大英図書館企画展「プロパガンダ--権力と説得」見
学報告 (特集 新しい研究図書館を描く -- 海外の
実践にみる知の集積・発信のいま -- 学術情報の発
信)
著者
澤田 裕子
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
222
ページ
39-39
発行年
2014-03
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003510
「 プ ロ パ ガ ン ダ ─ 権 力 と 説 得 」 は、 二 〇 一 三 年五月一七日〜九月一七日に大英図書館の所蔵 資料および機関・個人からの貸与資料など、約 二〇〇点の国家プロパガンダを集めた企画展で ある。閲覧者の資料への興味を啓蒙すること、 地域への貢献をアピールすること、職員の育成 に役立つことなどを目的として多くの図書館が 展示活動を行っている。世界的規模の歴史コレ クションを誇る大英図書館の貴重な資料を活か し、イギリスのメディアでも好評だったこの展 示を見学する機会を得たので報告したい。 大英図書館の社会科学コレクション部ジュー ド・ イ ン グ ラ ン ド 部 長 と イ ア ン・ ク ッ ク 主 席 キュレーターが二年かけて外部の専門家ととも に企画したもので、イギリス・ケント大学、戦 争・ プ ロ パ ガ ン ダ・ 社 会 研 究 セ ン タ ー の セ ン ター長、ディヴィッド・ウェルチ教授が展示カ タ ロ グ を 執 筆 し て い る。 ( 参 考 文 献 ) 太 陽 光 が 溢れる図書館ロビーを抜けて展示会場へと向か うと、薄暗い入口に顔のない黒いマネキンが向 かい合って立っており、その体にはプロパガン ダを語る先人たちのことばが書いてある。プロ パガンダとは、ウェルチ氏の展示カタログによ ると、特定の方法で説得力のある特定の目的の ために考え、行動するよう民衆を説得すること を意図した観念の普及だという。紀元前四世紀 ギリシャの銀貨に刻まれた統治者の肖像も広大 な領土を治めるための正当性を印象付けるプロ パガンダだった。元来「プロパガンダ」という 言葉自体は宗教的であったらしい。一六世紀に 宗教改革が起こり、政治的、宗教的勢力を失い つつあったローマカトリック教会は、自らを戒 め、規律正しい宗教生活を維持することによっ てキリスト教の分裂を防ごうとした。そこで、 Cong regatio de Propaganda Fide ( 布 教 聖 省)が宣教と教会活動を司る機関として設置さ れ、その後、プロパガンダという言葉は様々な 宣伝活動を指すようになったという。展示会場 でひときわ目を引いたナポレオンの肖像画は、 皇 帝 然 と し た 赤 い ロ ー ブ、 金 の 月 桂 樹 の 冠、 カール大帝の王 おう 笏 しゃく など権力の象徴が要所に描か れ、帝国の繁栄と彼自身を宣伝していた。 一 九 一 四 年 に 第 一 次 世 界 大 戦 が 始 ま る と 、 プ ロ パ ガ ン ダ は 民 衆 の 士 気 を 高 め 、 敵 に 対 す る 世 論 を 統 制 す る 手 段 と し て 使 わ れる よ うに な っ た 。 「 国 が あ な た を 必 要 と し て い る 」 とい う 標 語 の キ ッ チ ナ ー ・ イ ギ リ ス 陸 軍 大 臣 が 指 を 突 き 出 し た 募 兵 用 ポ ス タ ー は 多 く の 民 衆 を 動 員 し 、 各 国 で模 倣 さ れ た 。 今 回 、 大 英 図 書 館 も 標 語 を 変 え て こ れ を 模 倣 し 、 展 示 グ ッズ を 作 成 し て い た 。 ま た 、 映 画 やラ ジ オ な ど あ ら ゆる 媒 体 を 利 用 し た プ ロ パ ガ ンダ は 英 雄 的 な 統 治 者 のイ メ ー ジ を 広 め 、 個 人 崇 拝 を 後 押 し す る 役 割 も 果 た し た 。 ム ッ ソ リ ー ニ 、 ヒ ト ラ ー 、 ス タ ー リ ン 、 毛 沢 東 の 肖 像 画 や 映 像 は 力 強 く 明 確 な メ ッ セ ー ジ に 溢 れ 、 民 衆 を 扇 動 す る 彼 ら の 宣 伝 活 動 が 巧 み で あ っ た こと が わ か る 。 第 二 次 世 界 大 戦 中に は プ ロ パ ガ ン ダ 活 動 は ま す ま す 活 発 化 し 、 イ ギ リ ス 、ド イ ツ 、 米 国 な どで は そ の 「 フ ィ ー ド バ ッ ク 」 機 関 も 設け て 、 世 論 や 公 衆 道 徳 を 随 時 分 析 し て い た の に 驚 い た 。 ま た プ ロ パ ガ ン ダ は 、 国 家 が 募 兵 の 必 要 から 公 衆 衛 生 を 向 上 させ る の にも 活 用 さ れ た 。 展 示 さ れ て い た ポ ス タ ー で は 子 供 が ハ エ に 襲 わ れ て い た り 、 泥 酔 し た 父 親 の 傍 で 家 族 が 泣 い て いた り 、 わ か り や す く 、 感 情に 訴 え る も の が 多 い 。 イ ギ リ ス 政 府の エ イ ズ 撲 滅 キ ャ ン ペ ー ン は 恐 怖 心 を 煽 り す ぎ て 賛 否 が あ っ た が 、 結 果 的 に は エ イ ズ 予 防 に 有 効 だ っ た と い う 。 最後の展示はコーラスと呼ばれるデータイン スタレーションで、ツイッターの匿名メッセー ジをリアルタイムで流し、誰もが潜在的な宣伝 活動家になれることを暗示していた。ウェルチ 氏は、様々なメディアによって情報が錯綜する 今日、プロパガンダそのものは中立的で、その 意図を正確に読み取ることが重要だと展示カタ ログを締めくくっている。あらゆる媒体で双方 向に往来する大量の情報を整理し、付加価値を つけて提供することは図書館の重要な役割でも あると考えさせられた展示だった。 (さわだ ゆうこ/アジア経済研究所 図書館) 《参考文献》 ● D av id W elc h 著 「 P ro p ag an d a: p o w er a n d p er -suasion 」( British Library , 2013 ) 《大英図書館展示ウェブサイト》 ● h ttp :// w w w .b l.u k/ w h at so n /e xh ib iti o n s/ p ro p ag an -da/index.html