オーバーナイト金利の成立メカニズム
─白川方明理論批判─
前 畑 雪 彦
目 次 はじめに Ⅰ.中央銀行当座預金(市中銀行支払準備)に対する需要の独自性格 Ⅱ.貨幣流通法則と利子率との無関係性についての自然利子率の観念に災い された白川氏の曖昧な理解 Ⅲ.インターバンク市場の支払準備配分機能の見落とし Ⅳ.政策金利の成立メカニズム 1.準備預金制度のない場合 2.後積準備預金制度のある場合はじめに
インターバンク市場のオーバーナイト金利は、貸出期間が長くなるのに応じて次第に高くなる金 利形状を示すイールドカーブの起点をなし、中央銀行がそれを上下に誘導できることに基づいて、 金利体系を上下に動かそうとする金融政策実施のための政策金利である。注 1)中央銀行によりコン トロール可能なこの政策金利の成立メカニズムは、政府の財政を中核とする諸政策と同行の金融 政策とに媒介される現代資本主義の運動法則の把握にとって決定的に重要である。しかしそれに もかかわらずこれは明晰な形では認識されていないと思われる。私は、以前、このテーマについて 「リーマンショック」を頂点とする世界的「金融経済危機」との関係で考察した。注 2)本稿の課題は、 現日本銀行総裁白川方明氏のこれについての理論の批判によって、この金利の成立メカニズムを 前稿より具体的に解明する点にある。Ⅰ.中央銀行当座預金(市中銀行支払準備)に対する需要の独自性格
白川氏はこの需要の性格を縦軸に金利の高低を取り、横軸に準備量の大小を取る原点 0 の座標 面において「右下がり」と規定する。注 3)金利が高くなるのに応じて準備需要は小さくなり、反対に 金利が低くなるのに応じて準備需要は大きくなると規定する。つまり準備需要は金利弾力的あるい は金利感応的と規定する。はたしてそうであろうか?否と考えられる。定期預金を捨象すると、市 中銀行にとっての準備は無準備の即時要求払預金債務に対する支払準備であり、待ったなしの瞬 時に必要となる準備である。だからそれに対する需要の大きさは金利とは連動しておらず本質的に金利非弾力的・非感応的である。すなわち必要とあればどんなに高い金利でも取らなければな らない需要であり、また必要がなければゼロでも増やす必要のない需要である。白川氏がこの 点を把握できないのは氏が市中銀行の無準備の即時要求払預金に対する支払準備に固有の役割 注 4)を明晰に理論化することができていない点に求められる。そしてここから氏は種々の混乱に陥っ ている。氏は市中銀行の支払準備需要について次のように述べる。「銀行が中央銀行当座預金を保 有する本源的な動機は、予備的動機に基づく決済需要である。これはちょうど、個人や企業が或 る程度の手許現金や要求払い預金を保有するのと同様に、銀行も先行きの資金繰りについて不確 実性に直面していることによるものである。銀行が資金不足に直面しても市場での資金調達に 100 パーセント確信をもてるのであれば、不足が明確になった時点で、不足額だけ当日のオーバーナイ ト資金市場で資金を調達し、逆に、資金の受け取りが支払いを上回る場合には、余剰分を当日の 市場で運用することが考えられる」(白川同上書、132 ページ)。ここで氏は市中銀行の準備と企業・ 個人の準備とを同一視している。しかし両者は本質的に異なる。前者は無準備の即時要求払い預 金に対するものであり、後者はそうではない。後者では準備不足になれば、その企業・個人の生 産規模や消費の縮小にそのぶん追い込まれるだけであるが、前者は即座に倒産に追い込まれ、銀 行を中心に放射状に展開する預金業務と貸出業務の両面にわたる全債権債務関係のネットワーク が一挙に崩壊する。だから「銀行が資金不足に直面しても市場での資金調達に 100 パーセント確 信を持てるのであれば、不足が明確になった時点で、不足金額だけ当日のオーバーナイト資金市 場で資金を調達し」というわけにはいかない。「不足が明確になった時点」では倒産する。すなわ ち銀行にとっての準備はそれが必要とされる瞬間に手許に存在していなければならず、次の瞬間 に存在すればよいのではない。無準備の即時要求払い預金債務に対する準備の必要性は「資金不 足」に対するバッファーとして不足に対する同時的存在の関係性にあり、バッファーなしに準備を 次の瞬間に取れればよいという継起的存在の関係性にあるのではない。それはここでの氏の文言 と矛盾して氏がマクロ経済学と近代経済学の金融論を批判するところで正しく指摘する「「待った なし」の資金」(同上、137 ページ)なのである。 先の引用に直接続く次の文章は必要準備需要量の増減が金利の高低と連動しており、金利弾力 的・感応的であるとする自らの規定に自己矛盾し混乱した記述である。「しかし、そうした資金繰 りに全面的に依存すると、事務ミス、コンピューター・ダウン、地震、テロをはじめ、何らかの突 発的な事態が発生した場合には、資金を調達することが困難になったり、調達金利が上昇してし まう危険に直面する。あるいは、バブル崩壊以降、多くの日本の金融機関が経験したように、不良 債権の増加を背景に自らの信用度が低下してしまうと資金調達が困難になったり、調達金利が上 昇したりしてしまう。もちろん、この場合でも、取り手が調達金利を十分に引き上げると、最終的 には資金の出し手が現れるはずである。しかし、前述のような事態が発生した場合は、資金の出 し手からすると正確な情報がわからないため、金利がわずかに上昇した程度では、信用コストや 取引コストを負担してまで資金を放出するインセンティブは生まれてこない。また取り手が大幅に 調達の提示金利を引き上げると、取り手の信用状態が良好な場合でも、出し手は取り手の信用状
態について却って不安を強めるかもしれない。信用コストは、借り手の倒産確率と元本に対する回 収率に規定される。取引コストとしては、コール取引の仲介手数料、資金決済に要するコスト等 があげられる。資金の出し手は、借り手の倒産の可能性を意識して、特定の相手先に対する与信 が過度に集中しないように与信を管理している。このため、通常は個々の借り手の信用度を審査 したうえで、個別に最大の与信可能限度(クレジットライン)を設定している」(同上 132 - 3 ペー ジ、アンダーライン引用者)。 上の引用において「この場合でも、取り手が調達金利を十分に引き上げると、最終的には資金 の出し手が現れるはずである」が「しかし・・・取り手が大幅に調達金利を引き上げると、取り手 の信用状態が良好な場合でも、出し手は取り手の信用状態について却って不安を強めるかもしれ ない」ので、十分高い金利でも準備調達できない可能性があり(この場合には、中央銀行が出動 しなければ金利は無限大の方向に向かって貨幣市場が崩壊するまで上がり続けるであろう)、準備 需要を満たせない可能性があると述べている。この文章は、金利が上がれば準備需要量が縮小し、 また金利を上げれば増大した準備需要を満たせるはずとする、需要の金利弾力性を支える準備供 給サイドの金利弾力性(金利が上がればそれに応じて供給が増加し下がればそれに応じて供給が 減少する)も否定している。すなわち金利の高低と準備需要量の増減は連動しておらず、別のこ とであることを自家撞着して述べているのだ。 また最後に指摘しているクレジットラインの設定も現在のインターバンク市場が金利機能による 需給調節だけでは作動しないことを示している。
Ⅱ. 貨幣流通法則と利子率との無関係性についての自然利子率の観念に災いされた
白川氏の曖昧な理解
白川氏は次のように述べる。「オーバーナイト金利は中央銀行当座預金の需要と供給が一致する ように変動する。銀行券引き出しが増加するケースを例にとると、中央銀行当座預金残高が減少 し、・・元の金利水準では、中央銀行当座預金の需要量が供給量を上回る。このため、銀行はオー バーナイト資金市場で資金を取り入れようとするが、そうしたプロセスを通じてオーバーナイト金 利が上昇し、これによって、需要と供給の均衡が回復する。他方、例えば、政府による公共事業 の支払が行われると、民間銀行の中央銀行当座預金残高が増加する。その結果、供給が需要を上 回れば、オーバーナイト金利が下落し、これによって需要と供給の均衡が回復する。オーバーナイ ト金利は、このようなプロセスを経て、中央銀行当座預金(ストック)の需要と供給が一致するよ うな水準に決定される」(同上、136 ページ、アンダーライン引用者)。銀行券流通量の増大の場合、 それに応じて中央銀行当座預金残高が減少するが、この場合、オーバーナイト金利が上昇しても、 これによっては銀行券流通量の減少は生ぜず、従ってインターバンク市場への現金準備供給は増 えない。それゆえ需要と供給の均衡は回復せず、一方的な需要超過により、オーバーナイト金利は、 無限大の方向に、返済不可能な破壊的金利出現による需要そのものの消滅まで上昇し続ける。他方、 政府の公共事業支払による民間銀行の中央銀行当座預金残高増加のケースでは、これによる供給の需要に対する増加は、中央銀行の準備吸収オペレーションなしには、需給は均衡せず、供給は 一方的に超過したままであり、オーバーナイト金利はゼロに向かって低下し続ける。つまりインター バンク市場を含む貨幣市場には、商品市場には存在する自然価格―中心点からの乖離と偏差を是 正し需給均等化をもたらす価格―は存在しない。近代経済学が考える需給均衡自然利子率はそも そも存在しないのである。注 5) この文章のすぐ後に彼は次のように続ける。「ここで留意すべき点は、オーバーナイト金利はマ ネタリーベースではなく、中央銀行当座預金に対する需要と供給のバランスで決定されることであ る。マネタリーベースは現金と中央銀行当座預金とから構成される。中央銀行当座預金に対する 需要が供給を上回れば金利が上昇するが、金利が上昇すると、現金が銀行部門に還流し、銀行は 中央銀行に現金を持ち込むことによって、中央銀行当座預金が増加する。そうした銀行券の還流 メカニズムが瞬時に作用することを仮定すると、オーバーナイト金利はマネタリーベースに対する 需要と供給のバランスで金利が決定されると定式化しても構わない。しかし、現金の搬送には大 きなコストがかかり、そうしたメカニズムは瞬時には作用しない。マクロ経済学や金融論の教科書 をみると、しばしば、金融政策をマネタリーベースの調整という形で定式化しているが、そうした 定式は適切ではない。オーバーナイト金利という、言わば「待ったなし」の資金の金利決定メカニ ズムを描写するうえでは、マネタリーベースではなく、中央銀行当座預金に対する需要と供給のバ ランスで金利が決定されると定式化することが適切である」(同上、136 - 7 ページ)。 ここではオーバーナイト金利上昇を原因とする銀行券還流による中央銀行当座預金量の増大は、 利子率の上下変動の作用による需給均等化の先の記述とは矛盾して、「現金の搬送には大きなコス トがかかり、そうした〔銀行券還流〕メカニズムは瞬時には作用しない」として否定されている。 そしてこれによってマクロ経済学と近代経済学の金融論を批判している。否定と批判は正しいが、 否定の理由はおかしい。その理由は「現金の搬送には大きなコスト」がかるからではなく、銀行券 流通量は、相殺メカニズムを前提した上で価格を持つ商品の流通量に規定されるのであって、利 子率によって規定されるのではないからである。また利子率と価格との間には直接的関係はないか らである。注 6)従って時間がかかっても利子率上昇による銀行券還流メカニズムは「作用しない」。 利子率と無関係に必要とあれば銀行券は流通に出てゆきまたそれと無関係に流通の必要がなけれ ば銀行券は中央銀行に還流する。注 7)
Ⅲ.インターバンク市場の支払準備配分機能の見落とし
白川氏はインターバンク市場の構成者である個々の市中銀行間における支払準備の当初配分の 不均衡つまりそれらの中央銀行当座預金残高の当初分布の不均衡による準備需要の問題について 次のように述べる。「当座預金残高の分布/・・ここで注意すべきは、マクロでの当座預金の残高 が一定であっても、個別銀行間での当座預金の保有の分布如何では、市場の需要曲線は左右にシ フトすることである。例えば、銀行が 5 行存在し、全体として 5 兆円の当座預金が供給されてい る状況を想定しよう(表 7 - 4 - 2)注 8)。このような状況の下で、各行が均等に 1 兆円保有する(ケース 1)と、1 行が何らかの理由で 4 兆円を抱え込み、残り 4 行が残り 1 兆円、すなわち各行が 2500 億円を保有するケース(ケース 2)では、市場全体の当座預金の需要量は異なりうる。仮に、各 銀行が他の銀行に対してそれぞれ 8000 億円の支払いがある場合、ケース 1 では、各行は要支払 い金額の合計が手持ちの当座預金(1 兆円)の範囲内で繰りまわすことが可能である。しかしケー ス 2 では、B.C.D.E の銀行は支払金額が 8000 億円のため手持ちの当座預金(2500 億円)の範囲内 で繰りまわすことはできない。A 行だけは支払ができるので、その結果、他の銀行の当座預金は 4500 億円に増加するが、それでも支払金額のほうが大きいため、支払いはできない。このためコー ル市場で当座預金を調達しようとする(需要曲線の右方シフト)。もちろん、この場合でも、関係 者間で受け払いのタイミングを完全に取り揃える取り決めを結べば、当座預金需要は増加しない。 いずれにせよ、上の例は、市場での当座預金需要を考える際には、支払い金額の大きさ、当初の 当座預金の分布、受け払いのタイミングのズレ等が重要な要因であることを示している」(同上書、 139 - 140 ページ)。 これはまったく奇妙な理論という他はない。この場合、ケース 1 の想定に基づいて各行の必要 準備量が 1 兆円であるとすれば、ケース 2 では、A 行は 3 兆円の過剰準備を持ち、B.C,D.E 行は それぞれ 7500 億円の過小準備にありそれらの合計では 3 兆円の準備不足の状態にあることを意味 する。この場合には A 行は過剰分の 3 兆円を運用するためインターバンク市場にそれを供給し、 B,C,D.E の各行は必要準備を満たさねばならぬため合計で不足分の 3 兆円の準備需要を行う結果、 その時のコール金利は、需給均衡により、従って上昇せずに所与の不変のままで、各行はそれぞ れ 1 兆円の必要準備量を確保するはずである。氏はここでインターバンク市場の基本機能として の支払準備配分機能を失念しているのである。注 9)またこれによって、不換制の無制限発券力に基 礎づけられたそして完全な非営利性を持つ中央銀行の、「独占的・限界的資金調節者」注 10)として のこの市場における役割と、これによる政策金利の成立メカニズムを不明瞭にしているのだ。
Ⅳ.政策金利の成立メカニズム
ここでは私の積極的な考えを述べることに基いて白川理論の批判を展開することにする。 1.準備預金制度のない場合 各市中銀行はそれらの要求払預金債務に対して、過去の経験則から、平均的な必要支払準備量 を持たねばならない。これは準備預金制度の有無に関わらず経済法則である。例えば要求払預金 債務が 3 兆円の市銀でそれに対して 1 パーセントの準備が平均で必要ならば 300 億円の日銀当座 預金を持たねばならぬのである(したがってこの銀行は 2 兆 9 千 700 億円の無準備の即時要求払 預金債務を持つのである)。問題を単純化し、純粋に市場関係だけを考察するため財政要因を捨象 すれば、日銀当座預金増減要因は日銀券要因だけとなる。いま日銀券流通量が増加しその分だけ 日銀当座預金が減少し必要準備量の不足が生じれば、インターバンク市場では、準備の取り合い 競争が起き、その時に与えられた金利は上がり始める。この場合、不換制の条件によって貨幣資本の運用者としての役割と金兌換の義務とを放棄したことによる、完全な非営利的公的性格と無 制限発券力を持つ中央銀行がこの市場に準備の供給者として乗り出さなければ、金利は青天井で 上がり続ける。なぜなら 2 兆 9 千 700 億円の無準備預金債務支払不能の危機が生じるからである。 また金利上昇によっては日銀券の還流は生じないからである。もし金利上昇による日銀券還流が 起きるとすればそれは全経済関係を破壊する高金利でなければならないだろう。 中央銀行はインターバンク市場のオーバーナイト金利の動向を見ながら、もし金融政策が現行 オーバ―ナイト金利を維持するものならば、不足分だけオペレーションにより支払準備を供給する であろう。0.25 パーセント上げるわずかな引き締め政策ならば、不足気味にしておいてそれだけ上 がった水準で、必要準備量だけ供給量を合わせるであろう。逆にそれだけ下げる緩和政策ならば、 不足量をやや上回る供給をすることにより下げ圧力をかけ、0.25 パーセント下がったところで需要 量に供給量を合わせるであろう。この場合中央銀行は日常性における最後の貸し手として機能し ているのである(この機能については吉田暁氏との議論から学んだ)。銀行券還流量が大きく日銀 当座預金量が増加し、これによる準備の供給過剰が生じ、オーバーナイト金利がゼロに向かって 下がる気配を見せれば、過剰分だけ準備吸収オペレーションをすれば所与の金利水準を維持する ことができ、少なめに吸収して調整すれば下がった水準に金利を誘導でき、逆に多めに吸収し調 整すれば上がった水準に金利を誘導できる。 以上の説明は市中銀行の準備需要が金利弾力性を持たないことと中央銀行が上に指摘した 2 つ の性格により無制限準備供給が可能であることを条件としている。これらの需給両面にわたる二 つの条件がなければ、中央銀行はインターバンク市場でオーバーナイト金利をコントロールできな い。白川氏は、準備需要について、「より詳しく説明する」(137 ページ)段階になると「金利に対 してあまり弾力的ではない」(同上)と最初の規定を修正するとともに、市銀が「十分な金額の当 座預金を保有している場合」(138 ページ)と「ほとんど保有していない場合」(同上)の両極端の 区別を設け、後者では「金利の状況をみながら需要量を決定する自由度はない」(同上)。つまり 金利非弾力的と規定する。無準備の即時の預金債務支払のための、「待ったなし」の準備需要の性 格について次第に正確な認識に氏は近づいている。しかしこの性格は平均的な準備量を持ってい ると仮定して、それが不足した場合の不足量を充足するための需要の性質として把握されねばな らない。またこの平均量を上回る場合にはその部分は過剰準備(ブタ積)として運用に回されイン ターバンク市場へ供給されるのである(Ⅲで見たように、またここで指摘した氏の両極端の想定が 示唆するように、氏はインターバンク市場の準備配分機能を失念しているので、市銀による過剰 分の準備供給を見ているが、これを、この市場の本質的な契機として、理論化できていない)。中 央銀行の完全な非営利的公的性質と無制限発券力については、氏はこれらをただ所与の事実とし て前提するだけでその独自の意義を把握していない。これは現在の中央銀行を兌換制下のそれと 比較分析することでその独自性を正確に認識できていないことを意味する。そこで、支払準備需 要の性格とその供給についてのこのような不十分な氏の認識から「中央銀行当座預金に対する需 要が決済需要に大きく左右される場合には、中央銀行のオペレーションによる資金供給如何がオー
バーナイト金利の水準を規定する」(145 ページ)と事実を指摘するだけで、そもそも「中央銀行が・・ オーバーナイト金利の水準を規定する」こと自体がどのようにしてできるのかという肝心要を氏は 説明できないでいるのである。 2.後積準備預金制度のある場合 「現行の各国準備預金制度の下では、適用先対象機関は所要準備額を中央銀行に対する預け金 (当座預金)の一定期間における平残として保有することを求めるのが普通である。その際、ある 期間の対象債務にかかる所要準備を、①その期間内に積ませる方式(同時積み方式)と②その期 間以降の一定期間内に積ませる方式(後積み方式)、の 2 つが考えられる。我が国の準備預金制度 では、適用先金融機関は、所要準備額を、日本銀行に対する預け金の 1 か月の平残として保有し なければならない。その際、ある月の対象債務にかかる所要準備額は、その月の 16 日から翌月の 15 日までの一か月間の日銀預け金で積むことになっており、一種の同時・後積み混合方式であるが、 その金利コントロールの本質は後積み方式である」(翁邦夫「日本における金融調節」日本銀行金 融研究所『金融研究』第 10 巻第 2 号、平成 3 年 7 月、15 ページ)。注 11)ここでは、準備預金制度 がない場合の市銀の準備預金に対する需要の金利非弾力的・非感応適性格が、上記引用の後積準 備預金制度を導入した場合には、金利弾力的・感応的性格に転化するメカニズムを考察する。 完全な公的非営利的性格の中央銀行が無制限発券力に基づいて支払準備を限界的に供給すると ころの、そして市銀の支払準備需要が金利非弾力的なインターバンク市場に、その外部から、こ の市場の構成要素をなす各市銀に対して上記内容の後積みを強制する準備預金制度が導入される と、ここに、市銀の準備需要は金利弾力的・感応的な性格に転化する。すなわち中央銀行はこの 市場に自らコントロール可能な政策金利を明示し、この金利で、支払準備供給を市場参加者に約 束すると、日々のコールレートは、この市場における準備の日々の需給関係に基づいて、政策金利 を中心点に上下変動し始めるのである。 政策金利より高めのレートが生じれば、市銀は準備需要を減らす。なぜなら積立準備量は、当 該月の 16 日から翌月 15 日までの 1 か月の平均量が所要準備量を満たせばよく、日々ではそれより も少なくても多くてもよいからである。準備を積み立てるための金利はこの市銀にとってのコスト であり、それが少なければ少ないほどこの銀行にとっての利子収益は大となるからである。またこ の場合には、これで手持ちの準備を運用し利子を稼ぐ銀行行動が生じることになる。また低めの 金利が生じた場合には、所要準備量よりより多く積み立てる準備行動が生じる。政策金利より安 いコストで準備を積み立てることができ、この日より高い政策金利で他日に積まねばならぬ準備量 を減らすとともにこれをその時に運用することができるからである。 こうしてここでは、政策金利と、支払準備の日々の需要供給関係に基づいて成立する日々のコー ルレート金利との比較において、市銀の準備需要は金利弾力的・感応的な性格を持つのである。 そしてまたこれによって日々のコールレートは、政策金利を中心にそこに収束するよう上下変動す ることとなる。すなわち準備預金制度下で初めて生じる市銀の準備需要の金利弾力的・感応的性
格によって、この仕組みに独自の金利の平準化機能が作動するのである。 白川氏が最初に準備需要の性格を金利弾力的と規定したのは、自然利子率の観念と現行準備預 金制度下に独自の市銀の準備需要からの映像と考えられる。 もとより平準化機能が働くと言っても、観念的計算貨幣の現金への急変である貨幣恐慌の起動 の可能性を排除するものではない。「それがどこから生じようとも」この市場に急激な大量の支払 手段需要が生じればコールレートは急騰する。今回の世界金融危機で誰の目にも明白になったよ うに、中央銀行が政策金利を例えば 4.0 パーセントに維持する目標を掲げている時、支払手段需 要が無限大になる可能性とこれによる金利急騰によって貨幣市場崩壊の可能性が現実化しつつあ る場合、中央銀行が政策金利を維持しコールレート急騰を防ぐ決意を固めたなら、その無制限発 券力に基礎づけられた無制限現金準備供給の宣言によって、この需要の立ち上がりを阻止するよ う全力で行動することになる。すなわち準備預金制度は、そこでは貨幣がただ観念的計算貨幣と してのみ光速度で機能する「諸支払いの連鎖と相殺の人工的な組織」注 12)として、不換制に独自の 貨幣恐慌の可能性の最新の具体的形態なのである。注 13) 白川氏は次のように述べる。 「平準化機能の作用も完全ではない。決済需要の変動が大きい場合には、・・決済需要の変動が 支配する世界に戻ってしまい、金利は多少変動する。このような状態を回避するためには、中央 銀行はオペレーションにより当座預金の供給を増やさなければならない・・。銀行による準備預金 の平準化機能も、最終的には、このような形で中央銀行が誘導目標維持のためのオペレーション を行うことが前提となっている。その意味で、準備預金制度が存在する下での金利決定メカニズ ムを準備預金に対する需要・供給曲線を使って表現すると、積み期間を通して見たとき、供給曲 線はオーバーナイト金利の誘導目標水準で水平の直線として描かれる一方、ある特定時点におけ る中央銀行の具体対的な行動としては、誘導目標水準に対応していると推定する需要量の準備預 金を供給することによって担保されている」(同上、144 ページ)。 ここでも前と同じ批判が当てはまる。氏はここでも事実を指摘するだけで、中央銀行の準備供 給曲線は「誘導目標水準で水平の直線で描かれる」ことと、中央銀行が「誘導目標水準に対応し ていると推定する需要量の準備預金を供給」できることとの理由を説明していない。これらができ るのは先に指摘したように、不換制の中央銀行は貨幣資本の運用者としての性格と金準備による 支払準備供給制限を持たないからである。すなわちそれが完全な非営利公的機関であり無制限発 券力を持つ、インターバンク市場の限界的な最終現金準備供給者としての振る舞いから可能とな るのである。 なおここで次の点を付け加えておきたい。白川氏は準備供給曲線を、一方では一定準備量をゼ ロから無限大の金利で供給する「垂直」の直線(同書 135 ページ)と、他方ではここで指摘して いるように一定金利でゼロから無限大の準備量を供給する「水平の直線」で描くのであるが、前 者はこれによって中央銀行が金利水準を上げ下げできる能力を表し、後者はそれが一定金利水準 を維持できる能力を表している。「垂直」と「水平」は不換制の中央銀行に独自の一個同一の無制
限現金準備供給能力の、金利と準備量から見た、二つの異なった表現である。 後積準備預金制度は、市銀の準備需要の金利非弾力的・非感応的性格を金利弾力的・感応的性 格に転化することによって、インターバンク市場に金利平準化機能を創出し、これによって市銀の 準備需要の安定性とその予測可能性をもたらす。この制度はこの安定性と予測可能性によって中 央銀行による金利誘導をより容易にする仕組みと考えられる。すなわちこの制度がなければ、準 備市場は、市銀の「待ったなし」のどうしても取らなければならない準備の必要によって利子率を 無限大方向に引き上げうる需要と、中央銀行の無制限発券力に基づいた準備供給能力によって利 子率をゼロにまで押し下げるうる供給の衝突する市場として、極めて振幅の激しい金利変動を生 みだすことになる注 14)が、後積準備預金制度が導入されると、中央銀行は、これがもたらした金 利平準化機能によるモデレートな金利の動きを見ることによって、安定した準備需要とその予測可 能性を手に入れ、必要準備量に見合う準備供給をより一層しやすくなるのである。注 15) 現行準備預金制度を備えた中央銀行は、強制通用力を付与された不換銀行券の無制限発券力を 持つ唯一の銀行として、また無数の企業・個人を底辺とし各市中銀行を中層とするピラミッド状の 債権債務関係の頂点に立つ完全非営利の公的銀行として、そしてインターバンク市場を媒介に金 融政策を発動する銀行として、私的所有制度の下で私的所有を突破した機関として規定できるで あろう。注 16)そして中央銀行はこの矛盾した性格における資本の社会的最高管理者として、脱資本 主義化としての新たな生産様式への過度的形態として位置付けられるであろう。 (2011 年 11 月 30 日) 注 注 1) しかし金利体系の上限をなす長期金利はコントロールできない。これは、兌換・不換を貫く資本主義の一般 法則である利潤率の傾向的低下法則がそこに反映すると同時にこれに規定されると考えられる。そこでコント ロールできる下限オーバーナイト金利とこれの波及過程において波及力を減衰しながらコントロールできない 上限長期金利に繋がる金利体系がどのようにして成立するかの不換制に独自の問題が生じるであろう。 注 2) 拙稿「政策金利の成立メカニズムと今回の世界恐慌の変容形態―不換制下の貨幣恐慌の起動と防御の力学的 構造と過剰生産恐慌―」『桜美林大学 桜美林論考 桜美林エコノミックス「経済学部創立 40 周年記念号」』 2010 年 3 月、参照。 注 3) 白川方明『現代の金融政策 理論と実際』(日本経済新聞出版社、2008 年)。133 - 4 ページ。 図 7 - 3 - 1 中央銀行当座預金に対する個別銀行の決済需要曲線
注 4) 拙稿「第 7 章 預金通貨論批判 第 3 節 無準備の債務ならびにこれの創造と資本の流通過程、現金準備の 役割」大谷禎之介編『21 世紀とマルクス』(桜井書店、2007 年 3 月)参照。 注 5) 「需要と供給とが一致すれば、商品の市場価格は生産価格と一致する。すなわち、そのとき商品の価格は、競 争にはかかわりなく資本主義的生産の内的法則によって規制されるものとして現われる。なぜならば、需要と 供給の変動は生産価格からの市場価格の偏差のほかには何も説明するものではなく、これらの偏差は相殺さ れて、いくらかの長い期間について見れば平均市場価格は生産価格に等しいからである。需要と供給とが一 致すれば、これらの力は作用しなくなり、相殺されてしまって、そうなれば価格規定の一般的法則が個々の 場合の法則としても現れる。その場合には市場価格は、すでにその直接的定在において、そしてただ単に諸 市場価格の運動の平均としてだけではなく、生産価格に一致する。労賃の場合も同じである。需要と供給と が一致すれば、それらの作用は相殺されて、労賃は労働力の価値に等しい。ところが貨幣資本の利子はそう ではない。利子の場合には競争が法則からの偏差を規定するのではなく、競争によって強制される法則より ほかには・・法則は存在しないのである。・・利子率の「自然的」な率というものは存在しないからである。・・ 競争がただ単に偏差や変動を規定するだけでない場合、つまり競争のたがいに作用しあう諸力が均衡すれば およそあらゆる規定がなくなってしまう場合には、規定されるべきものが、それ自体無法則なもの、任意のも のなのである」(『資本論』第 3 部、大月版、445 - 6 ページ、以下同書からの引用はこれによる)。 「利子の最低限界は全然規定することのできないものである。利子はどんな低さにも下がることができる」(同 上、447 ページ)。だからオーバーナイト金利はゼロ近傍まで低下する。マイナスの自然利子率を主張するノー ベル経済学賞受賞者もいるが、それは資本主義がもはや存続不能になっているという告白に他ならない。 注 6) 「現実に流通する貨幣の量は、流通の速度と諸支払いの節約を与えられたものとして前提すれば、諸商品の価 格と諸取引の量とによって規定されている。同じ法則は銀行券流通の場合にも支配する」(同上、668 ページ)。 「商品価格と利子との間には何も必然的な関連はない」(同上、680 ページ)。 エンゲルスのこの部分のマルクス草稿の編集、即ち「『混乱』からあとの、そしてすでにそれ以前の箇所で 取り入れられなかったかぎりでの、すべてのこれらの材料から私は第 33 章・・・をまとめ上げた」(同上、11 ページ)ことによる『資本論』第 3 部「第 33 章信用制度のもとでの流通手段」は、不換中央銀行制度下の銀 行券流通を考察する場合にも、草稿と並んで独自の重要な意義を持つと考えられる。 エンゲルス草稿編集の「巨匠的な仕事」のメダルの表と裏の関係については次の論文参照。大谷禎之介「「信 用制度下の流通手段」および「通貨原理と銀行立法」(『資本論』第 3 部第 33 章および第 34 章)の草稿につ いて」(『経済志林』第 67 巻第 2 号、1999 年、77 - 83 ページ)。 我々は今や『資本論』第 3 部第 5 篇につ いて、マルクス草稿そのものとそれのエンゲルス編集版の二つを照し合せて両者の差異を見ることができる。 このばあい肝要なのは、両者が、現実問題(兌換制下の現実問題、またそれと共通する面と対照的な面との 両面を持つ、従ってこれら両面の関係性が問われる不換制下の現実問題)研究において、理論的有効性の観 点からそれぞれどのように位置づけられるかであって、上向法における諸カテゴリーのかくあるべきと称する 観念的順序に照らし合わせて優劣評価されることではない。 不換銀行券の減価すなわち紙幣流通法則の貫徹については、貨幣流通法則を土台として、マルクスが『資 本論』の貨幣論で行っているように流通貨幣量の増減運動を媒介にして説明されるべきと考える。これにつ いては拙稿「インフレーションの進行過程について―有効需要政策の意義と限界―」(『立教経済学研究』第 43 巻第 1 号、1989 年 7 月)参照。 注 7) 「銀行券の発行額には、個人や企業による銀行券需要の変動を反映して、規則的な変動パターンがみられる。 まず、一週間単位でみると、週末にかけて買い物やレジャー資金のために発行額が増加し、翌週はじめにそ れが日本銀行に還流するというパターンが見られる。1 か月単位では、給与支払いや各種の決済が集中する 月下旬に発行額が増加し、翌月初めにそれが日本銀行に還流するというパターンを描く。年間を通じてみると、 冬季のボーナスと年末年始の資金手当てが重なって 12 月には発行額が通常月の 2 倍程度まで増加し、その翌 月にはこれらが日本銀行に還流してくる傾向にある。さらに、銀行券の需要には、こうした時間的な変動に加 えて、地域間でも差異がみられる。日本銀行は、これらの銀行券需要に応じて、銀行券が全国各地にくまな く行き渡るように努めている」(日本銀行金融研究所編『日本銀行の機能と業務』有斐閣、2011 年 3 月、53 ペー ジ)。指摘されている銀行券還流の種々の規則的パターンは利子率と無関係である。 この還流は「工場主は金曜日に彼の銀行家から貨幣を受け取り、これを土曜日に彼の労働者たちに支払い、 労働者たちはその大部分をすぐに小売商人その他に支払い、小売商人たちは月曜日にそれを銀行家に戻す」 運動として、「単純な貨幣流通に現われる・・それより深い生産過程の単なる反映である」(『経済学批判』大
月文庫、130 ページ)。すなわち資本・賃労働関係を前提する所得流通の貨幣流通への反映である。そして貨 幣流通は主として賃労働者階級のこの所得流通によって規定される。「発達した資本主義的生産、従って賃労 働制度の支配を前提すれば、明らかに、貨幣資本は、それが可変資本の前貸しされる形態である限り、一つ の主要な役割を演じる。賃労働制度が発達するにつれて、すべての生産物は商品に転化し、従ってまた・・・ すべての生産物がその運動の一段階として貨幣への転化を通らなければならない。そして、この流通貨幣量 の最大部分は労賃の形態で供給される。すなわち、可変資本の貨幣形態として産業資本家によって労働力へ の支払に前貸しされ労働者の手では―その大部分が―ただ流通手段(購買手段)としてのみ機能する貨幣の 形態で、供給される」(『資本論』第 2 部、590 ページ)。兌換制下のマルクスの時代では、イングランド兌換 銀行券の最低額面は 5 ポンドであり、週賃金がほぼ 1 ポンドであった賃金支払いには 1 ポンド以下の金貨が 用いられた。そこで産業循環の繁栄期に雇用増大と賃金上昇によって金貨流通量が増大すると、これがイン グランド銀行の金準備を縮小させる。こうしてイングランド銀行は金貨流通における貯水池機能と無準備債 務(銀行券債務と預金債務)に対する金準備機能との危険な衝突からバンクレートの引き上げに迫られる(拙 稿「伊藤武著『マルクス再生産論と信用理論』(大月書店 2006 年 2 月)について」『大阪経大論集』第 59 巻 第 2 号、2008 年 7 月、104 - 5 ページ参照)。不換制の現在では賃金は銀行振込であり、労働者は不換銀行 券が必要な場合はそれを自分の預金口座から ATM で引き出す。そしてそれが上記の還流運動を描く。そし てこの還流までのプロセスで紙幣流通法則が流通必要貨幣量の増減運動に媒介されて作動すると考えられる。 この点は、前の注で挙げた拙稿の具体化として別に論じる。 注 8) 白川、同上書、140 ページ。 表 7 - 4 - 2 当座預金保有残高の分布の違いによる決済への影響 (単位:億円) 要支払い 金額合計 ケース 1: 当座預金 保有残高 単独での 支払い ケース 2: 当座預金 保有残高 単独での 支払い A 行のみ支 払い後の当 座預金残高 単独での 支払い A 8,000 10,000 ● 40,000 ● 32,000 ― B 8,000 10,000 ● 2,500 × 4,500 × C 8,000 10,000 ● 2,500 × 4,500 × D 8,000 10,000 ● 2,500 × 4,500 × E 8,000 10,000 ● 2,500 × 4,500 × 合計 40,000 50,000 50,000 50,000 注 9) 氏は以上の説明をした後で、ケース 2 では B 行以下が他行からの受け取りを待って支払をしようとする結果、 だれも準備を受け取れない「「すくみ」(gridlock)」」(140 ページ)の発生を指摘するが、この現象はインター バンク市場の基本的役割としての「当初の当座預金の分布」の不均衡の解消化機能を説明した上で、更に問 題にしなければならない別の事柄であろう。 注 10) 吉田暁「内生的貨幣供給論と信用創造」(『季刊 経済理論』第 45 巻第 2 号、2008 年 7 月、024 ページ)。 注 11) 白川、同上書、134 ページ。 図 7 - 3 - 2 日本の準備預金制度(概念図)
注 12) 『資本論』第 1 部、大月版、180 ページ。 注 13) 注 1)の前掲拙稿、ならびに同「マルクス計算貨幣概念と「ペイメントシステム」の電子化―支払手段に含ま れる無媒介的矛盾の不換制下の独自形態―」(『経済』No.147、2007 年 12 月号)参照。 注 14) 白川、同上書、141 ページ。 図 7 - 4 - 4 金融調節改革実行以前の英国のオーバーナイト金利の変動 注 15) 「準備預金制度の意義は中央銀行当座預金に対する需要を安定的で予測可能なものとすることによって、中央 銀行による短期金利の誘導を容易にすることにある。当座預金に対する需要が安定的で予測可能なものとな れば、中央銀行は目標とするオーバーナイト金利水準に対応する中央銀行当座預金の需要量を供給するよう に、オペレーションを行えばよいことになる。マクロ経済学や金融論の教科書では、現在でも準備率の変更 が金融政策手段として記述されることが多いが、日本を含め金融市場の発達した主要国では準備預金制度は 金融政策の手段としてはもはや使われていない。準備預金制度は安定的で予測可能な当座預金需要を作り出 すことによって、オーバーナイト金利の誘導を行いやすくするための枠組みとして理解されるべきである」(白 川、同上書、145 - 6 ページ)。 白川氏は市銀の金利非弾力的・非感応的準備需要が後積準備預金制度の媒介によってその正反対物に転化 するメカニズムを理解していない。しかし後積準備預金制度の意義は事実に即して正しく理解している。 注 16) 「IV コンドリフ教授の恐慌分析を評す」(久留間鮫造著『増補新版 恐慌論研究』大月書店、1965 年、110 ペー ジ参照)。