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不法行為における女児逸失利益と憲法の第三者効力論 : 日本の憲法学は憲法の私人間効力をどのように考えていくべきか(2)

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Academic year: 2021

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(1)不法行為における女児逸失利益と憲法の第三者効力論 日本の憲法学は憲法の私人間効力をどのように考えていくべきか(2)一. 君. 塚. はじめに.  筆者はこれまで憲法の私人間適用に関する研. 正. 臣. が,権利濫用,公序良俗など,民法の法律行為の 一般条項において妥当することを示してきた3).         ク. これが憲法解釈の一般論である以上,二重の基. 究を進めてきた1).その結果,憲法の私人間効. 準論なども妥当するのである.. 力の問題とは,司法裁判所における私法の一般.  ところで,私法の一般条項は言うまでもなく. 条項の合憲解釈の問題であり,上位法としての. 法律行為に関わるものに限定されない.事実行. 憲法が下位法である民法等の一般条項の解釈を. 為に関する条項もまた同様の結論に達すべきで. 拘束するという,一般的な法原則の一場面の問. ある.ところが,憲法学の通説は,憲法の私人. 題であるとの結論に達した2).そしてこのこと. 間効力の問題は主として公序良俗条項を中心と. する法律行為の問題であると考え,事実行為に ついてはアメリカのステイト・アクション理論 の導入を提唱してきた4).しかし,憲法の下位  1)君塚正臣「いわゆる憲法の第三者効力論再 考一その論点の再整理をきっかけに」東海大学文 明研究所紀要17号11頁(1997),同「民法学にお ける『公序良俗』論の憲法学的検討」行動科学研 究50号63頁(1998),同「法例(国際私法学)に おける『公序』論の憲法学的検討一法例三三条と 憲法学の交点について」東海大学文明研究所紀要. 法である民法には,憲法は事実行為にも法律行 為と同様に適用されるべきではないだろうか.. 筆者はこれまでそのように提唱してきた.決し て,事実行為と法律行為とで,憲法理論が異な る必要もないのではなかろうか.. 19号39頁(1999),同「私立『大学の自治』の再検:.  このことを事実行為に関してこれから証明し. 討一第三者効力と制度的保障の交点?」大阪大国 際公共政策研究4巻1号129頁(1999),同「伝統的 第三者効力論・再考(1,2・完)一日本の憲法学 は憲法の私人間効力をどう考えてきたのか」関大 法学論集49巻5号l13頁(1999),6号45頁(2000) [以下,君塚前掲註1)V論文,と引用],同「第三 者効力論の新世紀(1,2・完)一日本の憲法学は 憲法の私人間効力をどのように考えているのか」. ていきたいと思う.法律行為に関して考察した. 対して,精神的自由や憲法14条1項後段列挙事. 関大法学論集50巻5号124頁(2000),6号105頁. 由の問題,その他重要な人権と称せるものが私. (2001)[以下,君塚前掲註1)VI論文,と引用],. 同「アメリカにおけるステイト・アクション理論 の現在一いわゆる私人間効力論再検討の道標とし て」関大法学論集51巻5号1頁(2001)[以下,君 塚前掲註1)W論文,と引用],同「法律行為と憲 法の第三者効力論一日本の憲法学は憲法の私人間 効力をどのように考えていくべきか(一)」関大法 学論集52巻5=6号377頁(2003)[以下,君塚前掲 註1)阻論文,と引用]..  2)君塚前掲註1)VI論文(二・完)127頁以下参 照.. 通り,二重の基準論の下,経済的自由同士や,. 経済的自由と憲法14条1項後段列挙事由でない 平等の主張が衝突しているときには,これらを 憲法の問題とする意味はあまりない‘).これに. 人間効力論の主たる問題となる筈である.そこ で検討すべきなのは,後者の場面であろう.ま.  3)君塚前掲註1)皿論文378頁などでは「強い権 利」という語をあえて用いた.  4)芦部信喜『憲法学H』279頁以下(1994).  5)君塚前掲註1)粗論文379−385頁参照.. 『エコノミア』第54巻第1号(2003年5月),9−29頁[Ecoηo〃磁Vo1.54 No.1(May 2003), pp.9一29].

(2) ず本稿で,当事者の一方がこの権利を援:用でき. 定不能とされてきたのである11)が,最高裁は. る事例として,交通事故死した女児の逸失利益. 1964年に,8歳男児の交通死亡事故の事例で,. を例として採り上げ,検討していきたいと思. 20歳から55歳まで働いたと仮定して平均賃金 から将来の全収入を,できる限り蓋然性ある形. う.. 1.問題の所在. で算定した12).それ以降,裁判所は統計表を用. いて逸失利益を算定するようになり,その際に.  不法行為による死亡の場合,傷害の極限的な. 賃金センサス(賃金構造基本統計調査)による. 損害が死亡の寸前に被害者に生じ,これが死亡. 方法が広く用いられるようになったのである.. により相続されると考えられている6).内容と.  そして,交通戦争と言われ,交通死亡事故が. しては,治療などで被害者が現実に費やした費. 多発する中,法廷で多くの事案を処理するため. 用,逸失利益,精神的損害が含まれる.逸失利. にその定式化がなされていった.多くの裁判所. 益については通常,被害者死亡時の収入を基準. はその算定にあたり,全年齢平均賃金を基礎に. に昇給も考慮した上で,就労可能年齢までの平. ライプニッツ式で中間利息を控除する,いわゆ. 均的な総収入を算出し,被害者の生活費を控除,. る東京地裁方式か,18−19歳の平均賃金,即ち. 中間利息を差し引いて算定している7).すぐれ. 初任給を基礎にホフマン式で中間利息を控除す. て経済学の問題である8).. る,いわゆる大阪地裁方式を採用した.このほ.  しかし,この逸失利益の算定は,一定の収入. かに,18−19歳の平均賃金を基礎にライプニッ. を得ている勤労者であっても,将来の予測の困. ツ式で中間利息を控除する,いわゆる京都地裁. 難さゆえ,確実性をもってなすことは難しい.. 方式もある13).これらの算定方法はこれまで長. 「いかなる数値を入れるべきかについては,唯. く平行して用いられてきたのである.. 一正しい考え方があるわけではない9)」のであ.  以上を見れば,この考え方は,人間を仕事を. る.ましてや困難な事例もある.まずそれは,. こなして給与を産み出す機械のように見倣すも. 就労可能年齢を超えた高齢者のケースである.. のではないか,という批判もある14).やはり人. 最高裁は,恩給や年金の額を基礎として逸失利. 間は皆平等であるのだから,死亡損害に当たっ. 益を算定している10)..  そして,未就労年少者の場合も算定は難しい.. 従来,幼児の死亡事例では,その逸失利益は算.  6)ここに至るまでの学説の展開については,塩 崎勤「主婦の逸失利益」判例タイムズ927号23頁.  12)最判昭和39年6月24日民集18巻5号874頁. そして「被害者にとって控え目な算定方法」が採 られるべきことも判示した.本件評釈としては, 西原道雄「判批」判例評論75号33頁(1964),有 驚喜「判批」民商法雑誌52巻2号232頁(1965), 岸田昌洋「判批」法学29巻4号133頁(1965),西. 72頁(1994).. 井龍生「判批」『交通事故判例百選』〔第2版〕100 頁(1975)などがある.なお,子の養育費は控除 しなくてよいというのが判例の立場である.最判 昭和53年10月20日画集32巻7号1500頁.  13)岡本友子「逸失利益の賠償と男女格差(1)」.  9)淡路剛久「幼児等の生命損害の算定」法学教. 六甲台論集37巻3号110頁,112頁(1990)など参. 室6号58頁,61頁(1981).. 照..  10)最大判平成5年3月24日民集47巻4号3039頁..  14)松浦山津:子「私も家事シテル」書斎の窓450 号16頁,19頁(1995)は,「民法学者は,多くの場. (1997)が詳しい..  7)内田貴『民法H』384−388頁(1997)..  8)二木雄策「逸失利益は正しく計算されている か一経済学的視点からの検討」ジュリスト1039号.  11)二三昭和37年5月4日二二16巻5号1044頁な ど.本件評釈としては,植林弘「判批」民商法雑 誌48巻1号96頁(1963)などがある.主婦につい て,大阪地判昭和42年4月19日判時484号34頁な ど参照.. 合,サラリーマンとして働いて給与という形で収 入を得ている人をモデルにしているようである. その人には,妻があって子どもが2心いることが多 い」と指摘している..

(3) ては一定額を与えるべきなのかもしれない.そ. の特例にとどまらず,他への波及ということも. こで,生命・身体の侵害による損害は死傷自体. 考えられる」22)とする見解もあったが,その結. であり,それを財産的・精神的両損害を統合し. 果,その額は低く抑えられ,収入を期待する遺. た損害と見倣して,適切な賠償額を創出すべき. 族の利益が失われる危険もあろう23).果たして. という考え方15)もある.判例のように,死亡し. た幼児が生涯に稼ぐであろう収入を親が相続す. 死亡時の様々な態様にも拘わらず統一は可能 か,という疑問もある.このため,その理念は. るというのは不合理である’6>,蓋然性が低すぎ. 理解できるとしても,これを実際に運用するに. る幼女死亡例では「得べかりし利益」を認める. は問題も多く,やはり余命全体にわたる収入と. べきでない’7),との批判もある.加えて,少な. 支出とを総合的に判断するという考え方が定着. くとも無収入の年少者の死亡時に限って,ζの. していったのであろうと思われた24).判例・世. ような逸失利益の算出による方法を否定し,幼. 説は現在でもなお,逸失利益の算定を個別に行. 児死亡の損害は両親等の精神的苦痛であるの. い,この手法は定着している.そしてその上で,. で,慰謝料に統一すべきであるという考え方18). 現行方法の不合理をいかに是正するかが課題と. も出された.. なったのである25)..  しかしこれらの考え方には,現実に働いて収.  その中でも特に,幼児死亡時の逸失利益の算. 入を得ている人についてその労働を評価しない. 定に当たって,男女で額が異なってくるという. ため,実損額との問に大きな差ができる19)ほか,. 問題が生じていた.女児の逸失利益算定に当た. 統一すべきだと言ってもその基準がないなどの. り,その前提となる専業主婦の逸失利益につい. 問題が指摘された20).また,幼児のみにこの考. て判例は,大審院の一判決26)を例外として長く. えを適用すれば,有職女性との均衡が崩れる21). それはないとしてきた27)が,’『1974年に至って. など,成人の場合との接合がうまくいくのかと. 最高裁は,7歳女児の死亡例で,結婚後の家事. いう疑問も出された.逆に,「幼児の場合だけ. 労働についても女子労働者の平均的賃金を財産.  15)西原道雄「生命侵害・傷害における損害賠 償額」私法27号107頁(1965),同「人身事故にお.  22)山田卓生「幼児の死亡損害の男女格差」法. ける損害賠償額の法理」ジュリスト339号25頁. 律時報59巻8号30頁,35頁(1987).. (1966)など..  23)君塚正臣「判批」平成13年度重要判例解説.  16)加藤一郎「子の死亡による損害賠償」法学 教室22号72頁,75頁(1982),大内義三「判批」.  24)西原道雄「幼児の死亡・傷害と損害賠償」. 金融・商事判例1138号62頁,66頁(2002).  17)難波譲治「判批」法学論叢126巻2号112頁,.  25)鍛冶千鶴子「男女間格差の問題」交通法研. 10頁,11頁(2002).. 判例評論75号33頁,36頁(1964).. l15頁(1989).. 究10=11号109頁,111頁(1982)..  18)松浦以津子「判批」判例評論296号35頁,.  26)大判昭和7年12月23日新聞3517号14頁.事 案は洋服商の27歳の妻の列車死亡事故であり,判 決は通常女子の労働賃銀に相当する収益見込みを. 37頁(1983),淡路剛久『不法行為法における権利 保障と損害の評価』127頁(1984),加藤前掲註16) 77頁など.浅野直人「緊緊」判例評論344号54頁, 57頁(1987),大内前掲註16)評釈,難波前掲註17) 評釈118頁も基本的にこれを支持する.  19)民法判例研究会(中川淳ほか)「妻の逸失利 益」判例タイムズ316号40頁,44頁(1975)[井上 靖雄]..  20)内田前掲註7)書391−392頁.  21)民法判例研究会前掲註19)研究44頁[井上].. 認定した..  27)大阪地判昭和42年4月19日下民集18巻3=4 号202頁,大阪二丁昭和42年12月22日二時518号 67頁,東京贋判昭和44年7月16日判時561号26頁, 東京高判昭和45年4月28日判時603号55頁など. 伊藤とみこ「家事労働の経済的評価に関する一考 察」九大法学38号211頁,215頁別表(1979)など 参照..

(4) 上の収益とする判断を行った28).また最高裁は. うな批判はあっても,取り敢えず主婦の家事労. 1979年には,女子労働者の初任給を基礎にそ. 働はここに,金銭的に算出され評価されること. れを算定する方法も許容した29).. になったと言うことはできよう..  これには様々な問題点も指摘できる.もし当.  しかしそれでもなお,現実の男女の賃金格差. 該女性が高収入を得ていたときには安易に「家. が長く存在してきたため,男女で逸失利益の格. 庭に入る」選択をしないであろうことを思えば,. 差が生じてきた35).ある試算によれば,1988年. 主婦の逸失利益を女子労働者の平均賃金と算定 することはフィクションだと言えなくもない30).. 時点で,18歳の逸失利益の男女差は,ライプ ニッツ式で約1829万円,ホフマン式でも約369. 主婦は「伝統的」なものではなく,主として高. 万円であった36).2000年に至っても,ライプニ. ’度成長期の時代の子に過ぎず31),それは前提に. ッツ式で生活費控除率を50%としたときには,. できないとの疑念もある.また,主婦の家事労. 7歳男児の逸失利益は約2978万円であるが,女. 働は評価するが,有職既婚女性の家事労働は評. 児のそれは約1858万円と,なお約1120万円の. 価しない32),男性の「主夫」より評価は下がる. 差が残っている37).しかも不法行為地によって. 33)という矛盾を抱えている.そこで,それは,. 同じ事案でも賠償額が異なる結果にもなってお. 夫が妻の家事専従により将来蓄積できるであろ. り,このような事態の放置は上告審の判例統一. う財産に対する妻の協力相当持分を考慮して算. の任務放棄であるという非難もある38).. 定すべきだという見解もある34).しかしこのよ.  実際に主婦という選択をした場合はまだし も39),将来主婦となるか生涯働き続けるかが不. 明な幼児について,Oのような格差が生じるこ との理不尽さに対しては以前から批判が強かっ  28)最判昭和49年7月19日民集28巻5号872頁. 本件評釈としては,大和勇美「判批」ジュリスト 577号100頁(1974),西原道雄「判批」『民法の判 例』−〔第3版〕205頁(1974),同「判批」判例評論 197号27頁(1975),人見庸子「判批」『交通事故判 例百選』〔第2版〕104頁(1975),.中川良延「判批」. 昭和49年度重要判例解説80頁(1975),谷口知平 「判批」民商法雑誌76巻6号81頁(1975),野村豊 弘「判批」法学協会雑誌94巻2号271頁(1977), 大和勇美「判批」法曹時報29巻3号135頁(1977) などがある.また,篠原弘志「幼女の逸失利益」 ジュリスト570号133頁(1974),民法判例研究会 前掲註19)研究も本判決を契機に公表されたもの である..  29)幅広昭和54年6月26日記時933号59頁.本 件評釈としては,潮海一雄「判批」昭和54年度民 事主要判例解説124頁(1980),大嶋芳樹「判批」 『交通事故民事裁判参集12巻』272頁(1980),楠本 安雄「判批」判例タイムズ446号36頁(1981),米. 津稜威雄「判批」『新交通事故判例百選』92頁 (1987)などがある..  30)篠原前掲註28)論文134頁..  35)このような姿勢は下級審でも多く見られた.. 名古屋高下昭和56年10月14日交民集14巻5号1023 頁,大阪地貸昭和59年2月28日交民集17巻1号261 ’頁など..  36)岡本前掲註13)論文124頁第3表.逆にホフ マン式は年少者の逸失利益を不当に低く抑え,差 別的だとする批判もある.楠本前掲註29)評釈38 頁..  31)大沢真理『男女共同参画社会をつくる』59 頁以下(2002)など参照.対照的な,林道義『家.  37)大島眞一「逸失利益の算定における中間利 息の控除割合と年少女子の基礎収入」判例タイム. 族の復権』(2002)も参照.  32)福島瑞穂『裁判の女性学』173頁(1997).  33)同上175頁..  38)楠本前掲註29)評釈38頁など.  39)この点につき判例の現状を肯定的に捉える.  34)谷口前掲註28)評釈93頁.. ズ1088号60頁,65−66頁(2002).. のが塩崎前掲註6)論文29−30頁である..

(5) ■3. た40)が,最高裁はその是正は行わなかった4D.. ために,中卒から算定した例もあった45).しか. 数多くの交通事故事件を機械的に処理する中 で,ある程度の定式化を行い,人聞を利益を産 み出す機械のようにドライに処理してきた判例. し最高裁は1987年,14歳女子中学生の死亡例 で,このように将来の利益を二重に評価する手 法を否定した46).また,中卒から稼働するとす. が,男女の役割分担についてはロマンティック. るのは,高校進学率が90%を超える現在では,. でウエットな理解に拘泥している感も否めな い.1974年最高裁判決を境に,女児の逸失利 益の問題は,男児との差をいかになくすかとい. いかにも作為的であると思われた47)..  根本的な問題は,現実の男女賃金格差がある. う量的問題に転化していったのである42>.. はやむを得ないとする考え方にあると言える..  そのような中で,下級審判決の中には,8歳. これは,現状中立的・現状介入非中立的な態度. の女児の死亡例で,女子労働者の平均収入を基. と評せよう48).しかしその結果,現に稼働して. 準として算定された女児の逸失利益に更に家事. いる者ならば兎も角,未就労年少者がその意思. 労働分を加算し,男女格差解消を少しでも図ろ. を示す前に差別されるという不合理を生む49)。. うとするものもあり43),これに賛成する学説も. しかも,若年労働者の多い大卒女子は,現在で. ある44).加えて,稼働期間を少しでも長くする. は高齢者に偏りがちな中卒男子よりも平均賃金. 以上,逸失利益の算定をそれを根拠に行うこと. が低いという数字のマジックの犠牲となってい る50).大卒で初任給を算定基準とされることも また非常に不利なことでもある.  40)千種秀夫「判批」『交通事故判例百選』〔第2 版〕102頁,103頁(1975),能見善久「判批」法学.  そこで,大学進学の蓋然性が立証されれば大 卒賃金を基準に算定するという下級審判決もあ. 教室78号83頁(1987),飯塚和之「荊棘」昭和62 年度重要判例解説88頁,89頁(1988),岡本智子 「判批」『交通事故判例百選』〔第4版〕112頁,114 頁(1999),小賀野晶一「判批」法律のひろば55巻 8号71頁,76−77頁(2002),山田前掲註22)論文 35頁,西原前掲註28)評釈など.  41)最判昭和61年11月4日判時1216号74頁など. なお本件で,伊藤正己補足意見は,結論に賛成は しつつも,苦しい胸の内を吐露し,改善が「将来 の課題」であることに言及した.本件評釈として は,吉村良一「判批」判例評論342号35頁(1987), 篠原勝美「判批」ジュリスト879号80頁(1987), 羽成守「馬鐸」判例タイムズ653号62頁(1988), 能美前掲註40)評釈,岡本前掲註40)評釈などが ある..  42)三島(植木)とみ子「昭和50年代の女性の 逸失利益に関する判例の動向」長崎大学教育学部 社会科学論集34号47頁,50頁(1985)..  43)東京高判昭和55年ll月25日判時990号191 頁.本件評釈としては,大嶋芳樹「判批」『新交通 事故百選』94頁(1987)などがある.また,同様 の手法を用いた判決に,東京自判昭和50年3月27 日判時781号72頁,東京高判昭和53年4月27日判 時905号102頁などがある.  44)本田純一「判批」『新交通事故百選』96頁, 97頁(1987),藤田寿夫「幼児・主婦の『逸失利益』 と家事労働」神戸学院法学22巻2号1頁,12−13頁 (1992)..  45)東京地判昭和49年2月19日判時746号63頁. 本件評釈としては,千種前掲註40)評釈などがあ る..  46)最判昭和62年1月19日頃集41巻1号1頁.本 件評釈としては,中田昭孝「判批」ジュリスト883 号81頁(1987),同「判批」法曹時報39巻7号163 頁(1987),山口純夫「判批」季刊民事法研究20号 108頁(1987),松浦以津子「判批」判例セレクト 「87 20頁(1988),倉田卓次「判批」『民法判例百 選H』〔第3版〕188頁(1989),鈴木素心「判批」 法学協会雑誌111巻4号158頁(1994),難波前掲註 17)評釈,浅野前掲註18)評釈,飯塚前掲註40) 評釈,岡本前掲註40)評釈などがある.  47)岡本前掲註40)評釈114頁,倉田前掲註46) 評釈189頁..  48)野崎綾子「日本型『司法積極主義』と現状 中立性」井上達夫ほか編『法の臨界1』75頁,82 頁(1999)..  49)渡邉和義「未就労年少者の逸失利益の算定 における男女間格差」判例タイムズ1024号24頁, 25頁(2000),山田前掲註22)論文33頁など.  50)二木前掲註8)論文73−74頁.大島前掲註37) 論文68頁及び70頁表4,図5,図6も参照..

(6) ■4. つた5ユ).それは,先例に従い男女別の平均賃金.  ほかに,女児の生活費の控除割合を男児より. を前提としながらも,女児の逸失利益をせめて. も低く見積もる方法6’)も採られたことがある.. も高く見積もるというささやかな工夫であっ た.しかし,最高裁は,1987年判決において,. これは,他に波及することの少ないという意味 で,判例の枠内でのぎりぎりの努力ではあろう.. そのような考慮さえしなかった.成績もよく家. しかしこの考え方にも,女児は将来主婦になる. 庭環境からみても大学進学は確実であるとして. と決めてかかっている62),男女の大きな賃金格. 女子大卒賃金で逸失利益を算定した一審52)では. 差の改善には微’々たる効果しかない63)など,同. なく,女子労働者の平均賃金により算出した二. 様の問題点が残されていた.. 審3)の立場を支持したのである.確かに格差是.  結局,以上のような問題を一掃するには,男. 正のために,男児には用いずに女児について積. 女を問わず逸失利益を算定するのが最もよい方. 極的にこの手法を用いれば,理由薄弱という感. 法だということになろう.一部の下級審は,女. があるのも事実である54).. 児の死亡例で全労働者の平均賃金で逸失利益を.  このほか,学説の中には慰謝料額によってこ. 算定する試みを行った64)が,最高裁は前記. の格差を調整しようとするものもある55).最高. 1986年判決でこの手法を否定したことなどに. 裁も1981年判決56)でこのような手法を認容し. より,この方向は長い間定着しなかった.. たのであるが,慰謝料額による調整は補完機能.  確かに,逸失利益を算定する際には蓋然性を. に過ぎず57),何故女子の方が慰謝料が高くなる. 前提にするべきであり,それ以外の現実を受け. のかの根拠がやはり薄弱58)で,理論化は困難59). 入れながら,男女の賃金格差という実態のみを. であった.実際,慰謝料額は被害者類型ごとに. 捨象することには疑間もなくはない65).現実に. 定額化されているので,弾力的運用に期待でき. ある賃金格差は使用者によって是正されるのが. ないという指摘60)もあった.. 筋であり,加害者が負担すべきものではないと いう批判66)もある.また,この結果,男児につ. いても全労働者の平均により逸失利益を計算す.  51)仙台地判平成5年3月25日交民集26巻2号 406頁,岡山地判平成6年10月31日交民集27巻5号. べきことになり,現在より減額される懸念も併 せて示された67).. 1532頁など..  しかし近年,最高裁判例以後の事情の変化や.  52)長野割木平時判昭和57年3月26日民集41巻. 平等理念から,男女を併せた平均賃金を算定基. 1号11頁..  53)東京高高昭和57年12月20日民集41巻1号14 頁..  54)山田前掲註22)論文34貢..  55)ほかに宮崎富哉「女児の逸失利益」判例タ イムズ212号110頁,118頁(1967)など.  56)最判昭和56年10月8日判時1023号47頁.本 件は前掲43)事件の上告審である.本件評釈とし ては,吉村良一「判批」民商法雑誌86巻3号121頁 (1982),浦川道太郎「心心」昭和57年度民事主要 判例解説116頁(1983),大嶋芳樹「判批」『交通事 故民事裁判例集15巻』286頁(1984),本田前掲註 44)評釈などがある..  57)渡邉和義「未就労年少者の逸失利益の算定 における男女間格差」交通法研究29号99頁,102.  61)神戸地判昭和56年5月30日交田干16巻3号 767頁,鹿児島地下昭和56年6月30日交民集14巻3 号754頁,前掲52)判決など.  62)岡本友子「逸失利益の賠償と男女格差(2・ 完)」六甲台論集37巻4号79頁,81頁(1991).  63)岡本前掲註40)評釈114頁..  64)前掲43)事件前審である東京地判昭和53年 10月23日判タ428号125頁など.  65)大島前掲註37)論文68頁,本田前掲註44). 頁(2001).. 評釈97頁参照..  58)山田前掲註22)論文33頁.  59)野崎前掲註48)論文97頁.  60)岡本前掲註40)評釈l15頁..  66)水野謙「判批」私法判例リマークス25号66 頁,68頁(2002)..  67)渡邉前掲註49)文献30頁..

(7) ■∫. 準とする判決も現われてきた68).2000年のある.  また,加Ol年の東京高裁判決72)も,以下の. 地裁判決は,14歳女子中学生の死亡事例にお いて,満18歳から67歳までを就労可能年齢と. 理由により,同様の立場を明らかにした.「本. した上で,全労働者の平均賃金を基礎とする算. あっても,性別に由来する差は存在しないこと. 定を行った69).判決は,「就労前の女子の逸失. はいうまでもない.」「しかも,就労可能年齢に. 利益について,女子の平均賃金を基礎に算定す. いまだ達しない年少者の場合,現に就労可能年. ることは,法の下の平等に反する不合理な差別. 齢に達している者とは異なり,多様な就労可能. を容認すること」であるとし,また「今日,雇. 性を有しているのであり,また,法制度や社会. 用機会均等法,男女協同参画社会基本法の各施. 環境,更には社会の意識野,女子の就労環:境を. 行や労働基準法の女性保護規定の撤廃などによ. めぐる近時の動向等も勘案すると,年少者の将. り,女性にとっても,男性と同じ仕事,男性と. 来の就労可能性の幅に男女差はもはや存在しな. 同じだけ就労できる選択肢が与えられるように. いに等しい状況にあると考えられる.」「近い将. なっていることは周知の事実であることからす. 来において,」「平均賃金の男女間格差が解消す. れば,将来の収入の蓋然性として,少なくとも は,特段の事情のない限り,男子を含む全労働. るという見込みがあるとは言い難いのである が,このことと,年少者の一人一人について就 労可能性が男女を問わず等しく与えられている. 者の全年齢平均賃金を用いることが女子労働者. ということとは別個の問題であって,現に職に. の全年齢平均賃金を用いるより合理性を有する. 就いている者の賃金の平均値に男女差があるこ. ものと考えられる」と判示したのであった.こ. とが個々の年少者の将来得べかりし収入の認定. の判断は高裁でも踏襲され70),更に最高裁も. や蓋然性の判断に必然的に結び付くものではな. 2002年に加害者側の上告を棄却し,女性年少 者の逸失利益について全労働者の平均賃金を基. い.」本件の上告審もこの判断を是認したので. 礎として算定することが確定したのであった7’)..  しかし,現在でも女子労働者の平均賃金に基. 中学生までの女子の逸失利益の算定にあたって. 来有する労働能力については,個人による差は. あった73).. づく算定を行う判決もある.福岡地裁は,「不 確定な要因が多い場合の逸失利益の算定におい て,賃金センサスにおける女子労働者の平均賃 金を基準として,被害者が将来の稼働によって 得たであろう収入額を算定することは,判例上,.  68)以下の判決のほか,札幌高望平成14年5月2 日判例集未登載などがある.本件評釈としては, 植木淳「三月」六甲台論集法学・政治学篇49巻2 号225頁(2002)などがある..  69)奈良地葛城爪判平成12年7月4日判時1739号 117頁..  72)東京高野平成13年8月20日判時1757号38頁. 本件評釈としては,橋本陽子「判批」判例セレク ト1016頁(2002),塩崎勤「判批」法律のひろば 54巻12号50頁,56頁(2001),前田陽一「判批」 判例タイムズ1084号69頁,堀内敬一「判批」安田 火災ほうむ48号lll頁(2002),大内前掲註16)評 釈,君塚前掲註23)評釈,水野前掲註66)評釈, 岡本前掲註70)評釈などがある.このほか「司法. 記者の目」ジュリスト1208号243頁(2001)も参 照.一審は東京地判平成13年3月8日判時1739号.  70)大阪高判平成13年9月26日零時1768号95頁. 本件評釈としては,岡本智子「判批」判例評論520 号24頁(2002)などがある.. 21頁..  71)二二平成14年5月31日判例三三登載.本件.  73)三二平成14年7月9日インシュアランス損保. 評釈としては,小賀野前掲註40)評釈などがある.. 版4022号8頁..

(8) ■5. 不合理とはいえないとされている74)」と述べて,. は原審の裁量に委ねるという立場でもある80)た. 男女別の算定を合理化した.この事件では福岡. め,このままではますます算定額は’ ェ散してし. 高裁も控訴を棄却した75).また,東京高裁の別. まう到れが続いているのである.. の法廷も,「女子労働者の平均賃金を基礎収入.  女児の逸失利益の問題は,「あえて憲法14条. とすることは,蓋然性の高い数額の算出方法と. を持ち出すまでもなく,このような不平等をケ. して,合理的である場合が多いと考えられ」,. ース・バイ・ケースに是正することこそ,上告. その額に性差が生じることは「避けることので. 審の本来の使命である81)」という表現に端的に. きない事態なのであって,男女差別であり,不. 見られるように,これまで,専ら民法解釈の問. 当であるということはできない」などとして,. 題であったように感じられる.これらの事件も. 従来の判例に従った76).そして最高裁は,これ. 常に民法判例として紹介され,民事法学者と実. らの判断もまた許容したのである77).. 務家によって検討されてきたのであった..  女子の平均賃金は2000年でも男子の66%と. H.不法行為と憲法学. いう低水準にあり,一方では法整備などにより. 況となると格差が拡大する傾向もある.そう考.  これに対して憲法学は,事実行為における 「人権」侵害の問題を,自らの問題として殆ど. えると確かに,このような格差是正が直線的に. 認識してこなかった82>.憲法の観点から論じら. なされると予想することは困難であった78).個. れることはこれまで皆無と言ってよかった.だ. 人の就労可能性は解消されつつあるとしても,. が,不法行為の事案についてのこの学説状況は,. 逸失利益が蓋然性により客観的統計に照らして. 本当にそれでよいのであろうか.. 合理的に算出されねばならない以上,あくまで. 格差縮小の要因も見えなくはないが,他方,不. も裁判所は現実を受け入れねばならない,と言.  憲法学はこれまで,民法90条の公序良俗条 項等について,直接効力か間接効力かなどとい. うこともできたのである79>.. う論争を繰り広げてきた.しかし憲法学の主た.  結果,女児の逸失利益の算定にあたり,女子. る問題関心は,「社会的権力」による「人権」. 労働者の賃金を根拠とすべきか,全労働者の賃. 躁躍的な契約などにあった.そこで従来,この. 金を根拠とすべきかなどの判断は下級審に委ね られ,各地で異なる判決が出ることも予想され. 議論は民法709条などに広げることはできない. ることとなったのである.最高裁は逸失利益の. 算定について,ライプニッツ式かホフマン式か.  74)福岡地力平成12年3月29日判時1756号104 頁..  75)福岡高判平成13年3月7日判時1760号103頁. 本件評釈としては,君塚前掲註23)評釈などがあ る..  76)東京高直平成13年10月16日判時1772号57 頁.本件評釈としては,前田前掲註72)評釈など がある.一審は千葉地佐倉支判平成13年5月17日.  80)最判昭和53年10月20日民集32巻7号1500頁 など.. 金判1127号15頁.  77)前掲73)決定.  78)植木前掲註68)評釈229頁..  81)楠本前掲註29)評釈38頁..  79)同上231−232頁.. 序」に反するかが論じられている..  82)例えば,宮沢俊義『憲法H』〔新版〕250頁 (1971)では無意識に「契約」の場面での「公の秩.

(9) ■7. とされ83),議論も殆どしてこなかった84).判例. 持ち出さずとも当然のこととなる87).そこで確. も,不法行為の事案では,私人間効力論の枠組. かに,私人間効力の理論を事実行為に及ぼさな. みを用いてこなかったと言える85).私人間効力. くても司法的救済は可能であった88).ましてや,. の問題は,専ら民法90条と憲法の問題である. 救済が原則として私法規定によらざるを得ない. かのように論じられてきたのであった86).. のだとすれば,なおさらである89).民法709条.  不法行為の問題も憲法上の「権利」侵害の問. では「無効」という結論が引き出せず,そのた. 題ではないのか,という声もなかったわけでは. め,90条違反と言える事例だけが,有力化し. ない.だが,民法709条では「権利」を侵害し た者は損害賠償責任を負うのであり,その「権. た間接効力説の題材となったのであるgo).  しかしその不法行為の賠償額が不当に低い91),. 利」には同710条で「他人ノ身体,自由又ハ名. 不公平である,救済方法が適切でない,などの. 誉」が含まれることが明らかである.そこに不 法行為責任が発生するというのは,別段憲法を. 点で問題があるとき,果たして憲法と無関係に 解決が図られるがままにすることが妥当か,と いう疑問は拭えない.名誉殿損事例において,. 事前差止が容易に認められることは,憲法21 条との関係で問題ではないのだろうか.賠償額 が低すぎるときは,憲法13条(「個人として尊重さ. れる」)との関係で問題はないのだろうか.そし. て,逸失利益の算定に関しても,それは事実認 定の問題であり,憲法の理念で左右されるもの ではないという見解92>もあるものの,算定にあ. たり考慮できるものとできないものがある点に つき,民法や民事訴訟法などの上位法である憲 法の要請はあると言うべきではなかろうか.不  83)奥平康弘「私人間における思想・信条の自 由」法学セミナー増刊『思想・信仰と現代』106頁, 119頁(1977),種谷春洋「私人間の法律関係と憲 法」Law School 16号47頁,52頁(1980)など.. 法行為の場合には憲法が持ち出されないという 結論は,片手落ちの感が強い..  84)代表的判例集,芦部信喜ほか編『憲法判例 百選1』〔第4版〕(2000)も,後述の三菱樹脂事件,. 日産自動車事件に加え,昭和女子大事件(最判昭 和49年7月19日民集28巻5号790頁)を「総論」の 項目中で取り上げる一方,後述の「宴のあと」事 件,「エロス+虐殺」事件のほか,謝罪広告事件 (最大判昭和38年7月4日二二10巻7号785頁),北 方ジャーナル事件(最大判昭和61年6月11日民集 40巻4号872頁)などは「精神的自由」の項目中で.  87)民法解釈としても,乳児の「得べかりし収 入」が男女で異なるのは「是認できるであろうか」. 西原前掲註24)論文38頁..  88)藤井二三『「権利」の発想転i換』265頁 (1998)..  89)浦部法穂『全訂憲法学教室』70頁(2000). 取り上げている.. 同旨か..  85)小山剛「私人間における権利の保障」『憲法 の争点』〔第3版〕54頁,56頁(1999)は,ノンフ.  90)佐藤幸治編『憲法H』69頁(1988)[中山勲].. ィクション「逆転」事件(談判平成6年2月8日粗 漏48巻2号149頁)を例にそう述べる.  86)例えば,覚道豊治『憲法』〔改訂版〕218頁 (1973),大須賀明ほか『憲法講義2』38頁(1979) [大須賀],橋本公亘『日本国憲法』160頁(1980),. 伊藤公一『憲法概要』〔改訂版〕50頁(1983),佐 藤功『日本国憲法概説』〔二三第5版〕157頁(1996) など参照..  91)このような問題は,不法行為に関する特約 によっても生じ得る.山本敬三『公序良俗論の再 構i成』133頁(2000),君塚前掲註1)珊論文386− 387頁ほか参照.法律行為における経済的自由と生 命権の衝突につき,損害賠償額の上限が不当に低 く定められていた約款が無効とされた例がある. 大阪地鳴昭和42年6月22日下民集18巻5=6号641 頁..  92)渡邉前掲註57)文献102−103頁..

(10) ■8.  そこで次第に,「人権」侵害的な私人による. メリカの議論がある程度「参考にな」るとして. 事実行為の場合にも,憲法はどのように対応す. いた98).樋口陽一説も,「間接効力説の枠組を. べきかの議論をすべきことは認識されるように. とったにしても,」「事実行為による権利侵害が. なっていった.通説である芦部信喜説は,この. 問題となっているときには,」「アメリカ流の. 点について対応を早くから試みたものである93).. state ac廿onの法理の適用の可能性が検討される. 芦部説は,一般的には憲法の私人間効力につい. べきである」としていた99).. ては三二効力説を採用し私法の一般条項を用い.  これら通説的見解に対しては,まず,この理. て解決を図るのであるが,憲法条文によっては. 論を導入しなくとも,間接効力説的な手法で解. 無効力もしくは直接効力であるものもあるとし. 決は可能だとする批判がある100>.下位法令であ. た.更に,法律行為ばかりでなく,「私人また. る民法条文の「公序」という字句に振り回され. は私的団体の純然たる事実行為に基づく人権侵. ているという批判もあった’01).直接効力説と分. 害を憲法によって直接規律する道筋をできる限. 類できそうな奥平康弘説も,「最高裁および通. り広く認める解釈論を試み94)」たのである.. 説」が「法律が出てきて具体的な調整をつけな.  芦部説は,事実行為の場面では,「アメリカ. い」といけないと構成しているのは「単なる神. 憲法判例で確立した国家同視説と呼ぶことので. 話で」あると批判するに際して,ごく自然に,. きる解釈理論が,参照に値する」とした95).こ. 民法709条の抽象性を根拠とした’02).このよう. の国家同視説,ステイト・アクション理論とは,. に,事実行為を法律行為と同様に扱う憲法理論. アメリカで,「具体的な私的行為による人権侵. 構成は可能であった.そうなると,本当に事実. 害を,」「国家権力(州または連邦)が,」「『きわ. 行為の場合に別の理論を用いねばならなかった. めて重要な程度にまでかかわり合いになった』. のかは,再検討すべきだったのである.. 場合」,と「当該私的行為の主体が高度に公的な.  例えば,プライバシーを暴く表現という,民. (純粋に,または排他的に統治的な)機能を行使. 法上の不法行為は,一方の基本権にどれだけ保. する団体である場合に,国家権力による侵害と. 護を与えるべきか,それによって過度に他方の 基本権・自由を逆に侵害することにならない. 同視して,憲法をそれに適用する理論」96)であ る.そして芦部説は,前者を「国家財産の理論」, 「国家援助の理論」,「特権付与の理論」,「司法. 的執行の理論」に類型化し,この場面での活用 を図ったのである97)..  このような立場は有力な学説により支持され てきた.伊藤正己説も,「間接効力説は一般的 に正当」としながら,「法的には私人の行為も 国の行為に準ずる場合があ」るとした上で,ア.  93)青柳幸一『人権・社会・国家』13頁(2002), 君塚前掲註1)V論文(2・完)56−68頁など参照..  94)芦部信喜『宗教・人権・憲法学』228頁 (1999)..  95)芦部前掲註4)書314頁.  96)同上同頁..  98)伊藤正己『憲法』〔第3版〕32頁(1995).  99)樋口陽一『憲法』〔改訂版〕190頁(1998).  100)長谷部恭男『憲法』〔第2版〕143頁(2001)..  97)同上315頁.なお,君塚前掲註1)孤論文3− 10頁は,以上を「司法的執行理論」と「州の介在.  101)小山剛『基本権保護の法理』257頁(1998). の理論」とし,「公的機能の理論」と並べている..  102)奥平康弘『憲法皿』81−82頁(1993).. 同旨..

(11) 一τ夕. か,という憲法問題を引き起こす103).名誉殿損. 多数となった今日,この概念の使用による権利. や不当な解雇の例を考えても同様である104).基. 拡大機能は失われ,また,公序良俗の類型化が. 本権の侵害という現象は,このことを視野に入. 困難であるため違法性判断基準としてもこの概. れれば決して,法律行為の事例と比べて特殊な. 念は妥当でなく,公序良俗概念を不法行為事件. ものではなく,普通に生じるものである105).契. で媒介させる必要性は疑問であるという指摘が. 約的侵害場面とパラレルに考えることができ. ある108).これは,憲法の私人間効力を考えるに. る.そして,「裁判所もまた国家機関である以. 当たっても,「公序」という概念に拘る必要が. 上,その活動に対しては憲法による制約が及ぶ106)」. あるか,という問題に一石を投じる.民法709. のであって,不法行為法の解釈に当ってもそれ. 条以下と憲法の関係を直接考える方が,理論的. は同じ筈である.. には明快ではないかとの思いを起こさせる..  確かに不法行為事案において,公序良俗概念.  第三者効力論のリーディング・ケースとされ. を用いて違法性を判断している判決も多かっ. る三菱樹脂事件109)でも最高裁は,「場合によっ. た107>.これには,公序良俗という概念を媒介. ては,私的自治に対する一般的制限規定である. させる方が新たな類型の行為を違法と認められ. 民法1条,90条や不法行為に関する諸規定の適. 易いという面があったのであろう.しかし,故. 切な運用によって,一面では私的自治の原則を. 意・過失により不法行為責任を肯定する判例が. 尊重しながら,他面で社会的許容性の限度を超 える侵害に対し基本的な自由や平等を保護し,. その間の適切な調整を図る方途も存するのであ  103)山本前掲註91)書66頁.中村睦男「人権と. 私人相互関係」法律時報41巻5号108頁,113頁 (1969),戸松秀典『憲法訴訟』205−206頁(2000),. 中島徹「人権規定の私人間効力」法学セミナー570 号26頁,28頁(2002)同旨.また,棟居非行『人 権論の新構成』98頁(1992)は,「エロス+虐殺」. 事件(東京高田昭和45年4月13日高民集23巻2号 172頁)を「権利」対「権利」の場面の例として取 り上げており,不法行為か法律行為かという区別 を重視していない.佐藤幸治『憲法』〔第3版〕440 頁注1(1995)も参照.これに対し,戸波江二『憲 法』〔新版〕163頁(1998)は,「人格的権利は,原 理的に私人による侵害に対してもその除去を求め ることが前提とされており,私人間効力論自体が そもそも問題とならないとみることもできないわ けではない」とする.なおプ君塚正臣「表現によ る不法行為と憲法の第三者効力論(1,2・完)」横 浜国際経済法学12巻1号以降掲載予定(2003)も. る」と述べている.判旨の射程が必ずしも民法. 90条,法律行為に限定されないことが示唆さ れている.これは,不法行為事案である「宴の あと」事件’10)などを,私人問効力の問題とは. 無縁とする理解にも反省を促そう鱒..  そして,法律行為か事実行為かによって私人 間効力についての理論を使い分ける点では,芦 部通説は,実は支持を失ってきている.一般に・. 民法90条などが用いられることを基調としな がらも,「場合によっては」709条が用いられ るという説明”2)はまだ通説に近い色彩が見ら.  108)同上305頁.山本前掲註91)書33−34頁同旨.. 参照..  109)最大判昭和48年12月12日民集27巻11号.  104)松井茂畑『日本国憲法』〔第2版〕325頁 (2002)同旨か.. 1536頁.この判決については,特に棟居淫行『憲 法学再論』248頁(2001),君塚前掲註1)冊論文.  105)山本前掲註91)書194頁.  106)同上35頁.  107)織田博子「公序良俗と不法行為」椿寿夫=.  110)東京都判昭和39年9月28日判時385号12頁. 松井茂記『マス・メディア法入門』〔第2版〕120頁. 伊藤三編『公序良俗違反の研究』293頁,294頁以 下(1995)参照.同論文はこれを,本来権利行使 として認められた行為の違法性が問題となるもの,. 原則的に契約自由の範囲に入る行為の違法性が問 題となるもの,本来的に許されない行為の違法性 が問題となるもの,その他の判例,に分類する.. 394頁以下参照.. 以下(1998)など参照..  111)特に,下宿正典『憲法2』〔第2版〕111−112. 頁(2001)参照.更に,同「社会的権力と内心の 自由」ジュリスト1222号52頁,55頁以下(2002) も参照..  112)榎:原猛『憲法』l18頁(1986)..

(12) れる.しかし,聞接効力説において「最もよく. 力」による「権利」侵害の場面と考えてきてい. 使われる条文が,民法中の一般規定である90. たが,「社会的権力」の定義はそもそも不鮮明. 条と709条であるu3)」,「事実行為により人権の. であったユ’9).そのため,当事者双方が市井の市. 侵害が行われた場合には,」709条「を用いて,. 民である,本事案のようなケースは,結果,救. この中に人権保障の趣旨を読み込み救済を与え. 済が無効力説同然となるという難点があった.. るのである」”4>という記述には,709条に90条. この点の転換も求められるべきであったろう.. のケースと別の理論を用いることの否定宣言す.  ところが,既に考察してきた120)ように,最. ら読み取れる.最近では,通説のように事実行. 近の学説は一枚岩ではない.法律行為に関して. 為に法律行為と異なる憲法理論を当てはめるの. 多くの学説が入り乱れているということは,事. ではなく,一貫した理論を適用すべきだとする. 実行為に関しても同様ということになる.. 考えが強まっており115),それに同調する説も多.  一貫してステイト・アクション理論を用いよ. い116).少なくとも,法律行為に関して適用する. うとする松井茂記説は,アメリカで「憲法の権. 理論と事実行為でのそれが異なることを明言す. 利章,典は,あくまで政府及び州の行為にしか適. るものは皆無と言ってよくなっているのであ. 用されないと考えられて」おり,「憲法が適用. る.. されるのは,『政府』の行為に限られると考え.  下位法である民法の規定の仕方により憲法理. るべきである」とするのである121).しかし,ス. 論が影響を受けるという通説には,やはり法解. テイト・アクション理論を日本国憲法の解釈に. 釈としての問題があった.ドイツの理論に影響. 導入することには様々な問題があった.国家・. を受けた日本の従来の学説は,初めから法律行. 政府の射程が不明である以上,当該事案を国家. 為,特に契約を視野の中央に入れて議論を始め. の行為と見倣せるかはこの理論から直接導くこ. てきた.結果志向の強いとされるこれまでの憲 法学”7)は,事実行為の救済がそれではできな. とはできず122),アメリカでもその射程は人権の 種類や場面で決まる傾向にあった123).日本への. いとなると新たな理論を接ぎ回したのであろう. 導入にするならば,政府との結び付きの程度で. が,そもそも米独の理論は前提が異なり,一貫. 相関的に判断すべきではないかとの指摘もあ. 性を欠くことともなった118).加えて,従来憲法. る124).そのようにしても,純粋な私的団体に. 学は,憲法の私人間効力の問題は,「社会的権. はこの理論は適用できないという難点が残っ た125)..  藤井樹二二は,「私法の一般条項と日本国憲. 法との『連動』関係を明確化し,民法第90条  113)高橋和之『立憲主義と日本国憲法』53頁 (2001)..  114)同上54頁..  115)既に「通説」は「不法行為法」も含めて間 接効力説だとする叙述もある.阪本昌成『憲法H』 224頁(1993).内野正幸『憲法解釈の論点』〔第3 版〕31頁(2000)も同旨..  116)圓谷勝男「私人相互間の人権保障」東洋法. 学37巻1号187頁,201頁(1993),阿部照哉ほか 『憲法(2)』〔第3版〕73頁(1995)[市川正人],長. 尾一面「日本国憲法』〔第3版〕116頁(1997),小 倉正恒『憲法』53頁(1997)なども,事実行為に ついても間接効力説を妥当とする.      、  117)藤井前掲註88)書156頁.  118)君塚前掲註1)V論文(2・完)61−69頁.  119)同上(1)133頁..  120)君塚前掲註1)VI論文参照.  121)松井前掲註104)書325頁.鵜飼信成「司法 審査と人権の法理』214頁(1984)もほぼ同旨.  122)君塚前掲註1)W論文32−35頁.  123)同上35頁..  124)藤井樹也「米判批」ジュリスト1239号140 頁,144頁(2003)..  125)君塚前掲註1)W論文36頁.青柳前掲註93) 書40頁も参照..

(13) 2■. の『公序(良俗)』概念や第709条の『権利侵害』. れは「そもそも保護義務論が,契約法に即して. の概念が,憲法上の権利に直接対応していると. 構想された理論ではないことからも明らかで. 考える余地があると」する126).そして,「憲法. あ’32)」つた.この主張は興味深い.しかし,. の権利規定によって差止による救済が要請され. ドイツ基本法ではない日本国憲法の解釈とし. るような場合には,」「端的に憲法上の救済とし. て,基本権保護i義務が各人権条項から一般的に. て直接憲法を根拠に救済をするのが,法的理論構. 発生するのか,などの疑問もある133).. 成として論理的整合性の点ですぐれている」127).  棟居快行説は,「人権を持ち出さなければ侵. とするなど,この場面でも憲法による直接的な. 害行為が食い止められない134)」非契約的=事実. 権利救済を模索した.しかし,このように直接. 的侵害について,「問題となるのは契約的侵害. 効力説に近い理論構成は,やはり憲法を一般に. と同様に,被侵者側の人権対侵害側の人権であ. 国民をも拘束する規範としてよいかという疑問. る135)」と述べ,やはり法律行為と事実行為の区. を残した128).. 別を意識していない.その上でこの問題は,保.  これらの学説に対して,従来の間接効力説に 近い説も,不法行為の場面を視野に入れた理論 を展開し始めている.基本権保護義務論を代表. 護請求権を伴わない「自由」と,それを伴う 「権利」の問題となり,両者が対立したときに は「権利」の側に裁判官は軍配を上げるべきで. する小山剛説も,問題を契約的侵害に限定して. あるとする136).「自由」と「自由」の対立の場. いない.同説は,「基本権の私人間効力は,方. 面では専ら市場の自由競争に委ねればよく137),. 法論的には,私法規定の基本権適合的解釈にほ. 「権利」と「権利」の対立においてはハード・. かならない.そのため,私人間効力問題を過度. ケースであるが,立法者の憲法価値衡量に従う. に特殊化することも,私人間効力の対象を特定. べきであるとする138).しかしこれには,実際に. の私法規定(たとえば公序良俗条項)に限定す. は複雑で運用困難,かつ憲法は無力だという批. るのも適切ではない」と主張する’29).そして,. 判ができよう139).. 契約外的侵害についても間接効力説を基調とす.  中山茂樹説は,私法的制約・保護の事例を1. る法理は妥当するとする.第一に「私的人権侵. 「不法行為による場合」,「契約(法律行為)の法. 犯を惹起する私人が『基本権の主体であり,名 宛人ではない』こと’30)」と,第二に「私的人権. 的効力(および司法的執行など)を承認する場 合」,「契約(法律行為)の法的効力(または/. 侵犯救済のための介入であっても,侵害の主体. および司法的執行など)を否定する場合」に分. が私人である以上,防禦権としての基本権が直. 類した上で,「不法行為による場合」を例に考. 接に適用できない事情が,等しく存在する’3’)」. 察を始めた140).まず,「裁判所は,立法府によ. からであり,要は,この問題に関しては契約か. る調整がその裁量の範囲内であるかを審査し,. そうでないかの区別はないとするのである.そ. もしそれが合憲であれば,立法府が選択した調整.  126)藤井樹也「Civil Rights Actsの一断面(5・ 完)」三重大理経論叢18巻1号65頁,90頁(2000)..  134)棟居前掲註103)書96頁..  127)藤井前掲註88)書266頁.  128)君塚前掲註1)V【論文(1)131頁.  129)小山前掲註101)書320頁.  130)同上252−253頁.  131)同上253頁.  132)同上254頁..  133)君塚前掲註1)VI論文(1)143−146頁.芦 部前掲註94)書230−232頁も参照..  135)同上同頁.  136)同上93頁.  137)同上97頁.  138)同上94頁..  139)君塚前掲註1)VI論文(2・完)119−121頁 など参照..  140)中山茂樹「私人間効力について」西南学院 大法学論集33巻4号95頁,104頁(2001)..

(14) 22. 点にしたがって事件を解決することになる14’)」. 定をあまり拘束しない.これに対して,精神的. とする.そして,「両法益を調整する明確な立 法がないとき,」裁判所は,「法解釈としては調. 自由に関する条文や憲法14条1項後段,参政権 規定などにより,厳しい制約を受ける.このよ. 整点が一点に定まらない」ので,その範囲内で. うな,言わば「強い権利」を一方が主張するケ. 「法律レベルの解釈をする」ことになると考え. ースでは,特にその権利を侵さぬように一般条. るのである142).この考え方は非常に興味深いが,. 項を活用することが,国家機関たる裁判所に求. なお理論の完結が待たれる段階にある143).. められる.また,「強い権利」同士が衝突する.  筆者の立場は,既に述べたように,従来の第. 事案では,裁判所が憲法上許される解釈の幅は. 三者効力論が,特殊な場面における特殊な処方 箋であった144)こととは一線を画するものであ. 非常に狭くなる.憲法の私人間効力について慎. る.法律行為の場面で妥当したことは,基本的. 利」が問題となっている事例であることになる.. には事実行為の場面にもそのまま妥当すると考. 以上である.. える.一般的に憲法学で言われている,二重の 基準論などはここでも有用である145).結果,事. 重に考えねばならないのは,よって,「強い権. 皿.憲法からの評価. 実行為でも法律行為と同様に,上位法としての.  以上の結論を,女児の不法行為死事例におけ. 憲法は民法等に適用でき,そこでは一般的な合. る逸失利益の算定の問題に当てはめてみたいと. 憲限定解釈や適用違憲の手法が妥当すると思わ れるユ46).この結論は法律行為についても妥当な. 思う.この例は性差別,即ち,憲法14条1項後 段事由による差別を含んでいる.民法709条に. 解決を導いたように思われる147).そこで,本問. 基づく損害賠償請求で,同条の性差別的運用が. に対する解答は,基本的にはこれまで,法律行. 問題となったものと解せる.本事例は,憲法的. 為に関して述べてきた主張をそのまま要約すれ. 視点からすれば,憲法14条1項後段事由により. ばよいことになると思われる.. 差別されない権利が裁判所で侵害されていない.  民法709条下は,裁判所で適用される際に,. か,という問題となろう148).このため,これら. 他の法律の条項と同様に,合憲性判断がなされ. の事例は不法行為と憲法の関係を考え,憲法の. るが,一般条項であるため,文面違憲や法令違. 私人間効力について検討する,適切な例だと思. 憲となることは想定できない.しかし,合憲限. われるのである.. 定解釈されることや適用違憲となることは考え.  しかし,交通事故死女児の損害賠償額差別の. られる.これらの条文は,解釈に当たって憲法 の制約を受け,憲法に違反する解釈や適用がさ. 問題は,そもそも専ら民法709条の解釈問題だ とする反論もあろう.また,それをやや広げて. れることは,個別具体的な法規定と同様に禁じ. も,民法1条ノ2の「個人ノ尊厳ト両性ノ本質. られる.しかし,経済的自由などの条項は法規. 的平等」の解釈問題だとする考えもできなくは ない149).だが,私法が憲法の制約を受けないと する無効力説は支持できかつた150).公法と同様,. 私法もまた国家法として憲法の下位法である以. 141)同上111頁. 142)同上112頁.. 143)君塚前掲註1)孤論文59頁注301参照. 144)小山前掲註101)書212頁. 145)君塚前掲註1)VI論文(2・完)130−131頁. 146)同上134頁. 147)君塚前掲註1)皿論文参照..  148)経済的自由と生命権の衝突という要素もあ るが,交通事故の損害賠償額が一般に低額である ことは問題になっていないので,省く.  149)君塚前掲註23)評釈11頁.  150)君塚前掲註1)V論文(1)120−121頁..

(15) 23. 上,私法であることをもって国内法最高法規の. 変数により事件を処理することは,経済的に合. 制約を逃れることはできない,と言うべきであ. 理的で,不法行為者側の予測可能性を損なわな. る151).不法行為規定も同様である.. いということは言えよう155).企業が女子労働者.  そこでこの事案も,憲法の私人間効力の問題. の中途退職率の高さを見越した労務管理を行う. として考察することができる.私人間効力の問. ことは,情報費用の節約の点である程度合理的. 題であっても,通常の憲法論が妥当すると思わ. なものと考えられるかもしれない156).しかし他. れる.女児の逸失利益を巡る問題は,主として,. の変数が様々考えられる中で,国家機関である. 当該一画条項を憲法14条1項後段に反しないよ. 裁判所が性別のみを殊更に用いる理由は十分に. う解釈することが求められる事例である.性差. 展開されてはいない157).個別的な逸失利益の算. 別事例の司法審査基準については,中間審査基準. 出を目的としながら,一律に男女別の賃金統計. が妥当するという見解も唱えられてはいる’52).. を用いることは矛盾でもあった.男女別の統計. しかし,筆者はそこでは厳格審査基準が妥当す. をこのように一律機械的に用いることは「行政. ると主張してきた’53).この立場は現在では有力. の便宜」だとの誹りも免れまいユ58).. である154).この結論は,この場面でも妥当する..  また,男女別統計があるとすれば,全労働者. 即ち,規制がやむにやまれぬ目的と必要最小限. の統計はあることになり,現に存在する.それ. 度の手段であることを,差別を行う側が立証で. でもなお後者が用いられない理由は,説得的に. きなければ違憲である.違憲の解釈・運用は裁. 説明されていないと思われる.つまり,他に選. 判所はできない.このことは本事案でも妥当す. 択できる手段は容易に発見できることは,この. る筈なのである.. 審査基準の下では違憲の疑いを濃厚にするもの.  既に死亡した者の逸失利益をできる限り正確. である.しかも現在では専業主婦が既に少数派. に算出しようという目的は,或いはやむにやま. である’59)中で,多くの判決では,女性は長く. れぬものと言ってよいかもしれない.しかし,. 未就労であるという,被害者側に不利な一般化. その際に,専ら男女別の統計表を機械的に用い. がなされている160).これは,早くから,稼働期. ることが必要最小限度の手段と言えるか,は別. 間について男女差を設けるべきでないとする批. 問題である.確かに不法行為事例で性別という. 判がなされていた点である161).男女を問わず年. 少者一般が平凡な人生を歩むという想定を基.  151)君塚前掲註1)VI論文(2・完)128−129頁..  152)米沢広一「平等原則」阿部照哉=松井幸夫 編『HAND B。・K憲法』70頁,73頁(1990),芦部信 喜『憲法学皿』〔増補版〕29−30頁(2000),植木前 掲註68)評釈238頁など.但し,植木評釈は,239−. 240頁の記述を見れば,厳格審査にかなり近い理解 であると思える..  153)君塚正臣『性差別司法審査基準論』123頁 以下(1996)..  154)戸松秀典『平等原則と司法審査』325頁 (1990),中村睦男『論点憲法教室』82頁(1990), 青柳幸一『個人の尊重と人間の尊厳』393頁(1996),. 市川正人『ケースメソッド憲法』209頁(1998), 辻村みよ子『憲法』204−205頁(2000),佐藤前掲 註103)書477−478頁,戸波前掲註103)書195頁, 松井前掲註104)書373頁など..  155)野崎前掲註48)論文88頁参照.  156)植木前掲註68)評釈235−236頁.  157)野崎前掲註48)論文89頁.  158)アメリカ連邦最高裁判例は,中間審査の下 でもこのような考慮は違憲であると考えてきた. 君塚前掲註153)書20頁.  159)岩井八郎=真鍋倫子「M字型就業パターン の定着とその意味」盛山和夫編『日本の階層シス. テム4一ジェンダー・市場・家族』67頁,68頁 (2000).1990年時点で,女子労働力率のM字の底 である25−34歳でも60%程度にまで高まっているの である..  160)野崎前掲註48)論文89−90頁.  161)宮崎前掲註55)論文115頁..

(16) 24. に,被害者側に有利な事情を立証させるという. 女の賃金の別異取扱いも労働基準法4条違反と. 考え方も採られていない.このような考え方は. された169)このなどとの判例の一貫性を考えれ. 「過度に広汎な一般化」もしくはステレオタイ. ば,不法行為事案でのみ稼働期間の男女差を認. プな理解であると思われる162).また,予測可能. めることの謎が更に深まろう170).改正男女雇用. 性は正義や理由に基づく政治的決定の要請に勝. 機会均等法171)などが施行された現在,このよ. るものではない163)とも言え,憲法上許されな. うな格差を前提に,裁判所という国家機関が逸. い範赤化は用いられるべきではなかった.. 失利益を公定してよいかも疑問でもある..  そのような憲法上の問題点を気に留めない最.  結局この問題は,女子年少者について,多様. 高裁の姿勢は,前述の1987年判決に非常によ. な可能性があるにも拘わらず,統計的数値の得. く現れていた.成績優秀で大学進学164)が期待. られやすい性別のみを取り上げることの不当性. された女子中学生の死亡例ですら,本人の能力. に帰着する172>.性別のみを逸失利益の算定根拠. や志望などは捨象され,性別だけが独り歩きし. とする方法は,他に選択できる方法がある以上,. て算定の基準となっていたのである.以前から,. 違憲の疑いが濃い173)と言える.. 結婚後も有職者であり続ける選択肢は女性にも.  ところで,女児逸失利益の低額算出は,職業. ある165).被害者が女性であるがゆえに専業主婦. 選択の自由の保障に反すると言えなくもないと. になるものというのは,いかにもステレオタイ. する主張もある174).しかし,この権利は一般に,. プに基づく設定であった.. 経済的自由に分類される175).このため,これを.  また,日産自動車事件で女子若年定年制が無. 根拠とする主張は相対的に弱い.そこで本事例. 効と判断された166)ことや,下級審ではあるが,. では,問題が性別による差別であることを強調. 秋田相互銀行事件’67),岩手銀行事件’68)等で男. すればやはり十分なのである..  結局,このような裁判所の算出は,端的に憲. 法14条違反であり,民法709条はその限りで合 憲限定的に解釈されねばならなかったのであっ  162)アメリカ連邦最高裁判例は,中間審査の下 でのこのような考慮も違憲であると考えていた. 君塚前掲註153)書20頁.  163)野崎前掲註48)論文95頁.  164)岩井=真鍋前掲註159)論文77頁図4−4によ れば,1955−64年生まれ大卒女子の就業率は25歳で 85%を超え,28歳で一旦落ち込むが65%程度であ る.これは1945−54年生まれ大卒女子のトレンドよ り明らかに高く,同世代高卒女子が50%に落ち込 むのと比べても高い比率を維持している.とは言 え,専業主婦の割合は高学歴ほど高く,これが構 造によるものか意識によるものかという論争もあ るようである.木村邦博「労働市場の構造と有配 偶女性の意識」同書177頁.  165)伊藤前掲註27)論文222頁.  166)最判昭和56年3月24日民集35巻2号300頁. このほか,東京地判昭和41年12月20日労民訴17巻. 6号1407頁,東京地判昭和44年7月1日労民集20巻 4号715頁,東京地決昭和50年9月12日三時789号 17頁なども参照..  167)秋田地判昭和50年4月10日沖州集26巻2号 388頁..  168)仙台高島平成4年1月10日前七去43巻1号1 頁.. た.専ら性別のみを根拠にした逸失利益の算出 を一律に行うことはできなかったのである.よ り個別の算出手段や,性差別的でない手段があ る以上,性別のみに基づく逸失利益の算出を続 けることは,裁判所が必要最小限度の手段では.  169)詳しくは君塚前掲註1)皿論文389−392頁参 照..  170)岡本前掲註ユ3)論文114頁同旨..  171)同法の改正と合憲的解釈の勧めとして,君 塚正臣「改正男女雇用機会均等法の憲法学的検討」 関大法学論集49巻4号30頁(1999)参照.  172)前田前掲註72)評釈74頁.  173)君塚前掲註23)評釈11頁.  174)橋本前掲註72)評釈6頁参照.  175)芦部信喜(高橋和之補訂)『憲法』〔第3版〕 204頁以下(2002)など..

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