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思考実験を通した内的モデル修正に関する実験的検討

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Academic year: 2021

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思考実験を通した内的モデル修正に関する実験的検討

Cues to construct new internal model via thought experiments

頓部有以子

1

松室美紀

1

三輪和久

1

Yuiko Tombe

1

Miki Matsumuro

1

Kazuhisa Miwa

1

1

名古屋大学大学院 情報科学研究科

1

Graduate School of Information Science, Nagoya University

Abstract: Students who do not have sufficient knowledge tend to construct an incorrect internal model

based on their experiences or from their intuitions. In such a case, instructors have to help them construct a new internal model. The purpose of this study was to modify the students’ incorrect internal model through thought experiments. In this study, we examined two types of thought experiments which were conducted for different purposes. The first one is a thought experiment to make a prediction for a problem, and the second is one to explain surprising data or answer. We examined whether each type of thought experiments makes the students construct a valid internal model. Two situations of the thought experiments are assumed, which might be effective to revise student’s internal models: Usage of common features shared with the original problem to be answered, and usage of difference features. Results of the experiments showed that the valid internal model was not constructed through the thought experiment to solve the problem. On the other hand, students were able to modify their internal model through the thought experiment to explain the answer.

1 背景

1.1 内的モデル

私たちは,物体の構造や出来事の原理について考 えるとき,解釈を含むモデルを頭の中で構築して理 解しようとする.Anzai & Yokoyama は,実世界や抽 象的な物理世界のモデルとして構成された心的な表 象のことを内的モデルと呼んだ [1].自身の持つ知 識や経験により,学生は異なる内的モデルを生成す る.そのため問題解決や科学推論が行われるとき, 学生は経験や直感的な判断に頼り,誤った内的モデ ルを生成してしまう [2]. 学生は,自身が生成した誤った内的モデルと事実 との矛盾に気づけたとき,内的モデルの修正が可能 である [2][3].しかし,学生は経験や直感に頼る傾向 が強く,矛盾に気づくことが難しい.そのため内的 モデルが修正されないことも多い [2].

1.2 思考実験

本研究では,内的モデルを修正させる方略として 思考実験を扱う.思考実験とは,実験を行う状況を 想像し,その中で心的に行われる実験のことを指す [4].思考実験は自身がもつ知識や経験に基づき行わ れるため,学生でも容易に思考実験を扱うことが可 能である. 思考実験は 4 つのステップからなる [5].まず,ス テップ 1 では思考実験を実施する状況を想像する. 例えば,慣性の法則に関する問題を考える時,自分 が電車に乗っていることをイメージする.続いてス テップ 2 では,想像した状況に変更や操作を加える. 電車が急停車する操作を加えることがステップ 2 に 当たる.ステップ 3 では状況に適した知識,経験, 背景情報を利用し,ステップ 4 で結果を心的に観察 する.電車が停車した時の経験に基づき (ステップ 3),急停車により自分が前のめりになるという結果 を観察する (ステップ 4). 先行研究で示された 4 つの思考実験ステップに加 えて,結果を観察した後に,観察された結果につい てなぜそのような結果になったのかを考えるステッ プ 5 が存在すると考えられる.先述の例では,慣性 により人は前方に運動し続けることを理解する. 問題状況と異なる状況を作り出すステップ 1,ス テップ 2 を通して,気づけなかった知識やスキーマ を実験状況で利用できるようになることは,内的モ デルを修正するために重要である.例えば,初期状 況から変更した思考実験状況で観察した結果を,問 題状況に当てはめたり比較したりすることで,物理 人工知能学会研究会資料 SIG-ALST-B506-16

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構造を理解できるようになったことが示されている [6][7][8].思考実験を通して,学生が物理構造を理解 できたように,思考実験は内的モデルの修正に有効 であると考えられる.

1.3 目的

Kösem & Özdemir は,参加者のプロトコルデータ から思考実験が行われる目的を示している [5].そ こで,本研究では彼らの研究に基づき,2 種類の異な る目的を持つ思考実験を行う状況を設定した.第一 に,学生が問題解決を行う時,問題の解答を予測す るために思考実験を行うことが示されている.ここ から,本研究では,問題の解答を予測するために行 われる思考実験を,予測の思考実験と定義する.問 題の解答が与えられない時,解答を予測するために 思考実験が行われる状況である. 第二に,予測した解答の正しさを実証したり,説 明したりするために思考実験を行うことが示されて いる.これに基づき,本研究では,予測ではなく与 えられた問題の解答について説明するために行われ る思考実験を対象とし,説明の思考実験と定義する. 予測した解答が問題の解答と異なる場合に,なぜそ のような解答になるのかについて説明するために思 考実験が行われる状況である. 予測の思考実験を通した内的モデルの修正を試み た先行研究では,内的モデルは修正されなかったこ とが示されている [9].そこで本研究は,説明の思考 実験は内的モデルを修正させる効果をもつかどうか についても検討する. さらに,先行研究で学生に与えられた思考実験の 状況が内的モデルの修正に適していなかった可能性 がある.そこで,本研究では,内的モデルを修正さ せると考えられる思考実験状況を考案し,予測,説 明の各思考実験を通して内的モデルが修正されるか どうかを検討する.

2 題材

2.1 糸巻き問題

実験題材として糸巻き問題を用いる [1].図 1(a) に示された糸巻きの糸を白い矢印で示した方向へ引 いたときの,糸巻きの回転方向と進行方向の解答が 求められる.以降,これを基本問題と記す.多くの 学生は糸巻きの軸を回転の中心とする誤った内的モ デルを構築し,糸巻きは反時計回りして左方向に転 がると解答してしまう.実際は,糸巻きと床との接 点を支点とし,糸巻きは時計回りに右に転がる.

2.2 思考実験状況

内的モデルを修正させるためには,思考実験状況 と基本問題の状況との比較を行い,共通点や相違点 を利用することが有効であると考えられる.本研究 では,共通点の発見が,内的モデルの修正に有効と なる共通の思考実験状況,相違点の発見が内的モデ ルの修正に有効となる相違の思考実験状況を用意し た. まず相違の思考実験状況として,糸巻きの軸に棒 が通り,机から持ち上げられている軸状況を考案し た (図 1(b)).この状況では,糸を引くと糸がほどけ るという結果を観察することが期待される.この観 察により,学生に糸巻きの糸を引くと糸がほどける という内的モデルを持っていることを意識させる. さらに,基本問題や他の思考実験状況と比較するこ とで,糸巻きの軸に通る棒の有無の相違点に着目す ると考えられる.この相違点から,学生は糸がほど けるという内的モデルは,糸巻きの軸に棒が通って いなければ利用できないことを理解すると考えられ る. 続く思考実験状況へのブリッジとして,糸巻きの 軸を通る棒と糸巻きの側面を固定した固定状況を考 案した (図 1(c)).学生が物理概念を理解する過程に おいて,類似した特徴をもつ状況を挟み,類推を利 用して細かいステップに分けることは,効果がある と示されている [7].固定状況では,糸を引いても糸 巻きが動かない結果を観察することが期待される. この観察により,糸を引くと,糸巻きにはたらく右 方向の力を意識することができると考えられる. 続いて,共通の思考実験状況として,ひび状況を 考案した (図 1(d)).固定された糸巻きの糸を右に引 き続けた結果,支柱にひびが入り,あと少し糸を引 (a) 基本問題の状況 (b) 軸状況 図 1:基本問題と各思考実験の状況 (c) 固定状況 (d) ひび状況

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いたら支柱が折れてしまうという状況である.ひび 状況では,参加者は,糸を引くと糸巻きを固定して いた支柱が折れて,糸巻きが右方向に右回転して移 動する結果を観察することが期待される.学生は基 本問題の糸巻きと思考実験状況を比較することで, 糸巻きを支える点が軸ではなく,糸巻き下部である という共通点に着目すると考えられる.この共通点 から,学生はひび状況の思考実験の結果を,基本問 題に適用することができると考えられる. 以上の,糸がほどけるのは軸に棒が通っている時, 糸を引いた方向へ力がはたらく,糸を引いた方向へ 回転をしながら動くのは下部が支えられている時と いう手がかりから,新しい内的モデルが構築される と考えられる.

3 使用システム

本研究では,松室・三輪・白石 [10] により開発さ れ た , 思考 実 験を PC 上で外化させるシステム Thought Experiment-externalizer (以下,TE-ext) を改 良し用いた.糸巻き問題の解決のために行われた思 考実験をシステムの操作系列として取得することが 可能である. TE-ext は糸巻き問題における思考実験の各ステッ プを外化する.ステップ 1 と対応し,図 2 に示した ように,想像すべき状況が外化される.画面上部に 思考実験状況,下部に基本問題の状況が提示される. ステップ 2 では糸を引く操作を加える.TE-ext では, マウスを利用し,実際に糸巻きの糸を引く感触を想 像することができる.背景情報や知識が利用される ステップ 3 では,ステップ 2 において糸を引いた経 験や感覚が利用される.ステップ 4 の結果の観察で は,画面右下にあるアニメーションボタン部分によ りアニメーションの回転方向と移動方向を指定し, 学習者が自ら糸を引いて,糸巻きの動きを観察する ことができる.予測した通りに糸巻きを動かすこと が可能なため,全ての糸巻きの動きは完全に物理法 則に従うわけではない.ステップ 5 では,なぜステ ップ 4 で糸巻きが観察した動きをするのかを考える ため,図 2 に示したように糸巻きにはたらいた力を 矢印で書き込むことができる.

4 実験

思考実験を行う目的を操作するため,解答の提示 のタイミングを操作した.思考時間に解答を予測す るために思考実験を行う参加者を解答提示なし条件 とした.また,思考時間前に問題の解答が与えられ, 解答について説明するために思考実験を行う参加者 を解答提示なし条件とした.

4.1 方法

4.1.1 参加者

文系の大学 1 年生 43 名が実験に参加した.参加者 は,解答提示なし条件に 22 名,解答提示あり条件 21 名が割り当てられた.

4.1.2 手続き

4.1.2.1 解答提示なし条件 予測テスト (プレ,ポスト) と思考時間と説明テ ストからなる.まずプレ予測テストでは,基本問題 の回転方向と進行方向を15 分で回答させた. 続いて,TE-ext の使い方を練習した後, TE-ext を 使用した 30 分間の思考を行った.この時,基本問題 における糸巻きの動きを,システムにより与えられ た 3 つの思考実験状況の糸巻きの動きと比較をしな がら考えるよう教示を行った.思考時間では,各思 考実験状況が画面上部に順番に提示される.参加者 は各状況にて,TE-ext を用いて思考実験の各ステッ プを行った.各状況の思考実験後,各思考実験状況 の糸巻きの回転方向と移動方向の回答を配布された 解答用紙に記述するよう求められた. その後,ポスト予測テストでは,システムで糸巻 き問題と比較した 3 つの状況の糸巻きの動きを利用 して考えるよう教示が行われ,プレ予測テストと同 様の内容を 15 分で回答させた.続いて,実験者が参 加者の前で平面に置かれた糸巻きの糸を引いて,糸 巻き問題の解答を示した. 解答提示後,説明テストとして,なぜ糸巻きは解 答のような動きをするのかを,13 分間で記述させた. また,基本問題の解答に対する納得度を,「全く納得 できなかった」を 0,「とても納得できた」を 100 と してスライダーで評定する.また参加者が説明テス 図 2:TE-ext の操作画面.軸問題と基本問題の 状況を比較した場面.

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トで記述した説明に対する自信度を,「全く自信がな い」を 0,「とても自信がある」を 100 としてスライ ダーで評定する.また基本問題の解答についての説 明を記述させる際,システムで基本問題と比較した 3 つの状況を参考にして説明を考えるよう教示を行 った. 4.1.2.2 解答提示なし条件 予測テストと思考時間と説明テスト (プレ,ポス ト) からなる.まず,予測テストとして基本問題を 15 分で回答させた.続いて,実験者が参加者の前で 平面に置かれた糸巻きの糸を引いて,糸巻き問題の 解答を示した.プレ説明テストとして,なぜ糸巻き は解答のような動きをするのかを 13 分で記述させ た.この時,解答提示なし条件と同様に,納得度と 自信度をスライダーで評定させた. 続いて,解答提示なし条件と同様に,TE-ext を使 用した 30 分間の思考を行った.解答提示なし条件と 異なり,システムにより与えられた 3 つの思考実験 状況の動きと比較しながら,基本問題の糸巻きはな ぜ解答のような動きをするのかについての説明を考 えるように教示を行った. その後,解答の実演を含め,プレ説明テストと同 様の手続きで,ポスト説明テストを実施した.

4.1.3 説明テストの採点基準

説明テストにおける説明内容は,以下の基準に基 づき採点された.学生が初期にもつ誤った内的モデ ルは,糸を引いた時に糸が巻かれた糸巻きの軸を回 転の中心とし糸がほどけるものであった.糸がほど けると考えられた記述がみられた説明に 0 点を与え た.「糸が引っ張られる力の反作用として,左向きの 力がある」,「糸巻きは左回りの動きをしようとする」 のような記述が 0 点とされた. 学生が正しい内的モデルを生成するには,まず, 床に置かれた物体を引っ張ったときに,物体は引っ 張られた方向に移動することを理解しなければなら ない.よって,右方向の力がはたらいたため糸巻き が右方向に移動するという記述がみられた説明に 1 点を与えた.「糸を引いた方向に力が加えられ右に移 動する」のような記述が 1 点とされた. さらに,糸を引く右向きの力は,糸巻きの軸に巻 かれた糸のみでなく,糸巻き全体にはたらくことを 理解しなければならない.糸巻きの軸など糸巻き全 体に右向きの力がはたらいているという記述がみら れた説明に 2 点を与えた.「糸巻き全体に右方向の力 がはたらく」,「糸巻きの上に右向きの力がはたらく」 のような記述が 2 点とされた. そして,糸巻きと床が接する部分に着目をする必 要がある.左向きの摩擦力と糸巻き全体にはたらく 右方向の力についての記述がみられた説明に 3 点を 与えた.「右方向に力を加えると左向きの摩擦力がか かり,摩擦力により糸巻きに右回りの回転が生じる」 のような記述が 3 点とされた.

4.2 結果

4.2.1 予測テストの回答

解答提示なし条件,解答提示あり条件の予測テス トにおける各回答の選択人数を表 1 に示す.全ての 予測テストにおいて,選択された回答に有意な偏り が存在した (Fisher’s exact test ps<.001).また,全ての 予測テストで「左回り,左方向」が,期待値より有 意に多く選択されていた (ps<.01).解答提示あり条 件で,「右回り,右方向」を選択した参加者 1 名は, 初期で正しい内的モデルを生成していたことが確認 できたため,以降の分析から除外した.

4.2.2 説明テスト

ひび問題は正しい内的モデルの構築において,最 も重要な手がかりであると考えられるため,ひび問 題で正答しなかった参加者 1 名を分析から除外した. 説明内容の採点は 2 人の評定者により行われ,評 定者の採点が異なった場合,合議の上点数が決めら れた.評定者間信頼性は,解答提示なし条件でα=.934, 解答提示あり条件でα=.957 であった.説明内容の結 果を図 3 (a) に示す.解答提示あり条件のプレ,ポス トの説明内容の点数を比較したところ,ポスト説明 内容の方が有意に高かった (t(18)=2.306, p<.05).9 名 (47.4%) の参加者がプレ説明テストからポスト説明 テストにおいて点数が上昇した. 両条件における基本問題の解答に対する納得度の 左回り 右回り 回転しない 左方向 右方向 進まない 左方向 右方向 進まない 左方向 右方向 進まない 提示なし プレ 13 2 7 0 0 0 0 0 0 ポスト 14 3 5 0 0 0 0 0 0 提示あり 16 3 1 0 1 0 0 0 0 表 1:予測テストで各選択肢の選択人数

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平均を図 3(b) に示す.解答提示あり条件のプレ,ポ スト説明テストの納得度を比較したところ,ポスト 説 明 テ ス ト の 方 が 有 意 に 高 か っ た (t(18)=3.250, p<.01).また,解答提示あり条件の説明テストの納得 度と,解答提示なし条件のプレ説明テストの納得度 を 比 較 し た と こ ろ , 有 意 な 差 は み ら れ な か っ た (t(40)=0.067, p=0.473).一方,解答提示あり条件の説 明テストの納得度と,解答提示なし条件のポスト説 明テストの納得度を比較したところ,ポスト説明テ ストの方が有意に高かった (t(40)=2.983, p<.01). 両条件における解答の説明に対する自信度の平均 を図 3 (c) に示す.解答提示あり条件のプレ,ポスト 説明テストの自信度を比較したところ,ポスト説明 テストの方が有意に高かった (t(18)=2.939, p<.01). また,解答提示あり条件の説明テストの自信度と, 解答提示なし条件のプレ説明テストの自信度を比較 したところ,有意な差はみられなかった (t(40)=0.090, p=0.464).一方,解答提示あり条件の説明テストの自 信度と,解答提示なし条件のポスト説明テストの自 信度を比較したところ,ポスト説明テストの方が有 意に高かった (t(40)=2.794, p<.01).

4.2.4 思考問題

軸問題で,解答提示なあり条件の 1 名を除いた参 加者が実験者の期待する「左回り,進まない」を選 択した.両条件で選択された回答に有意な偏りがあ り (Fisher’s exact test ps<.005),両条件で「左回り,進 ま な い 」 が 期 待 値 よ り 有 意 に 多 く 選 ば れ て い た (ps<.01).

固定問題で,解答提示あり条件の 2 名を除いた参 加者が実験者の期待する「回転しない,進まない」 を選択した.両条件で選択された回答に有意な偏り があり (Fisher’s exact test ps<.005),両条件で「回転し

ない,進まない」が期待値より有意に多く選ばれて いた (ps<.01). ひび問題で,解答提示なし条件では 3 名 (13.6%) が,解答提示あり条件では 20 名 (95.6%) が期待さ れた解答である「右回り,右方向」を選択した.解 答提示なし条件では回答の選択に有意な偏りはなか った (Fisher’s exact test p=.066).解答提示あり条件で, 選 択 さ れ た 回 答 に 有 意 な 偏 り が 存 在 し (Fisher’s exact test p<.005),「右回り,右方向」が多く選択され ていた (p<.01).

4.2.5 書き込み操作

思考実験を通して,参加者の内的モデルにおいて はたらく力が変化したかを検討するため,TE-ext の 書き込みの分析を行った.ひび問題で選択された回 答に,条件による違いが見られたため,ひび状況の みを検討対象とする.ひび状況で,糸巻きにはたら く右向きの力について考えることは,正しい内的モ デルを生成する手がかりとなる.そこで,机に対し て平行な右向きの矢印が書き込まれていたかどうか を調べた.ただし,糸を引く力を表すと考えられる 矢印の書き込みは除いた. はじめに思考実験状況を示す画面 (図 2 の上部) において,両条件,ひび状況で一度でも右向きに力 を書き込んだ人を書き込みありとし,一度でも右向 きの力を書き込んでいない人を書き込みなしとし, その比率を図 4(a) に示す.右向きの力を書込んだ人 の割合が,解答提示なし条件より,解答提示あり条 件で多かった (χ²(1)=5.300, p<.05). また,同様の分類を,ひび状況が上部に提示され ている時の基本問題画面 (図 2 の下部) でも行った. 書込みありとなしの比率を図 4(b) に示す.右向きの 力を書込んだ人が,解答提示なし条件より,解答提 (a) ひび状況 (b)基本問題状況 図 4:右向きの力を書込んだ参加者割合.(a) は,ひび状況画面における書き込み.(b) はひ び状況と比較をした基本問題画面における書 き込み. 図 3:説明テスト.(a) は説明内容の平均点数. (b) は糸巻き問題の解答に対する納得度の平均. (c) は解答の説明に対する自信度の平均. (a) 説明内容 (b) 自信度 (c) 納得度

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示あり条件の方が多かった (χ²(1)=6.711, p<.01).

5 考察

本研究の第一の目的は,思考実験状況を行う 2 つ の状況で,内的モデルが修正されるかどうかを調べ ることであった.予測の思考実験を通して内的モデ ルは修正されなかったが,説明の思考実験を通して 内的モデルが修正されたことが示された. 予測の思考実験を行った解答提示なし条件では, プレ,ポスト予測テストで多くの参加者が「左回り, 左方向」を選択していた.参加者は思考実験で与え られたひび問題で,「左回り,左方向」を選択してい た.この結果は,ひび状況で糸がほどけるという誤 った内的モデルが利用されていたことが示唆される. 誤った内的モデルが非常に強固であり,参加者がそ の修正の必要性に気づけなかったため,内的モデル の修正が行われなかったと考えられる. 説明の思考実験を行った解答提示なし条件では, 説明内容の向上や解答に対する納得度,説明に対す る自信度の向上が見られた.思考実験状況において, 内的モデルを修正させる手がかりをつかむことがで きたと予想する.特にひび問題では,実験者の期待 に沿った回答が選択され,さらに,右方向の力の書 き込みも多くなされていた.糸巻きにはたらく右向 きの力が理解され,基本問題にも適用されていたこ とが,基本問題の画面で右方向の力の書込みが多く なされていたこから示唆される.各思考実験から獲 得された手がかりを,基本問題の状況との比較によ り,正しく適用できたため,内的モデルの修正に至 ったと考えられる. 本研究の第二の目的は,考案した 2 種類の思考実 験状況が内的モデルの修正に効果があるかどうかを 検討することであった.説明の思考実験において, 「糸巻きを固定する軸がない」,「軸があれば,そこ を中心として回転する」のような説明の記述が見ら れた.軸状況と基本問題の比較において,軸による 固定の有無に関する相違の発見から,糸巻きの動き が異なることを理解していたと考えられる. そして,先述の右方向の力の書き込みからわかる ように,ひび状況との共通点から,固定部分がない と力が加えられた方向に糸巻きが動くという手がか りを問題状況に適用できたと考えられる. 以上の結果は,思考実験では相違点,共通点の発 見が内的モデルの修正に重要であることを示す.生 徒が共通点を利用した bridging analogy により物理構 造を理解したように [7],共通点を利用し,思考実験 から得られた手がかりをそのまま適用可能な内的モ デルを修正させる有効なソースであったと考えられ る.また,先行研究では,問題状況の予測と思考実 験状況で観察された結果が異なったため,予測と結 果が異なった原因を状況の相違点から導きだし,内 的モデルが修正されている [8].一方で,本実験では, 糸がほどけるという誤った内的モデルに基づく予測 と軸状況で観察される結果が同じであったため,状 況の相違点から新しい内的モデルを構築するに至ら なかったと考えられる.今後さらに正しい内的モデ ルを構築できる思考実験状況を検討する必要がある.

謝辞

本研究の一部は,JSPS 研究費 [15H02927] の助成 を受けたものである.

参考文献

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[9] Matsumuro, M., and Miwa, K.: Three barriers to effective thought experiments, as revealed by a system that externalizes students’ thinking, In Proceedings of the 38th

Annual Conference of the Cognitive Science Society (pp.

176-181), Austin: Cognitive Science Society (2016)

[10] 松室美紀・三輪和久・白石愛輝: 思考実験によ る問題解決を目指したシステムの開発と評価, 人工 知能学会第 76 回先進的学習科学と工学研究会資料, SIG-ALST-B503, pp. 30-35 (2016)

参照

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