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居住者に対する租税条約の適用局面 : Saving の原則は確立しているか

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(1)居住者に対する租税条約の適用局面 ── Saving の原則は確立しているか── 鈴 木 悠 哉 . はじめに. である. 3.そこで,一つの疑問が生じる.このような. 1.租税条約1)の中には,Saving Clause という. 原則・例外の関係は,Saving Clause を待たず. 規定を有するものがある.Saving Clause とは. とも,あるいは,米国が締約国ではない租税条. 何か.その一般的定義は,次の通りである.. 約においても,想定できるだろうか.この点に ついては,さしあたり,次のように考えること. 「米国の租税条約における規定.これに基づ. ができるかもしれない.. き米国は,あたかも条約が効力を有さないかの. 1)そもそも租税条約は,クロスボーダー取引. ごとく,自国居住者(個人及び法人の双方を含. から生じる所得につき,締約国が二重に課税. む. )又は市民の全世界所得に課税する権利を. するという事態に対処することを,主たる目. 留保ないし『保持(saves) 』する.ただし,一. 的としている4).この目的を達成するため,租. 2). 定の例外が存在する. 」.. 税条約は,締約国が自国の国内法に基づいて. . 行使している課税権に,一定の制約を加える. 2.この定義によると,米国居住者(市民)が,. のである5).. 国境を越える経済活動につき,米国で課税を受. 2)例 え ば OECD(経済協力開発機構)が 公表. ける局面が,Saving Clause によって,原則と 例外の二つに分かれることとなる.すなわち, 米国居住者(市民)は, その全世界所得につき, 米国において,専ら米国国内法のみに基づき, 課税を受ける3).一方で,このような課税関係 に対し,米国が締結した租税条約が影響を及ぼ す局面もある.前者が原則であり,後者が例外 . 1)本稿においては,所得課税に関する租税条 約に限定する. 2)IBFD INTERNATIONAL TAX GLOSSARY 355(B. Larking 5th. ed. 2005). 3)米国 は,米国居住者 の み で な く,米国市民 の全世界所得にも課税する.リチャード L. ドー ン バーグ(川端康之監訳)『ア メ リ カ 国際租税法』 15 頁(清文社,2001).. . 4)二国間租税条約 の 多 く は,条約名又 は 条約 の前文において,この旨定めている. 5)租税条約 は,締約国 の 課税権 と の 関係 で は,そ れ を 制約 す る 方向 に し か 作用 し な い.こ の 点,鈴木悠哉「国際租税法 に お け る 立法管轄 権 の 意 義:J. MARTHA, THE JURISDICTION TO TAX IN INTERNATIONAL LAW: THEORY AND PRACTICE OF LEGISLATIVE FISCAL JURISDICTION(1989) 」横国 18 巻 1 号 251 頁(2009)及び同稿同箇所で引用の文献を 参照. なお,このような租税条約の効果は,各締約国 において,租税条約を含む国際法が国内的効力を 有することを,一応の前提としている.もっとも, 国際法につき,国内的効力を一般に認めない憲法 体制を有するという英国においても,個別の国内 立法で租税条約に国内的効力を認めている.この 点,See Baker, infra note 102, at F─1 to F─2. 国 際 法一般の議論に関しては,岩沢・後掲注 93)を参照..

(2) 98. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 1・2 号(2010 年 8 月). (98). しているモデル租税条約を見ると,租税条約が. ら非居住者に対する所得源泉地国の課税を対象. 明文上制約を加えているのは,所得源泉地国の. としている.逆に言えば,居住者に対する居. 6). 課税権である .片や同モデル租税条約は,納. 住地国の課税については,わずかの規定しか適. 税者の居住地国を明文上対象とした規定も有す. 用がない.ここから一歩進み,Saving Clause. る.とりわけ,二重課税の排除方法を定める規. が,まさに Clause(条項)であることを越えて,. 7). 定 や,特殊関連企業間取引から生じる利得の. ある種の原則として確立している,との指摘を. 修正に関する規定8)は,当該居住地国の国内法. 行う論者は多い12).この論者の見解によると,. 9). 令との関係でも,議論を孕んできた .. Saving Clause は,租税条約上確立 し た 原則 を. 3)い ず れ に せ よ こ こ で は,課税権 の 配分規. 確認しているに過ぎないこととなる.. 10). 範. の 雛形 は,圧倒的 に 源泉地国 の 課税権. 5.こ の 見解 は 妥当 で あ ろ う か.と り わ け,. を 対象 と し て い る11).か か る 現象 は,Saving. Saving Clause の母国とでも言うべき米国13)が. Clause を有さない OECD モデル租税条約にお. 締結した租税条約との関連ではどうか.例えば,. いても,一応,客観的に観察できる.. 米国連邦財務省 が 2006 年 11 月 15 日 に 公表 し. 4.このように,租税条約の諸規定は,もっぱ. た モ デ ル 租税条約14)は,社会保障給付金 に つ. . . 6)源泉地国は,例えば利子については,その総 額の 10 パーセントまで課税でき(第 11 条第 2 項), 使用料については全く課税できない(第 12 条第 1 項).以下,本稿では,特に断らない限り,2008 年 公表のモデル租税条約を前提とする. 7)第 23 条A及 び 第 23 条B.な お,同条 に 関 するコメンタリーの第 12 パラグラフも併せて参照 (コ メ ン タ リーの 仮訳 は,川端康之監訳『 OECD モ デ ル 租税条約 2008 年版(所得 と 財産 に 対 す る モ デ ル 租税条約)簡略版』(日本租税研究協会, 2009)を参照). 8)第 9 条. 9)井上 = 仲谷・後掲注 12)99 頁 は,国内税法 と租税条約の適用関係を考察するという視点から, 居住者 の 対外活動 に 適用 の あ る 条約規定 と し て, この二つのみを掲げる.なお同著は,租税条約上, Saving の原則が確立している,とする立場を採用 している.後掲注 12). 二重課税の排除方法を定める条約規定に関し, 渡辺淑夫『最新外国税額控除[三訂版]』7 頁以下 (同文館出版,2008)は,当該条約規定 は,二重課 税の排除措置を定める締約国の国内法を確認する 意義を有する,としている.一方,特殊関連企業 間取引を対象とする条約規定と国内法上の移転価 格税制 の 関係 と し て,金子宏「移転価格税制 の 法 理論的検討─わが国の制度を素材として─」『所得 課税の法と政策 所得課税の基礎理論下巻』366 頁 以下(有斐閣,1996)を参照. 10)こ れ に つ い て は,K. VOGEL, KLAUS VOGEL ON DOUBLE TAXATION CONVENTIONS 27(3rd ed. 1997) を 参照.なお,鈴木・前掲注 5)251 頁も併せて参照. 11)この点,前掲注 9)も参照のこと.. 12)さしあたり,以下のものを参照のこと.井 上康一 = 仲谷栄一郎『租税条約 と 国内税法 の 交 錯』79 頁(商 事 法 務,2007) .小 松 芳 明「法 人 税 法における国際課税の側面について─問題点の究 明 と 若干 の 提言─」西野嘉一郎 = 宇田川璋仁編 『現代企業課税論─ そ の 機能 と 課題─』197 頁(東 洋経済新報社,1977) .小松芳明『国際租税法講 義[増補版] 』25 頁(税務経理協会,1998) .中尾 武 彦『国 際 租 税 制 度 概 観』42 頁 以 下(社 団 法 人 日本租税研究協会,1989) .藤本哲也『国際租税 法』125 頁以下(中央経済社,2005) .本庄資『国 際 課 税 の 理 論 と 実 務[第 3 巻] 租 税 条 約』44 頁(税 務 経 理 協 会,2000).Nakazato, Japan, in INTERNATIONAL FISCAL ASSOCIATION, 78a CAHIERS DE DROIT FISCAL INTERNATIONAL VOLUME LXXV Ⅲ a INTERPRETATION OF DOUBLE TAXATION CONVENTIONS 407, 409 n. 8(1993). 13)米国 が 締結 し た 租税条約 に お け る Saving Clause の位置付けについては,第 1 章第 1 節を参照. 14)米国連邦財務省公表のモデル租税条約は,租 税条約締結交渉において米国が採用する基本姿勢を 示 し て い る.J. ISENBERGH, INTERNATIONAL TAXATION 233(2nd ed. 2005). 以下では,特に断りのない限 り,本文中で触れた 2006 年公表のものを前提とす る.その仮訳として,横浜国際租税法研究会(鈴木 悠哉分担) 「 2006 年アメリカ合衆国モデル租税条約」 租税研究 718 号 271 頁以下(2009) .なお,同モデル 租税条約に関しては,Avi-Yonah and Tittle, The New United States Model Income Tax Convention, 61 BULL. FOR INT’L TAX’N 224(2007) ; M. TITLE AND R. AVI-YONAH, THE INTEGRATED 2006 UNITED STATES MODEL INCOME TAX TREATY(rev. ed. 2008)..

(3) 居住者に対する租税条約の適用局面(鈴木). (99). 99. き,その支払いの根拠法を有する国のみが課税. 8.以上の点を意識しつつ,本稿は,租税条約に. できる,と定めている15).その一方で,後述の. おける Saving の原則の確立如何という論点につ. 16). 通り ,米国モデル租税条約は,この社会保障. き,以下の順序で検討を加えるものである.. 給付金に関する条項を,Saving Clause の例外. 1)まず,Saving Clause とはどのような条項か,. としているのである.Saving Clause は,まさ. 及び,それに関し識者はどのように考えている. に Clause であるが故に,その例外が別途,明. のかを,米国との関連で整理する.. 文上定まっている. しかもその例外というのは,. 2)次 に,そ の 議論 を 踏 ま え,租税条約上,. 租税条約は専ら源泉地国たる締約国の課税権を. Saving の原則とでも言うべきものが確立して. 制限する,という原則に対するものである.. いるか否かを探る.. 6.このように,Clause たる Saving Clause を. 9.結論 を 先取 り す る と,Saving Clause の 定. 有する租税条約は,別途,その例外を定める規. めることのすべてが,いわゆる原則として確立. 定を有する.では,Saving Clause が存在しな. しているとまでは言えない.. い租税条約においても,その定める内容が原則 として確立しているという場合,その例外たる 条項はどれになるのか.例外条項を示す明示的. 第 1 章 米 国 の 租 税 条 約 に お け る Saving Clause の展開. 規定が存在しない状況で,いかにしてそれを判. 第 1 節 Saving Clause の沿革. 断するのか.この疑問は,租税条約の具体的条. 1.Saving Clause が 米国 の 租税条約 に 登場 し. 項(とりわけ,配分規範)をどのように解釈す. たのは,1930 年代後半から 1940 年代にかけて. べきかという点とも絡む.. のことである.Saving Clause は,この時期に. 7.国際課税の文脈で居住者に対する居住地国. おける米国の租税条約の特徴をなしていた19).. の課税を考える際,専ら当該居住地国の国内法 令の役割に注目が集まりがちである.これは我 が国や米国のように,居住者(米国においては, 市民も含む. )の全世界所得を課税対象とする 国においては,特に強い傾向と言えるかもしれ ない.もっとも近時,国外払い配当に対する免 税措置が日米両国において話題になっている17). それに加え,自国居住者に対する課税関係にお いても,先に述べたように,租税条約の役割を 見逃すことはできないのである. 故にここでも, 租税条約と国内税法の関係というより広範な視 点が意味を持つ18). . 15)第 17 条第 2 項. 16)第 1 章第 2 節第 2 款. 17)田井良夫『国際的二重課税 の 排除 の 研究─ 外国子会社配当免除制度への転換の検討を中心と し て ─』293 頁以下(税務経理協会,2010).こ の 点に関する米国での議論として,H. GRUBERT AND J. MUTTI, TAXING INTERNATIONAL BUSINESS INCOME: DIVIDEND EXEMPTION VERSUS THE CURRENT SYSTEM (2001).. . 18)な お,本稿 の 問題意識 は,本文中 で も 述 べた通り,租税条約は締約国たる居住地国の課税 権 を 制限 す る か,と い う も の で あ る.換言 す る と,そもそも租税条約は,国際法規として,締約 国たる居住地国の課税権を制限するという国内的 効力をもたらし得るのか,というものである.こ こ で は,締約国 の 憲法規範上,国際法 と 国内法 の いずれの法体系がそもそも優位するのか,という 議論は,直接の意味をもたない.国際法の観点か らこの点を指摘するものとして,小森光夫「条約 の 国内的効力 と 国内立法」山本草二先生古稀記 念『国家管轄権─国際法 と 国内法─』542 頁(勁 草書房,1998) .なお,条約に国内的効力を持たせ る際の制度の相違と租税条約の適用局面との関係 を論じるものとして,Williams, General Report, in INTERNATIONAL FISCAL ASSOCIATION, 83b CAHIERS DE DROIT FISCAL INTERNATIONAL PRACTICAL ISSUES IN THE APPLICATION OF DOUBLE TAX CONVENTIONS 19, 28(1998). 19)後掲注 22) .な お,矢内一好「米国租税条 約 の 研究─租税条約 と 国内法 の 関連─」税務大学 校論叢 19 号 40 頁(1989)も 併 せ て 参照.米国 が 一番初めに締結したのは,1932 年署名の対フラン ス条約であった..

(4) 100 (100). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 1・2 号(2010 年 8 月). もっと も,1945 年締結 の 対英国租税条約 は,. 規定を有し,そこに Saving Clause が存在する.. Saving Clause を有さない.これは,条約の交. 米国は,これ以降も,モデル租税条約の改訂を. 20). 渉過程における妥協の産物であったという .. 行ってきた25).いずれの米国モデル租税条約も,. 現 に,こ の 対英国租税条約 の 解釈 は,Saving. 細かな文言の違いはあれ,条約の適用範囲に関. 21). Clause を 含 ん で い る の と 同 じ 態様 で あ り ,. する一般規定の中に Savng Clause を含んでいる.. これと同時期に締結となった租税条約は,いず. このような背景の下,Saving Clause は,米国の. れも Saving Claues を含んでいる22).故に,こ. 租税条約実務における最も重要な側面である,. の時期における米国の租税条約政策としては,. との評価を受けるに至った26).現に米国連邦財務. 条約内に Saving Clause を含ませることが一般. 省が,本稿冒頭で触れた最新のモデル租税条約. 的であり,対英国租税条約は,まさにその例外. を公表した時点において,Saving Cluase は,米. という位置付けである23).. 国が締約国たる全ての租税条約に存在する27).. 2.1977 年,米国連邦財務省は,一番初めのモデ. 3.米国が一番初めのモデル租税条約を公表す. ル租税条約を公表した24). この米国モデル条約は,. るのと同時期に,OECD も一番初めのモデル. その第 1 条に条約の適用範囲を一般的に定める. 租税条約を公表している28).ただ,OECD モデ. . 20)K. V OGEL, H. S HANNON, L. D OERNBERG, K. RAAD, UNITED STATES INCOME TAX TREATIES(Kluwer Law International)Part I. at 64─65(May, 1989) [hereinafter cited as US Treaties I]. 21)T. D. 5569, 1947─2 C. B. 100, regulations section 7.514. See also Rev. Rul. 59─56, 1959─1 C. B. 737. 対英国租税条約は,二重課税を排除するという 主目的のため,相互主義に則り,自国源泉の所得を 自国にとっての非居住者が稼得するという状況を 対象としているという.その上で,同条約の第 10 条(英国政府が個人に支払う報酬) ,第 13 条第 1 項 (英国租税の米国における税額控除)及び第 21 条 (無差別取扱い)を除き,同条約は,米国居住者の 米国における納税義務に影響を与えない,という. なお,第 10 条と第 13 条との関係では,米国市民に ついても同様の言及がある. 22)US Treaties I, supra note 20, at 65. 1939 年 改正の対フランス条約第 14 条 A,同年締結の対ス ウェーデン条約第 14 条 a,1942 年締結の対カナダ 条約第 17 条及び 1948 年の対ベルギー条約第 12 条 第 1 項 で あ る.Id. at 60─61, 65 n. 1. な お,米国 が 締結した個別の租税条約及び各種のモデル租税条 約については,Tax Analysts 提供のデータベース で あ る World Wide Tax Treaties が Lexis Nexis 経由で利用可能であるため,これを参照した. 23)US Treaties I, supra note 20, at 65. な お, 1966 年 の 対英国租税条約 は,議定書 の 第 9 条 に Saving Clause を含む.Id. at 64. 24)US Treaties I, supra note 20, at 88. もっと も米国は,それ以前にも非公式のモデル租税条約 を 有 し て お り,当該非公式 の モ デ ル 租税条約 は, 1945 年の対英国租税条約を基とするものであった という.Id. at 87.. ル租税条約との関係では,米国モデル条約にお け る Saving Clause は,ま さ に OECD モ デ ル 租税条約に対する最も重要な例外である,との 認識がある29).現に,OECD モデル租税条約に は,Saving Clause は存在しない.この点,米 国は,Saving Clause との関連で OECD モデル 租税条約に留保を付すことで,OECD モデル 条約と一定の距離を置いているのである30). . 25)1981 年,1996 年及び 2006 年である. 26)US Treaties I, supra note 20, at 61. 27)UNITED STATES MODEL TECHNICAL EXPLANATION ACCOMPANYING THE UNITED STATES MODEL INCOME TAX CONVENTION OF NOVEMBER 15, 2006 at 3, available at http://www.irs.gov[hereinafter cited as Technical Explanation]. 28)川端・前掲注 7)8 頁. 29)K. VOGEL, H. SHANNON, L. DOERNBERG, K. RAAD, UNITED STATES INCOME TAX TREATIES(Kluwer Law International)Part Ⅱ. at 44(May, 1989)[herinafter cited as US Treaties Ⅱ]. 30)R. L. DOERNBERG AND K. V. RAAD, THE 1996 U NITED S TATES M ODEL I NCOME T AX C ONVENTION ANALYSIS, COMMENTARY AND COMARISON 11(1997) [herinafter cited as 1996 US Convention]. この留保 は,米国 が Saving Clause を 条約内 に 定 め て い る ことと,整合しているという.Id. ちなみに,OECD モデル条約に対する米国の留 保 は,第 1 条(租税条約 の 人的適用範囲)に 対 す るもので,米国居住者と米国市民に対する課税権.

(5) 居住者に対する租税条約の適用局面(鈴木). (101) 101. 第 2 節 Saving Clause の内容. 規定 33),課税 の 一般準則 を 定 め る 規定 34),雑. 第 1 款 概 説. 則 35)及 び 議定書 36)に 存在 す る 租税条約 が あ. 1.ベンチマークとも言うべき米国モデル租税. る 37).. 条約は,Saving Clause として,以下の定めを. 2)Saving Clause は,両締約国の居住者と市民. 有している.. (及 び,一定 の 元居住者及 び 元市民)を 対象 と. 「こ の 条約 は,5(第 1 条第 5 項─注)の 場. している38).この点,冒頭で見た Saving Clause. 合 を 除 く ほ か,第 4 条(居住者)の 規定 に 基. の定義では,専ら米国居住者と米国市民に対す. づき一方の締約国の居住者とされる者に対す. る課税が問題となっているものの,実際は両締. る 当該一方 の 締約国 の 課税及 び 一方 の 締約国. 約国 は,Saving Clause を 根拠 と し て,そ れ ぞ. の市民に対する当該一方の締約国の課税に影. れ自国居住者・自国市民への課税権を留保して. 響を及ぼすものではない.この条約の他の規. いるのである39).米国が締結した二国間租税条. 定にかかわらず,一方の締約国の市民であっ. 約の Saving Clause も,これに倣うものが多い. た個人又は一方の締約国において長期居住者. ものの,中には米国居住者と米国市民のみが対. とされた個人に対しては,その地位を喪失し. 象となっていることもある40).なお,市民につ. た時から 10 年間,当該一方の締約国において,. いては,米国市民のみを対象としている Saving. 当該一方の締約国の法令に従って租税を課す. Clause や,そもそも市民のみを対象とし,居住. ることができる.」. 者を対象としていない Saving Clause も存在す る41).. 2.以下では,この規定を中心として,Saving. 3)Saving Clause の 適用上,あ る 者 が 両締約. Clause を観察していこう.. 国の内,いずれの国の居住者であるかは,租税. 1)先 に も 述 べ た 通 り,こ の 規定 は,条約 の. 条約によって決まる42).両締約国の国内法上,. 適用範囲を定める一般規定である第 1 条の中. 双方の締約国の居住者に該当する者は,租税条. 31). にある .米国が締結した二国間租税条約の 多くは,このような定めの置き方に準じてい るものの 32),実際はそれに限らない.具体的 に は,Saving Clause が,税額控除 に 関 す る . が 対象 と なって い る(現行 の 2008 年版 コ メ ン タ リーにおいては,第 1 条関連コメンタリー第 28 パ ラグラフを参照).この留保は,1977 年の OECD モデル条約以来,今でも続いている. 31)第 1 条第 4 項である. 32)例 え ば 1977 年 の 米国 モ デ ル 租税条約公表 に先立ち,1975 年に対英国租税条約が改訂となり, その第 1 条は租税条約の人的適用範囲を定め,そ こに Saving Clause が 存在 す る.こ の よ う な 条約 構成 は,米国 が 租税条約上,そ の 人的適用範囲 を 別個に定めることの重要性を認識した結果であり, それは,OECD モデル条約の論理を暗黙の内に承 認 し て い る か ら で も あ る と い う.US Treaties I, supra note 20, at 72.. 約上の居住地振り分け規定に基づき,その居住 . 33)例 え ば,1954 年対 ド イ ツ 条約第 15 条第 1 項 a.なお,後掲注 56)も参照. 34)例えば,1967 年対フランス条約第 22 条第 4 項 a.なお,後掲注 50)も参照. 35)1980 年対カナダ条約第 29 条第 2 項. 36)例 え ば,1984 年対中国条約議定書第 2 条. 前掲注 23)で触れた 1966 年対英国条約も参照.な お,本稿第 2 章第 1 節も参照. 37)US Treaties Ⅱ, supra note 29, at 51─52. 38)See Technical Explanation, supra note 27, at 3─4. 39)Saving Clause が 相互主義 に 則って い る こ とについては,前掲注 21)も参照. 40)US Treaties Ⅱ, supra note 29, at 52. 後者の 例として,1984 年対中国条約がある. 41)US Treaties Ⅱ, supra note 29, at 52─53. 前 者 の 例 と し て,2004 年対日本租税条約第 1 条第 4 項が,後者の例として,1973 年対ソビエト連邦条 約第 12 条がある. 42)See Technical Explanation, supra note 27, at 3..

(6) 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 1・2 号(2010 年 8 月). 102 (102). 地国が決まる43).Saving Clause の適用も,そ. が定める特典は,自国において一時的に居住者. こでの振り分けに従うこととなる.なお,米国. としての地位を有する者も享受できる.. が締結した二国間租税条約の内,相手国居住者. 3.この第 1 条第 5 項が言及している諸規定は,. の定義から,米国市民や米国居住者が除いてあ. 市民と居住者(一時的居住者も含む.)に対し,. 44). るものがあった .かかる租税条約は,明文で. 国内法令には存在しない便益を与えることを意. Saving Clause を定めていないものの,実質的. 図している47).これら諸規定の内,最も重要な. には Saving Clause を定めている場合と同じ結. のが,二重課税の排除を定める規定である48).. 45). 果を生み出し得た,という .. 米国居住者・市民は,租税条約の定める要件に. 第 2 款 Saving Clause の例外. 従って,二重課税の救済を求めることができ. 1.こ の よ う に,一口 で Saving Clause と 言っ. る.この場合,その要件が,二重課税排除に関. ても,そ の 形態 は様々である.以下では便宜. する国内税法の定めるそれより緩ければ,米国. 上,米国モデル租税条約が定めている Saving. 居住者・市民にとっては有利である49).. Clause を前提として,議論を進めていきたい.. 4.な お,既 に 見 た 通 り,Saving Clause の 例. 2. さ て,Saving Clause は, 国 内 法 に よ る. 外として,政府職員に対する報酬の課税関係を. 自国居住者 と 自国市民 に 対 す る 課税 を,明文. 定める規定があがっている.この点,対フラン. 上,租税条約の対象から外している.その上で. ス条約第 16 条が定める課税上の取扱いにつき,. Saving Clause は,そのような取扱いが一定の. ルーリングがある50).. 例外に服することをも,明文で定めている.上. 第 3 節 Saving Clause の意義. に掲げた米国モデル租税条約に即すると,第 1. 以上,Saving Clause の 沿革 と,そ の 定 め. 条第 5 項が,ここでいう例外を列挙している. この定めは,二つに大別できる46). 1)第 一 が,第 9 条(特 殊 関 連 企 業)第 2 項, 第 17 条(退職年金,社会保障給付金,保険年 金,離婚扶養料及 び 養育費)第 1 項b) ,第 2 項及 び 第 5 項,第 18 条(年金基金)第 1 項及 び第 4 項,第 23 条(二重課税の緩和措置) ,第 24 条(無差別取扱い)並びに第 25 条(相互協議) である.これらの規定が定める特典は,自国居 住者・市民も享受できる. 2)第 二 が,第 18 条(年 金 基 金)第 2 項,第 19 条(政府職員) ,第 20 条(学生及 び 研修員) 及び第 27 条(外交官)である.これらの規定 . 43)米国モデル租税条約では,第 4 条に,居住 地の振り分けを定める規定が存在する.なお,See Technical Explanation, supra note 27, at 14. 44)1949 年対アイルランド条約第 2 条第 1 項 g 及び 1959 年対パキスタン条約第 2 条第 1 項 i. 45)US Treaties Ⅱ, supra note 29, at 52. 46)See Technical Explanation, supra note 27, at 4─5.. . 47)See Id. at 4. なお,国際法規の国内的効力と の関連で,前掲注 5)も参照. 48)US Treaties Ⅱ, supra note 29, at 46. 49)See THE AMERICAN LAW INSTITUTE, FEDERAL I NCOME T AX P ROJECT I NTERNATIONAL A SPECTS OF UNITED STATES INCOME TAXATION Ⅱ PROPOSALS ON UNITED STATES INCOME TAX TREATIES 230(1992) [herinafter cited as ALI]. もっとも,米国モデル 条約の第 23 条は内国歳入法典の税額控除の規定に 間接的に言及し,この規定を適用可能としている. このため,米国居住者・市民に対する課税は,専 ら内国歳入法典に基づいて決まる.US Treaties Ⅱ, supra note 29, at 48. 50)Rev. Rul. 84─174, 1984─2 C.B. 339.対 フ ラ ンス条約第 16 条第 1 項は,政府関係 の 機能 を 遂行 する上で一方の締約国に対し当該締約国の国民が 提供した役務につき,当該締約国が設立した基金 から当該締約国が当該国民に支払った報酬は,当 該締約国のみで課税できる,と定めている.一方, 同条約第 22 条第 4 項 a ⅲの下,米国市民でもなく, 米国において移民としての地位を有してもいない 個人が同条約第 16 条の適用対象である場合には, 同条約 の Saving Clause で あ る 同条約第 22 条第 4 項 a は,同条約第 16 条に影響を与えない. ここで前提となっているのは,フランス政府が, 米国で政府関係の活動を遂行すべく,全額出資し,.

(7) 居住者に対する租税条約の適用局面(鈴木). (103) 103. る 内容 を 見 て き た.こ こ で は,そ の よ う な. 1)第一 に,租税条約上 の 所得分類 と 税源配分. Saving Clause の意義に関し,以下の二点との. に関する諸規定は,先の米国モデル租税条約を. つながりで,識者の見解を見ておきたい.. 見ると,主に所得の源泉地国の課税権にのみ影. 第 1 款 米国の租税条約政策と Saving Clause. 響を及ぼすこととなる54).というのも,源泉地. 1.まず,Saving Clause は,米国の租税条約政. 国で課税対象となった所得については,居住地. 策として確立している一つの命題を前提として. 国が税額控除を認めれば二重課税は回避できる. いる.その命題というのは,租税条約は二重課. ので,居住地国がその所得を免税する必要はな. 税の排除を目的とし,それは,国内法による米. いというのである55).これとの関連で,配分規. 国居住者及び市民に対する課税に介入しない,. 範の定めと Saving Clause の例外を列挙する条. 51). というものである .逆に言えば,米国居住者・. 項との関係につき,ルーリングがある56).これ. 市民に対する全世界所得課税を租税条約上制限. によれば,源泉地国の排他的課税を定める配分. するためには,租税条約の中にその旨の定めが. 規範が Saving Clause の例外とはなっていない. 必要であることとなる52).Saving Clause の例. 場合 に お い て,米国居住者・市民 は,Saving. 外としてあがっている条約条項がこの定めに該. Clause の下,米国で課税を受ける,という.. 当し,これによって,二重課税を排除するとい. 2)第二に,Saving Clause は,租税条約上の諸. う租税条約の締結目的を保つこともできるので. 規定と,締約国の国内法との間の抵触関係を,. ある53).. 存在し得なくする(あるいは,Saving Clause は,. 2.こ れ を 前提 と す る と,Saving Clause は,. 57) 租税条約の濫用を防止する効果を有する) .例. より具体的に言えば,以下の二つの効果をもた. えば,米国が米国法に基づき米国の市民に課税. らすこととなる.. するという局面において,効力を有するのは米. . 米国法を準拠法として法人を設立していたという 事例 で あ る.当該米国法人 は,当該政府関係 の 活 動のみを行っており,当該法人の資金源は,専ら フランス政府からの資本投資のみであった.当該 米国法人 に は,た だ 一人,従業員 が い た.当該従 業員はフランス国民であり,米国居住者でもあっ たものの,米国市民権も,米国において移民とし ての地位も有していない.当該従業員は,当該米 国法人の活動との関連で当該米国法人に役務を提 供し,当該米国法人は,当該従業員に賃金を支払っ ていた. このルーリングは,かかるフランス国籍を有す る米国居住者が,フランス政府設立の米国法人か ら,その米国法人が遂行する政府関係機能の対価 として受け取った賃金は,米国が課税できない, としている. 51)ALI, supra note 49, at 229; US Treaties Ⅱ, supra note 29, at 50. こ れ と の 関連 で,Doernberg, Overriding Tax Treaties: The U. S. perspective, 9 EMORY INT’L L. REV. 71, 73(1995)は,Saving Clause は「国 際的合意を通じて自国の課税権を束縛することに 対する米国の不愉快(discomfort)を体現している. 」 と述べている. 52)US Treaties Ⅱ, supra note 29, at 45. 53)Id. at 44─45.. 国の国内法のみであり,租税条約は効力を有さ ない,と構成するのである.こうすれば,当該 米国法と租税条約の諸規定との間に,抵触は生 じないという58).. . 54)Id. at 48, 50. 55)Id. at 49. 56)Rev. Rul. 59─56, 1959─1 C. B. 737. このルーリ ングは,対ドイツ租税条約第 9 条に関するものであ る.この条約規定は,不動産所得につき,当該不動 産の所在地国における排他的課税を規定している. 一方,同条約第 15 条は,Saving Clause の例外とし て,同条約第 9 条を含めていない.このような状況 下において,同ルーリングは,同条約第 9 条は同条 約第 15 条に照らして読まなければならないとした 上で,米国は不動産所得につき,同条約上,米国居 住者・市民に対する課税権を保持している,として いる. 57)US Treaties Ⅰ, supra note 20, at 24; US Treaties Ⅱ, supra note 29, at 47, 49─50. 58)See J. BECERRA, INTERPRETATION AND APPLICATION OF TAX TREATIES IN NORTH AMERICA 99(2007)..

(8) 104 (104). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 1・2 号(2010 年 8 月). 第 2 款 1992 年 Doernberg 他論文が構想する Saving Clause. との意味を問わねばならないだろう60). 2)米国が市民に対する課税権を保持したいの. 1.以上,Saving Clause の意義を,米国の租税. であれば,条約上,米国市民を米国居住者とし. 条約政策との関係で見てきた.Saving Clause. て取り扱うことができる旨,規定すべきである.. の背後には,米国居住者と市民への全世界所得. 条約上の非居住者である市民を,条約上の居住. 課税を極力保持する一方で,税額控除により二. 者である市民よりも,不利に扱う理由はないか. 重課税を排除する,という米国の国際租税政策. らである(後者は,条約上の特典を主張できる).. が透けて見える.. さらに,そうすれば,Saving Clause の例外た. 2. こ こ で は 少 し 視 点 を 変 え て,Saving. る規定の大部分が,必要なくなる61).. Clause と の 関連 で,1992 年,米国 の 論者 で. 3)一方,居住地の振り分け規定(米国モデル. あ る Doernberg が 共著 で 公表 し た 論文(以. 条約の第 4 条に相当)を有さない条約において. 下,Doernberg 他論文 と い う. )に 言及 し て. は,Saving Clause の存在意義がある62).. お き た い.Doernberg 他論文 は,1996 年 の 米. 4.以上 が Doernberg 他論文 の 骨子 で あ る.. 国モデル条約改正に向けて,Saving Clause の. Doernberg 他論文 は,Saving Clause に つ き,. 改正 の 方向性 を 示 し て い る.既 に 見 た 通 り,. 居住者への言及を見直すことに加え,例外たる. Saving Clause は 自国居住者 と 市民 の 双方 に. 規定の列挙をも大幅に削るといった大胆な提. 言及しているものの,Doernberg 他論文の骨. 案を含んでいる.もっとも,1996 年に改正と. 子 は,Saving Clause が 居住者 に 言及 す る 必. なった米国モデル条約は,従来通りの一般的な. 59). 要 は な い,と い う も の で あ る .もっと も,. Saving Clause とその例外列挙規定を含み,結. Doernberg 他論文の説くところはそれだけに. 果として Doernberg 他論文の主張は実現して. 止まらず,以下に見るように,米国モデル租税. いない63).. 条約における Saving Clause の抜本的改正を指. 5.Dornberg は,後 に 共著 で,こ の 1996 年 モ. 向するようにも読みとれる.. デル租税条約を対象とした書籍を刊行した.こ. 3.Doernberg 他論文の説くところを整理して. れに基づき,若干,ここでの議論を補足してお. おこう.. こう64).Doernberg が念頭に置いているのは,. 1)Saving Clause は,居住者 に 言及 す る 必要. 1996 年の米国モデル租税条約第 4 条第 1 項が,. はない.なぜならば,条約交渉において合意に 達した課税権の配分を,覆すようなことになる のは不自然だからである.仮にある所得の課税. 「一方の締約国の居住者」として,どのような 者を定めているか,である.この定めによると, 「一方の締約国の居住者」は,次のような者であ. 権を,その所得の源泉地国にのみ配分したとし. る. 「当該一方の国の法令の下において,住所,. て,一方で Saving Clause に基づき,居住地国. 居所,市民権・・・そ の 他 こ れ ら に 類 す る 基. がその所得に課税する,ということがあり得る か.もしあり得るとしたら,そもそもその所得 に対する課税権を,源泉地国のみに配分したこ . 59)Doernberg and van Raad, The Forthcoming U.S. Model Income Tax Treaty and the Saving Clause, 1992 TNI 775, 780. この論文の Saving Clause に関 する記述の大部分は,市民に対する国内法令によ る課税を前提としているように読むことができる. Id. 775─77.. . 60)Id. at 778, 780. 61)Id. at 780─82. 62)Id. at 780. 著者 は こ こ で 例 と し て,対英国 租税条約をあげている.これとの関連では,前掲 注 32)を参照. 63)この点,2006 年公表の米国モデル租税条約 においても,同様である. 64)1996 US Convention, supra note 30, at 12, 32..

(9) 居住者に対する租税条約の適用局面(鈴木). (105) 105. 準により当該一方の締約国において課税を受け. 対する言及に Doernberg 他論文が触れているこ. るべきものとされる者・・・. (それには─注). ととのつながりで,少し注目しておきたい.と. 当該一方の国内に源泉のある所得・・・のみに. いうのも,Doernberg 他論文はここで,配分規. ついて当該一方の国において課税を受けるべき. 範による税源配分の結果を Saving Clause で覆. 65). ものとされる者を含まない. 」 つまり,1996 年. すことを,問題視しているようだからである69).. の米国モデル条約の定義上,国内法に基づき全. 寧ろ,このような場合にこそ,Saving Cluase の. 世界所得について課税を受けるべき者が,居住. 例外を列挙する規定が,重要な意味を持ってく. 66). 者なのである .よって,Saving Clause によっ. るのである70).. て,居住者に対する課税権の保持を定める必要 はないというのが,先の Dornberg 他論文の出. 小 括. 発点なのである67).. 1.以 上,米 国 の 租 税 条 約 に お け る Saving. 6.このような Doernberg 他論文との関連では,. Clause の展開を整理してきた.米国において. 次の二点を指摘しておきたい.. は,本稿の冒頭で述べたような原則と例外の関. 1)第一に,Doernberg 他論文が示した Saving. 係が,租税条約の締結が始まった頃から確立し. Clause の改正案は,実際のモデル租税条約の. ていたことになる.米国居住者・市民は,その. 改正において,何も影響を与えていないもの. 全世界所得につき,米国において課税を受けつ. の,この理由は定かではない.ただ,条約規定. つ,税額控除を受けることが大原則であり,そ. と国内税法との抵触の回避や,条約の濫用の防. の原則が覆ることは,ほぼない.かかる原則を. 68). 止といった先述. のこととの関連で,まだ考. 貫徹するために,米国は,OECD モデル条約. 慮すべき点が残っていそうである (これにつき,. に留保を付した上で,米国の租税条約に,様々. Doernberg 他論文は,何も言及していない) .. な形で Saving Clause を入れてきたのである.. 2)第二に,Doernberg 他論文は,Saving Clause. さらに,Saving Clause からは,米国法と租税. の例外たる規定を減らすことを提案している.. 条約との抵触,及び,納税者による租税条約の. この点につき,Saving Clause における居住者に. 濫用を防止するという効果が派生する.. . 65)1996 年公表 の 米国 モ デ ル 租税条約 の 仮訳 と し て,横浜国際租税法研究会訳(鈴木悠哉分担) 「1996 年アメリカ合衆国モデル租税条約」租税研究 625 号 140 頁以下(2001). 66)このような居住者に関する定めは,2006 年 公表の米国モデル租税条約においても,同様であ る.See Technical Explanation, supra note 27, at 13. なお,李昌煕 = 増井良啓「租税条約上の居住者 概念は全世界所得課税を要件とするか─各国裁判 例 の 分析─」ジュリ 1362 号 121 頁以下(2008)も 併せて参照. 67)Doernberg はこれとの関係で,市民に対す る全世界所得課税を行わない国にとって,Saving Clause の意義は薄い,としている.US Treaties Ⅱ, supra note 29, at 47. なお,Saving Clause の最も重 要な効果を,非居住者たる米国市民に対し,米国 が課税権を保持することである,と述べるものと して,ALI, supra note 49, at 231. 68)本章本節第 1 款.. 2.いずれにせよ,米国の租税条約締結ポリシー の中で,Saving Clause が極めて重要な地位を 占めることは,明らかである.もっとも,本稿 の冒頭に触れた通り,米国は昨今,国外払い配 当の免税措置を導入しつつある.このような状 況下においては,Saving Clause を取り巻く米 国の政策に,変化が現れるかもしれない. 3.一方,Doernberg 他論文との関連では,同 論文が米国モデル条約に何の影響も与えていな いことと,Saving Clause の例外を定める規定 との関連で,検討すべき課題が残る. . 69)この点,前掲注 56)も参照. 70)既 に 見 た 通 り,Saving Clause の 例外 と し て掲げてある諸規定の中には,所得源泉地国の排 他的課税を定める規定が存する..

(10) 106 (106). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 1・2 号(2010 年 8 月). 4.このような Saving Clause に対し,米国以. 明らかである74).一方,米国以外の国は,租税. 外の国の論者はどのような目を向けているの. 条約の諸規定が,居住者に対する課税を制限す. か.Saving Clause の 定 め る こ と は,い わ ゆ. るものとは,ほとんど考えていない,というの. る「原則」として,確立しているのか.次の. である75).. 章ではこの点につき,検討を加えることとし. 第 2 款 K. Vogel. たい.. 1.これに対し Vogel は,ドイツの立場を代表. 第 2 章 Saving の原則の確立如何. し て,Saving Clause に 消極的見解 を 示 す76). ま ず Vogel は,租税条約 は 米国居住者 に 対 す. 第 1 節 米国の外側から見た Saving Clause の. る 課税権 を 制限 せ ず,国内法 の 税額控除規定. 様相. に よって 米国居住者 に 対 す る 二重課税 を 排除. 本稿の冒頭に掲げた通り,米国外の論者の中. す る の が,米国 の 立場 で あ る,と 整理 す る.. にも,Saving Cluase が,ある種の原則として. ところが Vogel は,課税権の配分規範こそが. 確立している,と述べる論者は多くいる71).こ. 租税条約の大原則たる規定であり,そこには. こでは Saving Clause に関し,より具体的に自. そもそも,Saving Clause が機能する余地はな. 己の見解を表明している三名の論者を見ていく. い と い う77).Vogel は,こ れ こ そ が,1920 年. こととしよう.. 代に国際連盟が始めたモデル租税条約の作成. 第 1 款 J. Sasseville. 作業を貫く指針であり78),かかる指針を,欧. 1.Sasseville は,本稿 の 冒頭 で 述 べ た 原則 と 例外の関係を,ほぼそのまま承認している72). すなわち,租税条約の諸規定の大半は,非居住 者に対する課税を制限する,という見解を,一 方では支持している.ただもう一方で,租税条 約には,自国居住者に対する課税に影響を及ぼ す規定も僅かに存在する,という.その上で, そ の 僅 か な 規定 と い う の が,ま さ に Saving Clause の 例外列挙規定 に 定 め る 条項 で あ る, と説く. 2.さらに Sasseville は,米国が締約国ではな い租税条約に Saving Clause が存在しない理由 を,租税条約と国内税法の抵触の回避という文 脈で論じる.既に見た通り73)Saving Clause に は,租税条約と国内税法との間の抵触を存在し 得なくする効果がある.このことは,Saving Clause を,そ の 例外列挙規定 と 併読 す る と, . 71)前掲注 12)を参照. 72)Sasseville, A TAX TREATY PERSPECTIVE: SPECIAL ISSUES, in 2 EC AND INTERNATIONAL TAX LAW SERIES: TAX TREATIES AND DOMESTIC LAW 37, 49(G. Maisto ed. 2006). 73)第 1 章第 3 節第 1 款.. . 74)See Sasseville, supra note 72, at 50. 75)Id. 76)General Discussion, in I NTERPRETATION OF TAX LAW AND TREATIES AND TRANSFER PRICING IN J APAN AND G ERMANY 127, 131─32(K. Vogel ed. 1998)[hereinafter cited as Discussion]. 77)Vogel は 別 の と こ ろ で,Saving Clause に 基づき自国居住者を課税対象にすれば,配分規範 か ら 逸脱 す る,と 説 い て い る.VOGEL, supra note 10, at 109─10. 該当箇所を訳出しておこう. 「配分規 範が他方の締約国に,当該国の源泉から生じる所 得に対する第一義的な課税権を与え,居住地国に おける課税を不問に付している場合には,源泉地 国に支払われた租税に対し米国が税額控除を行う 義務は,実際,Saving Clause に影響を受けない. Saving Clause に基づき,米国が(条約の意味にお いて)米国市民及び米国居住者に課税することが できるのは,配分規範が他方の締約国に対し,あ る種の所得に対する排他的課税権を認めている場 合のみである.これには,当該他方の締約国が条 約上の居住地国である場合と, (極めて稀ではある ものの)源泉地国がある種の所得に対する排他的 課税権を有する場合とがある.故にこの場合,配 分規範の定めから乖離しているのである. 」 78)Vogel は 明言 し て い な い も の の,こ こ で Vogel が問題としているのは,恐らく,1920 年に 開始 し た 国際連盟財政委員会 に よ る 検討 で あ る. 同委員会では,租税条約による二重課税の排除と い う 目的上,所得源泉地国 と 居住地国 と の 間 で,.

(11) 居住者に対する租税条約の適用局面(鈴木). (107) 107. 州諸国は受け入れている,と説く.OECD や. 2.もっと も,Saving Clause と の 関連 で,別. 国際連合が作成したモデル租税条約が Saving. の所では,「合衆国の考え方は,確かに日本の. Clause を含まないのは,このような事情があっ. それと異なるが,それほど非常識とは思われな. たという.. 82) い.」 としており,一貫していない.. 2.Vogel によれば,Saving Clause は米国特有. 第 4 款 検 討. のものであり,条約相手国は,米国の経済力を. 1.以上,三名の識者の見解を見てきた.ここで,. 背景に,それを条約に含めることを同意してい. これらの見解につき,以下の四点を指摘してお. 79). るに過ぎない .. こう.. 第 3 款 村井正. 2.第一に,この三者の見解には,一つ共通点. 1.村井 も,Saving Clause が 米国特有 の も の. がある.それは,租税条約が,居住地国たる締. であるとの見解を示している80).その理由付. 約国の課税権に影響を与える局面がある,とい. けは,次の通りである.曰く, 「セービング・. うことである.Saving Clause の普遍性を否定. クローズが仮に国際的なルールであれば当然. する Vogel と村井はもとより,原則と例外の. OECD モデル条約にも入ってくるはずであり,. 関係をほぼ受け入れる Sasseville も,まさに例. 日本以外の欧州諸国もアメリカとの二国間条約. 外としての局面の存在を肯定している.. でセービング・クローズのような条文を入れる. 3.第二に,Saving の原則の確立如何を巡って. はずである.しかし,実際には非常に少なく,. は,その母法とでも言うべき米国と,欧州諸国. 例えば米独租税条約中にも入っているが,条約. との間に深い対立を見ることができる.この対. 本文ではなく・・・プロトコル・・・に入って. 立軸は,主に二つに分けることができる.. いるのである.やはりドイツ側としてはセービ. 1)一つが,国際的二重課税の排除方法の相違. ング・クローズは国際的なルールとして確立し. である.Vogel が説くように,租税条約上,課. たいという理解はしておらず,アメリカが執拗. 税所得を配分するという方法と,居住地におけ. に主張したためやむを得ずプロトコルに入れた. る全世界所得課税を前提に,居住地国で税額控. という理解を示しているようである. ・・・セー. 除を行うという方法である.前者が欧州諸国で. ビング・クローズ・・・は租税条約で明定され. あり,後者が,既に見たように83),米国である.. 81). た場合に限定すべきである・・・. 」. この点,繰り返しになるものの,冒頭で触れた 米国の国外払い配当に対する課税免除措置が与. . 所得分類に基づく課税権の配分を行うことが最も 実務的である,との提案があった.これは居住地 国課税を原則とし,二重課税を,専ら国内法上の 税額控除規定で救済しようという立場とは異なる. なお,国際連盟財政委員会における検討について は,赤松晃『国際租税原則 と 日本 の 国際租税法─ 国際的事業活動と独立企業間原則を中心に─』(税 務研究会出版局,2001)を 参照(特 に,同書 の 6 頁以下). 79)Discussion, supra note 76, at 132. 80)以下で引用するものの他に,Murai, Interpretation of Tax Treaties in Japan, in INTERPRETATION OF TAX LAW AND TREATIES AND TRANSFER PRICING IN JAPAN AND GERMANY 111, 114─15(K. Vogel ed. 1998). 81)村井正「租税条約 の 解釈─租税条約 と 国内 法─」『租税法─理論と政策─[第三版]』265 頁以. える影響に,着目する必要があろう. 2)二つが,租税条約と国内税法との抵触又は 租税条約 の 濫用 に 関 す る 認識 の 相違 で あ る. Sasseville によると,米国以外の国は,自国居 住者に対する課税が租税条約の影響を受けるこ とはほとんどないと考え,Saving Clause を租 . 下(青林書院,1999,初出 1997) .村井 は 別 の と ころで,Preservation Clause との関連でも,同様 の説明を展開している.村井正「国際租税法の根 底にあるもの」同編著『教材 国際租税法 新版』 14 頁(慈学社,2006) . 82)村井・前掲注 81) 「国際租税法の根底」15 頁. 83)第 1 章第 3 節第 1 款..

(12) 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 1・2 号(2010 年 8 月). 108 (108). 税条約に入れる必要性を認めない.一方,米国. 1)第一 に,租税条約上,配分規範 は ど の よ. は,まさに米国法に基づく米国居住者・市民に. う な 定 め と なって い る の か を 見 る.Saving. 対す る 課税 が,米国を締約国とする租税条約. Clause が 存 在 し な い 条 約 に お い て Saving. との関係で何らかの矛盾を来すことを懸念し,. Clause が定める通りの課税関係が帰結すると. Saving Clause を必要とする.. すれば,それは,配分規範がどのように定めて. 4.第三 に,租税条約上 の 配分規範 と の 関係. いるときか.その逆に,源泉地国のみの課税が. で Saving Clause が機能する余地がない,と. 帰結するのは,どのような配分規範の定めがあ. している Vogel の見解には,先の Doernberg. るときか.これらにつき,検討する.. 他論文と同じことが 84)妥当しよう.すなわち,. 2)第二 に,租税条約 と 国内税法 の 抵触及 び. 配分規範によってある所得の課税権を専らそ. 租税条約の濫用という問題が,どのような解. の 源泉地国 に 配分 し つ つ,Saving Clause の. 決を見ているのかを見る.先に触れた通り87),. 例外として当該配分規範を定めるのである.. Saving Clause には,このような租税条約と国. 5. 第 四 に, 村 井 は,Saving Clause が 議 定. 内税法の相互関係から生じる諸問題を未然に. 書 に 存 す る 例 を 引 き 合 い に 出 し て い る.た. 防ぐ効果がある.Sasseville の指摘によると88),. 85). だ,既 に 見 た 通 り ,米国 の 論者 は,Saving. この点に関する米国以外の国の意識は,それほ. Clause の定め方の違いに,何らかの効果上の. ど高くないようであるけれど,実態はどうなの. 差異を見出してはいない.そもそも議定書は,. か.これを検討する.. 国際法上,「条約の附属書ではなく新たな条約. 第 1 款 配分規範の態様 . であり,発効の手続は本体条約と変わらない. 1.いまかりに,A国とB国が租税条約を締結. ことが多い.」86)よって,Saving Clause を定め. しているとする.この租税条約の中には,明示. ているのが条約本体であっても,議定書であっ. 的な Saving Cluase が存在しない.このような. ても,実体法的に何らかの違いが生じること. 状況下で,AB間租税条約上の配分規範がどの. はないだろう.. ように定めれば,Saving Clause と同じ課税結 果となるか,又は,Saving Clause の例外の定. 第 2 節 米国外への展開. める課税結果となるか.. 1.以上,Saving Clause を,米国 の 外 か ら 見. 2.この点,Vogel は,次のような類型化を行っ. てきた.少なくとも言えるのは,租税条約上,. ている89).. Saving Clause が,一種の原則とでも言うべき. 1)まず,ある所得に関する配分規範が,「shall. ものになっているかどうかということについて. be taxable only in A(A に お い て の み 租税 を. は,異論がある,ということである.. 課するものとする)」と定めているものとする.. 2.ここでは,米国が締約国ではない租税条約. この場合,当該所得に対してはA国のみが課税. において,Saving Clause の定める精神とでも. でき,B国は課税できない.この場合 B 国が,. いうべきものが,どの程度息づいているのか,. 納税者の居住地国であるか否かは関係ない90).. 少し踏み込んで見ていきたい.以下の二点が, 検討対象である. . 84)第 1 章第 3 節第 2 款. 85)第 1 章第 2 節第 1 款. 86)小寺彰ほか編『講義国際法』50 頁以下(有 斐閣,2004).. . 87)第 1 章第 3 節第 1 款. 88)本章第 1 節第 1 款. 89)VOGEL, supra note 10, at 358─59. 90)Id. at 359. ち な み に,OECD モ デ ル 租税条 約をベンチマークとすると,例えば第 19 条第 1 項 a が,ここでいう配分規範に該当する.同規定は, 納税者がある締約国の地方政府等に役務を提供し,.

(13) 居住者に対する租税条約の適用局面(鈴木). (109) 109. 米国モデル租税条約においても,このことは妥. ある.この第 5 条は,別段の定めが無い限り,. 当する.すなわち,相手国においてのみ租税を. 所得については,それが生じた加盟国のみ租税. 課するものとする,と配分規範で定めつつ,当. を課することができる,と定めている.なお,. 該配分規範を Saving Clause の例外とするので. モデル租税条約としては,アンデス共同体・モ. 91). ある .. 97) デ ル 租税条約(4 条) が,所得源泉地国 の 排. 2)一方,ある所得に関する配分規範が, 「may. 他的課税を広範に定めている.. be taxed in A(A において租税を課すること. 第 2 款 抵触及び濫用の解消効果 . ができる) 」と定めているものとする.この配. 1.このように,Vogel の解釈を前提とすると,. 分規範が定めているのは,当該所得について A. Saving Clause とその例外を明文で定めている. 国が課税できるということだけである.すなわ. 場合とほぼ同様の課税結果が,それ以外の条約. ち,この配分規範は,B 国については何も語っ. との関係でも実現できるようである.. 92). て い な い(remain open) の で,B 国 は,例. 2.で は,租税条約 と 国内税法 と の 抵触 の 解. えば居住者たる納税者の全世界所得に課税し,. 消及 び 租税条約 の 濫用 の 防止 に つ い て は ど. 別途,税額控除等を認めるのである.. う か.こ れ に つ い て は Sasseville が,英 国. 3.以上,Vogel の類型化を紹介してきた.なお,. の Padmore 事件98)と の 絡 み で 問題 を 提起 し. 一つ考えておかなければならないのが, 「A に. て い る99).こ の 事件 の 原告 は 英国居住者 で あ. おいてのみ租税を課するものとする」という条. り,ジャージーで 事業活動 を 行 う パート ナー. 約規定 の 直接適用可能性. 93). で あ る.こ れ に つ. シップ の パート ナーで あった.原告 は,当該. い て は,A が 源泉地国 の 場合,直接適用可能. パートナーの利得に関する自身の持分が,英. である,との見解があるので94),居住地国での. 国 が ジャージーと 締結 し た 租税条約 の「企業. 課税免除を定める規定も, 同様に直接適用あり,. の 利得」に 該当 し,英国 で 免税 と な る,と 主. と言えるかもしれない95).. 張した.事件は原告の勝訴で終わったものの,. 4.ちなみに,Vogel の類型化を前提とすると,. Sasseville の 問題意識 は,Saving Clause が 明. 所得源泉地国の排他的課税を広範に定める条約. 文で定まっている状況では,かかる免税の如. 96). 例 と し て,カ リ ブ 共同体多国間租税協定 . が. 当該役務について当該締約国から報酬等を受け取 る場合には,当該報酬等に対しては当該締約国の みが課税できる,と定めている. 91)VOGEL, supra note 10, at 358─59. こ の Vogel の書籍は,1981 年公表の米国モデル租税条約を前 提としているものの,現行の 2006 年モデル租税条 約においても,ここでの分析は妥当しよう. 92)Id. at 359. 93)この概念については,岩沢雄司『条約の国 内適用可能性─いわゆる “SELF-EXECUTING” な 条約に関する一考察─』(有斐閣,1985)を参照. 94)井上 = 仲谷・前掲注 12)184 頁以下. 95)もっとも,井上 = 仲谷・前掲注 12)90 頁は, 租税条約上の所得区分の規定が,専ら非居住者の対 内活動を指向している, と指摘しており,疑義が残る. 96)仮訳 と し て,横浜国際租税法研究会訳(金 子陽明分担)「1994 年 カ リ ブ 共同体多国間租税協 定」租税研究 726 号 346 頁以下(2010)がある.. 何は問題とはならなかったであろう,という ものである.すなわち,自国居住者に対する 国内法に基づく課税は,一定の例外を除き租 税条約の制限を受けないので,原告は英国法 . 97)仮訳 と し て,横浜国際租税法研究会訳(金 子陽明分担) 「1971 年アンデス共同体・モデル租税 条約」租税研究 622 号 93 頁以下(2001)がある. 98)Padmore v. Commissioner of Inland Revenue, 62 Tax Cas. 362(Ch. D. 1986) , aff’d , 62 Tax Cas. 371 (C. A. 1989) .同事件に関しては,本浪章市「トリー ティー・オーバーラ イ ド へ の 序章─ フィリップ・ ベーカーの所説と英国判例を中心として─」関法 51 巻 2・3 号 410 頁以下(2001)にも紹介がある. 99)Sasseville, supra note 72, at 50─53. Sasseville は本文中で掲げた問題意識の下,関連する事件とし て,この Padmore 事件を含め,三つの事件に言及 している..

(14) 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 1・2 号(2010 年 8 月). 110 (110). に基づく課税を当然受けることとなる,とい. 得に対する持分に課税する当該他方の締約国の. うのである100).. 104) 課税権に対しては適用されない.」. 3.この Sasseville の問題意識は,既に見た通. 2)こ の コ メ ン タ リーは,OECD が 1999 年 に. り101),自国居住者 へ の 課税 に お け る 租税条約. 公表した報告書を受けている105).同報告書で. の影響という点に,米国以外の国が関心を示. 検討対象となっているのは,以下のような事例. さないことが前提となっている.論者の中に. である106).. は,国内法に基づく自国居住者に対する課税に. ⑴パートナーシップPがP国で設立.. つき,租税条約に基づき異議を唱えることも. ⑵PはP国に事務所(恒久的施設)を保持.. できる,と述べる者もいる102).ただ,Saving. ⑶PはP国の法令に従いP国において課税を受. Clause のこのような側面が,米国以外の専門. けるべきものとされる者であり,P国の居住者.. 家にとってよそ事(foreign)であることに, か. ⑷PのパートナーAはP国の居住者で,同じく. わりはない. 103). .. PのパートナーであるBはR国の居住者.. 4.もっとも,Sasseville の問題意識は,OECD. ⑸Pは,P国では独立した課税客体であり,R. も共有している.紹介しておこう.. 国では課税上トランスパレント.. 1)OECD は 2000 年 よ り,モ デ ル 租税条約 の. ⑹PはR国から使用料を受領(これは,R国に. コメンタリーにて,自国居住者が,租税条約相. おける恒久的施設には帰属せず).. 手国 に 居住 し て いるパートナーシップの一員. ⑺P国─R国間の租税条約の使用料条項による. である場合の課税関係に言及している.曰く,. と,P受領の使用料につき,R国はPに課税不. 「パートナーシップが一方の締約国の居住者と. 可(使用料については,その受益者の居住地国. して取り扱われる場合には,パートナーシップ. における排他的課税を規定).. の所得に対して租税を課する他方の締約国の権. ⑻この場合,R国はBに,Pの所得持分につき,. 利を制限するこの条約の規定は,自国の居住者. 課税できるか.. であるパートナーの当該パートナーシップの所. 3)この問題提起に対する OECD 加盟国の見解 は,以下の通りである.. . 100)Id. at 51, 51 n. 29. 既 に 見 た 通 り,事業所 得に関し恒久的施設所在地国の課税を認めている 規定は,Saving Clause の例外とはなっていない. ち な み に Padmore 事件 の 原告 は,別 の 年度 に お け る 英国所得税 の 査定 を 巡って も 訴 え を 起 こ し,そ の 判決 が 2001 年 に 出 て い る.Padmore v. Commissioners of Inland Revenue(No. 2), 73 T. C. 470(Ch. D. 2001). ここでは原告は敗訴したも の の,Saving Clause に 関 す る 問題解決 は な かっ た.この事件の審級関係は定かではないものの, 本稿執筆時点において,上級審の判断は出ていな いようである. 101)本章第 1 節第 1 款. 102)See P. BAKER, DOUBLE TAXATION CONVENTIONS (THOMSON SWEET & MAXWELL)1─2/33 (September, 2002) [hereinafter cited as Baker] . 著 者は英国の論者であり,本文中で示した立場こそ, Padmore 事件以後, 英国が採用している立場である, という.Id. at 1─2/33 n. 1. 103)See Sasseville, supra note 72, at 53.. ⑴P国─R国間租税条約 の 中 に Saving Clause 等が存在しない限り,同租税条約上,R国はB 107) に課税不可(少数) .. ⑵P国─R国間租税条約の使用料条項は,この ようなBの居住に基づく課税に影響を与えない ので,R国はBに課税可(多数).というのも, R国がBに課税するということは,R国は自国 居住者の自国領域内で生じる所得に課税するこ . 104)OECD モデル租税条約コメンタリー(2008 年版)第 1 条関連第 6.1 パラグラフ. 105)OECD, T HE A PPLICATION OF THE OECD MODEL TAX CONVENTION TO PARTNERSHIPS para. 128 (1999) , reprinted in 2 MODEL TAX CONVENTION ON INCOME AND ON CAPITAL(OECD)R(15) ─1 to R (15) ─138(Apr. 2000). 106)Id. at paras. 124─29. 107)Id. at para. 126..

(15) 居住者に対する租税条約の適用局面(鈴木). (111) 111. とを意味するからである108).. て全く適用とならないという訳ではない,と. 5.こ の よ う に,Saving Clause が,租税条約. いうのである111).. と国内税法との抵触の解消及び租税条約の濫用. 4.所説 は お し な べ て,Parallel Treaties の 参. の防止との関連で果たす役割については,米国. 照可能性を認めつつも,そこに一定の限界を指. とそれ以外の国とで,認識に差がある.この認. 摘している.. 識の差は,OECD 加盟国間においても,やは. 1)まず,参照可能性を認める見解がその論拠. り存在する109).. として指摘するのは,次の二点である112).第. 第 3 款 Parallel Treaties の参照の可否. 一に,租税条約を締結する上で,各国は,独自. 1.この認識のずれに対する理論的な裏付けに. に条約文の定式を作り上げ,条約交渉に持ち出. ついて,少し考えてみたい.Saving Clause を. すことがあること.第二に,条約交渉の担当者. 明文として有さない租税条約との関連でも,租. は,従前の交渉で作り上げた定式を,以降の条. 税条約は本来,納税者の居住地国の国内法と抵. 約交渉でも用いる傾向があること.これに加え,. 触することはない,と言うことができるか.. Parallel Treaties を参照した実例の存在を指摘. 2.一 つ の 方 向 性 と し て,Saving Clause が. する論者がいる113).. 存在 し な い 租税条約 を 解釈・適用 す る 上 で,. 2)一方で,一定の限界を指摘する見解が指摘. Saving Clause が存在する租税条約を参照する. するのは,次の二点である.第一に,それぞれ. ことがあり得よう.すなわち,米国が締結国で. の租税条約は,あくまでも独立したものである. ある租税条約及びそれを巡る様々な議論を,そ. こ と114).第二 に,Parallel Treaties と し て 参照. れ以外の租税条約を解釈・適用する際の指針と. する租税条約の中で,ある条項の存在及び改訂. できるのか,ということである.. が,いずれの条約締結国の提案によるものであっ. 3.一般的にこの問題は,租税条約を解釈・適. たか,不明瞭な場合が多いこと115).その上で,. 用する際,Parallel Treaties にどの程度依拠で. Parallel Treaties を参照する上では,次の二点に. きるのか,という問題に換言できる.すなわ. 留意しなければならない,という指摘がある116).. ち, 「ある条約のある規定を解釈する上で,類 似の条項が他の条約にも存在するという事実, 類似の条項が他の条約には存在しないという事 実,他の条約に存在する条項が当該条約に存在 しないという事実から,手がかりを得ること ができるか」という問題である110).とりわけ Saving Clause との絡みでは,より具体的な問 題意識が存在する.すなわち,ある条約に明 文上存在する規定が別の条約に存在しないか らと いって,当該規定が当該別の条約におい . 108)Id. at para. 127. 109)パート ナーシップ を 巡 る 課税関係 と 同様 の 状況 と し て,OECD モ デ ル 租税条約 コ メ ン タ リー(2008 年版)第 1 条関連第 23 パラグラフ.こ の見解についても,OECD 加盟国間で議論が分か れている.例えば,同第 27.4 パラグラフ. 110)Baker, supra note 102, at E─32.. . 111)VOGEL, supra note 10, at 50. 112)Id. at 49. これ以外にも,Parallel Treaties の 参照可能性 を 述 べ る も の と し て,Murai, supra note 80, at 114; Nakazato, supra note 12, at 415. 日 本語文献として,小松・前掲注 12) 「国際課税の側 面」196 頁及 び 木村弘之亮「二重課税条約 の 解釈」 法研 68 巻 6 号 58 頁以下(1995) . 113)木村・前掲注 112)18 頁.英国 に お け る 実 例 と し て,J. SCHWARZ, TAX TREATIES: UNITED KINGDOM LAW AND PRACTICE 60─61(2002) .な お, 井上 = 仲谷・前掲注 12)148 頁以下 は,割引債 の 償還差益が,我が国がオーストリアと締結した租 税条約における利子に該当するか否かの検討にお いて,我が国が米国と締結した租税条約を参照し ている. 114)VOGEL, supra note 10, at 50. 115)See Baker, supra note 102, at E-32 n.4. 同 書は,租税条約を解釈する上で,Parallel Treaties が果たす役割は小さい,としている.Id. 116)VOGEL, supra note 10, at 51..

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