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オキシム誘導体を用いる新しいC-N結合生成法 [PDF :326KB]

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寄稿論文

オキシム誘導体を用いる新しい C-N 結合生成法

東京大学大学院 理学系研究科 化学専攻

奈 良 坂   紘 一

はじめに:アミノ化反応

 アミノ化合物は医薬や農薬など興味ある生理活性を示すものが多く,様々な合成法が知られ ている。一般にアミノ化合物の合成には,ニトロ基やシアノ基の還元など窒素官能基の 還元や,Gabriel 反応のように炭素求電子試薬に窒素求核試薬を作用させる求核的アミノ化 が広く用いられている1。さらに,窒素求電子試薬と炭素求核試薬との反応による求電子的アミ ノ化反応も知られており,クロロアミンやヒドロキシアミン誘導体などが窒素求電子試薬とし て用いられる2。しかし,この方法は一般性に乏しく,これまでアミノ化合物の合成法としてほ とんど有効に利用されていなかったが,最近アミノ化反応として注目されてきている。  オキシム類は対応するカルボニル化合物とヒドロキシルアミン誘導体から容易に合成するこ とができ,同様に窒素−炭素二重結合をもつ類縁体であるイミン類に比べると,加水分解され にくく安定で取り扱いやすい。しかし,そのイミノ基炭素の求電子性は乏しく,オキシムへの 求核試薬の付加は進行しにくい。オキシム誘導体のもっとも特徴的な反応として, Beckmann転 位が知られており,オキシムあるいはその誘導体に酸や塩基を作用させるとアミドが生成する (図1)。この転位反応は単にアミド合成に限らず,中間に生じる N- アルキルニトリリウムイオ ンは,各種複素環化合物の合成などに利用されている。このように転位によってオキシム窒素 原子上での置換が容易に進行するのに対し,オキシム誘導体の s p2窒素原子上で直接置換 (displacement)形式の反応が起こる例は,ほとんど知られいない。最近我々はこのような形式の 反応が一般的に進行することを見いだし,オキシム誘導体が求電子的なアミノ化試薬として,ア ミン合成や含窒素複素環化合物の合成に広く活用できることを明らかにした。 図1 オキシムの反応  本稿では,1)SN2型反応によるオキシム窒素原子上での置換反応,2)一電子還元によるオ キシムのラジカル環化反応,3)パラジウム触媒へのオキシムの酸化的付加反応,について紹 介する。 R R' NOH R' N R O H R R NOY R R N Nu H2O H2SO4 N R R' Beckmann Rearrangement of Oximes

Displacement on Nitrogen Atom of Oximes

Nu–

(2)

1. S

N

2 型反応によるオキシム窒素原子上での置換反応

1 . 1.レニウム試薬を用いるフェネチルケトンオキシムのキノリンへの変換

アリルアルコールを触媒量の過レニウム酸テトラブチルアンモニウム(n-Bu4NReO4)と p- ト ルエンスルホン酸で処理すると,アリル転位が起こる。この反応は式1に示すようにアリルア ルコールが過レニウム酸エステルを生成し,これが[3.3]シグマトロピー転位したり,過レニウ ム酸イオンが脱離してアリルカチオンを生じることによって進行している(式1)3 Ph OH Ph HO Ph O Re O O O Ph O Re O O O CH2Cl2 , rt, 5 min

10 mol% (n-Bu)4NReO4

5 mol% TsOH•H2O 49% 33% (1) そこでn-Bu4NReO4とスルホン酸をオキシムに作用させれば,オキシムの過レニウム酸エステ ルが生成してBeckmann転位が触媒的に進行するのではないかと考えた。実際ニトロメタンのよ

うな極性溶媒中でオキシムにn-Bu4NReO4とトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)を作用させ

ると,Beckmann転位が起こり,アミドが得られる(式2)。オキシムのシンとアンチ体4はTfOH の存在下で速やかに異性化するため,非対称ケトンオキシムの両異性体混合物を出発物質に用 いても,転位しやすい基が選択的に転位して単一のアミドが生成する5 (2) ところが,4- フェニル -2- ブタノンオキシムの反応では,Beckmann転位生成物のほかに, 2- メ チルキノリンが 7%副生することがわかった(式3)。 (3) このキノリンの生成は,全く予期しないことであった。すなわち,フェネチルケトンオキシム 類縁体をBeckmann転位させると中間にニトリリウムイオンを生じ,これとフェニル基の間で環 化が起こりイソキノリン誘導体を与えることが知られている(式4)6。しかしレニウム試薬を 用いた反応では 2- メチルキノリンが生成しており,このことは Beckmann 転位を経ることなく オキシムの窒素原子上でフェニル基との環化反応が起こっていることを示唆している。 R1 H N R2 O R1 R2 N OH

cat. n-Bu4NReO4

cat. CF3SO3H CH3NO2, azeotropic cat. H2NOH•HCl Me N OH H N Me O N Me

20 mol% n-Bu4NReO4

20 mol% CF3SO3H 7% 88% + CH3NO2 , reflux 20 mol% H2NOH• HCl N Me OH Ph N Ph Me N Ph Me Lewis acid (4)

(3)

文献を調べてみると,オキシム誘導体の窒素原子上で C-N 結合が生成する例として,分子内 にアルケン部位を持つオキシム(式5)や O- スルホニルオキシム(式6)から窒素原子上で環 化が起こった例が報告されているが,一般性も反応機構も検討されていない7 (5) 一方,オキシム窒素原子上での N-N や N-S 結合生成の例は,いくつか報告がある。例えば,分 子内にピリジル基を持つオキシムをスルホニル化すると(式7),アンチ体のオキシムからは環 化生成物が生成し,シン体は環化しないことが報告されている8 (7) (6) Me N OH HO N Me 24% Zn, AcOH N H HN H N MeSO3 SiMe3 (i-Bu)2AlH CH2Cl2 –78 → 0 °C 42% N N OH N N TsCl, pyridine 84% このように,オキシムの窒素原子上で C-N 結合生成が起こっている例はきわめて希なうえ生 成機構も未知なので,レニウム化合物を用いるキノリンの生成に興味を持った。触媒的な Beckmann転位にはニトロメタンのような極性溶媒を用いる必要があったが,溶媒を1,2-ジクロ ロエタンのような非極性溶媒に変えるとキノリンだけが生成することがわかった。またこの反 応ではn-Bu4NReO4を等モル量使用しているが,収率は60%程度である。これは最初に生成する ジヒドロキノリンによって,過レニウム酸が還元されてしまうためであることがわかった。そ こで酸化剤としてクロラニルを共存させて反応を行ったところ, n-Bu4NReO4の使用量を20モル %に減らしても,収率良くキノリンが得られた(式8)9 (8)

 この n-Bu4NReO4と TfOH による触媒的環化反応を用いて,メタ位に電子供与基を持つフェネ

チルケトンオキシムを環化させると,置換基のオルトとパラ位で環化した形式のキノリン誘導 体が得られる(式9)。一方,パラ置換フェネチルケトンオキシムの環化では,次のような生成 物が得られた(式 10)。すなわち,p- メトキシカルボニルアミノ(RX = MeOCONH)体はキノ リンを与えるが,最初 1,4 位の関係にあった二つの置換基は,キノリンでは 1,3 位の関係となっ ている。また,p- メトキシ体やヒドロキシ体(RX = MeO, HO)からは,キノリンではなくス ピロ環化体が得られた。 N Me O O N H O O Me N O O Me Me N OH O O ClCH2CH2Cl 44% 15%

20 mol% n-Bu4NReO4, 100 mol% CF3SO3H, 50 mol% chloranil

100 mol% n-Bu4NReO4, 100 mol% CF3SO3H

+

85% MS 5A, reflux

(4)

このオルトとパラ置換体の環化生成物をみると,どのような経路でキノリンが生成しているか がわかる。図2に示すように,パラ置換体では最初にイプソ位で環化が起こる。ここで R-X 結 合が容易に解裂する場合はスピロ化合物が生成し,解裂しにくい場合にはシクロヘキサジエノ ン−フェノール転位が起こりアルキル側鎖が転位してキノリンを与える。一方,メタ置換体か らはイプソ環化体が転位したキノリンは全く生成していない。従ってメタ置換体では,置換基 のオルト位やパラ位で直接環化が起こっていると考えられる10 Me N OH MeO N Me MeO Me N OH RX N Me O N Me MeO N Me RX RX = MeOCONH 76% 4% RX = MeO 51% 15% 76%

Reaction conditions: 20 mol% n-Bu4NReO4, 100 mol% CF3SO3H, 50 mol% chloranil,

MS 5A, ClCH2CH2Cl, reflux, 1-2 h. RX = HO 91% (9) (10) 図 2 パラ置換フェネチルケトンオキシムの環化  この触媒反応は,オキシムのBeckmann転位と同様に,オキシムが過レニウム酸とエステルを 形成して進行していると考えられる。しかし環化の機構については,付加・脱離反応や電子移 動反応,求核置換反応など様々なものが考えられ,この時点では反応がどのように進行してい るのか断定できなかった。後述するが様々な条件下でオキシム誘導体の置換反応を検討したと ころ,最終的には過レニウム酸アニオンが脱離基として作用し,窒素原子上で SN2的な求核置 換反応が進行しているとの結論に達した。このことはオキシムのsp2窒素原子上で二分子的求核 置換反応が起こっていることを意味しており,「一般にsp2原子上ではS N2反応は起こらない」と いう有機化学の常識に反している。SN2反応が進行しているかどうか確かめるには,置換に際 してオキシム窒素原子上で立体配置の反転(sp3炭素の Walden 反転に対応)が起こっているか どうかを調べるのが良い。しかし,トリフルオロメタンスルホン酸の存在下ではオキシムは E/ Z異性化するので,この反応条件下では環化反応の立体特異性を調べることができない。 さて,もしこの反応がSN2型の反応で進行しているならば,同様な反応が酸性条件下だけでは なく中性や塩基性条件下でも進行し得るはずである。そこで,p- シロキシフェネチルケトン O-メチルオキシム 1 を合成し,その環化が起こるかどうか検討した(式 11)。オキシム 1 の E お よびZ異性体混合物にフッ化セシウムを作用させたところ,E異性体は環化しスピロ化合物を与 えたが,Z 異性体は回収される。この結果は,分子内のフェニル基が求核種となって SN2型の反 応が起こっている可能性を強く示している。 RX N Me Me NOH RX N Me RX RX N H Me N Me O - H+ 4-chloranil RX = MeO, OH RX = MeOCONH

(5)

(11) 後述するように,他にもいくつかの反応を試みると同様な立体特異的環化反応が見出され,オ キシム sp2窒素原子上では S N2型的な機構で環化が起こる可能性が十分あると考えられた。代表 的なオキシムの反応である Beckmann 転位も,その遷移状態を考えると,広い意味では SN2型反 応と見なすことができる。そこで,さらに次のような実験を行った後,分子軌道計算を行った 11。パラ位にヒドロキシ基を持つフェネチルケトンオキシムに,種々の酸を作用させた結果を式 12に示す。Beckmann転位にしばしば用いられるポリリン酸を作用させると,転位が起こりアミ ド 3 が生成する。ところがトリフルオロメタンスルホン酸を作用させると,スピロ化合物 2 が主 生成物として得られ,過レニウム酸テトラブチルアンモニウムとトリフルオロメタンスルホン 酸で処理するとスピロ化合物 2 のみが生成した。以上の結果は,わずかの反応条件の差によっ て,Beckmann 転位あるいは環化のいずれかが進行することを示している。 Me N Me2(t-Bu)SiO OSO2Me N Me O Me HO N MeSO2O CsF MeCN reflux 1 E : Z = 2 : 1 46% 30% (12)  次に,オキシムのヒドロキシ基がプロトン化された出発物質を想定し,環化とBeckmann転位 の遷移状態と活性化エネルギーを分子軌道計算した。式 12 の 1,2- ジクロロエタン中トリフルオ ロメタンスルホン酸を用いる反応条件が,これに対応すると考えられる。計算の結果,両反応 の活性化エネルギーはほぼ同程度(8.0 および 8.8 kcal/mol)であることがわかった(図3)11 N Me O N HO Me OH ClCH2CH2Cl CF3SO3H 2 ClCH2CH2Cl HO Me O H N 3 2 3 50% + reagents solvent polyphosphoric acid m-xylene

reagents 4% 22% solvent reflux 72% (n-Bu)4ReO4, CF3SO3H 91% 0% 図 3 SN2型反応とBeckmann転位の遷移状態と活性化エネルギー  ポリリン酸のような求核性の高い酸を用いた場合や極性溶媒中ではBeckmann転位が優先する が,これは転位に際して生成し始める sp2カルボカチオン種が求核攻撃されたり溶媒和され,安 定化されるためと考えられる。一方,SN2型反応は,他の求核種(ここでは極性溶媒や求核性の ある酸)が存在せず,フェニル基だけが求核種として作用する場合に起り易いと理解できる。 N Me O HO H H N Me HO H2O N HO H2O Me HO N Me N HO Me +8.8 kcal/mol 1.788 Å 2.085 Å -47.4 kcal/mol +8.0 kcal/mol 1.622 Å 2.534 Å 2.017 Å -36.6 kcal/mol 2.067 Å

(6)

 以上のように,オキシムの sp2窒素原子上で S N2型の置換反応が起こることがわかったので, この応用を検討した。

1 . 2.オキシムの求核置換反応を利用する環状イミンの合成

 分子内のγおよびδ位に活性メチレン部位を持つケトンの(E)-O-メチルスルホニルオキシムに DBUを作用させると,分子内求核置換反応が進行し,5および6員環環状イミン類が定量的に 生成する(式 13)12。ただし,対応する Z 体からは全く環化体は得られず,反応条件を厳しく すると Neber 反応生成物など多数の生成物を与える。 (13)  式 14 には,同様な反応としてオキシム窒素原子上での置換反応を利用するスピロ[インドリ ン -3,2'- ピロリジン]類の合成を示す13β- インドリルケトンオキシム 4 を塩基性条件下メシル化 すると一気に環化まで進行し,対応するスピロイミン 5 が得られる。5 は高極性で単離が困難で あるが,N- ペンタフルオロベンゾイル保護体 6 として安定に単離できる。 CH2Cl2, 0 °C N Me MeO2C MeO2C OSO2Me Ph – MeO2C MeO2C Ph Me NOSO2Me N Ph Me MeO2C MeO2C DBU

( from Z isomer: no reaction ) E quant. (14) N H N Me OSO2Me Et3N C6F5COCl N H N Me OH N N Me N N Me Cl COC6F5 2) C6F5COCl MeSO2Cl Et3N 6 79% 1) MeSO2Cl, Et3N 4 5

1 . 3.O- 置換オキシムの異性化と窒素原子上での分子内求核置換反応

 前節で述べたように,O- 置換オキシムの SN2型 置換反応を分子内環化に適用すると,アンチ体し か用いることができない4。オキシム自身は酸性条 件下で容易にシン / アンチ異性化するが,O- アル キル,O-アシルオキシムのようなO-置換体は異性 化し難い。しかし,過レニウム酸テトラブチルア ンモニウム(n-Bu4NReO4)を用いた環化反応のよ うにO-置換オキシムを異性化させながらSN2型反 応を行わせることができれば,オキシムの両立体 異性体を環化に利用できるはずである(図 4)。 Nu N R' Nu N RO R' Nu R' OR N anti syn 図 4 オキシムの両異性体からの分子内環化

(7)

 そこで,O-置換オキシムの異性化について検討した(表1)14。フェネチルメチルケトンオキシ ムはトリフルオロメタンスルホン酸を作用させると,容易に異性化するが,O-メチルオキシム は同条件で異性化せず,N-プロトン化だけでは異性化しないことがわかる(runs 1, 2)。しかし, O-メチルオキシムにメタノールなどの求核剤存在下,トリフルオロメタンスルホン酸を作用さ せると異性化することがわかった(run 3)。この異性化はオキシム窒素原子へのプロトン化と, 求核剤の付加−脱離により起こっているのであろう。また,O-アセチルオキシムに安息香酸を 作用させると,非常に遅いが徐々に異性化する(run 4)。一方,トリフルオロアセチル基のよう な活性アシル基を持つO-アシルオキシムは,トリフルオロ酢酸を作用させると,室温で異性化 する(run 5)。この異性化の機構を調べるため,アセトンO-クロロジフルオロアセチルオキシム にトリフルオロ酢酸を作用させたところO-トリフルオロアセチルオキシムとO-クロロジフルオ ロアセチルオキシムの混合物となった。従って,run 5に示す活性アシル基を有するオキシムの 異性化は,プロトン化−付加・脱離機構以外にオキシム窒素原子上でのカルボン酸による置換 反応や,混合酸無水物とオキシムの生成を経由する機構でも起こっていると考えられる。 表 1 オキシムの異性化  以上の異性化の知見をもとに,オキシム両異性体の簡便な分子内環化法の開発を試みた14 まず,フェネチルケトンオキシムのキノリン類への変換について取り組んだ。4- クロラニル 存在下,アンチ体のオルトメトキシフェネチルケトンオキシム 7 にトリフルオロ酢酸無水物を 室温で作用させると,キノリンが高収率で得られた(式15)。次にシン体を用いて反応を行った ところ,期待通り環化が進行し,異性化を行いながら環化させることに成功した。 Ph(CH2)2 Me NOR Ph(CH2)2 Me NOR Ph(CH2)2 Me N RO OH CF3CO2H, CDCl3, rt, 28 h OCOCF3 OAc OMe >99 : <1

anti anti syn

+ CF3SO3H (2.0), CH2Cl2, rt, <20 min OR CF3SO3H (2.0), CH2Cl2, rt, 12 h 2 : 1a anti : syn conditions CF3SO3H (2.0), CD3OD (2.0), CH2Cl2, rt, 20 min OMe run 1 2 3 PhCO2H, toluene, 80 °C, 6 h 4 5 a) At equilibrium. 2 : 1a 3 : 1a 3 : 1a N Me MeO N Me OH MeO (CF3CO)2O 4-Chloranil 83% N MeO Me CH2Cl2 rt, 20 h N Me MeO 5% 9% N MeO Me OCCF3 OH [O] from anti from syn + 81% 7 (15)  同様の環化はパラ置換フェネチルケトンオキシムからも進行する(式 16)。 MeO Me N (CF3CO)2O N MeO Me + CH2Cl2, rt MeO N Me OH 4-Chloranil 86% (16)

(8)

 分子内アルケン部も求核種として作用する。γ,δ- 不飽和ケトン O- メトキシアセチルオキシム にニトロメタン中メトキシ酢酸を加えて,70 ℃で反応させると,望みの環化生成物が得られた (式 17)。この環化反応は種々の電子豊富アルケン部を有するオキシムに適用できる。 (17) 83% 72% (3 : 2) 88% H Me Me H H Me N R O O H R2 R1 MeO R1 N R O O R2 R1 OMe R2 N R R2 O O MeO R1 R'CO2H CH3OCH2CO2H (10) CH3NO2, MS 4A 70 °C, 24 h R = PhCH2CH2

-1 . 4.オキシム誘導体の Grignard 試薬によるアルキル化:第一級アミンの合成

 オキシム窒素原子上に求核種が攻撃できることがわかったので,Beckmann転位を起こしにく いオキシム誘導体を用いれば,有機金属化合物によって N- アルキル化が行えると考えられる。 文献を調べると,次のようにシクロペンタジエノン誘導体のO-メチルスルホニルオキシムを用 いてこのような試みがなされていたが,反応機構は置換形式ではなく付加・脱離反応であると 報告されている(式 18)15。この方法では大過剰の Grignard 試薬を用いる必要があり,しかも モノ N- アルキル化は芳香族 Grignard 試薬の場合しか優先して得られれず,アルキル Grignard 試 薬の場合にはジアルキル化生成物が主生成物となる。O- メチルスルホニルオキシムとの反応よ りも,モノアルキル化され生じる N-アルキルイミンの方が圧倒的に付加反応を受けやすいため である。一方,アルキニル銅化合物を用いて O- スルホニルオキシムのアルキニル化を行ってい る例が報告されており(式 19)16,17,収率は悪いが置換形式の反応が進行している。我々もまず 有機銅化合物を用いて,オキシム誘導体の N- アルキル化を試みた。 -N Ph Ph Ph Ph OTs N Ph Ph Ph Ph R N Ph Ph Ph Ph R R RMgBr THF, -78 °C + (7 mol) Main product + R = Ph 95% n-Bu R = Ph 3Cu Li2 Ph OTs Ph N Ph Ph N Ph Et2O 20 °C 45% (18) (19)  Beckmann転位を抑制するため,まず電子求引基としてp-トリフルオロメチル基を導入したベ ンゾフェノン O- メチルスルホニルオキシム 8 をアミノ化試薬とした。これに触媒量のシアン化 銅と小過剰のGrignard試薬を加えると,N-アルキルイミンが収率良く得られることがわかった。 第一級,第二級,第三級いずれのアルキル Grignard 試薬も高収率でイミンを与え,加水分解す ると第一級アミンが得られる18。たとえば,臭化ノルボルニルをアミノ化することは難しいが, この方法を用いれば収率良く 1- ノルボルニルアミンを合成できる(式 20)19 MgBr N CF3 CF3 OSO2Me NH2•HCl 96% 1) cat. CuCN•2LiCl HMPA - THF, 0 °C, 0.5 h 2) aq. HCl, acetone + 8 (20)

(9)

 一方,この方法によるアニリン誘導体の合成は困難であった。すなわち,フェニルGrignard試 薬との反応ではビフェニルが大量に生成する。そこで,アニリン誘導体の合成にも適用できる 方法を探索したところ,トルエン中で3,3',5,5'-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゾフェノン オキシムのO-メチルスルホニル体にエーテル中で調製したアリールGrignard試薬を作用させる と,銅触媒を加えることなくアリール化が進行し,収率良く N- アリールイミンが得られること がわかった。第一,二級アルキル Grignard 試薬を用いても,収率良くアミンを合成できる(式 21)19。オキシムがGrignard試薬のようなカルバニオンのアミノ化に有効であることがわかった が,オキシム 9 が嵩高い置換基を有している点を改善すべきである。 (21)  そこで尿素や炭酸エステル類のオキシム誘導体について精査した結果20,環状炭酸エステル のオキシム10が優れたGrignard試薬のアミノ化剤となることが明らかになった21。様々なアリー ルおよびアルキル Grignard 試薬と 10 は非極性溶媒中で反応し,対応するイミン 11 を与える。こ のイミン 11 を酸性加水分解すると第一級アミンが得られる(式 22)。 (22)

2. 一電子還元によるオキシムのラジカル環化反応

2 . 1.8- キノリノール誘導体の合成

 前述した求核的な置換反応では,求核種とオキシム窒素原子上の脱離基とのバランスが重要 と思われる。そこで様々な脱離基を有するオキシム誘導体を用いて置換反応を試みた。その過 程で,m-ヒドロキシフェネチルケトン O-2,4-ジニトロフェニルオキシム誘導体にNaHを作用さ せると,8- キノリールとそのテトラヒドロ体が生成することがわかった。この時,位置異性体 である 6- キノリノールは全く得られない。さらに,E,Z いずれの O-2,4- ジニトロフェニルオキ シムも,同様の反応性を示すこともわかった(式 23)22 (23) Ar Ar N R R-MgBr CF3 CF3 NOTs F3C CF3 R-NHCOPh + 2) PhCOCl, Et3N Ts = p-CH3-C6H4-SO2, Ar = 3,5-(CF3)2C6H3 9 1) H3O+ toluene rt, 30 min (in Et2O) R = Et 87% R = Ph 96% O O N R O O NOSO2Ph PhCl or CH2Cl2 0 °C R-NH3+Cl -1) H3O+ R = p-Tol 97% R = PhCH2CH290% 2) HCl R-MgBr (in Et2O) + 10 11 N HO Me N H HO Me Me N O NO2 NO2 HO NaH from E-isomer from Z-isomer 44% 36% 1,4-dioxane + 36% 41% 50 °C, 20 h

(10)

 この結果は,前述のO-スルホニルオキシム誘導体のSN2型環化反応と比べると大きく異なる。 例えば同じp-ヒドロキシフェネチルケトンでも,O-メチルスルホニル体を水素化ナトリウムで 処理すると,8- および 6- ヒドロキシ両異性体が生成する(式 24)。立体特異性がみられないこ とや8-キノリノール誘導体が位置選択的に生成することは,式23 に示す反応だけに見られる特 徴である。 (24) この O-2,4- ジニトロフェニルオキシムの反応では E および Z 両異性体ともに環化しているが, 反応条件下で Z 異性体が異性化している可能性がある。そこでフェニル基上にヒドロキシ基を 持たないフェネチルケトン O-2,4-ジニトロフェニルオキシムをモデル化合物として,これをm-クレゾールと過剰の NaH で処理し,異性化の有無を検討した。異性化は確認できなかったが, この条件下でオキシムが一部反応して,アジンとフェネチルケトンが生成していることがわかっ た(式25)。両者はアルキリデンアミニルラジカルあるいはその等価体の,二量化および水素引 き抜きで生成するイミンの加水分解で生じていると考えられ,本反応はラジカル機構で進行し ていることが示唆された。 (25)  さらにいくつか検討した結果,図5に示す機構で環化が進行していると考えている。まずNaH によって生じるフェノキシドが NaH と複合体を作り,これが還元剤となって部分から O-2,4- ジ ニトロフェニル基へ一電子移動が起こる。ここで 2,4- ジニトロフェノキシドイオンの脱離を伴 いながらフェノキシラジカルと窒素原子間でカップリングが起こるというものである23。8- キ ノリノールが位置選択的に得られるのは,フェノキシドイオンとオキシム窒素原子の間にナト リウムイオンによるキレートが形成されるためと考えている。 図 5 m- ヒドロキシフェネチルケトン O-2,4- ジニトロフェニルオキシムのラジカル環化 HO Me N OSO2Me N HO Me N HO Me NaH ClCH2CH2Cl, MS 5A + Ph N Me O NO2 NO2 Ph N Me )2 Ph O Me Ph N Me OH Me NaH 1,4-dioxane, 50 °C 24% + 27% Me N O NO2 NO2 Na+O Me N O NO2 NO2 HO NaO NO2 NO2 Me N O NO2 NO2 O HO Me N NaH Na+ – electron transfer 1,4-dioxane (NaH)n

(11)

 さて,O-2,4-ジニトロフェニルオキシムの環化ではキノリノールとそのテトラヒドロ体の二つ の生成物が生じているが,合成手法としての利用を考えると,単一の生成物が得られるように する必要がある。まず 8- キノリノールだけを合成するために,NaH を作用させて環化を行った 後に酢酸を加えて D D Q で処理すると,8 - キノリノールのみが得られる(式2 6 )2 3。一方, NaBH3CN存在下でNaHを作用させると,中間に生じるジヒドロキノリンが還元されて,テトラ ヒドロ -8- キノリノールが得られる(式 27)23,24。両反応とも広い一般性を示し,種々のキノリ ノール誘導体を合成することができる。 (26) (27)

2 . 2.環状イミンの合成

 ForresterらはO-ヒドロキシカルボニルメチルオキシムを酸化するとアルキリデンアミニルラ ジカルが生じることを見いだし,キノリン類を合成している(式 28)25。また Zard らは一連の オキシム誘導体とスタンナンやニッケル化合物との反応によって,N- ラジカル生成とその分子 内アルケンへの付加反応を精力的に研究している(式 29)26。しかし前者の反応は一般性に欠 け,また後者の反応では長時間かけてスタンナンを滴下しなければならないなど合成化学上の 問題点がある。そのためアルキリデンアミニルラジカルを合成反応の活性種としてさらに有効 に利用するために,ここで見いだした還元的なラジカル発生法を用いる,γ,δ- 不飽和ケトン O-2,4- ジニトロフェニルオキシムからの環状イミンの合成法の開発に着手した。 N O HO O O O2N NO2 Me Me H H n-Bu N t-BuO2C N H HO H n-Bu t-BuO2C N HO H N N O O HO Me Me NaH NaBH3CN HO Me Me N O O O O2N NO2 H H N N HO n-Bu t-BuO2C 1) NaH 1,4-dioxane 50 °C 1,4-dioxane rt 93% 60% 2) 4-chloranil AcOH (28) (29)  我々の開発した還元的なアミニルラジカル発生法では,O-2,4-ジニトロフェニル基への電子移 動が重要であり,優れた電子供与体を作用させれば,一電子移動が容易に起こると考えられる。 そこで,γ,δ-不飽和オキシムにラジカル捕捉剤として1,4-シクロヘキサジエンやジフェニルジス ルフィド存在下,電子供与体として 3,4-メチレンジオキシフェノール(セサモール)を作用させ たところ, 3,4-ジヒドロ-2H-ピロール誘導体が良好な収率で得られることがわかった(式30)27 N Ph Ph Ph OCH2CO2H N Ph Ph Ph N Ph Ph Ph N O PhSe N N Me K2S2O8 H2O reflux (n-Bu)3SnH cat. AIBN cyclohexane reflux

(12)

(30)

2 . 3.オキシム類の触媒的なラジカル環化反応

 以上のようにオキシム誘導体を一電子還元するとイミニルラジカル等価体として利用できる ことを見いだしたが,この知見をもとに触媒的ラジカル環化反応の開発を行った。  SN2型反応によるγ,δ- 不飽和ケトン O- アシルオキシムからのジヒドロピロールの合成につい ての検討の途上,ヒドロキノンの有無により反応の様子が大きく変わることがわかった。すな わち,オキシム 12 に 1,4- シクロヘキサ ジエン存在下,酢酸を作用させると, 求核置換生成物であるアセトキシ基が導 入されたジヒドロピロール 13 と水素化 体 14 がそれぞれ収率 12%,29%で得ら れた(式 31)28。ヒドロキノンを触媒量 加えて反応させると反応系はきれいに なり,また反応速度が増し,13 と 14 の 収率はそれぞれ 32%,53%に向上した。 ヒドロキノンに代えて1,5-ナフタレンジ オールを用いた場合も,同様な結果が得られた。  水素化体14は重水素化溶媒を用いた実験などから,ラジカル機構で生成することがわかった。 推定反応機構を図6に示す。プロトン化されたオキシムにヒドロキノンから一電子移動がおこ り,アニオンラジカル 15 が生ずる。引き続きラジカル環化が進行する。酢酸によりオキシムが プロトン化されるためより効果的にオキシムへ一電子還元が進行しているのであろう。 O NO2 O2N N Ph Y Ph N CCl4 (PhS)2 (PhSe)2 Ph N O O OH N O NO2 O2N Ph 91% NaH, radical acceptor (Y = H) (Y = Cl) (Y= SPh) (Y = SePh) 75% 70% 69% radical acceptor 1,4-dioxane 50 °C, 6-10 h (31) 図 6 ヒドロキノン触媒による γ,δ- 不飽和ケトンオキシム O- ア セチルオキシムのラジカル環化 N R H +OAc OH HO O HO R N OAc AcOH R N CH2 H+ R N CH3 cat. hydroquinone 1,4-cyclohexadiene AcOH 15 + H+ + H+ Ph(CH2)2 N AcO Ph(CH2)2 N R 12 additive, AcOH 1,4-cyclohexadiene 1,4-dioxane reflux additive (5 mol%) 13 14 12% 29% 32% 53% 24 6 none hydroquinone 13 R = OAc 14 R = H time/h  このラジカル環化では,ラジカル受容体であるアルケン部が電子豊富であると求核置換生成 物が副生するが,電子不足アルケン部を有するオキシム,あるいはアリールケトンオキシムや α- ケトエステルのオキシムからはラジカル環化生成物のみが得られる(式 32)。ラジカル環化 は,β- アルキニルケトンオキシムでも同様に進行し,ピロールを与える(式 33)。

(13)

 γ,δ- 不飽和ケトン O- アシルオキシムのラジカル環化は,酸性条件での求電子的環化と相補的 に利用できる。すなわち,電子豊富アルケンを持つオキシムの場合は求核置換反応(式 17)を, アルケン部が電子不足である場合にはラジカル反応を利用すれば,所望のジヒドロピロールを 得ることができる。 (32) (33)  金属化合物を触媒とするアミニルラジカル生成法についても検討し,銅化合物が良好な触媒 になることを見いだした29γ,δ- 不飽和ケトン O- メトキシカルボニルオキシムや O- ペンタフル オロベンゾイルオキシムを銅(I)化合物あるいは銅粉で処理すると,ジヒドロピロールが合成で きる(式 34)。また,β-3- インドリルケトン O- ペンタフルオロベンゾイルオキシムに 1,2- ジク ロロエタン中で銅粉を作用させると,α- カルボリン誘導体が得られる(式 35)。銅(0)はジクロ ロエタンと徐々に反応するので,実際に還元を司る触媒は一価の銅であろう。 (34) (35)

3. パラジウム触媒へのオキシムの酸化的付加反応

3 . 1.オキシムの酸化的付加

 低原子価遷移金属錯体は良い電子供与体であるので,O-置換オキシムは低原子価遷移金属錯 体に酸化的付加し,アルキリデンアミノ金属錯体が生じると考えられる。実際,ベンゾフェノ ン O- メシルオキシム 8 と等モル量の Pd(PPh3)4を反応させ,反応液に水を加えると,イミン 17 R1 N R2 R2 R1 R1 N AcO R2 CN H H Ph(CH2)3OC O Ph(CH2)2 CO2Et Ph AcOH R = Ph R1 HN CH3 R = PhCH2CH2 R N AcO R1 R2 Ph(CH2)2 1,4-dioxane, reflux cat. 1,5-naphthalenediol

* O-Pivaloyl oxime was employed. 69% 72% 75% 61% * Yield 67% 67% 1,4-dioxane, reflux cat. hydroquinone 1,4-cyclohexadiene AcOH 1,4-cyclohexadiene Yield 75% 1,4-dioxane 80 °C Ph(CH2)2 NOCOMe 86% Ph(CH2)2 N Br CuIIBr N N Me Ac Ph(CH2)2 NOCOMe Ac N OCOC6F5 N Me cat. CuBr•SMe2 LiBr 1) cat. Cu powder MeN(CH2CH2NMe2)2 ClCH2CH2Cl, 80 °C 2) 4-chloranil, CH2Cl2, rt O O

(14)

が定量的に得られた(式 36)。この結果は中間体にアルキリデンアミノパラジウム種 16 が生成 していることを示している30 (36)  我々は 16 の単離には至っていないが,この研究の報告とほぼ同時期に Pombeiro31や Tillact 32 らによりオキシムの酸化的付加が報告され(式37),酸化的付加物のX線結晶構造解析が行われ ている。オキシム炭素,窒素,金属の酸素のなす角(∠CNM)は 180°に近く直線型である。

3 . 2.触媒的アミノ− Heck 反応

 このようにオキシムの酸化的付加により生じたアミノ金属種を用いる分子内溝呂木−Heck型 反応(アミノ Heck 反応)を試みた33。すなわち,(E)-γ,δ- 不飽和ケトン O- ペンタフルオロベン ゾイルオキシム 18 に DMF 中,トリエチルアミン存在下,触媒量の Pd(PPh3)4を作用させると環 化が進行し,2H-3,4 ジヒドロピロール 20 が生成し,これにクロロトリメチルシランを作用させ ると異性化しピロール 21 が 85%得られた(式 38)30。オキシムの Z 異性体も同様な反応性を示 す。おそらく中間体のアルキリデンアミド錯体が式 37 に示すように直線型に近いため,いずれ の立体異性体から生じたパラジウム錯体も容易に異性化するためと考えている。なお,O- スル ホニルオキシムも同様に環化するが,同時に Beckmann 転位も起る。 N CF3 CF3 OSO2Me Ar Ar NPd–OMs Ar Ar NH Ar Ar O Pd(PPh3)4 H2O H3O+ THF rt, 20 min Ar = 4-(CF3)C6H4 94% 8 16 17 (37) Me Me N OH Me Me N

[ReIII(OH)(dppe) 2][BF4] trans-[ReICl(N 2)(dppe)2] Tl[BF4]-Tl[HSO4] THF 179° (38)  6-exo 環化も触媒的に進行して,イソキノリン類が合成できる。この場合,塩化テトラブチル アンモニウムを加えると収率が向上する(式 39)34 (39) Ph Pd N OCOC6F5 Ph HN CH3 Et3N DMF Me3SiCl Ph OCOC6F5 N Ph N CH2 80 °C, 1 h CH2Cl rt, 0.5 h from E cat Pd(PPh3)4 85% from Z 82% 18 19 20 21 N Me Me N Me OCOC6F5 77% cat. Pd(PPh3)4 additive Et3N DMF, 80 °C n-Bu4NCl additive 48% none

(15)

 ピロールやイソキノリンの他,様々な不飽和 O- ペンタフルオロベンゾイルオキシムに Pd(0) 触媒を作用させると,分子内アミノ Heck 反応によってアザスピロ化合物 35,アザアズレン 36, イミダゾール,インドールなどの環状アミン類を合成することができた(式 40-42)。 (40)  アミノ−Heck反応により種々のケトオキシムから対応する環化生成物が得られる。しかしア ルドキシムやα位にアルコキシ基を有するケトオキシムはBeckmann解裂を起こすため用いるこ とができない。また,アルキニルケトンオキシムを用いた場合は,中間体のアミノパラジウム から,β- アルキニル脱離が起こりニトリルが生成する。これに関連する反応として,植村らは シクロブタノンオキシムのパラジウム触媒によるβ- アルキル脱離を報告している(式 43)37 N N Ph Ph N OCOC6F5 N Ph 2) MnO2, CH2Cl2 reflux, 2 h N Ph N OCOC6F5 86% 1) cat. Pd(dba)2, (t-Bu)3P

Et3N, MS 4A, DMF 80 °C, 0.5 h 78% DMF 80 °C, 0.5 h cat. Pd(PPh3)4 Et3N Ph NOCOC6F5 N Ph DMF, 110 °C 0.5 h. 82% cat. Pd(PPh3)4 Et3N, MS 4A (41) (42) (43)

おわりに

 以上,我々の研究室で開発したオキシムを用いるアミノ化反応や含窒素複素環化合物の合成 について概説した。Beckmann 反応での副生成物の単離に端を発し,オキシムを用いるアミノ化 反応の開発へと幅広く発展させることができた。オキシムは,酸素,窒素,炭素と,異なる元 素が連なっており,まだまだ我々の知らない性質があるであろう。 NOCOPh Ph Pd NC OCOPh Ph N Pd OCOPh Ph CN Ph Ph CN 4% 84% cat. Pd2(dba)3•CHCl3 (R)-(+)-BINAP + K2CO3, THF reflux

(16)

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(Received November, 2004) 執筆者紹介

北村 充

(Mitsuru Kitamura)

東京大学大学院 理学系研究科 化学専攻 特任講師 [ご経歴] 1994 年 慶應義塾大学理工学部化学科卒業,1999 年 東京工業大学大学院理工学研 究科化学専攻博士課程修了。同年 東京大学大学院理学系研究科化学専攻助手。2004 年 8 月 より現職。2000 年井上研究奨励賞,2001 年有機合成化学協会東レ研究企画賞受賞。 [ご専門] 有機合成化学

奈良坂 紘一

(Koichi Narasaka)

東京大学大学院 理学系研究科 化学専攻 教授 [ご経歴] 1967 年 東京工業大学理工学部化学科卒業。1972 年 東京工業大学大学院理工学研 究科博士課程修了。東京工業大学助手,東京大学助手,講師,ハーバード大学博士研究員(1975 ∼1976)。助教授を経て,1987 年より現職。1979 年日本化学会進歩賞,2000 年日本化学会賞, 2000年Merck Schucardt-Lectureship(ドイツ),2002年IAP Lectureship(コロンビア大学)受賞。 [ご専門] 有機合成化学

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