療養病床を有する一般病院におけるスキン-テアの実態
9
0
0
全文
(2) 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 25 巻 1 号(2021). patients at hospitals without a WOCN, showing a tendency towards a lower incidence at hospitals with a WOCN (p=0.081) . At hospitals with a WOCN, tears resulted from the patients’ own actions while at hospitals without a WOCN, tears resulted from both the patient’s actions and care by medical staff. Our findings showed that the presence of a WOCN with expertise in preventing tears may help reduce their incidence. Key Words:skin tears, long-term care beds, general beds, prevalence, certified wound ostomy continence nurse 要 旨 本研究では療養病床を有する一般病院のスキン - テア(以下、テア)の有病率、推定発生率ならびに保有者の実態を 調査した。 A 県内の療養病床を有する一般病院において、調査日は任意に設定した 1 日とした。テアの知識のある施設の調査 担当者がテアを同定し、施設とテア保有者の情報を調査用紙に記入した。分析は、病床区分別、皮膚・排泄ケア認定 看護師(以下、WOCN)在職の有無別で行った。 9 施設より調査協力が得られ、 全患者数は 1,626 名、一般病床 390 名、療養病床 1,236 名であった。テア保有者は 16 名で、 有病率は 0.98%であった。自施設内発生者は一般病床 3 名と療養病床 10 名の計 13 名で、推定発生率は 0.80%であった。 自施設内発生者は WOCN の在職施設は 632 名中 2 名、不在施設は 994 名中 11 名と、発生者は WOCN 在職施設のほう が少ない傾向を認めた(p = 0.081) 。テアの発生場面は、WOCN 在職施設では患者自身の行動のみであったが、不在 施設では患者自身の行動以外に医療者のケアがあった。 テアの予防ケアに精通した WOCN が在職することは、発生低減に貢献する可能性が示唆された。 キーワード:スキン - テア、療養病床、一般病床、有病率、皮膚・排泄ケア認定看護師 13/1,000 人日で 6)、3 ヵ月間の四肢に生じた累積発生率. はじめに. は 3.8%との報告がある 7)。さらに、1 つの介護老人福祉. 本邦では 2013 年に日本創傷・オストミー・失禁管理. 施設における 1 年間の発生率は 9.7%であったという報. 学会が超高齢社会で増加してきたスキン - テア(以下、. 告もある 8)。これらは、それぞれ 1 施設の報告であるため、. テア)に注目し、その予防と管理の標準化を図る活動が. 施設の特徴が発生率に影響を及ぼす。そのため、有病率. 始められた。その活動の 1 つとして、2014 年にストー. の最も高かった療養病床を有する一般病院の多施設にお. マ療法看護師(以下、ET)と皮膚・排泄ケア認定看護. いて調査を行い、発生率の実態を把握する必要がある。. 師(以下、WOCN)が在職している 257 施設を対象と. 加えて、テアのケアについては、2015 年にテアの予. した実態調査では、有病率は 0.77%で、施設の種類別で. 防と管理に関するベストプラクティスが刊行されたた. 最も有病率が高かったのは療養病床を有する一般病院の. め 9)、予防ケアの実施は標準化されつつあると想定され. 1.26%であった 1)。2018 年には WOCN が在職している. る。しかし、ベストプラクティス刊行後の療養病床を有. 一般病院の 1 施設における有病率は、0.88%であったと. する一般病院のテアの実態については報告されていな. 2). いう報告がある 。一方、国外の有病率は 4.6 ~ 22%と いう報告があり. 3)4). 、本邦の有病率は国外と比較して低. い。さらに、WOCN 在職によるテアの予防効果を検討 した報告はない。. い。しかし、本邦における調査は ET と WOCN という. したがって、ベストプラクティス刊行後の WOCN 在. スキンケアを専門とする看護師が在職していた施設のみ. 職施設にて最もテアの有病率の高かった療養病床を有す. を対象としており、WOCN 不在施設の有病率は不明で. る一般病院のテアの実態と、WOCN 在職の有無との関. ある。. 連を明らかにする必要がある。. テアの発生率については、国外の長期療養施設では、. 目 的. 米国は 2.23%であったと報告されている 5)。本邦では、 療養病床を有する一般病院 1 施設の 8 ヵ月間の発生率は. 本研究の目的は、療養病床を有する一般病院の有病率、. ― 38 ―.
(3) 推定発生率ならびにテア保有者の実態を明らかにするこ. いる方法 10)に準拠して、全体と病床区分別、年齢層別. とである。さらに、病床区分別、WOCN 在職の有無別. で算出した。日本創傷・オストミー・失禁管理学会の実. の特徴を見出すことである。. 態調査の有病率が小数点第 2 位まで提示されていたた め、本研究でも有病率と推定発生率は小数点第 2 位まで. 方 法. 表記した。病床区分別と WOCN 在職の有無別に、テア. 1.対象者. の保有者や自施設内発生者の割合を比較した。これらの. 療養病床を有する一般病院に入院中のテアを有する患. 比較には、χ 2 検定、フィッシャーの正確確率検定を用. 者とした。なお、調査施設の選定は、A 県の療養病床. いた。その後、先の比較にて特徴がみられた場合には、. を有する一般病院に、WOCN 在職の有無によって調査. その分別でテア保有者の情報を分析した。なお、統計ソ. 施設数に隔たりがないよう、非常勤を含む WOCN 在職. フトは SPSS ver.23(IBM)を用い、有意確率が 0.05 未. の有無の情報を得るために機縁法により選出した。. 満を有意差あり、0.1 未満を傾向ありとした。. 2.調査期間. 6.倫理的配慮. 2018 年 2 月~ 3 月までの期間で、調査施設が任意に. 金沢医科大学臨床研究倫理審査委員会の承認を得て実. 設定した 1 日を調査日とした。. 施した(整理番号 I240) 。さらに、調査施設ごとに、院. 3.調査方法. 長の同意を得た。なお、対象となる患者とその家族には、. 調査施設の看護部長に、本調査担当者として、テアに. オプトアウトにより、当該研究の研究目的や方法などを. 関する知識がある看護師の選出を依頼した。調査担当者. 情報公開文書にて調査病院の掲示板に公開し、情報が利. には、研究者らがテアの同定方法について十分な説明を. 用されることを拒否できる機会を保障した。掲示期間は. 行った。内容は、ベストプラクティス スキン - テア(皮. 調査日を含む 2 ヵ月間とした。. 膚裂傷)の予防と管理. 9). に基づいて行い、 ①テアの定義、. 結 果. ②テアの具体例、③テアの除外例、④テアと判断しない 創傷例、⑤創の評価について(STAR 分類)である。. 1.調査施設の概要(表 1). 調査日は、病棟看護師が入院患者全員の全身の皮膚の. A 県内の療養病床を有する一般病院 11 施設に協力依. 観察を行い、テアの同定はせずに創傷のあるすべての対. 頼を行い、9 施設より研究協力を得た。. 象者を調査担当者に報告した。なお、WOCN 不在施設. 施設の種類は、一般病床と療養病床をもつ施設が 5 施. の皮弁のない創傷については、ほかの創傷と混同する可. 設(55.6%)、療養病床のみが 4 施設(44.4%)であった。. 能性があるため、研究者が調査施設に創の情報を確認し. 病床数は、全体では 101 ~ 200 床が 3 施設(33.3%)で. て同定した。. 最も多く、一般病床では 0 床と 1 ~ 100 床が各 4 施設. なお、1 ヵ所でもテアのある患者をテア保有者とした。 4.調査項目 2014 年のテアの実態調査. (各 44.4%)、療養病床では 1 ~ 100 床が 4 施設(44.4%) で最も多かった。非常勤を含む WOCN が在職している. 1). を参考に、以下の項目を. 施設は、4 施設(44.4%)であった。. 含む調査用紙を作成し、調査担当者が記載した。. 2.テアの有病率と推定発生率. 1)施設の情報. 調査協力施設の全患者数は 1,626 名で、一般病床 390. 施 設 の 種 類、 病 床 数( 一 般 病 床 数、 療 養 病 床 数 ) 、. 名、療養病床 1,236 名であった。年齢は、65 歳未満が. WOCN の在職の有無を項目とした。. 104 名、65 歳以上 75 歳未満が 231 名、75 歳以上が 1,291. 2)テア保有者の情報. 名であった。テア保有者は 16 名であり、そのうち自施. 保有者の概要は、年齢、性別、障害高齢者の日常生活. 設内発生者は一般病床 3 名と療養病床 10 名の計 13 名で. 自立度、麻痺、関節拘縮、ブレーデンスケール、栄養状. あった。. 態、テアの既往の有無、疾患名、治療とした。. 1)全病床および病床区分におけるテアの有病率(表 2). テアについては、テアの発生部位、テアの状態(複数. 有病率は、全病床の全体では 0.98%で、年齢層別では. 部位ある場合は、 サイズが最大のもの) 、 周囲皮膚の状態、. 65 歳未満が 0.00%、65 歳以上 75 歳未満は 0.87%、75. テアの発生状況とした。. 歳以上は 1.08%であった。一般病床の全体では 1.54%. 5.分析方法. で、年齢層別では 75 歳以上が 1.79%で最も高かった。. 全調査項目について、記述統計を行った。テアの有病. 療養病床の全体では 0.81%で、年齢層別では 75 歳以上. 率と推定発生率の算出は、日本褥瘡学会が褥瘡で用いて. が 0.89%で最も高かった。. ― 39 ―.
(4) 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 25 巻 1 号(2021). 表 1 施設の概要(n=9) 分類 施設種類 病床数. 施設数 一般病床と療養病床 療養病床のみ 全体. 1 ~ 100 床 101 ~ 200 床 201 ~ 300 床 301 ~ 400 床 401 ~ 500 床. 一般病床. 0床 1 ~ 100 床 101 ~ 200 床. 療養病床. 1 ~ 100 床 101 ~ 200 床 201 ~ 300 床 301 ~ 400 床 401 ~ 500 床. WOCN 在職の有無(非常勤含む). あり なし. %. 5 55.6 4 44.4 2 22.2 3 33.3 2 22.2 1 11.1 1 11.1 (median 199 床) 4 44.4 4 44.4 1 11.1 (median 99 床) 4 44.4 3 33.3 1 11.1 0 0.0 1 11.1 (median 120 床) 4 44.4 5 55.6. 表 2 年齢層別、全病床・病床区分別のスキン - テア有病率・推定発生率 病床. 対象. 患者数. 保有者数. 全病床. 全体 65 歳未満 65 歳以上 75 歳未満 75 歳以上. 1,626 104 231 1,291. 16 0 2 14. 0.98 0.00 0.87 1.08. 13 0 2 11. 0.80 0.00 0.87 0.85. 一般病床. 一般病床全体 65 歳未満 65 歳以上 75 歳未満 75 歳以上. 390 36 74 280. 6 0 1 5. 1.54 0.00 1.35 1.79. 3 0 1 2. 0.77 0.00 1.35 0.71. 療養病床全体 65 歳未満 65 歳以上 75 歳未満 75 歳以上. 1,236 68 157 1,011. 10 0 1 9. 0.81 0.00 0.64 0.89. 10 0 1 9. 0.81 0.00 0.64 0.89. 療養病床. 有病率(%). p=0.237. 発生者数. 推定発生率(%). p=1.000. フィッシャーの正確確率検定. 一般病床と療養病床のテア保有者の割合には、有意差. 一般病床と療養病床の自施設内発生者の割合には、有. はなかった(p = 0.237) 。. 意差はなかった(p = 1.000)。. 2) 全病床および病床区分におけるテアの推定発生率(表. 3)WOCN 在職の有無別テア保有者数と自施設内発生. 2). 者数の比較(表 3). 推定発生率は、全病床の全体では 0.80%で、年齢層別. テア保有者は、WOCN が在職している施設(以下、. では 65 歳以上 75 歳未満が 0.87%、75 歳以上が 0.85%. WOCN 在職施設)では 5 名(0.79%)で、WOCN が在. であった。一般病床の全体では 0.77%で、年齢層別では. 職していない施設(以下、非 WOCN 在職施設)では 11. 65 歳以上 75 歳未満が 1.35%で最も高かった。療養病床. 名(1.11%)と、WOCN 在職の有無では有意差はなかっ. の全体では 0.81%で、年齢層別では 75 歳以上が 0.89%. た(p = 0.530)。自施設内発生者は、WOCN 在職施設で. で最も高かった。. は 2 名(0.32%)、非 WOCN 在職施設では 11 名(1.11%). ― 40 ―.
(5) 表 3 WOCN 在職の有無別スキン - テアの比較 WOCN 在職(n=632). 患者数. 非 WOCN 在職(n=994). 人数. %. 人数. %. 5 2. 0.79 0.32. 11 11. 1.11 1.11. 保有者数 a) 発生者数 b). p値 0.530 0.081. a):χ 2 検定 b):フィッシャーの正確確率検定. 表 4 スキン - テア保有者の概要(n=16) 患者数 or median. % or range. 87 9/7 10 2 4 7/9 7/9 12 18.0 7 3 1 7 6 12/4. 73-99 56.2/43.8 62.5 12.5 25.0 43.8/56.2 43.8/56.2 7-17 12.7-24.7 43.8 18.8 6.3 43.8 37.5 75.0/25.0. 循環器系の疾患 精神および行動の障害 呼吸器系の疾患 内分泌、栄養および代謝疾患 筋骨格系および結合組織の疾患 感染症および寄生虫症 皮膚および皮下組織の疾患 神経系の疾患 血液および造血器の疾患ならびに免疫機構の障害 腎尿路生殖器系の疾患. 12 5 4 4 4 2 2 1 1 1. 75 31.3 25.0 25.0 25.0 12.5 12.5 6.3 6.3 6.3. 症状、徴候および異常臨床 ・ 検査所見で ほかに分類されないもの. 1. 6.3. 5 4 1 1 0. 31.3 25.0 6.3 6.3 0.0. 年齢(歳) 性別 日常生活自立度. 麻痺あり / なし 関節拘縮あり / なし ブレーデンスケール BMI 最近 3 ~ 6 ヵ月間の体重減少率 (不明はのぞく) 最近 5 日間の栄養摂取状態 (不明はのぞく) スキン - テア既往あり / なし 疾病分類(複数回答). 男性 / 女性 C2 C1 B2. 合計点(点) (kg/m2) 5%未満 5 ~ 10% 10%以上 不十分 十分. 治療状況(複数回答) 抗凝固薬 ステロイド薬 がん薬物療法 人工透析療法 放射線療法. と、WOCN 在職施設は非 WOCN 在職施設より発生者. 排泄、食事、着替において介助を要し、自力で寝返りを. 数が少ない傾向を認めた(p = 0.081) 。. うてない状態」のランク C2 が 10 名(62.5%)で最も多. 3.テア保有者の概要(表 4). かった。麻痺ありと関節拘縮ありは各 7 名(各 43.8%). 全病床のテア保有者の年齢の中央値 は 87 歳で、性別. であった。ブレーデンスケールの合計点の中央値は 12. は男性 9 名(56.2%) 、女性 7 名(43.8%)であった。障. 点、BMI の中央値は 18.0 kg/m2 であった。最近 3 ~ 6 ヵ. 害高齢者の日常生活自立度は、 「日中ベッド上で過ごし、. 月間の体重減少率では 5%未満が 7 名(43.8%)、最近 5. ― 41 ―.
(6) 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 25 巻 1 号(2021). 表 5 スキン - テアの発生部位、状態、周囲皮膚の状態 自施設内発生(n=13) 全体(n=16). WOCN 在職施設 (n=2). 非 WOCN 在職施設 (n=11). 部位数 or median. % or range. 部位数 or median. % or range. 部位数 or median. % or range. 7 2 2 1 1 1 1 1. 43.8 13.7 13.7 6.3 6.3 6.3 6.3 6.3. 1 0 1 0 0 0 0 0. 50.0 0.0 50.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0. 4 1 1 1 1 1 1 1. 36.7 9.1 9.1 9.1 9.1 9.1 9.1 9.1. 左前腕外側 右前腕外側 右肘部外側 右上腕内側 右前腕内側 右手背 左手背 左下腿後面. サイズ 0.6 (長径(cm)×長径と直交する最大径(cm)) STAR 分類 カテゴリー 1a 5 カテゴリー 1b 5 カテゴリー 2a 0 カテゴリー 2b 2 カテゴリー 3 4. 0.02-3.8. 0.2. 0.1-0.3. 1.3. 0.2-3.8. 31.3 31.3 0.0 12.5 25.0. 0 2 0 0 0. 0.0 100.0 0.0 0.0 0.0. 4 2 0 2 3. 36.7 18.2 0.0 18.2 27.3. 87.5 50.0 43.8 31.3 25.0 12.5 6.3 6.3 6.3. 1 0 2 2 0 0 1 1 0. 50.0 0.0 100.0 100.0 0.0 0.0 50.0 50.0 0.0. 10 6 3 3 4 1 0 0 0. 90.9 54.5 27.3 27.3 36.7 9.1 0.0 0.0 0.0. 周囲の皮膚状態 乾燥 ティッシュペーパー様 浮腫 斑状紫斑 鱗屑 瘢痕 血腫 その他の紫斑 色素脱失. 14 8 7 5 4 2 1 1 1. 日間の栄養摂取状態では不十分が 7 名(43.8%)で最も. 態は、乾燥が 14 部位(87.5%)、ティッシュペーパー様. 多かった。テアの既往ありは 12 名(75.0%)であった。. が 8 部位(50.0%)、浮腫が 7 部位(43.8%)、斑状紫斑. 疾病分類では循環器系の疾患が 12 名(75.0%) 、治療状. が 5 部位(31.3%)、鱗屑が 4 部位(25.0%)であった。. 況では抗凝固薬の使用が 5 名(31.3%)で最も多かった。. WOCN 在職の有無別では、WOCN 在職施設で発生し. 4.テアの状態. た 2 部位の発生部位は左前腕外側と右肘部外側で、サ. テアの発生場所は、自施設内 13 名(81.3%)、在宅 2. イズの中央値は 0.2 であった。STAR 分類では、2 部位. 名(12.5%)と自施設外の病院 1 名(6.3%)であった。. ともカテゴリー 1b で、テアの周囲皮膚の状態は、浮腫. これらの 16 名のテアを、これ以降全テアとする。また、. と斑状紫斑が各 2 部位(100.0%)であった。非 WOCN. テアの発生者割合に WOCN 在職施設と非 WOCN 在職. 在職施設で発生した 11 部位の発生部位と最大サイズ. 施設では特徴がみられた。以後、施設別のテアの発生状. は、左前腕外側が 4 部位(36.7%)と最も多く、サイズ. 況を比較した結果について述べる。. の中央値は 1.3 であった。STAR 分類では、カテゴリー. 1)テアの発生部位と状態(表 5). 1a が 4 部位(36.7%)、カテゴリー 3 が 3 部位(27.3%). 全テアの発生部位は、16 部位中、左前腕外側が 7 部. と多かった。テアの周囲皮膚の状態は、乾燥が 10 部位. 位(43.8%)で最も多かった。算出したサイズの中央値. (90.9%) 、ティッシュペーパー様が 6 部位(54.5%)、鱗. は、0.6 であった。STAR 分類では、カテゴリー 1a、1b. 屑が 4 部位(36.7%)であった。. が各 5 部位(各 31.3%)であった。テア周囲の皮膚の状. ― 42 ―.
(7) 表 6 スキン - テアの外力発生状況 自施設内発生(n=13) 全体(n=16). WOCN 在職施設 (n=2). 非 WOCN 在職施設 (n=11). 患者数. %. 患者数. %. 患者数. %. 5 0. 31.3 0.0. 2 0. 100.0 0.0. 1 0. 9.1 0.0. 体位変換・移動介助 4 入浴・清拭等の清潔ケア介助 2 更衣の介助 2 不明 3 発生の起因にかかわった人(複数回答) 患者 5 看護師 4 看護補助者・介護職員 4 作業療法士 1 不明 4. 25.0 12.5 12.5 18.8. 0 0 0 0. 0.0 0.0 0.0 0.0. 4 2 1 3. 36.4 18.2 9.1 27.3. 31.3 25.0 25.0 6.3 25.0. 2 0 0 0 0. 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0. 1 4 4 1 3. 9.1 36.4 36.4 9.1 27.3. 外力発生状況 患者行動 物にぶつかる 痙攣・不随意運動 管理状況. 2)外力の発生状況(表 6). 既往)が加わった 11)。本調査はこの診療報酬改定前の. 全テアの外力の発生状況を患者行動と管理状況に分け. 実態である。そのため、本調査は入院患者全員がテアに. てみると、物にぶつかるが 5 部位(31.3%)であった。. 関してアセスメントされる前の実態であるため、診療報. 管理状況で発生したテアは、体位変換・移動介助が 4 部. 酬改定後の実態と比較する資料となりうる。以下に、調. 位(25.0%) 、清潔ケア介助と更衣の介助が各 2 部位(各. 査結果について考察する。. 12.5%)で、不明が 3 部位(18.8%)であった。テア発. 1.テアの有病率と推定発生率. 生の起因にかかわった人は、患者が 5 名(31.3%) 、看. テアの有病率については、年齢層別では、全病床、一. 護師と看護補助者・介護者と不明が各 4 名(各 25.0%). 般病床、療養病床において、65 歳以上 75 歳未満より、. の順で多かった。. 75 歳以上の数値が高く、2014 年に ET、WOCN が在職. WOCN 在職の有無別では、WOCN 在職施設で発生し. している施設における全国規模の実態調査(以下、全国. た 2 部位は、患者行動の物にぶつかるのみであった。非. 調査)においても、全施設では 65 歳以上 75 歳未満の. WOCN 在職施設の 11 部位は、患者行動の物にぶつか. 0.55%より 75 歳以上の 1.65%のほうが高かった 1)。した. るが 1 部位(9.1%) 、管理状況では、体位変換・移動介. がって、加齢は国外でも発生要因として報告されている. 助が 4 部位(36.4%) 、清潔ケア介助が 2 部位(18.2%)、. が 12)、療養病床を有する一般病院でもリスクとなりう. 更衣の介助が 1 部位(8.1%)で、不明が 3 部位(27.3%). るため、患者の年齢に留意してテア予防を図る必要があ. であった。発生の起因にかかわった人は、WOCN 在職. るといえる。. 施設では患者が 2 名(100.0%)で、非 WOCN 在職施設. テアの推定発生率は、年齢層別では、65 歳以上 75 歳. では看護師と看護補助者・介護者が各 4 名(各 36.4%). 未満は 0.87%、75 歳以上は 0.85%であったことより、. と最も多かった。. 0.02%の差しかなかった。 病床別と WOCN 在職の有無別で、一般病床と療養病. 考 察. 床のテア保有者数、自施設内発生者の割合を比較すると、. 2014 年に WOCN 在職施設を対象にした全国調査が行. WOCN 在職施設と非在職施設におけるテア保有者の割. われて以来、多施設におけるテアの実態は報告されてい. 合を比較しても有意な差はなかった。ただし、発生者の. ない。特に療養病床を有する一般病院にて WOCN の不. 割合では、WOCN 在職施設は非 WOCN 在職施設より. 在施設を含めたテアの実態は、本調査が本邦初の報告で. 自施設外発生者が少ない傾向を認めた。また WOCN 在. ある。また、2018 年 4 月の診療報酬改定で、褥瘡に関. 職の療養病床においては自施設内発生者、保有者ともに. する危険因子の評価指標に皮膚の脆弱性(テアの保有、. 0 名であった。WOCN の在職することによるテアに対. ― 43 ―.
(8) 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 25 巻 1 号(2021). するケア効果として、テアが普及する前の 2014 年の調. 生状況となっていた。本来、清潔ケア介助や体位変換・. 査にて WOCN 在職施設の 87.1%にテア指導がなされて. 移動介助というケアは、患者の療養生活を整えるために. 1). いたという報告がある 。このことより、WOCN が施. 行われるケアである。したがって、ケアによってテアと. 設に在職することは、テアの予防によい効果を及ぼして. いう創傷を医療者が発生させることは避ける必要があ. いる可能性がある。. る。管理状況下で発生に関与した人は、看護師だけでは. 2.テア保有者の特徴. なく、介護補助者・介護職員、作業療法士であった。た. 療養病床を有する一般病院のテア保有者は、年齢の中. だし、WOCN 在職施設の外力の発生状況については、. 央値が 87 歳の高齢者で、日常生活自立度は、 「1 日中ベッ. すべて患者行動によるものであったため、多職種にもテ. ド上で過ごし、排泄、食事、更衣において介助を要し、. ア予防が浸透していると考えられる。. 自力で寝返りをうてない状態」のランク C2 が 62.5%を. 4.本研究の限界と今後の課題. 占め、ブレーデンスケールの合計点の中央値は 12 点で. 本研究の限界は、機縁法にて A 県内 9 施設を調査施. あった。ブレーデンスケールのカットオフポイントは、. 設に選出したことである。療養病床を有する一般病院の. 13). 。これらより、テア保有者. WOCN 在職施設は、A 県内全 4 施設の調査協力を得ら. の特徴としては、加齢による身体変化があり、寝たきり. れた。しかし、WOCN 不在の施設は 5 施設と限られて. で褥瘡が発生しやすい患者といえる。なお、本邦の調査. いるため、データに偏りが生じている可能性がある。そ. 研究でも、ブレーデンスケールの合計点の低い患者はテ. のため、結果を一般化するにはさらに対象者を増やして. 国内では 14 点以下である. 7). アの発生リスクが高いという報告があり 、同様の結果. 調査を行う必要がある。. である。さらに、テアの既往ありが 75.0%を占めていた。. 今回の調査により、テア保有者の特徴を述べたが、テ. また、全国調査でも、発生要因としてテアの既往ありの. アを保有していない患者、発生していない患者とは比較. 報告があるが、全国調査の 42.8%と比較しても高い。し. していない。そのため、導き出された特徴は、発生要因. たがって、療養病床を有する一般病院では、テアの既往. とはいえない。したがって、今後は発生要因を抽出する. ありと判断した場合には、再発予防に向けて入念な予防. 課題が残されている。. ケアを講じる必要があるといえる。. 結 論. 3.テアの状態 テアの発生の外力の状況で先行研究と異なるのは、. 療養病床を有する一般病院 9 施設にて、WOCN の在. テープの剝離時であった。全国調査ではテープ剝離時が. 職の施設に限定せずにテアの実態を明らかにした。. 最も多く、そのテープ固定をした目的は点滴固定が最多. 1.テアの有病率は 0.98%で、推定発生率は 0.80%であっ. であった. 14). 。しかし、本結果には、テア発生の外力の. た。. 状況にテープの剝離時は含まれていなかった。全国調査. 2.WOCN 在職の施設ではテア発生者が 0.3%で、非. の対象施設は、療養病床を有しない一般病院、大学病院、. WOCN 在職施設より発生者が少ない傾向があった。. 国立病院が 83.2%を占めており、これらの施設は急性期. 3.テアの発生状況は、WOCN 在職施設では、患者自. 医療が主である。一方、療養病床を有する一般病院は、. 身の行動によってのみ発生していたが、非 WOCN 在職. 急性期医療より慢性期医療が主となり、必然的に点滴療. 施設では医療者のケアによっても発生していた。. 法の実施も少ないためと考えられる。. これらより、テアの予防ケアに精通した WOCN が施. テア周囲皮膚については、WOCN 在職施設では、非. 設内に存在することは、発生低減に貢献する可能性が示. WOCN 在職施設と同様に、乾燥の割合は 80.0%以上で. 唆された。. あった。さらに、非 WOCN 在職施設では、テアの周囲 皮膚がティッシュペーパー様を 50%以上の部位に認め. 利益相反:なし. ていた。したがって、療養病床を有する一般病院では高. 文 献. 齢な患者という特性もあるが、保湿ケアの不足や、栄養. 1)紺家千津子,溝上祐子,上出良一,他.ET/WOCN. 状態の管理が不十分である可能性がある。 外力の発生状況については、WOCN 在職施設では患. の所属施設におけるスキン - テアの実態調査.日創. 者行動によるもので、自らの行動がテア発生となってい. 傷オストミー失禁管理会誌 19:351-363, 2015.. た。一方、非 WOCN 在職施設では患者行動のほかに、. 2)里岡由希,木村健作.当院のスキン - テアの実態調. 清潔ケア介助や体位変換・移動介助というケアがテア発. ― 44 ―. 査と予防ケアへの取り組みと課題.三菱神戸病院誌.
(9) 8:39-46, 2018.. 禁管理会誌 20:43-48, 2016.. 3) Skiveren J, Wahlers B, Bermark S. Prevalence of skin tears in the extremities among elderly residents at a nursing home in Denmark. J Wound Care 26:S32-S36, 2017. 4) LeBlanc K, Christensen D, Cook J, et al. Prevalence of skin tears in a long-term care facility. J Wound Ostomy Continence Nurs 40:580-584, 2013. 5) Payne RL, Martin ML. The epidemiology and management of skin tears in older adults. Ostomy/ Wound Management 26:26-37, 1990. 6) Koyano Y, Nakagami G, Iizaka S, et al. Skin property can predict the development of skin tears among elderly patiaents: a prospective cohort study. Int Wound J 14:691-697, 2017. 7)Sanada H, Nakagami G, Koyano Y, et al. Incidence of skin tears in the extremities among elderly patients at a long-term medical facility in Japan: a prospective cohort study. Geriatr Gerontol Int 15: 1058-1063, 2015. 8)古川智恵.介護老人保健施設におけるスキンテア 発生の関連要因の検討.癌と化学療法 46:154-156, 2019. 9)紺家千津子,溝上祐子,上出良一,他.スキン - テ アの概要.ベストプラクティス スキン - テア(皮 膚裂傷)の予防と管理(一般社団法人日本創傷・オ ストミー・失禁管理学会 編) ,6-8,照林社,東京, 2015. 10) 日 本 褥 瘡 学 会. (2012 年 9 月 ) .日本褥瘡学会で 使 用 す る 用 語 の 定 義 ・ 解 説.2019 年 2 月 20 日, http://www.jspu.org/jpn/journal/yougo.html#30. 11) 厚 生 労 働 省. (2018 年 2 月 ) . 平 成 30 年 度 診 療 報 酬 改 定 に つ い て.2019 年 2 月 10 日,https:// www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000Hokenkyoku-Iryouka/0000193708.pdf 12) LeBlanc K, Baranoski S, Tear Consensus Panel Members. Skin tears: state of the science: consensus statements for the prevention, prediction, assessment, and treatment of skin Ⓒ tears . Adv Skin Wound Care 24:2-15, 2011.. 13)真田弘美,金川克子,稲垣美智子,他.日本語版 Braden Scale の信頼性と妥当性の検討.金沢大医 療技短大紀 15:101-105, 1991. 14)紺家千津子,溝上祐子,上出良一,他.医療用テー プによるスキン - テアの実態.日創傷オストミー失. ― 45 ―.
(10)
関連したドキュメント
医学部附属病院は1月10日,医療事故防止に 関する研修会の一環として,東京電力株式会社
*課題関連的訓練(task-related training)は,目的志向的訓練(task-oriented
4/1 ~ ICU 30.1 万円、 HCU 21.1 万円、 その他 5.2 万円. ※ 療養病床である休止病床は
全国の緩和ケア病棟は200施設4000床に届こうとしており, がん診療連携拠点病院をはじめ多くの病院での
大曲 貴夫 国立国際医療研究センター病院 早川 佳代子 国立国際医療研究センター病院 松永 展明 国立国際医療研究センター病院 伊藤 雄介
在宅の病児や 自宅など病院・療育施設以 通年 病児や障 在宅の病児や 障害児に遊び 外で療養している病児や障 (月2回程度) 害児の自
病院と紛らわしい名称 <例> ○○病院分院 ○○中央外科 ○○総合内科 優位性、優秀性を示す名称 <例>
の 立病院との連携が必要で、 立病院のケース ー ーに訪問看護の を らせ、利用者の をしてもらえるよう 報活動をする。 の ・看護 ・ケア