• 検索結果がありません。

日本におけるコミュニティ・レジリエンスに関する文献検討

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "日本におけるコミュニティ・レジリエンスに関する文献検討"

Copied!
18
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

197

日本におけるコミュニティ・レジリエンスに

関する文献検討

黒瀧安紀子・工 藤 里 香

Ⅰ.は じ め に

 日本では、東日本大震災の後、レジリエンスという言葉がキーワードとなり、研究が進めら れてきている。東日本大震災の被災者やそのコミュニティを対象とした研究が発表されており、 個や地域のレジリエンスが注目されつつある。  また、ヘルスプロモーションの戦略においては、健康的な公共政策づくり、健康を支援する 環境づくり、地域活動の強化等が必要と言われており(WHO,1986)、地域コミュニティにアプ ローチし、コミュニティ・エンパワメントによって人々の健康の維持増進を図っていこうとい う方針となってきている。看護職は地域住民の健康維持増進に貢献する人材であり、コミュニ ティ・エンパワメントやコミュニティ・オーガニゼーション等の手法を用いて、コミュニティ にアプローチし、地域全体のヘルスプロモーションを実施する役割を最前線で担っている。コ ミュニティにアプローチする際には、その地域がもつ資源や強みに着目することが重要であり、 コミュニティ・レジリエンスも着目すべき 1 つの概念であると考える。  また、日本は少子高齢化にあり、独居高齢者が増加していること、相対的貧困率が OECD 国の中では高く(OECD,2017)社会格差が広がっていること、地域の繋がりの希薄化が進んで いることなど、日本社会や地域が抱える課題があり、これらに加えて災害多発国である。災害 や健康危機が発生することにより、これらの課題が社会的に弱い立場にいる人々に大きく影響 し、格差の溝はますます広がってしまう。このように社会の不公平が引き起こしている格差が 健康格差を生み出す要因になっており、それを WHO は「健康の社会的決定要因」と述べてい る。この「健康の社会的決定要因」へのアプローチの 1 つに、環境への介入が重要な取り組み であるとされている(近藤,2018)。この環境には、物理的な環境だけではなく社会的環境であ るソーシャルキャピタルへのアプローチなど、コミュニティへのアプローチも含まれている。  以上のように、日本社会が抱える少子高齢化や貧困、孤独死などの課題が生み出す健康への 影響と、災害によってより拡大される格差が与える健康への影響双方に、平常時や災害時など の時期を問わず、健康への影響をより少なくできるよう看護職として、個人に対してだけでは なく、地域社会に対して関与していく必要がある。看護実践の場が地域に移行している現在、 地域の力を活かした看護実践に結びつけていく 1 つの考え方として、看護においてもコミュニ 12-黒瀧論文_197-214.indd 197 2021/01/29 14:40

(2)

ティ・レジリエンスに着目していくことに意義がある。  そこで、コミュニティ・レジリエンスという概念はいつごろ、どのような意味でつかわれて きているのかについて、日本におけるコミュニティ・レジリエンスに関する研究の現状を把握 することを通して、看護職として関与できるコミュニティ・レジリエンスの向上について考え ていきたい。

Ⅱ.目   的

 本研究では、日本におけるコミュニティ・レジリエンスに関する研究の現状を把握すること を通して、コミュニティ・レジリエンスの醸成や向上のための理論的、方法論的示唆を得るこ とを目的にした。

Ⅲ.方   法

1 .文献検索手順  文献検索データベース―医学中央雑誌と国立情報科学研究所(以下 CiNii)にて、「コミュニ ティ・レジリエンス」をキーワードに検索した。コミュニティやレジリエンスという用語が日 本語に訳されることなく 1 つの概念として受け入れられ、用いられ始めていることから、コ ミュニティ・レジリエンスという用語も 1 つの概念として今後受け入れられ用いられる可能性 があること、コミュニティ・レジリエンスの定義が定まっておらず、この用語を表していると 妥当な説明ができる日本語表記や検索用語がないと判断したため、本研究では「コミュニ ティ・レジリエンス」という用語で文献検索を行った。検索日は2020年 6 月 1 日であった。 2 .分析  分析方法は、検出した論文から会議録は除外した上で、選定した52件の文献を精読し、日本 のコミュニティについて言及されており、コミュニティ、レジリエンスの両方について本文で 言及されているものを対象とした。コミュニティ・レジリエンスの定義、研究内容、コミュニ ティ・レジリエンスの測定方法について整理し、一覧表を作成した(表 1 )。一覧表をもとに、 コミュニティ・レジリエンスについての研究の現状とコミュニティ・レジリエンスの醸成・向 上の示唆について検討をした。 3 .文献検討から除外した論文の特徴について  論文題名やキーワードに「コミュニティ」と「レジリエンス」という言葉が書かれているが、 本文ではその内容に触れていないものは除外した。その特徴は、①個人や家族のレジリエンス はコミュニティのレジリエンスにつながることは多くの文献で述べられており、本文にコミュ

(3)

日本におけるコミュニティ・レジリエンスに関する文献検討 199 ニティという言葉が入っているが、個人のレジリエンスとコミュニティのレジリエンスの関係 性が述べられていない文献であった。②コミュニティ・レジリエンスのハード面として注目さ れているスマートシティについての文献で、スマートシティは確かにコミュニティの持つ力と して重要ではあるが、スマートシティとしての立地や建物などにのみ言及している文献であっ た。③エンパワメント、脆弱性といったテーマで研究している論文も散見され、それらの概念 とレジリエンス、コミュニティの関連が述べられていたが、コミュニティ・レジリエンスその ものへの言及はされていなかったという特徴があった。

Ⅳ.結   果

 医学中央雑誌での検索結果は24件であり、うち論文が12件、会議録が12件であった。2009年 から会議録がみられ、2010年に論文が発表されている。2016年以降、論文が出されつつある。 CiNii での検索結果は72件であり、うち論文が41件、会議録が15件、書評が 4 件、海外におけ るコミュニティ・レジリエンスを取り扱った文献が 4 件であった。2009年から会議録がみられ、 2010年に論文が発表されている。2013年以降、論文発表件数が増加しており、会議録より論文 件数の方が多くなっている。医学中央雑誌と CiNii で論文件数の合計は53件であったが、双方 に計上されていた論文数を除くと52件が検討する論文となった。その52件のうち、25件はコ ミュニティ・レジリエンスについて言及されていなかったため、除外とした。このため、文献 の内容まで検討した論文は27件となった。 1 .日本におけるコミュニティ・レジリエンスに関する研究の動向と特徴 1 ) 災害や防災をテーマとする研究が多い  論文テーマは大きく分類して、災害や防災に関するテーマとそれ以外のテーマとなっている。 災害や防災をテーマにした論文が20件であり、それ以外をテーマにした論文が 7 件であった。 災害や防災の論文20件のうち、東日本大震災の被災地に関する研究論文が 8 件、防災をテーマ にした論文が 9 件であり、東日本大震災、防災以外のテーマで災害に関する研究が 3 件であっ た。災害以外をテーマとして研究している論文は、特定の地域を対象にレジリエントなコミュ ニティを形成する要因について分析したものが 5 件、特定の地域の中での学校教育の在り方に 関するものが 2 件であった。 2 ) 東日本大震災を機に文献が増加している  論文テーマの経時的傾向を表 2 で見てみると、2010〜2020年にわたって、災害とコミュニ ティ・レジリエンスをテーマにしている論文は継続的に発表されており、2014年は 3 件、2015 年は 4 件、2016年も 4 件とこの 3 年の間で発表されている件数が多い。さらに詳細を見ると、 東日本大震災の被災地に関する研究は 8 件で2012年から見られており、2015年に 3 件あり、そ れ以降も継続的に発表されている。また、2015年以降は東日本大震災とコミュニティをテーマ 12-黒瀧論文_197-214.indd 199 2021/01/29 14:40

(4)

にした論文が増えており、本研究で扱った論文のうち2015年に発表された論文の7.5割、2018年、 2019年はすべて東日本大震災関連となっている。  防災をテーマにしている研究は 9 件であり、2013年から発表されている。本研究で扱った論 文のうち2013年、2014年に発表された災害とコミュニティをテーマにした文献はすべて防災に 関したものであり、2016年では7.5割、2017年は半数を占めていた。2018年以降は防災とコミュ ニティ・レジリエンスの論文は発表されていない。  災害以外とコミュニティ・レジリエンスをテーマにしている論文は 7 件あり、2014年以降か ら見られ、2017年、2018年の発表件数は 0 件であったが、2019年は 4 件あり、文献検討した論 文の 8 割が災害以外をテーマとしたコミュニティ・レジリエンスの論文であった。 3 )  災害後や平常時の地域活動の分析を通してコミュニティ・レジリエンスの明確化を図って いる  コミュニティ・レジリエンスを研究している内容を大きく分類すると、 4 つに分類される。  ①災害後の活動を検証し、コミュニティ・レジリエンスを明らかにしようとしている研究、 ②量的研究で、個と地域のレジリエンスの関係を検討している研究、③平常時のコミュニティ においてレジリエンスを形成する要因や向上させる方法を見出そうとしている研究、④個のレ ジリエンス向上に必要なコミュニティの要素を明らかにしている研究である。  ①に該当する研究は、東日本大震災後に、特定の地域の復旧、復興過程を例に、コミュニ ティにどのような能力や力があり、どのような要因があるのかを概観し、コミュニティ・レジ リエンスとは何かを見出そうとしている研究である(文献 1 , 2 ,10,11,19)。東日本大震災後 のいくつかの地域の再建状況をレジリエンスやソーシャル・キャピタルの理論から、コミュニ ティ・レジリエンスを考察している研究もあった(文献21)。  ②に分類される研究は、量的研究で、質問紙調査を行い、個のレジリエンスとコミュニティ の要因がどのように関係しているか、地域のレジリエンスを見出そうとしている研究(文献 3 , 4 ,14)と、他の人が提唱するレジリエンス性評価の指標を基に、調査用紙を作成、調査を実 施し、レジリエンス性評価の指標 < 市民指標、「頑健性」「冗長性」「資源」「即応性」の 4 つ、 ソーシャル・キャピタル > を用いてコミュニティ・レジリエンスを平常時に検証することを 試みている研究がある(文献 9 ,12,24,25)。  ③に該当する研究は、特定の地域の行事や活動(祭り、イベント、学校)から、コミュニティ・ レジリエンスを形成する要因やレジリエントなコミュニティにおけるその行事のあり方を見出 そうとしている研究(文献 5 , 6 ,18,23)と、地域のレジリエンス / 防災力獲得のための方法 <セーフコミュニティ、全体の参加、劇団活動、産学連携>を検討しているものであった(文献 15,16,20,26)。  ④に関しては、災害後の活動から、個の精神的回復がコミュニティに根差した方法で行われ、 社会に根付くことでコミュニティ・レジリエンスが生成されることを明らかにしている研究 (文献13)と、災害後の精神や心理的な支援では、個や家族のレジリエンス向上のために、コ

(5)

日本におけるコミュニティ・レジリエンスに関する文献検討 201 表 1  日本におけるコミュニティ・レジリエンスの文献整理表 12-黒瀧論文_197-214.indd 201 2021/01/29 14:40

(6)
(7)

日本におけるコミュニティ・レジリエンスに関する文献検討

203

(8)
(9)

日本におけるコミュニティ・レジリエンスに関する文献検討

205

(10)

ミュニティにおける支援やソーシャル・キャピタルが必要と述べている研究(文献 7 , 8 ,19, 22,26)、災害後、平常時に関わらず、子どものレジリエンス向上に地域のサポート等のコミュ ニティが影響していると提唱している研究(文献19,22,26)、個(子ども)のレジリエンス向上の ために、必要な要素を明らかにしている研究(文献16,27)があった。 2 . 検討した文献で示された定義とコミュニティ・レジリエンスの測定方法について 1 )「適応」がコミュニティ・レジリエンスの定義の共通要素である  コミュニティ・レジリエンスの定義が示されている論文が19件、示されていないものが 8 件 表 2  コミュニティ・レジリエンスに関する文献の経時的傾向

(11)

日本におけるコミュニティ・レジリエンスに関する文献検討 207 であった。示されている定義の特徴としては、他の論文や著書で定義されたものを示している ものと、レジリエンスやコミュニティの定義、また研究結果を通して独自のコミュニティ・レ ジリエンスの定義を示しているものがあった。他の論文や著書で定義されたものを示している ものは、多くが海外で用いられている定義が引用されており、その定義には、「適応」が共通 して見られている。  各論文における独自のコミュニティ・レジリエンスの定義には、「潜在」、「つながり」、「適 応力」という用語やそれに類似した用語が含まれていることが多かった。また、論文のテーマ を災害、防災、平時でわけてそれぞれの定義を見てみると、災害をテーマにした論文の中で示 された定義には、「潜在」、「つながり」やその類義語が含まれていることが多かった。他には、 「ソフトパワーの活用」、「事前の取り組み」、「リーダーの資質」、「信頼関係」、「規範意識」、 「再生できる力」が定義の中に含まれていた。防災をテーマにした論文の中の定義には、「適 応力」、「回復力」、「関係性」やその類義語が含まれており、他に「リスクの吸収力」、「共有」 が定義の中に含まれていた。災害や防災以外をテーマにした論文の中で定義されているコミュ ニティ・レジリエンスには、「多様性」、「つながり」が含まれており、他に「コミュニケー ション能力」、「問題解決能力」があった。加えて、東日本大震災の被災地に関する研究におい てのコミュニティ・レジリエンスの定義では、「潜在的」、「つながり」、「事前の取りくみ」、 「環境」、「リーダーの資質」、「信頼関係」、「規範意識」という用語が含まれていた。 2 ) 海外の評価指標と研究者独自が作成したコミュニティ・レジリエンスの測定方法がある  コミュニティ・レジリエンスを測定する評価指標については、海外の指標や考え方を用いて いるもの、研究者が独自に作成し、用いているものがあった。指標によって測定しているのは、 個のレジリエンスとコミュニティ・レジリエンスがあった。  海外の評価指標を用いている論文が、文献 3 の Bonanno(2005)の 4 類型(レジリエンス型、回 復型、遅延型、慢性型)を基に K6 の得点を配分して類型化し、レジリエンス型と慢性型に分類 された個の特性を明らかにしているものであった。文献 4 では、Grotberg(2003)の「I have」 因子、「I am」因子、「I can」因子の 3 要因それぞれに防災に関する項目を筆者が作成し、 4 件法で測定し、個の防災行動に対するコミュニティ意識とレジリエンスの影響を検討していた。  研究者が作成した測定指標を使っての研究論文には、文献 9 にある地域のレジリエンスを計 測する指標として、馬場・田中が提案している公開統計データ(都市指標)、行政への質問紙調 査(行政指標)、市民への質問紙調査(市民指標)の 3 つのうち、危機事象や脆弱性の認知、社会関 係資本を含む市民指標を作成し、市民のレジリエンスの特徴を明らかにしようとしていたもの があった。文献12では、災害社会学の考え方を適用し、コミュニティ・レジリエンスを「頑健 性」、「冗長性」、「資源」、「即応性」の 4 つの指標を用いて定量化し、評価していた。「頑健 性」には、家庭でのハード面とソフト面対策、「冗長性」には状況把握手段を複数有するか、 「資源」では防災グッズや生活用品、「即応性」では災害への対応の知識や準備に関する項目 で構成されていた。文献14では、「地域とのつながり」、「災害発生時に不安なこと」、「災害へ 12-黒瀧論文_197-214.indd 207 2021/01/29 14:40

(12)

の備え」、「過去 3 年間で参加した防災活動」、「災害発生数か月後に想定される行動」をコミュ ニティ・レジリエンスに関連すると考えられる項目とし、住民特性の関係を検討し、個人属性 を元に地域のレジリエンスを検討していた。

Ⅴ.考   察

1 .日本におけるコミュニティ・レジリエンスの研究の現状について  検索エンジンと検索結果から見ると、医学系の論文は数が少なく、社会学系の論文が多い傾 向であり、いずれの分野においても、東日本大震災後に会議録が増え、その後論文数が増えて いる傾向にある。テーマは、災害や防災に関するテーマが多く、東日本大震災関連が多い。 2019年に災害以外をテーマとしたコミュニティ・レジリエンスの論文が 8 割を占めていること から、平常時のコミュニティ・レジリエンスに関する研究が実施され始めていることが窺える。 検索エンジンの医学中央雑誌と CiNii で「レジリエンス」を検索すると医学中央雑誌では、 1984年から研究は見られ、2020年 8 月現在で会議録を含めて2709件の論文が発表されている。 CiNii では1954年から発表されており、現在2715件の論文(会議録含む)があることがわかる。こ のようにレジリエンスの研究はすでに70年前から行われていたが、コミュニティ・レジリエン スの研究は10年前から発表され始めていることから、まだまだ新しい研究テーマであることが わかる。また、除外した論文の特徴からも、コミュニティやレジリエンスという言葉を題名や 抄録に含んでいても、実質はコミュニティ・レジリエンスについて記載されていない論文も多 くあることから、研究の余地が多いテーマであると考える。  研究内容としては、質的研究方法、量的研究方法の両方の手法が取られており、災害時だけ ではなく平常時のコミュニティ・レジリエンスについても研究されている。災害時、平常時の 研究両方に共通している研究内容として、成功事例や良い実践(good practice)からコミュニ ティ・レジリエンスを明らかにする研究が行われている。例えば、災害後の復興過程や活動の 中で、良い復興過程を歩んでいるコミュニティから復興する力や要因等を見出し、コミュニ ティ・レジリエンスを検討している論文(今井他,2015,2018)がある。それと同様に、平常時を 研究時期としている研究において、祭りや行事により地域が活性化されていたり、地域機能が 保たれていたりするコミュニティを検証し、コミュニティ・レジリエンスを形成する要因や地 域のレジリエンスを形成する仕掛けであるイベントの在り方の研究(前田他,2015,2019,中島, 2016)が行われている。  日本は災害が多く、東日本大震災以降も各地で災害による被害を受けた地域があり、復旧、 復興過程にある地域が多くある。これらの地域の復旧、復興過程を研究という視点から検証し、 コミュニティ・レジリエンスの多くの知見が集まることにより、知識が一般化され、より早い 復興、より良い復興のためのコミュニティ・レジリエンスを向上する方法を見出すことができ る可能性がある。そして平常時であっても、地域の関係性の希薄化が言われる中、地域機能を

(13)

日本におけるコミュニティ・レジリエンスに関する文献検討 209 保っている地域から知見を得ることにより、少子化や経済状況の悪化等様々な刺激にも対応・ 適応できるコミュニティ・レジリエンス向上を目指す方法の開発の一助となる。加えて、レジ リエンスは工学などハード面での研究テーマとなることもあれば、精神や社会関係等のソフト 面での研究テーマにもなる概念であり、理系・文系問わず研究テーマとなりうることから、学 際的な研究が進むことにより、コミュニティ・レジリエンスの知見を構築していくことが可能 と考える。  また、個のレジリエンスとコミュニティのレジリエンスの関係性や個のレジリエンスを向上 するコミュニティの特徴や要因を見出す研究も行われている。コミュニティを構成する個のレ ジリエンスを向上させるコミュニティのあり方や構成要因が、ひいてはコミュティのレジリエ ンス向上に繋がる可能性が示されているが、明確な関連が示されている研究はない。飯田 (2014)はヒラリーのコミュニティの定義をもとに「コミュニティという概念には最低でも『社 会的相互作用』が必要であり、それに加えて、『共通の絆』、『領域』という要素が、含まれて いると言うことができる。」と述べている。また Norris ら(2008)は「コミュニティ・レジリエ ンスについて、「例えば筆者らの議論において、しばしば『全体はその部分の総和以上であ る』と表現されるが、これはレジリエントな個人が集まることが、必ずしもレジリエント・コ ミュニティになるわけではないことを意味している」と指摘している。つまり、コミュニティ は個の集合ではなく、環境や文化、グループダイナミクスが働く共同体であり、個のレジリエ ンスがコミュニティのレジリエンス向上と直結するわけではなく、個のレジリエンスに加えて、 環境や文化、グループダイナミクスを考慮し、コミュニティ・レジリエンスが向上するコミュ ニティへの働きかけを検討していかなければならない。  さらに、コミュニティ・レジリエンスとソーシャル・キャピタルを同義で捉えている文献や コミュニティ・レジリエンスをソーシャル・キャピタルの尺度で測る試みをしている研究も あった。ソーシャル・キャピタルとは、集団の特性として考えるとパットナムの「人々の協調 行動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる、信頼、規範、ネットワークといっ た社会的組織の特徴」であり、ネットワークに基づいた定義としてはボウルドゥの「多かれ少 なかれ制度化されて相互に面識があったり承認したりしている、持続的なネットワークの所有 と結びついて現実的あるいは潜在的資源の総体」である(相田ら,2014)。つまりソーシャル・ キャピタルは人と人とのつながりが産みだすものと捉えることができる。よって、ソーシャ ル・キャピタルはコミュニティ・レジリエンスを構成する重要な要素の一つではあるが同義と いうことではなく、研究を進めていく上で注意を要する点である。  そして今後、コミュニティ・レジリエンス向上のための研究を行っていくためには、レジリ エンスの向上を測定する指標の開発が必要であると考える。現状では、海外で用いられている 考え方を基にした測定指標や研究者オリジナルの測定指標が用いられている。海外の指標を用 いている研究では、海外と日本のコミュニティは大きく異なるにもかかわらず、日本での指標 の適応を十分に検討されていない現状である。また研究者オリジナルの測定指標においても、 12-黒瀧論文_197-214.indd 209 2021/01/29 14:40

(14)

十分な検証がされることなく用いられていることが多い。今回検討した論文のうち測定指標を 用いた研究は 9 件であり、全論文の1/3しかなく、日本のコミュニティ・レジリエンスを測定 する指標の開発が急務であり、海外の指標やこれまでの指標の検証を進めることから始める必 要がある。 2 .日本におけるコミュニティ・レジリエンスとは  本研究で検討した論文にコミュニティ・レジリエンスの定義が示された論文では、海外の定 義や各論文独自の定義のいずれにも、「適応」がキーワードとして含まれていた。この「適 応」に加えて、日本のコミュニティ・レジリエンスには、平時、災害に関する研究双方に「潜 在」、「つながり」の要素があった。「レジリエンス」は日本語で、「弾力」、「復元力」、「回復 力」と日本語訳されることが多いが、コミュニティ・レジリエンスにおいては、「適応」が要 素となり、さらに「潜在」、「つながり」も要素となっていることがわかった。「適応」はレジ リエンスの日本語訳「復元」等に近い用語であり、「つながり」はコミュニティの定義の要素 に近い用語であるため、コミュニティとレジリエンスそれぞれの用語が持つ特徴が色濃く表れ ている要素であると考える。ただ、この 3 つの要素以外は、様々な要素が散見されている状況 であり、防災や災害という似たような分野であっても、異なる要素が見られている。このこと から、いまだ日本におけるコミュニティ・レジリエンスについては、模索されている現状であ ることがわかる。このように、様々なコミュニティ・レジリエンスの定義を基に作られた研究 枠組みの中で得られた結果は統合することが難しく、集約された知識、知見を用いたコミュニ ティ・レジリエンス向上の方法論の開発は難しく、コミュニティに対して効果的な働きかけを することが難しい。このため、現在行われている研究を基にコミュニティ・レジリエンスの概 念分析を行うことにより、構成概念を明らかにし、共通認識できるコミュニティ・レジリエン スの概念を示すことが必要である。そのことにより、評価指標の開発やコミュニティ・レジリ エンス向上のための方法論の開発が進み、それらの結果を検証、統合することにより、より効 果的なコミュニティ・レジリエンス向上の対策を開発していくことができると考える。  さらに、今回の文献検討では看護分野のコミュニティ・レジリエンスをテーマにした論文は 存在せず、看護におけるコミュニティ・レジリエンスも明確ではない状況である。看護実践の 場が地域に移行している中で、ヘルスプロモーションにおいてはコミュニティ・エンパワメン トが必要とも言われており、脆弱性の高まった地域における看護活動や健康危機への対応では、 コミュニティ・レジリエンスを理論的基盤とした活動をしていくことが必要となってくる。そ のため、今後は海外での研究状況も把握し、日本の研究や活動への応用の検証を進めていくこ とも必要である。それと同時に、東日本大震災後の復興が地域によって異なる状況が明らかに なりつつあり、日本では、災害とコミュニティ・レジリエンスの知見を構築できる環境にあり、 その知見を海外へ発信していくことにより、コミュニティ・レジリエンスの研究の発展に貢献 していくことができると考える。

(15)

日本におけるコミュニティ・レジリエンスに関する文献検討 211 3 .コミュニティ・レジリエンスの向上への示唆  東日本大震災後に特定の地域の復旧、復興過程から良い実践が行われた地域には、内在的、 潜在的にあった地域の資源やネットワーク力、知恵があり、新たな課題に適応する修正能力が あった(今井他,2015,今井他,2018)。また平常時の地域活動では、主体の多様性(前田他,2015)、 町内における関係の「冗長性」(前田他,2019)があった。災害への備えにおいては、ソーシャ ル・キャピタルも重要な要素(石田,2014, 佐々木,2020)である。このためコミュニティ・レジ リエンスの向上や醸成には、地域に内在、潜在するこれらの要素を明確にし、地域住民が認識 し、醸成していく必要があると考える。これらの要素は潜在化あるいは内在化されていること から、コミュニティ・レジリエンスの視点から地域に潜在、内在している要素を地域住民が認 識できるように明確化し、それらの要素の醸成を先導していける人材を地域住民の中から見出 し、育成する必要がある。コミュニティ・レジリエンス向上のために人材育成が必要であると 指摘されている(今井他,2015,鍵谷,2015)理由は、そこにあると考える。また、各住民や個に 対してコミュニティ・レジリエンス向上のアプローチをすることにより、集団や地域としての コミュニティ・レジリエンス向上(石井,2016,畠山,2013)が期待できるため、個と集団へのア プローチが必要である。しかし、個へのコミュニティ・レジリエンス向上のアプローチの集合 が、地域のコミュニティ・レジリエンス向上に直結するわけではないことや、現状では個と集 団へのアプローチ方法が明確ではないため、個へのアプローチから地域へのアプローチに繋げ る視点を持った方略が必要である。  さらに、日本のコミュニティ・レジリエンスの向上や醸成を検討する上で一つの大きな要素 として「学校」があり、〇〇学区というように学校を基準としたコミュニティが形成されてい る。そのため多くの活動が学区をもとに行われており、学校が閉鎖されるとコミュニティの力 が急速に弱まっていくことがある。コミュニティ・レジリエンス向上へのアプローチを考える 上では、学区を考慮することが重要である。そして、子ども達は多くの時間を学校で過ごし、 多くの親は学校に教育を任せ、課外活動も学校の中で行われている。このため「学校」という 場の影響は大きく、西尾(2015)は、レジリエンス向上のために児童・生徒自らが救済や復興活 動を体験できるための機会と場の提供の役割としての学校の存在を述べている。学校教育の中 で個人のレジリエンスを上げていくことはコミュニティ・レジリエンスの継続的醸成につなが る(井上,2019)。一方で学校という環境を整えることができないときは生徒のレジリエンスが 弱まる(本郷,2016)ことも示されている。「学校」はハード面でもソフト面でもコミュニティ・ レジリエンスを支える大きな存在であることは明らかである。加えて、コミュニティ・レジリ エンスの向上において、日本では祭りや伝統的行事(前田他,2015,前田他,2019,中島,2016, 金山,2019)がレジリエンス向上の機会や場として機能していることが明らかとなっており、日 本独自の方策の 1 つとして、祭りや伝統的行事を用いることができると考える。しかし、2020 年現在、COVID-19流行下では、祭りや伝統行事の開催ができず、地域で多くの住民が集まる 活動も自粛されている。このため、これまでのように祭りや伝統行事などの場や機会を利用し 12-黒瀧論文_197-214.indd 211 2021/01/29 14:40

(16)

た地域の繋がりの活発化や資源の蓄積は困難であり、発想や価値観の転換が求められていると 考える。まずは個のレジリエンス向上を実施しながら、コミュニティ・レジリエンス向上のた めのコミュニティへの働きかけのスキームを開発していく必要がある。

Ⅵ.結   論

 現在、日本におけるコミュニティ・レジリエンスの研究は始まったばかりであり、研究対象 となる地域は多く、それらの地域の良い実践を検証することにより、コミュニティ・レジリエ ンス向上の方法論を見出すことができる可能性がある。コミュニティ・レジリエンス研究が多 数行われることにより、日本のコミュニティに適合したコミュニティ・レジリエンスの概念の 共通理解が進み、コミュニティ・レジリエンスに関する研究の知見を集約していくことで、理 論的基盤に基づいた効果的なスキームを開発することができる。また、コミュニティ・レジリ エンスを向上させる介入研究を行うためには、今後、測定する用具の開発も合わせて必要であ る。さらに、他分野における研究の進展に伴って、看護分野においてもコミュニティ・レジリ エンスに関する研究を行い、地域における健康へのアプローチや健康危機に対する対応策を見 出していく必要がある。そのためには、コミュニティを構成している個のレジリエンスと、コ ミュニティ全体のレジリエンスの双方からのアプローチと、個とコミュニティの繋がりを意識 した取組の必要性があることが、本研究を通して示唆された。 謝辞  本研究は、科学研究費助成事業の学術研究助成基金助成金、基盤研究C課題番号19K11181「団地コミュ ニティーのレジリエンス向上を目指すプログラムモデルの開発」の研究費を用いて行った。なお、本研究 における利益相反で報告する事項はない。 参考・引用文献 明石加代,藤井千太,加藤寛.(2010).災害後精神保健活動の望ましいあり方とは.心的トラウマ研究,6, 87-96. 相田潤,近藤克則.(2014).ソーシャル・キャピタルと健康格差.医療と社会,24(1),57-74. 藤澤由和,石田祐.(2014). 新たな地域防災政策への可能性(1)コミュニティ・レジリエンスの地域間比 較.Estrela,246,8-13. 濱元伸彦.(2019).小・中学生のレジリエンスと地域とのつながりの関係に関する量的分析 : 教育コミュ ニティ論に基づく「地域の教育力」の検証.関西教育学会年報,43,31-35. 長谷川武史.(2015).セーフコミュニティにおけるレジリエンス機能について : Risk 事象への協働的取り 組み過程からの検討.名寄市立大学社会福祉学科研究紀要,4,17-30. 畠山愼二,坂田朗夫,川本篤志,伊藤則夫,白木渡.(2013).コミュニティ・レジリエンス の考え方に 基づくコミュニティ継続計画(CCP)策定手法の提案.土木学会論文集 F6(安全問題),69(2),I_37-I_42. 本郷一夫.(2016).【子どものトラウマのケアとレジリエンス】震災を生きる子ども 個人とコミュニティ のレジリエンスを高める支援.発達,37(145),52-57. 飯田香織.(2014).コミュニティ心理学におけるコミュニティの定義とコミュニティ心理学.立命館産業

(17)

日本におけるコミュニティ・レジリエンスに関する文献検討 213 社会論集,49(4),79-99. 生田英輔,佐伯大輔.(2016).居住者特性に基づくコミュニティ・レジリエンスの検討.都市防災研究論 文集 = Annual journal of urban disaster reduction research,3,1-5. 今井良広 , 金川幸司 , 後房雄.(2015).コミュニティ・レジリエンスとソーシャル・キャピタル : 南三陸町 における震災復興の取り組みから.経営と情報 : 静岡県立大学・経営情報学部研究紀要,27(2),1-24. 今井良広 , 金川幸司 , 髙田篤.(2018).合併旧町のレジリエンス : 南三陸町歌津地区を事例に.経営と情 報 : 静岡県立大学・経営情報学部研究紀要,30(2),1-18. 井上豊久.(2019).A 島小中学校におけるレジリエンス教育.教職教育センタージャーナル,5,1-17. 石井京子.(2016).高齢者の災害準備行動に及ぼす地域コミュニティ意識とレジリエンス.大阪人間科学 大学紀要,15,161-167. 石田祐,藤澤由和.(2014).新たな地域防災政策への可能性(2)防災関連調査データを用いたコミュニ ティ・レジリエンスの測定.Estrela,246,14-19. 糸長浩司.(2012).移住・環住による農村コミュニティのレジリエンス.農村計画学会誌 = Journal of  Rural Planning Association,30(4),563-566. 和泉浩.(2015).地域のレジリエンスにおけるソーシャル・キャピタルと記憶 : 東日本大震災後の地域コ ミュニティについての議論をもとに.秋田大学教育文化学部研究紀要,70,9-20. 鍵屋一.(2015).コミュニティ・レベルのレジリエンス(特集  地域のレジリエンス).地域開発,610, 29-33. 金山智子.(2019).コミュニティ・レジリエンスからみる地域の伝統文化の継承 : 旧根尾村を事例として. 地域活性学会研究大会論文集,11,225-228. 近藤 尚己,(2018),健康格差対策の進め方:社会疫学の知見を踏まえて,日本健康教育学会誌,26(4), 398-403 小杉素子,馬場健司,田中充.(2017).災害に対する地域社会のレジリエンス性評価―質問紙調査データ を用いた 8 地域の比較―.環境科学会誌,30(3),225-237. 前田昌弘,髙田光雄,森重幸子,[他],西野克裕.(2015).京都市都心部における地蔵盆の運営実態と参 加者の多様性 : ―レジリエントなコミュニティ形成に果たす地蔵盆の役割に関する研究―.日本建築学 会計画系論文集,80(714), 1833-1842. 前田昌弘 , 髙田光雄.(2019).地蔵盆運営への関与からみた町内住民間の関係の冗長性―レジリエントな コミュニティ形成に果たす地蔵盆の役割に関する研究 その 2 ―.日本建築学会計画系論文集,40(756), 397-405. 永松伸吾.(2014).コミュニティ・レジリエンス :  地域社会の「関係性」による防災.CEL : Culture,  energy and life,107,58-61. 中島智.(2016).域学連携と商店街文化 : 妙法寺門前通り商店会を事例として(小さなまちの挑戦 : 地方創 生とまちづくり).地域活性学会研究大会論文集,8,28-31.

Norris,  Fran  H.,  Susan  Stevens,  Betty  Pfeffebaum,  Karen  Wyche  and  Rose  Pfefferbaum,  2008,  “Community Resilience as a Metaphor, Theory, Set of Capacities, and Strategy for Disaster Readiness”,  American Journal of Community Psychology, 41, 127-150. 西尾チヅル.(2015).コミュニティ防災・復興における産学の役割.学術の動向 : SCJ フォーラム =  Trends in the sciences : SCJ Forum,20(7),72-78. OECD.(2017),OECD 経済審査報告書 日本 概要 小川恵.(2016).【震災特集】災害支援における中長期の課題 災害支援における方法論.淑徳心理臨床 研究,13,63-71. 大杉美和子,渡部裕一,松田聡一郎.(2015).被災地におけるコミュニティの再生とレジリエンス.精神 保健福祉 : 日本精神保健福祉士協会誌,46(3),172-179. 佐伯大輔,福島祥行 , 中川眞.コミュニティ劇団メンバーを対象とした防災力測定.都市防災研究論文集, 12-黒瀧論文_197-214.indd 213 2021/01/29 14:40

(18)

3,13-18. 佐々木由理,相田潤,三浦宏子.(2020).【日本の公衆衛生における最新のトピック2020】被災地におけ るソーシャル・キャピタルの役割.保健医療科学,69(1),25-32. 高田哲.(2012).阪神・淡路大震災の経験から(ミニ特集 東日本大震災における子どもの心とその支援). 小児科臨床,65(10),2137-2145. 高橋征仁 , 神林博史 , グッドウィン ロビン , 孫少晶 , ベン - エズラ メナケム.(2017).東日本大震災にお ける喪失体験とレジリエンス : 平成23年度宮城県民間賃貸借上住宅入居者健 康調査にもとづく 2 次分 析.東アジア研究,15,201-211. WHO.(1986),Health Promotion Actions Means, The Ottawa Chapter for Health Promotion, https://www. who.int/healthpromotion/conferences/previous/ottawa/en/index1.html(2020年10月13日閲覧)

参照

関連したドキュメント

(実被害,構造物最大応答)との検討に用いられている。一般に地震動の破壊力を示す指標として,入

これはつまり十進法ではなく、一進法を用いて自然数を表記するということである。とは いえ数が大きくなると見にくくなるので、.. 0, 1,

FSIS が実施する HACCP の検証には、基本的検証と HACCP 運用に関する検証から構 成されている。基本的検証では、危害分析などの

ASTM E2500-07 ISPE は、2005 年初頭、FDA から奨励され、設備や施設が意図された使用に適しているこ

とされている︒ところで︑医師法二 0

ご使用になるアプリケーションに応じて、お客様の専門技術者において十分検証されるようお願い致します。ON

【大塚委員長】 ありがとうございます。.

ご使用になるアプリケーションに応じて、お客様の専門技術者において十分検証されるようお願い致します。ON