Japan Society for Science Education (JSSE)
NII-Electronic Library Service
Japan
Sooiety for Soienoe Eduoation (JSSE }
1977
年 度 日本 科学教 育学 会年 会 研究 発表 会
気 象
教 材
の
性 格
に
つ い て
島
貫 陸
(東 京 学
芸
大 学
)
/
,
は じ め に
気 象学 は
、
そ れ 自身
一
つ の総 合 科 学で ある
。
理 論気 象学
が 物 理 学に基 礎 をお い て いること は も ち ろ ん
、
大 気 汚 染の
科学が化学
、
生 拗 学 か
’
ら 経 済 学に ま で鬨 係 を も ち
、
観 測 か
ら予 報 に 至 る気 象業 務は情 報科 学を駆 使し た大 型 情 報シス
テ ム で あ り
、
ま た 生活環 境の気 象 は 生 理 学 や 心 理 学 と もつ
な が り を 祷っ ているe 現 に 初 等中等教 育の教 科 書にも、 多
か れ少かれこれ らの いろい
.
ろの観点か ら の記述 が 見いだ さ
れる
。
これ ら の観 点を変え る と様々 な気 象 轍 育 がで き る の
で
、
気 象 教 育の あ り 方 を論ず る に は
、
こ れ ら の ど の よ うな
立 腸 に 立つぺ き か を、 まず 明 ら かに し な けれ ば な ら ない
。
し か し
、
た と え ば物 理 学 的な気 象 教 育が よ い か 否 か を 論
ずる には
、
物 理 学 的 な 気 象 学 と は どのよ う な もの か
、
に つ
い て正 し い 理 解 が 必 要 で あ り
、
実 は こ れ が結 構むずかし い
こ とで あ るe 気 象 学の基 礎で あ る 力 やエ
ネルギー
の概 念は
黝理学か ら与えら れたもの であ る が
、
そ の 先の多 くの議 論
は少 く と も 學 校の働 理 教 膏の内 容か ら は かけ離れ て い る
。
高 校 まで の敦 科 書の気象 関 係の記 述に お い て数 多 く の 誤 り
が 見 出 さ れ る が
、
そ れ は 蔓 象 數 育の専 門家 が少なす ぎる こ
と が 第
一
の理 出であ ろ う が、 物理 関係 者の協 力だ けでは解
決 し ない内 容 が多いということ も あ ろ う
。
誤 りはカやエ ネ
ル
ギー
に関し た 議 論 に おい て特に多いが
、 これ ら が 高 校 ま
で の歡 育の主要 テ
ー
マ である だけ に
、
事 は 重 大で あ る
。
ま
ずそのよ う な例 を い くつか あ げ て
、
誤 りの生 じた原因 を さ
ぐっ てみ よ う
。
2
・
力 とエ ネル ギ
ー
地 衡風 は 気 斑傾慶力と 転向 力と が釣 合っ た 状 態の と きに
吹 く 風で/i 上 空の風の近 似 的 衰 現と し て よく 用いら れ
、
気
象 教 育の 基 礎 に おか れ て い る
。
高 校 數 科 書 を 含 む い くつ か
のテ キスト に おい て
、
次のよ う な 説 明 が 行 われ て い る
。
「
等 圧 線 が直線で平 行 に 走っ ていると き、 は じめ 静 止 し てい
た空 気塊 は、気圧傾 度 力を う け て 等 圧 線 と 直角に、 気 圧の
低い方 に 向け て動
き
出 し
、
速 度 が増すに つ
れて転 向 力 も 大
き く な る ので
、
し だ い に 有 に まが り、 転 向力 と気圧 傾度 力
が釣 合う と
、
等 圧線に平 行 な 風 に なる
。
そ れ が地 衡 風であ
る (図
1
上 参 照)
。
」こ の記 述 が 誤り で あるこ と は
、
高 橋
(1976 )に よっ て 指摘 さ れ て い る
。
こ の ような モ デ ル で は
転 同 力 と 気 圧 傾 度 力と は い つ ま で た っ ても 釣 合 わ ない
。
高
橋は 運 動方 程 践 を 解 く こ と に よっ
t 、
その解が図
1
下の よ
し
/
A
A
.
一
H
図
1
地衡 風
。
上 は 慣 用図
、
下は運 動 方 程 式の解
。
う な サ イ クロイ ドに な る こと を 示 し た
。
誤 り を ひき起こ し
た 原 因 は、気 圧 傾 度 が 存 在 す る 所で空 気が 静止し て いる と
いう 非 現 実 的 な 前提か ら 出 発し て い る点 に あ り
、
そ れは気
圧の鴇が先に決っ てそ の 結 果 と して風が吹く と い う 誤っ た
考え方に範因 し ている
。
あ る蒋点 で の気 圧 と 風の場 から
、
次の 時 点 の 気 圧 と 風 が 同時に決 ま る
、
と 考えるべ き で
、
気
圧と風の ど ちら か
一
方 が 他の原 因と な っ て い る わけでは な
い
。
また
、
定 常状態の説 明 の た め に
、
謹 論的にはそれ よ り
も は るかに高 級 な
非
定 常 状態の説 醐 を 用 い よ う と し たこと
にも 問 題 があ る
。
戸
が地 球 に 落 ちて こない こ とを 説 朋 す る
の に
、
静止の状 態 を 想 定 し て、 非 足常の閥 題 と し て 説 明 す
るで あ ろ う か。 地 衡 風も
、
定 常 運 動の力の釣 含いの 問 題 と
し て 扱 え ば 十 分である
。
地 面の近く で は、摩 擦 力 が 働 くの で地衡 風 は 吹 か ない
。
この こ とを説 閥す る た め に
、
摩 擦 力 が 風 向と逆 方 向に働 く
もの と し てカの釣 含
い
を 説 賠し て い る例 が 多い 拡 こ の前
提は 誤 り で あ る
。
風速 の高 度 変 化 は 風 速スパ
イ ラルと して
知 ら れ て お
り
、 そ の先 端の (地 面 における)角 度 は /
0
〜
3
鹿
いう観 測 結 果
fos
・
re
ら れ ている
. しカ、し 躍 擦 力 飆
向と 逆方向であ る と す る と 図
2
に示す ように ス パイ ラル は
半円形にな り
、
先 端の角度は
909
(
P
な け れ は ならない
。
こ
れ は 事実に反 す る
。
実 際 は 図
3
の ように
、
摩 擦 力 は 風 向の
逆方 向 では ない
。
もと も と、大 気 中 での摩擦 力の測定 は 簡
掌で はなく
、
わず か
1G
数 年 以 前か ら可 能になっ たこ と で
、
現 在 な お 測 定 誤差は大き い 。風 速の スパ イ ラルの 測 定 から
摩 擦 力を評 価 し て きた の が従 来の方 法で
ある
。
數 育の場に
お い て
、
こ の既 知量 と 未知 量の関 係 を 逆転さ せた こ と に 閾
SH
工
MANUK
工
A
七susht :
On
the
Character
of
Meteorology
一
蔚
一
Japan Society for Science Education (JSSE)
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Japan
Sooiety for Soienoe Eduoation (JSSE }
1977
年 度 日本科学 教 育 学 会 年 会 研究発 表 会
気 圧 傾 度 力
/
風
L
/
/
…
}
「
’
転
r
司力
摩 擦 力
鴨
「
、
鴨
丶
丶
レ
…
し
7
’
!
H
「
ノ
図
2
風向と逆 方向の摩 擦力を 仮 定し た力の釣 合い c
気 圧傾壓 力
L
ガ
’
,’
〜
風
:
:
;
1
’
i
ノ転 向力
H
摩 齪 力
丶
、
ジ
\
i
!
1
図
3
実 際の力の釣合い
。
題 が あ る
.
何 が 直 接測定 さ れ
、
何 は聞接 的に し か 導 けな い
の かを 明 確 に して いく こ と は
、
科 学 の 蟇本 的 態
展
と して必
.
要な こ とと 思 わ れ る
。
地表面で の熱収 支 と 地 面 温 度の日 変 化と の関 係の説朋も
難 し く
、
教 科 書にも 多 くの不 当 な 記 述が見られ る
。
地 裹 の
有 限の厚さの土 の 層 を 考 えて
、
その層 に 入 っ て くる熱と 出
て行く熱の差をと る と
、
そ れ が温 度の上 昇分 に 比 例 する
。
いろいろの種 類の熱の出 入 り を 見 積 っ て、 こ の よ う な 手 順
で地 面 温 度の変 化 を 説 朋 することが で き る
。
最 高温 度の時
は 温 度の微 分 が
0
な の で
、
熱の出 入 り が 釣合って いること
に な る
。
し か し 論 文におい ては
一
般に こ のよ う な 方法はと
ら な い
。
人 為 的に設 定し た 有 隈の厚 さの土の層 を 考 える こ
と が不 愉 快で ある
。
そ こ で、 その層の厚 さ 商
0
に収束 さ せ
た極 限 を 考 え る
。
その場 合 に は 熱 の 出 入 り は常に 釣 合っ て
い る こ と にな り
、
叢
高 温 度 は 熱の出 入 り の 釣 合い の条件か
ら は求まら ない。 こ の 時
、
温 度 と 熱の関 係 を 決 めるもの は
地 面か ら出 る 放 封 が 温 度の
4
乗に 跖 例 し て決 ま る とい うこ
とで
、
そ れ 鬢 含 めて熱の出入り が 説 明 さ れる の で
、
当 然 温
度 変化 も決 定でき ることに な る
。
しかし後者の説開 は 中 等
教 育で は 無 理で
、
どうし て も前 者 の 説 朋 法を と らな け れ
1{
/
なら な いが
、
そ れ は も はや教 育上 の技 術であ り
、
第
一
線の
研 究 者 か ら 離 れて考えられ て いることで
、
その結果
、
誤 り
も 生 じ や す い
。
地 面 温 度 の日変 化は 小
・
中
・
高 校 を 通じ て
再三反復
さ
れ る が
、
難 しい闇 題で あ る こ との証 拠でも あろ
う
。
急 いで与 える必要の な い教 材と考 え ら れ る
。
3
。
ヂ
ー
タ と 情 報 処 理
気 象 にお け る物理 と は あ くまで自 然の中の物 理である
。
実 験 室 内の物 運
、
7c
と え ば 温 壓
。
風 速 な どの測 定 技 術 は 気
象 で は な い
。
自然 大 気 め正 しい測 定 は 難 し く
、
特に地面 近
く で は 大 気 が 乱 れて い る た め、 測定 さ れ る 量 は ほ とんど常
に 確 率 的 に 変 動 し て い る
。
それを 正 し く測定して 物 理 的 な
処 理を行な う こ と は
、
学 校 で は 絶 望 に 近い
。
科学教 育は実
験 に 基 礎を お くぺ きでは あ る が
、
測 定 を 生 徒 自 身が行わな
.
け れ ぱ な らな い と いうこ と では ない
。
気 象 は 時 空 間 的に広
範 囲の現 象であ り、 そ のこ
.
と か ら も
、
気 象官 署 や 研 究 者 の
測 定 デ
ー
タ を 用いるこ と には意義 が あ る
。
各 種 の 気 象 デ
ー
タの教 育 面での 利 用 法を開発 す る 必 要 が あ ろ う
。
各 種 の デ
ー
タの利 用と同 時に
、
気 象 官 署 に おけ る 情 報シ
ステ ム そのものを 学ば せるのも
、
有 益 な 気 象 学 習の
一
つ で
ある
。
気 象 事 業 は 昔 か ら 情報 処 理技術 を最 も 豊 富 に と り 入
れ て き て い る
。
今 日の情 報 化 時代を 生 きて行くた め の い く
つもの技 術や知 恵が そ の申に 含 ま れて い る
。
電気逓 信 技 術
の開 発 と 共 に 始 め ら れた天 気 予 報が
、
コ ン ピュ
ー
タの発 明
に よって ど う 変 り
、
ま た人 工 衛星の打 上 げ に よっ て どう 変
りつ つあ る か
、
歴 史 的 発 展を ふ ま え て気 象 事 業のシ ス テ ム
を 見て
行 くこ と は 、非 常 に 有 効 な 悟 報 科 学の教育に な り得
ると 考 え ら れる
。一
般の社 会 人にとっ て は
、
切 瑾 的 気象 学
の学 習より も情 報 科学的 気 象 学 の 学習の 方が膏 益であ る か
も 知 れ ない
。
こ のよ うな方面のカ リ キュ ラム の開発 は こ れ
か ら のもの で ある
。
4
.
お わ り に
気 象 学の環境 科 学 的な性 格につ い てはこ こ で は ほ とん ど
述べ な かっ た が
、
大 気 汚 染にしても
、
台 風 や 築 中 豪 雨な ど
の気 象 災 害 に し て も
、
人生 に とっ て重大な 関 心 事であ る
。
物理 的 な面{情 報 科 学 的 な 面 を 合わ せ て 考 え る と
、
錨 象 に
つ い て教えるぺ き内 容 は 極め て多く
、
ま たそ れ が きわ めて
有 益 な も の と 考 え ら れる
。
もし も 現 在 の気 象 教 材 に そのよ
うな価 値 が 見出せないな ら は丶 そ の教 材は全 面 的 に 見 直 す
必 要 が あろ う
。
人 聞は大 気の中で生 活 して い る。気象学 と
はまさに空 気の ように、大 切であ り な が ら と かく忘れ ら れ
がち な も の で ある
。
参 考 文 献
高
橋正吾,
1976
:地 衡 風 解 説の誤 り とその是 正 につ い て,
天 気
23
,
217
−
219
一
44
一
N工 工
一
Eleotronio
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