のためこの方式はきわめて透明性が高い。 用いられる数値指標は,その性格によってイン プット指標とアウトプット指標に分かれる。前者 は基幹的な教育研究業務に要する資源を表す指標 であり,もっとも典型的なものは在籍学生数であ グラフ 1 ドイツの州立大学の収入構造(2015年) Wissenschaftsrat, 2018, 101 グラフ1 Wissenschaftsrat, 2018, 101 72% 17% 11%ドイツの州立大学の収入構造(2015年)
基盤交付金 外部資金(公的) 外部資金(民間) グラフ1 Wissenschaftsrat, 2018, 101 72% 17% 11%ドイツの州立大学の収入構造(2015年)
基盤交付金 外部資金(公的) 外部資金(民間) 6 もっとも,この原則は徐々に緩和されており,現在では種々の形で連邦の教育への資金面での関与は強まっている。好 例は「大学協約」Hochschulpakt である。これは,近年の大学入学者増の傾向に対処するため,連邦と州が協力しつつ, 大学に財政支援を行うものである。その他,教育の質改善を目的とした連邦・州の共同プロジェクトとして,「教育質協 約」Qualitätspakt Lehre などもある。る。たとえば,学生が1000人いれば,1000人分の 教育経費は絶対に必要である。それは,予め学生 1 人あたりに要する経費単価を定めておけば,そ れに学生数を乗じることで割り出すことができる。 ドイツやヨーロッパでは,日本とは異なる事情 があって,インプット指標のもつ意味はかなり重 い。学生数が年によってかなり大きく変動するた めである。ドイツの場合,大学には元来,入学定 員の観念がない。中等教育修了資格があれば,ど の大学で学んでもよいという原則だからである。 もっとも近年は,医学など自然科学系を中心に, 入学定員を定めるところが増えた。それでもドイ ツ全国の学位プログラム中,定員の定めのないプ ログラムは 6 割に上る7。加えて,ドイツでは学生 の中途退学がかなり高率である。とくに学部段階 で著しく,学士課程の 1 年生の退学率は30%前後 の高水準である8。したがってドイツの大学では, 学生数の変動幅が大きく,またそれに応じて必要 な教育資源も変動する。インプット指標でカバー する必要があるわけである。 一方,教育研究の成果を表すものがアウトプッ ト指標である。典型的には,教育の分野では学生 の修了率,研究では博士号授与数9,外部資金獲得 高などがある。念のために注意しておくなら,イ ンプット指標とアウトプット指標は算定式方式と いう点では同じだが,成果連動か否かという点で は分かれる。前者は事前の資源投入のための指標 であって,成果の事後検証に用いられるのは後者 である。 業績協定は,州教育省と大学の間で,大学が教 育研究等の業務でどんな目標を追求・達成すべき かを協議し,それに基づいて締結する契約であ る10。業績協定は 3 年から 5 年くらいを対象期間 とし,期間修了後,目標達成の成否や程度が検証 される。検証の結果に応じて,何らかの財政的な 報償もしくは懲罰が科せられる。したがって,ア ウトプット指標と同じく成果連動である。ただ, 業績協定はその性格上,計数的な目標だけでなく, 質的な目標を含むことができる。 業績協定は,大学が目標を定め,その達否の事 後評価を受けるという点では,日本の国立大学法 人の中期目標制度と近いと言える。ただ実際には, 後段で詳述するように,業績協定はきわめて多様 であり,中期目標と単純に同一視することは適当 でない。 以上が,ヨーロッパで多くの国が採用する基盤 交付金の配分メカニズムである。ドイツの場合も, 基本的にはこれを下敷きにしていると見てよい。 ただ実際の議論では,この 4 方式のうち,過去実 績・交渉とインプット指標の分はあまり区別せず, 両者を「基礎経費」Grundfinanzierung として一 括りにすることが普通である。というのも,この 2 つはともに成果連動でないうえ,インプット指 標分は,運営の実態上からすると,過去実績・交 渉と実は大きく変わらない面があるからである。 したがって,ドイツの基盤交付金は基礎経費, 算定式,業績協定の 3 つの方式を柱としているわ けである。では,実際にこれらの方式をいかに用 いているのかを見てみたい。
4 .基礎経費(過去踏襲・交渉方式とイン
プット指標方式)
ドイツで大学への基盤交付金の圧倒的大部分を 決定しているのがこの交付方式である。後段の論 述からも明らかなように,ドイツで各大学への基 盤交付金の算定において各方式が占める割合を数 的に確言するのは不可能なのだが,過去踏襲・交 渉方式とインプット指標方式を合わせて交付金の ほとんどを占めるのは間違いない。 これらはともに成果連動ではない。大学の経常 的な教育研究活動の基盤を保証するのが目的だか らである。そう考えるなら,これらが大学予算の 大元を占めることは当然と言える。これが確保で きなければ,すぐさま教育研究の質低下という事 態を招くからである。ことに近年のドイツでは, これが重要になってきている。学生数の増加傾向 7 2019/20年冬学期で,大学入学定員制限 Numerus Clausus の対象となる学位プログラムが全プログラムに占める割合は 40.7%である(Gehlke et al., 2019, 1)。 8 ドイツの大学(総合大学と専門大学の双方を含む)での学士課程における 1 年生の中退率は,30%(2006年),28% (2010年),29%(2014年)である(Federal Ministry of Education and Research, 2006-2016)。9 ヨーロッパでは一般的に,博士課程での研究者育成は研究活動と見なされ,教育には含まれない。
10 ドイツで業績協定といえば,州教育省・大学間のものだけでなく,学内において本部と部局が結ぶもの,さらに大学側と 個人の教員・研究者が結ぶものも含む。これらは内容的には連動している面が強いが,本稿では後 2 者は取りあげない。
が続く一方で,高等教育予算がこれに追いつかな くなっているからである11。教室の飽和,施設の 老朽化を指摘する声は多い。その結果,経常的な 業務基盤を確保するだけで精一杯で,それ以外の 余裕が乏しくなってきている。 ただ,過去踏襲・交渉とインプット指標は,本 来の性格からすれば甚だしく相異なる。筋から言 えば,両者は峻別すべきである。しかし実際には, ドイツでは過去分踏襲方式がインプット指標方式 と組み合わせる形で,かなり通用している。過去 分踏襲は一見,積算根拠が不明瞭で非合理的に見 えるが,これが重用されるにはそれなりの根拠が ある。というのは,大学という組織は,価格に拠 る交換が活動の主軸でないという意味で「非市場 的」なためである。そのため,インプットや成果 の正確な把握が難しく,インプット指標が十分用 をなさない。 インプット指標を用いる場合,もっとも純粋な 方法は,原価計算によって単価を算出し,それを 員数等で乗じる方法である。たとえば学生を教育 し,修了させるという業務を考える場合,大学と してこれに要する総経費は,学生 1 人当たりの教 育原価を計算し,それに学生数を乗じることで算 出されるはずである。これは,交付金額の算定根 拠としてはきわめて透明である。 ただ現実にはこれは容易でない。原価計算には 本質的に,配賦基準の設定などで仮構的な性格が あるが,非市場的な大学ではそれがとくに甚だし く,産業界でのような精度にはならないからであ る。たとえば,投入される生産要素の正確な把握 が困難である。教員のエフォート率を把握する試 みはあるが,正確さの点では十分というにほど遠 い。 教育以外にも,大学の業務活動は多岐にわたっ ていて,成果物の形態も個別的で多種多様である。 大学の生み出す主たる成果は知識であるが,これ は価格という市場的な手段をもっては測定しがた い(Wiest, 2007, 43)。わが国でも,原価計算の問 題点については,つとに山本清が外国や諸大学の 例を挙げながらも指摘しているところである(山 本清,2007,16f.)。 原価計算はドイツでは,多くの大学で実際に行 われている。しかし,以上のような限界から,政 府からの交付にせよ,学内での予算査定にせよ, 主たる資源配分手段として使われている例はほと んどないというのが専門家の一致した見解である。 原価計算は参考程度に,学位プログラム新設の際 などに用いられる程度だという。 実際,ドイツの原価計算のマニュアルを見ても, 形式的な操作に終始している印象は拭えない。大 学特有の組織構造にそぐうコストセンターの設定 法は何なのか,施設経費の配賦を利用実態にどう 近づけるのかというような核心的な点についての 説明は見当たらない(Wiest, 2007)。 仮に,原価計算を精密化できたとしても,さら に別の問題点がある。およそ算定式方式は本来, 決められた予算枠の中で大学間競争を行わせるも のであり,ゆえにゼロサムゲームである。した がって,いかに自学が好業績を挙げても,他学が それを上回る業績を挙げれば,取り分は減ること になる。これは,大学へのインセンティブを減退 させるだけではない。教育資源の実需を賄えない わけだから,教育研究の基盤に食いこむことにな る。 これを避けるための方策として,単価式のイン プット指標方式がある。たとえば修了生数を指標 にとる場合, 1 人あたりの交付金額を定めておき ――もっとも,これをどう定めるかはかなり問題 ではある――,この単価を実際の修了生数に乗じ て交付金額を算定するわけである。ドイツでも, ヘッセン州が交付金の80%を,単価式インプット 指標で決定する制度を採用したことがある(用い られたのは,標準修業期間学生数)。単価式の問題 点は,各大学がこぞって好成績を挙げた場合,予算 総額が膨張する点である。ヘッセン州もこの問題 に逢着して,結果的には制度を放棄した(Ziegele, 2008, 33)。 以上の理由から,インプット指標は客観的な資 源配分にはさほど役立たないと言える。そこで, 実際的な算定に過去分踏襲方式が用いられること になる。前年度に大学は,そのときの予算をもっ て活動をひとまず円滑に実施できたわけである。 そうだとしたら,その額には一定の合理性があっ たと想定しても,そう誤ってはいないというわけ 11 連邦・州の高等教育予算は近年,絶対額では増勢を続けているが,学生 1 人当たりに換算すれば減少している(Dohmen/ Krempkow, 2014)。
である。インプット指標も実態としては,過去分 からの類推などから,まず「常識的」なインプッ ト額を想定し,そこから逆に指標を操作する,な どということが少なくないようである。過去踏 襲・交渉方式とインプット指標方式を一括して扱 う所以である。 もっとも,大学統制という点では,この両方式 は大きな役割は果たさない。大学の経常的な活動 を保証するものだから固定的であり,教育研究活 動を活性化する作用はあまり期待できない。そこ で問われるのがアウトプット指標と業績協定の 2 つの交付方式である。
5 .アウトプット指標による交付方式
アウトプット指標による交付は,ある意味では 成果連動の典型である。わが国でも,運営費交付 金制度についての議論では,アウトプット指標に 注目が行くことが多い。 ドイツでも,この交付方式は広く用いられて いる。ベルリン州での制度の詳細が知られるの で,以下それを紹介する12。同州はベルリン自由大学 Freie Universität Berlin,フンボルト大学 Humboldt-Universität,ベルリン工科大学 Tech-nische Universität Berlinの 3 つの総合大学を抱 え,それ以外に専門大学 5 校,芸術系大学 4 校の 州立大学をもつ。ベルリンは大学統制では比較的 先進的な州で,ベルリン自由大学はかつて,最 も企業家的な大学との評価を受けたことがある (Kühlcke, 2008, 107)。 ベルリンでは,州内諸大学への交付金のうちか ら,消費的交付金について,特定設備の整備など 特別経費を控除した後,30%を指標に基づく算定 式方式に割り当てる。まず大学を総合大学,専門 大学,芸術系大学の種類ごとにグループ化し,そ のうえでさらに各大学内の学部を学系ごとにグ ループ化する。学部構成面の違いから,大学間で 不公平が生じるのを防ぐためである。総合大学の 場合の学系グループは人文社会系と理工系の 2 つ である。学系グループ内で,各大学は算定式割当 て分の予算の獲得を競うのである。そこで諸学部 が獲得した交付金の合計が大学への交付金総額と なる。学系別グループの方式は,ニーダーザクセ ン州やノルトライン・ヴェストファーレン州でも 採用されている(Riese, 2007, 182, 186)。 業績評価の対象となるのは,表 1 に見るように, 教育,研究,共同参画の 3 領域で,それぞれに数 的指標が定められている(但し,標準修業年限在 籍者の率のように,すべてがアウトプット指標で はない)。領域にも指標にも,それぞれ意義に応じ た重み付けがされている。この表に即して,各指 標についてそれぞれの大学から提出されたデータ を計算して学系別の配分を決め,それを合算して 諸大学への交付額が決定される。 この表で注意を惹くのは,用いられている指標 の種類があまり多くないという点である。たしか に表中には,指標は 3 つの分野に分けて11個挙げ られている。しかし,制度の透明性から,指標の 数はこれよりさらに減らすべきだとの意見もあり (Jaeger/In der Smitten, 2009, 97.),実際,同州で
はその後大幅に減らした13。加えて,付されてい る重みからすれば,教育については修了関係の指 標(修了率と標準修業年限修了率),研究について 表 1 ベルリン州における算定式指標の構成(2008年現在) 領域 配分(%) 指 標 (%)係数 教育 50 修了率 50 標準修業年限修了率 30 学生数中の標準修業年限在籍者の率 10 国際化率 10 研究 45 外部資金額 70 博士号授与数 20 国際化率 10 共同 参画 5 新規招聘者中の女性比率 40 女性教授比率 20 修了者中の女性比率 20 博士号取得者中の女性比率 20 Jaeger/In der Smitten, 2009, 13
12 以下の説明は,同州の交付金制度の評価報告書である Jaeger/In der Smitten, 2009による。なお,現行の業績協定(Land Berlin/Freie Universität Berlin, 2018)を見ると,ベルリン州の算定式制度にはこの報告書刊行以後,大きな変更があっ たことが分かる。主たる変更点は,単価式の採用,学系グループの再編,指標の入れ替えなどである。ただ,新制度に ついては全貌が不明なので,本稿では上の報告書に従って同州の制度を説明し,必要な場合にのみ,その後の制度変更 についてふれることにしたい。
13 現在用いられている指標は,教育領域で 2 ,研究領域ではわずか 1 である(Land Berlin/Freie Universität Berlin, 2018, Anlage 1)。
は外部資金獲得額が決定的である。したがって, 指標の総個数はともかく,これら 2 つが事実上, 配分を左右していると言ってもよい。 この傾向はベルリン州だけに限ったものではな い。ドイツ全16州のうち,ほとんどの州で算定式 方式が採用されているが,データの得られる13州 について,やはり修了関係の指標と外部資金が大 きな重みをもっていることが知られる(表 2 )。ま たイェーガーによれば,ドイツの大学でのアウト プット指標の一般的傾向は以下のごとくである。 すなわち,研究よりも教育に関連するものが多用 される。教育で好んで用いられるのは標準年限内 の在籍者数や修了者数であり,研究では外部資金 獲得高,博士号授与数,教授資格授与数である。 一方,論文等の研究成果発表はあまり利用されて いない(Jaeger, 2008a, 54)。 研究について,アウトプットそのものと言える 研究成果があまり用いられないのは興味深い。実 はベルリンでは,この点の検討が一時真剣に行 われ,総合大学を対象に2008年以降,刊行物等 を指標に組み込む予定であった(Jaeger/In der Smitten, 2009, 47)14。ところが,その後この試み は放棄された15。詳しい経緯は不明だが,諸分野 の特性を反映した指標は考案至難なのに加え,む しろモデルの透明性を重視すべきだという観点に よるものと想像される。 修了関係の指標が好んで採用される理由は,ド イツで大学改革論議の焦点となっていたのが中途 退学と在学期間過長だったからである。この 2 つ の問題の改善が,大学教育の質向上の最大の課題 と目されていた。外部資金が研究の質を表す指標 として重視されていることは,わが国ではいささ か違和感を覚えるところであろう。もっとも,ド イツでも批判が少なくなく,とくに不利になりや すい人文系などからは強い反発がある16。 アウトプット指標方式の統制効果は,予算全体 表 2 各州の算定式指標の構成(2015年現在,数字は重み付けの係数 %) 州 新入生数 修了者数 標準修業年限学生数 留学生数 博士号授与数 外部資金獲得高 教授資格授与数 教授数女性 バーデン・ヴュルテンベルク ― 30 ― ― 10 35 ― ― バイエルン ― 20 8 ― 5 17 5 19 ベルリン ― 25 15 5 9 32 ― 3 ブランデンブルク 3 40 ― 10 ― 30 ― 7 ブレーメン ― 27 ― 15 ― 35 ― ― ハンブルク 10 ― 35 20 35 ― ― ― ヘッセン メクレンブルク・フォアポマーン 3 20 ― 23 5 45 ― 5 ニーダーザクセン 10 36 ― 1 ― 36 ― 2 ノルトライン・ヴェストファーレン ― 50 ― ― 10 40 ― ― ラインラント・ファルツ ― 23 23 ― 3 30 3 5 ザールラント ザクセン ― 11 11 ― 17 17 17 ― ザクセン・アンハルト シュレースヴィヒ・ホルシュタイン ― 40 ― ― 10 40 ― 10 テューリンゲン ― 20 20 ― 10 20 10 ― Dohmen, 2015, 27 空欄は,その州が異なった制度を採用しているため,当該データが存在しないことによる。 総和が100にならない州があるが,理由は不明。 14 専門大学については,当初より研究業績を単純に件数で数える指標が導入されていた。これは,専門大学には工学系を 中心とするものが多いため,相異なる種々の専門分野の特性を考慮する必要がないためと考えられる。 15 2018年から始まった現行の制度で用いられている研究領域での指標には,刊行物は含まれていない。ちなみに研究での 現行の指標は唯一,外部資金獲得額(受賞を含む)のみである(Land Berlin/Freie Universität Berlin, 2018, Anlage 1)。 16 一例として,Plaggenborg, 2019がある。但しドイツでは,外部資金には通例,ドイツ研究振興協会 Deutsche
のうち,どの程度をこれに割り当てるかに大きく 左右される。上述のごとく,ベルリンでは30%で ある。諸州での成果連動への割当ての比率は表 3 のごとくである。これによると,ベルリンは諸州 中で最高であり,それ以外にも20%前後という州 は少なくない。しかしその一方では,ザクセン州 の1.4%,バイエルン州の1.45%などという数字も あり,両者の間には大きな開きがある17。 しかし現実には,これほどの差はないと見てよ い。成果連動への割当額と実際の変動額は同一で はないからである。実際の交付額の算定にあたっ ては,年によって金額が大きく変動しないよう, いろいろ手立てが講じられる。もっとも典型的な のは変動幅制限を設ける方策だが,それ以外にも, たとえば指標のとり方で配慮する,算定式中の係 数を小さくする,などの裁量の余地があるようで ある。 ベルリン州の場合も,大学への交付金が年に よって30%増えたり減ったりするわけではない。 結果的に,ベルリンでは総合大学への額の変動 は,2002~08年の実績でプラスマイナス 1 %に収 まっている。変動の大きい芸術系大学でも,マ イナス 3 %からプラス 6 %である(Jaeger/In der Smitten, 2009, 22)。しかも,この芸術系の数字で も,評価者は振れが大きすぎると見ており,およ そ10%にも上るような減額幅は避けるべきだと評 している(Jaeger/In der Smitten, 2009, 26)。した がって,成果連動による交付額の通例の変動幅は せいぜい数%と見てよい。 以上を約言すれば,ドイツではアウトプット指 標は少数に留め,かつそのもたらす影響を小規模 に抑えているという方針が看取できる。このうち, 後者の方針の理由は明らかである。インプット指 標に関して見たように,大学財政の安定性を損な わないためである。年によって交付金収入が大き く変動するなら,安定した教育研究活動など不可 能だからである。 われわれの関心を惹くのはむしろ前者の方針で ある。わが国のアウトプット指標についての議論 では,大学の独自性や専門分野の特殊性を反映さ せるよう,精妙な指標を多数組み合わせて用いる べきだという意見が強いからである。 ここで問題になるのは,アウトプット指標のも つ長短所である。この点を,ドイツでは十分勘案 しているようである。およそ算定式方式の長所は, 配分の基準・手順がだれの目に明らかだという透 明性である。この長所を活かすには,共通する指 標をできるだけ広範・一律に適用するのが望まし 17 この表では,ベルリン州の数値は27.78%となっており,本文中の記載と異なる。おそらく,算定式による配分にかける 前に行う,特別事情による調整を反映した数字かと思われる。 表 3 各州の成果連動割当て分の全交付金に占める割合 州 割合(%) 発効年 バーデン・ヴュルテンベルク 20.00 2007~09 バイエルン 1.45(総合大学),0.57(専門大学) 2010 ベルリン 27.78 2008 ブランデンブルク 20.40 2007 ブレーメン 10.00 2006 ハンブルク 12.00 2007 ヘッセン 16.00 2008(2010年までは25%) メクレンブルク・フォアポマーン 8.00 2009 ニーダーザクセン 9.71 2008 ノルトライン・ヴェストファーレン 19.42 2007 ラインラント・ファルツ 17.40 2005 ザールラント 5.00 2009 ザクセン 11.75(総合大学),11.00(専門大学) 2010 ザクセン・アンハルト 1.40 2006 シュレースヴィヒ・ホルシュタイン 5.00 2011(2013年までは15%) テューリンゲン 19.00 2009(2011年までは40%) Dohmen, 2015, 7
い。共通一律では個別性が切り落とされるという 反論はむろん誤りではない。しかしだからといっ て,極端な例だが,大学ごとに指標を設計すれば, そもそも算定式を用いる意味はない。 要は,共通性と個別性のバランスをいかにとる かである。この点は,ドイツでもさまざまな苦心 が窺える。たとえばザールラント州のように,算 定式をまったく用いないという選択もある。同州 は小規模州で州内に総合大学は 1 校しかないため, 共 通 の 指 標 を 設 け る 意 味 が な い か ら で あ る (Ziegele, 2003, 4)。ブレーメン州も小規模で大学 数は少ないが,ここでは算定式を用いている。但 し,大学の種別を越えて単純に大学全体に適用す ると,特性や格差を無視することになるので,所 定基準の達否ではなく,各大学が自ら設定した目 標値との乖離という達成度を指標に使っている。 また,指標を 2 分して,どの大学も義務として課 せられる必須指標と,大学が自学の事情に合わせ て選択できる選択指標の 2 グループに分けている (Garbade et al., 2008, 79-96)。 他方,アウトプット指標のもつ種々の「副作用」 についても指摘がある(Jongbloed, 2008, 16-35)。 第 1 に,教育研究の業績を適確に示す指標は容易 に見出しがたい。そもそも学術が数値で測れるの か,という批判は正当である。そこで,指標を改 善すべく,定義を厳密化するなど努力を重ねるこ とも多い。だが,仮にそれで精緻な指標を案出す ることはできても,往々にして収集コストが釣り 合わない。 第 2 に大学の側での取組を固定化する方向に作 用する点である。たとえば留学生比率を指標にす れば,大学側は留学生獲得への努力を強化するだ ろう。半面,他の取組,とりわけ新規の企画には 眼が行きにくくなる。大学に内部留保の蓄積がな く,自力で将来企画を実行する財政的余力が乏し い場合には,この副作用は大きく響く。 第 3 に,大学間格差を拡大する作用をもつ。好 業績をあげた大学は,次期に交付金配分が増える。 その結果,その取組にさらに資源を投入すること が可能になり,業績をさらに伸ばすことが可能に なる。一方,業績不良の大学は,次期の事業展開 が窮屈になり,業績がさらに悪化しかねない。つ まり,「勝者」はますます栄え,「敗者」はいよい よ窮するというスパイラルが生じるわけである。 第 4 に,指標の設定によっては,大学間の多様 性を損なう副作用がある。極端な例として,研究 面での指標をイノベーションに向けた応用研究の 指標のみに限るとする。そうなれば,どの大学も 研究活動をイノベーションに向け,基礎研究を軽 視する方向に歩むだろう。多様性の下での競争が 学術の活力の源であることを考えるなら,これは 由々しき事態である。 アウトプット指標には,大学統制面で強い効果 が期待できる半面,「副作用」もまた無視できない という二律背反がある。肝要なことは,この両者 のバランスをいかにとるかである。アウトプット 指標の扱いを少数・小規模にするというドイツの 方針は,それへの一つの解だと考えることができ よう。
6 .業績協定による交付方式
業績協定も同じく成果連動の交付方式だが,ア ウトプット指標のもつ問題点を補う面が多い。し たがって,両者を組み合わせて用いることで,そ れぞれの短所を補うことができる。業績協定はド イツでは大学統制の手段として重視され,ほとん どの州で大学法の中でこれを定めている。 特徴の第 1 は,大学ごとの個別性を汲みとれる 点である。通例,業績協定は教育省と個別大学と の間で結ばれるものである。したがって,そこに 盛りこむ目標は,当然大学ごとに異なるし,また そのゆえにその大学の独自性を反映することにも なる。個々の大学のヴィジョンや戦略,特性や事 情が活かされるわけである。学術の多様性を確保 するうえで,これはきわめて重要である。 第 2 に,アウトプット指標と異なって,業績協 定では質的な目標をカバーできる。計量化しがた い取組も目標に掲げることができるし,それを質 的に評価することも盛り込める。非市場的な組織 たる大学としては,この点はきわめて重要である。 もちろん必要な場合には,数値目標を盛りこむこ とも可能である。上述のような全般的なアウト プット指標以外の,その大学との間で個別に合意 した目標値などである。 第 3 に,将来志向だという利点がある。アウト プット指標では,その時点までに挙げた成績だけ が問われるのに対して,業績協定では将来性を盛 りこめる。たとえ,過去に当該の領域では実績が皆無だったとしても,今大学が,将来に向けた戦 略的取組として,十分な実現可能性で裏打ちされ た計画を策定できるなら,それを評価し,目標と して業績協定に盛り込むことが可能である。 第 4 に,大学運営の安定性を保証する面がある。 業績協定は通例,双務的な契約の形をとる。大学 側が一方的に目標達成を約束するのではなく,政 府側も大学に対して,達成に向けた努力を約束す るのである。具体的にはこれはほとんどの場合, 必要な予算の約束である。業績協定は 3 ~ 5 年を 対象期間とすることが多いから,つまり予算もそ の間固定されることになる。これは,大学にとっ ては計画的な財務運営を行ううえで大きな利点で ある。この約束が破られることは滅多にない18。 第 5 に,大学の経営的自主性を尊重する点であ る。業績協定には通例,達成すべき目標は掲げて も,それをいかに達成するかという手段や取組ま では記さない19。目標を定め,事後にその達否を チェックすることに政府は関与するが,目標をど う達成するかは大学の裁量であり,これに干渉す るのは大学の経営的自律を侵害するという考えに よる。これは,現場にいる執行機関に裁量を与え たほうが事業遂行の経済性を高めうるという NPM の考えにも沿っている。 業績協定には一般に,以上のような特徴がある が,現実に締結・運用されている業績協定は形 態・内容ともにきわめて多様である。教育省が州 全部の大学と一括して結ぶ場合もあれば,個別の 大学と個々に結ぶケースもあるし,また両者が併 用されることもある20。また,上述のように,個 別的な数値指標を含む協定もあれば,高等教育全 般についての基本姿勢を謳う趣旨のものも見られ る。 対象範囲の点でも多様である。総合的な性格の 業績協定では,取りあげられる目標は,教育,研 究,若手育成,共同参画から建物・施設管理にま で,大学の全活動分野に及ぶ。他方,個別のテー マにのみ目標を絞った協定もある。たとえば,大 学の革新的な取組に焦点をあてたものや,近年の ドイツでは大学進学者数が著増していることから, 学生受入れ数の拡大のみを定めた協定も少なくな い。また総合か個別かによって,対象となる予算 も当該大学全体への予算か,それともその一部に 限るかが左右される。 アウトプット指標の場合と同じく,業績協定で も事後に成果の検証が行われ,その結果は財政的 な面に反映される。通例は,次の協定を結ぶ際に 前の期の成果を勘案するという方式が多いようで ある。もっとも,成果不良が著しい場合には協定 期間の最中でも交付金の減額や停止を定めるとい う協定もある。たとえば,ザールラント州が 2008~10年にザールラント大学と実施した業績協 定では,期中に目標未達が明らかになった場合, まず交付予定額の10%が支払い停止になる。その 後,成果が改善すれば,段階的に停止が解除され る と 定 め て い る(In der Smitten/Jaeger, 2012, 62f.)。さらに,既払い分の返金を大学に求める協 定も見られないことはない。逆に,目標を上回る 成果を挙げた場合には,交付金の積み増しを定め るケースもある。 業績協定は広く用いられおり,また大学統制の 中心的な手段と目されてもいる。むろん課題も少 なくない。最大の問題は,目標の達否,あるいは 達成の度合をいかに検証するかという問題である。 とくに質的目標の場合には,達否基準を一義的に 定めるのは容易でない。しかし,基準が明快でな いと適確な成果検証は不可能であり,ひいては統 制手段としての効力にも疑問が生じる。 そのため,協定締結に際しては,目標をできる だけ可測的な形で表現するよう努力が払われる。 たとえば,ニーダーザクセン州とハノーファー 大学が結んだ協定はその好例である。協定中の 目標の 1 つに,大学内の生産技術センターの競 争力増強がある。競争力は可視的ではないため, 協定ではそれをポスト新設の形に置き直してい る。すなわち,定められた期日までに同センター 18 高等教育を含めて,ドイツの州の予算は年度ごとに定められ,議会の承認を要する。ただ,下段に述べる,中期的な高 等教育の予算枠を定めた学術総合計画も議会の承認を経たものなので,議会もこれに拘束される。 19 たとえば,ニーダーザクセン州教育省は,業績協定に関して「目標達成のために用いられる施策は,州・大学間の業績 協定の対象ではない。約定されるのは達成すべき目標のみである。いかなる施策を講じるかは大学に委ねられる」と明 言している(Niedersächsisches Ministerium für Wissenschaft und Kultur, n.d.)。
20 たとえば,バーデン・ヴュルテンベルク州の業績協定「展望2020」は,州内諸大学との集合的なタイプのものである (Land Baden-Württemberg/Hochschulen des Landes Baden-Württemberg, 2015)。
内にポストが 2 つ以上新設された場合,競争力 増強という目標が達成されたものと見なすとし ている。それ以外にもこの協定では,同様の質 的目標については,「……された場合,達成さ れたものとする」という文言が随所に見られる (Niedersächsisches Ministerium für Wissenschaft
und Kultur/Universität Hannover, 2019)。達否基準 を具体化しているわけである。 もっとも,実際にすべての業績協定で目標の可 測化が実現しているわけではない。他州の協定の なかには,「深化する」や「整備する」等の文言を 多用しているケースも見られるという(In der Smitten/Jaeger, 2012, 81.)。また,業績協定では 原則として達成すべき目標のみを記し,達成手段 たる取組は除外するというが,現実には両者は区 別しがたい。取組自体が有意味な目標たる場合も あるからである。業績協定で取りあげる目標を, 理念,アウトカム,アウトプット,取組に分類す ることで整理をつけようという問題提起はあるが (Müller-Böling/Ulrich Schreiterer, 1999),それで 目標と取組の混同を避けられるとは考えにくい。 つまり以上のように,目標を検証可能な形で設定 できるか否かという点で,業績協定には大きな課 題が付随している。
7 .大学経営の戦略化と業績協定
業績協定は大学統制の手段としてどの程度有効 なのだろうか。そこでまず問われるのは,その対 象となる予算が基盤交付金全体に占める割合だろ う。実はこれに一義的に答えることは不可能であ る。というのも,他の交付方式と相互排他的に設 定された,理念型的な業績協定は現実にはあまり 存在しないからである。多くは,一部に計数的な 成果目標を含んでおり,したがってアウトプット 指標の算定式と重複する。場合によっては基礎経 費に関する条項を含むこともある。この場合,業 績協定は資金配分の方法というより,配分をどう いう形で約定するかという形式でしかないとも言 える。また,大学の全活動ではなく,その一部の みをカバーする業績協定も決して少なくない。 それでも,総体的に言えば,業績協定の占める 割合は必ずしも高いものではなさそうである。専 門家の見積りでは,10%程度だという。アウト プット指標の場合にも,実際の変動幅はそう高く なかったことを考えるなら,これはそう不思議な 数字ではあるまい。 統制手段としての効力を見るうえでもう 1 つの 重要な要素となるのは,成果検証の厳密さとその 後の措置である。これについても一義的な判断は 難しい。たいていの業績協定では,大学に目標達 成の度合についての報告を毎年,教育省側に行う よう求めている。また上述のように,達成基準の 明確化に務めているニーダーザクセン州や,未達 時の罰則規定を定めているザールラント州のよう な例もある。しかし他方では,ずっと緩やかな運 用も稀ではないようである。 たとえば,バイエルン州とミュンヘン大学の間 の業績協定はその一例である。この協定でも,た しかに達否を測る観点には数値的なものが多い。 しかしながら,それについての目標値が示されて いることはほとんどなく,したがって達否基準が 明確でない。具体的な例でいえば,「非大学研究機 関との協力」という目標について,観点として発 表論文数が挙げられている。しかし,では何本発 表すれば目標達成と判定されるのかは示されてい ない。成果検証についても曖昧である。政府と大 学が共同で行うとあるだけで,方法や手順はまっ たく言及がない(Bayerisches Staatsministerium für Wissenschaft und Kunst/Universität München, 2019)。最終的な判定も機械的でなく,むしろ大学 との話合いを踏まえて省側が裁量で決定するとい う色彩が濃い。 したがって,財政上の誘導効果という点では判 断を保留せざるをえない。ちなみに,業績協定に 限らず,広く成果連動の交付方式の効果につい て,ドイツではこれまで若干の研究があるが,論 者の多くは慎重な見方をしている(Jaeger, 2008b; Krempkow/Schulz, 2012; Dohmen, 2015)。 しかし,それでも大学側,政府側の関係者は 業績協定について,総じて高い評価を下してい る(In der Smitten/Jaeger, 2012, 77)。では,どこ に業績協定の意義はあるのか。大学経営の実務者 にとっては,それは経営関連のデータの透明性を 高め,さらに「一般的には関係者の戦略的思考を 強める」という点にある(In der Smitten/Jaeger, 2012, 74)。これをさらに敷衍するなら,以下のよ うになろう。州政府と業績協定を結ぶにあたっては,大学はま ず自学の基本理念や将来構想を明確化し,そのう えで目標を選定しなければならない。それをふま えて,その達成のために学内のどの資源をどう動 員するかを決定することになる。さらに,目標と 計画について学内の関係部署との間で意思疎通を はかり,合意することも必要である。一方これに 対応して,学部の側でも経営体制を整えることに なる21。さらに,業績協定を履行する過程でも同 様に,大学全体を経営する能力を問われる。こう した過程を経て,大学は一箇の経営単位として動 く体制と能力を得ていくと考えられる。 この関連で注意したいのは,ドイツの多くの大 学では,政府との対外的な業績協定をうけて,学 内でも本部と部局の間で業績協定を結んでいると ころが少なくないことである。学内協定には,対 外協定中の目標が取り入れられることが多い(In der Smitten/Jaeger, 2012, 73)。というのも,対外 的に約束した目標を達成するためには,その目標 達成のための体制を学内でも整えるのが近道だか らである。こうして,学内でも戦略的に目標を設 定し,それを達成するという方向で体制が組まれ る。その観点から,学内での資金配分についても 算定式などを用いたルールを定めている大学は多 い22。表 4 は,ベルリン自由大学の学内配分の算 定式である。指標構成は対外的な業績協定(表 1 ) とほとんど同一である。 さらに,大学経営と州政府の高等教育政策との 連動という面にも注意したい。多くの州では,高 等教育政策,科学技術政策のグランドデザインた る学術総合計画を大学との協議のうえで定めてい る23。業績協定は通例,これを下敷きにして協議・ 策定される。つまり,各大学は,州レベルのグラ ンドデザインという「親協定」の枠の中でそれぞ れ独自性を展開するようになっているわけである。 これによって,各大学の自律が単なる無秩序に堕 すのでなく,州全体としての方向性のなかで学術 の多様性が発展する仕組になっている。 以上のように考えるなら,業績協定は,第 2 節 でふれたエクセレンス・イニシアティブやシステ ム認証と同様に,ドイツの大学運営の戦略化に大 きな貢献をしたと考えることができる。 表 4 ベルリン自由大学での学内資源配分の算定式(2008年現在) 領域(配分 %) 基 準 係数(%) 教育(50) 稼働率:標準修業年限在籍者数/定員数 10 修了率:標準修業年限修了者数/同学年学生数 50 標準修業修了率:標準修業年限+ 2 セメスター修了者数/全修了者数 30 国際性:外国人修了者数(学位取得者)/全修了者数 10 研究・若手育成(45) 外部資金獲得高:当学部外部資金獲得高/全学外部資金獲得高 60 刊行物:当学部刊行物(点数)/全学全刊行物(点数) 10 博士号授与数:当学部授与数/全授与数 20 国際性:当学部フンボルト助成金・受賞者数/全同助成金・受賞者数 10 共同参画( 5 ) 新規の無任期招聘者数 26.4 教授中比率:全教授中の女性教授比率 22.1 博士号授与:全授与数中の女性への授与数の比率 14.7 若手育成:当学部 W1+W2(有期)+C2/全学 W1+W2(有期)+C2 36.8 Jaeger/In der Smitten, 2009, 91
文中の W1,W2,C2 は,官吏俸給制度中の俸給等級を示し,どれも比較的若年者向けの等級である。 21 ハンブルク州の例として,Sager, 1999.
22 2003年の調査では,対象大学のうち,85%が学内資源配分に算定式をすでに利用しており,12%が近々に利用開始の予 定であった。学内業績協定を導入もしくは導入予定の大学は半数以上だった(Ziegele, 2008,74; Jeager, 2008a, 56)。学内 資金配分の種々の具体例については,Ziegele/Güttner, 2008.
23 たとえば,ニーダーザクセン州では,「大学発展契約」として中長期的な高等教育政策が州政府と州内諸大学との間で締 結されている(Land Niedersachsen/Niedersächsische Hochschulen, 2013)。同様にバイエルン州には,「大学イノベー ション同盟4.0」がある(Bayerische Staatsregierung/Bayerische Hochschulen, 2018)。