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子どもの言葉から心の育ちを探る (2) : 役割取得能力に着目して

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子どもの言葉から心の育ちを探る (2) : 役割取得

能力に着目して

著者

大北 理津子

雑誌名

聖和短期大学紀要

7

ページ

1-7

発行年

2021-03-20

URL

http://hdl.handle.net/10236/00029655

(2)

子どもの言葉から心の育ちを探る(⚒)

―― 役割取得能力に着目して ――

Exploring Mental Development from the Aspect of Children’s Words (2) —— Focusing on the Role Taking Ability ——

大 北 理津子

要 約

近年、学校教育において社会情緒的な力を育むことに関心が高まっているが、人とかかわる上で必 要とされる力の一つに「役割取得能力」があげられる。本稿では子どもが「友だちとのかかわりの中 で葛藤を抱く場面における言葉」を通して「役割取得能力」の発達状況を探り、その要素となりうる もの、また「役割取得能力」の発達を支える保育者の援助の一考察を行った。 その結果、子ども同士がやりとりをする中で、自分の視点に加えて相手の視点を有し、互いを関連 づけていく様子が見受けられた。同時にそこには「共感」の働きも伺えた。考察されたこれらの点か ら、保育者の援助として揺れ動く子どもの心を受容しつつ、子ども同士の対話の場と関係をつくるこ とが導き出された。また、けんかやいざこざを自分たちの問題として捉え、主体的に考え合う過程が 「役割取得能力」の発達に資する可能性があるとの視座も与えられた。 キーワード:役割取得能力、共感、対話

⚑.はじめに

平成29年(2018年)に告示された幼稚園教育要領 においても示されているように、近年、学校教育に おいて子どもたちが未来社会を切り拓くための資 質・能力を育むことが重視されており、その中でも 特に社会情緒的な力に関心が高まっている。これ は、自分への自信、相手を信頼する気持ち、意欲を 持って目標に向かっていく力1)など、人と共に生き ていく上で欠かすことのできないスキルと言い換え られるであろう。筆者(2020)は「他者と関係を 作っていくコミュニケーション力」をその要素の一 つと捉え、子どもの言葉から発達状況を推測し、心 の育ちを探った。その結果、「役割取得能力」の獲 得過程にあることが伺えた2) 「役割取得能力」は人とかかわる上で必要とされ る力であり、発達心理学においていざこざなど対人 場面における子どもの発達の中心概念の一つとして 取り上げられてきた3)。橋本(2019)は、役割取得 能力の発達レベルは年齢が上がると共に自然に発達 していくものではなく、子どもが葛藤場面でどうす ればよいかを自分で考えることを通して育っていく ものであると述べ、さらに、幼児期は保育者による 丁寧な援助によってそれらの力が確かに育ち始める 時期であると言及している4)。「役割取得能力」に 関しては、その発達段階と視点取得能力の関連性を 調べた研究(本間,2017)5) や、下位能力および他 の視点取得能力との関連を調査した研究(渡部, *Ritsuko OHKITA 聖和短期大学 専任講師 1)武藤隆・古賀松香編著(2016)「実践事例から学ぶ保育内容 社会情動的スキルを育む「保育内容 人間関係」―乳 幼児期から小学校へつなぐ非認知能力とは―」北大路書房 p.ⅰ 2)大北理津子(2020)「子どもの言葉から心の育ちを探る(1)―相互的かかわりの中で動く子どもの心に着目して―」 聖和短期大学紀要第⚖号 p. 1 3)橋本祐子(2019)「友だちとのいざこざを解決する能力の発達と援助(1)幼児期からの発達の連続性と方向性」キリ スト教保育 第609号 キリスト教保育連盟 p. 7 4)前掲⚓)p. 9 5)本間優子(2017)「役割取得能力の発達段階と視点取得能力の関連性―多肢選択法による児童用役割取得能力測定課 題の開発に向けて―」新潟青陵学会誌10巻⚑号 pp 31-39

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1991)6) が報告されているが、幼児の対人葛藤の事 例に着目した研究は少ない。そこで本稿では、保育 の実践事例を通して子どもが「友だちとのかかわり の中で葛藤を抱く場面における言葉」に焦点を当 て、推測される子どもの思考や内面の動きから「役 割取得能力」の発達状況を探る。さらに子どもたち の実情から「役割取得能力」の要素となりうるもの や、保育者の援助の一考察を行う。

⚒.方法

筆者が2019年⚓月まで所属していた幼稚園(当時 ⚕歳児担任)の保育記録より一部を抜粋し、子ども の言葉にまつわるエピソードから事例検討を行う。

⚓.結果

【保育記録】「どうして?」から始まる子ども同士 の向き合い (20**年⚕月) ・①「○○くんが『きらい』って言った」「△△ ちゃんが入れてくれない」「□□くんに叩かれ た」 など、日々子どもたちの間では衝突が起こ る。⚔月よりも増えてきたように感じるのは、 仲間関係の枝葉が広がり、自分を出せるように なってきた印かとも思う。 ・言われた、された側の子どもが担任に伝えにく ることが多い。担任が「どうして(△△ちゃん は)そんなことを言う(する)んだろうね?」 と 尋 ね る と、② 分 か ら な い と 口 に し た り、 「・・・・・」と無言になったりする。担任が「聞い てみない?」と言葉をかけると、③戻って行っ て理由を尋ね始める。すると、④相手の子ども は自分なりの理由(思い)を話し始める姿が多 く見受けられる。勿論、中には担任が入らなけ ればやりとりが難しいケースもあるが、子ども たちのやりとりの中にはʠ友だちと向き合い、 自分と向き合うʡ様子が見られる。 ・この向き合い方も様々で、⑤相手の理由に納得 できず反論したり、自分の言動を振り返って (互いに)謝ったり、気持を整理できずに担任 のところに戻ってきたりする。

⚔.考察

4-1 事例の言葉から推測される思考や内面の動き 下線部①~⑤の「子どもの言葉や行動」と「推測 される思考や内面の動き」を以下のように示し、枠 外の下部に筆者の行った援助とその意図も併せて記 す。 上段 子どもの言葉や行動 下段 推測される思考や内面の動き ①「〇〇くんが『きらい』って言った」 「△△ちゃんが入れてくれない」 「□□くんに叩かれた」 ・自分を否定されたことや危害を加えられたこと に対する腹立たしさや悲しさ。 【担任が行った援助】 ・「きらいって?そうなの」「そうなの」「どこを? 大丈夫?(確認する)」など言葉をかけ、内心穏 やかではないであろう子どもの気持ちを受け止め た。 ・相手の言動の背後に何か思いがあるのではないか と考え、「どうして(〇〇くん、△△ちゃんは) そんなことを言う(する)んだろうね?」と投げ かけた。 ②「分からない」と口にしたり、「・・・・・」と無言 になったりする。 ・なぜだろうかと考えるが分からない。 【担任が行った援助】 ・「聞いてみない?」と相手に直接尋ねてみるよう に、背中を押す言葉をかけた。 ・相手に対する思いを言語化して伝えると共に、理 由を聞いて言動に至った経緯を知ることができる ように願った。 6)渡部雅之(1991)「役割取得能力の発達過程―下位能力および他の他視点能力との関連―」滋賀大学教育研究所紀要 24巻 pp 23-30 聖 和 短 期 大 学 紀 要 第 ⚗ 号 2021 【T:】Edianserver/【聖和短期大学】/聖和短期大学紀要/第⚗号/ 大北理津子

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③戻って行って理由を尋ね始める。 ・考えても理由が分からなかったため、相手を責 める気持ちもある。 ・「なぜか」知りたい、きちんと答えてほしい。 【担任が行った援助】 ・②での援助の願いを持ちながら、見守る。(相手 の子ども) ④相手の子どもは自分なりの理由(思い)を話し 始める。 ・自分の行動、言葉の背後にある思いを整理し、 言葉にしようとする。 【担任が行った援助】 ・見守る(言動に至った理由を伝えられるように、 また、自分のしたことが相手に不快な思いをさせ ていることに気付けるように願った。) ⑤相手の理由に納得できず反論したり、自分の言 動を振り返って(互いに)謝ったり ・理由は分かったが、相手の取った言動に疑問が ある、自分に対する誤解が生じている場合はそ れを解きたい、自分が批判されたことに対して 言及したい、など。 ・相手の取った言動の経緯には、自分の言動が影 響していたことを知り、申し訳なく思う。 【担任が行った援助】 ・見守る(お互いに両者の関係の中で考え、自分の 思いを伝え合えるように願った。) ①において、子どもは「言われた」「された」こ とにのみ意識が向いていると考えられる。次いで② では相手を責める気持ちは変わらずありつつも、 「なぜだろう」と考え、③相手にそれを尋ね、④相 手の話を聞くという展開であった。そして、⑤では それまで自分の視点のみであったところに、理由を 聞くことで相手の立場にも立ち、互いを関係づけて 事を受け止めたと推測される。これらの内的状況や 視点の変化を表⚑に示す。 4-2 役割取得能力 ⚑)「役割取得能力」の発達段階と事例における子 どもの言動 役割取得能力とは、相手の立場に立って感情を推 測する能力を意味する。具体的には、1)自分と他 者の違いを意識すること、2)他者の感情や思考な どの心の内側を推測すること、3)それに基づいて 自分の役割行動を決定することが含まれる7)。セル マン(Selman,1976)はこの役割取得能力の発達 を子どもの視点と他の人の視点が分化し、視点間の 調整がなされていく構造的変化の過程と考えて、そ れ を 社 会 的 視 点 取 得 能 力(social perspective‒ taking ability)の発達とよんでいる8)。セルマンが 明らかにした幼児期から青年期までの役割取得能力 の発達段階を表⚒に示す。 7)前掲⚓)pp. 7-8 8)日本道徳性心理学研究会編著(1992)道徳性心理学 道徳教育のための心理学 北大路書房 p. 176 表⚑ 「子どもの言葉や行動」と「子どもの内的状況や視点の変化」 子どもの言葉や行動 子どもの内的状況や視点の変化 ①「〇〇くんが『きらい』って言った」 「△△ちゃんが入れてくれない」 「□□くんに叩かれた」 「言われた」「された」ことにのみ意識が向 いている。

②「分からない」と口にしたり、 「・・・・・」と無言になったりする。 相手を責める気持ちは変わらずありつつも、「なぜだろう」と考える。

③戻って行って理由を尋ね始める。 相手に尋ねる。 ④[相手の子ども] 自分なりの理由(思い)を話し始める。 [相手の子ども]自分の行動、言葉の背後にある思いを整理 し、言葉にしようとする。 ⑤相手の理由に納得できず反論したり、自 分の言動を振り返って(互いに)謝った り 自分の視点のみであったところに、理由を 聞くことで相手の立場にも立ち、互いを関 係づけて事柄を受け止めた。

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橋本(2019)はこの発達段階について次のように 説明している。 レベル⚐は、自分の視点でしかものごとがとら えられない、自己中心的な姿を現している。自 己中心性(あるいは中心化)は、わがままと いった性格的な特徴ではなく、すべての幼児に 見られる発達的特徴である。レベル⚐の子ども は、いざこざが起こったとしても、ほかの人が 感じたり考えたりすることが自分のそれとは異 なるかもしれないことを認識できないという特 徴を持つ。このような自己中心的なとらえ方か ら、少しずつ他者の視点を考えられるようにな ることを脱中心化という。レベル⚑では、子ど もは自分とほかの人のそれぞれが別の視点をも つことを理解し、少し脱中心化するが、一度に 複数の視点をとらえることができない9) この発達段階に表⚑の子どもの言葉や行動①~⑤ を照らし合わせてみると、①~④までは自分の視点 で事を捉えていると見受けられ、概ねレベル⚐:自 己中心的役割取得に該当する。しかし⑤においては 相手の視点からも捉えていると見ることもでき、レ ベル⚑:主観的役割取得の兆しが感じられる。⑤に は相手に反論する子どもの姿も含めているが、反論 したからといって他者の視点を有していないとは言 い難い。相手の視点を持ったが、自分としては疑問 に思うことがあり主張したとも考えられる。しかし ながら、中には性格や重ねてきた経験、環境、その 時の状況などが相まって様々なケースも予想される ため、子どもの姿を読み取る保育者の目も必要とな るであろう。発達には個人差があるため、「役割取 得能力」の発達段階の枠組みを一概に当てはめて考 えることは憚られるが、事例における子どもたちの 言動は概ねレベル⚐、そして部分的にレベル⚑と合 致するように思われる。 興味深いことは、一連のやりとりの中で、レベル ⚐:自己中心的役割取得にある子どもたちが、レベ ル⚑主観的役割取得へと向かっていると見受けられ る点である。それを繋いだものは、自分の視点と他 者の視点の区別であり、話し合いの過程における相 互の関連づけではないだろうか。 ⚒)「共感」の働き ここで⑤の「自分の言動を振り返って(互いに) 謝ったり」を取り上げる。 自他の視点の相互の関連づけがなされた時、子ど もの中で何が起こっていたのだろうか。単に自分を 客観視しただけではなく、ここには相手への「共感」 が存在したのではないだろうか。 共感とは、感情や表情、言動などに現れる、他者 9)前掲⚓)p. 8 聖 和 短 期 大 学 紀 要 第 ⚗ 号 2021 【T:】Edianserver/【聖和短期大学】/聖和短期大学紀要/第⚗号/ 大北理津子

― 4 ― 表⚒ 「セルマンによる役割取得能力の発達段階」(渡辺,2001より) レベル⚐:自己中心的役割取得(⚓~⚕歳) 自分と他者の視点を区別することがむずかしい。同時に、他者の身体的特性を心理面と区別するこ とがむずかしい。 レベル⚑:主観的役割取得(⚖~⚗歳) 自分の視点と他者の視点を区別して理解するが同時に関連づけることがむずかしい。また、他者の 意図と行動を区別して考えられるようになり、行動が故意であったかどうかを考慮するようにな る。ただし、「笑っていれば嬉しい」といった表面的な行動から感情を予測しがちである。 レベル⚒:二人称相応的役割取得(⚘~11歳) 他者の視点から自分の思考や行動について内省できる。また、他者もそうすることができることを 理解する。外からみえる自分と自分だけが知る現実の自分という⚒つが存在することを理解するよ うになる。したがって、人と人とがかかわるときに他者の内省を正しく理解することの限界を認識 できるようになる。 レベル⚓:三人称的役割取得(12~14歳) 自分と他者の視点以外、第三者の視点をとることができるようになる。したがって、自分と他者の 視点や相互作用を第三者の立場から互いに調整し考慮できるようになる。 レベル⚔:一般化された他者としての役割取得(15~18歳) 多様な視点が存在する状況で自分自身の視点を理解する。人の心の無意識の世界を理解し、主観的 な視点をとらえるようになり、「言わなくても明らかな」といった深いところで共有される意味を 認識する。 出所:渡辺弥生 2001 「VLF による思いやり育成プログラム」図書文化 p. 22

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が感じている感情状態を認識し、相手の気持ちをわ がもののように感じ取ることである。また、共感は 他者理解の視点から、他者の立場でものを感じ、考 え、必要に応じて自分の立場に戻ることもできる柔 軟で利他的な感情の動きでもある10)。⑤では自分の 言動を振り返ると同時に、他者(本事例では相手) の立場に立って気持ちを感じ取ったと推測される。 そして自分の立場に戻り、謝る行為へと至ったのだ ろう。「共感」には相手と自分との間を行き来する、 まさに他者の視点と自己の視点をつなぐ働きがある ように思われる。この「共感」は子ども自身が相手 とかかわり感じ取るものであることから、こうした 対人葛藤の場面で保育者が何をどのように援助する かも焦点となりうる。 4-3 役割取得能力の発達を支える保育者の援助 ⚑)対話の橋渡し ここまで見てきたように、けんかやいざこざなど の場面においては、子どもが相手と向き合い話をす る、いわゆる「対話」を通して、自己中心的なもの の見方から他者の視点を有していくことが分かる。 「対話」は広辞苑によると「向かい合って話すこ と。相対して話すこと。二人の人がことばを交わす こと。会話。対談。11)」とされている。近年の日本 の教育改革の一つ「対話的・主体的で深い学び」に も含まれる「対話」であるが、神長(2017)は「対 話的な関係はただ『話し合う関係』ではなく、自分 が話したことによって、相手が考えたことが返って きて、その話を聞きながら、今まで気付かなかった ことに気付いたり、納得したり、自分の考え方を見 直したりして、自分が変わっていくような関係を指 す12)」としている。これらを踏まえ、役割取得能力 の発達を支える援助として、事例における子ども同 士の対話へのかかわりについて考えてみたい。 ⚑点目は、対話の場を作ること、そして可能な限 り自分の言葉で気持ちを伝え、相手の話も聞こうと する姿勢を持てるようにすることが浮かび上がる。 事例の子どもの言葉①に対する投げかけ「どうして (〇〇くん、△△ちゃんは)そんなことを言う(す る)んだろうね?」や、②に対する「聞いてみな い?」との言葉かけは、相手と向き合う機会を作り、 話を聞こうとする気持ち引き出すものであったと思 われる。しかし、抜け落ちていた点もある。それは 自分の気持ちの言語化である。「どうして」と尋ね る前にʞ言われて、されて嫌だったʟなど自分の気 持ちを言葉で捉え、相手に伝えようとする援助が必 要だったのではないだろうか。幼稚園教育要領解説 (第⚒章 領域「人間関係」内容(6))においても 「幼児の自己発揮と自己抑制の調和のとれた発達の 上で、自己主張のぶつかり合う場面は重要な意味を もっていることを考慮して教師が関わることが必 要13)」であるとされ、子どもの主張や気持ちを十分 に受けとめ、思いが伝わるように援助していくこと が示されている。これは対話の礎ともいえるのでは ないだろうか。 ⚒点目は、相手の言動の意図に目を向けられるよ うにすることである。子ども同士のやりとりにおい ては、相手の言葉や行為そのものに焦点が当たりや すい。言動と意図の関係に気づくことが他者理解を 促すと考えられる。相手の子どもにとっても「どう して?」と理由を尋ねられることで自分を振り返 り、内面を自覚化することとなる。また、状況に よっては保育者は子どもの言語化できない思いを汲 み取って言葉を添えたり、自分と向き合う時間を作 ることも必要ではないだろうか。気持ちを整理し、 自己理解への一助ともなるかかわりである。こうし た配慮のもとで子ども同士がやりとりを重ねること により、互いの感情や思考など心の内側を推測する 経験が積み上がっていくようにも思われる。 共感性や役割取得能力は周囲の大人の配慮や援助 によって理解されていくものと考えられる(鈴木, 2020)14)。保育者自身が葛藤場面で揺れ動く子ども の心と対話しながらかかわることも援助の重要な要 素となろう。 ⚒)受容 今回の事例では、対話の前に行った援助があっ た。それは受容である。感情が高ぶっている、ある いは混沌としている時、大人であれば自己抑制し相 手と向き合うことも可能であるが、子どもの場合そ 10)谷田貝公昭編集代表(2017)「新版 保育用語辞典」一藝社 p. 98 11)新村出編者(2018)「広辞苑 第⚗版」岩波書店 p. 1773 12)武藤隆監修(2017)「幼稚園教育要領ハンドブック」学研 p. 71 13)文部科学省(2018)「幼稚園教育要領解説」フレーベル館 p. 174 14)沼山博・三浦主博(2020)「子どもとかかわる人のための心理学」萌文書林 p. 73

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れは難しい。事例の子どもはおそらく一人では処理 しきれない気持ちがあったため、筆者のもとにやっ てきたと思われる。他の子どもや他の場面において も一旦受容されることで安心感を抱き、次の段階へ と移っていく姿がしばしば見られる。そのため本事 例でも「そうなの」などの言葉をかけ、共感をもっ て受け止めた。しかし、受容はするが同調はせず、 あくまでも中立的な立場をとるようにした。保育者 の言動は子どもにとって影響が多大である。けんか やいざこざなどに保育者が白黒をつけるべきではな いことは勿論、一方への同調は子ども同士の対話に も響くことになる。本事例では訴えが一方のみで あったこともあり、この点には特に留意するように した。 受容は保育における基本姿勢の一つである。今回 の事例では筆者は直接子ども同士の対話に携わるこ とはなかったが、どのような場面でも子どもが受け 止められていると感じることが、自己発揮につなが ると考える。 ⚓)自分たちの問題として捉えられるように 橋本(2020)は、「対人間のいざこざを解決する 上で役割取得能力が重要になる」とし、その援助と して「お互いの意図や思いを伝え合えるようにする こと、子どもの感情を認め、時間をかけて援助する こと、また自分たちの問題として取り組めるように すること」などをあげている。⚓点目の「自分たち の問題として取り組めるように」においては、「ど う解決すればよいかを子どもたちなりに考えられる ように援助し、保育者は手助けはするものの、解決 者ではないという立場に立つ」とし、大人による解 決や統制(他律)に頼ることから、少しずつ自分た ちの力で考え解決する方向(自律)へと歩めるよう に促すことの重要性を述べている15)。この実現のた めには、葛藤場面における一人ひとりの状況、性格 や思考の傾向、これまでの経験などを考慮して対応 することが肝要ではないだろうか。筆者の経験にお いて、けんかやいざこざの場面で子どもが保育者を 頼ってくる頻度は年長組の⚑年間を通して大きく変 化したと記憶している。これはʞ自分たちの問題を 自分たちで考えるʟという意識、また、ʞ考えるこ とができるʟという自信と連動しているとも思われ る。自律は行きつ戻りつしながら育まれるものであ ることも心にとめ、一人ひとりの子どもに発達の見 通しと願いをもってかかわることを大切にしたい。

⚕.まとめ

本研究では子どもが「友だちとのかかわりの中で 葛藤を抱く場面における言葉」を通して子どもの思 考や内面の動きを探り、「役割取得能力」の発達状 況やその要素となりうるもの、また「役割取得能力」 の発達を支える保育者の援助の一考察を行った。 子ども同士がやりとりする中で、自分の視点に加 えて相手の視点を有し、互いに関連づけていく様子 が伺えた。ここには「共感」の働きがあった可能性 も示唆され、次の発達段階への芽生えと捉えられる 姿も見受けられた。 これらの実情をもとに「役割取得能力」の発達を 支える援助として、対話の場をつくり、自分たちの 言葉で思いを伝え合えるような橋渡しをすることが 導き出された。同時に、ありのままを受容する姿勢 をもちつつも、けんかやいざこざを自分たちの問題 として捉えられるようにすること、また、解決に向 けて考え合う過程を築くことが「役割取得能力」の 発達に資する可能性があるとの見解にも至った。 「役割取得能力」の発達段階を鑑みて、今回の事 例から心の育ちをあげるならば、自分と相手との気 持ちの中で葛藤しつつも互いの視点間を調整しよう としたこと、といえるのではないだろうか。理由を 聞いて相手の立場からも事を捉え、自分の言動を振 り返って謝ったり、新たに自分の中に出てきた思い を伝えようとする姿に自他の視点の区別と相互の関 連付けを垣間見ることができる。また、「役割取得 能力」と直接的な関係にはないが、腹立たしさや悲 しさから責めたい気持ちを抱きつつも、相手に理由 を尋ね、向き合おうとしたこともまた、心の育ちと いえるようにも思われる。

⚖.おわりに

一つの発達段階の中にも小さな発達が連続してい る。それは日々の保育において、子ども同士や子ど もと保育者との関係の中で紡がれていくように見え る。子どもの言葉や行動を通して見え隠れする発達 の芽を捉え、見通しをもって援助していく重要性を 15)橋本祐子(2020)「友だちとのいざこざを解決する能力の発達と援助(2)自分たちで解決する力を育てるために」キ リスト教保育 第610号 キリスト教保育連盟 pp. 6-9 聖 和 短 期 大 学 紀 要 第 ⚗ 号 2021 【T:】Edianserver/【聖和短期大学】/聖和短期大学紀要/第⚗号/ 大北理津子

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改めて感じた。古賀(2016)は「子どもと大人が共 に自己と他者をめぐる具体的な状況のなかで、揺れ 動き、葛藤し、時に向き合えず、折り合えない日々 がありながら、それでも何とか向き合おうとするこ とを通して、人と共に生きる力として、社会情動的 スキルが育まれる16)」と述べている。これは、単な るスキルの獲得に向けての援助ではなく、子どもと 保育者が互いに人格を持った人間として向き合うこ とで育まれるものであり、養護的側面と教育的側面 が一体となった「保育」だからこそ醸成されるもの と感じる。「役割取得能力」も社会情動的スキルの 要素を成すものと捉え、葛藤場面における個別具体 的なかかわりについて洞察を深めていきたい。 子どもの言葉にはʠ今ʡの発達が映し出されると 同時に、その時々の心模様が投影されていることを 覚える。それゆえに、語彙数にかかわらず子どもの 言葉を文脈として捉えることも必要ではないだろう か。今後は発達的観点を持ちながら、子どもの言葉 を文脈として紐解き、心の育ちを探ることも課題と したい。 〈付記〉 本論文は日本保育学会第73回大会でのポスター発表「子 どもの言葉から心の育ちを探るⅡ」(大北理津子)をもと にしている。 参考文献 渡辺弥生編集(2001)「VLF による思いやり育成プログラ ム」図書文化 内田伸子編(2008)「よくわかる 乳幼児心理学」ミネル ヴァ書房 加藤繁美著(2012)「⚐歳~⚖歳 心の育ちと対話する保 育の本」学研 河合優年・中野茂編著(2013)「保育の心理学」ミネルヴァ 書房 高櫻綾子・請川滋大編著(2013)「子どもの育ちを支える 発達心理学」朝倉書店 文部科学省(2017)「幼稚園教育要領」フレーベル館 吾田富士子編著(2018)「これからの保育と教育―未来を 見すえた人間形成―」八千代出版 井戸ゆかり編著(2019)「保育の心理学 実践につなげる、 子どもの発達理解」萌文書林 16)前掲⚑)p.ⅱ

参照

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