血液 ・膝 関節 液 中の 因子測 定値 に よる
慢性 関節 リウマ チ と
変形性膝 関節症 の比較 と判 別分析
岡 山 大 学 医 学 部 整 形 外 科 学 教 室(指 導:井 上 一 教 授) 宗 友 和 生 (平 成4年11月13日 受 稿) Key words:慢 性 関 節 リウ マ チ,判 別 分 析,リ ウマ チ 因 子, C-反 応 性 蛋 白, β2マイ ク ロ グ ロ ブ リン 緒 言 慢 性 関 節 リ ウ マ チ(以 下RA)患 者 に お け る 血 液 あ る い は 関 節 液 中 の 諸 成 分 の 変 動 に つ い て は 多 くの研 究 が な さ れ て い る1-4).ま た,こ れ ら 因 子 と 臨 床 経 過 と の 関 連 に つ い て も,様 々 な 研 究 が 行 わ れ て い る5-10).一 般 に, RAの 活 動 性 を み る 上 で 重 要 な指 標 と な る の は, RAに 特 有 の リウ マ チ 因 子(以 下RF)の 他 に,赤 血 球 沈 降 速 度(以 下ESR), C-反 応 性 蛋 白(以 下CRP), β2-マ イ ク ロ グ ロ ブ リ ン(以 下 β2MG),免 疫 グ ロ ブ リン 等 が あ げ られ て い る.し か し,慢 性 膝 関 節 障 害 に お け るRAと 変 形 性 膝 関 節 症(以 下 OA)患 者 の 判 別 に つ い て は 充 分 検 討 され て い な い. 本 研 究 で は, RAとOA患 者 に お い て,男 ・ 女 性 及 び 女 性 に つ い て疾 患 別 に 血 液 と膝 関 節 液 中 の 諸 因 子 間 の 相 関 を 求 め,次 い で こ れ ら の 因 子 の 測 定 値 を用 い てRAとOAの 判 別 分 析 を 行 い,両 疾 患 の 鑑 別 上 有 効 な測 定 因 子 は 何 か に つ い て の 検 討 を 行 っ た. 測 定 対 象 と方 法 1. 対 象 岡 山大 学 医 学 部 附 属 病 院 及 び その 関 連 病 院 で, 膝 関 節 液 貯 留 を 認 め,ほ ぼ 同 時 に 血 液 及 び 膝 関 節 液 採 取 を行 っ たRA患 者24例(男5例 女19例, 平 均 年 齢64.4±7.5歳)及 びOA患 者17例(男 5例 女12例,平 均 年 齢67.9±10.3歳)を 対 象 と した.患 者 血 液 を 採 取 後,遠 沈 分 離 し得 ら れ た 血 清(以 下S)と,関 節 液 を採 取 後,約2分 間 遠 沈 し得 ら れ た 上 清(以 下F)と を,直 ち に 約-30℃ で凍 結 保 存 した.測 定 時 に 解 凍 し,解 凍 後 は 速 や か に 次 の 方 法 に よ り以 下 の 諸 因 子 の 測 定 を行 っ た. 2. 方 法 1) RFの 測 定 ラ テ ッ クス 凝 集 反 応 を用 い, autoanalyzer(ベ ー リ ン グベ ル ケ 社 製 全 自 動 免 疫 化 学 分 析 装 置 ベ ー リン グ ネ フ ェ ロ メー タ ア ナ ラ イ ザ ー)で 測 定 し た.試 薬 は 免 疫 化 学 自動 分 析 用LA試 薬 (LA-RF-II,栄 研 化 学 株 式 会 社 製)を 用 い た. 2) CRPの 測 定 抗 ヒ トCRP血 清 を 用 い る 免 疫 比 濁 法 に よ り, autoanalyzer(前 出)で 測 定 した.試 薬 はC-反 応 性 蛋 白測 定 用CRP免 疫 比濁 用 試 薬(国 際 試 薬 株 式 会 社 製)を 用 い,抗 原 抗 体 反 応 に よ る混 濁 度 は340nmに お け る 吸 光 度 よ り測 定 した. 3) β2MGの 測 定 ラ テ ッ ク ス凝 集 反 応 を 用 い, autoanalyzer(前 出)で 測 定 し た.試 薬 は 免 疫 化 学 自動 分 析 用LA 試 薬(LA-β2-マ イ ク ロ グ ロ ブ リ ン,栄 研 化 学 株 式 会 社 製)を 用 い た. 4) Lipid Peroxide (以 下LP)の 測 定 TBA反 応4)を 用 い る八 木 法(蛍 光 法)に よ り, 用 手 に て 測 定 を行 っ た.試 薬 は 過 酸 化 脂 質 測 定 6364
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用 キ ッ ト(過 酸 化 脂 質 ー テ ス トワ コー,和 光 純 薬 工 業 株 式 会 社 製)を 用 い, 553nmに お け る 蛍 光 強 度 よ り測 定 し た. 5) ESRの 測 定 臨 床 検 査 法 提 要 に 従 い,肘 静 脈 よ り採 血 し Westergren法 で 測 定 し, 1時 間 値 を使 用 し た.Table 1 Test of difference
in averages of mea
sured values of determinants in RA and
OA patients
between male and female
Table 2 Difference in mean value of measured factors of sera and synovial fluids between RA and OA
Number of RA:24
Number 0f OA:17
*:p<0.05
**:p<0.01
結 果 RAとOA患 者(男 ・女 性)に つ い て,血 液 及 び 膝 関 節 液 中 の 測 定 因 子 の 相 互 間 の 相 関 を調 べ,更 に 判 別 分 析 を行 っ て,以 下 の 成 績 を得 た . 男 性 の 測 定 値 の 平 均 値 と女 性 の それ とに はt-test ま た はWelch testで 有 意 差 が 認 め られ な か っ た(Table 1)た め,ま ず 両 性 を ま とめ て 処 理 を行 い,次 い で 大 部 分 を 占 め る女 性 に つ い て は 別 途 に 算 出 し た. 1. 男 ・女 性 の 測 定 因 子 を 用 い た 判 別 分 析 1) RAとOA間 の 血 液 と関 節 液 中 の 各 因 子 の 測 定 値 に お け る 平 均 値 差 の 検 定 RA, OA患 者 の 各 因 子 の 測 定 値 の 平 均 値,不 偏 標 準 偏 差,及 び 両 患 者 の 平 均 値 の 差 異 をt検 定 又 はWelchに よ る検 定 を行 っ た(Table 2). S-RF値 で は, RAとOAの 患 者 間 で,有 意 の 差 を も っ てRAがOAよ り高 値 を 示 し(p< 0.05),ま た, ESR(p<0.01), S-CRP(p<0.05), F-CRP(p<0.01), F-RF(p<0.01), F-β2MG (p<0.01)の 測 定 値 い ず れ も平 均 値 間 に 有 意 に
RAが 高 値 を 示 し た. 2) 測 定 因 子 間 の 相 関 関 係 に つ い て (1) 血 液 と 関 節 液 中 の 因 子 測 定 値 に お け る 相 関 関 係 S-F間 の 測 定 値 の 相 関 関 係 はTable 3 Aと Bに 示 す ご と くで あ るが, RAで はSとFの 測 定 値 の 間 に β2MG(r=0.889), CRP(r=0.884), LP(r=0.596),の 順 に 有 意 な 相 関 関 係(t検 定 に よ り, p<0.05で 母 相 関 係 数 ρ=0を 否 定 され る)が 認 め られ た.し か し, RFに つ い て はSと Fの 測 定 値 間 の相 関 関 係 は低 か っ た(Table 3 A).一 方, OAで はSとFの 測 定 値 間 にRF(r= 0.972), β2MG(r=0.877), CRP(r=0.856), LP(r=0.417),の 順 に 有 意 な相 関 関 係 が 認 め ら れ た(Table 3 B).
Table 3 A Correlation matrix between one paired sample among measured factors of sera and synovial fluids in rheumatoid arthritis (RA)
n=24 Correlation coefficient of population:p≠0 t22(5%)=0.404 t22(1%)=0.602 *:p<0.05 **:p<0.01
Table 3 B Correlation matrix between one paired sample among measured factors
of sera and synovial
fluids
in osteoarthritis
(OA)
n=17 Correlation coefficient of population:p≠0 t15(5%)=0.404 t15(1%)=0.602 *:p<0.05 **:p<0.01
(2) 血 液 因 子 測 定 値 間 の 相 関 関 係 S中 の 各 因 子 の 測 定 値 の 相 関 関 係 は, RAで
はCRP-ESR間(r=0.580), CRP-RF間(r=
0.535),の 順 に 有 意 な 相 関 関 係 が 認 め ら れ た (Table 3 A).一 方, OAで はCRPとESR
間(r=0.689)に 有 意 な 相 関 関 係 が 認 め られ た. しか し, CRPとRF間 に は 有 意 な相 関 は 認 め られ な か っ た(Table 3 B). (3) 関 節 液 因 子 測 定 値 間 の 相 関 関 係 F間 の 相 関 関 係 は, RAに お い て はF因 子 間 に 有 意 な相 関 関 係 は 認 め ら れ な か っ た.一 方, OAに お い てF中 のCRP-LP間(r=0.689) に の み 有 意 な相 関 関 係(p<0.05)が 認 め られ た (Table 3 B).
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Table 4 Misclassification
probability
(M .
C.
P.)
by discriminant
analysis
between RA
and OA, using
factors
from both
sexes
(A) and that using factors from
female (B)
A:Using factors
from both sexes
*Symbols ((1)∼(9)) indicate the order of M . C. P.
B:Using factors from female
3) 判 別 分 析 単 一 因 子 に よ る 判 別 分 析 の 成 績 は, ESRが 最 も良 好 で27.1%の 誤 判 別 確 率 を示 し,以 下F-RF, F-β2MGと 続 い た. SとFの 比 較 で は, F -RF (31 .2%)はS-RF (39.4%)よ り判 別 誤 差 が 少 な か っ た. F-β2MG (33.4%)はF-RF に つ い で 判 別 誤 差 が 少 な く, S-β2MG (39.7%) よ りは 比 較 的 判 別 誤 差 が 少 な い.ま たF間 で は F-CRPはF-β2MGと 大 差 な く, F-RF (31.2 %), F-β2MG (33.4%), F-CRP (33.7%)の 順 に 判 別 誤 差 は 少 な か っ た(Table 4). 血 液 と関 節 液 の9個 の 因 子 測 定 値 を 指 標 と し て 用 い, RAとOA患 者 の 判 別 分 析 を行 っ た. RAとOA患 者 判 別 の 際,最 良 選 択 法 を用 い た 場 合 の最 も有 効 な指 標 の 組 合 せ と各step別 の 誤 判 別 確 率 を見 る と, 3指 標 ま で 各stepに わ た り 選 出 され る指 標 は, ESR, F-RF, F-β2MGで あ っ た.ま た, 6指 標 で は18.4%の 誤 判 別 確 率 で 判 別 が 可 能 な 事 が 認 め ら れ た.そ の 際 の 判 別 の 有 効 な指 標 と して は, S-RF, F-RF, S-CRP, F-CRP, F-β2MG, ESRが 選 択 さ れ た(Table 5A-1).次 い でRFはRAとOA患 者 の 判 別 の 際 にRA患 者 を決 定 す る 因 子 と して 用 い られ て い る の で, S-RF, F-RFを 削 除 し た 場 合 の 残 存7因 子 を 用 い て 判 別 を行 っ た.そ の 結 果3指 標 ま で で は, ESR, F-β2MG, S-β2MGが 指 標 と し て選 出 され,そ の 際 の 誤 判 別 確 率 は23.0% を 示 し た.ま た, 7指 標 全 部 を用 い た 場 合 の 誤 判 別 確 率 は21.2%を 示 し, 9指 標 の 際 の 誤 判 別 確 率17.1%よ り も高 値 で あ っ た が,比 較 的 低 い 誤 差 で 判 別 可 能 で あ る事 が 認 め られ た(Table 5 B).
Table 5 A Effective
indices
selected
by discriminant analysis
using an all
possible
selection
procedure
(APSP) at successive
steps with misclassification
probability
-by the use of 9 factors (including
S-RF and
F-RF)-A-1:Using
factors from both sexes
A-2:Using factors from female
NF1):Number of factors used to discriminant analysis by APSP
Table 5 B Effective indices selected by dis
criminant analysis using an all pos
sible
selection
procedure (APSP) at
successive steps with misclassifica
tion probability
-by the use of 7 factors (excluding
S-RF and
F-RF)-NF1):Number of factors used to discriminant analysis by APSP 2. 女 性 の み の 測 定 因 子 を用 い た 判 別 分 析 本 研 究 で はRA, OA患 の 因 子 測 定 値 に つ い て,平 均 値 の 有 意 の 差 異 が 男 女 間 に 認 め られ な い の で 両 者 を併 せ て 算 出 し た が,参 考 の た め 女 性 の み でRA, OAの 判 別 を 行 っ た.単 一 因 子 を 用 い た 際 の 誤 判 別 確 率 で は, 1番 目のESRか ら5番 目 のS-CRPま で の 順 序 は 両 性 の 場 合 と 同 じ で あ り,か つ 誤 判 別 確 率 も近 い値 を示 した (Table 4 B).ま た,最 良 選 択 法 のSTEP別 の 誤 判 別 確 率 で9因 子 を 用 い た場 合 に は, STEP 1, 3, 5, 7で は 両 性 の 場 合 と同 じ因 子 の 組 み 合 わせ が 選 択 さ れ, STEP 2, 4, 6で は 差 異 が 認 め られ た(Table 5 A-2).ま た,女 性 の み の 測 定 値 を用 い た 際 の判 別 誤 差 は 男 女 計 よ り 明 らか に 少 な い事 が 認 め ら れ た.す な わ ち,男 女 の 因 子 測 定 値 の 平 均 値 に は 有 意 差 が 認 め ら れ な くて も,女 性 の み の 測 定 値 を用 い た 場 合 は 因 子 測 定 値 が 比 較 的 均 一 で あ り,こ の こ とが 判 別 誤 差 を 少 な く した と推 定 さ れ る. 考 察 本 研 究 で はRA, OA患 者 の 因 子 測 定 値 に つ い て, 1) 判 別 分 析; a.単 一 因 子 に よ る 判 別, b.最 良 選 択 法 を 用 い た 多 因 子 に よ る判 別, 2) 平 均 値 差, 3) 相 関,の 検 討 を行 っ た. 判 別 方 程 式 に つ い て は, S及 びFを 用 い た 臨 床 検 査 の 結 果 よ り,数 種 の パ ラ メ ー タ ー の 測 定 値 に 重 みづ け をす る事 に よ っ て 方 程 式 を作 成 し, こ の 方 程 式 にRAかOAが 疑 わ れ る 患 者 の パ ラ メー ター を導 入 す る事 に よ り,そ の 疾 患 が い ず れ に 近 い か ま た は 属 す る か を定 め る 方 法 で あ り,多 変 量 を用 い た 計 量 診 断 法 で あ る. 次 い で 判 別 方 程 式 は デー タ数 を決 め た 場 合 に, 最 良 選 択 法 に よ り判 別 に 有 効 な指 標 を選 ぶ 事 に よ り,ど の よ う な指 標 が 両 疾 患 の 判 別 に有 効 で あ る か を知 る事 が で き る利 点 を有 す る.判 別 方 程 式 の 疾 患 へ の 応 用 に つ い て は,古 くは肝 硬 変 と胆 道 閉 塞 と肝 炎 に つ い て,ビ リル ビ ン 量,総 コ レ ス テ リ ン 量,コ レ ス テ リン ・エ ス テ ル 量, セ フ ァ リン ・コ レ ス テ ロー ル 反 応,チ モ ー ル 混 濁 反 応,ア ル カ リフ ォ ス フ ァ タ ー ゼ 量 な ど を パ
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ラ メー ター と し て こ れ ら の 疾 患 の 判 別 を行 っ た 報 告11)が あ る.ま た,最 近 で は 血 清 酵 素 の 測 定 値 をパ ラ メー ター と して の 肝 硬 変 と肝 癌 の 判 別12) の 方 程 式 の 作 成 の 他, maximal expiratory flow-volume curveよ り得 られ た 測 定 指 標 に よ る 正 常 人 と喘 息 患 者 の 判 別13)な どの 報 告 が あ る. しか し, RAとOA患 者 に つ い て の 判 別 分 析 の 試 行 例 は 現 在 ま で み ら れ な い. 有 効 指 標 数 と誤 判 別 確 率 に つ い て は,誤 判 別 確 率 は パ ラ メー タ ー にRFを 用 い た 場 合, 1指 標 で は27.1%, 3指 標 で は20.9%, 5指 標 で は 20.1%, 7指 標 で は18.1%, 9指 標 で は17.1% で あ り, 3指 標 と5指 標 の 間, 6指 標 と7指 標 の 間, 8指 標 と9指 標 の 間 に は 誤 判 別 確 率 に 大 差 な い.一 応6指 標(誤 判 別 確 率18.4%)で は 判 別 の 目的 を達 成 で き る と考 え ら れ る.こ れ は 健 康 人 と 全 喘 息 患 者 の9指 標 で の 誤 判 別 確 率 15.5%13)に 比 べ て や や 多 い値 と考 え られ る.一 方 パ ラ メー ター にRFを 用 い な か っ た 場 合 に も, 1指 標 で は27.1%で あ り,全 指 標 で あ る7指 標 で は21.2%と,誤 判 別 確 率 はや や 高 い値 を示 し た. 測 定 因 子 の 病 態 に お け る意 義 と,判 別 に 対 す る 寄 与 度,血 液 ・関 節 液 の 因 子 測 定 値 の 相 関 に つ い て は, RAとOAの 判 別 分 析 に 用 い ら れ た パ ラ メー タ ー(特 に パ ラ メー タ ー の 数 を限 局 し た と きの 有 効 指 標)は,病 態 上 あ る い は 臨 床 上 の 関 連 が 高 い と考 え られ る. 現 在 ま で に お け るRAの 診 断 法 と し て, RF に つ い て は 以 下 の 検 査 法 上,特 異 的 診 断 法 と し て 最 も重 要 視 され て い る.即 ち,赤 血 球 に 変 性 γ-グ ロ ブ リ ン を 吸 着 させ る とRAの 自 己抗 体 と の 反 応 が 起 こ る現 象 が 発 見14)さ れ て 以 来, RF測 定 法 に 種 々 の 改 良 が 加 え られ,そ の 結 果 と し て RFはRAの 患 者 の 診 断 法 と して 確 立 さ れ,広 く用 い られ て い る.さ ら にRFの 簡 便 な 測 定 法と して は, Singer & Plotzに よ る ラ テ ッ ク ス 粒 子 凝 集 免 疫 測 定 法15)の 開発 に よ り,今 日 も広 く 用 い ら れ て い る.ま た, RA患 者 の 血 清 のRF 測 定 の 他 に,関 節 液 中 の 測 定 に つ い て も多 くの 報 告 が あ る. RA患 者 の 血 清,関 節 液 の 蛋 白 に つ い て, Seno16)はRA患 者 で は ゲ ル 濾 過 法 に よ る19Sを 含 む 第1ピ ー ク の 蛋 白比(13.0%) がOA患 者 の そ れ(8.4%)よ り高 く, RA患 者 の 血 清 で は 第1ピ ー クの 蛋 白 比(21.2%)は 正 常 人 の そ れ(11.6%)よ り高 値 を 示 す と して
い る.さ らに, Waaler-Rose test (SSCA)及
びLFTは 第1ピ ー ク に の み 認 め ら れ る と述 べ て い る.本 研 究 の 判 別 分 析 で は,関 節 液 のRF測 定 値 は 血 清 のRF測 定 値 と共 に 判 別 の 際 に 有 用 で あ っ た.こ れ はS-RF値 の 上 昇 がRAの 診 断 基 準 の1項 目 と して 用 い られ て い る事 か ら も 当 然 と考 え られ る. ま た, ESRは 過 去 に お い て 急 性 炎 症 の 指 標 と して 用 い ら れ る ば か りで な く,慢 性 炎 症 を呈 す 結 核 の 進 行 度 の 評 価 な どに 用 い られ て き た が, 現 在 で はRAの 病 勢 の 指 標 と して も用 い られ て い る.判 別 分 析 で は, ESRは 最 も判 別 に 有 用 で あ っ た が, RA患 者 で は慢 性 炎 症 の 為 だ け で な く,貧 血 の 為 にESRが 亢 進 す る と さ れ て お り 注 意 を 要 す る. CRP, β2MG, LPは, RAの 補 助 診 断 法 と し て 用 い られ て い る. RAとOAの 判 別 に お け る こ れ ら 因 子 の 病 理 的 意 義 に つ い て は い くつ か の 問 題 が あ る. CRPに つ い て は, Farrら5)がSとFの 測 定 値 間 に 相 関 が あ る と し,測 定 値 と局 所 症 状 の 強 さ の 関 係 に つ い て も報 告 し た. Roweら6)はS -CRPとF-CRPと の 間 に 密 接 な 相 関 関 係(r= 0.74)が あ り, RAで はS-CRPがF-CRPよ り高 値 で あ り, F/S比 は30%と 報 告 して い る. ま た, Walterら7)もCRPの 値 に つ い て はS-CRPがF-CRPよ り高 値 で, F/S比 も約60% とRowe6)よ り もや や 高 値 で あ る こ と を報 告 し て い る.本 研 究 に お け るRAの 成 績 で は, F-CRP とS-CRPの 相 関 関 係 はr=0.84と 良 い 相 関 を 示 し(Spearmanで 相 関 係 数 の 値 は0.43), S-CRPでF-CRPの 代 用 が 可 能 で あ る と考 え ら れ た.ま た, F/S比 は42%の 値 を示 しWalterら7) よ りは 低 値 で あ っ たが, Roweら6)よ りは 高 値 で あ っ た(OAで は20%).ま た, Roweら6)は 正 常 人 に お い て そのF/S比 は 各 種 血 清 蛋 白の 分 子 量 と正 の 比 例 関 係 に あ る事 を報 告 した が,同 時 にRAのCRPで は 分 子 量 に 比 べ てF/S比 が 低 い こ とか ら, CRPは 滑 膜 に選 択 的 に 結 合 す る か 滑 膜 で 特 に 消 費 さ れ, RAの 炎 症 機 構 に 大 切
な 役 割 を も っ て い る事 を示 唆 して い る. Farrら5) はRAで はS-CRP, F-CRPが, OAに お け る よ り も 高 値 で あ る と述 べ て い る.ま た,局 所 症 状 にscoreを つ け る こ と に よ り疾 患 活 動 性 を 調 べ,疾 患 活 動 性 と血 液 と関 節 液 の 多 く の検 査 値 の 相 関 関 係 を 調 べ た 結 果, RAの 局 所 症 状 の 程 度(発 熱,発 赤,圧 痛)は,関 節 液 中 の 多核 白 血 球 数 の 増 加(リ ンパ 球 の 減 少),グ ル コー ス の 減 少, S-CRPの 増 加 等 と相 関 関 係 を 示 し た.ま た,こ れ ら の 因子 は 局 所 症 状 を よ り反 映 し て い る と報 告 し て い る. β2MGに つ い て は, Walterら7)が い う よ う にFの 測 定 値 がSの そ れ よ り も高 く(約150%), ま た 測 定 値 間 にSpearmanの 相 関 係 数 は0.5を 示 した.こ の こ と よ り, F-β2MGとS-β2MGの 間 に 良 い 相 関 関 係 が あ る もの と考 え ら れ る.本 研 究 の 成 績 で は, F値 はS値 の 約167%で あ り, 相 関 係 数 も0.889と,同 様 の 傾 向 を示 し た. HLA のlight chainで あ る β2MGの 増 加 に つ い て は, B細 胞 ま た はT細 胞 か ら産 生 され る と言 わ れ て い るが, RA testの 対 象 で あ る 変 性 γ-グ ロ ブ リ ン(IgG)と 反 応 す る 自 己抗 体 はIgMで あ り, B細 胞 よ り産 生 さ れ る と言 わ れ て い る.従 っ て β2MGの 増 加 は 膠 原 病 特 に 自 己免 疫 疾 患 と関 係 が 比 較 的 高 く, RAの 診 断 に お い て はRFに つ い で 特 異 性 が あ る と考 え られ る. Manicourtら1)は, RA患 者 の50%に お い て 血 清 β2MGが 正 常 値 を 越 え て お り,関 節 症 状 の 重 症 度 の パ ラ メー ター と考 え ら れ る と述 べ て い る.一 方, Sjoblomら2)はRA患 者 の33%に お い て β2MGの 上 昇 を認 め る と報 告 し て い る. Stromら3)は, RA患 者50例 に お い て β2MGと ESRが 有 意 に 相 関 す る と し て い る(r=0.41). Crispら8)は,6ヵ 月 間 のauranofin投 与 で 治 療 す る と β2MGレ ベ ルが 有 意 に 低 下 し,またCRP も低 下 した と述 べ た. 38例 中26例 で は β2MGが 正 常 化 し,こ の 結 果 か ら血 清 β2MGレ ベ ル は 疾 患 活 動 性 を よ く反 映 して い る と述 べ た.一 方, Mallyaら9)はS-CRP濃 度 がRAの 病 勢 を密 接 に 表 し,ま たESRはCRPに 引 き続 い て 亢 進 す る が,病 勢 の 程 度 と の 相 関 に つ い て は, CRP はESRよ り も強 い 相 関 が あ る と して い る. Dixon ら10)はRA患 者 を種 々 の 抗 リウ マ チ 薬 で 治 療 し た 時 のCRPに よ る 治 療 効 果 の 判 定 は,ハ プ トグ ロ ビ ン,フ ィ ブ リノ ー ゲ ン, ESRよ り も有 効 で あ る と述 べ て い る.従 っ てRA自 体 の 病 勢 や 治 療 効 果 の 判 定 に は, β2MG, CRPがESRよ り も有 効 で あ る と い え る.し か し,本 研 究 で行 っ た 判 別 分 析 に お い て は 単 一 指 標 の み の 場 合 に はESR, F-RF, F-β2MG, F-CRPの 順 に 判 別 誤 差 が 少 な く,こ の 点 に つ い て今 後 さ ら に 検 討 を行 う必 要 が あ る と考 え ら れ た. LPに つ い て, Rawleyら4)はLPの 測 定 に TBA反 応 を 用 い,反 応 物 質 がRAのSとFに お い て 見 い だ さ れ,さ らにTBA反 応 値 が 関 節 液 の 鉄 イ オ ン 濃 度 との 間 に 相 関 関 係(r=0.78) が あ る事 を 示 した.ま た,同 時 にF-CRPとF のTBA反 応 物 質 との 間 に 良 い相 関 関 係 が あ る と述 べ た.本 研 究 で は, RAで はOAよ りF-LP値, S-LP値 と も に 高 値 を示 し た が,両 者 の 間 の 相 関 関 係 はOAに の み 認 め ら れ た. SとFの 測 定 因 子 の 相 関 に つ い て はRA, OA 共 にSとFの 測 定 値 の 間 に β2MG, CRP, LPに 有 意 な 相 関 関 係 を認 め,こ れ ら相 関 関 係 の 高 い 因 子 に つ い て は, Sの 測 定 値 か らFの そ れ を推 定 す る こ とが 可 能 で あ る と考 え られ た. 尚,本 研 究 に お い て はRA, OAの 因 子 測 定 値 の 有 意 差 に つ い て 男 女 間 に 差 異 が 認 め ら れ な か っ た の で,両 性 を併 せ て 判 別 を行 っ た が,比 較 的 多 数 を 占め る女 性 の み で 算 出 し た 成 績 は9 因 子 で10.4%で あ り,両 性 の も の よ り も 明 ら か に 判 別 誤 差 が 少 な か っ た.女 性 の み を 用 い た 方 が,男 女 計 よ り も集 団 と し て の 均 一 性 が 保 た れ て い る と推 察 さ れ た. 結 論 RAとOAの 患 者 に つ い てS, F中 の 測 定 因 子 の 相 互 間 の 相 関 関 係 の 検 討 及 び 判 別 分 析 を行 い,以 下 の 成 績 を得 た. 1. RAとOA患 者 間 のSとF中 測 定 値 の 平 均 値 差 の 検 定 で は, S-RF, F-RF, S-CRP, F -CRP , F-β2MG, ESRは い ず れ も両 疾 患 の 測 定 値 の 平 均 値 に 有 意 な差 を示 し, RAに お い て 高 値 で あ っ た. 2. 血 液 と関 節 液 測 定 値 の 相 関 関 係 で は, RA は β2MG(r=0.889), CRP(r=0.884), LP(r=
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和
生
0.596)の 順 にSとFの 測 定 値 の 間 に 有 意 な 相 関 関 係 が 認 め られ, RFで は 相 関 関 係 は 低 か っ た. ま た, OAで はRF (r=0.972), β2MG (r= 0.877), CRP (r=0.856), LP (r=0.417),の 順 に 両 測 定 値 の 間 に 有 意 な 相 関 関 係 が 認 め られ た. 3. 血 液 測 定 値 間 の 相 関 関 係 で は, RAは CRP-ESR間(r=0.580), CRP-RF間(r= 0.535),の 順 に 有 意 な 相 関 関 係 が 認 め られ た. ま た, OAで はCRP-ESR間(r=0.689)に 有 意 な 相 関 関 係 が 認 め ら れ た. CRP-RF間 に は 有 意 な 相 関 関 係 は 認 め ら れ な か っ た. 4. 関 節 液 測 定 値 間 の相 関 関 係 は, OAに お い てCRPとLP間(r=0.689)に の み 有 意 な 相 関 関 係 が 認 め られ た. 5. 単 一 因 子 を 用 い る 判 別 誤 差 の 成 績 は, ESR, F-RF, F-β2MG, F-CRP, S-RF, S-β2 MGの 順 に 判 別 誤 差 が 少 な く, RAとOAの 測 定 値 の 平 均 値 の 差 の 検 定 と ほ ぼ 一 致 し た. 6. SとFの 各 因 子 測 定 値 を指 標 と し て, RA患者 とOA患
者 の最 良選 択法 に よる判別 分析 を
行 っ た 結 果, 9指 標 中6指 標 を 用 い た場 合18.4 %の 誤 判 別 確 率 で 判 別 が 可 能 な事 が 認 め られ た. また,そ の 判 別 の 有 効 な6指 標 と して 血 清 のRF, CRP,血 沈,関 節 液 のRF, CRP, β2MGが 選 択 さ れ た. S及 びF中 のRFを 因 子 よ り削 除 し, 残 り7指 標 全 て を用 い て 判 別 を行 っ た 場 合 に は 誤 判 別 確 率 は21.2%を 示 した. 7. 女 性 の み の 測 定 値 を用 い た 際 の 判 別 誤 差 は,男 女 計 の もの よ り成 績 が 良 か っ た. 稿 を終 え るに あ た り御 懇切 な研 究 の御 指 導 と論 文 の御校 閲 を賜 っ た岡 山大 学 医学 部 整 形 外 科学 教 室 井 上 一教 授 に 対 し厚 く御 礼 申 し上 げ ます.ま た判 別 分 析 に つ いて 御指 導 を戴 い た現近 畿 大 学 医学 部 衛 生 学 教 室 目黒 忠 道教 授 に 厚 く御 礼 申 し上 げ ます.ま た 論 文 の作 成 に 御教 示 を戴 いた 岡 山大 学 整 形外 科 学教 室 横 山 良樹 先 生,試 料 の収 集 に御 助 力 を戴 い た倉 敷 広 済病 院 江沢 英光 院 長,落 合 病 院井 口 昌憲 院長 に謝 意 を表 します. 文 献1) Manicourt D, Brauman H and Orloff S: Plasma and urinary levels of β2-microglobulin in rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis (1978) 37, 328-332.
2) Sjoblom KG, Saxne T and Wollheim FA: Plasma levels of β2-microglobulin in rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis (1980) 39, 333-339.
3) Strom T and Evrin PE: Beta 2 microglobulin in RA. Ann Rheum Dis (1981) 40, 211-213. 4) Rowley D, Gutteridge JMC, Blake D, Farr M and Halliwell B: Lipid peroxidation in rheumatoid
arthritis: thiobarbituric and catalytc iron salts in synovial fluid from rheumatoid patients. Clin Sci (1984) 66, 691-695.
5) Farr M, Kendall MJ, Young DW, Meynell MJ and Hawkins CF: Assessment of rheumatoid activity based on clinical features and blood and synovial fluid analysis. Ann Rheum Dis (1976) 35,
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6) Rowe IF, Sheldon J, Riches PG and Keat ACS: Comparative studies of the serum and synovial fluid C reactive protein concentrations. Ann Rheum Dis (1987) 46, 721-726.
7) Walters MT, Stevenson FK, Goswami R, Smith JL and Cawley MID: Comparison of the serum and synovial fluid concentrations of β2-microglobulin and C-reactive protein in relation to clinical disease activity and synovial inflamation in rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis (1989) 48,
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8) Crisp A, Coughlan R, Mackintosh D, Clark B and Panayi G: β2-microglobulin plasma levels reflect disease activity in rheumatoid arthritis. J Rheumatol (1983) 10, 954-956.
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pp 73-85.
12) 広 田 滋:電 子 計 算 機 に よ る 肝 疾 患 診 断 方 式 の 研 究-第1編-次 関 数 に よ る 肝 疾 患 診 断-. 肝 臓 (1967) 8, 130-140.
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72 宗 友 和 生
Discriminant analysis and comparison between rheumatoid
arthritis and osteoarthritis after measurement of
determinants in the blood and synovial fluid Kazuo MUNETOMO
Department of Orthopaedic Surgery,
Okayama University Medical School,
Okayama 700, Japan (Director: Prof. H. Inoue)
Levels of rheumatoid factor(RF), β2-microglobulin(β2MG), C-reactive protein(CRP) and lipid peroxide(LP) in the blood and synovial fluid(SF) and erythrocyte sedimentation rate (ESR) of patients with rheumatoid arthritis(RA) and osteoarthritis(OA) were determined by clinical chemistry. These determinants were analyzed to discriminate RA and OA.
Differences in the average values of determinants in the blood and SF between RA and OA patients were calculated. Significant differences in the values of ESR, S-CRP, F-CRP and
β2MG between the two groups were observed.
In a discriminant analysis of RA and OA patients by an all possible selection procedure(APSP), nine parameters in blood and SF were used. In the analysis, S-BF, S-CRP, F-RF, F-CRP, F-β2MG and ESR were selected as the group of the 6 most effective indices, which gave an 18.4% probability of misclassification. When S-RF and F-RF were excluded,
and only 7 factors were used for discriminant analysis, the probability of misclassification was 21.2%. Probability of misclassification using measured values with females was less than that using males and females.
