ケインズ経済学の政策的展開
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(2) 170. ケインズ経済学の政策的展開. と ころで本稿 では ケイ ンズ経済学 の 回顧 と展望 とい うこ とで,過 去 50年 に わ た るケイ ンズ経済学 の 発展 の軌跡 をた ど りなが ら,今 後 の経済学 の在 り方 を さ ぐってみたい と思 う。 そ こで まず 回顧 だが,1936年 (昭 和 H年 )に ケイ ン ズの『 一 般理論』 が 出版 され た 時 には,直 ちにそ の 内容 が理解 され る こ とは 困難 で あ った。 ガル ブレイ スが 書 いてい る よ うに「 ケイ ンズの『 一 般理論』 は経済学 の用 語 や抽象的概念 を習 得 してい なけれ ば,知 識人 です ら一般 には 理解 で きな いで あ ろ う。……彼 の理論 に つ いて 学 んだ 大部分 の 人 々は,常 に 仲介者 を必要 とした」1)の で あ る。 米国 で もそ うであ ったのだか ら,勿 論 日 本 で もそ うで あ った。 ケイ ンズ 自身 が序文 の最初 に,「 本書は 自分 の 同僚 の 経済学者た ちのため に書 かれた もの だが, 他 の 人 々に も理解 してほ しい と思 う。」 とあ る通 り ,. 非常 に難 しい研究書 で あ った こ とはた しかだが ,そ れ 以上 に,本 書 が マ ク ロ 経済学 の最初 の本格的 な書物 で あ った こ とか ら,当 時 の ミク ロ経済学 を中心 に学 び研究 していた 人 々に とっては,ま ず『 一 般理論』 で 使用 され る専問用 語や概念そ の ものか らして 目新 しい もので あ った 。 だか ら日本 で も少数 の有力 な先生 がたは別 として, この書物 が マ ク ロ経済 学 の最初 の本格的 な書物 で あ り,国 民所 得 の運動法則 を通 じて,有 効需要 の 原理 を説 くものだ とわか るまでには ,『 一般理 論』刊行 の1936年 (昭 和 11年 ) か ら,や が て数年後 の外国書 の輸 入が途絶 した戦前 の 時期 と戦時中 とを経 過 して,第 2次 世界大戦 が終 り,戦 後 まもな く外国 の書物 が入 る よ うに な った 昭和 24∼ 5年 頃 までの 時間 がかか った ので あ る。 い まか ら考 えれ ば,ケ イ ンズの『 一 般理論』力` 題名通 り<雇 用理論 >で あ り,さ らに 国民所 得理論 で あ る とい うこ とが充 分理解 されず に,た だ ケイ ン ズの新 し く鋳造 した <投 資乗数 >と か <流 動性選好 >と い った概念 や ,投 資 が 貯蓄 に等 しい とい う I=S(I=investment,S=savings)は 同義反復 で あ るか 否 か と言 った議論 が 盛 んで あ った こ とは,や は りそれ 以前 の博統的 な マ ー シ ャル 流 の ミク ロ経済学的 な考 え方 (ケ イ ンズの 言 う古典学派 )か ら容 易 に 転換 で きなか った とい うことで あろ う。.
(3) 島 津 亮 二. 171. そ の 当時 を想起す る と,や は リジ ョーン・ ロビンソンの『 不完全競争 の経 め ロ 済理論』"と か チ ェ ンバ リンの『 独 占的競争 の理論』 とい った ミク 経済学 の の 傑 作 が1933年 に 同時 に 出版 され て, クール ノ ー以来 の微積分 を利用す る 数理経済学 が 盛 んにな りか け ていたので, こ うい うパ ラダイ ム (paradigm, 特定 の研究方法 )の 支配下 では容 易 に <ケ イ ンズ革命 >5)に 便乗 で きに くい 学 会的 な 雰 囲気 が あ った 。 お まけ に 戦争気運 で ,<新 体制 の 経済学 >と か <東 亜 新秩序 の経済学 >と か <東 亜 共栄 圏 の経済学 >と か言 ったキ ワモ ノ経 の 済学 が横行 し,ま た 真面 目な学者 もナチ ス・ ドイ ツの ゴ ッ トル の 生活経済 学 や戦時経済 ,統 制経済 な どの ま ともな研究 は少 く,非 科学 的 な時局迎合的 な著作 が 横行す るな ど,わ が 国経済学界 の雰 囲気 は全 く異様 で あ った。 私 は 昭和 14年 (京 都大学経済学部 へ 入学 した年 )の 10月 31日 に梶井基 次郎 の 短篇「 檸檬」 (レ モ ン とよむ )で 有名 な 当時 の京都 三 条 の 丸善 で この『 一 般 理論』を 4円 75銭 で 買 った 。 当時 の英 国 か らの 洋書 の相場 としては50%ぐ らい安 か った よ うだ が ,普 及 のために ケイ ンズが 印税 を安 くして い るのか 放 棄 して い るのか とい うよ うな暉 さえあ った 。 そ の序文 を見 る と「 全体 として の 産 出高 (生 産 国民所 得 )と 雇用 の大 きさを変動 させ る諸要 因 を主 として研 へ 究す るもので,貨 幣 は本 質的 か つ 独得 な仕方 で経済機構 の 中 入 り込む こ と が示 され てい るが ,(前 著『 貨幣論』 の よ うに)貨 幣 に か んす る 技術的 な詳 細 は背景 の うちに 退 いてい る」 とあ る と ころか ら,明 らかに貨幣 とか利子 に マ よる貨幣経済的要 因 に よる <雇 用理論 >な い し<国 民所 得 理論 >ま たは ク ロ経済学 の書物 で あ る ともっ と早 く気付 くべ きで あ ったか も しれ な いが ,勿 論 当時 はそ の よ うな知識 に乏 しか った 。 (私 自身 が 初 めて 国民所 得論 の講 演 を聞 いたのは,当 時. GHQ(マ. ッカーサ ー総 司令部 )に お られ た経済学者 マ. イケル・ サ ピア博 士 (Dr.Michal Sapir)が 京都大学 へ 来 られ て,「 社会会 エ 計論」 の講演 を された時 で, 昭和 24年 頃 だ った と思 う。 サ ム ル ソンの 45° ) 線 の 図形 を黒板 に描 かれ た記憶 が あ る。. つ と ころ で 戦後 にな る と, ジ ョー ン・ ロビンソンの『 雇用 理論入 門』 とか.
(4) ケインズ経済学 の政策的展開. 172. め, デ ィラ― ドの Jo M.ケ イ ンズの モル ガンの F国 民 所 得 と雇 用』 経済 『 学』"な どの 明解な解説書やサムエル ソンの『 経済学』1の が 出 るに及 んで ケイ ンズの経済学 のほぼ全体像 が理 解 され る よ うに な った 。 註. 1)J. K.Galbraith, Pο ωθ γ,ch.6,1952。. ι Иπθ γ υαづ づ ε αんSη o, Tん θ ο γ ノ απ Cα 夕づ ι づ πε πg 夕ι (プ Cθ π%ι ι メ ル ア ブイス リカの 川健三郎訳 (新 著作集 資本主義』 (ガ 『 C‐. 第 一 巻,TBSブ リタニ カ刊 1980)本 書 は周 知 の よ うに対抗力 の 理論が 中心 とな る ゛ 書物 であ るが, この書物 で説 明 された ケイ ンズ『 一 般理論』 の 要約 は非常 にす くれ てい る。第 六章 。. 2)Joan Robinson,rん θEθ oπ θ%づ εs q/」 ,η 夕ιγ ιCθ ηOク θ ′ グ ο η,19JJ。 ,2nd ed.,1969。 ルθ なお不 完全競争 な い し独 占的競 争 については青 山秀夫『 独 占の経済理論』 1937が 非 ゛ 常 にす くれ てい る。. 3)Edward Hastings Charrlberlin, rλ θ ハィθπ。夕θノ ι ι S′ づ εCθ π夕ι π, グ グ づ ο. 1933。 , 8the. ed.,1962(青 山秀夫訳『 独 占的競争 の理 論』 1966。 ) 4)Augustin Cournot,Rι εんθγθんθs sπ γJθ sク γづ λι Sハ fα ι παガg%ι sごθ′ θ πε グ oγ グ α rん ι クι ごθ s Rづ ε. ttθ. ssθ. s,1838.(中 山伊知郎訳,『富 の理 論 の数学的原理 に関す る研究』(岩 波. 文庫 ),1936),な お現在 は Calmann‐ L6vy社 か ら Henri Guittonの 序文 をつ け. た ものが,Perspectives de l'Ё conomique叢 書の一冊 として出ている。 Jπ ι sグ α 5)Lorence Klein,rttθ κηπθ πRι υο づ %,1947。 (篠 原三代平・宮沢健一訳『 ケ ο イ ンズ革命』 1952。 sι %%π αGγ %π ″ 6)Friedrich von Gottl‐ Ottlilienfeld,Tグ ′ bι gγ ψ. γ ι αι γ ″グ sε 乃 %″. ,. │1清 治・藤原光治郎訳『経済の 本 質 と根 本 概 念』 (岩 波 文 庫);7ο ノ 1933.(西 り ん Sι α γ ι sε ″ル %π αRθ θ 乃′ αι ,″ づ ,1936.(金 子弘訳『民族・国家・経済お よび法律』) ,. など。 乃′ι γ ごαθ ι λθ ι 7)Joan Robinson,Iπ ι づ οι Zθ π ο ο πι ο , 1937,(り η げ Eπ グο ノη. │1口 弘訳. 『 雇用理論入門』1951)。 この書物 の初版が1937年 であったのに,何 故か当時わが国 では広 く読 まれていなか った。 もしこれが戦前 に充分読まれ ていた ら, 日本でのケ イ ンズの解釈はかな り進歩 していたであろ う。 これは初歩的な書物であるが,名 著 である。勿論戦後 になってか らであ るが,現 在 ロン ドン大学 の教授を してお られ る 森嶋通夫君か ら, この書物を当時京大での英語経済書講読 のテキス トに使用 しては と推められた ことがある。. sげ 8)Dudley Dillard,Tλ ιEθ θ πθzグ ε 『 JO. M・. “ ケインズの経済学』 ,1950). π να ノπα Jο λ. 'イ. κη%ι S,1948。 (岡 本好弘訳. πθαπαE協 タノ 9)Theodore Morgan,I%ε ο ο ノ%θ %ι ,1947.頓 晏谷尚夫 。渡辺太郎訳『国.
(5) 島 津 亮 二. 民所得 と雇用』1951). 10)Paul A.Samuelson,Eε ο s,1948.今 日では第12版 (1985年 )が 出ている。 πο %グ θ 第11版 (1980年 )ま ではサムエルソンが単独の著者として,改 訂を繰返 して来 られ たが,第 12版 か らは Willium Nordhaus(エ ール大学教授)が 共著者として参加 された。都留重人教授による第12版 の訳 も近 く出 るはずである。Nordhaus教 授は 政策的景気循環 (Political Cycles)の 専門家であるか ら,今 後サムエルソンの『経 済学』 も,よ り政策指向的なものになるであろう。. ケイ ンズの『 雇用・ 利子 0貨 幣 にかんす る 一 般理論』1)は 何 が 書 いて あ る のか と言 えば, 前述 した よ うに, ケイ ンズ 自身 が そ の序文 の 中 で 「 本書 は 以前 の『 貨幣論』の と異 って, 全体 としての 産 出高 と雇用 の大 き さを変動 さ せ る諸要 因 の 研究 を 第 一 義的 に展開 した もので あ る」 (This book,on the other hand, has ev01ved intO what is prilnarily a study of the forces which deterΠ line changes in the scale of output and employment as a. whOle;… )(p.宙 i)と 言 ってい る よ うに, ケイ ンズは短期的 には雇用量 は産 出高 (生 産 国民所 得)と 比例 して増減す る もの と考 えてい るか ら,結 局 ,全 体 としての産 出高 (生 産 国民所 得 )の 大 き さ,な らびにその変動 を決定す る諸 要 因 が 何 で あ るか―一一 それ は 有効需要 (effective demand)で あ り, これ が生産 国民 所 得 の 大 きさを 決定す る 仕方 が 有効需要 の 原理 (principle oF. effective demand)で あ る――― とい うことを『 一 般理論』 では 包括的 に説 明 しよ うとした ので あ る。 この 有効需要 の 原理 とい うのは, 内容的 には 国 民所 得 にかんす る三 面等価 の 原則 (principle of the equivalents of three aspects of the natiOnal income)と 同 じもので あ る。 (こ の理 由は後述す る) さきにわが国では,ケ イ ンズ『 一 般理論』 が雇用理論 で あ り,国 民所 得 理 論 で あ り,マ ク ロ経済学 で あ る とい うこ とが一部 の 人 々を除 いて充分理解 出 3)の 来 なか った と言 ったが , それは やは リクズ ネ ッツ 『 国民所 得』 の よ うな. 実証的研究 に 裏 づ け られた「社会会計論」 (social accOunting)と か「 国民 所 得勘定」 (National lncome AccOunting)と なか った こ とに よるもの と思われ る。. い った考 えが 充分 普及 してい.
(6) 174. ケインズ経済学 の政策的展開. また現 に ケイ ンズ理論 が 米国 の ニ ューデ ィール政 策 に適用 され て,広 く有 名 に な ったの も, やは リクズ ネ ッツの 実証的研究 が 役立 った こ とは 明 らか で, クズネ ッツは アル ビン・ ハ ンセ ン (Alvin Hansen)。. と共 に, ケイ ンズ. 理論 な い しケイ ンズ政 策 の 米国 へ の導 入 に つ いては 間接的 な協 力者 で あ った とい え る。 勿論 ケイ ンズ『 一 般理論』 (1936年 =昭 和 H年 )刊 行以後 , 戦後 に至 るま での 日本 では クズ ネ ッツや ハ ンセ ンの よ うな 役割 を した 学者 は い なか った し,ま たかれ らの学説 もあ ま り知 られ てい なか ったか ら,少 数 の 先生 がたを 除 いて,ケ イ ンズ理論 が政 策的 に利用 され る こ とは なか った 。 ただ 私 の 恩師 高 田保馬先生 が ケイ ンズの乗数理論 を使 って,盛 んに物価問題 の 警世的論文 を 発表 されてお られ た こ とは壮 観 で あ った 。私 は京都大学経済学部 の学 生 で あ った 頃 ,当 時 の学生 の世話役 の よ うな仕事 で 同好会 の 実行委員 とい うの を 三 年 間 つ とめたが,昭 和 15年 の秋 に 毎木曜 日の夜,《 ケイ ンズ経済学講座》と もい うべ き10回 連続 の公開講義 を して頂 いた。恐 らくそ の 時 の 先生 の ノー ト が 改訂 され て, 終 戦直後 の 先生 の『価格・ 労銀 0失 業』 (東 洋経済講座叢書 第 9輯 )(昭 和 21年 )の 中 に か な りと り入れ られ てい る よ うに思われ る。 こ れ でみ る と高 田先生 は ケイ ンズの 理論的 な 論 点を 非常 に適確 に 理解 され て お られ た よ うに思われ る。 勿論 も っ と専 門的 な 先生 の 著書『 新利子論研究』 (昭 和 15年 )は 今 日な おす ぐれ た ケイ ンズ研究 の 参考文献 では あ るが, 先生. の畢生 の大著作「利子論 シ リーズ」 の一 部 で あ るために論点 が利子理論 に 限 定 され てい るので一 般 向 きの 書物 で な いの は 仕方 がない。 αガsι と ころで ケイ ンズは『 一 般 理 論』以前 に,大 著『 貨 幣 論』 (■ 7″θ οη Mbη り ,1930。 )を 書 き, さ らに それ以前 に も 初期 の 著 書『 イ ン ドの通 貨 と 金融』 (ル ごJα ηCα r″ ηり αηご Fjη αηε. `,1913.)や. Trα ε ″οηMο ηααッ Ra/orπ. 『 貨 幣 改革論』 (A. ,1923.)な ど,ほ ぼ貨幣論 な い し貨幣経済的学. 者 として有名 で あ ったので,『 一 般理論』 (1936)が 出版 され た 時 には , 日本 では これ を経済 一 般 ではな く貨幣経済 にかんす る著作 とみ る先 入 観 が あ った のでは な いか と思 う。勿論『 一 般理論』 の序文 には ,以 前 の『 貨幣論』 と違.
(7) 島 津 亮 二. 175. って,本 書 では 実物経済 が表面 に 出 て,貨 幣経済 は背後 にか くされ てい る と も言 い, しか し「 貨 幣経済 は 本質的 に将来 に対す る見通 しの変化 が雇用 の方 向 ばか りか雇用 の量 を も左右 し うる よ うな経済 で あ る」 とも言 ってい る よ う に,利 子率 とか 貨 幣数量 とか言 った 貨 幣経済的要因 に重点を おいた <雇 用. 0. 利子・ 貨幣 にかんす る一般理 論 >で あ る とい うこ とがで き る。 この 点 で 固有 の「Jo M.ケ イ ンズの経済学」 (Economた s of Jo M.Keynes. or J.Mo Keynes'EcOnomics)と ,い わ ゆ る「 ケイ ンズ (派 )経 済学」(Keynes‐ ian EconOmics)と は 異 る駒。前者 は『 一 般理論』に書 かれ てい る経済学 お よび ″ ο Pの ヵ r″ んιИttr,1940)な ど “ 其後 の ケイ ンズの論文 な どで修正 され た部分 を含む ケイ ンズ 自身 の学説 で あ そ の後 の ケイ ンズの『 戦費調達論』 C動. るのに対 して,後 者 の ケイ ンズ学派 の経済学 は金 融 よ りもむ しろ財政 に重点 をお く政 策主導型 の経済学 で, これ は 米国型 ケイ ンズ経済学 とも言 えるであ ろ う。 しか し今 日 一 般 に ケイ ンズ (派 )経 済学 とか ケイ ンズ主義 (Keynesian_. ism)と 言われ る場 合 は, 政府 の積極的 な 財政拡大主義 を一 般的 に指す場合 が 多 い。 た とえば レー ガ ン大統 領 の就任直後 : レー ガ ン政権 は ケイ ンズ的積 極 財政政 策 な い しは 有効需要拡大策 を批 判 して,い わ ゆ る <供 給重視 の経済 学 >(Supply‐side EcOnOmics)を 唱導 した。 これ は 勿論 ケイ ンズ的経済政 策 を <需 要重視 の経済学 >と 見立 てた上での ス ローガ ンで あ ったが,実 際 は 不況脱却 のため 3年 間 に25%の 所 得減税 を断行 して,有 効需要 の拡大 を指 向 した <ケ イ ンズ政 策 >を 実行 した ことにな る。 いずれ にせ よ,当 面 の一 時的 な便法 な らば ともか く,供 給重視政策 も需要 重視政 策 も長期 間 に わた ぅて つづ け るわ け にはい くまい。. 註 「 /ι 1)John Maynerd keynes, rλ ιGι πθ γ J Tttι ο γ α , Iグ ι ノ%ι πι ノ げ E%ノ ο νο %り ,1936.(塩 野谷九十九訳『雇用 0利 子及び貨幣の一般理論』1941) 2)John Maynard Keナ nes,A Tπ αι ′ sι ο ηMο 力り,1930.. sι. α πα.
(8) ケインズ経済学 の政策的展開. 176. %ι ,1929∼ 32,NBER,1934。 なお社会会計論ない ο づ ο παJ∬ πε 3)Simon Kuznets,Nα ′ γ ん,1942。 (酒 井正 α″ル α%θ ωο R.Hicks,rλ ιsoε づ し国民所得計算 については J・. 三郎訳『経済 の社会的構造』1951)を 最良の入門書 としてすすめる。またこれの 日 グ αJ 本経済へ の適用 については同 じく J.R.Hicks and Nobuko Nosse,Tttθ Sο θ (山 本有造訳『 日本経済の構造』. んθJα 夕α%ι Sθ Eθ O%0%ノ ,1974。 ωογ んげ ι ル απθ. 1976)の ほ うが 日本の読者 には親みが もてるので入 りやす いだろ う。 γ ε θ απαttα gttι θ S, Pθ α %ο %づ ε 4)J.Ko Galbraith, Eε ο ,(Pelican Books), 1971, “ 0人 0新 ・ 物論』 1972,所 収,How Keynes 川健三郎共訳『経済学 平和 (小 原敬±. Came to America(ケ イ ンズはどのようにアメ リカヘ導入 されたか)参 照。 乃 θι %ι λ れた れg ηs':И %Essαノ づ λ θ`κ ηπι α γ S%s ι S υ づ 5)To Wo Hutchison,κ θ ノπι 〃 lω θ γ s, λ s Fο γ ι ι ろ づ ο ε S LC″ ι γ ι グ π FJ・ %γ 夕 α ο ε ε α ι И Xθ ι S %α 〃 π α 几 ノ ノ o/ 夕 ・ の ノ sづ. ttθ. vrith coΠ Hnentaries No。. 11。. ,1977。. by Load kahn and Sir Austin]Robinson,Hobart Paperback. を参照 されたい。. π,1985 づ ο b′ ι π o/S,電∫ι αι なおハーバ ラー (G.Haberler)は ,そ の著 Tttθ Pγ ο の中で,「 言 うまで もな くケインズは今世紀最大 の 影響力 のある経済学者で あった か ら,ケ イ ンズ主義 (Keynesianism)は 格別の注 目を集めたが, ケインズ (派 ) 経済学 (Keynesian Economics)と ケインズの経済学 (Eonomics of Keynes) とは峻別すべ きであ り,ケ イ ンズ 自身 も展 々見解を変更 し, とくに重要な会合など ではすばや く見解 を 変 えるので, 多 くの後輩 たちは ついてい くのが 難 しか った」 学説 として固定的に決め込む ことは危険であ り (p。 1)な どと言 っている。つ ま り 大事な ことはその「 考 え方」であって,固 定観念や ス ロー ガンではないと思 う。 ,. ガル ブ レ イ スの 有 名 な『 不 確 実 性 の 時 代 』 uЪ θttg′. 0/仇. εθr″ αグ ηり. ,. 1977)の 第 6章 で ,米 国 の 生 ん だ最 初 の 数 理 経 済 学 者 ア ー ヴ ィ ン グ・ フ ィ ッ シ ャ ー (Ir宙 ng. Fisher)の 業績 を た た え,「 現 在 ケイ ンズ 革命 と呼 ばれ て. い る もの は , ア ー ヴ ィ ン グ・ フ ィ ッ シ ャ ーに 始 って い る」 (第 6章 最終 )と あ るが , これ は ケイ ンズの フ ィ ッ シ ャ ー宛 の 手紙 (1944)で も確 認 され て い る。 こ こで 面 白 い の は フ ィ ッ シ ャ ーの 発 案 した 貨 幣 数量 説 の 取 引 流通 速 度 を政 府 が 財政 支 出 の 拡 大 を通 じて加 速 す る こ とに よって ,景 気 の 沈 滞 を打 開 す る とい う発 想 は ,彼 の 貨 幣数 量 説 か ら直接 出 た 構 想 らしいが , これ に反 して. ,. ケ イ ンズの 有 効 需 要 の 原理 は 貨 幣数 量 説 か ら脱 却 す る こ とに よって ,有 効 需.
(9) 島 津. 亮. 二. 177. 要 の 原理 が 出 て 来 た とい う こ とで あ る。 ケイ ンズの『 貨幣改革論』 (A. αッ Rイ レπ,1923)に お Tη ε′οηMο πι″. け る現金残高数量説 (cash balance quantity theory Of mOney)と 貨幣数量説は. n=PKで 示 され る。 ここで nは 貨幣数量 ,. 呼 ばれ る. Pは 物価水準, K. は現金残 高 (cash balance)と 呼 ばれ るもので あ る。 これ は マ ーシ ャル (Alfred h/1arsha11)の Mο ηり ,Cr″ グ ιαηご Cο ππ′κι ,. 1923.の 中 に数式 で な く文章 で 書 かれ てい るが, 一 般 に次 の よ うに表現 さ. M=kYと 本質的 に 同 じもので, Mは 貨幣数量 , Yは 国 民所 得。 k=M/Yで あ るか ら, kは 国民所 得 の 中 で, どれだけを 貨幣 と れ るマ ーシ ャルの. して保有す るか とい う割合を示 し, これ を「 マ ー シ ャルの k」 (Marshallian “k")と い う。 (こ れ の逆数 1/kを 貨幣 の所 得流動速度 とい う) と ころで実物 国民所 得 の数量 を yと し,そ の 単位価格 を Pと す る と,Y=. Py.こ れ を M=kYに 代 入す る と,M‐ P・ 比較 して,M=n,. ky=Kで. ky。. 即 ちケイ ンズの. n=PKと. あ るか ら, マ ーシ ャルの所 得数量説 と同 じも. のに な る。 ここで 現金残 高 Kと は実物 国民所 得 に 貨幣保有率 (マ ーシ ャルの. k)を か け た もので あ る。 勿論 マ ーシ ャルの M‐ kY=P Okyに せ よケイ ンズの n=PK=P Oky にせ よ, kと yを 一 定 とすれ ば,貨 幣数量 (M)の 増 加 は物価 (P)の 上 昇 とな って (そ の逆 は逆 ),こ れ で物価 を説 明す るのが 貨幣数量説 と 言われ る 所 以 で あ るが , も し kの 一 定 は 認 め られ る として も,Pも 一 定 で あ る とすれ ば, 貨幣数量. (M)の 増加 は 実質国民所 得 (y)を. 増 大 させ る (そ の逆 は. 逆 )と い うこ とにな る。 これは非 現実的 だ。 (た だ 前述 の フ ィッシ ャーの場 合は. MV=PTに. おいて,Mも Pも 一 定 として,取 引流通速度. くす る と実質取 引数量. (V)を 大 き. Tは 大 きくな るか ら, Tが 大 きくな ると, y(実 質. 国民所 得 )も 大 き くな る とみた ので あ ろ う。 ) ηMο πり 。1930)に おいて,改 良型 さて ケイ ンズは『 貨幣論』(A Trθ αι グ sι ο の 貨幣数量説 とも言 うべ き 彼 の命名 に よる 基本方程式 (fundamental equa‐. doOを 考案 した。 即 ち π=÷ +義 書. とい うもので あ る。 ここで πは物.
(10) 178. ケインズ経録学の政策的展開. 価 水準 ,Eは 貨幣国民所 得,Oは 実物国民所 得 ,. Iは 投 資, Sは 貯蓄,Rは. 消費財産 出高 で あ る。 つ ま り右辺 の 第 一 項 と第二 項 との双方 の変動 に よって 物価 が 変動 な い し (相 殺 され て)安 定す る とい うもので あ る。 と ころが 貨 幣国民所 得. (E)は 実物 国民所 得 (O)に 物価水準. 先 Rキ 0で あ るか Lπ. =÷. 十 とな 先 七 書. (π. 卜. )を か け た もので あ Sと な る。. つ ま リケイ ンズ以前 の ケイ ンズ とも言われ る ス エ ーデ ンの クヌー ト・ ウ ィ クセル (Knut Wickse11)1)に して も ケイ ンズに して も, 貨 幣 数量説 か ら脱 去口 す る こ とに よって,国 民所 得 の 運動法則 (有 効需要 の原理 =三 面等価 の 原 則 )を 獲得 したので あ る。 さ らに これ ら貨幣理論 の研究 に専念 した学者 は. ,. これ までの ミク ロ経済学者 よ りも,物 価水準 とか 資金流通 の研究 を通 じて マ ク ロの経済理論 に な じみやすか った とい う利 点 は あ った と思われ る。. 註 γ ι απαPγ づ θ ι s, γ ι πs γπ′Gttι θ づ ,1898,(英 訳)∬ ι 1)Knutヽ Vichsell,Gθ 〃χグ ク′ ,ダ. Sθ. sι. 1936.. ι Sι ′ ι ε ι α. ′ Pα 夕ιγs ο% Eε ο%ο %づ θ rλ ι。夕 ノ. by Knnt. ヽ Vicksell, edo with an. lntroduction by E Lindahl, 1958. C.G.Uhr,Eθ θποπづθDθ εノγグ%θ s(プ. 」 んsι ″,1960。 しOα ιフ/づ ε. Bertil G. Ohlin, Some Notes on the Stockholln Theory of Savings and θJο πγ πα′ lnvestment,Part I,II,(Eθ ο%ο πづ ,1任 are and Jun,1937。 ). と ころ で I‐ Sと は ど うい うこ とか。 これ が 正 に ケイ ンズの 有効需要 の 原 理 で あ る。 この理 由は こ うで あ る。 生産 国民所 得 =Yl, 分 配国民所 得 =Y2, 支 出国民所 得 =Y3と す る。 ま た 消費 =C,投 資 =I,貯 蓄 ‐ Sと す る と,Yl=C+I…. S… …(2), と ころで. …(1),Y2=C十. Yl=Y2は 恒等的 に等 しい。 そ の 理 由は こ うで あ る。. 生産 国民所 得 はす べ て誰 かの所 得 に な ってい るか らで あ る。 この説 明 で満足 で きな い な ら,次 の よ うに証 明す る。 年 間 の総利潤 を P,年 間 の総売 上 高 を A,年 間 の総使用者費用 を. U(user.
(11) 島 津 亮 二. cost=他 企業か らの購入額 と減価償却費・ 維持費の合計 として企業者 の支払 うもの)と し, さらに 総生産要素費用を F(factor cOst=賃 金 0地 代・利 子. )と. す. る. と. U一. ,P=A一. F。. っ て. A一. U≡. P+F,即. ち. 左 辺. は. 生. 産. Yl=Y2で あ る。 り (2)を 引 くと, I‐ S… …鰺)し か も (2)の Y2=C tt. S. 従. 国民所 得 (国 民純 生産 ),右 辺 は分配 国民所 得 ,即 ち 従 って上記 の (1)よ. は つ ね に等 しヽ口 巨等式 で あ る。 つ ま り分配 国民所 得 を消 費 した残 りはす べ て 貯蓄 と定義す るか らで あ る。 そ こで (2)が 常 に成立す る以上 ,Y=C. tt I… …(1)と I=S… …(2)と は同. じ内容 を表 現 してい る。 つ ま り (1)と に)と は 同義 で あ る。 (こ の 関係 の 図形 に よる説 明は,サ ムエ ル ソンの『経済学』第 12版 ch.8。 参照 ) と ころで. (1)の. (C+1)を. 有効需要 (effective demand)1)と 名付け る と. ,. (1)式 は (生 産 国民所 得)=(有 効需要 )と い う式 に な る。 この式 は 恒等式 で. な く方程式 で あ る。従 って,Yl>C ば,Yl<C+I(イ. tt I(デ フ レ 0ギ ャ ップの場合 )も あれ. ンフレ 。ギ ャ ップ の場 合 )も あ る。 しか し, 窮極的 に. ま Yl=C tt Iに な る よ うに, 生産 国民所 得 Ylが 変動す る。 つ ま り セ. C tt Iが 均衡 国民所 得 で あ る。 もし Yl>C+Iな. Yl=. らば,生 産 国民所 得過剰. で デ フ レに な り, 物価下落 → 生産縮少 → 生産 国民所 得 減少 で, Yl=C tt I とな る。逆 に もし Yl<C tt Iな らば,生 産 国民所 得 不足 で イ ンフンに な り ,. 物価 上 昇 → 生産拡大 → 生産 国民所 得拡大 とな って,や は り Yl=C+Iに 付 く。 (こ. れ らの 図解 もサ ムエ ル ソン『 経済学』第 12版 。ch。. 8。. 落. を参考 に して. ほ しい。 ここで投資乗数 の説 明 も知 ってほ しい 。 ) 勿論 (1)と β)と は 同 じ関係を示す か ら,Yl<C tt Iの 時 は ,I>S。. Yl>C tt Iの 時 は,. I<Sと. な る。. Ylの 大 きさを 決定す る 要 因 が (C tt I)に あ る こ と, 即 ち (C tt I)が Ylの 大 きさを決定す る とい うこ とを 有効需要 の原理 とい う。 (同 様 に I‐ Sに おいて, Iの 大 き さが Sを 決 め る こ とも有効需要 の原理 で この よ うに. あ る。 これは また 投資乗数 の理論 に よって も説 明 で き る) さて有効需要 (C tt I)が イ ニ シアテ ィブを とって,国 民所 得 を決定す る.
(12) 180. ケインズ経済学の政策的展開. こ と。 つ ま り有効需要 の大 き さが均衡国民所 得 を 決定す る こ とを 有効需要 の 原理 とい うと同時 に, この場 合 , 有効需要 =支 出国民所 得 と 定義すれ ば. ,. Yl≡ Y2=Y3と な るので, これを三 面等価 の原則 ともい うので あ る。 最後 に この有効需要 の原理 とい うのは ,ケ イ ンズ以前 の 古典学派 の 公準 で あ った「 セ イの法則」 (Say′ s Law of Market)2)と は因 果関係 が逆 に な る と い うこ とで あ る。 即 ち ケイ ンズの「 有効需要 の原理」 は. (C+I)が Ylを. 決定す るのに対 して,「 セ イの 法則」 では, 生産 国民所 得 =総 供給 が,有 効 需要 =総 需要 を決定す る とい う図式 に な る。 即 ち Ylが. (C+I)を. 決定す. る。 これが「 供給 がおのず か ら需要 を創造 し,従 って一 般 的過剰生産 は あ り えな い」 とい う「 セ イの法則」 の 内容 で あ る。 とい うこ とは,「 セ イの法則」 では 供給 =生 産 が増加す れ ば, 生産費 =生 産要素費用 =分 配所 得 が増 加 して,需 要 が 拡大す る とみ るか らで あ る。 つ ま リセ イは所 得増 加が直 ちに需要増加 につ なが る と見た のに対 して,ケ イ ンズ は 貨 幣 の価値貯蔵手段 とい う機能 を重視 して,所 得 は充 分 に消費 されず ,貯 蓄 は充分 に投資 され な い と見 たか らで あ る。 これか らさ らに推論 され る ことは ,ケ イ ンズの「 不完全雇用下 の均衡」 と い う思想 で あ る。 今世紀 の少 くとも第一次大戦 の 頃 までは, 自由経済 =自 由貿易 の謳歌 され た 時代 で あ った 。 さ らに金本位制度 の もつ 金 の 自動的調節作用 が 自由経済思 想を さ らに確信 せ しめた。 ケイ ンズは この よ うな予定調和 の世界 ,均 衡化 の 作用す る世界 , 自由放任経済 の世界 に疑間を もち,ま ず 1923年 の『 貨 幣改革 論』 では金 本位制 の廃止 を訴 え た 。 それ と同 じ方 向の考 え方 で,世 界大恐慌 の大量 失業現象 が 賃金 の調節や労 働 の移動 だけでは解消 しな い こ とを考 えた。 つ ま り失業 の存在 をそ の まま放 置 しなが ら経済 は不 完全雇用均衡状態 を維持 し うるとい うので あ る。 ここか ら政府 の 強 力な経済介 入 が始 るわ け で,そ の最大 の 実験 は 米国 にお け る ニ ューデ ィール政 策 で あ ったであろ う。 また 第二 次世界大戦 後 には トル ーマ ン大統領 に よる雇用法 が 施行 され ,各 国 ともほぼ類似 の社会保障制度 を.
(13) 島 津 亮 二. 中心 とす る福祉 国家 に生れ変 った。幸 い ケイ ンズに始 るマ ク ロ経済理論 の 発 展 は各 国政府 に有 力な経済政 策 の技術 を提供 した。 こ うした過程 で政府 の積 極 的 な財政政 策 と技術革新や金融緩和政 策 で, 日本 は もと よ り,ほ ぼ世 界各 国 とも高度成長 をな しとげた。 まさに ケイ ンズ政 策 の勝利 で あ った。 しか し これ らの拡大政策 には 無限 の 資源 ,無 限 の 開拓可能 な フ ロンテ ィア ーの存在 が 前提 され ていた 。 また処理可能 ,再 生可能 な環 境対策や公害対 策 も当然. ,. 前提 とされていたで あろ う。或 いは これ らの見識 が欠除 していた。 と ころが ローマ クラブの F成 長 の 限界』 (1970)に 象徴 され る よ うに,あ ら ゆ る資源 は有 限 で あ る とわか り,石 油危機 ,エ ネ ル ギ ー問題 な どによ って世 界経済 の 発展 に大 きな枠 がはめ られ て しまった。 ケイ ンズの 自由放任的 。自然秩序的経済観 の破壊 か ら,各 国 の積極的財政 政 策 に よる管 理主 義的経済政 策 が しば らくは成功す るか にみ えた が,資 源 は 有 限 で あ り, フ ロ ンテ ィアが 無限 では な い こ とがわか る と,大 量生産 の利益 ど ころか , コス ト増進 の世界 に変 り,ス タ グ フレーシ ョン とい うイ ンフ レ と 不 況が共存す る体質 の世界経済 に な って しまった。不況 で もデ フレ (物 価下 落 )な らば回復 力 が 自動的 に作用す るが,ス タブ フレーシ ョン とい うこ とに な る と,い よい よ 自動的 回復 力を失 って しま う。 各 国政府 とも財政 放 出 が過 ぎて,赤 字財政 と累積赤字 で政 策 の行動 力 は 弱 体 化 してい る。 つ ま リケイ ンズの前提 とした時代 よ りも, も う一 段 と硬直化 した 世界 に な って しまった。 自由経済時代 には個人 の論理 と倫理 が 国家 の それ と一 致 した。 さらに世界 の倫理 と も一 致 した。 自由競争 のは なやか な りし時代 には,高 能率 で 自動的 調節 が 作用 したか ら,不 況 に な って もイ ンフ レに な って も自然治癒 が期待 で きた 。 しか しケイ ンズ時代 には 半身不随 には な ったが,政 府 が マ ッサ ージを して くれ た。今や世界 中 の政府 が疲れ て来 た 。 もしケイ ンズが生 きていた ら ど う考 えるだ ろ うか。 やは り有効需要 の原理 ではないかわ。 各 国 の眠れ る資 源 ,人 も物 も能 カー 杯 に動員 して,そ れを世界 中 に再配分 で き る よ うな世界 的規模 の 国際金融組織 を 考 え るで あ ろ うか 。 もし この ままで 推移す るな ら.
(14) 182. ケインズ経済学の政策的展開. ば, 世界中 が disinflation(イ ンフレ抑制)の 反動的衝激 で大混乱を来す で あろ う4)。 も ともとケイ ンズは純粋 な経済理論家 とい うよ りは ,経 済政策学者 で あ っ て, そ の時 々の政策的提言 を つづ け て きた 。 初期 (1921年 )の 『 確率論』 ηPrο らα夕Zグ リ)を 別 とすれ ば,ほ とん どす べ ての著書論 文 や グ sθ ο (A Trι αι バ ンフ レ ッ トは経済政策的提 言や政策批判 の書 で あ る。 と くに『 雇用 0利 子 ・ 貨 幣 にかんす る一 般理論』 (1936年 )に 至 っては, 世界大恐慌期 (1929-. 1936)に お け る持 続的大量失業現 象 の解消 のために,当 時 同僚 で あ った ピグ ー (A.C.Pigon)を は じめ, ロビンズ (Lionel Robbins)や ビヴ ァ リ ッジJE「 (Sir Willium Beveridge)な しい経済学」(NEW. どの ,い わ ゆ る古典学派 と対立 して,全 く「新. ECONOMICS)を 生み 出 した。. これ まで の 自由競争的 な市場 原理 に基 く古典学派 の経済 メカ ニズムか ら脱 非有意的失業 (invOluntary unemployment)〉 却 して , 雇用 にかん しては 〈 流動性選好 (liquidity preference)〉 と言 っ とか ,利 子・ 貨幣 にかん しては 〈 た新 しい概念 を構 築す ることに よって,古 典学派 の部分理論 に対 して,『 一 般 理論 』 を完成 させた ので あ る。従 って『 一 般理論』以前 の 古典学派 の理論 がそ の 大前提 とす る「 セ イの 法則」(Jean― Baptiste Say's Law)を 全面 的 に 否定 して ,有 効需要 の 原理 を樹立 したのであ る。 この よ うに 自由競争 の市場 原理 に よる支 配 が 喪失 な い し欠落 した「 不確実性 の時代」 の 落 し子 として. ,. 『 一 般理論』 は誕生 した。 これ まさに五十 年前 の「 ケイ ンズ革命」 で あ る。 短期停滞 理 論〉だ とい う しか しそ の 当時 か らケイ ンズの『 一 般理論』 は 〈 長期化〉 とい うこ とが課 題 と 冷 めた 評価 もあ った。従 って ケイ ンズ理論 の 〈 な ったが ,ハ ロ ッ ド=ド ーマ ー (R.F.Harrod=E.V.Doman)の 経済成長論 と か ,さ らに 発展途 上国 の経済発展論 として アーデル マ ン (Irma Adelman), ル イス. (W.A.Lewis)な. どの経済 発展論 が 出 る と同時に , 各 国 にお け る実. 昭 証 的研究 も盛 んにな った。 (こ れ らにつ いては G.M.Meier,Lι αググ れ. Issπ ′ s. E“ ηοπグεDθ υθZο ク解′ηι,lst∼ 4th eds,Oxford Univ.Press,1964-80,が.
(15) 島 津 亮 二. 参考 に な る)。. 183. これ らは各 国や 各 国際機 関を中心 とす る戦後 の 発展途 上 国 に. 対す る経済援 助や経済協力 と相即 応す るもので あ った。 さ らに ケイ ンズ『 一 般理論』 力` 一 国 内の封鎖経済体系 (Closed Economy) の理論 で あ ったのに対 して, グ ローバ ル な世界全 体 の経済体系 (Open Eco‐. nomy)に 拡大す べ きで あ る として,. 早 くか ら ハ ロ ッ ドの 『 国際経済論』. (1933)が あ ったが,最 近 では ドー ンブ ッシュ (R.Dornbusch)の 『 開放経 済体系 にお け る マ ク ロ経済学』. ε Sグ π ″ んι Q∼ ηEε οποηッ 0衛 εrο ιεοηOπ グ ,. 1984)な る好著 が 出た。. 勿論 ケイ ンズ『 一 般理論』 の 中 では それ ほ どは っ き りと積極的財政政策 と か 公共投資 の 拡大 に つい ては 書 いてい な い。 む し ろ ケイ ンズ 主義 とい うも の が , 財政拡 大政策 で あ る と い う印象 を 植 え つ けた の は 米国 の ハ ン毛 ン グ (Alvin Hansen,Fグ sε αιPο ι ssの リ αηごBα sグ ηθ. ,ε. Jθ. S,1941:都 留重人訳『 財政. 政 策 と学気循環』 1950)で あ り,さ らにはル ーズ ヴェル ト大統領 に よる ニ ュ ー デ ィール政策 の成功 に よる もので あ ろ う。 (ガ ル ブ レイ スはその論文「 ケ イ ンズは ど うして 米国 へ 導 入 され たか 」 の 中 で,「 ル ーズ ヴェル トの名前 は 忘れ られ る として も,. ケイ ンズ の 名前 は 忘れ られ な い だ ろ う」 と言 ってい. る。)所 が 世界的 な 高度成長経済 の あ と, ニ クソン・ シ ョック (1771年 オイル・ シ ョッ ク (1973年. ),. )を 経 て,不 況 とイ ンフ ンの共存す るス タ グフ レ. ーシ ョンに 見舞 われ ,年 々の経済 サ ミッ トでは「 諸悪 の根源 は イ ンフ ンで あ る」 とばか りに,各 国 とも強烈 なデ フ レ政策 をや った。 それ で主要 国 の イ ン フ レは 治 まったが ,ス タ グフ レーシ ョン (StagflatiOn)か らイ ンフ レーシ ョ ン (Infladon)が 去 って,長 期 停滞 (StagnadOn)力 ` 残 った。 そ こへ 登場 し た の が レー ガ ン大統 領 (1980)で ,「 供給重視 の 経済学」 (Supply一. side EconOmics)と も言 うべ き「 レー ガ ン経済政 策」. (Regano‐. mics)を 実施 した。 ケイ ンズ経済学 は「 有効需要 の原理」 で あ るか ら, これ ま「 需要重視 の経済学」 (Demand― side EconOmics)で あ るが , レー ガ ン政 ヤ.
(16) 184. ケインズ経済学の政策的展開. 権 はその逆 をや ろ うとしたわ け で あ る。 つ ま り政府予算を少 くして (小 さな 政府 ), そ の分 だけ減税 を して, 民間 の 貯蓄 を増 加 させ ,そ れ に よって 民間 の投 資 を増加 させ て,い わゆ る民間活力を賦 活 して,産 業 の 空洞化を克服 し よ うとい う意 図 で あ った。 然 しケイ ンズ理論 では,貯 蓄 は必ず しも投資 され る とは 限 らな い。 と くに 財務 テ クニ ック (財 テ ク)が 流行 して,金 融商 品 の売 買 が 盛 んにな る と,ケ イ ンズのいわゆ る流動性選好 が増 大 して も金融取 引 0証 券取 引 のみ旺 盛 に な っ て ,資 金は実物投資 に 向わ な い。 もし「 供給重視 の経済学」 がその まま実行 され ていた ら,そ れ は ケイ ンズが「 反社会的行為」 (anti― social acts)5)と 呼 んだ よ うな事態 に な ったか も しれ なか った。 しか し現実 には レー ガ ン大統 領 の三 年 間 で合計 25%に 及 ぶ所 得税減税 に よって,貯 蓄 は増 加 せ ず に消費や住 宅建設 が増 加 した こ とか ら,幸 い 米国 が二 年 半 に及 ぶ 高景気 に恵 まれ ,そ の ために 日本 の対 米輸 出 が伸 び す ぎて, 日米貿易摩擦 はい よい よ深刻化 した。 と ころで 日本 は数年来 ,行 0財 政改革 で低成長 が つづい てい る。米国 の高 景 気 の 時 だけ輸 出 ブームに恵 まれ たが,一 昨年後 半 か ら,再 び低成長基調 に 戻 って, と くに最近 では ドル安 =円 高 で 国 内不況 が進行 して い る。 お まけに 日本 国 内は産業 (Industrial)投 資 が 沈滞 して, ケイ ンズが 妹悪す る よ うな 金融 (Financial)投 資 が 盛 んで,財 テ クの花 ざか り。 つ ま り国 内産業 と雇用 を停滞 させて,国 際 金融業務 の大 きな分 ケ前 に あず か ろ うとす る傾 向 が あ る。 しか も こ うい う状況下 で,政 府 は 財政 不如意 のために「 民間活力 の導 入」 を推進 しよ うとしてい る。 しか し「民間投資 は あ らゆ る可能 な方法 で推進 し なけれ ばな らな いが,民 間投資家 は政府 の 管理 に対 して非常 に敏感 で あ り ,. 民間投資 を強化 しよ うとす る処置 が去口って 資本 の 限界効率 に 好 ま し くな い影 響 を与 えるおそれ が あ る。 この ことは,資 本 の 限界効率を通 じて 民間資本 を の 増 加 させ る よ うな積極的手段 は 多 くあ り得 な い こ とを 意味す る。」 す でに40 年前 に デ ィ ラー ドは ケイ ンズの 意 向を解釈 して,民 間活力導入 の 困難 さを こ う説 明 して い る。勿論 ,行 ・ 財政政策 は大事 だが ,民 間活力 の 導 入が困難 で あ り,貿 易摩擦解消 のために輸 入拡大 が 強 く要請 され る折柄 ,政 府 自身 こそ.
(17) 島 津 亮 二 内需 拡 大 を 積 極 的 に 卒 先 実行 す べ きで あ る。 ケ イ ンズ 曰 く「 私 は 現 在 の 経 済 の 完 全 破 壊 を避 け る唯 一 の 実 行 可 能 な手段 と して ,ま た 個 人 の 創 意 の 有 効 に 機 能す るた め の 条 件 と して , この 政 府機 能 の 拡 大 を 支 持 す る もので あ る」 (『. 一 般 理 論 』初 版 原 書 380頁 )と 。 財 政 健 全 化 の た め に ,政 府 の 経済 機 能 の. 拡 大 を犠 牲 に して は な るまい。. 註. 1)有 効需要 (efective demand)と い うケインズの用語 は,ア ダム・ス ミスの『国富 論』第 1篇 第 7章 の有効需要 (efectual demand)か ら来 てい る。 ス ミスの e■ ectual demandは ,購 買力を持 った需要 のことで,「 貧 しい人が 六頭 立ての馬車を欲 して も,そ の需要 は有効ではない」 のである。 ケインズはこの「 購 買力を ともな う需要」 とい う意味 のス ミスの有効需要 を一歩前進 して,支 出された 需要,購 入 された需要の意味 に使 っている。 つ ま り全体 としての有効需要 は支出国 民所得 である。 2)Jean‐ Baptiste Say,rγ αづιιグ'Eθ ο%ο %づ θPο ′夕づg%ι ,1803,Calmann‐ Levy,1972.,. 139-147. C)scar Lange, Say's Law: a Restatement and Criticism,in. pp。. θ sづ Sι %α づ. %ν αι. ttθ. γづ θs, s α%α Eθ οπο77多 ιι 夕 παι θαJ Eθ ο%ο %づ θ づ. edo by O. Lange, F.. ルIclntyre, and T.0。 Yntema。 ,University of Chicago,E)epto of:Econe, 1942。 Don Patinkin, ]Relative Prices, Say's Law, and the Demand for L〔 oney, ι γづ θα,1948。 Eε ο%ο πι. ε s cノ 3)Dudley Dillard,Tん ιEε οποπグ. 隆りπαttα JOん π』. s,p.49。 Kの ηι. ここに掲げ. られた表 において,デ ィラー ドの解説 してい ることは. ,. (1)雇 用 したが って国民所得lYlの 大 きさは有効需要の大 きさに依存す る。有効需要 は支出国民所得 の ことであ り, これは消費lCl+投 資(I)で あるか ら,有 効需要が国民 所得 の大 きさを決定す る。即 ち,Y← (C+I)こ れが有効需要 の原理である。 (2)と ころで消費lClは 所得lYlの 大 きさと消費性向(消 費率)と で決 る。平均消費性向 は. C/Y,限 界消費性向は ∠C/∠ Y,一 般 に所得の増加率 よ りも消費の増加率が小 さ. いか ら ∠C/∠ Y<1で ある。 なお投資乗数 K=1/(1-∠ C/∠ Y)と なる。. (3)投 資(I)は 利子率. (ri)と 資本の限界効率 (rm)と に依存す る。. (4)さ らに利子率 (rDは 貨幣数量 0と 流動性選好 (現 金保有率)lLlと に依存す る。. (5)貨 幣数量 0は 現金 (Ml)と 預金通貨. M=Ml+M2. (手 形・小切手)(M2)と. に分れ る。即 ち.
(18) 186. ヶィンズ経済学 の政策的展開. (6)貨 幣数量0は 通貨当局. (中 央銀行)に. よって コン トロール され るが,流 動性選. 好 lLlは 三つの貨幣保有動機 によ りどれだけの貨幣需要が出 るかが決 る。即 ち ① 取引的動機か ら現金 (Ml)が 保有 され る。 ② 予備的動機 (急 場 の必要)か らも現金 (Ml)が 保有 され る。 ③ 投機的動機か ら預金通貨 (M2)が 保有 され る。 勿論,現 金保有は預金利子を損す るか ら最小限 に保有 され る。. (7)資 本 の 限界効率 (rm)は 将来 の 予想収益 (予 想利潤)と 資本資産 資本)の 代替費用 (ま たは新規購入価格)と に依存す る。. (実 物投下. (=C+I)の 大 きさを変動 させ る諸要因 について各章 ごとに分 析を進めてい くのが,ケ イ ンズ『 一般理論』 の内容である。 デ ィラー ドのかか げた 『 J.M.ケ イ ンズの経済学』 (原 書 p。 49)の 表 は良 くで きて いるので,広 く引 これ らの有効需要. 用 されてい る力ち 私 の解釈 で文章 で書 くと以上のようになる。 なおケイ ンズ『 一般理論』 の原典 に即 して各章 ごとに説明 した コンメンタール αθノ 式 の書物 としては,Alvin Hansen,Gπ づ S,1953。 (大 石泰彦訳『 ケイン οκηπθ ズ入門』 ,1953)が 早 くか ら有名であった。 これは 今 日で もハ ンセンのケインズ解 釈を知 る上で貴重な ものである。 最近入手したこの種のすば らしい書物 として,Victoria Chick,ν αε γ οι ε O%Oπ づ ε s И Rι ε θ γ ο %sづ α グ ο α′ %げ ιttθ Gθ πιγα″rん ιoγ ノ,Philip Anan,1983。 をぜひあげてお きたい。著者 はカ リフォル ニア大学 パ ークレーで経済学を学び,英. γK8ν %θ sメ cル θ. 米欧およびオース トラ リヤのい くつかの大学で ゲス トレクチュアラー として講壇 に たち,現 在は ロン ドン大学 のユニヴァーシテ ィー・ カレッジの講師を している新進 学徒であるが,本 書 は題名の如 く,実 にたんねんに最近の研究をとり入れなが ら原 ゛ 典 に即 してケインズ『 一般理論』を解説 した もので,ケ イ ンズの真意をさ く り,再 解釈を試 みて,ケ イ ンズ 自身の理論が歪 曲 して理解 されているところを修正 して 今 日なおケイ ンズ学説 は妥当性を もつ と主張す る。勿論個 々の意見 には異論 もある ,. が, とにか く原典 に密着 して精力的 に研究 してい るところは非常 に有益な文献であ ると思 う。. 4)Willium Fellner(Project Director), Essα Pγ ο b″ θ %sr. M。. Zづ. Dづ sグ πノαι づ π,American Enterprise lnstitute,1984。 ο. 5)Dudley,Dillard,■ 物 訳『 Jo. ι %夕 ο γ ηCο πι αγ ποη ε ノs づ ノ Eε ο. ηοπ′ ε S Eε ο. O/Joん πMα ソηαrグ κι s,1948。 夕πθ. ケイ ンズの経済学』 1950。 )p.312.. 6) Ibid。 , p. 307.. (岡 本好弘.
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